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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第77話:『信じる』

第77話:『信じる』 作:

なんでも屋Next、ニーズヘッグ、デュエリア政府が一堂に会した「デュエリア・シンフォニーホール」。
その中央の舞台で、遊次とオスカーは対峙する。
セカンド・コラプス計画への服従か、それとも計画の破棄か。世界中の人々の命が懸かったオースデュエルは、熾烈を極める。

綱渡りのような駆け引きを制し、遊次はついにオスカーをあと1歩のところまで追い詰める。しかし最後の一撃は、オスカーの手札から特殊召喚された「アームドホラー・バルドヴァイン」によって食い止められ、惜しくも勝利の機を逃した。

返しのオスカーのターン、慢心や油断など欠片もなく遊次の罠を潜り抜け、アームドホラー・ドラゴンによってモンスターを蹂躙する。自分を守るモンスターは消え失せ、遊次は膝をつき、絶望を露わにする。その姿に、灯たちさえも希望を失いかける。

しかし、これすらも遊次の策略だった。オスカーの最後の一撃は、虹野譲から譲り受けたカード「ビックリボー」によって食い止められ、墓地から蘇ったゴエモンと共に、新たなシンクロモンスターへと昇華する。

現れたのは、虹色の翼を煌かせる白銀の騎士「妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ」。その驚異的な能力により、オスカーのモンスターと魔法カードを全て奪い尽くし、盤面を完全に覆す。

「…面白ぇよな、デュエルってのは。何が起きるか、最後までわからねえ」
遊次はふっと力を抜き、優しく笑った。

遊次が真っ直ぐと見据えるその視線の先。
オスカーは、高揚した表情で口角を上げ、少年のような笑みを浮かべていた。

神楽遊次とオスカー・ヴラッドウッド。
決して交わらぬ思想を持つ二人が、唯一共有していたもの。
それは「デュエルを楽しむ心」だった。

「デュエルを続けようぜ、オスカー。
俺はとことん、お前とぶつかり合いたい」

遊次の瞳が、射抜くようにオスカーを捉える。

「いいだろう。完膚なきまで叩きのめしてくれる」

向けられた闘志に、オスカーは不敵な笑みを浮かべたまま、応えた。

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【遊次】
LP3900 手札:0

①妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK3100
②アームドホラー・バルドヴァイン ATK3100
 (スティジアンウィング、ディアボリックキャノン装備)
③アームドホラー・ドラゴン ATK3500
④アームドホラー・テューロバス ATK1700

フィールド魔法:妖義賊の秘密回廊
永続魔法:妖義賊の連携陣(無効)
Pゾーン:妖義賊-雲龍のリヘイ
伏せカード:ホラーアームズ・バンシーヴェイル
装備魔法:スティジアンウィング、ディアボリックキャノン

【オスカー】
LP3900 手札:6(ガルヴァリアス、シルヴォラス、ショックグリーヴ)

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眼前を飛空するゴエモンと、その周囲に連なる自らのモンスターたち。オスカーは静かにその光景を見据えている。しかし、その瞳の奥には野望にも似た闘志が確かに滲んでいた。

「バトルフェイズを終了する。メインフェイズ2。
墓地のアームドホラー・ヴィシャスサイクルを除外し、効果発動。除外されているホラーアームズを1枚手札に加える」

手札に加えたのは「ホラーアームズ・デモンズコア」。
序盤に遊次を苦悩させた装備魔法だ。

「ホラーアームズ・デモンズコアを、貴様のフィールドのアームドホラー・ドラゴンに装備する」


■ホラーアームズ・デモンズコア
 装備魔法
 このカード名の②③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:装備モンスターはアンデット族になり、装備モンスターが効果を発動した場合、装備モンスターのコントロールを相手に移す。
 ②:装備モンスターが融合素材となることでこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。
 自分はデッキから1枚ドローする。
 ③:このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。
 このカードを手札に加える。


アームドホラー・ドラゴンの胸奥で、禍々しい紅蓮の心臓が不気味な鼓動を刻む。

「デモンズコアの効果により、効果を発動した瞬間、アームドホラー・ドラゴンは我が手中へと戻る」

遊次のフィールドへ渡ったアームドホラー・ドラゴンは、装備カードを引き換えとする強力な除去能力を持っている。しかし『デモンズコア』が埋め込まれた今、その力を一度でも振るえば、ドラゴンはオスカーの盤面へと引き戻されてしまう。それは次のターン、再びこの圧倒的な脅威が遊次自身へ牙を剥くことを意味していた。

「手札からホラーアームズ・ショックグリーヴを、貴様のアームドホラー・ドラゴンに装備」

アームドホラー・ドラゴンの右足を、節くれ立った巨大な脊椎を思わせる白骨の装甲が螺旋状に包み込む。

「装備したショックグリーヴを墓地へ送り、アームドホラー・シルヴォラスを特殊召喚。このモンスターは、自分フィールドの装備魔法を墓地へ送ることで特殊召喚できる」


■アームドホラー・シルヴォラス
 効果モンスター
 レベル4/闇/アンデット/攻撃力1800 守備力500
 ①: このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
 ②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードは、自分フィールドの装備魔法カード1枚を墓地へ送ることで、手札から特殊召喚できる。
 ②:自分フィールドの「アームドホラー」モンスター1体をリリースして発動できる。
 そのモンスターとカード名の異なる「アームドホラー」モンスター1体を、デッキから特殊召喚する。
 この効果は相手ターンでも発動できる。
 ③:自分の「アームドホラー」モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊できなかった場合に発動できる。
 その相手モンスターを手札に戻す。


現れたのは武闘家のような姿をしたアンデット族モンスターだ。その体は朽ちた衣を幾重にも巻き付け、所々に古代の呪符を象った蒼い装飾が輝いている。頭蓋の上には鹿の枝角を模した骨飾りを生やし、手には鎖の先に吊られた香炉が握られている。その双眸は蒼い不気味な光を放っている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/dH5BQM1
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示


「シルヴォラスをリリースすることで、効果発動。デッキからアームドホラーを特殊召喚する。
現れよ、アームドホラー・ペルフェゴル」


■アームドホラー・ペルフェゴル
 効果モンスター
 レベル7/闇/アンデット/攻撃力2500 守備力1900
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:墓地の「アームドホラー」モンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターを特殊召喚する。
 ②:相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 (このカードが装備カードを装備している場合、2体まで相手モンスターを対象にできる。)
 そのモンスターを破壊する。


現れたのは、巨大な斧を携えたアンデットの戦士だ。全身を覆うのは緑青に蝕まれたような古代の甲冑で、そこから骨のような身体が覗いている。鎧の継ぎ目からは青白い瘴気が漏れ出し、まるで肉体そのものが呪いに浸食されているかのようだ。頭部には角を持つ兜が固定され、その奥で光る眼窩は蒼炎のように揺らめいている。握られた大斧の刃には古代文字のような紋様が刻まれ、同じ瘴気が脈動しているのが見て取れる。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/rtDjWFa
※URLの最初に「h」を付けてURLを開くと画像を表示可能


そのモンスターが現れた瞬間、遊次の目は鋭くなる。

(ペルフェゴルは俺のカードを破壊できるモンスター…。このままじゃ無防備なアームドホラー・ドラゴンが破壊されちまう)

一瞬の思考の末、遊次は意を決して口を開く。

「アームドホラー・ドラゴンの効果発動!フィールドの装備魔法を墓地に送って、その数だけ相手フィールドのカードを墓地へ送る!ディアボリックキャノンを墓地に送って、ペルフェゴルを墓地送りにする!」

選択肢は一つだった。オスカーは数少ない手で、最も脅威であるアームドホラー・ドラゴンの効果を遊次に消費させたのだ。しかし、遊次が取らされたこの行動には大きな穴が存在する。事態に気づいた灯が、思わず声をあげた。

「でもこれじゃ、デモンズコアでアームドホラー・ドラゴンが奪い返されちゃう…」

不安をこぼす灯に対し、イーサンが静かに首を横に振る。

「いや、そうでもない。ゴエモン・スカイが生まれた時、皆でその効果を見ただろ」

「…そっか、確かにあの効果なら…」

イーサンの指摘を受け、灯はハッとして顔を上げた。その確信に応えるように、フィールドに立つ遊次が間髪入れずに声を上げる。

「さらにゴエモン・スカイの効果発動!相手から奪った魔法・罠カード1枚を墓地に送ることで、このターン俺のモンスターは相手の魔法・罠カードの効果を受けない!俺の場にセットされたバンシーヴェイルを墓地に送る!」

