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HOME > 遊戯王SS一覧 > 12Turn 特別への自覚

12Turn 特別への自覚 作:ジェム貯めナイト

 「覚悟せい――儂は久米吟醸で、マッキアカネに攻撃じゃ! 酔いしれ! 酒仙乱闘……!」


 攻撃宣言を受け、茜色の秋津が墓地に送られると秋蔵は再び鉛筆を手に取り、LPを書き換えていく。


 カズLP3750→3350。


 「だが俺の複翅キが破壊されたことで罠カード《複翅キ救助(ドラゴニック・シーレスキュー)》を発動! 墓地のマッキアカネを守備表示で蘇生し、その攻撃力分俺のLPを回復する!」


 カズLP3350→5450。 マッキアカネ守備力1000。


 「更にマッキアカネの発進前に《複翅キ格納庫(ドラゴニック・ハンガー)》の
効果発動だ! デッキから複翅キ爆装(ドラゴニック・ボムポッド)をマッキアカネに換装する」

 「なんの! 儂の宇迦闘仙達はあと5回攻撃可能じゃ! 空鉢吟醸と小角吟醸でそれぞれ2回ずつ攻撃……!」


 空鉢吟醸により、墓地から場に戻したばかりの茜色の秋津は再度破壊され、小角吟醸と共に3回の攻撃がカズを襲う。


 カズLP5450→4050→2550→1050。


 「だが装備されている複翅キ爆装が墓地に送られたことで、じっちゃんのLPに500のダメージを爆撃するぜ!」


 秋蔵LP6700→6200。


 「その程度じゃ止められんよ! トドメじゃ! 久米吟醸で攻撃……!」

 「通さねぇ! 墓地のメンテーは相手の直接攻撃時、墓地から蘇生する!」


 墓地から場に戻した1匹のヤゴがカズの身代わりとなって破壊され、自身の効果で蘇生したことで除外される。


 「ムム……予定が狂いおったか。儂は場の稲御神酒の効果を発動し、更にLPを500回復じゃ! そして2体の宇迦闘仙を守備表示に変更する」


 秋蔵LP6700→7200。


 「随分と粘りおるが――そのLPでは次のターン儂の攻撃は防げまい。カードを1枚伏せターン終了じゃ」

 「おっと! このターンが終わる時に、《複翅キ格納庫(ドラゴニック・ハンガー)》のもう一つの効果を発動するぜ! このターン破壊されたマッキアカネと異なるレベルを持つシルバトロスを、墓地から復帰させる……!」


 カズが墓地を漁り再び銀色の秋津を自らの場へと舞い戻らせると、秋蔵は余裕綽々といった様子でカズにターンを渡した。


 「うふふ、随分と盛り上がってますね」

 「孝二さんと――諸実さん!」


 孝二と諸実が休憩がてら、2人のデュエルを見物しに来たことに気付いたカズと秋蔵は、同時に顔を上げて蔵の入り口へと振り返る。


 「おうおう。何時から見ていたんじゃ?」

 「カズ君と秋蔵さんが熱中してて、気付かなかっただけですよ」


 2人が見ていると知るやいなや、カズは態度を改めて、姿勢を正し真剣な表情でデッキの上に手を置いた。


 「……思えば昔は、じっちゃんにデュエルを挑んでは負けてばっかだったな――」

 「今もそうじゃろう? 次に儂のターンとなれば、勝敗は決定的になるじゃろうな」

 「……だが今の俺はあの頃とは違って、日々成長し強くなったってことを見せてやるぜ! ドロー!」


 意気揚々とカードを引き、確認したカズはニヤリと笑みを浮かべると、手札と机の上に置かれたカードを再度確認するとともに勝利を確信した。


 「じっちゃん――悪いがこのターンで決めてやるぜ!」

 「ほう、この状況から勝ってみせるとな? じゃがそれは淡い期待に終わるだけじゃ。まずは永続罠《宇迦闘仙技 肘態》を発動じゃ!」


 宇迦闘仙技 肘態 永続罠
 (1):自分フィールドの「宇迦闘仙」モンスターの表示形式が変更された場合に発
 動できる。相手に500ダメージを与える。
 (2):1ターンに1度、自分の「宇迦闘仙」モンスターが戦闘・効果で破壊される
 場合、代わりに自分フィールドの「宇迦闘仙」モンスター1体を選び表示形式を
 変更できる。


  「そして場の稲御神酒の効果で更に500回復じゃ! 3回効果を発動させ たため稲御神酒は墓地に送られるが、宇迦闘仙の表示形式を変更し更に肘態の効果で500のダメージじゃ!」


