終点観測者 カサンドラ

黒壱(クロイツ)
「【カサンドラ】はこれにて幕。
次はエラッタを適用したカードを幾つか上げてから、【永劫】のハイランディア編解決に移ります。

※

空が割れた。
悲鳴のような歓声と共にそれを見上げる大勢の教徒の前で、ヘレノスは大きく腕を広げた。
「さぁ、終末が始まる。見るが良い盲目なりし愚者共よ。貴様らの排した我が夢が、貴様らの夢を喰らい尽くす様を！」

その様を、永劫の戦姫たちもまた別々の場所で目にしていた。

「とうとう、最終局面というわけなのですか……」
具足を纏った姫将軍が、馬上で武者震いに肩を聳やかした。
「クリム」
背後から声をかけられて、振り向く。
「父上、お身体の方は宜しいのですか！」
見上げるような姿が、同じく大柄な悍馬の背にあった。覇王ヴァーミリオンその人である。
「国の、いやさ世界の危難に寝ておれようか。お主が総指揮を摂るならば、この身は200年前と同じくひとりの戦士として剣を振るえるというものだ」
「そんな、父上に比べれば私はまだまだなのです……」
「そんなこと、無い」
透き通るような声。王の軍師セピアだ。
「クリムは立派に成長した。教育係として、鼻が高い。もっと、胸を張るべき」
「先生……」
「その通りだ。お主は俺の後継者に相応しい姿を見せてきた。その証拠はお主の背後にあるぞ」
クリムがはっと見れば、丘の下、燦然と並ぶ軍勢がそこにあった。皆、クリムの方を誇りと敬意に満ちた目で見ている。
「あ……」
「誰もがお主を主君と仰ぐことに疑問など持たぬ。時代は変わった。これからはお主の世だ」
「微力ながら、私も手を貸す。思う存分、使ってくれて構わない。……まずは、兵に声をかけるのが良い、『陛下』」
ぐっ、と溢れそうになる涙を堪えて、クリムは腰の剣を抜き放った。
「皆、良く集まってくれたのです！ これより向かうは地獄の釜の縁、悪魔の群れが跋扈する魔境なのです！」
歓声が応える。
「しかし怯むな！ その切っ先が明日を作ると、未来を照らすと信じるのです！ 疑いなく、我らは世界のために戦う正義なのです。紅蓮の御旗も照覧あれ。暁よ、戦う我らに祝福あれ！」
怒号が、大地を震わせた。


「聖下、あれが見えますか」
床に伏せる老法王は、傍らで跪く黒騎士に示されて、しかし興味を失ったかのように目を閉じた。
「死は全てに平等だ。これが宿命ならば、淑として受け入れようぞ」
「聖下！ それは教義にある『より良い死』ではありませぬ！ 生を諦めず抗うからこそ、死もまた尊くあるのです。聖夜の教えは死を受け入れて生きること。世界が滅べば、そこに『より良い死』など存在できないのです！」
ほとんど涙ながらに訴える彼女の言葉に、法王ニコライは驚いたように目を開いた。
「マリア……？」
「えっ」
「ーーいや、何でもない。昔、似たようなことを諭されたのだ」
ひとつ喘鳴を漏らして身体を起こした法王は、慌てて支えようとする少女を制し、その目を見た。
「絶鳴騎士団長、ノエル。そなたをこれより、法王代行に任ずる」
「ーーは？」
「これより汝の言葉が我が言葉、汝の祈りが我が願いぞ。思うようにやって見せよ、我が娘」
「は……はい！ 父上！」
万感の思いが、涙を流せぬ死剣の瞳を静かに、しかし熱く潤ませた。



「船長、次元ゲートの調子が思わしくありやせん！ どうやらやっこさん、おっ始めやがったようで！」
副長ステイルの声に、海賊姫は頷き答えた。
「他の戦姫たちも、今まさに動き出している頃です。我らも続きましょう！」
『アイサー、キャプテン！』
船員全員ががなり返す。
激しく吹き荒れるフォトンを孕んで、海賊船ゴールデンハインド号のマストがいっぱいに撓った。
「主砲用意！ 開かない扉はぶち抜いて押し通る！ それが次元海賊の流儀！」
「アイサー。主砲、用意」
砲手カノンが手早く照準する。
「放て！」
轟音が次元界を揺らし、閃光が明日まで届けとばかりに放たれた。



