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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第16話 不死鳥激突

第16話 不死鳥激突 作:氷色

その時、辺りを覆っているデュエルフィールドに波紋が走った。

「いくら遊緋くんだからって、本物の痛みを感じるD・ゲームをおいそれと受けたりはしないだろうと軽く考えていた私が間違ってたわ……」

聞き覚えのある声に遊緋が振り返ると、赤い髪を揺らしながら今まさに紅羽がデュエルフィールドをくぐって入ってきたところだった。
その様はご立腹というよりは呆れているように見える。

「響先輩……」

「まぁそれでこそ遊緋くんなのだから仕方ないのかもしれないけれど」

呆れながらも仕方ないと流してくれる。不死鳥の女神は今日も慈悲深い。

「すいません。でももう終わりましたよ」

紅羽が自分を心配してくれているのだということは分かっている。
だから「もう心配ない」ということを教えようと遊緋はそう言った。

しかし紅羽は悪戯そうに小首を傾げる。

「どうやらそれは早計みたいよ、遊緋くん?」

紅羽の視線が自分ではなく更にその先を見ていることに気付き、遊緋はバッと振り返った。

「あー!!痛ってーーッ!!めっちゃ痛ーーッ!!」

デュエルフィールドに叩きつけられた城之内が起き上がりながら大声を上げていた。
三連続でモンスターの直接攻撃を受けたのだ、普通なら痛みだけで失神してしまってもおかしくないはずだ。

「な、なんでーーー?」

しかし遊緋が驚愕を示したのはそこではない。
喧嘩慣れしている城之内ならば、痛みに対してある程度耐性があっても不思議はない。だから彼が気絶も何もしていないのは、それはそれで良い。

問題は、彼のLPが0になっていないということだ。


城之内/LP0→1000


いや、より正確には確かに彼のLPは一度0になっていた。それは遊緋もちゃんと確認している。
それが今は1000ポイントまで回復しているのだ。
城之内のフィールドにはもはや敗北を防ぐ手立ては残されていなかったはず。これを不思議と言わずして何と言うのか。

「これが俺のデュエリストスキルだ」

しかし答えは意外と簡単に向こうからやってきた。

「俺のデュエリストスキルは『不屈(ネバーギブアップ)』。コイツは、デュエル中に1度だけLPが0になる攻撃を受けた直後にLPを1000まで回復する能力だ」

「デュエリストスキル?」

聞き慣れないその言葉に遊緋が聞き返す。

「デュエリストスキルは、D・ゲームの参加者ーーーつまりデュエリスト各々に与えられた特殊能力のこと。各人によって効果も発動条件もバラバラだけど、デュエリストならば必ず持っている能力なの」

問いに答えたのは紅羽だった。

『あー!!クレハちゃんってば、デュエリストスキルについては超機密事項なんですよぅ!?そんな簡単にバラさないで下さいよぅ!!』

「何を言っているのかしら。この遊緋くんは昨日のデュエルですでに相手が何らかのカード外効果を使用していることは看破していたでしょう。もう隠していることに意味などないわ。そんなことも推測できないから、人工知能はダメなのよ」

紅羽がデュエリストスキルについて遊緋にアドバイスしたことを咎めるフレイヤに、彼女の言葉はキツイ。女神は女神でも、紅羽はただ穏和なだけのそれではない。不死鳥は炎を纏っているのだ、下手に触れれば火傷する。

「どの道、今日には伝えられることは全て彼とも共有するつもりだったわ。ただ早いか遅いかの違いよ」

紅羽の物言いに、何か言いたげなフレイヤだったが、何も言葉が出てこないのか最終的にはただうなだれるのみだった。

「けれど、どちらにせよこのデュエルが決着するまでゆっくりお話というわけにはいかないわね。幸い彼のデュエリストスキルはデュエル中に1度しか使用できないようだし、遊緋くん、勝てるわよね?」