ゴエモン・スカイが虹色の翼をはためかせると、光の雨がフィールドに降り注ぐ。するとアームドホラー・ドラゴンの胸に埋め込まれた禍々しい心臓は、その鼓動を止めた。

「これならデモンズコアでアームドホラー・ドラゴンが奪われることはない!アームドホラー・ドラゴンの効果で、ペルフェゴルを墓地に送る!」

アームドホラー・ドラゴンの効果でデモンズコアを墓地へ送っても、デモンズコアは自身の効果で手札へと戻り、再び装備される。デモンズコアから逃れる方法はない以上、少なくともこのターン継続する耐性を獲得したほうが良いという判断だ。

バルドヴァインが身につけていた白骨の双砲が砕け散る。それを代償とするように、アームドホラー・ドラゴンが地響きめいた低い唸り声を上げた。直後、ペルフェゴルの足元から無数の亡者の腕が這い出す。青白い手は標的の足をきつく捕らえると、抗う隙も与えずに暗い地の底へと引きずり込んでいった。

地の底へと呑み込まれていく己のモンスターを、オスカーは無言で見下ろしていた。その瞳に揺らぎはなく、微塵の迷いすら浮かんでいない。

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンド」

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【遊次】
LP3900 手札:0

①妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK3100
②アームドホラー・バルドヴァイン ATK2100
 (スティジアンウィング装備)
③アームドホラー・ドラゴン ATK3500
 (デモンズコア装備)
④アームドホラー・テューロバス ATK1700

フィールド魔法:妖義賊の秘密回廊
永続魔法:妖義賊の連携陣(無効)
Pゾーン:妖義賊-雲龍のリヘイ
装備魔法:スティジアンウィング

【オスカー】
LP3900 手札:2(ガルヴァリアス)

装備魔法:デモンズコア
伏せカード:2
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「アームドホラー・ドラゴンの効果を使わせたことで、2枚のセットカードを守りましたか。神楽君がオスカー氏を追い詰めているのは確かですが…そう見えないのは何故でしょうね」

蒼月はステージ上で繰り広げられる激しい攻防を眺め、面白がるように薄く笑う。

遊次はペルフェゴルによって強制的にアームドホラー・ドラゴンの効果を使わされ、さらにはデモンズコアの対処のために、奪ったバンシーヴェイルまでも墓地へ送らざるを得なかった。そうまでしてセットした2枚のカードは、この場の誰にも不気味に映る。


(オスカーさんのフィールドにモンスターはいない。あと一歩で、遊次が勝つ。そのはずなのに…なんだろう、この胸騒ぎ…)

灯は自身の胸元に手を当て、じっと戦局を見つめている。視界に映る圧倒的な有利とは裏腹に、その顔には拭いきれない不安の影が落ちていた。

遊次は静かにまぶたを下ろし、深く息を吐き出した。その脳裏に過るのは、これまで目にしてきたニーズヘッグとの数々の戦い。


背負った命の重さに打ちのめされ、己の弱さを晒しながらも、最後には自分の手さえも引いて前へ進んだ灯の決意。
己の身を犠牲にしてもニーズヘッグに抗い続けたイーサンの覚悟。
どれほどの絶望を前にしても、決して折れることのなかった怜央の揺るぎない強さ。

仲間たちが繋いできた思いを胸に刻み込み、遊次は真っ直ぐに前を見据えて目を開く。

「皆で力を合わせて、ここまで来たんだ。この奇跡を、絶対に途絶えさせやしねえ!」

遊次は確かな決意とともに、デッキトップへ指を掛けた。

「俺のターン…ドロー!!」
自分達の、そして世界の命運を懸けたドロー。
引いたのは、1体のモンスター。

しかしこの瞬間、オスカーが動き始める。

「罠カード『アームドホラー・ハロウアンカー』発動。墓地の融合モンスター以外のアームドホラーを4体まで選び、効果を無効化して特殊召喚する」


■アームドホラー・ハロウアンカー
 通常罠
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の墓地の融合モンスター以外の「アームドホラー」モンスターを4体まで対象として発動できる。
 そのモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。
 ②:墓地のこのカードを除外し、装備カードを装備していない自分フィールドの「アームドホラー」モンスター1体を対象として発動できる。
 自分の墓地の「ホラーアームズ」装備魔法カード1枚を選び、そのモンスターに装備する。


「アームドホラー・テューロバス、ケルヴァラク、メラブエル、シルヴォラスを、効果を無効にし、守備表示で特殊召喚する」

オスカーの眼前に、赤黒い錆に覆われた巨大な黒鉄の錨が出現する。その表面には怨念が絡みつくように蠢き、繋がれた太い鎖からは亡者の悲鳴に似た金属音が響いていた。錨は重力に引かれるまま、深い海へと投下されるように暗い地の底へと沈み込んでいく。

やがて、重々しい音を立てて鎖が巻き上げられると、引き上げられた錨と共に四つの禍々しい影が這い上がった。朽ち果てた装束を纏う海賊、怨念の宿る槍を構える錆びた甲冑の兵、虚ろな眼窩に魔力を灯す髑髏の魔導士、そして肉体が崩れ落ちた武闘家。地の底から呼び戻されたアンデットたちはオスカーの前に並び立ち、音もなく虚空を睨みつけた。

「一気に4体も…」
突如として盤面を埋め尽くした亡者の群れに、灯は表情をこわばらせる。だが、隣に立つイーサンは冷静に状況を見極め、静かに応じた。

「しかし効果は無効化されてるし、装備カードも装備していないから融合素材にはならないはずだ」

オスカーのデッキは、装備カードを装備したモンスター同士を融合するコンセプトだ。しかし故に発動できるカードがあった。

「さらに墓地の『アームドホラー・デスラトル』の効果発動。このカードは墓地から装備カードを装備していないアームドホラーに装備することができる」


■アームドホラー・デスラトル
 永続罠
 このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分・相手ターンに、自分フィールドの装備カードを装備していないアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。
 フィールド・墓地からこのカードを対象のモンスターに装備カード扱いとして装備する。
 ②:EXデッキから特殊召喚された相手モンスターが効果を発動した場合、装備カード扱いのこのカードを墓地へ送り、
 自分フィールドの「アームドホラー」モンスター1体を対象として発動できる。
 その相手モンスターを対象の自分モンスターに装備カード扱いとして装備する。
 この効果で装備したカードがフィールドに存在する限り、相手は同じ種類(融合・S・X・P・リンク)のモンスター効果を発動できない。


「アームドホラー・ケルヴァラクにデスラトルを装備する。このカードがある限り、貴様がEXデッキから特殊召喚されたモンスターの効果を発動した時、そのモンスターをアームドホラーに装備させ、以降同じ種類のモンスター効果の発動を封じる」

遊次はこめかみに指を添え、深く思考を巡らせる。

(ゴエモン・スカイは、相手から奪ったモンスターを任意の数墓地に送って、その攻撃力の合計分攻撃力を上げながら、墓地に送ったカードの数だけ追加攻撃できる効果がある。さらにゴエモン・スカイでアイツから奪ったスティジアンウィングを墓地に送れば罠カードの効果は受けないけど…)

(まだアイツの場には伏せカードが1枚ある。それがわかんねー内にゴエモン・スカイの効果を使っちゃダメだ)

スティジアンウィングは遊次の場に残された最後の装備魔法でもある。これがあれば、アームドホラー・ドラゴンの除去効果を使用できるため、それを捨てるのも得策ではない。

遊次は頭の中で結論を導き出し、デュエルディスクに触れる。

「墓地の罠カード『妖義賊の下準備』の効果発動。墓地の妖義賊3体…ギルトン、カルメン、ルパンをデッキに戻して、1枚ドローする」

「EXデッキの『妖義賊-美巧のアカホシ』の効果発動。Pゾーンにカードがある時、このカードをEXデッキから手札に加える。さらにそのままアカホシをPスケールにセッティング!」

赤い着物を纏った鳳凰のモンスターが再び頭上へ浮かび上がる。そして遊次は腕のデュエルディスクを力強く掲げた。すると彼の頭上に巨大な振り子が出現し、ゆっくりと弧を描いて揺れ始める。