 秋蔵LP6700→7200。 カズLP1050→550。


 「そして攻撃表示となった2体の宇迦闘仙の効果で1枚ドローし、シルバトロスを破壊する!」

 「まだまだ! ……どんな困難な状況にも一歩も引かず、ひたすら前へと突き進む……! 罠カード《複翅キ要請(ドラゴニック・エアサポート)》を発動するぜ!」


 複翅キ要請(ドラゴニック・エアサポート) 通常罠
 このカード名のカードは1ターンに1度しか発動できない。
 (1):自分の墓地の「複翅キ」モンスター1体を対象に発動できる。
 そのモンスターをデッキに戻し、デッキから戻したモンスターとはカード名が異
 なる「複翅キ」モンスター1体を手札に加える。


 「こいつで墓地のシルバトロスをデッキに戻し、カード名の異なる「複翅キ」を手札に加える。俺が持って来るのは――《三翅キ(ドライゴニック)ウォッカー・バロン》……!」

 『カズ君(ちゃん)の切り札……!』


 デッキを手に取り銀色の秋津を戻すとともに、彼の切り札――赤き秋津を選び出し秋蔵に見せると、カズは軽くデッキをシャッフルして自らの切り札を手札に加えた。


 「更に俺の場にモンスターがいないため、墓地の複翅キ発進を除外して効果発動だ! この効果でデッキからレベル6以下の「複翅キ」を場に発進させる! 戻ってこい! シルバトロス……!」


 再びデッキを手に取り、戻したばかりの銀色の秋津を場に呼び出すと、これ以上デッキには触らないからか、カズは念入りにデッキをシャッフルして元の机の上に置く。


 「そしてシルバトロスを対象に、魔法カード《複翅キ分隊(ドラゴニック・ロッテ)》を発動! 墓地から水生昆虫1体をシルバトロスとして蘇生する。俺が蘇生させるのはアレトゥーサだ!」

 「手札の切り札にアレトゥーサ――かっちゃんの狙いが読めてきたわ」

 「でも止められるかは別問題だぜ? バトルだ! 俺はシルバトロスで空鉢吟醸を攻撃! ここでシルバトロスの効果発動! 手札のステュクスを捕食し、守備モンスターはいねぇが効果を得るぜ」


 手札のヤゴを墓地に置いたことで、墓地のサルマキスを手札に戻しつつ相手の守備モンスターを蹴散らすシルバトロスの効果の発動に、秋蔵は動じることなくカズの戦略への“対策”となる効果の発動を見極めている。


 「……シルバトロスの攻撃は通そう」


 秋蔵LP7200→6400。


 「水生昆虫が破壊されたことで、フィールド魔法《黄金ノ秋津ドウ洲》の効果で1枚ドロー。続けてアレトゥーサで小角吟醸を攻撃! この時複翅キ分隊で得たアレトゥーサの効果によって、手札の水生昆虫1体を捕食しカードを1枚ドロー」

 「儂の宇迦闘仙を戦闘で倒し、アレトゥーサの効果で切り札をアドバンス召喚する算段じゃろうが――儂はこの時、発動されている肘態の効果で破壊の代わりに久米吟醸を守備表示に変更する……!」


 カズは場の仙人を指差し攻撃を宣言するも、秋蔵は発動されている永続罠を指し示して自らの切り札を横向きに変えると、残念じゃったな。とカズを挑発する。


 「そして表示形式の変更により、肘態の効果で500のダメージじゃ! かっちゃんの狙いなんぞ、お見通しという訳じゃな」


 秋蔵LP6400→6100。 カズLP550→50。


 「……それはどうかな?」

 「なぬ……!?」

 「俺の本命はこっちさ! 手札から捕食したのは――2枚目の《複翅水蝎(ドラゴニュンヘ)クレウーサ》だ! こいつの効果で手札から“俺の切り札”を呼び出すぜ!」


 引き当てていた2枚目のクレウーサをカズは見せつけ、墓地に置くと手札から自らの切り札である“赤き機体の秋津”を力強く机に置いた。


 「名彩塗られし赤き胴体に、酒舗ごと飲み干す赤ら顔の機首。あれは男爵か、それとも猩々か? 否! 空の王者たる赤き秋津だ! 交わり現れろ! 《三翅キ(ドライゴニック)ウォッカー・バロン》……!」