紅羽の瞳には遊緋への信頼が見てとれる。
遊緋にとって、それは何より嬉しいものだった。

「勿論です」

しっかりと頷いた。

城之内のデュエリストスキルーーー『不屈』には確かに驚かされた。
一度0になったLPを1000回復させる能力。これは単純にLP5000から始められるのと同義ではない。例えば攻撃力10000のモンスターで直接攻撃したとしても、それ1体の攻撃では彼を倒すことはできないということだ。例え攻撃力が10000あろうと、勝負を決めたい状況で決めきれなければ相手に逆転のチャンスを与えることなってしまう。一見地味だが、これは中々厄介な能力だった。
しかしその能力をすでに城之内は1度使用している。あとLP1000を削りきれば勝つことができるのは間違いない。全ては城之内の言葉を信じるならば、という条件付きではあるが。

遊緋は改めて城之内を観る。
城之内はあっけらかんと制服に付いてしまった埃を払っている。

駆け引きという意味では、彼の言葉が真実だという確証はない。だが何となくではあるが、このデュエルを通して城之内達也という人間がどういう奴か遊緋には分かった気がしていた。
城之内は嘘でデュエルを有利にしようとするような人間ではない、と思う。良くも悪くも彼は馬鹿正直という言葉がしっくりくる好漢だ。

「さて、続けるとするか。こっから怒涛の反撃すっから覚悟しろよ!」

城之内が挑むように笑う。
つられて遊緋も口の端を上げた。

「今度はこっちがキミの攻撃を受ける番だね。いいよ、受けて立つ!」


「こういう時だけは、我が身が女であることを悔しく思うわね」

紅羽は二人を羨ましそうに目を細めた。
彼女には、遊緋が昨日よりも更に活き活きしているように見える。

例えばあの城之内という少年の位置に立っているのが紅羽だったとして、遊緋のあの表情を引き出せただろうか?
彼女の出した答えは『否』だ。あれは男同士の真剣勝負だからこそ出てくるものなのだろう。
そう思えば、どこまで行こうと追い付けない何かに強烈な羨望を禁じえない紅羽だった。


そしてその二人の少年だがーーー

「《M・HERO タイタニア》の効果でボクは1枚ドローするよ。ボクはこれでターンエンド」

《タイタニア》には相手に戦闘ダメージを与えた時1ドローできる効果がある。《タイタニア》の攻撃で勝負が決していたなら不要な処理だが、そうではなかったため当然その権利を行使できる。

そして遊緋がエンド宣言を行ったことで、コントロールを奪われていた《強襲するアックス・レイダー》も正気を取り戻し城之内のフィールドに戻った。


遊緋/LP1500・手札2

モンスター
M・HERO ガスト/攻1500
M・HERO タイタニア/攻2000

魔法・罠
伏せカード×1


城之内/LP1000・手札2

モンスター
強襲するアックス・レイダー/攻1700

魔法・罠
スーペルヴィス/装備(強襲するアックス・レイダー)


「いくぜ、俺のターン!ドロー!」

引いたカードを確認して城之内は笑う。

「よっしゃー!!俺はフィールドの《強襲するアックス・レイダー》をリリースして、手札から速攻魔法《デュアルスパーク》を発動ッ!!」



《デュアルスパーク》
速攻魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するレベル4のデュアルモンスター1体をリリースし、フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。選択したカードを破壊し、デッキからカードを1枚ドローする。



城之内のフィールドにいた《アックス・レイダー》が一瞬にして一筋の雷光と化す。

「へへ、速攻魔法を使えるのはお前だけじゃねぇんだぜ!まずは目障りなそいつから消えてもらおうか!破壊対象は《M・HERO タイタニア》だッ!!」

その雷撃は瞬時に遊緋の《タイタニア》を貫き消し飛ばした。

「ぐぅッ……」

激しい爆発が起こり、遊緋は顔を覆う。

「破壊に成功したことで、俺は1枚ドローするぜ」

破壊された《タイタニア》の攻撃力は2000。上級モンスターとしては低ステータスながら、確かに残せば厄介なモンスターだろう。
しかしこれで城之内のフィールドにモンスターはいなくなってしまった。1ドローがあるとは言え、反撃が必要なこの状況でモンスターを失うこの除去は遊緋には悪手に思えた。

