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遊戯王Binarius(ビナリウス)/幕間 亡国の斜狐 作:ジェム貯めナイト
「……っ――」
後頭部に当たる柔らかい感触に、横たわっていた遊無は薄っすらと目を開ける。
日が差し込む肘掛け窓の反対側に、スターチスの花を供えられた仏壇がある畳敷きの和室で目覚めた遊無は、布団から起き上がる。
「ここは……?」
あの時の炎で焦げた着物の代わりに着替えさせられた――少しサイズが大きい女性もののピンクの寝間着姿のまま、辺りを見回しつつ遊無はリビングに繋がる障子を開けた。
「あら? もう起きたの……?」
障子を開けると、一家が団らんするソファーとテレビが置かれたリビングの奥から、かつおだしの匂いが漂ってきた。
キッチンにいた赤い髪の女性は目覚めた遊無に気付くと、慌てて駆け寄り彼女の身体に手を回して、再び布団の敷かれた和室へと連れ戻す。
「まだ安静にしなきゃ駄目よ? 随分身体が弱ってるみたいだから……」
「あの……ここは?」
「ここはあんたを助けた“うちの息子”の家。私はその母親さ」
遊無を寝かし付けながら、遊陽の母を名乗る女性は慌ただしくキッチンへと戻ると、卵を掛けたおかゆが入った皿を持って、再び遊無の前に座った。
「あんたは昨日の夜、遊陽に抱えられたまま家に運び込まれて、今まで眠っていたわけ――」
「昨日――」
「今は一晩経った次の日の昼さ。ほらっ、これを食べて元気だしな」
遊陽の母がおかゆを掬い、スプーンで口に運ぼうとする。
目の前に差し出されたおかゆを見て、遊無は思わず喉を鳴らして唾をのんだ。
「……美味しそう」
「寝ている間にお医者様が来てね、診察してもらったけど――栄養失調気味なこと以外特に異常はなかったみたいよ? だから……ね?」
鼻をくすぐる炊き立ての白米の湯気に、遊無は自分がひどくお腹を空かせていることを自覚して促されるまま口を開けると、鶏卵と鰹の風味で色付いた胚乳の粒が舌に乗せられた。
「――っ……!?」
「お口に合わなかった……?」
口の中におかゆの風味が広がると、遊無の瞳から睫毛を伝って大粒の涙がポロポロと溢れ出したことに、遊陽の母は味付けを間違えたかしら。と手元の皿に視線を落とすが、遊無はそうじゃない。と言わんばかりに首を横に振った。
「違――違うんです。私……こんなにも美味しい物は初めて口にして――」
鼻の先まで顔を真っ赤にして、涙を隠すように両手で顔を覆う遊無を見ると、遊陽の母はおかゆの乗った皿を置いて、遊無の身体を引き寄せて彼女を安心させようと優しく抱きしめた。
「……事情は分からないけど、ずっと辛い思いをしていたんだね、もう大丈夫――ここには“賑やか”な息子もいるから、心配することは何もないからね……」
遊陽の母に優しく頭を撫でられながら、遊無はしばらくの間、彼女の胸の中で声を上げて泣いた。
やがて寝汗を暖かい濡れタオルで清めさせて再び遊無を布団に寝かせると、空になった皿を持って遊陽の母は仏間からキッチンへと戻ろうとする。
「それじゃ――私はリビングにいるから、困ったらすぐに呼んでね?」
「はい。ありがとうございます」
遊陽の母が障子を閉めると、遊無は横になったまま再び目を閉じる。
視界から入る情報を消し去ると、仏間には先程までは疲労で意識していなかった仄かな線香の残り香が漂っており、心地良い香りと柔らかい布団に包まれて次第に意識も遠のいていく――かに思えたのだが、突然その静寂は破られた。
――この――“あの時”に比べて……今ならば――。
「――えっ……?」
突然意識の薄れかけた遊無の耳にハッキリと、高圧的な女性の声が聞こえてきた。
意識が再び覚醒すると、遊無は目を開けて声のする方へと身を起こして振り向く。
――き……貴様……!? 狸寝入りで油断を誘ったか……!?