「Pスケールは2~8!よってレベル3~7のモンスターを召喚可能!
ペンデュラム召喚!来い!『妖義賊-夜駆けのシチベエ』!」


■妖義賊-夜駆けのシチベエ
 ペンデュラムモンスター
 レベル5/地/獣/攻撃力2100 守備力1500 スケール8
 【P効果】
 このカード名の①②のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドの「ミスティックラン」Pモンスター1体を対象として発動できる。
 そのカードを自分のPゾーンに置く。
 ②:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。
 デッキから「ミスティックラン」カードまたは「予告状」魔法カード1枚を墓地へ送る。
 【モンスター効果】
 このカード名の①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できず、③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の手札が相手の手札の枚数以上で、このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
 自分・相手の手札を全て入れ替える。
 ②:自分・相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在し、このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。
 自分・相手フィールドの魔法&罠ゾーンのカードを全て入れ替える。
 ③:自分メインフェイズに発動できる。このカードを自分のPゾーンに置く。


そのモンスターは、兎の顔を持ちながら二足歩行で立つ獣人だ。肩には青いマントが掛かり、胸元には飾りの留め具が輝いている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/pZDHsmf
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「シチベエの効果発動!特殊召喚した時、お互いの魔法・罠カードを入れ替える!厄介な罠カードも、その伏せカードも全部よこしやがれ!」

しかし当然、オスカーがこれを通すはずがなかった。勢い込む遊次に対し、オスカーは表情ひとつ変えずデュエルディスクに触れる。

「罠カード『アームドホラー・デスラトル』の効果発動。このカードを墓地へ送り、EXデッキから特殊召喚されたシチベエをケルヴァラクに装備させる」

ケルヴァラクの不気味な絶叫が響き渡る。同時にシチベエの体は見えない呪縛に囚われ、その肉体から魂だけが強引に引き剥がされた。抜き取られた魂がそのままケルヴァラクへと吸い込まれていくと、残されたシチベエの骸は音もなく砂となって崩れ落ちた。

「アームドホラー・デスラトルの効果により、このターン、シチベエと同じPモンスターの効果は無効となる」

シチベエを盤面へ送り込んだのは、厄介な罠を排除するためだった。目論見通りに脅威を退けることには成功したものの、引き換えとしてペンデュラムモンスターの能力が封じられてしまう。局面を切り開くために支払った代償は、決して軽いものではなかった。

だが息をつく暇もなく、オスカーは動く。

「リバースカードオープン。『アームドホラー・フュージョン』」


■アームドホラー・フュージョン
 速攻魔法
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:フィールドのモンスターを融合素材とし、「アームドホラー」融合モンスター1体を融合召喚する。
 ②:このカードを墓地から除外し、自分の墓地の「アームドホラー」モンスターを任意の数だけ対象として発動できる。
 それらのモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。
 その後、選んだ枚数と同じ数だけ自分の墓地の「ホラーアームズ」装備魔法を選択してこの効果で特殊召喚したモンスターに装備し、
 それらのモンスターを融合素材として、「アームドホラー」融合モンスター1体を融合召喚する。
 この効果で融合召喚したモンスターはこのターン、直接攻撃できない。


「なッ…!?装備魔法を装備したモンスターは1体しかいねえいねえだろ…!」

遊次は驚愕のあまり目を見開いた。アームドホラーデッキは装備モンスターを装備したアンデット族同士で融合するコンセプトであったはずだからだ。

「そんな前提条件を提示した覚えはない。融合条件は、アンデット族モンスター2体以上。俺はフィールドの4体のアンデット族で融合召喚を行う!」

オスカーのフィールドの4体のアンデットが、地面に現れた紫色の渦へと呑み込まれてゆく。

「躯を束ね、顕現せし冥府の統帥。纏いし魂を手駒とし、盤上を司れ」

「融合召喚!現れよ、アームドホラー・ラスカロト!」


■アームドホラー・ラスカロト
 融合モンスター
 レベル7/闇/アンデット/攻撃力2800 守備力2000
 アンデット族モンスター2体以上
 このカード名の③④の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードの攻撃力は、このカードの装備カードの数×1200アップする。
 ②このカードは直接攻撃できない。
 ③:このカードが融合召喚した場合に発動できる。このカードの融合素材の数だけ、自分の墓地のモンスターか装備魔法カードをこのカードに装備する(モンスターは装備カード扱いとなり、融合素材が4体以上の場合、相手フィールドからも1体選ぶことができる)。この効果に相手はチェーンできない。
 ④:相手ターンに、このカードの装備カード扱いのモンスター1体を除外して発動できる。このターン、相手はそのモンスターの攻撃力以下のモンスターを召喚できず、そのモンスターの攻撃力以下の相手モンスターは攻撃できない。


融合の光が渦を巻き、やがて一つの巨大な影がフィールドに実体化する。現れたのは、無数の棘と髑髏の意匠が施された禍々しい黄金の玉座だ。

その玉座に、骸骨の王が深く腰掛けている。黒鉄と黄金の重厚な魔鎧に身を包み、紫色のマントを纏う。その背後からは、骨の腕を思わせる異形の突起が扇状に幾本も突き出していた。後光のように広がる腕の先端には、それぞれ青白い魔力の炎が不気味に灯されている。頭上には髑髏をあしらった王冠を戴き、虚ろな眼窩からは冷酷な青い眼光が炎のように噴き出す。

傍らに浮かぶ小さなテーブルにはチェス盤が置かれているが、その盤面には一つの駒も置かれてはいない。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/Gb4QEhs
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「アームドホラー・ラスカロトの融合召喚時、効果発動。融合素材としたモンスターの数だけ、墓地の装備魔法、またはモンスターを装備カードとして装備する。4体以上のモンスターを融合素材とした場合、相手フィールドからもモンスターを1体装備できる」

「相手モンスターを装備…!?」

遊次の視線が、自陣で構えるゴエモン・スカイとアームドホラー・ドラゴンを素早く行き来する。どちらかが標的として奪われることは、考えるまでもなく明らかだった。

「この効果に相手はチェーンできない。装備するのは俺の墓地のディアボリックキャノン、バンシーヴェイルと、アスクレマリウス。そして貴様のフィールドのアームドホラー・ドラゴンだ」

ラスカロトが玉座に腰掛けたまま両腕を広げる。するとその両肩に白骨の双砲が据えられ、背後には黒い霧を纏った魔女が静かに顕現した。続けて右手を伸ばして空間を握り潰すようにすると、掌から放たれた闇が遊次の場のアームドホラー・ドラゴンを一瞬にして飲み込んでいく。

やがてラスカロトの右手には、アスクレマリウスとアームドホラー・ドラゴンを象った二つの駒が握られていた。王はそれらを、傍らに浮かぶチェス盤の上へと音もなく置き放つ。

「アームドホラー・ドラゴンに装備されていたデモンズコアが墓地へ送られたことで、その効果により手札に戻る。アームドホラー・ラスカロトは直接攻撃できないが、その攻撃力は自身の装備カード1枚につき1200上昇する。ディアボリックキャノンの効果も合わせ、その攻撃力は8600となる」

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【遊次】
LP3900 手札:2

①妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK3100
②アームドホラー・バルドヴァイン ATK2100
 (スティジアンウィング装備)
③アームドホラー・テューロバス ATK1700

フィールド魔法:妖義賊の秘密回廊
永続魔法:妖義賊の連携陣(無効)
Pゾーン:妖義賊-雲龍のリヘイ、妖義賊-美巧のアカホシ
装備魔法:スティジアンウィング

【オスカー】
LP3900 手札:3(ガルヴァリアス、デモンズコア)

①アームドホラー・ラスカロト ATK8600
 (ディアボリックキャノン、バンシーヴェイル、アームドホラー・ドラゴン、アスクレマリウス装備)

装備魔法:ディアボリックキャノン、バンシーヴェイル、アームドホラー・ドラゴン、アスクレマリウス
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「ありえねえだろ…まだこんな手が残ってやがったのか…!」
怜央は拳を握り、行き場のない怒りを露わにする。

「ガッハッハ!どうやらまだまだ楽しめそうだ!」
ハイドは手を叩き、豪快に笑う。

オスカーは遊次から奪い返したアームドホラー・ドラゴンを掴み、宣言する。

「アームドホラー・ラスカロトの効果発動。装備カード扱いのモンスター1体を除外し、効果を発動する」

玉座に座すラスカロトが、盤上のアームドホラー・ドラゴンの駒を無造作に掴み上げた。そのままフィールドへと投げ捨てられた駒は、濃密な煙を噴き出しながらドラゴンの姿を形作っていく。

