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Story 1 契約 作:YK_Yosthy

「次のニュースです。今日未明、桜咲市在住の子供が失踪しました。行方は分かっておらず、警察が捜査を進めています――」

「――――どうか、どうか息子をっ。早く、いぃちにちでもはゃく、ひゃあくみづけてえええっへへえぇんん!――――」



 ある日、向日市にて。
「よおそこの少年、元気いいねえ」
「お、今日も楽しそうな面してんねぇ?」
「にししっ。なんたって、僕は世界を巡る冒険者だからね~」
 定木 游我。自ら『世界を巡る冒険者』と名乗る少年。人懐っこく、何事にも首を突っ込む性格で、ふわふわとなびかせた黒髪に黄色のパーカーを着崩す御年15歳……だったはず。
 冒険者とは言うものの、彼の得意なことはエンターテイメントである。ストリート上である種の一見危険な一芸を華麗に魅せては行く先々の人々を楽しませ、旅の費用を集めていたのだ。とはいえ、自らが積極的にやるというわけでもなく、かといって、やってほしいと言われても、楽しそうに見せているかと言われれば少し表情が暗いのもまた事実だった。

 游我はこの日もまた、ストリートショーを終え観客の喝さいを浴びていた。
「今日もかっこよかったよー!」
「明日もよろしくねー!」
 声援。わずかな声援でも、エンターテイナーは幸せに感じるものである。が、彼は違う。生きるためにできることがこれしかないのだから。本当は芸を披露するのが嫌なのだ。でも彼にとってはこうしていくしかないのだから。
(何か、転機になることないかな……)
 ふと、ステージ――といっても、よくある広場の、ちょっと台になっているところ――を降りる彼の瞳に一等星のように輝く光が見えた。
「何、あれ……」
 しかし、それはすぐに流星のように流れてどこかへ行ってしまったのだ。
「何だったんだ……今の」

 観客が立ち去り、游我は投げ銭の整理をしていた。基本的に投げられるのはほんのわずかな金額。札束が投げられることなど全くない。時に游我は、本当に観客たちは僕のエンターテイメントを楽しんでいるのか、甚だ疑問に感じることもあった。楽しんでいるように見えて、ただ同情しているだけなのではないか。もしそうだとすれば、その情がなくなったとき、生きていくために仕方なくやっているたった一筋の道が切れ、未来が掻き消えてしまうのでは……。
「1036円……まあ、こんなものかな……」
 どすっ。誰かとぶつかった。
「あ、ごめんなさい」
「……」
 游我がぶつかった人に謝ろうと見上げ、そして、青ざめた。その黒ずくめの男集団を見て。
「ようやく見つけましたよ。游我さん」
「や、嫌だ! 二度と帰るものか、もう二度と、絶対に!」
「これは命令なので。抵抗するというのなら、力ずくでも捕らえます」
「ッ!」
 游我は走った。ただひたすら、黒ずくめの男から逃げるために。もう二度と、二度と。

 どのくらい逃げただろうか。かなり走ったと思われる。せざるを得ないとはいえエンターテイナーである。それ相応の、あって当然のスタミナはもちろん持ち合わせているのだ。が、黒ずくめの男集団は彼らで、一切疲れる様子を見せず追跡を続ける。このままでは游我は捕まってしまう。
「はぅ……このままじゃ、また――」
 そのとき、またさっきの光が見えた。一等星のように輝くその光は、游我自身を導いてくれているようで……。
「あれを辿れば、もしかしたら」
 ――もしかしたら、彼奴等から逃げ切れるかもしれない。その一筋の希望を掴もうと、必死に走っていった。走る走る走る。また、光が曲がっていった。游我もそれを辿っていく。また曲がる。また曲がる。また曲がる。そして着いた先は……。
「――行き止まり!?」
 三方向にあるのはコンクリートの壁。残る一方向からは黒の影どもなんかたくさん。日の届かぬ路地裏で、黒ずくめの男集団の足音だけが響く。
「無駄な抵抗はよせ」
 奥から声がする。これ以上逃げ場はない。アクロバットに上から飛び越えられるかと思っても、数が分からないためできるかどうかわからない。
「どうすれば、このままじゃ……」
 そのときふと、どこからともなく游我の元に声が聞こえた。
「俺と契約しろ。二度と、過去に囚われたくないのなら」
「え、誰? ってか、どこから話しかけてきてるの?」
 游我が、突如見えないところから聞こえてきている声に迷っている間にも、黒ずくめの男集団はじわりじわりと詰め寄ってくる。どうやら游我にしか聞こえてないらしい。
「いいから早くっ!」
「いいから早くってどうすりゃいいんだよ!」
両者の押し問答など気にも留めず、黒ずくめの男集団はじわりじわりと追い詰めていく。とうとうしびれを切らした謎の声さんが声を荒げた。
「あぁもうこののろま! ちょっと伏せてろ!」
「ふぇえ~~!?!?」