不意に起きた遊無を見て、ギョッ。と慌てた様子で遊無の耳元に聞こえてきた声の主――胸元が派手に開いた着物を身に纏い、背中には9本もの尻尾を生やした美女はたじろいで後ずさりする。
「貴女は……!? その姿はまさか――“精霊”……!?」
遊無は布団から起き上がり、頭から三角に尖った獣の耳と、顔の左半分に狐の面を掛けた美女に擦り寄ろうとする。
――しょ……所詮は“力”の消耗したただの小娘! 貴様如きに斜狐(しゃっこ
)たるわらわが遅れなど取るものか……!
唸り声を上げながら狐の面の美女が遊無から距離を取り、腕を振り上げると、鉄すら腐食させかねない猛毒が宙に浮いて狐の顔を形どり、遊無めがけて襲い掛かった。
――あぶないっ……!
間一髪で、仏壇に立てられた1枚のカードの中からヨリマシが現れると、眩い光とともに猛毒の狐は霧散して消えていく。
「ヨリマシ君……!?」
――きのうのきょうだからって、マスターからゆーむちゃんのそばでみまもってるよういわれたんだ!
全身から白い気を立ち昇られたヨリマシが、手のひらを上に向けその上に猛毒を生成させた狐の面の美女と、敷かれた布団を挟んで対峙する。
――貴様……!? 小童にしては妙な力を持ちおって――何者じゃ!?
――“いま”のおいらなら、こわそうなおねえさんともたたかえるんだ! ねぇ
、らんぼうなことはやめようよ!
自らを宿すカードが立てかけられている仏壇を横目で見ると、自信満々といった様子で威勢を張るヨリマシに、狐の面の美女は一旦距離を取ろうと更に離れていく。
――フン! かつて権力者を誑かし、魔力を秘めた娘を集めさせてはその命を食らってきたわらわが、小童如きになど――。
――おいらのいうことがきけないなら……やどって! 憑神命(ツキガミノミコト)……!
ヨリマシの身体から立ち昇る気力が薄っすらとした竜の姿となり、眩い光を放って狐の面の美女が手のひらの上に生み出した猛毒を、一瞬で浄化する。
「す……凄いです」
力を失い、へなへなとその場に座り込んだ狐の面の美女へと歩み寄るヨリマシを見て、遊無は感嘆の声をあげる。
――どう? ここもじんじゃなみに、ちからがみなぎってくるんだ!
――くぅっ……この小童、もしや“ただの精霊”ではないのか……!?
切れ長の目をより細めて、ヨリマシをジッと睨みつける狐の面の美女を、遊無も食い入るように見つめつつ、彼女に疑問を投げかけた。
「どうして私を襲ったのですか? もしかして貴女は、私の事を知っているのでしょうか……?」
――知ってる。じゃと? 貴様――まさか“あの時”の事を忘れておるのか?
「私には、いつからか神社に囚われ、ただ彷徨っていた以外の記憶がありません。覚えているのは自分の名前だけ――」
――なまえだけ? ゆーむちゃん、その名前ってどこでしったの?
不意にヨリマシが投げかけた疑問に、遊無は一瞬言葉に詰まる。
「それは……“何となく”自分が遊無だと思って――」
――貴様、かつてわらわと相対した時にも名乗ってなかったな。一体何者なのじゃ……?
