四符「心理の内」　作：ツバサ

「『染まる幻想』を奪い取ったですって・・・！？」

「おっと、奪っただなんてとんでもない。借りただけだぜ？使ったらすぐに返してやる。
そうだな・・・そろそろ使いどころだな。手札から速攻魔法、『手札断札』を発動させるぜ。
お互いのプレイヤーは２枚の手札を墓地に送り、新たに２枚カードをドローする。
私の手札は２枚しかないからこれだけ墓地に送らせてもらうぜ」

「・・・私は３枚のうち、この２枚を墓地に送るわ」


互いに２枚ずつ墓地に送り、そのまま同時に２枚ドロー。
引いた２枚を見た魔理沙は、悪くなさそうな表情を見せる。


「よし、私はカードを１枚伏せてターン終了だぜ」


通常召喚権は「幻想絆・魔理沙」を召喚したことで使い切っている。
そのため魔理沙は「染まる幻想」を含む２枚の伏せカードでレミリアにターンを渡した。


「私の・・・ターン」


レミリアは戸惑いながらも、カードを引いて４枚にする。
既に魔理沙の手札は１枚。そのうえフィールドには伏せカード２枚のみ。
１枚はモンスターがいなければ使用することもできない「染まる幻想」。
もう１枚が正体不明のカード・・・しかし、ここでレミリアがあることに気付くのは少ししてからのことである。


（・・・私が伏せているカードは「次元幽閉」。攻撃モンスターを除外するカードだけど・・・これだけ優位な状況、あまり意味は無いわね。
奴にモンスターはいない・・・でもあの伏せカードがリビングデッドあたりだったら・・・決して安心はできないわね。
けど、もし「染まる幻想」を奪ったこと自体がブラフだとするなら・・・ここは強気で攻めるべき・・・！少々勿体ないけど、ここで召喚するわ・・・）

「私は『幻想絆・ルーミア』を召喚！」


続いて黒い球体の中から現れたのは、黒い服を着た金髪の少女、ルーミア。
攻撃力は１２００。パチュリーの２１００、美鈴の１６００と合わせれば・・・総ダメージは４９００。残りライフ４４００の魔理沙は耐えられない。
ルーミアにはリバースすることで発動する効果があったのだが、レミリアはこの局面、惜しまず攻めに回すことを選んだ。


「バトルよ！私は『幻想絆・パチュリー』でダイレクトアタック！！」


呪文を詠唱しつつ、その手に魔力を溜めこむパチュリー。
２１００のダイレクトアタックを受ければ、その後のダイレクトアタックで魔理沙のライフは尽きる。
本当に魔理沙の行動が全てブラフだったなら・・・それで終わっていただろう。
しかし、魔理沙は手札のカード１枚を右手でつかみ、横向きで決闘陣にたたきつける。


「相手の直接攻撃宣言時、こいつは手札から特殊召喚できる。
来い、『ガガガガードナー』！！」


巨大な盾を持った少年が、上空から重厚な音を立てつつ着地する。
そして盾を構え、魔理沙を守るように位置した。
守備力２０００のモンスター。手札を捨てることで戦闘破壊を免れる能力があるが、魔理沙の手札はこのカードを召喚したことで既に０。


「・・・だが、こいつが破壊されても、お前がバトルフェイズ中に後続を特殊召喚しない限りは・・・私のライフは尽きない」

「なるほど・・・ブラフではなかった、ということ」


攻撃力１５００の「ガガガガードナー」が破壊されれば、１枚でも２枚でも、「染まる幻想」の効果によって「幻想絆」モンスターを手札に加えることができる。
この場で戦闘破壊され、ダイレクトアタックを決められたとして、受けるダメージは２８００。魔理沙のライフは１６００残る計算になる。
そのうえで手札を増やされるというのは、レミリアにとって好ましくない状況である。
いざとなれば、魔理沙は「ガガガガードナー」を自爆特攻させ、自分から「染まる幻想」を発動させる道を選ぶことすらできる。
ゆえに、レミリアは思索した。


（・・・私が伏せているのが「次元幽閉」である以上、自爆特攻をされたとして「ガガガガードナー」を除外することは可能。
破壊ではなく除外・・・「染まる幻想」の発動トリガーとなることは無いわ。
気になるのはもう１枚の伏せカード・・・ただ、あれがさっき私が使用した「激流葬」の類でないことは確か。もしそうなら特殊召喚した時点で発動させていたものね。
ふふ、残念ね・・・中々面白い心理戦だったけど、簡単に負けるつもりはないわ・・・）

「モンスターの数が変動したことで巻き戻しを行い、私はパチュリーによる攻撃を中断する。
そしてこのままメインフェイズ２に移行させてもらうわ」

「ん、いいのか？攻撃しなくて」

「破壊して手札を増やされるよりはずっとマシよ・・・１枚のカードを伏せ、ターンを終了」


レミリアが伏せカードを出し、エンド宣言をしたその瞬間・・・。

次は魔理沙が、ニヤリと笑みを溢した。


「――罠カード、『爆導索』を発動！！」

「・・・ばくどうさく？」


聞きなれない罠カードを見てレミリアは思わずきょとんとする。
が、その表情は、直後に驚愕の表情となるのだった。


「伏せられていたこのカードと同じ縦列にカードが４枚揃っている場合・・・それらのカード全てを破壊するカードさ」

「そんなカードが何に・・・って・・・？」


レミリアは改めてフィールドを見る。
「爆導索」が存在するのは、魔理沙の「ガガガガードナー」、レミリアの「幻想絆・パチュリー」、そして・・・伏せカード１枚の列。
つまり、この場合・・・。


