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HOME > 遊戯王SS一覧 > Episode4【闇夜の鬼】

Episode4【闇夜の鬼】 作:雷音@菅野獅龍

「―――はぁぁあああ!!?」

 快晴の空の下、少年は一人素っ頓狂な声を上げていた。


 事はほんの少し前となる。先日デュエル大会に優勝した孜々森璃雄(ししもり りお)は、存知の通り事件について自白すべく、今日の朝一に足を赴こうとした時だった。
 意味不明にもデッキの中にあった海皇――つまりポセイドラ――が簡易的な大きさで『実際に現れ』、璃雄にこう言い切ったのだ。

「お前、あれを現実と思っているのか?」

「え?」

「あれ、夢だぞ」

 海皇は言った。あれは、お前の心配性と妄想癖が生み出した幻影だと。
 それを聞いて璃雄は、叫んだ。

―――そして、冒頭に戻るわけだ。
 璃雄は呆れたかの様な様子で指を組み、そこに額を乗せてうな垂れていた。その対象が彼自身なのかはたまたこの時まで秘匿していた海皇かは別として、彼は見るからに落ち込んでいた。

ポセイドラ「勿論事故はあった。が、お前が心配する程度の事ではない。ただ私が、前輪の一つを破壊してやった程度の事―――むう、よく考えてみるとそれもそれか」

 海皇は一人で事の重大さについて悩んでいるようだった。今の海皇は簡易的な大きさ……詳しく言うと全長30cm前後の小さな形となって璃雄の机にちょこんと乗っている。トライドンの形ではなく、まったくポセイドラの絵柄そのままでミニチュア化されている為、些かシュールともいえる。しかし、そんな事を言ってしまった暁にはポセイドン・ウェーブが待っているだろうと言う事は、禄に彼を見ずうな垂れている璃雄にも判る事だった。璃雄は重苦しい表情で訊ねる。

璃雄「……つまり、私、無駄な決心で心臓ばくばくさせてたってこと?」

ポセイドラ「尚言うなら、無駄なトラウマを作ったよな。その所為で昨日は負ける手前まで押され、お前は自決も厭わぬ自体だった。まあ、一言で言うなら―――」

 ポセイドラは一呼吸置き、ちらりと横目で璃雄を見る。話が終わらない事にうんざりしたのか、やっと顔を上げて小さなポセイドラを死んだ様な目で見る。それでやっとポセイドラは『安心』したのか、とどめの言葉を口にした。

ポセイドラ「―――ただのアホ行動、と言う事か」

 それを聞いて、璃雄はがっくりと肩を落とす。しかし、ポセイドラは対照的にずいぶんと愉快な様子だった。璃雄は溜息を深く吐くと、にやにやとするポセイドラの様子に腹が立ったのか強めな口調で指摘する。

璃雄「……んだよ、そんな面白いか、わた――俺が」

ポセイドラ「『私』で結構だよ。……まあ何、お陰で私は久しぶりにスリルのある決闘(デュエル)ができた。満足だったぞ、璃雄」

 ポセイドラの言葉に璃雄は一瞬驚き、目を丸くした。口から疑問の声が零れる。それと同時ぐらいに、彼のケータイから着信の知らせが来た。璃雄は一瞬デジャヴを感じて、背筋をびくんと揺らす。着信主の名前を見ると、これまたデジャヴを感じた。牧場からだったからだ。璃雄はまた面倒な事にならないといいのだが、等と苦笑しながら電話に出た。

牧場「遅い」

 行き成りの講義の声、しかも電話口から聞こえたその声の主は相当苛立っているようで、璃雄の頭は真っ白になった。しかし直ぐに正気に戻ると、何時もの調子を取り戻すかのような手探り感で応えた。

璃雄「開口一番それ?」

牧場「事実でしょう?」

璃雄「まあ。それで、何のようだよ?」

 安易に璃雄はそう応えた。そうすると、牧場は更にドスを込めて静かに言った。

牧場「……遅い」

 牧場がこう話す時は、大抵怒っている時だ。しかし、何なんだろう。璃雄はそう思った。璃雄の頭には、彼女が怒る原因や要因が思いつかなかったのだ。特に、昨日は優勝快勝皆勤賞と三拍子が揃う様なデュエルをして、彼女自身も大いに喜んでいたし楽しんでもいた。あれが嘘やあの場での表面上の偽りではないことは、幼馴染である璃雄には誓って見間違えぬ筈だ。それに……遅い? それは電話に出るのがでは無かったのだろうか。璃雄は混乱していた。

