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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第13話僕の女神と幼なじみが修羅場すぎる

第13話僕の女神と幼なじみが修羅場すぎる 作:氷色

龍のLPが0になったことを確認して、フレイヤは手を上げた。

『デュエルしゅ~りょ~♪勝者はぁ、奇跡のルーキー・ユーヒぃ~♪』

そう宣言されて、遊緋はフーと深く息を吐いた。
それでようやく遊緋も自分の身体にずいぶん力が入っていたことに気付く。
D・ゲームの初戦。しかもいきなりゲームオーバーの危機がかかった闘いだったのだ、無理もない。

『それではぁ~アンティの清算を開始しま~す♪まずはぁ~スターチップで~す♪今回は☆3つ賭けだったのでぇ、リュウからユーヒへと☆が3つ移動しま~す♪』

遊緋のデュエルディスクに表示されていたスターチップの数が3から6に変わる。

『スターチップはぁ~あなた達デュエリストにとってはぁ~命そのものみたいなものなのでぇ~大切にしてくださいねぇ~♪あ、あと王様になるためにも必要なのでぇ~いっぱい集めるのも頑張ってくださいねぇ~♪』

フレイヤがにこにこしてそんなことを言う。
まだD・ゲームの内容を詳しく知らない遊緋にとってはいまいちピンと来ない情報だが、きっとそのうち紅羽からその辺りのことは聞けるだろう。

紅羽を振り返ると、こくりと頷いてくれる。

その時、地面を蹴る音がした。

「くっそ……!」

最後の“ブレイズ・パニッシュメント”によって火だるまになる体験をしたはずの龍は、意識を取り戻しそう言い捨てて脱兎の如く逃げ出すところだった。

しかしD・ゲームからはそう簡単には逃げられない。

『まだアンティの清算は残ってますよぅ♪』

逃げる龍にフレイヤが叫ぶ。
しかし龍はそんな声に立ち止まったりしない。そのまま脇目も振らず逃げていく。

フレイヤはため息をついた。

『仕方ありませんねぇ~♪』

仕方ないと言いつつその口調は実に楽しげだ。

両手に持っていたポンポンを放り出すと、それらは風船のように空中に留まり、やがて高速回転を始めた。その回転はどんどん加速していき、ポンポンも遠心力のままにどんどん平たくその形を変える。そして遂には円形のカッター刃のようになった。

『それじゃあ、アンティの強制執行いっきま~す♪』

フレイヤは高速回転するその刃を、まるでフリスビーを投げるかのように龍に向かって投げつけた。
それらは唸りを上げて逃げる龍の背中に迫る。

あわやその首を跳ねるかのように思えたが、その狙いはーーー


ジョリッ!ジョリリッ!!


刃が龍を通りすぎると、その頭から黒い毛がパッと舞った。
残されたのは青い坊主頭と真っ青になった龍だった。

「ヒ、ヒエエェー!!」

龍はそのまま一目散に逃げていった。

その姿が見えなくなると、フレイヤも役目を終えたからかスーっと次第にその姿を薄くし始めた。

『任務かんりょ~です♪ではまたね~♪』

フレイヤが消えると辺りを覆っていたデュエルフィールドも消えていく。

「終わったわね」

紅羽がようやく遊緋の隣にやって来た。

「はい」

「それにしても、何がお互いのスターチップ全賭けよ。やっぱり手持ちのスターチップ数を偽っていたのね」

デュエル前にはお互い負ければゲームオーバーになるようスターチップは全て賭けることになっていたのに、龍にゲームオーバーの際に課されるという罰ゲームが執行される様子がないところを見ると、どうやら彼は自分だけは負けてもゲームオーバーにならないようにしていたようだ。

「アナタもそれに気付いていたんでしょう?だからあんなアンティを付け足した」

丸坊主にされて逃げ去る龍の姿は良い気味だった。
紅羽はその様子を思い出してクスクス笑う。

その笑顔はやはり美しい。
今まで生きてきた中で、この人ほど美しく笑う人は見たことがない。
やはり美しさは力なのだ。遊緋が『力の象徴』を問われ何故紅羽の姿を思い浮かべたのか分かった気がする。
この笑顔を見られただけで、このデュエルをして良かったと思えた。

遊緋も負けじと笑顔を浮かべた。

「フレイヤが出てきてから、あの人は一度も“お互いにスターチップを全て賭ける”なんて発言しませんでした。だからあくまでアンティは“お互いにスターチップは3つ賭ける”だったんです。それで、ああこの人保険かけてるなって。でも癪じゃないですか、こっちはゲームオーバーになるかもしれないのに。だからちょっとした悪戯心ってやつでーーーて、あれ?」

