夜会の逃亡者コチョウ

黒壱(クロイツ)
「というわけで悪堕ちコチョウ姐。夜会ではこの状態を《蟲喰い》と呼びます。耳の千切れたスタンド使いのネズミとは関係無い。
①の効果は非常に範囲が狭いですが、星京や傾城コチョウの効果を先に解決すれば3500まで射程圏内。
融合モンスターはストーリー上これだけですが、全キャラに蟲喰い状態が存在するはずなので、良ければ妄想してみて下さい。


蟲との融合が進行し、《蟲喰い》として異形化したコチョウ。
闇から闇に飛び渡り、人を攫う怪物としての相を露わにしている。漆黒の蝶の翅から振り撒かれる毒鱗粉によって、幻覚や身体の麻痺、失神などを引き起こす。
直接的な戦闘には慣れておらず、幻影や毒などの異能、そして夜の闇を利用した戦い方をする。

※

「あはは、はははッ、あはははっ！」
眠らぬ街の上空を、底抜けに明るい哄笑が切り裂いていく。
そこに滲む狂気の音色に、酔漢や商売女たちは不安げに空を見上げた。しかし明るい街から見る夜空は暗く、そこを飛ぶ何者かの影は欠片も見えない。
月も今宵は顔を隠し、「彼女」の狂気から目を逸らしているかのようだった。
「あはは、あははっ、あはははっ！」
コチョウは心の底から笑っていた。こんなにも解放感に満ちた瞬間など、記憶にないぐらいである。
（最初から、こうすれば良かった。あぁ、私は何を悩んでいたのだろう。これで姫様とずっと一緒にいられる）
腕の中の小さな身体を抱え直す。幼い温もりを宿す肢体と太陽の匂いのする髪に、コチョウの胸がきゅんと疼く。
（うふふ、姫様。私の、愛しい、姫様。あはは。もう離さないわ。2人で永遠に、そう、永遠になりましょうね？）
背中の翼は、最初から生えていたかのような自由さで羽搏く。
何者も、コチョウを止めることなどできないように思われた。

ーー風を感じる。
ミツバは強く吹き付ける冷たい風に身体を震わせた。
同時に、自分を抱える暖かな腕に気付く。
（……コチョウ姐？）
幼い頃から慣れ親しんだ香り。夜の世界に入って、大人びた香水をつけるようになっても、ずっと消えることのなかった憧れの人の香りがした。
自分の人生のほぼ全てが、彼女と共にあった。どんな時も優しく励まし、守ってくれる自慢の姉だった。
（そうだ、謝らなきゃ……）
ずっと、彼女は無条件に自分の意見に賛成してくれると思っていた。しかし、コチョウはその裏でずっと傷付いていたのだ。
辛い思いをさせてしまった。
薄っすらと目を開けると、視界に飛び込んできたのは白い首筋とほっそりした顎先だ。
唇は艶めいて紅く、同性であってもどきりとさせられるほどだ。
しかし。
（…………ん？）
違和感。
ばさばさと彼女の髪は後方に流れ、その背中に黒い蝶の翅が忙しく羽搏いている。
あれは何だろう。どうして、コチョウ姐の背中に翅があるのだろう。
どうして。
自分たちは空を飛んでいるのだろうーー？
ふと、ミツバが身じろぎしたのに気付いたのか、コチョウがこちらを見た。
真紅の鬼火めいて輝く瞳。
（コチョウ、姐？）
微笑む口許からでろり、と長い舌が伸びる。
慄くミツバの、その頬に。
触れた。

「い、」

決定的に、ミツバの中で何かが音を立てて割れる。その音を、確かにミツバは聞いた。

「いやあああぁぁっ！？」

もがく。しかしコチョウの腕は拷問器具を思わせる強靭さで、しかし柔らかな圧を崩さぬままにミツバを拘束する。
混乱と恐怖と嫌悪で半狂乱になりながら、泣き叫んで自分を押し退けようとするミツバを、コチョウは微笑んで見つめた。
「うふふ、シャオミィ。姫様。そんなにはしゃがないで。手を放したら落ちてしまうわ」
ぴたり、ミツバの手が止まる。
ちらりと振り返れば、眼下に街あかり。星京を遥かに見下ろす高みに、2人はいるのだった。
「うふふ、あはは。今からお城に帰るのよ、姫様。2人で過ごしたあの城に。華陽の城の、中庭に。想い出の花園に、ようやくようやく帰れるの」
凍りつくミツバを他所に、コチョウは歪んだ笑顔で滔々と語る。
「うふふふふ。ずっと待ったわこの時を。待ち焦がれたわこの夜を。遠い遠い故郷を夢に見て、夢に見るだけだったこれまでとは違う！ 今の私には羽根がある。あの日々に帰るための翼がッ！」
飛行能力を誇示するように、翅を傾けて錐揉み回転で急降下する。悲鳴を上げたミツバの様子を楽しむようにしてぐぃと再び高度を上げる。
「あっはははッ！ 凄いでしょう、姫様！ どこまででも行けるわぁっ」
哄笑を上げながら鐘楼の側をすんでのところですり抜ける。
それにさらなる悲鳴を上げたミツバを楽しんでいたコチョウは、しかしそれ故に見逃した。
鐘楼の壁を駆け上り、夜の只中に跳躍した何者かの姿を。
「ーーーー？」
折しも雲間から月が覗き。
誰より高みにいたはずのコチョウの上に、影が落ち。
見上げて、そこに見とめる。

ーー白刃を振り下ろす夜会の剣士の姿を！

ズバンッ！

まるで紙を裂いたかのような音を立て、コチョウの片羽が切り裂かれた。
ぐらり、身体は傾き。
ぐるり、視界が回る。
「ーーッあ」
惚けたような声が。
「ああぁあああぁああぁああッ！？」
絶叫となって墜ちた。
」(2016-07-25 23:37)

海藻
「ついにコチョウさんが闇落ち。思ったより早かったなぁ。ミツバはこの後どうなるのやら。
お互いを除外する効果はこのカードの攻撃力、2000以下と範囲は狭いものの、特殊召喚に成功した時なので発動する機会はかなりありますね。自身を除外すれば②の効果と相まって何回でも発動できます。戦闘時にモンスター効果を発動させないのは強いですが、このカードの攻撃力はそれほど高くないので少し空気気味かもしれません」(2016-07-26 11:21)

名無しのゴーレム
「救いなんて無かった（白目）。ミツバの心にも深い傷を残すこととなる最悪の結果に……
場に出たら互いのフィールドから自身の攻撃力以下のモンスターを除外する効果。サポートカードと組み合わせれば大型モンスターを除外することも可能になります。自身を除外して②と組み合わせれば、毎ターン使えるフリーチェーン除去カードみたいな運用も。場合によってはステータスを上げて③で安全に殴るのもありかも。」(2016-07-26 17:17)

黒壱(クロイツ)
「海藻さん＞
基本的に非力な女性が素体なので、あんまり大きな獲物は拉致ることができないのです（笑）
攻撃時の効果は幻影を操る能力をイメージしたもので、戦闘力としてはやっぱり大したことはないですね。」(2016-07-26 18:26)

黒壱(クロイツ)
「名無しのゴーレムさん＞
姐さんが幸せなのでハッピーエンドです（ゲス顔）
フリーチェーンの除去はそんな感じで、一旦融合して星京の効果でサポートすれば、不夜城の闇に暗躍する怪物になります。ピンポイントで相手の展開札を除去すれば、充分にテンポアドが取れます。」(2016-07-26 18:30)