璃雄「……遅いって、何が?」

 白を切っているのか、という様な苛立ち様で、声の主はケータイの向こう側で、一つ舌打ちをする。その後少し待ってから、先程よりもよりゆっくりと、それでいて負の感情を濃縮したかの様な低い声で璃雄に言った。

牧場「……今日は、何曜日、でしょうか」

璃雄「………うっそ」

 流石に、そこまで言われれば極めて鈍感な璃雄でも気付いた。昨日自分は布団の中でどう思ったか、璃雄は回想した。

『今日が日曜日な事を確認した。よかった、と少年は安心する。この顔では学校には行けまい、と自分の顔を想像して、自嘲したかの様に微笑んだ』

 汗が一筋、彼の頬に垂れた。彼は喉を鳴らしてつばを飲み込み、そしてゆっくりと、現実逃避していた引き篭もりが、漸く外へ足を踏み出そうかと思うほどゆっくりと、璃雄は今日の時刻を見る。現在時刻は8:32と出ていて、その上に表示されている日付を見て、本日二度目の絶叫を家中に響き渡らせた。


竜輝「あはははっ。どうしたんだよ璃雄、らしくねえな! もしかしてあれか、昨日のデュエルの所為で眠れなかったのか?」

璃雄「竜輝ぃ……もういいだろそれぇ」

 机に突っ伏して半泣き状態の璃雄の前で笑う竜輝は、彼の親友でありまた幼馴染だ。昨日の大会では璃雄に負けてしまったが、彼自身も相当な腕を持っていて、油断すると璃雄でも負けてしまう位には強かった。現在のデッキ――ドラグニティ――での璃雄との勝敗は22勝32敗。どうどう、といった感じである。

竜輝「まー無理もないかな。あんなスリリングでエキサイティングなの、一生に一回ぐらいしかできねえよ」

璃雄「そーでもないと思うが?」

竜輝「いやいや、あの状態からの復活は普通考えられないって」

 竜輝は時に褒めているのか貶しているのかよく判らない時がある。璃雄も聞いていて時々判らない時があるが、こういう風に言っている時は褒めている時だ。その言葉で、昨日のデュエルを璃雄は思い出した。
―――場には朱と金色を纏った煌びやかな宝鳥。かくしてこちらは手札も場も尽き掛けていた。その状態で自分はカードをドローする。そして自分は引き当てた。本来自分のデッキには入っていなかった筈のカードを。
 璃雄はあのデュエルの後、デッキを確認していて驚愕した。何故なら、彼はポセイドラをデッキに3枚入れていた筈なのに、見てみたら2枚に減っていたのだ。更には何気なく発動した海皇の三叉槍……あれもミズチが一枚減り、あのカードが増えていたのだ。あれは一体なんだったのだろう。璃雄は深刻な顔で虚空を見つめる。勿論自分のポセイドラが無くなった事にも悲しんでいるのだが、それ以上に未知のカードを手にしたという云われ様も無い恐怖感が襲っていた。何よりも、大会優勝賞品が、まるで自分をターゲットにしたのかと思える程にタイムリーな海皇のカードだったという事。更には、海皇のパックまで出るというではないか。
 璃雄は勘ではあるが、これは何かが関係していると予測した。だが予測はせどこの場にはそれを知る手段がない。海皇も、呼び出せば出るのかいまいちよく判らない為、あてにはならないだろう。

竜輝「……どうした? 腹でも痛いのか?」

 唐突に竜輝が声をかけた。それで璃雄ははっとし、顔を上げて竜輝の顔をまじまじと見る。心配そうな顔で竜輝は見ていた。

璃雄「え、いや、何でも……そんな変な顔してた?」

竜輝「変なっつうか、怖かったな。すっげえ眼がこーなってた」

 そういって竜輝は目尻を指で吊り上げて、如何にも馬鹿にしてる顔で、ははは、と笑った。璃雄はそれに軽く苛立ちを覚え、音を立てて椅子から腰を上げると、引きつった笑みで竜輝を睨み付けた。

璃雄「……竜輝ィィィイイ!」

竜輝「うわ、本気で怒るなこらぁ!」

 結局わいわいとした空気で終わり、璃雄自身も、そんな暗い考えは帰りの時まで忘れていた。そう、彼等は。



ポセイドラ「……炎王」

 ポセイドラがカードの中で切なげに、己の宿敵の名を呟いた。生まれながらにして、その存在と戦わなければならない運命を背負わされた、言ってしまえば同じ境遇の存在と言える存在。―――しかしそれは、傍から見た場合である。
 彼は覚えていた。うろ覚えであるが、ぼんやりと、本当に霞を凝らすかの様な途方もなく遠い世界の夢を。
 己は戦っていた。何処でかも、何時かも覚えてはおらぬ。それでも、その相手だけは覚えている。錆びぬ事ない朱色の輝きは、彼の紅き眼に鮮明に焼き付いていた。