言いながら遊緋の身体が倒れていく。
それを受け止めたのは、またも紅羽の身体だった。

「あっ、す、すいまーーー」

「いいの」

反射的に謝ろうとして、しかしそれは紅羽の優しい声に遮られた。

「初めて命の掛かった闘いだったのだもの、神経を磨り減らして消耗しているのは当然だわ。今はゆっくりお休みなさい」

最初登校の際にぶつかった時とも、デュエル開始前に立ち眩みして押し倒してしまった時とも違う、包み込まれるようなとても優しい声色。
まるで魔法でもかけられているかのように不思議な安らぎを覚える。なんだか何もかもを許された気になって、遊緋の意識は何かに吸い込まれていくように落ちていった。

紅羽は正座をすると、その膝の上に遊緋の頭を乗せて、その安らかで幼さの残る寝顔を見つめる。

「頑張ってくれたのよね……」

すぅすぅと小さな寝息を立てるその少年の寝顔を見ていると、ぽつりとそんな呟きが紅羽の口から漏れた。

彼が本当に頑張らなくてはならないのは、まだまだこれからだ。
紅羽の目的を達成するためには、彼にはまだまだ多くの闘いをくぐり抜けてもらわなければならない。

しかし、今だけはーーー

「ゆっくり休みなさい、私のナイトくん」

紅羽はもう一度だけそんな風に呟いて、人差し指で彼の小さな鼻をふにふにとつついてはクスクス笑った。



ーーードサッ



不意に何かが落ちる音がして、紅羽はそちらに視線を向けた。

そこには少女が一人、仁王立ちで立ち尽くしている。

制服のスカートから伸びる足は長い。その足元には鞄が落ちている。ウエストはきゅっと引き締まり、それでいて胸はボリューミー。顔は人懐こそうな可愛らしさで栗色のショートヘア。

杏里であった。


その肩はわなわなと震えている。
その右手がおもむろに上がり、人差し指がこちらを指差す。

「な、なんで響先輩がーーー」

ああ、と紅羽は何かを得心した。
彼女がこれからどんな言葉を発するのか予想が付いたのだ。

「な、なんでウチの前でーーー」

そういえば闘っていたのは遊緋の家の前なのだから、彼女の家の前でもある。

「ていうか、なんで道の真ん中でーーー」

デュエルフィールドが消滅したことで、D・ゲームに関係のない人間もこの辺りに近付くことができるようになっている。
それにデュエル中に破損した杏里の家の塀も元通りになっていて、紅羽は安心する。これで元通りになっていなければ『私の遊緋くん』が叱られてしまうからだ。

杏里は信じられないという顔で頭を抱えた。

「なんで遊緋を膝枕なんてしてるのォーーー!?」

予想通りすぎる杏里の絶叫に、紅羽は努めて冷静に笑顔を作った。
その笑顔は恐ろしいくらいに美しかった。

「ごきげんようーーー真崎杏里さん」







「えーっと、これは一体どういう状況なのでせう?」

いま、遊緋の目の前には紅羽と(何故か)杏里がいる。
場所は遊緋の部屋。

目を覚ましたらいつの間にか遊緋はベッドに寝かされていて、その脇に紅羽と杏里が(何故か)一定の距離を取って座っていた。
どちらも椅子は使わず、床に座布団を敷いてそこに座っている。紅羽は背筋がピンと伸びた美しい正座、杏里はいわゆる女の子座りだ。

遊緋が問いかけたにも関わらず、二人とも(何故か)無言。
まるでお互いの出方を窺い、牽制しあっているように見える。何とも居心地が悪い。

「あー、二人とも飲み物ないよね。ボク、取ってくるよ」

二人の傍に何も置かれていないことに気付いてそれを口実に逃げようとしたがーーー

「あんたはここに居なさい」

「遊緋くんは疲れてるんだから、大丈夫よ」

トゲを隠そうともしていない杏里と、隠していてもにじみ出ている紅羽。
接点などなかったように思っていたが、この二人は仲が悪かったのだろうか?

遊緋は杏里に訊いてみる。

「二人はいつから知り合いだったんだ?」

しかしこの質問が悪かった。

杏里は柳眉を逆立てて、しかしそれを必死に抑えた口調で返す。

「そ、れ、は、こっちの台詞でしょーが……!」

「え?え?」と固まる遊緋に杏里が攻め寄る。
杏里が何にそんなに怒っているのか分からない遊緋の態度が更に怒りに拍車をかけていた。

「響先輩なんかと、一体、何処で、どういう風に、知り合ってたわけ!?」

前言撤回。
女の笑顔ほど恐ろしいものはない、みたいなことを前に書いたが、やっぱり怒ってる方が怖い。

「そんなこと言われても……」

まさか馬鹿正直に「一緒に負けたら死ぬかもしれないゲームやってます」なんて言えるわけがない。

チラリと紅羽に視線を向けてみるが、それが更なる反感を買った。

ーーーなにアイコンタクトとってんのよ!

