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HOME > 遊戯王SS一覧 > 25話 焼け野原 その②

25話 焼け野原 その② 作:コングの施し

4回戦、ついに龍平と闘うことが実現したが、絶え間なく迫り来るドラゴンの猛攻、そして逆転の要になるはずだったエクシーズ召喚を『タイラント・ドラゴン』とレベル7以上のドラゴン族が発動条件となる罠カード『無力の抵抗』の破壊効果によって潰されたことで、遊大はまるで焼け野原に一人突っ立っているような焦燥と喪失感に襲われる。

ぐるぐると思考を巡らせながらも、ターン中の動きがなくなってしまった遊大は2枚のセットカードに望みを託し、ターン終了を宣言した。

遊大(次のターン、この2枚のセットカードで受け切るしか勝ち目がない!頼むぞ、俺のデッキ…!)

遊大
LP:4400
手札:1
モンスター:
魔法罠:『金剛真力』セット×2

龍平「オレのターン。」

TURN5  龍平
LP:8000
手札:1→2
モンスター:『竜魔人クィーンドラグーン』『タイラント・ドラゴン』
魔法罠:

龍平「オレは『オーバーフロー・ドラゴン』を通常召喚。」

オーバーフロー・ドラゴン
☆1 0/0
闇・ドラゴン/効果

龍平「さらに、クィーンドラグーンの効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、墓地からレベル5以上のドラゴン族モンスターを特殊召喚する。
来い。『妖竜マハーマ』。」

竜魔人が放った炎は輪を描き、その内より白銀の鱗と黄金の翼の竜が飛び出す。

妖竜マハーマ
☆5 0/2500
光・ドラゴン族/チューナー/効果

遊大(ビューフォースの素材で墓地に送られたやつか!ってかそいつチューナー!?)
「お前、まさかだよな…!」

龍平「オレはレベル1のオーバーフロードラゴンに、レベル5の妖竜マハーマをチューニング。」

白銀の竜は天へと舞い上がる。その体から現れた5つの光輪に、機械仕掛けの竜の命が共鳴し、一本の光りが指す道となる。

☆1+☆5=☆6

龍平「シンクロ召喚。現れろ。レベル6『瑚之竜』。」

閃光は大地へと降り注ぐと、フィールドを真っ二つに割る逆瀧を発生させる。激流と共に蒼い瞳の竜が姿を現した。

瑚之竜(コーラル・ドラゴン)
☆6 2400/500
水・ドラゴン族/シンクロ/チューナー/効果

遊大「儀式、エクシーズと続いてシンクロまで!どんだけ戦術の幅が広いんだよ!」

龍平「ちょっと雑かもしれないが、悪いな、コーラルドラゴンの効果を発動。手札の『颶風竜–ビュフォート・ノウェム』を墓地に送り、お前のフィールドのカードを1枚破壊する。」

竜はその爪で遊大のセットカードを引き裂かんとする。瞬間、遊大が歯を食いしばる。2枚あったセットカードのうち、最も逆転の可能性を秘めた1枚。それが竜の手によって破壊されようとしていた。

遊大「クッソォ!俺は、対象に取られた罠カード、『イタチの大暴発』を発動!相手フィールドのモンスターの攻撃力の合計が、俺のLPを上回ってる時、相手は俺の自身のモンスターの攻撃力の合計が俺のLPを下回るようにデッキに戻さなくてはならない!俺のLPは4400!今のお前のフィールドに4400を下回る2体以上の組み合わせはねえ!せめてやり返させてもらうぜ!」

フィールドに黄濁色の粉塵が立ち上る。そしてどこから来たのか、一点の種火が放たれると、空気は一挙に膨張し大爆発を起こした。

龍平「っ…!お前そんなカードセットしてたのか!オレは『竜魔人クィーンドラグーン』と『瑚之竜』の2体をEXデッキに戻す!」

爆炎に巻き込まれ、2体の竜はその姿を消した。残されたタイラントドラゴンだけが真っ直ぐに遊大と対峙する。

遊大「本当はもっとLPが削れたタイミングで撃ちたかったんだけどなあ!でもまアこれが防がれなくてよかった。」

龍平「イタチの最後っ屁ってワケか。だがまだタイラントが残ってる。
バトルだ。オレはタイラントドラゴンでダイレクトアタック。」

巨竜は焦げついた台地から天空高く飛び立つと、遊大目掛けて真紅の熱線を放った。
大地を抉り、焦がし、破壊尽さんとするその火炎が、遊大を襲う。

遊大「ぐああっ!!!」
LP:4400→1500

一度はモンスターを全滅させられ、破壊され尽くしたその戦術であったが、その攻撃を受けきったことで、一筋の光が遊大の脳裏をよぎる。1枚の手札を握りしめ、同時に残った魔法罠カードを素早くタップする。
その表情にもう曇りなどない。ただただ男として決闘者として正々堂々と相手に向き合い、ひたすらに勝利を求めんとする男の姿がそこにはあった。