ポセイドラ「何時か倒す、倒さなければならない」

 そう呟いて彼は忘れようとする。どうしても、これだけは覚えていてはいけないような気がしたからだ。震える唇はひたすらにその言葉を繰り返す。
―――炎王が、まさか女性で、自分がそいつに恋していただなど。


 カラスが鳴く声がした。空はすでに真っ赤に染まって、人通りもまばらになっていた。帰り道、竜輝がデュエルがしたいと駄々をこねた為、璃雄もそれにしぶしぶと付き合っていたところ、結局夕方近くまで遊んでしまったのだ。赤い空を眺め、璃雄は小さくため息をつく。この分だと母さんは怒っているだろうか。等と思っていた。

璃雄「……あれ?」

 璃雄は変な事に気付いた。今日は何故遅刻したのだろうか。勿論直接的な理由は昨日のデュエルである事は揺るぎない事実だ。だがそれでも、一つだけ腑に落ちない事があった。

璃雄「……はは、何思ってんだろ、ばかみたいだ」

 乾いた笑みが漏れた。しかしそれは、よく見ればただ口角が歪んだだけで、笑ったとは到底思えない様な表情だった。
 何時もなら起きる時間になれば大声で叩き起こしに来るはず。なのに今日は一切そんな事はなかった。その考えを、きっと今日は母さん自体が起きるのが遅かっただけだったと切り捨てた。本当にそうか? 一日たりとも忘れた事がない母さんがか? ならもしかしたら、きっと起こしたんだろうけど、私が起きなかっただけだ。なら何故学校にいくまでの間に、母さんの姿を見なかったのだ。―――偽るなよ孜々森璃雄。なら、コレは何なんだ?
 気がついたら、自分は台所で赤い何かを見下ろしていた。肉の塊みたいだった。肉の塊は服みたいなボロ雑巾を被っていて、所々に白い棒が刺さっていた。ひん曲がった眼鏡のを一丁前につけていたり、その上ぐらいから青っぽい毛が生えていて冗談みたいに人間臭い。

璃雄「……なあ、夢だろう? そうなんだろう? なら起きろよ、ねえ、起きてよ。起きろ、起きろ、早く、起きろ、起きろ……」

 璃雄はその場に両膝をついた。未だ両眼は肉塊から眼を離さない。それどころか、何処か愛おしい何かを見ている様な目つきでそれを見ていた。他人が見たら、ただの狂人としか思えぬ光景だった。がちがちと璃雄の奥歯がなる。体中痙攣しながら、両腕で両肩を抱え込んだ。

璃雄「起きろ、起きろ、起きろ、起きろ、起きろ、起きろ、起きろ……起きろよ、起きろって言ってるだろ!? 起きてくれよ、なんで、なんでなんだよ!」

 ヒステリックに璃雄は頭を掻き毟る。もう既に眼は肉塊に据えていても、とうに何処か違うところを見ていた。声だけ聞くと、少女が哭している様にも聞こえる。だがそこにいるのはただの狂人一歩手前の少年。

「―――さあ。ゲームの時間だ」

璃雄「!?」

 ふと璃雄の背後から声が聞こえた。女性の……少女の声の様だ。璃雄は恐る恐るその姿を知ろうと振り向く。そこには、赤と黒が印象的なローブを羽織った自分より背の高い人間がいた。フードを被っていて顔は判らず、下から除きこうにも暗くてよく見えなかった。璃雄はぞくりと背筋が凍てついた。おそらく、つんとした血の臭いが、ローブの下から漂ってきたからだろう。

璃雄「……お前が、母さんを、殺したのか……?」

「私はリリィ。リリィ・リベラ。その問いには答えかねる。聞きたいのなら、ゲームで私の口をこじ開けなさい」

 璃雄はリリィを睨みつけながらゆらりと立ち上がった。璃雄は憤激していた。人の生死に関係する事なのに、目の前のこの女はそんな事よりもゲームだなんだと言う。全くもって理解しがたく、そして憎たらしい。