「そしてこれによりフィールドの《スーペルヴィス》が墓地に送られ、そのもう一つの効果が発動する!!」

しかしそれは城之内の思惑通りであった。

「フィールドに表側表示で存在する《スーペルヴィス》が墓地に送られた場合、墓地の通常モンスター1体を特殊召喚できる!そしてデュアルモンスターは墓地では通常モンスターとして扱われるんだッ!!」

しかも《スーペルヴィス》の蘇生効果にレベル制限はない。つまりどれだけ高レベルだろうと、通常モンスターまたはデュアルモンスターである限りどんなモンスターでもフィールドに特殊召喚できるのだ。

「これが城之内くんの本当の狙いだったのかーーー」

そう、最初から城之内が狙っていたのはこの効果による最上級モンスターの特殊召喚だったのだ。
ステータス的に特別優れているわけではない《強襲するアックス・レイダー》に《スーペルヴィス》を装備させ、それを遊緋に撃破してもらうことで、表側表示の《スーペルヴィス》が墓地に送られるというその要件を満たそうとしていた。その目論見は《タイタニア》のコントロール奪取効果によって水泡と化したが、このターンで《デュアルスパーク》を引いたため、結果的に最高のシチュエーションであのモンスターを呼び出すことができる。

「コイツが俺のエースだッ!!英霊に宿りし決意の火種よ、今こそ剣の加護を受け、熱く激しく燃え上がれ!!特殊召喚!!レベル8・《フェニックス・ギア・フリード》!!」

城之内のフィールドに赤く燃えるような闘気を纏った絢麗な騎士が甦った。フルプレートの鎧は荘厳で、その姿は正に威風堂々。一目見ただけで只者ではないことが分かる迫力だ。



《フェニックス・ギア・フリード》
デュアルモンスター
星8/炎属性/戦士族/攻2800/守2200
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●相手が魔法カードを発動した場合、自分の墓地に存在するデュアルモンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。
また、自分フィールド上に表側表示で存在する装備カード1枚を墓地へ送る事で、フィールド上に存在するモンスターを対象にする魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。



「更にこの《フェニックス・ギア・フリード》を通常召喚扱いで再度召喚!」

墓地から特殊召喚された《フェニックス・ギア・フリード》は通常モンスター扱いのまま。これを召喚権を用いて再度召喚することによって、デュアルモンスターである《フェニックス・ギア・フリード》は真の力を解放する。

《強襲するアックス・レイダー》の時と同様に再度召喚された《フェニックス・ギア・フリード》から放たれるプレッシャーが跳ね上がった。しかし下級モンスターである前者とこちらとではその質も重みも桁違いだ。

「まだこんなもんじゃねーぞ!更に手札から装備魔法《サラマンドラ》を発動!《フェニックス・ギア・フリード》に装備させるぜ!」

《フェニックス・ギア・フリード》が剣を掲げると、それに絡まるようにして炎の竜が現れる。



《サラマンドラ》
装備魔法
炎属性モンスターにのみ装備可能。
(1):装備モンスターの攻撃力は700アップする。



「《サラマンドラ》は炎属性モンスターの攻撃力を700ポイントアップさせる!これで《フェニックス・ギア・フリード》の攻撃力は3500だッ!!」


フェニックス・ギア・フリード/攻2800→3500


「攻撃力3500……!!」

《サラマンドラ》によるパンプアップで《フェニックス・ギア・フリード》の攻撃力が跳ね上がる。
攻撃力3500は、残りLP1500で攻撃力1500の《M・HERO ガスト》しか従えない遊緋にとっては致死量に等しい。

「いくぜ!バトルだ、《フェニックス・ギア・フリード》!《M・HERO ガスト》に攻撃ッ!!“サラマンドラ・ブレイズスラッシュ”!!」

《フェニックス・ギア・フリード》の剣から竜の炎が螺旋を描きながら放たれる。


フェニックス・ギア・フリード/攻3500○
 ↓
ガスト/攻1500×


「くっ……!!」

これをまともに喰らえば大逆転で遊緋が負ける。

「墓地の《M・HERO イージス》の効果発動ッ!!」

しかし対処できるモンスターをすでに遊緋は墓地に送っていた。

「《M・HERO イージス》は墓地から自身を除外することで、このターンにボクが受けるダメージを半分にし、フィールドの「M・HERO」モンスターを破壊から守る!!」