「それは――いえ、私を知っている貴女こそ、名はなんと申しますか……?」
なぜ自分が“遊無”であると認識しているのか。疑問を抱きつつも、遊無は狐の
面の美女に名前を問いただした。
――こやつ、わらわの名乗りまで忘れておるのか……では再び名乗ろう。わらわは力ある者を取り込み、都をも滅ぼす斜狐の“幽鬼”――玉藻前(たまものまえ)じゃ――。
狐の面の美女――“玉藻前”はそう名乗ると、遊無はその名を聞いて神社での戦
いを思い出す。
「幽鬼……貴女は先日の大火を引き起こした“あの者”の手先ということでしょ
うか?」
――“昨日まで”はそうじゃったな。あの方――“スチュパリデス”様は、貴様
らが打ち取るまでは、わらわ達幽鬼が使えし主じゃった――。
――つまり、あいつ――スチュパリデス? がきえたってことは、いまはちがうんだね?
ヨリマシの問いかけに、玉藻前は不機嫌そうにふいとそっぽを向く。
その仕草を見て、遊無は意を決心すると玉藻前へと歩み寄った。
「……折角掴んだ手がかりです。玉藻前さん、良ければ私に協力してくれませんか?」
――協力……ハッ! 何故わらわが貴様なんぞに――。
「カードの精霊である貴方は、この世界で重要な役割を果たす“デュエル”にお
いて、大変役に立ちます。ですから――」
――なら貴様はその見返りに、わらわに何をもたらすか。わらわを絶世の美女だと褒め称え、手元に置こうとした欲に塗れた者はみな――わらわが望むあらゆるものを差し出した。たとえそれが他者の命であろうとな。貴様にもそれ相応の対価を払ってもらおうかのぅ?
玉藻前の問いに、“自らの身体”を引き換えにしても。と遊無は答える。
「私は――真実を知った後の“私の命”を差し出します! 私は――私の“記憶
を辿りたい”のです。それまでは私に協力してください! その後は煮るなり焼くなり、貴女の望むままに――」
9本の尻尾を左右に振りながら、玉藻前は顔を俯かせて考えこむと、やがて遊無に背を向け、小さな声で返事を発した。
――わらわは常に、貴様の首を狙っていると侮るなかれ――。
言い終えると同時に、玉藻前は濃紫の煙に包まれる。
やがて煙が晴れると、玉藻前のいた場所には“精霊の宿った”カードの束――デ
ュエルモンスターズのデッキが置かれていた。
「これが“貴方達”ですか。ありがとうございます。大切に扱わせていただきます
」
置かれたデッキを手に取った遊無はデッキの上のカードをめくる。
寸分違わぬ姿をした《妖幽鬼 玉藻前》を見て彼女は決意した。
「私があの神社に“囚われていた”意味――私は必ず、自らの記憶を思い出して
みせます!」
「遊陽と――」
「遊無の――」
『二人はビナリウス!』
遊陽「今回は俺が学園に通っている間の遊無の話だったな」
遊無「遊陽さんのお母さまには大変お世話になりました。そして私を守ってくれたヨリマシ君にも……」
遊陽「お前を襲った玉藻前は、ヨリマシが“ただの精霊”じゃないって言ってたな
。まああいつは“賑やか”な祭りの“氏神”をその身に宿せるからな」
遊無「何度も憑依を繰り返すうちに、その神性を宿していった。……ということでしょうか?」
遊陽「勿論その加護もあるが――あと一つ、これも“ある人物”から授けられたん
だが――それはこの物語の終盤までは判明しないな」
遊無「一体誰からの加護でしょうか? そして説得の結果、「幽鬼」達は私の所持デッキとなりましたね」
遊陽「作者からも、清楚で礼儀正しい遊無と、婀娜やかで毒々しい玉藻前の凸凹コンビに注目してください。……とのことだぜ」
遊無「遊陽さんとヨリマシ君みたいに、これから仲良くなれるようにしたいものですね。……では次回について、その日の放課後。私の待つ家へと友人2人を連れて帰宅した遊陽さん――」