遊大「ダメージを受けたことで、俺は罠カード『ダメージ・コンデンサー』を発動!!手札を1枚、『昇華騎士–エクスパラディン』を捨て、受けたダメージ以下の攻撃力を持つモンスターをデッキから特殊召喚する!」

荒野となったフィールドに1つ、小さく火が灯る。全てを焼き尽くさんとする炎ではなく、太陽のように力強く、煌々と大地を照らす。暗がりを跳ね除けるようにして、その戦士は歩み始めた。纏ったその鎧が、炎を反射して真白く光る。

遊大「来い!『フェニックス・ギア・フリード』っ!」

紅く、太陽のようにフィールドを照らす戦士は、大剣を携えて眼前の巨竜と対峙した。

フェニックス・ギア・フリード
☆8 2800/2200
炎・戦士/デュアル/効果

龍平「やっと来たか。お前のエースモンスターが。だが『ダメージ・コンデンサー』の性質上、オレのモンスターの攻撃力を呼び出すモンスターが上回ることはない。手札もゼロ。決死の罠にしては少し賭けの要素が多すぎるんじゃないか?」

確かにフェニックスギアフリードの攻撃力はタイラントドラゴンを上回ってはいない。呼び出すモンスターはミスだったのか?EXデッキからの展開に繋がるモンスターの方がこの状況では優先すべきだったのかもしれない。しかし後に引けない遊大は笑って続けた。

遊大「引きゃいいんだよ!お前だって手札ゼロだ!そこでタイラントを除去されちゃ後がないんだろ!?」

龍平「はぁ…。オレはこれでターン終了だ。」

龍平
LP:8000
手札:0
モンスター:『タイラント・ドラゴン』
魔法罠:

龍平は呆れるようにため息をつくと、静かにターン終了を宣言した。遊大の小さなミスで気が緩んだのか一度目を閉じる。このデュエルはおそらく負けはないと、たかを括ってしまった。

遊大がデッキトップのカードを強く握る。何かが弾けそうなほどの熱と威圧感を放ちながら。目を閉じた龍平も、その異様な雰囲気を感じ、咄嗟に背筋を冷たい何かが走る。

遊大「馬鹿野郎!!攻撃力が、デッキトップが、手札がなんだってんだよ!俺は…!」

その時、龍平は冷静に周囲を見渡した。自分が立っている場所。幾度となく焼き尽くされたその大地はまるで焼け野原であった。ついさっきまで遊大が立っていたその大地に、自分も引きずり込まれていた。焼け付いたような閑散とした大地に、一匹の竜と一人の戦士が対峙している。その瞬間に、このデュエルは絶対にここで終わらないということを確信した。一瞬でも気を抜いた自分に声にならない喝を入れると、再びデュエルディスクを前に構える。

遊大「引くんだよおおおっ!!!!」

火花でも散りそうな勢いで、遊大がその一枚をドローする。その時、龍平の目には、遊大の立っている大地のみが、太陽に照らされて緑が生い茂るような、再生するようなそんな景色が写った。

TURN6 遊大
LP:1500
手札:0→1
モンスター:『フェニックス・ギア・フリード』
魔法罠:『金剛真力』

遊大は引いたカードに目をむけ、それを天高く掲げる。

遊大「俺は魔法カード『死者蘇生』を発動!!!」

龍平の額に玉の汗が浮かび出す。目の前に立つ一人の決闘者に秘められた輝き、その絶対に勝とうとする意志に恐れすら覚えていた。

遊大「俺はダメージコンデンサーのコストで墓地に送った『昇華騎士–エクスパラディン』を特殊召喚!」

昇華騎士–エクスパラディン
☆3 1300/200
炎・戦士族/効果

遊大「エクスパラディンの効果を発動!デッキから炎属性・戦士族モンスターまたは、デュアルモンスター1体を、攻撃力500アップの装備カードとしてエクスパラディンに装備する!」

鈍色の鎧を纏った戦士はその鞘から凄まじい勢いで蒸気を放つ。物々しい機械音と共に、引き抜いた剣で蒸気を引き裂き再びその姿を表した。その剣は戦士が持つ機械的な雰囲気とは裏腹に、まるでチーズのように可愛らしい黄色の剣身を見せていた。