璃雄「質問に答えろ。お前が母さんを殺したのか、そうじゃないのか?」

 璃雄は先程よりもより強く言った。しかし、リリィの答えは同じだった。

リリィ「言ったであろう。私はその問いには答えない。……もし、それがゲームに参加し得ない理由ならば、そうだな……私に勝てば、その者を蘇らせることも考えなくはない」

璃雄「な!?」

リリィ「カードの力だ。お前も知っているであろう? デュエルモンスターズには、まさに人智を超えた、恐るるべき力が存在する。それは時に現実世界にも影響し、我々に災いを齎す物となるが――それも時には、名状しがたい神の奇跡とも呼べる力へとも変化する。そう、死者蘇生。そのカードを使えば、その者は蘇る」

 璃雄は、リリィの言っていることに覚えがあった。惹かれる寸前の璃雄を救ったのは海皇であるポセイドラの力。ポセイドラも、よくよく考えればただのカードであったのだ。それが何故か実体化し、彼の目の前に現れた。ならもし、魔法カードを使えば……そう考えた事が、一概に無いとはいえなかった。
 璃雄はもう一度リリィを睨みつける。リリィは見えているのか否か、ただじっとこちらに顔を向けて黙っている。どのみち、そのゲームに受けない限りは、これ以上進展はなさそうと判断し、璃雄は決心した。

璃雄「いいだろう、受けてやる。それで、何だ、そのゲームっていうのは」

 璃雄がそう言うと、リリィはフードに隠れていない口角を少しばかり上げたかと思うと、ローブの中からDM(デュエルモンスターズ)のデッキを取り出した。

リリィ「ゲーム、それは古代エジプトでは罪人への審判の儀。なれば、我々が行うゲーム、それは、ペガサス・J・クロフォードが世に生み出した、このゲームが相応しい」

 つまり、デュエルをする、ということか。璃雄はバックの中にある海皇のデッキとデュエルディスクを取り出し、デュエルの準備を整えた。

璃雄「……後悔するなよ。さっさと終わらせて、死者蘇生を使わせる」

リリィ「フフ……来たまえ、君の庭に出よう」

 リリィはそう言ってリビングの窓から外に出た。よく見れば、自分も奴も靴を履いていたことに気づき、璃雄はどうも不快感のような物を覚えた。


 孜々森家の庭に、その主の子とローブの女が決闘を始めるべく互いのデッキをシャッフルする。十数年彼を見てきた庭と家はそのどう思うだろうか。女はニヤつきながら自らのデッキを愛おしく眺めながらデッキホルダーにセットし、子は敵意を露わにして乱暴にデッキをセットする。
 璃雄はあまりオカルトには詳しくもなく、また興味もなかった。ただ奴はきっちりと倒しておかないと気が済まなかった為、デュエルに合意したのだ。璃雄は女を再度睨みつける。必ず奴は倒す。そしてこんな事をした事を悔やませてやる。そう決心していた。

リリィ「さて……ゲームの前に一つ、ルールに変更点がある」

璃雄「……変更?」

リリィ「そうだ。このゲームは闇のゲーム。敗者には罰ゲームが与えられる――闇のゲームだ」

 リリィは何処かうっとりとした声で言った。まるでカルト狂信者みたいだった。璃雄はあからさまに顔を顰める。どうにもこういう相手は苦手だったのだ。更にリリィは璃雄の予想外な言葉を言った。

リリィ「それと――私が君の相手ではない。君の相手は、私のパートナーだよ」

 璃雄が驚く間もなく、彼女がローブをめくると、ローブの中からまた同じ様なローブを羽織った、リリィより背の低い少女が現れた。ただ違うのは青と黒を中心とした色使いのローブで、フードがなかった。少女の肩で揃えられた髪は青く、自分の髪質と似ているのかと璃雄は思った。少女はゆっくりと瞼を開けると、璃雄をじっと見てから、リリィに振り返る。

「……こいつが、対象?」

リリィ「ええ、そうです、闇華(やみか)様」

 リリィが闇華といった少女は、どうやらリリィよりも格上なのか、リリィが下手に出ている。もしかしたら彼女の性格なのやもしれないが、それにしても、リリィのあの崇拝の様な表情から、璃雄にはリリィは闇華の下僕なのかと思っていた。リリィが闇華にデッキを渡す。闇華は無表情のまま、それを優しく手に取る。すると、闇華の腕に黒い霧の様なものが集まり、一瞬にして漆黒のデュエルディスクが彼女の腕に装着された。禍々しいそれは、触るだけで危険そうな突起まで、外側に向けて付いていた。闇華が璃雄に顔を向ける。璃雄はそれで、デュエルが開始することを身に感じ、デッキからカードを五枚ドローする。闇華も次いで、デッキをセットしドローした。
――一瞬静寂が訪れる。そして、ゲームは始まった。