遊陽「デッキを手にした遊無に、俺は実際のデュエルで教えようと、親友――カズにデュエルを挑む!」
『次回! 遊戯王Binarius(ビナリウス) -幽“零”少女- お楽しみに!』
後頭部に当たる柔らかい感触に、横たわっていた遊無は薄っすらと目を開ける。
日が差し込む肘掛け窓の反対側に、スターチスの花を供えられた仏壇がある畳敷きの和室で目覚めた遊無は、布団から起き上がる。
「ここは……?」
あの時の炎で焦げた着物の代わりに着替えさせられた――少しサイズが大きい女性もののピンクの寝間着姿のまま、辺りを見回しつつ遊無はリビングに繋がる障子を開けた。
「あら? もう起きたの……?」
障子を開けると、一家が団らんするソファーとテレビが置かれたリビングの奥から、かつおだしの匂いが漂ってきた。
キッチンにいた赤い髪の女性は目覚めた遊無に気付くと、慌てて駆け寄り彼女の身体に手を回して、再び布団の敷かれた和室へと連れ戻す。
「まだ安静にしなきゃ駄目よ? 随分身体が弱ってるみたいだから……」
「あの……ここは?」
「ここはあんたを助けた“うちの息子”の家。私はその母親さ」
遊無を寝かし付けながら、遊陽の母を名乗る女性は慌ただしくキッチンへと戻ると、卵を掛けたおかゆが入った皿を持って、再び遊無の前に座った。
「あんたは昨日の夜、遊陽に抱えられたまま家に運び込まれて、今まで眠っていたわけ――」
「昨日――」
「今は一晩経った次の日の昼さ。ほらっ、これを食べて元気だしな」
遊陽の母がおかゆを掬い、スプーンで口に運ぼうとする。
目の前に差し出されたおかゆを見て、遊無は思わず喉を鳴らして唾をのんだ。
「……美味しそう」
「寝ている間にお医者様が来てね、診察してもらったけど――栄養失調気味なこと以外特に異常はなかったみたいよ? だから……ね?」
鼻をくすぐる炊き立ての白米の湯気に、遊無は自分がひどくお腹を空かせていることを自覚して促されるまま口を開けると、鶏卵と鰹の風味で色付いた胚乳の粒が舌に乗せられた。
「――っ……!?」
「お口に合わなかった……?」
口の中におかゆの風味が広がると、遊無の瞳から睫毛を伝って大粒の涙がポロポロと溢れ出したことに、遊陽の母は味付けを間違えたかしら。と手元の皿に視線を落とすが、遊無はそうじゃない。と言わんばかりに首を横に振った。
「違――違うんです。私……こんなにも美味しい物は初めて口にして――」
鼻の先まで顔を真っ赤にして、涙を隠すように両手で顔を覆う遊無を見ると、遊陽の母はおかゆの乗った皿を置いて、遊無の身体を引き寄せて彼女を安心させようと優しく抱きしめた。
「……事情は分からないけど、ずっと辛い思いをしていたんだね、もう大丈夫――ここには“賑やか”な息子もいるから、心配することは何もないからね……」
遊陽の母に優しく頭を撫でられながら、遊無はしばらくの間、彼女の胸の中で声を上げて泣いた。
やがて寝汗を暖かい濡れタオルで清めさせて再び遊無を布団に寝かせると、空になった皿を持って遊陽の母は仏間からキッチンへと戻ろうとする。
「それじゃ――私はリビングにいるから、困ったらすぐに呼んでね?」
「はい。ありがとうございます」
遊陽の母が障子を閉めると、遊無は横になったまま再び目を閉じる。
視界から入る情報を消し去ると、仏間には先程までは疲労で意識していなかった仄かな線香の残り香が漂っており、心地良い香りと柔らかい布団に包まれて次第に意識も遠のいていく――かに思えたのだが、突然その静寂は破られた。
――この――“あの時”に比べて……今ならば――。
「――えっ……?」
突然意識の薄れかけた遊無の耳にハッキリと、高圧的な女性の声が聞こえてきた。
意識が再び覚醒すると、遊無は目を開けて声のする方へと身を起こして振り向く。
――き……貴様……!? 狸寝入りで油断を誘ったか……!?