怒っているのは自分自身なのに、遊緋が紅羽に助けを求めているのがやけに腹立たしい。

助けを求められた紅羽はさも「やれやれ」といった風に口を開く。

「真崎さん、年上の人間に“響先輩なんかと”って言い方は如何なものかしら?」

紅羽の口調は嫌に冷ややかだ。

助け船を期待した遊緋はその冷たさにひやりとする。その冷ややかさが逆に杏里を更にヒートアップさせるんじゃないかとビクビクする。

しかしそんな遊緋の心配をよそに、杏里は「うっ……」と尻込みした。
紅羽の言動には不思議と相手を圧倒するパワーがある。これがカリスマというやつかもしれない。

「心配せずとも私と遊緋くんはただのゲーム仲間よ」

「ひ、響先輩!?」

まさか正直に言うつもりか、と遊緋は慌てる。
しかし当然ながら紅羽はそんなに愚かではない。

「先日たまたま私と彼が同じゲームのプレイヤーということが分かってね。いわゆる同好の士というやつかしら。それで今日はお邪魔させてもらったの」

流石は紅羽。嘘ではないが、D・ゲームのことは上手くぼかした言い回しだ。

「ゲーム……ですか……」

杏里も懐疑的ではあるが少しトーンは落ちてきた。
杏里も遊緋がゲームに関しては博識で繋がりもままあることは知っている。もしかしたらそういうことはあるかも、と思わせるにはこれ以上ない材料だ。

だがそれで説明のつかないこともある。

「あれ、でもじゃああの膝枕はーーー」

「ああ!そういえば遊緋くんにお願いがあったの」

杏里が提そうとした疑問を紅羽が遮った。

「お願い?」

「ええ、実は私は『クラン』を作ろうと思っているの」

「クラン?」

「キミならMMORPGなどで聞いたことはあるでしょう?」

クランとは、紅羽の言う通りMMORPGなどでよく使われる言葉で、いわゆるチームを表す。
一定の目的や思想などを同じくする者同士が集まって形成する集団のことで、ゲームを進める際に多人数で協力することができるため一般的にはソロ(一人プレイ)よりも効率良くプレイすることができるが、結局は他人同士の集まりのため人間関係が上手くいくかどうかという猥雑な事柄も発生する。
意味的には多くのMMORPGで使われるギルドというやつと同義だが、由来を遡ればギルドが商業的な繋がりであり会社に近い共同体であるのに対し、クランは氏族であり血の繋がりである家族や忠誠によって繋がる武家社会に近い。

「キミには私の作るクランに入ってもらいたいと思っているんだけれど、どうかしら?」

遊緋は元々紅羽の助けになるためにD・ゲームに参加したのだ。その紅羽の求めならば是非もない。

「分かりました。いいですよ」

「ありがとう。助かるわ。これから二人で頑張りましょう!」

紅羽はにこりと笑った。

ああ、本当にこの人の笑顔は全く美しい。
それは遊緋だけでなく杏里すら見とれるほどだ。
もっとも杏里にとっては少々複雑なものではあるのだが。

「遊緋くんもお疲れだし、じゃあ詳しいことはまた明日にしましょうか」

紅羽はそう言うと、その後の会話もそこそこに帰っていった。

残った杏里が訝しげに「疲れたって何したの?」と座った目付きで訊いてきたが、遊緋は苦笑いで誤魔化すしかなかった。



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から揚げ
お久しぶりです!

D・ゲームの初戦は無事に遊緋が制しましたね!劣勢の状況から覚醒して逆転勝利を収めた展開は非常に熱かったです!それと、丸坊主になった龍に笑わせてもらいました!

それにしても、紅羽先輩に膝枕してもらったり、杏里ちゃんと紅羽先輩の板挟みになる遊緋が、とても羨ましかったです!やはり主人公なだけあって、中々の建築士ですね!

杏里ちゃんと紅羽先輩が一緒にお風呂に入って、ガールズトークをする所が見たいですね!

さてさて、紅羽先輩の提案でクランを作る事になりましたが、どんなキャラが仲間に入るのか、今から楽しみです!

ちなみに、杏里ちゃん以外にも巨乳のキャラは出ますか? (2017-02-28 20:00)
氷色
〉から揚げさん
本作の基本はクラン同士の勢力争いになります。紅羽をリーダーとする遊緋のクランもこれから仲間を集め、他のクランと時に闘い、時に協調しながらD・ゲームのクリア目指して進んでいくことになります。
その過程では様々なキャラクターが登場する予定なので、中にはとんでもないおPもいるかもしれませんね笑 (2017-03-01 11:34)

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