「それら全てを・・・破壊する！！」

「なんですって！？」


「爆導索」が存在していた場所に、スイッチのような物が出現。
それが自動的にＯＮとなると・・・まずは「ガガガガードナー」が爆発。
そして「幻想絆・パチュリー」も爆発して消滅、そのままレミリアが伏せていた「次元幽閉」も爆発し、この列のカードが見事に消え去った。


「く・・・こんな手で状況を一変させるなんて・・・！」

「まだだ！このままお前から借りたカードを使わせてもらうぜ！
速攻魔法、『染まる幻想』！このターン破壊された私のモンスターは『ガガガガードナー』のみ、よってこのままこいつを除外して発動！
攻撃力の合計が１５００以下となるように『幻想絆』モンスターを手札に加える！
私は攻撃力０の『幻想絆・阿求』、『幻想絆・小鈴』、攻撃力６００の『幻想絆・朱鷺子』と攻撃力８００の『幻想絆・霖之助』、合計攻撃力１４００のこれらをデッキから手札に加えるぜ！
そして、カードを１枚ドロー！！」


これによって魔理沙の手札は・・・驚異の５枚。
圧倒的差は一気に覆り、今度は魔理沙が有利な立場となった。


（・・・あの時、魔理沙は「染まる幻想」をこちらから見て左から２番目の位置に伏せた・・・。
でも、その行為だって「手札断札」であの２枚を確保できなければ無意味に終わってたはず・・・来ることがわかっていたっていうの？
・・・そうじゃない！あいつは・・・運に任せただけ！
・・・くそっ！）


心中で悔しがるレミリアだが、既にできることはない。
次は手札５枚の魔理沙のターンだ。


「さあて、私のターンだぜ！」


引いたカードと合わせて６枚の手札。
とはいえ、うかつに攻勢に出るには少々厳しい手札。実はまだ魔理沙が不利な状況であることに変わりはない。
ゆえに、魔理沙は守りに入る。


「魔法カード、『光の護封剣』！」

「！」


いくつもの光の剣が降り注ぎ、「幻想絆・美鈴」、「幻想絆・ルーミア」の動きを封じる。
３ターンの間フィールドに残り、その間相手モンスターは攻撃を行えなくなる魔法カードだ。
現実の環境では既に姿を消したカードだが、元は制限カードにもなったカード。そのカードパワーは決して侮れない。


「姑息な真似を・・・！」

「ブックスって言ってやってもいいぜ？まあ言わないが。
さて、まだまだ行くぜ。私は『幻想絆・小鈴』を召喚するぜ！」


着物の上にエプロンを身に着け、鈴の髪留めを付けた飴色の髪が特徴的な少女、本居小鈴が出現。
攻撃力０ではとても戦闘向きではないが、この状況にはうってつけの能力を持つ。


「このカードは自分の場に他の『幻想絆』モンスターが存在すれば攻撃対象にされない能力を持つが・・・今は関係ない。
だが、１ターンに１度、通常召喚に加えてさらに１体、『幻想絆』モンスターを通常召喚できる能力も持っているのさ。
さあ来い、『幻想絆・阿求』！」


今度は若草色の長着を着て、紫色の髪に花の髪飾りを付けた少女が現れる。
こちらも攻撃力は０。フィールドに現れるやいなや、小鈴と楽しそうに談笑している。
やれやれとため息を付きながらも、魔理沙は次の行動を起こす。


「このカードの召喚に成功したとき、手札の『幻想絆』カード１枚をデッキの１番下に置き、カードを２枚ドローできる。
私はとりあえず『幻想絆・霖之助』を戻すぜ。
悪いなー、こーりん」


そんなことを言いながら容赦なく霖之助をデッキの下に追いやる魔理沙。
そうしてカードを２枚ドロー。手札は４枚、十分潤っている。
それでも攻めに回るには心もとない。魔理沙はさらにカードを１枚・・・今度は魔理沙から見て右から２番目、つまり美鈴が存在する列に伏せる。


「・・・！小鈴とやらもその場所で立っている・・・ということは・・・」

「さて、何のことだろうな？
これでターンを終了・・・ターン終了時、阿求は墓地に送られるぜ」


光の粒子になりつつ消滅していく阿求。
友の名を呼びながら必死に手を振る小鈴の姿はどこか悲しかったが・・・残念ながら魔理沙がそれくらいで感情移入することは無かった。


（・・・ちっ・・・どういうことよ・・・！
ライフは圧倒的にこちらが多い・・・なのに！
・・・どうして形勢が逆転しているのよ・・・！）




後書き

今回は心理戦回でした。
・・・あと２話で終わらせたい、このデュエル。
「爆導索」・・・使ってみたいもんです。あれ、中々面白そうですし。
実際、魔理沙はこのカードを心理戦のキーとしました。結果として有利な局面を持って行けています。
こんな心理戦、また書けるかなぁ・・・。

さて、なんとか５回分書けましたが・・・いつ挫折するかなぁ。その時まで頑張ってみましょうかね。