霊体となって現れたアームドホラー・ドラゴンは、遊次の眼前に立ちはだかると激しい咆哮を轟かせた。その凄まじい威圧感に、遊次は思わず一歩後ずさり、肩を震わせた。

「このターン、貴様は除外したアームドホラー・ドラゴンの攻撃力以下のモンスターを通常召喚できず、その攻撃力以下のモンスターは攻撃できない」

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【遊次】
LP3900 手札:2

①妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK3100
②アームドホラー・バルドヴァイン ATK2100
 (スティジアンウィング装備)
③アームドホラー・テューロバス ATK1700

フィールド魔法:妖義賊の秘密回廊
永続魔法:妖義賊の連携陣(無効)
Pゾーン:妖義賊-雲龍のリヘイ、妖義賊-美巧のアカホシ
装備魔法:スティジアンウィング

【オスカー】
LP3900 手札:3(ガルヴァリアス、デモンズコア)

①アームドホラー・ラスカロト ATK7400
 (ディアボリックキャノン、バンシーヴェイル、アームドホラー・ドラゴン、アスクレマリウス装備)

装備魔法:ディアボリックキャノン、バンシーヴェイル、アスクレマリウス
--------------------------------------------------

ラスカロトの攻撃力は、装備カードが減ったことで1200ダウンしている。

「通常召喚と攻撃封じ…おまけに攻撃力は7400。まさに"詰み"に来たってわけかよ」

乾いた笑いを漏らしつつも、遊次の目はまだ死んでいない。この絶望的な包囲網を打ち破るべく、猛烈な勢いで解決策を探り続けていた。

(カリオストロなら相手モンスターをすり抜けて直接攻撃できるけど…攻撃力3500以下が攻撃できなきゃそれも無理。通常召喚まで封じられて、おまけに罠カードのせいでPモンスターの効果も使えねえ…)

ラスカロトはまさに盤上を司る悪魔。圧倒的有利だった遊次に、重い制約がのしかかる。さらに圧倒的な攻撃力を誇っている。しかし、すでに希望は見出していた。遊次は頭上で羽ばたくゴエモン・スカイに視線を送る。

(ゴエモン・スカイは相手から奪ったモンスターを墓地に送ることで、その攻撃力の合計分、自分の攻撃力を上げて、墓地に送ったモンスターの数だけ攻撃できる。この効果だけが頼りだ)

遊次は静かに視線を落とし、オスカーの陣地から奪い取った二体のモンスターを見据える。

(俺の場のバルドヴァインとテューロバスをリリースしても、ゴエモン・スカイの攻撃力7400には届かねえ。でも…手はある)

脳裏に思い描くのは、勝利へと繋がる一つなぎの回路だ。
『妖義賊-雲龍のリヘイ』を起点に『妖義賊-カルメン』へと繋ぎ、速攻魔法『妖義賊の早業』を展開する。思考の中で結ばれていく光の線は、最後に『ゴエモン・スカイ』へと帰結していた。

そして遊次のデッキをよく知る仲間も、このルートを思い描いていた。

「Pモンスターの効果は使えなくても、P効果は使えるだろ。ならリヘイのP効果でカルメンをセットして、その効果で相手の墓地からモンスターを奪って手札に加えりゃあ、墓地の『妖義賊の早業』でソイツを特殊召喚できる。それなら、相手から奪った3体をリリースして、ゴエモン・スカイであのモンスターを倒せるぜ」

怜央が導き出した反撃の糸口に、灯ははっとして口元を押さえた。オスカーの墓地から攻撃力2500のペルフェゴルを奪い、墓地の「妖義賊の早業」の効果で特殊召喚すれば、相手から奪ったモンスターは合計3体。ゴエモン・スカイの効果で3体のモンスターをリリースしその攻撃力を自身の攻撃力に変換すれば、ゴエモン・スカイの攻撃力は9400。優にラスカロトを上回る。

「確かに、そのルートなら…」
視界を覆い尽くしていた重苦しい絶望が、一筋の光を受けてさっと晴れていくのを感じていた。

勝利までの道筋ははっきりと見えている。だが、その顔に安堵の色は浮かんでいない。言葉にならない疑念を抱えたまま、遊次は探るような視線をオスカーへと向けていた。

何かが引っかかる。得体の知れない胸騒ぎがする。
その正体が何なのか、はっきりとはわからない。だが、あれこれと思考を巡らせるより先に、遊次の脳裏にはある疑問が浮かび上がっていた。

(こんな簡単に、アイツに勝てるのか…?本当に…)

これが、今の本心だ。
「こんな簡単に」とは言うが、ここまでの道程が決して平坦だったわけではない。幾度となく死地を潜り抜け、己の戦術の限りを尽くしてようやく辿り着いた局面だ。

だが、ことこのターンにおいてはどうだ。眼前にそびえ立つあの融合モンスターは、間違いなくオスカーの奥の手。最後の切り札であるはずだ。それを、こうも容易く打ち破れてしまっていいのだろうか。

オスカーともあろう者が、自らの敗北へと繋がるその道筋を、無防備に見逃すものだろうか。

(そうだ…。このルートはアイツにだって見えてんだ。なのに…)

遊次は再びオスカーへと視線を向ける。その悠然たる立ち姿は、対峙した時から何も変わらない絶対的な威圧感を漂わせている。

「どうしたの、遊次…」

ピタリと動きを止め、その場に立ち尽くす遊次。その背中を、灯たちは不安げに見守っていた。彼にも勝利へと至る確かな道筋は見えているはずだ。だというのに、その姿は明らかに何かの迷いに囚われていた。

遊次は冷静に、状況を整理し始める。「何かがおかしい」という暗雲に包まれた自分の予感を、紐解いてゆくように。

(オスカーの手札は2枚。1枚はバルドヴァインの効果で手札に加えた『アームドホラー・ガルヴァリアス』。もう1枚は正体不明…)

遊次の脳裏には、バルドヴァインの効果によってデッキトップから3枚めくられ、その内の1枚を手札に加えた場面を思い出す。確か、あの時にも何か一瞬、違和感を覚えたような気がした。

(前のターン、バルドヴァインの効果で手札に加えたカードは"保険"みたいなもんだ。あの時はまさか俺の手札にビックリボーなんてカードがあるとは思ってねえだろうしな)

バルドヴァインの効果でのサーチは、オスカーにとっての勝利条件には無関係だ。それがなくともあの時の彼にとって、勝利は目前だったからだ。

(3枚の中からオスカーが選んだガルヴァリアスは、自分のカードを破壊する効果が発動した時、手札から捨てることで、その効果を無効にしてデッキに戻すカードだ。確かに俺の『爆炎の予告状』とかで装備魔法が全部破壊される危険性もあるし、保険としては悪くねえ。でも…)

もやがかかっていた違和感の正体が、次第にはっきりとした輪郭を持ち始める。遊次は脳裏に焼き付いた記憶の断片を辿り、めくられた3枚のうち、手札に加わらなかった残りのカードへと思考の焦点を絞っていった。

行き着いた先にある一枚のカード。
「アームドホラー・ヘゲシアンドラス」。
盤面に開示されたあの瞬間、遊次も確かにそのテキストへ目を通していた。記憶の糸をたぐり寄せ、そこに記されていた効果を脳内へと呼び起こす。


■アームドホラー・ヘゲシアンドラス
 効果モンスター
 レベル2/闇/アンデット/攻撃力800 守備力1000
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分・相手ターンに自分の「アームドホラー」モンスターの装備カード1枚を墓地へ送って発動できる。
 このカードを特殊召喚する。その後、自分の墓地の装備魔法カードを1枚選び、このカードに装備する。
 ②:このカードまたは自分フィールドの「アームドホラー」モンスターが相手によって墓地へ送られた場合、
 自分の除外状態の「アームドホラー」モンスター1体と装備魔法カード1枚を対象として発動できる。
 そのモンスターを特殊召喚し、対象の装備魔法カードを装備する。


(あのカードなら、もし俺を仕留めきれなくても、俺のターンに特殊召喚して壁モンスターにもなる。特殊召喚時に装備するのがスティジアンウィングなら、攻撃を誘導できて、戦闘破壊されないから完全にバトルを凌げる)

「ホラーアームズ・スティジアンウィング」は、装備モンスターに戦闘・効果破壊耐性を与える上に、相手の攻撃を全てそのモンスターに集約させる装備魔法だ。手札から能動的に特殊召喚し、スティジアンウィングを装備できるとすれば、壁モンスターとしてはこれ以上ない性能だ。

(しかも仮に俺がオスカーのカードを破壊したら、除外されてるディオメデウスを特殊召喚して、装備魔法を装備することだってできる。そしたらまたディオメデウスの無効効果を使えて俺への妨害になる。どう考えても、保険としてはガルヴァリアスよりコッチの方が強いじゃねえか…!)