 ウォッカー・バロン攻撃力2600。


 「出たよ! カズちゃんの切り札が!」

 「これはもしかして、秋蔵さんに勝てるんじゃ……!?」


 現れた赤き秋津に3人とも驚きを隠せず、それぞれ感嘆の声を上げた。


 「やりおるではないか。じゃがその効果も守備モンスター相手では十分に発揮できまい」


 「なら試してみるか? 再び複翅キ格納庫の効果発動だ! デッキから複翅キに装備可能な装備魔法をウォッカー・バロンに装備する! 《複翅キ銃装(ドラゴニック・ガンポッド)》をウォッカー・バロンに装備させ、発進だ!」


 場に現れたウォッカー・バロンに重ねるように、外付けの機関砲が描かれたカードを装備させたカズは、早速攻撃体制への移行を宣言した。


 複翅キ銃装(ドラゴニック・ガンポッド) 装備魔法
 自分フィールドの「複翅キ」モンスターにのみ装備可能。
 (1):装備モンスターが相手モンスターに攻撃するダメージステップ開始時に、こ
 のカードを墓地に送って発動できる。このターンこのカードを装備していたモン
 スターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だ
 け相手に戦闘ダメージを与える。
 (2):モンスターに装備されたこのカードが墓地に送られた場合に発動する。
 このターンこのカードを装備していたモンスターがモンスターを攻撃した場合、
 もう1度だけ続けて攻撃できる。


 「行け! ウォッカー・バロンで再び小角吟醸を攻撃! この時ウォッカー・バロンの効果によって手札の水生昆虫2体を破壊して、戦闘する相手モンスターの攻撃力分、自らの攻撃力をアップさせる!」

 「手札の水生昆虫――ドロセアとサルマキスが墓地に送られ、直接攻撃に等しいダメージを与えられる攻撃力を得る……」

 「それだけじゃないぜ! 破壊されたサルマキスの効果でウォッカー・バロンの攻撃力を1000アップさせる!」


 ウォッカー・バロン攻撃力2600→3600。


 「じゃがこのターン中に儂は倒せまい――」

 「装備した銃装を墓地に送ることで、その銃口は火を吹くぜ! この効果によりウォッカー・バロンの攻撃は貫通する! インメルマン・ターン……! そして攻撃! ロートバッフェ・バラージュ……!」


 複翅キ銃装の効果に目を通した秋蔵は、しまった! とばかりに口をあんぐりと開けると、上昇した赤い秋津の攻撃力から小角吟醸との攻撃力差を引いた数値分、自らのLPを書き換える。


 ウォッカー・バロン攻撃力3600→5100  秋蔵LP6100→2500。


 「そして複翅キ銃装を解除したウォッカー・バロンがモンスターを攻撃した場合、続けて追撃できる! そのまま久米吟醸へと攻撃だ……!」

 「ウォッカー・バロンが得た効果は攻撃するたびに発動できる。この戦闘で秋蔵さんに与えるダメージも3600――」

 「しかもこの戦闘での攻撃も貫通する。いやはや――かっちゃんがここまでやるとはの……」


 再びウォッカー・バロンでの攻撃宣言により、自らのLPを0に書き終えた秋蔵はそう呟くと、張り詰めた緊張を解くかのように、ふう――と一息付いた。


 秋蔵LP2500→0。


 「カズ君が――秋蔵さんに勝ったぞ……!」


 息が詰まるような目の離せないデュエル展開に、孝二と諸実も同時に胸を撫で下ろす。


 「いやぁ……見事じゃったのかっちゃん!」

 「じっちゃんこそ! 相変わらず複雑なデッキを使いこなしてて、ボケとは無縁そうで安心したぜ」

 「失敬な! 儂ゃあ酒造りもデュエルも、まだまだ現役じゃわい……!」


 軽口も混ぜつつ握手を組み交わして互いに健闘を称え合い、年齢の差を超えた友情を見せる2人を見て、孝二と諸実もほのぼのとした気持ちで2人を眺める。


 「2人とも楽しそうだったわね。そうだ! 少し休憩で、甘めのお茶とお菓子でもいかがかしら?」

 「おお! 諸実さんありがとう……!」

 「いや……だから当分甘いもんは勘弁だって――」

 「どうしたんじゃかっちゃん? ……ああ、そうじゃったな――」


 一人納得したように秋蔵はポンと手を打つと、自分は少量の砂糖を入れた緑茶をリクエストして、諸実ははいはい。とすぐさまお茶菓子を取りにその場を後にする。


 「カズ君はこの後も配達の手伝いかい? まだ荷物が残っていたけど……」

 「いや、あれは“頼まれた配達物”じゃないぜ?」

 『えっ……!?』


 再び靴に履き替えたカズは、売店に預けていたリュックを持って再び休憩スペースへと戻り、畳の上で背負ってたリュックを広げて中身を見せる。


 「これは手間賃代わりに、うちで採れた米を分けて貰ったんだ」

 「それは……どうして……?」

 「遊陽の家がさ、最近身寄りのない女の子を預かってて……住むとこや一時的に学校へと通わせたり、留音も昔の服を持って行ったりしてて――ちょっとでも食費の足しにならないかってさ……」


