決闘者達の中に眠る物語　作：マジかっ！

　
　とある日の遊斗の家──遊斗は池島と共にデッキを見せ合っていた。
　だが、どこその雰囲気は険悪で互いにいがみ合っている。

「そのカードはコンボ性がねぇよ！こっちのカードを入れた方がいいって！」
「いやいや、それじゃあ別のコンボが決まらないよ！」
「それは邪道だ！発動条件が難しくても強い方がいいに決まってる！」
「難しくちゃ、使いずらいし手札に腐るだけだよ。多少効果が弱くても使いやすい方がいいよ！」

　お互いに睨み合い、いつ取っ組み合いが起きるか分からないほど一触即発なムードだった。
　遊斗の部屋の隅で白夜は呑気に自分のデッキを眺めていた。

「我がデッキ……いつ見ても惚れ惚れするねぇ。大好きだよ僕のデッキ」
「「なぁ！俺達どっちの言い分が正しいか教えてくれ！」」
「へ？」

　いきなり二人に顔を向けられて困惑する白夜。
　戸惑っているとどんどん目を限界まで開いた二人が近づき、思わず目を背けてしまった。

「いやぁ……それこそ君達の自由じゃないのかな。デッキを作る人それぞれが、決める事なんだから……」
「でもよぉ……」

　そう言っていると、窓がいきなり開きそこから黒陽が土足で乱入してきた。

「お前！もっとまともな登場出来ないか！しかも土足で！！」
「ふん、貴様らが下らない事で言い争いをしてムカついたら入ったまでだ」
「んだとぉ！」
「白夜の言う通り、デッキに入れるカードはお前ら個人が決める事だ。デッキは己の分身だ。他人にアドバイスを聞くのは間違いじゃない。でも、最後にそのカードを入れるか決めるのはお前だ。使いやすさか、強さか、コンボ性か。一枚のカードに全て詰まっているのものを求める方が邪道だ。そのカードの強さをお前ら自身でデュエルをして把握して、カードを入れ続けるを決めろ」

　黒陽の言葉に二人は黙り込み、遊斗が微笑みながらボソリと呟く。

「たしかに……強いのもいいけど、ロマンも大事だよな。入れたいカードは俺が決めるもんだな。本当に使いこなせる自分自身なんだから」
「うん。強い弱いじゃない。それを何処まで使いこなせるか、それが強さと弱さだ。一丁前に使ってこそ一人前のデュエリストだな」

　二人は握手を交わしてなんやかんやで仲直りした？
　白夜も笑いながら締めくくる。

「一件落着って奴だね」

　すると階段からドタバタと急ぎ足で駆け上がってくる音が聞こえ、勢いよくドアが開き、雪菜が現れた。ドアの前にいた仲直りしたばかりの池島はドアに弾き飛ばされて壁に叩きつけた。

「遊斗！ってみんないつの間に揃ってたの？」
「お二人が揉めてたんで彼（黒陽）が沈めていた所だよ。本当に一人沈んじゃったけど」
「え？」

　白夜が指を差し、壁を見ると池島が壁にへばり付いていた。

「何やってんの？」
「……そりゃあこっちのセリフだよ。そんな勢いよく来てどうしたんだ……」
「これ見てこれ！」

　そう言って一枚のカードを遊斗に渡した。

「このカード……通常モンスター？」
「えぇ何故だか分からないけど、遊斗の家の前に落ちて居たわよ」
「落ちていた？それにこのモンスター。攻撃力・守備力共に100000！？それにレベルがない？それに名前が……遊戯王……何なんだこれ」
「遊斗の漢字と同じ遊って文字使われているね。運命的って奴かしら？」
「……かもな。でもイラスト……」

　モンスターのイラストには独特な髪色、刺々しい髪型をした高校生くらいの少年が二人写っており、一人は背が小さく気が弱そうな少年。もう一人は気が強そうで背も片方の少年よりは高そうに見える。二人の少年がお互いに背を向け、一枚のカードを指に挟んでいる絵だった。
　そして一番気になるのが、気の強そうな方の少年の首から鎖でぶら下げている逆ピラミッドのようなアクセサリー？真ん中に目をついていて、とても不可思議な物だった。

「これって……誰だろう。デュエリストっぽいけど」
「伝説のデュエリストってやつ？」

　鼻に絆創膏を貼った池島が話に割り込む。

「伝説のデュエリストって……」
「よく言うじゃん。どんな分野にも伝説級の人がいるって。その絵の人は伝説級の強さを持つデュエリストじゃないのか？二人いるのは謎だけど」