前のターンに遊次の胸をよぎった、あの微かな違和感。その正体が今、明確な答えとなって結実した。オスカーがガルヴァリアスを手札に加えたのは、相手カードを全て破壊する「爆炎の予告状」が遊次の墓地に送られる前の話だ。万が一の備えとして手札に引き込むのであれば、破壊効果を無効にするだけの『ガルヴァリアス』を選ぶのは不自然だ。オスカーが手放した『ヘゲシアンドラス』の方が、どう見積もっても遥かに優秀なはずだ。

(じゃあなんでアイツはヘゲシアンドラスを手札に加えなかった…?考えられるとすれば…)

そこに思考が及んだ瞬間、遊次は電撃に貫かれたような感覚を覚えた。その「仮定」が真実ならば、全て辻褄が合う。有能なカードをあえて見送った不自然さも。明確な敗北の道筋が迫っていながら、一切の動揺を見せないその態度も。

遊次はオスカーを射抜くように見つめる。その視線には、ある種の恐れが浮かんでいた。

(…ヘゲシアンドラスを手札に加えなかった理由があるなら…"すでに手札にあるから"だ!もしそうなら…さっきのルートを選んだら、俺は、負ける……!)

己の仮説が真実であるならば、オスカーの思考は底知れない深さにまで及んでいることになる。それは常人の理解とはかけ離れた、高次元の領域。もしもあのまま、気付かずにその道を選択していたとしたら。手札を握りしめる右手が、自覚できるほどに震えていた。

遊次は、手札の1枚のカードに視線を移す。それは「妖義賊-変転のエルロト」という上級モンスター。

(このモンスターなら、アイツの奥の手を引きずり出せるかもしれない。いや、できたとしてもそれだけじゃ勝てねえ。それに、もし俺の考えが外れてたら…その時点で俺は負ける…!)

目の前に突きつけられた、二つの分岐点。一方は、頂上までの道筋がはっきりと見渡せる平坦な道。もう一方は、岩肌がひび割れ、一歩踏み出すことすら命取りになる過酷な山道だ。

遊次は今、あえて後者の険しい道へ足を踏み入れようとしている。己を信じて突き進んだ先に、何もなかったとしたら。あるいは、踏み出した足場がそのまま崩れ落ちてしまったら。

そのたった一度の綻びが、デュエルの終焉を意味する。
そしてそれは即ち、多くの命が失われることと同義だ。

矛盾とまでは言えない。ほんの小さな違和感に過ぎない。もしかしたら、ただの思い過ごしかもしれない。そんなことに、多くの者の命を、懸けていいのだろうか。

(隠された手札1枚がピンポイントが当たってる確率は低い。必死に皆で戦って、傷ついて、ここまで来たんだ。なのに俺の、こんな当たるかもわからない勘に、世界を巻き込んでいいのか?もし外れてたら、俺のせいで世界は…)

遊次は滲み出る苦悩を堪えるように、きつく目を閉じた。まぶたの裏に、いくつもの顔が鮮明に浮かび上がってくる。"おばちゃん"や店長、ドミノタウンで日常を過ごす人々の温かな笑顔。ヴェルテクス・デュエリアで激闘を交わし、その切実な願いを背負うと誓った者たち。そしてアキトやチームの子供たち、Nextの仲間たちの顔だ。


ピタリと動きを止めた遊次と、漂う静寂に、戦局を注視していたニーズヘッグの3人やデュエリア政府の面々の間には、得体の知れない疑念と苛立ちが渦巻き始めていた。

そんな遊次を見つめ、灯はぽつりと零す。

「きっと、遊次は迷ってるんだと思う」

イーサンも全てを察した様に落ち着いた声で言葉を紡ぐ。

「…だろうな。場合によっては、これまでの戦いが泡となって消えるような、そんな決断をしようとしてる」

灯は、胸元にそっと手を置き、優しい声色で呟く。

「…デュエルの結末がどうなっても、遊次が決めたことなら、私は…」

灯は心の中で、静かに覚悟を決めようとしていた。そんな彼女の声に、怜央が低いトーンで返す。

「お前はそうかもしれねえが、アイツがヘマこいたら俺は許さねえ。泣こうが喚こうが、気が済むまでボコボコにしてやるつもりだ」

怜央の視線は、真っ直ぐに遊次の横顔へ向けられている。灯とイーサンは、その言葉の先を待つように彼を見つめた。

「だが…今はアイツを"信じる"しかねえ。そうやって、俺らはここまで来た」

イーサンがふっと笑みを浮かべると、灯も強く頷く。そして、3人は揃って遊次の方を見つめた。

遊次は視線を3人へと向けた。その顔には、隠しきれない迷いと不安が浮かんでいる。
だが、次の瞬間にはその表情がさっと変わった。3人が、まるで遊次の心中をすべて理解しているかのような、真っ直ぐな瞳を向けていたからだ。

灯たちが揃って、力強く頷く。
言葉を交わす必要はなかった。
今の遊次には、それだけで十分だった。

もう一度、静かにまぶたを閉じる。そして再び開かれたその瞳には確かな覚悟が宿り、ただ真っ直ぐに前を見据えていた。

(決めたよ。俺は…俺を"信じる"!
皆が信じてくれた、俺自身を!)

そして、手札から1枚のカードを取り出し、表へと向ける。

「手札の『妖義賊-変転のエルロト』の効果。このモンスターは相手から奪ったモンスターをリリースして、特殊召喚できる!アームドホラー・テューロバスをリリース!」


■妖義賊-変転のエルロト
 効果モンスター
 レベル6/地/爬虫類/攻撃力2200 守備力2000
 このカード名の、①の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードは元々の持ち主が相手となる自分フィールドのモンスター1体をリリースして、手札から特殊召喚できる。
 この効果で特殊召喚したこのカードは以下の効果を得る。
 ●1ターンに1度、自分のデッキから「ミスティックラン」モンスター1体を除外して発動できる。
 このカードはターン終了時まで、攻撃力・守備力・レベル・種族・属性が除外したモンスターと同じになり、その効果を得る。
 ②:相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 このカードはターン終了時まで、そのモンスターと同名カードとしても扱う。



テューロバスが光となって消え去ると、その場に代わって、奇抜な衣装を纏ったカメレオンの獣人が姿を現した。飾り羽根のついたつば広帽子を目深にかぶり、金糸が煌めく黒革のロングコートを羽織る。背には真紅のマントを翻し、胸元からはフリルシャツと斜め掛けの弾帯が覗く。腰に大きなポーチを提げ、拍車付きの黒ブーツで立つその姿は、ひどく不敵な雰囲気を漂わせていた。口から長い舌を這わせ、特有の黄色い瞳がギラリと光を放つ。

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静寂を破り現れたそのモンスターを、オスカーは注意深く見つめる。

(ゴエモン・スカイの攻撃力に変換可能なテューロバスをリリースするだと?)