闇華・璃雄「「決闘(デュエル)!」」

リリィ「先行は差し上げましょう。よろしいですね、闇華様」

闇華「勿論」

 やっと闇華が表情を変えて小さく笑う。とても可愛らしいのに、何処か歪で、背筋が凍る様な笑みだった。璃雄は鳥肌が立ちながらも、自分を奮い立たせようと握った拳に力を込める。

璃雄「余裕ぶっこきやがって……なら、そのまま負けろ、俺のターン!」

 璃雄は手札を確認する。いい手札だ、と璃雄は小さく頷く。それは、闇華も当然気づいていた。

璃雄「俺はディーヴァを召喚、効果で……来い、ネプトアビス!」

 ディーヴァの歌声で、デッキからネプトアビスが現れた。その時、璃雄はあたりが異様に暗くなっている事に気付き、周りを見回すと、くすくすとリリィが笑った。

リリィ「言ったであろう、これは闇のゲーム。闇のゲームでは、プレイヤーの精神がゲームに反映される。……例えば、その歌姫とかはどうだ?」

 声に乗せられ、璃雄はディーヴァの方を見た。ディーヴァは何処か怯えているようだった。それを見ていると、何時も見慣れている筈のソリッドヴィジョンの筈なのに、何処かおかしな感じがした。というよりも、璃雄にはおかしいぐらいに現実じみて見えていたのだ。そして、璃雄はある仮説にたどり着く。

璃雄「まさか……モンスターが実体化してる、とか言うんじゃないだろうな」

リリィ「いえ、そのまさか。ダイレクトアタックには気をつけるべきだな。なにせ、本当のモンスターが襲ってくるのだ、君に、その一撃が耐えきれるかな」

 リリィは何が面白いのかクスクスと笑う。璃雄はきっとリリィを睨みつけて、すぐに闇華に視線を移す。闇華は只管に自分の手札を見ていて、時折璃雄を少しばかり見るだけだった。璃雄は冷静になりながら思った。とにかく、さっさとこのゲームを終わらせた方がどちらの意味にしろ安全だという訳だ。ならば、下手に長引かせる必要はない。

璃雄「……ネプトの効果! デッキから海皇を墓地に送り、海皇を手札に加える! 俺は竜騎隊を墓地へ、海皇の姫君を手札に加える!」

 海皇の姫君。それは、昨日の大会の商品として手に入れたカードである。特殊召喚された時に、他の海皇を呼び出すレベル3の海皇モンスター。ディーヴァの効果で特殊召喚するという手もあったが、今回はそちらは使わない。下級海皇共通の、コストとして墓地に送られた方を使用する。

璃雄「墓地に送られた竜騎隊の効果で、デッキからメガロアビスを手札に、手札の姫君と竜騎隊を墓地に送り……メガロを特殊召喚!」

 水柱がたち、その中から最上級水精鱗の姿が現れた。弱気なディーヴァとは打って変わり、己の力故か強い眼光で闇華を睨みつけた。

璃雄「メガロの効果でアビスケイル―ミズチを、竜騎隊の効果で突撃兵を手札に加える! そして、姫君の効果! このカードが水属性モンスターのコストとして墓地に送られた場合、俺のライフを1000ポイント回復させる!」

璃雄LP4000→5000

 闇華は璃雄のコンボの嵐に目もくれず、やはりただじっと手札を眺めている。その隙に、璃雄は手札をすべて使う勢いでカードを発動していく。

璃雄「魔法発動、死者蘇生! 効果で姫君を特殊召喚!」

 水泡とともに、可愛らしい少女が場に現れた。先程は召喚こそされなかった姫君だが、墓地から特殊召喚したため、効果が発動した。

璃雄「姫君の効果で、手札の突撃兵を捨て、墓地の海皇を特殊召喚する! 俺は捨てた突撃兵を特殊召喚! そして、姫君、ディーヴァ、ネプトをリリースする!」

 璃雄の宣言の瞬間に、指定したモンスターが一瞬にして波に飲まれる。そして、とどまること無い戦慄を与えんばかりに、海の皇はその姿を見せた。

璃雄「こい、我が最強の海の皇! 海皇龍、ポセイドラ!」

ポセイドラ「ギャオォォォオオオッ!」

闇華「……!」

リリィ「これが彼のフェイバリット……」

 流石のポセイドラの登場に、二人も驚きを露わにした。ポセイドラは天高く咆哮し、ゆっくりと闇華に視線を移す。闇華もポセイドラに目線を移した。ポセイドラと闇華はじっくりと見つめ合う。闇華の方は弱小と笑われるポセイドラの召喚に敬意を払い、ポセイドラの方はただ何も思わず、敵を認識したという様な無機質な眼で見ていた。