 この事はあいつらには内緒だぜ? と念押しするカズに対して、秋蔵と孝二は互いに顔を見合わせると納得したかのように頷いて、カズの身体を両側から掴むとワシワシと頭を撫で続けた。


 「かっちゃんはいつも自発的に――困った誰かを助けられるのう……!」

 「じっちゃん達……!? 大げさだっての!」

 「あらあら、一体どうしたのかしら……?」


 入れたてのお茶とお菓子をお盆に乗せて諸実が戻ってくると、秋蔵と孝二は上機嫌で先程のやり取りを彼女にも伝える。


 「あらまぁ! そういうことなら他にもお菓子は沢山あるから、よかったら那由他さんちにお裾分けして貰えないかしら……?」


 集まった3人にまるで我が子のように褒められて、カズは照れくさそうに表情を綻ばせる。

 やがて孝二と諸実が表の売店へと戻り、しばしの間カズと秋蔵は休憩スペースでゆったりとくつろぐ。


 「……ところでかっちゃんは、留音ちゃんとは少しは進展したんかの?」


 出された渋めのお茶をすするカズは、机に肘をつきひそひそと小声で話しかける秋蔵の一言に、思わず吹き出しそうになるのを堪えつつ返答する。


 「……!? もうじっちゃん! ちょっとあいつと仲いいからって――俺とあいつはそんなんじゃねーよ!」

 「何が“ちょっと”じゃ……相変わらずあの子と2人で出かけとる癖に――」


 秋蔵は普段は繁忙期にしか見せないような神妙な表情で、カズへと再び語り掛ける。


 「かっちゃんは、留音ちゃんとは嫌々付き合っとるのか?」

 「そんなわけあるかよ! じっちゃん意地悪だぞ……」

 「そうじゃろな。この前の休日みたいに、好きじゃない相手と2人っきりで町に繰り出しはせんじゃろ?」

 「この前って――じ……じっちゃん。何で知ってんだよ――」


 秋蔵が指摘した先日の出来事を、見られていたと知るとカズは途端に気恥ずかしさを感じるとともに、留音と過ごした先日の休日を振り返る。




 その日カズは駅前の繁華街に、留音と2人で出かけていた。


 「いらっしゃいませー」


 落ち着いた色合いでまとめられた店内の雰囲気を纏ったかのような、2人より少し年上の穏やかな口ぶりをしたウェイトレスが、窓際の席に座ったカズと留音の元にやって来た。


 「俺はフルーツパフェだな」

 「私は――うーんと今日は、チョコレートサンデーをお願いします」

 「かしこまりましたー。いつもご贔屓にしてくださり、ありがとうございますー」


 ウェイトレスは日頃の感謝を2人に伝えつつ、厨房へと向かって行く。

 やがて会話に花を咲かせている2人の元にパフェとサンデーを置いたウェイトレスは、ごゆっくりとその場を後にした。


 「……なあ、今日はどこに行きたいんだ?」

 「私見たい映画があるの! ラブロマンスなんだけど、一緒に見てくれる?」

 「構わねぇぜ。なんか最近話題になっている奴だろ?」

 「あと――新フレーバーのマカダミアナッツのキャラメルポップコーンも食べてみたかったのよねぇー! 一斗もいつもの塩じゃなく、同じのにしない?」

 「まあ……たまには別のも悪くねぇな。そんじゃ食べ終わったら行こうぜ」

 「ええ! ……あっ、一斗はいつもフルーツパフェだし、たまには私のも少し食べてみる?」

 「いいのか!? じゃあ遠慮なく――」


 そして2人はお互いにパフェとサンデーを分け合って味わいつつ、会計を済ませて商業街の中に構えた映画館に入ると映画のチケットを購入し、ドリンクとポップコーンを手に場内へと入場した。


 「どれどれ……留音、このポップコーン甘すぎじゃね?」

 「映画に見入っていれば薄くなるわ。……ほら、始まるわよ?」


 やがて上映された映画では、一枚のカードから運命的な出会いを果たした男女が交流を深めるごとに愛が芽生え、デュエルを通して主人公がヒロインに告白しようとするシーンへと移る。