《M・HERO イージス》(オリジナル)
星3/光属性/戦士族/攻700/守1400
(1):墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、フィールドの「M・HERO」モンスターは戦闘では破壊されず、自分の受ける戦闘・効果ダメージは半分となる。この効果は相手ターンにも発動できる。
(2):このカードがフィールドから離れた場合、自分のフィールドの光属性の「HERO」融合モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターは以下の効果を得る。
⚫このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。墓地から光属性「HERO」モンスター1体を選択し、表側守備表示で特殊召喚する。



《M・HERO ガスト》に迫る《フェニックス・ギア・フリード》の炎の前に、光の盾が現れた。
炎がその盾に遮られて爆散する。

「ぐぅうう……」

しかしその爆風と熱は殺し切れず遊緋の肌を焼いた。


遊緋/LP1500→500


「くっ……踏みとどまりやがった……!」

往生際が悪い、とは言えなかった。
ここぞという時のために講じられる策は講じておくのがデュエルの鉄則。

《スーペルヴィス》で蘇生させるため《強襲するアックス・レイダー》の特殊召喚コストに《フェニックス・ギア・フリード》を墓地に送っていた城之内と同様に、遊緋も万が一のためにダメージ軽減効果を持つ《M・HERO イージス》を《M・HERO タイタニア》の効果発動コストとして墓地に送っていたのだ。

「くそ……俺はこれでターンエンドだぜ」

城之内は全てをこの一撃に賭けていた。
残り2枚の手札は両方ともモンスターカード。この攻撃で仕留められなかった以上、このターンにもう出来ることはない。
後は次のターンで遊緋が《フェニックス・ギア・フリード》を攻略できないことを祈るしかない。


城之内/LP1000・手札2

モンスター
フェニックス・ギア・フリード/攻3500

魔法・罠
サラマンドラ/装備(フェニックス・ギア・フリード)


遊緋/LP500・手札2

モンスター
ガスト/攻1500

魔法・罠
伏せカード×1


対する遊緋だが、その手札は2枚。《ガスト》の効果でサーチした《融合》と、《タイタニア》のドロー効果で引いた《M・HERO 烈火》のみ。
こちらも決め手には欠ける。

このドローで逆転の手を引けなければーーーと意気込んだ、その時だ。

視界がフッと暗転した。





正直、遊緋は「またこれか……」と意気込みを挫かれたような気分になる。

『そうげんなりした顔をするな』

辺りは昨日のデュエル時と同様、真っ暗闇。
その中からまたあの声が響いてきた。

「げんなりもするよ。一体この現象って何なの?昨日も良いところで『これ』だったしさ」

『だがそのおかげで勝てたのだろう?』

「でもなんだかしっくり来ないんだよね。他人の力で勝ったみたいで」

遊緋がそう言うと、声は少し笑った気がした。

『案ずる必要はない。これは正真正銘お前の力なのだから』

そこで遊緋には何か繋がるものがあったらしい。

「てことは、やっぱりこれがボクのデュエリストスキルってことなのかな?」

遊緋自身に何か普通の人とは違う特殊な力などない。少なくともD・ゲームに参加する以前にこんな不思議な現象を体験したことなどなかった。
ということはこの現象はやはりD・ゲームに参加したことをきっかけに発現したものであり、そうであるなら考えられるのはD・ゲーム参加者に与えられるという特殊能力ーーーデュエリストスキルとしか思えない。

『……それはどうだろうな?』

しかし意に反して声のトーンは暗い。
はぐらかすつもりなのかもしれないが、それが正解であれ不正解であれやることは同じだ。

「それで今回は何の用?」

『無論、お前に力を貸すためだ』

これが遊緋自身の能力だと言ったにも関わらず『力を貸す』という言い回しはおかしなものだが、力の使い方をよく分かっていない遊緋に使い方をサポートしてくれるという意味なのかもしれない。