璃雄「リリースした姫君によりライフ回復! ネプトの効果で……姫君を再召喚! 狙撃兵を墓地に送り、狙撃兵を特殊召喚!」

 怒涛の召喚により、手札こそミズチだけになったが、璃雄のフィールドはモンスターが十分にあった。姫君とネプトの特殊召喚ループにより、レベル7が二体、レベル3が三体ずつと、十分に猛威をふるう準備はできた。

璃雄「いくぞ、メガロとポセイドラ、それと下級2体でオーバーレイネットワークを構築、黒き星よ、ここに束ねたれば海を守る剣となれ!」

 モンスターたちが光りに包まれ、光は柱となって天へと昇る。しかし、それでも届かない。闇はなお黒く黒く染まり、二柱の光は黒い影に衝突した後、フィールドに降り注ぐ。それに、一瞬璃雄が怯む。

璃雄「く……変化せよ、水精鱗―ガイオアビス、同じくアビストリーテ!」

 光がフィールドに落ちてきた瞬間、それを海の波が飲み込む。潮が引くと、そこから水精鱗の夫婦が現れた。ガイオアビスは攻撃表示で攻撃力2800ポイント、アビストリーテは守備表示で守備力2800ポイントである。

璃雄「更にガイオにミズチを装備! 攻撃力800ポイントアップ!」

 ガイオアビスに水精鱗の宝が装備され、より雄々しい姿となる。トリーテがガイオの隣にゆっくりと移動する。ガイオがそれを見て、これまたゆっくりと片手で抱え込んだ。見ている方が甘ったるくなりそうだ、と璃雄は頭を抱えながら思った。もしこれが自分の精神が引き起こしたというのなら、俺はどんな想像をしているのだろうと頭が痛くなった。

璃雄「最後に、カードを伏せて終了、お前のターンだ!」

璃雄LP6000
手札 0
モンスター ガイオアビス(X素材2)+ミズチ アビストリーテ(X素材3)



闇華「……長い。私のターン、ドロー」

 小さな声で毒を吐きながら、闇華はカードを引く。手札にモンスター破壊系の魔法もモンスターもない。が、特殊召喚したモンスター専用のカードならば存在した。

闇華「手札から、魔法カード。《サイクロン》を発動」

璃雄「く、ミズチの効果が発動する!」

 ガイオアビスに装着されたミズチが一瞬にして水竜のような形に変化し、場に出た魔法カードを自らごと破壊した。璃雄は苦虫を噛み潰した様な顔をした。サイクロン程度を無効にしてしまったことが相当来ているのだろう。

闇華「更に手札から魔法発動、《行き過ぎた共振》」

 璃雄は闇華の使ったカードに驚いた。初めてみたカードだったからだ。まさか新しいパックのものだろうか、と小さく思った。

闇華「場の特殊召喚されたモンスターの数だけ、デッキからカードをドロー」

璃雄「手札補充か……」

 今の環境では特殊召喚しないデッキのほうが稀である。そう考えると、あのカードはそとう厄介なカードとなりそうだ。璃雄は無意識のうちに、《行き過ぎた共振》の対抗策を考えていた。闇華がカードを二枚ドローする。

闇華「更に魔法発動、《異世界への追放》。私はデッキからモンスターを除外する」

 自分からモンスターを除外した事に璃雄は驚いた。普通除外するのは自分にとってデメリットでしか無いというのに、自らモンスターを除外した。それもわざわざ専用のカードを使ってだ。となると、コンボが来ることは予想済みだった。

闇華「行き過ぎた共振を発動したターン、私は攻撃宣言も特殊召喚も行えない。私はカードを二枚伏せて終了」

闇華LP4000 手札3
伏せカード2 モンスターなし

 行き成り来ることがなく璃雄はほっとした。ガイオの効果で弱小モンスターの効果は無効に出来ても、魔法で破壊されては意味が無いのだ。ただカードを伏せたのを見ると、おそらくこちらの攻撃に反応する罠カードだろう。璃雄はそう思い、サイクロンを引けるように祈りながらドローした。

璃雄「俺のターンドロー!」

 腕をしならせ勢い良くカードを引き、ちらりと絵柄を見た。あろうことか、それはサイクロンであった。よし、と璃雄は顔に出るぐらいの喜びを心に持った。コレなら、おそらくいけるだろうと思ったまでだ。
 ガイオとトリーテの攻撃力を足すと4500となる。仮に破壊されても、トリーテの効果でガイオを再度呼び出せる。ただの攻撃力2800モンスターになってしまうが、それでも相手には大打撃だろう。