 一瞬だけ、目の前が真っ白になった。游我は、伏せていた眼を恐る恐る開く。そこには、黒ずくめの男集団だったものが、鉄くずとなって、散らばっていた。その異様な光景に、游我は震えていた。
「おい」
 彼の後ろから、さっきと同じ声がする。恐る恐る、振り返る。過去に後戻りしてしまう恐怖ではなく、死という恐怖を抱えて。――それは、杞憂に終わった。
「ほら、あんたの事、助けてやったっつー借りをつくったぜ」
「……え、誰? ドラゴン?」
 そこには、白の、もふもふとした毛に包まれた小さな竜がいた。きつい口調とは想像がつかないような、かわいらしい見た目をしていた。
「おまっ、初対面の相手に、え、誰? って聞くとか」
「かぁわぁいぃ~!」
 突如、游我が白の小さなドラゴンに抱きついた。
「え、ちょ、お前何すんだよおい!」
「えへへ~だってかわいいんだもん」
「だからって初対面の相手に抱きつくとか気ぃ触れてんのかおい!」

 しばらくして、抱きしめる游我を押しのけ、白の小さなドラゴンがこう言う。
「ったくよ、お前ってやつは。で、どうやって借りを返すつもりだい?」
「え、借りって?」
「さっきのことだよ、逃げ場を失ったあんたを助けたってやつ」
「あ、それは、ありがとうございました」
「どーいたしまして」
「え、でも、どうやって借りを返せばいいんですか?」
「……俺と契約しろ」
 また、『契約』というワードが出てきた。
「いや、その、契約ってのは」
「契約は契約だよ」
「そーじゃなくて、内容だよ。内容。いまいち、なんのことかさっぱりで」
 契約内容が何のことかさっぱりな游我に、白の小さなドラゴンが少しあきれたのか、とある紙束とヘンな機械を游我に見せた。
「何、これ」
「これが、まあ、契約内容ってやつだな」
「え? どういう」
「……お前、デュエルを知らねえのか」
「え? メルケル?」
「誰だよそれ。つかお前、デュエル知らねえのか。世界中の人が知っているといっても過言じゃねえのによ。……とにかく、まあデュエルってのは、ある種のカードゲームだな。うん」
「カードゲーム? それと、契約内容に、何の関係性があるっていうのさ?」
「とある奴を殺すのを手伝ってほしい」
「はい?」
「とある奴を殺すのを手伝ってほしい」
「割に合ってなくない? それ」
 游我が少し文句を零した。それに対し、白の小さなドラゴンは煽り口調でこう返す。
「あーはいはい。どうも君は他人の恩をまともに受け取らずに自分勝手に生きていく人なんでちゅねぇ~wwwww」
「ちょっと待てよおい! いくらなんでもそりゃひどすぎねぇか!?」
「わーっ! 何すんだよ!」
 さっきのハグが、今度は取っ組み合いになった。殴り合いにならなかっただけまだましだと思いたい。しばらくして、それを止めるように白の小さなドラゴンがこう言った。
「なあ、お前。確か、今道に迷ってるって?」
「そ、そりゃそうだよ。一等星のようにまばゆく光を追いかけていたらこんな路地裏に」
「あー、違う。そっちの意味じゃねえやい。未来への道が見当たらない、って言えばいいのかな」
「っ」
「図星だな」
「だってどうしようもできないんだよ。何もかもが嫌で逃げ出して。それがうまくいったと思ったら今度はどう生きていけばいいのかわからなくて。ホント、どうすればいいんだろって……」
「……」
 全てを吐き出した。そして、泣き出した。泣いた。それを見かねた、白の小さなドラゴンが訊ねる。
「なあ」
「……へ?」
「俺、今までお前の事、裏で見てたんだぜ。どうすればいいか悩んでたことも」
「同情なんていらないよ」
「……同情じゃねえって。お前にとって、きっとデュエルが新しい道を見つけてくれるだろうしな。だから」
「どーーーーーしても僕と契約したいんだね?」
「ゔっ」
「はは、図星だね。でも、わかった。君と契約する。誰を殺せっていうかはわからないけど。けど、これ以上自分が苦しくならないよう、デュエルってやつやってみる」
「……なんかすまねえなあ。押し付けちまったみたいで。よし。契約成立だ」
 そう言い、白の小さなドラゴンは、デッキと呼ばれる紙束と、デュエルディスクという機械を游我に渡した。
「これで、僕の道が開くんだ」
「そうだな。ああ、そういや自己紹介がまだだったな。俺はルミンだ。よろしく頼むぜ」
「定木 游我です。よろしくお願いします」
 游我の新たな光が、今照らされた。この先の道が、闇そのものだと知らずに。

Twilight Duel Memories 開演。
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