　その言葉に黒陽も反応する。

「本当に伝説のデュエリストがいたら、一度は手合わせしてみたいもんだ。会えるならな」
「確かに戦かってみたいもんだな。俺のこのデッキと……」

　そして遊斗はテキスト欄にも目を向けた。そこに書いてあった。

「遊戯王を作った者はこう言った。もし「遊戯王」という共通の目的で君に一人でも多く友達が出来たなら、俺はこの漫画を描いて本当良かったなと思います。それが一番、うれしいです。彼は今も何処かで、遊戯王を楽しむ者を嬉しそうに見ているであろう」
「遊戯王？そんな漫画はあったか？」
「さぁ」

　遊斗はそんな漫画があったかな？と思いながらカードを見続けた。その時、一瞬だけカードが光り、辺りを真っ白に包み込んだ。

「うわっ！」
「どうした？」
「い、今カードが光った！」
「んなわけ無いだろ」

　思わず叫び池島らがびっくりした。
　だけど、遊斗は何かを感じた。この世界には無いが、別の世界には遊戯王という漫画やアニメがある事。そしてその世界にもデュエルモンスターズが世界的に人気な事が。

「でも……光が」
「その光は君の胸に留めておいた方がいいかもね。この世界は広いからね。僕達とはまた別の誰かの世界に干渉は危険だからね」
「……白夜、お前も」
「うん。彼（黒陽）も同じだよ」

　白夜も黒陽も同じような感覚を感じた。
　別の世界。それは何なのか分からない。白夜は更に語る。

「その遊戯王って作品を作った人の思いがカードとして具現化してこの世界に来たと思うよ。きっと他の決闘者達がいる世界にも届いるかもね」
「その人がいたから、俺達もこうして居られるんだろうな。決闘者として」
「うん、そうだろうね」

　二人が話していると、雪菜が話に割り込む。

「それよりも遊斗！カードショップに行く約束でしょ！今日開店の！」
「そうだっけ？」
「そうよ！待ってたのに来ないから来たのよ！」
「すまんすまん！急いで行くぞ！」

　雪菜も池島も大急ぎで用意し、白夜と黒陽もさっさと窓から飛び降りた。
　遊斗も急ごうと用意するももう一度だけ落ちていたカードを見て気になる部分を見つけた。

「……カードの右下に名前が書いてある」

　そこには一人の男の名前が書いてあった。
　遊斗には分かった。このカードゲーム。もとい遊戯王という全てを始まりを作り出した男の名が。
　その名前は──

「高橋和希……この人が遊戯王を、このカードゲームを作り上げた人……」
「遊斗！急ごうぜ！」
「あ、あぁ！」

　池島の声に遊斗はそのカードを懐に入れて、デッキとデュエルディスクをバックに詰め込んで、みんなの後を追う。

「どうせなら思いっきりデュエルしようぜ。日が暮れるまでな」
「へへ、俺はさっきのカードをデッキに入れたから、今度は負けねぇぞ！」

　二人が拳を拳にぶつけてデュエルの約束を交わす。
　その隣りで黒陽も白夜へと笑みを浮かべる。

「なら、俺は白夜とデュエルをするぞ」
「ご自由にどうぞ。手加減はなしだよ」
「俺だって手加減はなしだ。デュエルは全身全霊を掛けてやるもんだからな」

　二組のデュエルが決まり、一人取り残された雪菜が怒る。

「私だけ仲間はずれじゃん！」
「大丈夫大丈夫！大乗寺とかみんな呼ぶからさ。今日はみんなでデュエルパーティだ！！」
「本当ね！なら、とことん付き合ってもらうわよ！」
「デュエルは逃げないさ。デュエルモンスターズが俺達の記憶に残る限りな」

　少年達はいつもの日常を送り、今日もまたデュエルをするだろう。それはどれだけ長く続くは分からない。でも、彼らには無限の時間がある。それに様々な場所の大勢の決闘者達にも時間はあり、決闘者の物語が作られて行く。
　成長しても忘れていけない、この遊戯王に触れた記憶を。
　どんな大人になろうと決して忘れてはいけないもの。どんな時でも一人じゃない。辛い時こそみんなを笑顔する。あらゆる困難にチャレンジする。集いし仲間達との絆。ワクワクする気持ち。そして優しさという強さ。
　あの人に教わった事を忘れてはならない。

　遊戯王という名の、この世でたった一つの存在が世界を湧かせて、世界の人々に笑顔を送った。
　今この話を見ているこの時も世界の何処かでデュエルで笑って友情を交わした人がいるはずだ。
　決闘者達は悲しみを乗り越えて、これからも決闘者としてデュエルをする。それが決闘者の使命だから。

　遊戯王に関わってきた人々全てに感謝します。
　そして遊戯王を生み出した高橋和希先生、本当にありがとうございます。