璃雄「行くぜ、トリーテを攻撃表示に、そしてサイクロンを発動する! 右のカードを破壊!」

 璃雄が指し示したカードへ、竜巻が襲いかかる。渦に巻き込まれながら、伏せられていた《ミラーフォース》は破壊された。ミラーフォースは相手の攻撃表示モンスターを全滅させるカード。厄介なカードを滅ぼして、璃雄は安心したように小さく頷いた。
 一方闇華は、その程度のことと思っているのか、憮然とした態度でもう一枚の伏せカードを見ていた。
 しかし璃雄は、幻の勝利に浮かれてか気づいていなかった。

璃雄「よし、やれ、トリーテ……そして、ガイオの攻撃! アビストローム・トライデント!」

 トリーテが杖を振りかざすと水流が起こり、そのまま闇華へと突入していく。水流は闇華に激突すると、霧のように放散していった。闇華は少し耐えようと踏ん張ったが、すぐに流れに呑まれ尻をついた。そういえば、これは闇のゲームだとか言ったか、と璃雄は思い出した。仕掛けたゲームで負けるなんてアホらしいにも程が有るのではと少しばかり思った。
 次のガイオの攻撃はとても単純だったが、それでいて激しい技だった。手に持った三叉の矛を闇華へと投げたのだ。矛は闇華の体を貫いて、見るからに致命的なダメージを与えた。

璃雄「よし、俺の勝ちだ!」

 璃雄がガッツポーズを取る。すると、リリィがくすくすと笑った。璃雄がリリィを睨みつけながら、「何がおかしいんだ」と不機嫌そうにいった。

リリィ「バカが。闇華様の場を見るといい」

 璃雄がリリィの言葉につられて闇華の方を見ると、伏せられていた罠がいつの間にか発動していた。闇華は腰を持ち上げると、ローブについた土を払う。

闇華「トラップ発動。《多大なる犠牲》。このカードは手札とデッキの『ダークネス』モンスターを一体ずつ除外することで、このターンのダメージを半分にする」

璃雄「半分……と言うことは、与えられたダメージは2250だけ……くそ!」

 ミラーフォースもそうだが、このカードも更に面倒だ。しかもコストが「ダークネス」と呼ばれる未知のモンスターを除外すること。やはりこのデッキは除外デッキか。璃雄は面倒くさい相手だと舌打ちをする。
 しかし璃雄の場にはモンスター・エクシーズが二体、LPも6000。対して闇華の方は手札が一枚のみ。モンスターはほとんどが除外されている。璃雄は次のターンはまだ耐えられると思っていた。

璃雄LP6000 手札0
モンスター ガイオ(X2) トリーテ(X3)

闇華LP4000-2550=1450 手札2
場 なし

闇華「私のターン、ドロー」

 闇華がカードを引いた瞬間、地鳴りがしたかのような感覚があった。璃雄は驚いて地面を見るも、特に変わったことはなかった。

闇華「私は魔法発動、《闇の誘惑》。カードを二枚ドローし、手札の『ダークネス』を除外。除外したダークネス・ライターの効果でカードを一枚ドローする」

 闇華使ったのはやはり闇属性専用カード。となるとやはり狙っているのは異次元からの帰還などの除外からの大量特殊召喚だろうか。それにしても不釣り合いなカードばかりを使うものだと璃雄は思った。
 闇華は自分の手札を見るといけると思ったのか、首を縦に動かした。

闇華「手札から永続魔法発動。《ブラックリボン》。これにより、闇属性モンスターの効果は無効にならない。そして手札から、ダークネス・ブリンガーを召喚、効果で除外したダークネス・フォーチュニストを特殊召喚する」

 一輪車が複雑な機械人形になったようなモンスターが闇の中から現れると、次いで黒い渦の中から紫色のローブを羽織った機械人形が現れた。ブリンガーの方はチューナーモンスターのようで、フォーチュニストと同じレベル3。おそらくレベル6のシンクロを狙ってくるはずだ。璃雄はそう警戒する。