 「……――」


 留音は映画のシーンに顔を赤らめつつ、隣で同じく映画に見入っているカズをチラッと見ると、唇を引き締めおそるおそるカズの手の上に自らの手をギュッと重ねる。


 「やっぱさ、鑑賞しながらだと甘すぎだろ。うっ、胸焼けしそう――」

 「そ――そう? 飲み物はブラックコーヒーにするべきだったわね」


 そして映画は2人が愛を確かめ合うキスによって幕を閉め、エンドロールが流れ終わるとともに、カズと留音は席を立ち休日を満喫するべく、映画館を後にする。


 「2人とも――若いって素敵じゃの……」


 2人が座っていた少し後ろの席では、秋蔵が映画の内容と仲睦まじいカズと留音の姿に涙を見せつつ、映画の余韻を味わっていた。





 「じっちゃん――近くで見てたのかよ……!?」

 「偶然にもかっちゃん達の後ろでの。諸実さんからおススメと聞いて見に行ったのじゃが――しかしまあ、儂の睨んだとこじゃ、留音ちゃんはかっちゃんにほの字じゃぞ?」

 「いや……あれだけで俺を好きって……」

 「よく思い出してみぃ? あの娘がかっちゃんと他の男に取る態度、大分違うようには思えないかの?」


 秋蔵に促されて、カズは今まで留音と交わした会話や、彼女の振る舞いを思い出す。

 肩まで掛かる青味が掛かった薄緑の髪をなびかせて、紺青色の瞳で自らを見つめる留音の姿を思い出しただけで、カズは急に心音が上って来た事を自覚する。


 ――“一斗”――。


 留音が唇を動かし、自らの名を呼ぶ姿を思い浮かべて、カズは自分が留音を意識していることを自覚すると、観念したかのように思いのたけを口にする。


 「……確かに、俺は無意識のうちにあいつを――留音を“特別”扱いしてたみた
いだ――」

 「ほれ、答えは出たようじゃの? いいかかっちゃん――いや、一斗。留音ちゃんのような気配りの利く優しくて美人な娘なんぞ、今時滅多にいないもんじゃぞ?」


 いつも彼女が自分だけに見せる――あの笑顔が特別なものだと諭されて、カズは段々と上気した顔を隠すかのように俯く。


 「俺も……あいつは――留音は俺にとって“特別な存在”だし、これからもあい
つと一緒にいたい……」


 「その意気じゃ! 誠意を持って伝えれば、あの娘はきっと受け入れてくれるじゃろう」


 秋蔵は満足げな笑みを浮かべると、拳を握りしめ俯いたカズに対して、話は終わりじゃ。と家族同然に可愛がる彼の恋路を応援するかのように、カズの肩を勇気づけるかのようにポンポンと叩くのであった。





 「……それじゃ、俺は行くぜ。色々とありがとうな」


 来る前より膨れ上がったリュックを背負い、再び自転車へと跨ったカズは、見送りに出てきた3人に礼を言うと、遊陽の家へと続く下り坂を下っていく。


 「……おっ、珍しいな――」


 ふいにカズの目の前を、2匹のつがいのトンボが横切った。

 ピッタリ寄り添って飛行するトンボを見て、カズは先程の会話と留音の事を頭に思い浮かべ、頬を赤く染めるも運転に意識を向けて、遊陽の家へと向かうのであった。





 「遊陽と――」

 「遊無の――」

 『二人はビナリウス!』


遊無「宇迦闘仙は目まぐるしく攻守変更を繰り返しましたが、カズさん無事に勝ちましたね!」

遊陽「アレトゥーサで出すと思いきや、実は入手していた2枚目のクレウーサで切り札へと繋ぎ、仙人達に銃弾の雨を降らせて薙ぎ払ったな」

遊無「カズさんは前回も当分甘いものはいらないとおっしゃっていましたが、留音さんと食べたお菓子――余程甘かったのでしょうね」

遊陽「俺達は遠慮しておくぜ。休日のデートを思い出し、ようやくカズも留音に対する意識が変わり始めてきたか――」

遊無「カズさん優しいですし、留音さんもそんなカズさんの事を信頼しているにいありません! そして来週お届けするのはカズさんが配達に向かっていた時と同時刻、留音さんは出産を控えた先輩の海女さんの家へと訪問し、2人でデュエルを開始します」


 『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -波間に揺らめく波止場- お楽しみに!』
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