龍平「デッキからモンスターを装備する効果か…どうくるつもりだ。」

遊大「俺はデッキから炎属性・戦士族の『チューン・ナイト』をエクスパラディンに装備!」

剣がガタガタと震える。戦士はそれを天へと放り投げると、再び蒸気と共にその剣は一体の小さなネズミのモンスターへと変化した。

遊大「チューンナイトの効果!装備状態の自信を自分のフィールドに特殊召喚する!」

チューン・ナイト
☆1 500/500
炎・戦士族/ユニオン/効果

龍平「装備状態から特殊召喚する効果か!だがレベルは全員異なっている。多少のリンクモンスターにつなげたところで!」

そう言ってフィールドのモンスターの効果をディスクで確認してハッとした。

龍平「お前…!」

遊大「そうだ!この効果で特殊召喚したチューンナイトは、チューナーモンスターとして扱う!シンクロ召喚まで扱えるのはお前だけじゃない!
俺は、レベル3のエクスパラディンに、レベル1のチューナーモンスター、チューンナイトをチューニング!」

2体のモンスターをそれぞれ閃光が貫く。真白い光の中におぼろげな巨腕が姿を見せる。

遊大「シンクロ召喚!現れろ!レベル4『アームズ・エイド』!!」

アームズ・エイド
☆4 1800/1200
光・機械族/シンクロ/効果

機械仕掛けの巨湾が勢いよく大地へと衝突する。土埃がフィールドを包み込むと、何かを振りかざすような風を切る音と同時に、一挙に土埃が引き裂かれる。
そこに立っているのは武装された巨腕と白銀の鎧を携えた戦士。腕と鎧の接合部から赤い焔が漏れ出し、まるで狂戦士のようにその巨腕とともに姿勢を低く構えている。

龍平「これは…!まさかシンクロモンスターを装備してんのか!?」

遊大「アームズエイドは1ターンに1度、自分フィールドのモンスターの攻撃力1000ポイントアップの装備カードとなることができる!俺はフェニックスギアフリードにアームズエイドを装備!さらに召喚権を使い、フェニックスギアフリードを再度召喚!名付けて『フェニックス・パワーギア・フリード』だっ!」


フェニックス・パワーギア・フリード
☆8 (2800→)3800/2200
炎・戦士族/デュアル/効果
⚫︎『フェニックス・ギア・フリード』が、シンクロモンスター『アームズ・エイド』を装備した姿。戦闘で相手モンスターを破壊すると、その攻撃力のダメージを相手に与える効果を持つ。


右手に装着された機械仕掛けの剛腕と左手に逆手で携えられた大剣が、一瞬のスキも許さないであろう形態を実現していた。

遊大「バトルだ!パワーギア・フリードで、タイラントドラゴンに攻撃!」

フェニックス・パワーギア・フリード
3800/2200
vs
タイラント・ドラゴン
2900/2500

その重装備からは予想だにできない速度で巨竜の前方へと飛び出す。タイラントドラゴンの爪と、その大剣が交差し、轟音と共に火花が散る。大剣を交えたまま前方で回転して巨竜の初撃を跳ね除けると、武装化されたその右腕で巨竜の巨体を貫いた。

龍平「くっ…!」
LP:8000→7100

遊大「さらにアームズエイドの効果!破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!」

炎がその腕を象って何倍にも大きくなる。およそ巨竜の大きさかと思われたその炎は龍平の元へ隕石のごとく勢いで降り注ぐ。
龍平は腕を交差させてそれを一身に受け止めんとするが、炎の勢いが身に余り、大きく後ろへ吹き飛ばされた。

龍平
LP:7100→4200

遊大「はぁ…!はぁ…!俺はこれでターンエンド!!」

遊大
LP:1500
手札:0
モンスター:『フェニックス・ギア・フリード』
魔法罠:『金剛真力』『アームズ・エイド』

龍平はかろうじて地面に手につく。倒れ込んだその体に万力のような力を込めて。目を開けば、自分の目の前に横たわるその大地はもうとっくにどす黒く焼け付いていた。ゆっくりと身を起こし、大地を足で踏む。眼前に佇む一人の決闘者は、龍平が見ているこの焼け野原の世界から自らの力で自分のデュエルを再生させた。
なぜ?今まで必死に戦ってきた。それしか自分の存在を証明する方法を知らないから。
この燃え尽きた場所から力を取り戻し、自分を追い詰めている遊大に憎しみと信頼が同時に込み上げる。
龍平は悟った。勝とうとする勇気がこの焼け野原を再生させるならば、絶対に負けないようひたすらに力を証明せんとする自分のデュエルは、ただただこの場所をさらに燃やし尽くすのみだと。

龍平「オレは、お前にはなれない。だがな…。」

龍平はゆっくりと立ち上がり、デッキトップのカードに手を伸ばす。

龍平「それが、オレがここで負けていい理由にはならないんだ…!」

力強く、そしてゆっくりとそのカードを手に加える。

TURN:7 龍平
LP:4200
手札:0→1
モンスター:
魔法罠:

文字通り何もない。モンスターも魔法も罠も1枚も持たないその決闘者は、その瞬間だけ遊大よりも強く持ち合わせたものがった。負けたくないという意地、力を持ち続けていたいというただ純粋な欲望。その貪欲さが1枚のカードを導いた。

龍平「オレは魔法カード『貪欲な壺』を発動。墓地に存在する5体のモンスター、『タイラント・ドラゴン』『ハードアームド・ドラゴン』『暗黒竜コラプサーペント』『チョウジュゴッド』『オーバーフロー・ドラゴン』をデッキに戻し、オレはデッキから2枚ドローする。」

自分でも不思議な感覚だった。ドローするカードを見ずとも、自分のデッキが確実に勝利に導く2枚をいざなう。高揚感とも万能感とも言えないそれは、自分の欲と意地によって突き動かされているのだということを、潜在的に理解していた。

遊大は笑みを見せながらも焦りを感じていた。逆転し、あと一押しのところまで追い詰めたところで、最も更なる逆転を生む可能性を孕んだカードをドローされたのだ。何よりも、何も持っていなかった龍平が見えない武器を手にしたことで、なんとも言えない恐怖と驚きが込み上げていた。

遊大「ここでドンツボ引くかよ普通…!俺はパワーギアフリードの効果を発動!相手が魔法カードを発動した場合、墓地からデュアルモンスターを特殊召喚する!戻って来い!『エヴォルテクター シュバリエ』!」

エヴォルテクター シュバリエ
☆4 1900/900
炎・戦士族/デュアル/効果

龍平はドローした2枚のカードに目を向ける。

龍平「…これは名も無きカード。オレは魔法『クリティウスの牙』を発動!」

遊大「『クリティウスの牙』!?」

龍平の宣言と同時に、焼け野原に竜を象った氷塊が出現する。氷塊はその奥に黒い翼の竜の姿を透過し、その体には一本の剣が突き刺さっている。龍平はそれを勢いよく引き抜くと、竜を覆った氷は一挙に砕け散り、黒色の竜が咆哮する。

龍平「この魔法は、オレの手札・フィールドの罠カードとこのカード自身を融合し、EXデッキから融合モンスターを特殊召喚する!」

遊大「罠カードと融合!?モンスターもいない状態から!?」

龍平「オレは手札の『破壊輪』を墓地に送り、破壊輪を融合素材とする融合モンスターを呼び出す。来い!『デストロイ・ドラゴン』!」

龍平が破壊輪のカードを天へ舞い上げると、黒色の竜がそれと交わり、弾けるような爆炎がフィールドを包み込む。

竜は黒色の体をさらに強靭に、さらに黒く、そして獰猛な赤い瞳を持ってそこに佇んでいた。

デストロイ・ドラゴン
☆8 2000/3000
炎・ドラゴン族/融合/効果

遊大「これがお前の融合モンスター…!」

龍平「デストロイドラゴンは、その身に破壊輪の力を宿した融合モンスター。相手モンスターを破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。」

その身を翻し、黒竜は火炎弾を吐き出す。白銀の鎧に包まれた戦士はそれを避けようとするが、その眼前で炎の弾丸は凄まじい威力と轟音を持って弾けた。
フィールドを紅い炎と身を焦がすほどの熱が包み込み、やがて遊大のデュエルディスクからLPが尽きたことを知らせる電子音が鳴り響いた。

遊大「うおああああーー!!!」
LP:1500→0

Winner:龍平

傷だらけのフィールドに、2人の決闘者だけが静かに残っていた。うつ伏せの遊大はその身を返し、仰向けになって龍平に言った。

遊大「やっぱ強かったな。龍平。」

龍平「悪いな。」

遊大はクスッと笑い、立ち上がって龍平の元に駆け寄る。

遊大「良かった。お前とデュエルできて。次ベスト16だろ?頑張ってこいよ!」

龍平は表情を隠すように遊大に背を向ける。

龍平「言われなくてもそうする。ありがとな。」

そう言ってそそくさと決闘ホールを後にした。

遊大は勝ちを逃したというのに、不思議と清々しい気持ちでいっぱいだった。電光掲示板に映し出された、龍平の次の対戦相手を確認する。『我津第一中2年 鬼ヶ王馬』。開会式の選手宣誓で呼ばれていたその名前がそこにはあった。
調べるまでもなく絶対に強者。それが自分を討ち負かした者と闘う。自分のデュエルでもないのに自然と拳に力が入る。

ワクワクと緊張、そして何より極限まで研ぎ澄まれた神経の反動から来た疲労に苛まれ、ふわふわした足取りで遊大もホールを後にした。


続く
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