浮かんでいるはずの勝利へのルートを遊次が選ばなかったことで、その表情には警戒の色が滲む。

「変転のエルロトは相手から奪ったモンスターをリリースして特殊召喚した時、1つ効果を得る。エルロトの効果発動!デッキから妖義賊を1体除外して、このターン、エルロトはそのモンスターの攻守・レベル・属性・種族と同じになり、その効果を得る!除外するのは『妖義賊-助太刀のサルバトーレ』!」

エルロトが長く伸びた舌を巻き取ると同時に、一瞬にして変貌を遂げる。その姿は、胸元の開いた毛皮の服を纏い、短刀を構えた猿のモンスターへと変わった。

「サルバトーレの効果を得たエルロトの効果発動!相手から奪ったカードが俺の場にある時、デッキから予告状カードを1枚手札に加えることができる。『融合の予告状』を手札に加えるぜ」

「『妖義賊-雲龍のリヘイ』のP効果発動!このカードをデッキに戻して、デッキから妖義賊Pカードをスケールにセットする!俺は『妖義賊-誘惑のカルメン』をセット!」

頭上に浮かぶリヘイが、静かに腕を組む。その身体がふっと形を失い、無数の光の粒子となって散っていった。瞬く光の跡から姿を見せたのは、深い漆黒のローブに身を包んだ妖艶な魔女だった。

「カルメンのP効果発動!フィールドの妖義賊を1体リリースして、デッキから妖義賊を特殊召喚できる!エルロトをリリースして『妖義賊-忍びのイルチメ』を特殊召喚!」


■妖義賊-忍びのイルチメ
 効果モンスター
 レベル4/地/戦士/攻撃力1500 守備力1200
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドに「ミスティックラン」モンスターが存在する場合に発動できる。
 このカードを手札から特殊召喚する。
 ②:手札から「予告状」カードを1枚捨てて発動できる。
 相手の手札を確認し、その中からレベル4以下のモンスター1体を選ぶ。
 そのモンスターを効果を無効化し、自分フィールドに特殊召喚する。


現れたのは紫色の忍び装束を身に纏い、長い髪を後ろで束ねたくノ一だ。
右手にはクナイを持っている。

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「この時、フィールド魔法『妖義賊の秘密回廊』の効果発動!妖義賊がリリースされた時、カードを1枚ドローできる!」

静かにまぶたを閉じ、デッキトップへと指を掛ける。己の直感を信じ、遊次はあえてひび割れた険しい道を進むことを選んだ。頂へ到達する前に足元が崩れ去り、そのまま落ちてしまう危険すらある。
全ては、このドローに懸っている。

遊次は、確かな覚悟と共にカードを引き抜く。そして手元の1枚へと視線を落とし、すぐさま顔を上げて真っ直ぐに前方を見据える。
その瞳の奥には、さらなる闘志が強く宿っていた。

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【遊次】
LP3900 手札:3(融合の予告状)

①妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK3100
②アームドホラー・バルドヴァイン ATK2100
 (スティジアンウィング装備)
③妖義賊-忍びのイルチメ DEF1200

フィールド魔法:妖義賊の秘密回廊
永続魔法:妖義賊の連携陣(無効)
Pゾーン:妖義賊-誘惑のカルメン、妖義賊-美巧のアカホシ
装備魔法:スティジアンウィング

【オスカー】
LP3900 手札:3(ガルヴァリアス、デモンズコア)

①アームドホラー・ラスカロト ATK7400
 (ディアボリックキャノン、バンシーヴェイル、アスクレマリウス装備)

装備魔法:ディアボリックキャノン、バンシーヴェイル、アスクレマリウス
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「イルチメの効果発動!手札の予告状を1枚捨てて、相手の手札を確認する!その中にレベル4以下のモンスターがいれば、そいつを奪うことができる!」

遊次は手札の融合の予告状を捨て、右腕を伸ばす。
まるで、目の前の光をつかみ取ろうとするように。

(もし俺の直感が合ってれば、アイツの手札にはレベル2の『ヘゲシアンドラス』がいる。そいつをここで引き出せれば、オスカーの狙いを崩せる。でも、もしアイツの手札にレベル4以下のモンスターがいなきゃ…俺は負ける)

自身の早鐘を打つ心音ばかりが、やけに大きく耳に響く。対峙するオスカーは微動だにしない。息の詰まるような静寂が、永遠にも等しい長さに感じられた。

そしてオスカーは、観念したように手札を表へ向ける。

遊次は目を見開いた。
胸の奥から、何かが湧き上がってくるのがわかる。
それは高揚感か、爽快感か、解放感か。
その感覚を言葉にすることはできない。
しかし、事実は一つ。

遊次の"勘"は完全に的中していたということだ。

「俺はお前の手札から『アームドホラー・ヘゲシアンドラス』を奪って特殊召喚する!」

現れたのは、擦り切れた漆黒のローブを纏った、不気味な骸骨の姿だ。剥き出しになった肋骨の奥では、青白い業火が激しく燃え盛っている。頭部には幾重にも枝分かれした角が伸び、肩や腕の至る所から小さな髑髏の飾りがぶら下がっていた。両の掌に青く燃える髑髏を浮かべ、腰に提げた括れのある砂時計型のガラスの装飾が、内側から怪しい蒼光を放っている。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/jDeOdMT
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堂々と笑みを構える遊次と、その真意を探るように目を細めるオスカー。二人の表情が意味するものを、周囲の観衆はまだ誰一人として理解できずにいた。
やがて訪れた静寂を破り、オスカーの低い声が響く。

「まさか、俺の手札を読んだというのか。俺の残り1枚が、バルドヴァインの効果で僅かにめくられただけのヘゲシアンドラスだと」

遊次の口元に浮かんだ不敵な笑みは、微塵も崩れない。

「…別におかしくねえだろ。俺は前の戦いで、お前におんなじ事されてっからな」

オスカーは以前の戦いで、遊次のプロメテのP効果によってめくられただけのカードを把握し、返しの遊次のターンでそのカードが使われることを完全に読んでいた。そして罠を仕掛け遊次を欺き、敗北へと導いた。

今、遊次はそれと同じようにオスカーの手を読んだ。僅かな時間でデッキの動きを把握し、相手の視点に立って思考する。かつて為す術もなく敗れた強敵の領域へ、今の遊次は確実に到達している。

オスカーは、眉間に指を押し付け、さらなる問いを投げかける。

「貴様には、目前に勝利へのルートが見えていたはずだ。リヘイのP効果によりカルメンをセットした後、俺の墓地からモンスターを奪うことができた。そして、墓地の魔法カードによりそのモンスターを特殊召喚すれば、貴様の場には俺から奪ったモンスターが3体。ゴエモン・スカイでそれらをリリースすることで、ラスカロトの攻撃力を超え、4度の連続攻撃が可能だった。しかし貴様は…」

オスカーの言葉を待たず、遊次は口を開く。

「やっぱそこまでわかってたのか。だからこそ、おかしいと思ったんだ。お前がそんな簡単に勝たせてくれるわけがねえ。見落としてる"何か"があるはずだってな」

もしあの時、目の前に提示された勝利のルートをそのまま辿っていたらどうなっていたのか。遊次は自らが選ばなかった、もう一つの道の結末について語り出す。

「もしお前の言う通り、バカ正直に3体のモンスターをリリースしてたら、俺の場のスティジアンウィングも、墓地に送られる。そのままバトルフェイズに入ったら、お前は手札からヘゲシアンドラスを特殊召喚して、墓地のスティジアンウィングを装備してた。そうなったらスティジアンウィングの効果で、俺はヘゲシアンドラスしか攻撃できない上に、そいつをバトルで破壊できねえ」

「ゴエモン・スカイの攻撃力がいくら高くても、戦闘破壊できない守備表示のヘゲシアンドラスにしか攻撃できなかったら、どうにもならねえ。俺はターンエンドするしかない。次のターン、お前は手札のデモンズコアをラスカロトに装備して攻撃力を上げて、ゴエモン・スカイを攻撃すれば俺のライフは0。それがお前の作戦だったんだろ」

観客席に立つ怜央達は戦慄した。自分たちが思い描いていた展開を辿れば、遊次は確実に敗北していた。そして遊次は、その致命的な罠を完璧に見透かした上で、自ら別の道を往く決断を下していたのだ。

「…相変わらず、異次元の決闘眼(デュエル・インサイト)だぜ」
怜央はニヤリと笑い、小さく呟く。

スティジアンウィングは未だ遊次の場にある。それを墓地に送るよりも前に、オスカーの手札からヘゲシアンドラスを引きずり出すこと。それこそが遊次の勝機だった。だが、この場には未だ一つの明白な矛盾が残されていた。固く腕を組んだまま、オスカーが口を開く。

「このゲームはクイズではない、デュエルモンスターズだ。その読みによって勝利へと至らなければ意味がないだろう。貴様の場の2体のアームドホラーをリリースしようと、ゴエモン・スカイの攻撃力は6000。俺のラスカロトを突破できん。どうするつもりだ」

遊次は不敵に笑い、言葉を返す。

「もちろん"答え"ならある。お前に勝つためのな」
そして高らかに腕を掲げ、遊次は宣言する。

「俺はお前から奪った『アームドホラー・ヘゲシアンドラス』と、レベル4のイルチメでオーバーレイ!このモンスターをX召喚する時、相手から奪ったモンスターはレベル4として扱う!」

2体のモンスターが眩い光の奔流と化し、地面に現れた黒い銀河の渦へと吸い込まれていく。

目の前の展開に、ルーカスはギリッと奥歯を鳴らした。

(さらに奪ったモンスターを減らすだと…?これじゃなおさらラスカロトの攻撃力は越えられない。何をするつもりだ…?)