「今できることは全てやった。まったく、厄介な奴らだわ」
どことも知れぬ森の樹上、鋼牙忍者の群れが枝えだに並び、割れる空を見ていた。
『はい……ごめんなさい』
傍らで謝るカサンドラに、忍者衆の頭領代理は苦笑した。
「アンタが謝ることじゃないわよ、キャシー」
『きゃ、キャシー？』
きょとんと首を傾げるカサンドラ。
「カサンドラって呼びにくいし、アイツらと紛らわしいでしょ？ だからキャシー」
『……何と言えば良いのか。でも、ありがとうカキツバタさん』
「さん、も辞めて頂戴。アンタはもう他人じゃないんだから」
『じゃ、じゃあ。姐さん』
カキツバタは吹いた。
「リーンの真似しなくて良いんだけど……まぁ、良いわ。アタシからすれば誰だって妹分だわね。ーーさて、アンタたち、アタシらの末っ子を、たったひとりの頭領を助け出しに行くわよ！」
ばさっ、とツインテールを靡かせて、少女は群れに狩りの時間を告げた。



そして、久遠に近い闇の中。眼を閉じていた少女が目を開いた。
（誰か、呼んでる……？）
悪魔ラプラスの内包する時間の海に囚われた少女は、彼方に灯る輝きを見た。それは、割れる空よりなお眩く、彼女の目を射抜いた。
（あれは、明日だ。みんなが見る、未来の光だ……）
『ーーーー』
傍らで、ラプラスが歌うように首を傾げた。少女はラプラスを抱き寄せて、小さく微笑んだ。
（大丈夫だよ。未来は怖いものじゃない。だって、それはひとの夢と希望で出来たものだから）
ぐっ、と輪郭も曖昧な身体で、光を仰ぐ。
（一緒に行こう。あなたも、誰かと生きる明日を、夢見て良いんだから）



ヘレノスたちが見守る中、光の中からひとりの女性が現れた。
「嗚呼、ようやく、ようやく会えた」ヘレノスの目から、雫が落ちた。「千の夜を越え、万の昨日を数え、ようやく貴女に巡り会えたーー」
女性は銀の長い髪を靡かせながら、割れる空より祭壇の上に降り立った。
「姉さん。我が愛しき女神。三千世界の終幕を見る者ーー終点観測者 カサンドラ」
『ーーーー』
呼び声に、彼女はただ沈黙で答えた。
風が大きく唸りを上げて、彼女の背に天使の如き六枚羽が羽ばたく。
教徒たちはその威容に呑まれながら、ひれ伏して迎えた。
静かなる熱狂が祭壇を覆う横で、ただひとり、悪魔の少年だけはその輝きに背を向けた。
「ーー世界が、終わる。終わってしまう。ここまで来てしまった。成し遂げてしまった。変えられない。滅びの宿命が、この世界を閉ざす」
彼はただ首を振って、女神に傅く青年を見た。
「ご主人、ヘレノス。キミはーー」
その囁きは、未明の闇に溶けて消えた。


」(2015-10-19 12:36)

名無しのゴーレム
「最後だけあって長いこと長いこと。これで終わればまさに「俺たちの戦いはこれからだ！」エンドになってしまいますね（笑）。
融合召喚も出来るカサンドラの最終兵器。シャドールレベルのアド獲得能力があるとはいえ専用融合もなしに5枚融合はなかなか厳しそうです。……というか、出ればこのカードも天変地異も破壊される気がしないので攻略法が思いつかないというチートっぷり。実際先出しされたらどうやって勝てばいいんですかね？」(2015-10-19 15:01)

妄想野郎
「天変地異が必要なので実質効果無効はノーコストで延々使う事が出来ます。素のステータスも40/35というばかばかしさ。典型的な、「出せたら強い」カードです。カサンドラを相手にしている時は可能な限り、このカードを出させないプレイングを求められるでしょう。このカードを出されたら、それこそジ・エンドです。
対策と言えば、・スキドレで無効。・虚無空間などで特殊召喚封じ。・天罰などのカウンター罠で無理やり除去。でしょうか。サイドに超融合やラヴァゴなどを入れておかなきゃいけませんね。」(2015-10-19 15:23)

妄想野郎
「連投失礼します。
カウンター罠で無理やり効果を通して除去って言いたかったんです。」(2015-10-19 15:24)

夏将軍
「場に出すための条件が思いっきり厳しいロマンカード。
維持デメリットの関係上、確定カウンターが何回も飛んできます。ライトニング立て…あれ？」(2015-10-19 16:31)

黒壱(クロイツ)
「名無しのゴーレムさん＞
私は最後まで物語を書き切ったことが少ないので、下手するとホントに男坂エンドになりそうです(ｰ ｰ;)
実は攻略法は、意外と多いんですよねぇ。完璧な耐性って本当に少ないです。」(2015-10-19 17:00)

黒壱(クロイツ)
「妄想野郎さん＞
このカード、リリースできない効果を持つのでラヴァゴや烈閃が効かないのですね（≧∇≦）
スペルスピード3はどうにも出来ないですが、天罰の効果では破壊されないので生き残ります。スキドレは……サイクロンで。」(2015-10-19 17:30)

黒壱(クロイツ)
「ライトニングってホント酷いカードですね。一度通ってしまうとどんな耐性も意味が無くなっちゃう……。
展開するのを確実に止めなければなりませんね。」(2015-10-19 17:32)