しかしーーー

「うーん……今回はいいや」

『なんだと?』

「今回はこの力に頼らずに闘ってみようと思うんだ。勝っても負けても納得のいく闘いをしたい」

声はしばらく沈黙した。
もしかしたら不服だったかもしれない。せっかく力を貸すために現れたのに拒否されたら誰だって面白くはないだろう。

しかし今回ばかりは遊緋に意を曲げる気はなかった。

黙考の後、声の出した結論はシンプルだった。

『まぁそれがお前の選択だと言うのであれば、私はお前に従おう』

物分かりが良くて助かった。
さすがに遊緋自身の力だと言うだけはある。遊緋自身の決定には逆らえないらしい。

しかし、声も釘を刺すことだけは忘れない。

『だが覚えておくがいい。今よりももっと上を目指そうと望むのであれば、つまらぬ感傷に囚われず成長の機会は逃さぬことだ。目的のための貪欲は罪ではない、高邁(こうまい)なのだ』





ハッと精神が現実に戻ってきた。

あの声の言いたいことは分かる。
しかし、自分でも不思議なのだがこの闘いだけは自分の思うように闘いたいという想いが強い。
だが負けてもいいと思っているわけではない。自分の力で勝ちたいのだ。

そのためには、このドローで逆転のカードを引くしかない。

遊緋はデッキに指を添える。


ーーー引いてみせる、これがボクの力だ!!


「ドロー!!」


引いたカードはーーー

「まずは手札から《M・HERO 烈火》を召喚!!」

遊緋のフィールドに《烈火》が現れる。


烈火/攻1600


《烈火》の攻撃力は1600。例え《ガスト》と合計したとしても、まだ《フェニックス・ギア・フリード》には及ばない数値だ。

そこで遊緋は先程ドローしたカードに手をかける。

「そしてボクは手札からこのカードを発動するよ!!速攻魔法《デュアル・マスク・チェンジ》!!」

「デュアル……だと……?」

遊緋が引いたカードは速攻魔法《デュアル・マスク・チェンジ》。
城之内が驚くのも無理はない。逆転を懸けた最後のドローで引いたカードが、城之内のデッキの主力であるデュアルモンスターと同じ『デュアル』と名の付くカードとは皮肉なものだ。

しかし《デュアル・マスク・チェンジ》の効果はデュアルとは関係のないもの。
そしてこのデュエルを決するに足るものだった。



《デュアル・マスク・チェンジ》(オリジナル)
速攻魔法
「デュアル・マスク・チェンジ」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):LPを半分支払い、自分フィールドのレベル4以下の「M・HERO」モンスター2体を対象として発動できる。それらのモンスターを墓地に送り、それらのモンスターと同じ属性でレベル6の「M・HERO」モンスター2体を「マスク・チェンジ」による特殊召喚扱いで、エクストラデッキから攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力は0となる。



遊緋/LP500→250


《デュアル・マスク・チェンジ》の発動コストで、残り僅かだった遊緋のLPが更に半分になる。しかし半減でLPが0になることはない。逆に言えばLPが少ないほどコストとして消費されるLPは少なくて済み、低燃費で魔法を使うことができると考えられる。

「《デュアル・マスク・チェンジ》はフィールドの「M・HERO」モンスターを2体同時に変身させられる!これでボクはフィールドの《烈火》と《ガスト》を変身させる!」

「2体同時の変身だと!?んなもんさせられっかよッ!俺は《フェニックス・ギア・フリード》のモンスター効果を発動ッ!《フェニックス・ギア・フリード》は装備魔法1枚を破壊することで、フィールドのモンスターを対象とする魔法・罠カードの発動を無効にできる!これで《デュアル・マスク・チェンジ》の発動は無効だッ!!」

勝ったーーーとそう思った。
《デュアル・マスク・チェンジ》の発動を無効にしてしまえば遊緋にもはや逆転の手はない。これで城之内の勝ちは決まる。

《フェニックス・ギア・フリード》に装備されていた《サラマンドラ》が消火されるようにして消え、代わりにその剣が光輝く。


フェニックス・ギア・フリード/攻3500→2800


これは、今まさに発動せんとする魔法・罠を切り裂く破魔の剣。これに《デュアル・マスク・チェンジ》は切り捨てられて、それでこのデュエルはほぼ終わるーーーはずだった。

「リバースカード発動!《禁じられた聖杯》!!」

《デュエル・マスク・チェンジ》を切り裂こうと振り上げられた《フェニックス・ギア・フリード》の剣に、まさに冷や水をかけるように何かがバシャッと降り注いだ。
と、目映い光を放っていた剣が途端に力を失ってただの鉄の剣へと化していく。

