光と闇 会長・刹那の混沌を操る力！⑩　作：はにわ改

　
ーー次元の歪みから姿を現した２体目の『四大天使』、『ガブリエル』。
白い衣を身に纏う、透けてしまいそうな薄緑色の流れるような髪を持つ美しい女性型の天使。
その表情には喜怒哀楽のあらゆる感情が込められているようで、何とも言葉では表現し難い。
『ミカエル』と並んで刹那の傍に立ったガブリエル。
レベルは９、攻撃力は２６００である。

「『ガブリエル』・・・」

「そう、私のデッキに入ってる『四大天使』の一角。
ミカエルと並んで、私の主力モンスターの１体よ」

「（四大天使・・・ってことは、まだ２体いるってことか）」

刹那の言葉を耳にして、透矢は身震いする。
もちろんそら恐ろしいものも感じているが、それ以上に楽しみなのである。
そしてこんな強力なモンスターを簡単に召喚してくる刹那に、透矢は感服すると同時に、今こうして向き合っている事を喜んでいた。

「ガブリエルの効果！
シンクロ召喚成功時に、自分の墓地に存在する『混沌天使』モンスター１体を手札に戻す」

「ミカエルは除外から・・・、ガブリエルは墓地からサルベージか！」

「私は『混沌天使リニア』を選択・・・」

「く・・・リニアを使い回すつもりか！」

ガブリエルの効果の一つ、墓地からのモンスター回収能力。
それにより、つい今しがたガブリエルのシンクロ素材となったばかりの『リニア』を即座に手札に戻したのだ。
ミカエルといい、シンクロ召喚によって消費したカードを補填するこのサルベージ能力は、地味ながら強力な効果である。

「次にミカエルの効果発動！
墓地の光属性モンスターを除外し、その攻撃力を吸収！」

「更に上げてくるか！」

「墓地のステルヴィアを除外し、その攻撃力１７００分ミカエルの攻撃力をアップ！
よって攻撃力はーー」

「６２００ーー！」

ミカエルの能力の一つ。
墓地の光属性モンスターを除外して、その攻撃力を吸収する能力。
しかもそれは永続的に上がり続ける効果なため、ターン毎に発動させれば無尽蔵に高められる。

既に神を超え、伝説の五つ首の龍の攻撃力さえ超えた６２００。
ライフ４０００を削るだけならば発動するまでもなかったが、これには新たに召喚したガブリエルの能力を見据えての事である。

「そして、ガブリエルの効果を発動！
墓地の光属性モンスターを除外し、私の場のモンスターを選択！
そのモンスターの攻撃力だけ、私のライフを回復させるーー」

「か、回復ーーってことは・・・」

「私は墓地のソニアを除外し、ミカエルを選択。
その攻撃力６２００が私のライフにーー」

ーーガブリエルが墓地からソニアの魂を導き、その両の掌の中に優しく包み込む。
ガブリエルの能力が働こうとしているその瞬間、咄嗟に透矢は手札を見た。
６２００も回復されては、刹那の背中が遠ざかってしまうーー。

ーーが、そこまでだった。
手札を見て、頭を振るだけでそれ以上のアクションは起こさず。

かくしてガブリエルは刹那の頭上で手を掲げ、そこから溢れた光が降り注いだ。
ーー癒しの光。
刹那のライフは１０２００へと跳ね上がった。

「ライフ、１０２００ーーっ！」

透矢が歯噛みしながらそう口走り、観客席はあまりの出来事に静まり返る。
攻撃力６２００のモンスターを従えている上に、突き放されたライフ。
しかもこれは一回きりではない。
次のターンに、もしまたミカエルとガブリエルがいれば、更に回復量を上昇した上で悪夢は繰り返される。
誰も聞いていないだろうが、観客席の久遠が呟いた『相手の心を折りに行く』というのは、これを意味していた。

「（でも・・・透矢くんは違う。
このぐらいの『パフォーマンス』なんかで、心を折ったりなんかしない）」

小さく笑いながら刹那は透矢を見つめる。
確かに驚かされはしたようだが、攻撃力６２００のミカエル、そして刹那のライフ１０２００を前にしても、怖じ気づいていない。
その瞳から発せられる闘志は未だに衰えてはいないのだ。

「（ふふ・・・とはいえ、ここでミカエルの除去能力でアリアスを消し去れれば・・・私の勝ちーー）」

ミカエルのもう１つの能力。
それは闇属性モンスターを墓地から除外することで、相手フィールド上にあるカード１枚を問答無用で除外する能力。
しかもこの効果は発動から除外を終えるまで相手のカードを無効にする能力があるため、Ｔ・Ｆモンスターの除去耐性も無力。

「（透矢くんの場にはアリアスだけ。
残るはあの４枚の手札ーー）」

刹那の思考。
ここまで数秒とかからず、頭の中で処理されている。

「（内訳は『蒼き槍迅』が２枚に、『女帝の聖杖』が１枚、
そして残る１枚がアンノウン・・・）」

透矢の４枚の手札、その内３枚は刹那に知られている。
残るは１枚だが、それも刹那は当たりを付けていた。

「（透矢くんは１ターン前に、『影縫いの微刃』を手札コストとして墓地に送っている。
だから残る１枚も『影縫いの微刃』と読んだのだけどーー）」

『影縫いの微刃』。
墓地に１枚置いておくと、２枚目のそれは手札から捨てる事で相手モンスターの攻撃力を下げる誘発効果を持つようになる。

だから刹那は最後の１枚を『影縫いの微刃』と読んでいた。
透矢の『あの行動』を見るまではーー。

「（さっき、ガブリエルの効果を使った時・・・透矢くんは一瞬、手札を見たわーー。
確か『影縫いの微刃』の誘発即時効果は、モンスターの攻撃宣言時にしか発動出来ないからーー）」

ーー刹那は見逃していない。
ガブリエルの効果が発動する瞬間、透矢が手札を見て、そして頭を振ったその動作をーー。

「（あれはまるで『発動出来る何らかのカードがあるのに、それをしなかった』風に見えたけどーー）」

刹那は相手の一挙一動を鋭く見据えている。
今の事についても、透矢はただ単に手札のカードを確認しただけかもしれない。
だが手札を見て、頭を振ったという行動がガブリエルの効果発動宣言直後に行われたのが刹那には引っ掛かった。

「（まさか・・・別の誘発即時効果を持つカード・・・？
それも効果を無効にする系統、かしら）」

刹那の思考の中で、その仮定に至る。
問題は果たしてそれが、見事な読みなのか、それともただの勘繰りに過ぎないのかーー。

ーー刹那はこのデュエルにおいて、初の熟考。
もっともそれは本人にとってであり、他人からすれば十数秒の出来事である。