羽化の夜

黒壱(クロイツ)
「久しぶりの夜会ですね。今回は専用融合。全然融合っぽい名前じゃないですが。

※

「やってくれたわねぇ、シャオミィ」
威圧するような笑顔で、クロエが言う。
クロエの部屋は相変わらず暗く、悠然と椅子に座る彼女の背中からはいつもと違い、目に見えるような鬼気が立ち上っていた。
ミツバは内心びくびくしながら、それでも不敵な笑顔で応じてみせる。
「すいません、大姐。事前の調整が必要でした」
「それどころじゃないわよぉ。大事になるんだから」
「知ってます。申し訳ないとは思ったのですが、待っててもいつ実現するかわからないので、先にファンを動かしておきました」
「あらあら、故意犯？ それは重罪ねぇ。来なさい」
手招かれて、ミツバは胸を張りながら近付く。
がつん、と頭上に拳骨が落ちた。
「ッ！？ 〜〜っ！」
「このぐらいで済んだことを感謝しなさいな。本当ならその真っ白なお腹を腑分けして売り捌いてるところだわぁ」
「うぅ……」
涙目で蹲るミツバを、クロエがひょいと抱き上げて膝の上に座らせた。
「こんなこと二度としないで頂戴な。私が良くても組織が許さないのよぉ。手下が勝手ばかりして統制が取れない組織なんて、貴女も欲しくはないでしょう？」
「えっ……！？」
顔を上げたミツバの頭を撫でつつ、クロエが悪戯っぽく微笑む。
「あら口が滑ったわねぇ。……貴女も組織を動かすならば、まず根回しすることを考えておきなさいな。カリスマだけで引っ張るのには限界があるの。きちんと他の責任者に利を説いて、自分が行動する時に味方につけなければダメ」
クロエはしばらくそのまま帝王学をミツバに教え込んだ後、ふぅ、と溜息を吐いた。
「もう少し早くから手許で教育しておくべきだったわぁ。貴女がもっとチョロ……もとい、純粋だと思ってたからアイドルとしての完成を優先したのだけれど」
「純粋じゃなくてすいません」
「良いのよぉ、それは。遅かれ早かれ貴女には染まってもらうつもりだったから。今度からは、支配者としてのレッスンも追加するわねぇ」
「うぇ……」
ミツバは顔をしかめた。

※

「シャオミィ」
「ふぇっ！？」
夜も更けて自分の部屋に帰ろうとしたミツバは、暗がりから声をかけられて肩を跳ねさせた。
「こ、コチョウ姐？ 驚かさないでよぉ……」
「……どこに行ってたの？」
コチョウの声音はあくまで平板で、ミツバはその違和感に首を傾げた。
「その、大姐のところに……」
すうっ、と近付いたコチョウは、ミツバの肩に手を置き首筋に鼻を埋めた。コチョウの甘い匂いがミツバの鼻腔を満たした。くすぐったさよりも、付き纏う違和感に背筋が粟立つ。
「あの女の匂いがするわね。甘ったるい麝香と、はらわたの腐った匂い」
肩に置かれた手に力が篭る。
「い、痛っ。コチョウ姐、痛いよ……」
「あの女に近付いちゃダメ、シャオミィ。あの女はシャオミィの心を穢すから。貴女を貴女でなくしてしまう毒なのよ」
その点については自覚があった。だが、尚のこと後ろめたくてミツバはコチョウから目を逸す。
「べ、別にコチョウ姐には関係無いでしょ？ 大姐の教えと信頼は夜の世界で絶対に必要なものだし……」
ぎり、とコチョウが奥歯を軋らせた。
「もう此処に居るわけにはいかないわ。これ以上此処に居たら、シャオミィが変えられてしまうもの。帰りましょうシャオミィ」
「か、帰るってどこにっ」
「華陽のお城よ。また2人でやり直すの。こんな下水道の底で暮らすなんてもうまっぴらよ」
「コチョウ姐、どうしたのっ！？ 何だか変だよ……？」
そこでようやく目が合った。
「コチョウ、姐……？」
赤く輝く瞳。闇の中で二つの輝きが、まるで洞窟に掲げられた篝火のように不気味に灯っていた。
思わず突き放そうとして、がくん、と膝が崩れる。
「ふぇっ……？」
身体が痺れて動かない。指先から徐々に冷たくなっていく感覚が、じりじりと広がっていく。感じるのは鼻をくすぐる甘い香りだけ。
まるで沼地に沈んでいくかのような緩慢さの中で、ミツバの意識がふっつりと途絶えた。
「……そうよ。帰りましょう、あの頃に。幸せだったあの頃に。シャオミィ、私の姫様。愛しいお方。さぁ、帰りましょう。2人だけで、永遠に暮らしましょうね……」
コチョウが崩れ落ちたミツバの身体を抱き抱える。
その背中から、服を裂き一対の翼が現われる。
漆黒の、蝶の翅。
鱗粉が闇の中で煌めき、彼女の歪んだ微笑を照らし出した。」(2016-07-24 15:40)

廃人
「堕ちたな(確信)
どうやら融合もできるらしいこのカテゴリ、実に幅広いですなぁ。
カテゴリ専用融合魔法。安定の「夜会」扱いのお陰でサーチもし易い。
更に、除外された夜会モンスターが復帰すれば１０００ＬＰをコストに回収できるというじゃないですか。融合したターンには使えないですが、誘発即時効果らしいので非常に使い勝手が良さそうです。」(2016-07-24 20:27)

黒壱(クロイツ)
「廃人さん＞
今のところ融合モンスターが1種類しかいないのでセルフサルベージ効果はあまり意味が無いのですが、夜会の構成員の誰もに訪れる可能性のある末路、ということで付加してあります。
……他の効果の方が良かったかなぁ。」(2016-07-24 20:50)

海藻
「わーい、コチョウ姐さん堕ちた〜。これはもう助からんかな？
1ターンに1度しか使えないものの、デッキ以外から除外して融合できるのは夜会にとってはアドしかないですね。除外された奴が戻ってくると自動的に回収できるのも強力。闇次元とかで相手ターンに回収したいですね」(2016-07-24 20:50)

黒壱(クロイツ)
「海藻さん＞
哀れコチョウのSAN値は0に！ 新しいキャラクターシートをご用意下さい。
墓地からも除外できるのは少し迷いました。アドしか無いし。手札・フィールドのみだと微妙かと考えましたが、夜会が融合特化では無いのでこんな感じに。」(2016-07-24 20:56)

名無しのゴーレム
「うわぁ、見事にバッドエンド一直線じゃないですかやだー……やだー……
除外した素材がそれぞれ効果を発動してさらにアドを稼ぐ姿はまさにシャドール。さすがにデッキ融合は出来ませんが、それでも十二分に脅威かと。条件付きとはいえ自力で墓地から帰ってくるので再使用も可能……しかし、融合モンスターに鬱な未来しか想像できない。」(2016-07-24 23:15)

黒壱(クロイツ)
「名無しのゴーレムさん＞
マフィアものにハッピーエンドとか無いのでー（ゲス顔
融合素材として指定されているのは非常に限定的なので、シャドールほどご無体なアドは稼がない感じです。」(2016-07-24 23:28)