「なッ!?」

遊緋のフィールドに発動していたのは、最初からずっと伏せられていたカード。



《禁じられた聖杯》
速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時までそのモンスターは、攻撃力が400アップし、効果は無効化される。



「《禁じられた聖杯》は攻撃力を400アップさせる代わりにそのモンスターの効果を無効化する!これで魔法・罠カードの発動を無効にする《フェニックス・ギア・フリード》のモンスター効果を封じた!」


フェニックス・ギア・フリード/攻2800→3200


「くっ……!」

「これで《デュアル・マスク・チェンジ》は有効!」

《フェニックス・ギア・フリード》の効果が無効化されたことで、通常通り《デュアル・マスク・チェンジ》は発動され、《烈火》《ガスト》が変身する。

「変身召喚!!《M・HERO 剛火》!!《M・HERO ブラスト》!!」


剛火/攻2200→0


ブラスト/攻2200→0


遊緋のフィールドに2体のM・HEROが舞い降りた。

「一度に2体の融合モンスターを……!流石にビビったぜ。だがそいつらの攻撃力はどっちも0、それでどうするつーんだッ!?」

《剛火》も《ブラスト》も《デュアル・マスク・チェンジ》の制約を受けて攻撃力は0。当然ながらこのままでは《フェニックス・ギア・フリード》をどうにかすることはできない。

「でもモンスター効果は無効にはならないよ!《M・HERO ブラスト》の効果で《フェニックス・ギア・フリード》の攻撃力は半分になる!“ダウン・ストーム”!!」

《ブラスト》が強烈な竜巻を起こし、《フェニックス・ギア・フリード》がそれに飲み込まれた。
この竜巻ーーー“ダウン・ストーム”はモンスターにダメージを与えその攻撃力を削り取る。


フェニックス・ギア・フリード/攻3200→1600


「そしてこれが最後!手札から《融合》発動!フィールドの《剛火》と《ブラスト》を融合させるッ!!」

空中に飛び上がった《剛火》と《ブラスト》が溶け合い、渦を作る。

「くっ……この組み合わせは、まさかッーーー」

昨日のデュエルを目撃していた城之内には、これらのモンスターが融合して出てくる結果がすでに見えていた。

遊緋が叫ぶ。

「永遠(とわ)に爆ぜる煉獄の業火よ、渦巻く爆風と一つとなりて、我が思いに応え転生せよ!融合召喚!!レベル9・《DNo.37―C・HERO フェネクス》!!」

2体の融合M・HEROが混ざり合い、生まれ出たのは遊緋の最強モンスターだった。
炎翼を翻し、宙より敵を睨め付けるようなその威風は美しい。その姿はまさに不死鳥の如き神々しさ。


フェネクス/攻2500


「そうか。お前も不死鳥を模したモンスターの使い手だったな……」

その姿に射竦められたように城之内は呟く。
このモンスターの登場で、このデュエルの決着は決まった。だがその顔はどこか清々しい。

「さぁ、最後のバトルだッ!城之内くん!!」

「応ッ!来い、遊緋ッ!! 」

《フェネクス》がその炎翼を大きく広げる。

「《フェネクス》で《フェニックス・ギア・フリード》に攻撃ーーー“カイザー・フェニックス”!!」

上空に舞い上がった《フェネクス》はその姿を一羽の炎鳥と化す。


フェネクス/攻2500○
 ↓
フェニックス・ギア・フリード/攻1600×


そのまま重力に引かれるように急降下、《フェニックス・ギア・フリード》をその炎翼の刃で切り裂いた。

「ぐぉおおおッ!」


城之内/LP1000→100


《フェネクス》の発する熱と風に、城之内は吹き飛ばされそうになる身体を辛うじて耐える。

しかし《フェネクス》の攻撃はこれで終わりではない。

「《DNo.37―C・HERO フェネクス》が相手モンスターを戦闘で破壊した時、そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与えるーーー“ブレイズ・パニッシュメント”」

城之内は炎に包まれた。


城之内/LP100→0
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