不意に起きた遊無を見て、ギョッ。と慌てた様子で遊無の耳元に聞こえてきた声の主――胸元が派手に開いた着物を身に纏い、背中には9本もの尻尾を生やした美女はたじろいで後ずさりする。
「貴女は……!? その姿はまさか――“精霊”……!?」
遊無は布団から起き上がり、頭から三角に尖った獣の耳と、顔の左半分に狐の面を掛けた美女に擦り寄ろうとする。
――しょ……所詮は“力”の消耗したただの小娘! 貴様如きに斜狐(しゃっこ
)たるわらわが遅れなど取るものか……!
唸り声を上げながら狐の面の美女が遊無から距離を取り、腕を振り上げると、鉄すら腐食させかねない猛毒が宙に浮いて狐の顔を形どり、遊無めがけて襲い掛かった。
――あぶないっ……!
間一髪で、仏壇に立てられた1枚のカードの中からヨリマシが現れると、眩い光とともに猛毒の狐は霧散して消えていく。
「ヨリマシ君……!?」
――きのうのきょうだからって、マスターからゆーむちゃんのそばでみまもってるよういわれたんだ!
全身から白い気を立ち昇られたヨリマシが、手のひらを上に向けその上に猛毒を生成させた狐の面の美女と、敷かれた布団を挟んで対峙する。
――貴様……!? 小童にしては妙な力を持ちおって――何者じゃ!?
――“いま”のおいらなら、こわそうなおねえさんともたたかえるんだ! ねぇ
、らんぼうなことはやめようよ!
自らを宿すカードが立てかけられている仏壇を横目で見ると、自信満々といった様子で威勢を張るヨリマシに、狐の面の美女は一旦距離を取ろうと更に離れていく。
――フン! かつて権力者を誑かし、魔力を秘めた娘を集めさせてはその命を食らってきたわらわが、小童如きになど――。
――おいらのいうことがきけないなら……やどって! 憑神命(ツキガミノミコト)……!
ヨリマシの身体から立ち昇る気力が薄っすらとした竜の姿となり、眩い光を放って狐の面の美女が手のひらの上に生み出した猛毒を、一瞬で浄化する。
「す……凄いです」
力を失い、へなへなとその場に座り込んだ狐の面の美女へと歩み寄るヨリマシを見て、遊無は感嘆の声をあげる。
――どう? ここもじんじゃなみに、ちからがみなぎってくるんだ!
――くぅっ……この小童、もしや“ただの精霊”ではないのか……!?
切れ長の目をより細めて、ヨリマシをジッと睨みつける狐の面の美女を、遊無も食い入るように見つめつつ、彼女に疑問を投げかけた。
「どうして私を襲ったのですか? もしかして貴女は、私の事を知っているのでしょうか……?」
――知ってる。じゃと? 貴様――まさか“あの時”の事を忘れておるのか?
「私には、いつからか神社に囚われ、ただ彷徨っていた以外の記憶がありません。覚えているのは自分の名前だけ――」
――なまえだけ? ゆーむちゃん、その名前ってどこでしったの?
不意にヨリマシが投げかけた疑問に、遊無は一瞬言葉に詰まる。
「それは……“何となく”自分が遊無だと思って――」
――貴様、かつてわらわと相対した時にも名乗ってなかったな。一体何者なのじゃ……?