闇華「ダークネス・ブリンガーによって特殊召喚されたモンスターは効果が無効になる。二体でチューニング……」

 闇華の場の二体が黒い闇に飲まれ、記載された星がゆっくりと黒く染まっていく。そして星々がダンスを踊るかのようにくるくると回転し、頭上へあらかた昇ると、一瞬にして黒い柱が闇華の場に現れる。すさまじいプレッシャーの風が璃雄を襲い、璃雄の眼を暗ませる。しかしリリィはそれすらも愛おしいかの様に、ただ真っ直ぐに闇華を見つめている。
 柱が徐々に二つに割れ、中から何かが現れた。プレッシャーに慣れてきた璃雄は、ゆっくりと眼をそちらに向ける。そこには、黒い鎧の戦士が居た。白いスカートのようなものが異様なコントラストを醸し出している。左手には篭手がそのまま大きくなったような縦があり、右手には嫌にきれいな白い細身の剣を持っていた。

闇華「シンクロ召喚。ダークネス・ブラックナイト」

 ダークネス・ブラックナイトはゆっくりと瞼を開く。その眼は何処か正気がないように璃雄は思えた。ゆっくりとブラックナイトは剣を握り直し、ガイオアビスに向き直る。その姿は本当に麗しき王宮の使者等と形容してもいいぐらいなのに、何故か素直に綺麗と言えない。それは白と黒のコントラストによるものなのだろうか。璃雄にはよく判らなかった。周りのせいかもしれないと、詳しくは考えなかった。ガイオは、トリーテを退かす。危険には晒したくなかったからだろうか。どうであれやっぱり恥ずかしい光景だった。

闇華「ブラックナイトの効果。手札のダークネスを除外する。除外したモンスターはライター、カードをドロー。更に効果発動。手札とデッキのダークネスを除外し、相手モンスターを破壊する。対象はガイオアビス」

 一気にモンスターを除外していく。特筆すべきところはその回転具合だろう。新規カードを腐らせることなく使っている。それにドローの運も良い。だが璃雄にはそんな事を思う余裕すらなかった。
 ブラックナイトが胸の眼に力を込めると、眼の少し前に紫色の光が集まっていく。そして、丸くなって輝くと、一直線にガイオアビスへと向かって奔る。ガイオアビスは自慢の矛で耐えようとするも、あえなく矛ごと破壊された。

璃雄「ガイオ!」

闇華「除外したダークネス・トラベラーの効果。除外された時、デッキのダークネスを除外することで守備表示で特殊召喚できる。私は三枚目のライターを除外することでカードをドロー」

 今度は闇の中からボロ布のような服を着た旅人をかたどった機械が現れた。しかもレベル2のチューナーモンスターだった。ブラックナイトはレベル6、トラベラーは2、まさか、と璃雄は闇華を見た。闇華はとても憎々しい笑顔でそのモンスターを呼んだ。

闇華「くふ……私は場の二体をチューニングする。暗雲よ、唄いなさい。彼の歌を、伝説を、そして私の勝利の歌を。闇夜より現るる戦士よ、敵を倒す剣となりて私のために復活せよ――」

 まるで闇華の言っている通りのごとく、暗雲はおんおんと言葉にならない音を奏でる。地面は地鳴りして「それ」の復活を待ちわびる。璃雄はその強さを理解し、闇華の場に集まりつつある黒い影を睨みつけていた。
 黒い影はゆっくりと形を成していく。人型に作っていく。そして人型が完成する頃には、闇華の場には黒と銀に輝く禍々しい鎧や篭手と合体した剣が用意されていた。そして、影が一瞬で晴れると、人型が隠していた存在が現れた。

闇華「此処に再誕――ダークネス・シルバーナイト!」

 それは剣士であった。まるで先ほどのブラックナイトが歴戦を積んだかのような風貌で、何処か王にある威厳すらも感じられた。シルバーナイトに鎧が装着され、シルバーナイトは長い白髪をたなびかせると、トリーテを真正面から見定めた。トリーテはびくりとそれに反応する。

璃雄「攻撃力、3000の、モンスター」

 璃雄はその強さに驚愕する。闇華はそれににやりと笑いながら、伝説を魅せにかかった。

闇華「闇に飲まれて朽ちはてい! ダークオン・フィアーシュート!」

 伝説が、彼に襲いかかった。















今回の最上級ヤバゲオリカ紹介
《ダークネス・ブラックナイト》
闇属性 レベル6 戦士族 シンクロ
攻撃力2400 守備力1000
「ダークネス」チューナーモンスター+闇属性1体以上
①:このカードのシンクロ召喚成功時、手札の「ダークネス」モンスター1体を除外する。
②:1ターンに1度、手札とデッキから「ダークネス」モンスターをそれぞれ1体ずつ除外し、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、発動できる。選択したモンスターを破壊する。
③:このカードが除外された時、自分の除外されている「ダークネス・ブラックナイト」以外の「ダークネス」モンスターを2体選択し、発動できる。選択したモンスターを手札に加える。
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