見えない手札すら完璧に言い当ててみせた、常人離れした思考力。その彼が再び、理解不能の行動を取っている。底知れない存在を前に、ルーカスの瞳には隠しきれない畏れが滲み出していた。


「エクシーズ召喚!3度目の登場だ!
ランク4!『妖義賊-怪盗ルパン』!」


■妖義賊-怪盗ルパン
 エクシーズモンスター
 ランク4/闇/戦士/攻撃力2100 守備力1500
 レベル4モンスター×2
 元々の持ち主が相手となるモンスターをこのカードのX召喚の素材とする場合、そのレベルを4として扱う。
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:このカードのX素材を1つ取り除き、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
 そのモンスターの効果を無効にし、コントロールを得る。
 ②:このカードが元々の持ち主が相手となるモンスターを素材としている場合、以下の効果を得る。
 自分の墓地の「予告状」カード1枚を対象として発動する。そのカードを除外する。
 この効果は相手ターンでも発動できる。


現れたのは、黒いハットを被りマントを纏った怪盗の姿。手には白い手袋、目元には白い仮面を着けている。

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【遊次】
LP3900 手札:2

①妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK3100
②アームドホラー・バルドヴァイン ATK2100
 (スティジアンウィング装備)
③妖義賊-怪盗ルパン ATK2100

フィールド魔法:妖義賊の秘密回廊
永続魔法:妖義賊の連携陣(無効)
Pゾーン:妖義賊-誘惑のカルメン、妖義賊-美巧のアカホシ
装備魔法:スティジアンウィング

【オスカー】
LP3900 手札:1

①アームドホラー・ラスカロト ATK7400
 (ディアボリックキャノン、バンシーヴェイル、アスクレマリウス装備)

装備魔法:ディアボリックキャノン、バンシーヴェイル、アスクレマリウス
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蒼月は静かに顎へ手を添え、小さく首を傾けた。新たに呼び出されたモンスターを前にしてもなお、遊次の思い描く狙いがどこにあるのか測りかねていた。

「あのモンスターは相手モンスターを奪う効果と、墓地の予告状を除外する効果を持つ。墓地には相手カードを全て破壊する『爆炎の予告状』。しかし、オスカー氏の融合モンスターは装備魔法により効果を受けず、手札のモンスターによって、破壊効果も無効にできる。あのXモンスターを呼び出すことに何の意味が…」

しかしその疑問に解を示すように、遊次は手札から1枚のカードを表へと向ける。

「速攻魔法発動!『妖義賊の大爆破』!相手から奪ったカードが俺の場にある時、フィールドのカード2枚を選んで破壊する!破壊するのは、お前の装備魔法2枚!ディアボリックキャノンとバンシーヴェイルだ!」


■妖義賊の大爆破
 速攻魔法
 このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分フィールドに元々の持ち主が相手となるカードが存在する場合に発動できる。
 フィールドのカードを2枚選び、そのカードを破壊する。


「まさか…」

遊次の真の狙いを悟ったオスカーが、小さく眉を上げる。それは、単に相手の思惑へ驚いたからではない。神楽遊次という男が引き寄せた、目に見えない運命の力を確信したからこそだった。

「これはさっきフィールド魔法の効果でドローしたカード。デッキが俺に応えてくれたんだ」

デュエルディスクにそっと手を触れながら、遊次は穏やかな笑みを浮かべた。オスカーの言葉を待たずとも、彼の眼差しの意味を理解していた。

このカードこそが、もう一つの遊次の勝利条件。オスカーの手札からヘゲシアンドラスを引きずり出せても、このカードを引けていなければ、遊次に勝機はなかった。前のターンに罠カードによって墓地へ送った「爆炎の予告状」をルパンで除外しても、その効果はガルヴァリアスによって無効化される。そうなれば遊次に勝機はない。

「この効果を見逃したらお前のラスカロトは無防備、ルパンの効果で奪い放題だぜ。さあ、どうする?」

遊次は選択を迫る。バンシーヴェイルの破壊を見逃せば、ラスカロトがルパンによって奪われてしまう。実質的に選択肢は一つしかない。オスカーは眉間に皺をよせ、手札のカードを表へ向ける。

「…手札のアームドホラー・ガルヴァリアスの効果発動。アームドホラーまたはホラーアームズが破壊される時、このカードを手札から捨て、その効果を無効にし、デッキに戻す」


■アームドホラー・ガルヴァリアス
 効果モンスター
 レベル5/闇/アンデット/攻撃力1900 守備力1600
 このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
 ①:自分の「アームドホラー」モンスターまたは「ホラーアームズ」カードを破壊する相手の効果が発動した場合、手札のこのカードを捨てて発動できる。
 その効果を無効にし、デッキに戻す。
 ②:装備カードを装備したこのカードをリリースして発動できる。
 相手は自身のフィールドのモンスター1体を墓地へ送らなければならない。
 ③:このカードを融合素材とした「アームドホラー」融合モンスターは以下の効果を得る。
 ●1ターンに1度、このカードの効果の発動のために装備カードを墓地へ送る場合、代わりに墓地の装備魔法を1枚除外できる。


オスカーが手札を一枚、墓地へ送る。

宙に突如として現れたのは、擦り切れた白衣を纏う骸骨のモンスターだ。頭部には無数の管や機械部品が結合され、剥き出しの肋骨や眼窩からは青白い光が不気味に漏れ出ている。カタカタと顎の骨を鳴らしながら、その異形の科学者はルパンへと迫った。

モンスターデザイン:ttps://imgur.com/a/j0J5bn1
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ガルヴァリアスは右手に掲げたフラスコを振りかざし、オスカーのフィールドに迫る炎を全てその中へ収め、消えてゆく。

「怪盗ルパンの効果発動!相手から奪ったモンスターを素材にしてる時、墓地の予告状を除外できる!爆炎の予告状を除外!」

ルパンは紅蓮に燃える予告状を真上に投げると、真っ赤な炎がデザインされた封筒のような予告状が、ひらひらと舞い落ちていく。

「除外された爆炎の予告状の効果発動!相手のカードを全て破壊する!」

その声に応えるように、宙を舞っていた予告状が炎の渦へと姿を変え、オスカーのフィールドへ頭上から降り注ぐ。

「お前を倒す方法は、ラスカロトの攻撃力を超えるだけじゃねえ!その力を全部奪っちまえばいいんだ!」

炎は玉座のラスカロトへと襲い掛かり、傍らのテーブルも盤上の駒も瞬く間に燃え上がっていく。迫る炎から守るように、背後の黒い霧の魔女がラスカロトの身を覆い隠した。甲高い魔女の悲鳴のような音が響き渡る。

「バンシーヴェイルを装備したラスカロトは相手の効果を受けない」
オスカーは俯き、長い髪で顔を隠したまま言葉を吐く。

「だが、装備カードは破壊されてラスカロトの攻撃力は元に戻る!」

遊次の言葉と共にやがて炎が晴れると、ラスカロトの周囲にあった手駒や装備カードはすべて燃え尽き、跡形もなく破壊されていた。

-------------------------------------------------
【遊次】
LP3900 手札:1

①妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK3100
②アームドホラー・バルドヴァイン ATK2100
 (スティジアンウィング装備)
③妖義賊-怪盗ルパン ATK2100

フィールド魔法:妖義賊の秘密回廊
永続魔法:妖義賊の連携陣(無効)
Pゾーン:妖義賊-誘惑のカルメン、妖義賊-美巧のアカホシ
装備魔法:スティジアンウィング

【オスカー】
LP3900 手札:0

①アームドホラー・ラスカロト ATK2800
--------------------------------------------------

フィールドの光景を前にして、観客席の灯は、瞳を丸くし、どこか信じられないといった様子でフィールドを見つめている。
今まさに、自分達とこれまでずっと歩みを共にしてきたあの遊次が、世界の命運を変えようとしている。
その背に、人々の思いと願いを背負って。