「それは――いえ、私を知っている貴女こそ、名はなんと申しますか……?」
なぜ自分が“遊無”であると認識しているのか。疑問を抱きつつも、遊無は狐の
面の美女に名前を問いただした。
――こやつ、わらわの名乗りまで忘れておるのか……では再び名乗ろう。わらわは力ある者を取り込み、都をも滅ぼす斜狐の“幽鬼”――玉藻前(たまものまえ)じゃ――。
狐の面の美女――“玉藻前”はそう名乗ると、遊無はその名を聞いて神社での戦
いを思い出す。
「幽鬼……貴女は先日の大火を引き起こした“あの者”の手先ということでしょ
うか?」
――“昨日まで”はそうじゃったな。あの方――“スチュパリデス”様は、貴様
らが打ち取るまでは、わらわ達幽鬼が使えし主じゃった――。
――つまり、あいつ――スチュパリデス? がきえたってことは、いまはちがうんだね?
ヨリマシの問いかけに、玉藻前は不機嫌そうにふいとそっぽを向く。
その仕草を見て、遊無は意を決心すると玉藻前へと歩み寄った。
「……折角掴んだ手がかりです。玉藻前さん、良ければ私に協力してくれませんか?」
――協力……ハッ! 何故わらわが貴様なんぞに――。
「カードの精霊である貴方は、この世界で重要な役割を果たす“デュエル”にお
いて、大変役に立ちます。ですから――」
――なら貴様はその見返りに、わらわに何をもたらすか。わらわを絶世の美女だと褒め称え、手元に置こうとした欲に塗れた者はみな――わらわが望むあらゆるものを差し出した。たとえそれが他者の命であろうとな。貴様にもそれ相応の対価を払ってもらおうかのぅ?
玉藻前の問いに、“自らの身体”を引き換えにしても。と遊無は答える。
「私は――真実を知った後の“私の命”を差し出します! 私は――私の“記憶
を辿りたい”のです。それまでは私に協力してください! その後は煮るなり焼くなり、貴女の望むままに――」
9本の尻尾を左右に振りながら、玉藻前は顔を俯かせて考えこむと、やがて遊無に背を向け、小さな声で返事を発した。
――わらわは常に、貴様の首を狙っていると侮るなかれ――。
言い終えると同時に、玉藻前は濃紫の煙に包まれる。
やがて煙が晴れると、玉藻前のいた場所には“精霊の宿った”カードの束――デ
ュエルモンスターズのデッキが置かれていた。
「これが“貴方達”ですか。ありがとうございます。大切に扱わせていただきます
」
置かれたデッキを手に取った遊無はデッキの上のカードをめくる。
寸分違わぬ姿をした《妖幽鬼 玉藻前》を見て彼女は決意した。
「私があの神社に“囚われていた”意味――私は必ず、自らの記憶を思い出して
みせます!」
「遊陽と――」
「遊無の――」
『二人はビナリウス!』
遊陽「今回は俺が学園に通っている間の遊無の話だったな」
遊無「遊陽さんのお母さまには大変お世話になりました。そして私を守ってくれたヨリマシ君にも……」
遊陽「お前を襲った玉藻前は、ヨリマシが“ただの精霊”じゃないって言ってたな
。まああいつは“賑やか”な祭りの“氏神”をその身に宿せるからな」
遊無「何度も憑依を繰り返すうちに、その神性を宿していった。……ということでしょうか?」
遊陽「勿論その加護もあるが――あと一つ、これも“ある人物”から授けられたん
だが――それはこの物語の終盤までは判明しないな」
遊無「一体誰からの加護でしょうか? そして説得の結果、「幽鬼」達は私の所持デッキとなりましたね」
遊陽「作者からも、清楚で礼儀正しい遊無と、婀娜やかで毒々しい玉藻前の凸凹コンビに注目してください。……とのことだぜ」
遊無「遊陽さんとヨリマシ君みたいに、これから仲良くなれるようにしたいものですね。……では次回について、その日の放課後。私の待つ家へと友人2人を連れて帰宅した遊陽さん――」
遊陽「デッキを手にした遊無に、俺は実際のデュエルで教えようと、親友――カズにデュエルを挑む!」
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遊戯王BINARIUS(ビナリウス)作者-ジェム貯めナイト (2022-11-13 11:41)