蒼月は視線を外し、ホール全体を俯瞰した。その前の席ではハイドが満足げに両手を組み、口元に笑みを浮かべている。デュエリア政府の計画をねじ伏せたニーズヘッグに対し、想定外の第三者が介入し、打ち破ろうとしている。ニーズヘッグの計画に従うしかなかった政府からすれば、これはまさに舌なめずりをしたくなるような状況だろう。だが、アリシアだけは周囲の空気に流されることなく、真剣な眼差しをフィールドへ注ぎ続けていた。


美蘭は力なく膝をついた。その瞳は激しく揺れ動き、深い動揺を隠しきれていない。それでも声を荒げたり、見苦しく取り乱すような真似はしなかった。ただ静かに視線を落とす彼女の姿は、この結末をどこかで悟っていたかのような静けさを帯びていた。

傍らでジェンも腕を組み、目を瞑っている。
ルーカスは右手で顔を覆うと、拒絶するように首を横に振った。

「ありえない……。兄さんが…あんな奴に…」

こぼれ落ちた声は酷く弱々しい。目の前に突きつけられた事実を、頭のどこかで未だに否定し続けていた。


コートのポケットに両手を入れたまま、オスカーは静かに頭上を見上げた。その視線の先では、ゴエモン・スカイが七色の翼を広げて宙を舞っている。

「これが、デュエルの指し示す答えか」

その表情はどこか儚かった。
己の信じた道は間違っていたのか。
虚空を見つめるその横顔は、見えざる運命へ静かに問いかけているようだった。

遊次は真っ直ぐと前を見据え、言葉をぶつける。

「お前らは、遠くに見える光を幻想だって決めつけて、手を伸ばすことすらしなかった」

遊次は力強く一歩を踏み出し、射抜くような鋭い視線を向ける。

「でも今、誰一人想像してなかったことが、目の前で起きてる。わかったろ、不可能なんて無いんだ」

遊次は自らの左胸に強く拳を押し当て、言葉を投げかける。そして、その拳を迷いなく真っ直ぐに突き出した。

「俺は、誰も犠牲にしない未来があるって信じてる!
足が動かねえってんなら、俺達が、お前らも引き連れて前に進む!」

突きつけられた言葉に、オスカーは僅かに目を見開いた。

「お前らも引き連れて前に進む」。
目の前の男は、地位も名誉もない一介の青年に過ぎない。その男が今、世界を牛耳るニーズヘッグや政府を相手取り、これ以上ないほどの傲慢を口にしたのだ。

誰が、何を言っているのか。
本来なら、誰もがそう嘲笑うはずだった。

しかし、このデュエルで彼が積み上げてきた軌跡が、その言葉に絶対的な力を宿らせている。荒唐無稽極まりない理想。それを彼は、盤上で現実に変えてみせた。

仲間達もその背中を信じ、共に死線を越えてここまで戦い抜いてきたのだろう。自分達を打ち破るほどの強さを彼らが宿した理由。その根源が、目の前の男の生き様にあることを、オスカーは今、確かに理解した。

オスカーは決して視線を逸らすことなく前を向いた。
目前に迫る決着の時を、その目に焼き付けるように。

「ゴエモン・スカイの効果発動!相手から奪ったモンスターをリリースして、その元々の攻撃力の合計を自身の攻撃力に加える!アームドホラー・バルドヴァインをリリース!」

バルドヴァインが白い光へと姿を変え、天へと昇っていく。その輝きは、ゴエモン・スカイの翼へと落ちていった。

降り注ぐ光を纏い、虹色の翼が力強くはためく。
ゴエモン・スカイは手にした槍を高く掲げた。

妖義賊-虹翼のゴエモン・スカイ ATK5200


「勝利は、"俺達"がいただいた!」
遊次は人差し指を真っ直ぐ突き付け、言い放つ。


「バトル!ゴエモン・スカイでアームドホラー・ラスカロトを攻撃!」

玉座にどっしりと腰を下ろした巨躯、アームドホラー・ラスカロト。その圧倒的な威圧感を前に、白銀の甲冑を纏ったゴエモン・スカイが静かに大槍を構えた。背後で大きく広げられた虹色の翼が、周囲の光を呑み込みながら、次第にその輝きを強めていく。

突如、翼が爆ぜるような眩い閃光を放った。その光が視界を白く染め上げた刹那、ゴエモン・スカイの姿は忽然と消え失せる。

直後、虚空を切り裂いて放たれたのは、鋭い七色のプリズムの尖撃。三角錐を描くその光は、ラスカロトの胸元へと真正面から突き刺さる。凄まじい質量を伴った光は、じりじりと音を立ててその身を削りながら、容赦なく奥へと突き進んでいった。ラスカロトは低い唸り声をあげ、玉座に座したまま、逃れることもなくその一撃を正面から受け止める。

やがて光の錐がその巨躯を完全に貫き、背後まで突き抜けた。刹那、フィールド全体を包み込むような、虹色の爆発が吹き荒れる。

「ッ…!」
オスカー LP3900 → 1500


眩い光の中から、ゴエモン・スカイは大きな翼を翻し、静かに遊次の元へと舞い戻る。
オスカーの場にはモンスターはいない。

遊次とオスカーの視線は、障壁のないフィールドにて交わる。

敗北を悟り、泰然と構えるオスカーの姿に、ルーカス、美蘭、ジェンは複雑な感情を隠せずにいた。常に不敗であり続けた彼のそのような姿を、彼らはこれまで一度も目にしたことがなかったからだ。

オスカーは一点の揺らぎもない瞳で正面を見据え、重厚な言葉を投げかけた。

「最後に、貴様に伝えておかねばならないことがある」

「なんだ?」

遊次は真剣な表情で問う。
世界の命運を懸けた戦い。
その宿敵が最後に残そうとする言葉。
その重さを受け止めようとするように。


そしてオスカーは、たった一言だけ、ピリオドのように、このデュエルの終局に添えた。

「見事だ、神楽遊次」


遊次は目と口をぽかんと開き、呆気に取られた。
しかし、その顔はすぐに晴れやかな笑みへと塗り替えられた。

「…あぁ。最高のデュエルだったぜ、オスカー」

そして遊次は人差し指を突き付け、最後の攻撃を宣言した。

「ゴエモン・スカイで、オスカーにダイレクトアタック!」

ゴエモン・スカイが背後の翼を爆ぜさせ、ホールの頂へと垂直に舞い上がる。限界まで高度を上げた白銀の影が、一瞬、天に留まった。直後、滑らかなU字を描いて旋回し、真っ逆さまにオスカーを目指して加速する。穂先から溢れ出した虹色の奔流が、一筋の鋭い矢となって大気を切り裂いた。

極彩色の輝きを纏った槍が、オスカーを貫く。

大きく広がった黒いマントが、虚空をゆらりと漂う。
それは終幕を告げる緞帳のように、主を包み込んで舞台へと落ちていった。


オスカー LP1500 → 0


オーケストラホールを、しんとした静寂が満たしていく。
目前の結末を認められぬ者たちの、沈黙。
同時にそれは、やがて爆ぜる歓喜を待ち侘びる、深い呼吸でもあった。


「勝者、神楽遊次。契約に基づき、ニーズヘッグ・エンタープライズに対し、セカンド・コラプス計画の破棄を命じます」


乾いた機械音だけが、ホールに響き渡る。


小さな田舎町のなんでも屋。その所長である神楽遊次。
世界一の大企業のCEOであり、世界を救済するために暗躍していたオスカー・ヴラッドウッド。

本来交わるはずのない両者は、複雑な運命が絡まり合い、やがては世界の命運を懸けて戦うに至った。

そして今、世界の行く末が、変わろうとしている。

奇跡にも等しい、神楽遊次の勝利によって。



【隕石衝突まで…残り245日】



第77話 「『信じる』」 完





ニーズヘッグ・エンタープライズと、なんでも屋Next。
犠牲を伴う救済を目指す者と、犠牲なき未来を望む者の戦いは、遊次の勝利によって幕を閉じた。

ニーズヘッグとデュエリア政府は、遊次達の目指す「犠牲なき未来」のために動き出す。
その糸口となるのは、ある1人の男だった。

「約50年前にモンスターワールドを発見して以来、その存在は世界に秘匿されてきた。しかし…あの世界の存在を、数千年も前から知る者達がいる」


次回 第78話「神の国」


「セカンド・コラプス編」はここに完結する。
そして、物語は新たな舞台へ。

遊戯王Next-ネフカ王国編-
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