22話　原初の雄叫び　その①　作：コングの施し

『只今より、3回戦の決闘に入ります。コールされた選手は、指定のデュエルスペースに集合してください。』

正午の休憩も明け、窓から指す光も西側に傾き始めた頃、3回戦を知らせるアナウンスが会場に響き渡った。

遊大は祖母手製の握り飯を勢いよく口に突っ込むと、飛び上がって大急ぎで1回のホールに突っ走っていった。

律歌も阿原も呆れた目で彼を見送る。

律歌「まだ呼ばれてないでしょうに、、」

阿原「まあ相手が相手だからな、、。」

遊大は1回戦で溟海デッキの使い手である篠木を破ったのち、続く2回戦も勝利をもぎ取っていた。
そして臨む3回戦、遊大を戦場に駆り立てる理由がそこにはあった。

『東雲中1年、樋本遊大くん。光妖中1年、斬隠輝久くん。18テーブルに集合してください。』



因縁の2人が対峙する。

輝久「君が2回戦まで突破するとはね。驚いたよ。僕も次の龍平くんに備えてたし。」

輝久の毒を含んだ発言が遊大の顔を顰めさせる。

遊大「眼中にないってのかよ。」

輝久「まあそうなるかな。じゃあぼちぼち始めようか。」


2階ギャラリーにて、龍平と典子が並んで2人の決闘に目を向ける。沈黙が続く中、典子が重い口を開く。

典子「龍平さん、あなたはどう思いますの？」

龍平は視線をピクリとも逸らさずに聞き返す。

龍平「どう思うって？」

典子「兄のデュエルを作っているのが彼の才能なら、貴方のデュエルは何で出来ていますの？」

少しの間、龍平は言葉を詰まらせた。

龍平「今は、アイツの答えを聞きたい。」

答えになっていないことが分かりつつも、答えたくない自分に目を瞑って龍平は遊大を見つめた。


『デュエル！』

輝久
LP：8000
手札：5

輝久「じゃあ僕の先攻で行かせてもらうよ。
まず手始めにフィールド魔法『チキンレース』を発動！効果で1000LP払って1枚ドローさせてもらおう。」
LP8000→7000

遊大はすかさずデュエルディスクでチキンレースの効果を確認する。

遊大（1000LP払うことで、自身の破壊、相手のLP回復、そしてドローを選択する効果か。これをチキンレースたらしめるのは『相手よりＬＰが少ないプレイヤーが受ける全てのダメージは０になる。』のテキストだろうな。）

それを見て輝久はやはり毒を含んだ笑みを浮かべる。

輝久「あれ、なになに効果でも確認してんの？
やだなあ。そんなチマチマしたゲームじゃつまらないでしょ？僕は発動中の『チキンレース』を墓地に送り、さらにフィールド魔法『隠れ里–忍法修練の地』を発動！」

フィールドに月光が差し込み、みるみるうちにまるで時代劇の世界のような忍びの里に塗り変わってゆく。

輝久「さらに『忍者マスター HANZO』を通常召喚。その効果でデッキから『忍法 妖変化の術』を手札に加えよう。」


忍者マスター HANZO
☆4 闇・戦士族／効果
1800／1000


輝久「さらに僕はカードを3枚セットしてターンエンド。」

輝久
LP：7000
手札：1
モンスター：『忍者マスター HANZO』
魔法罠：セット×3『隠れ里–忍法修練の地』


遊大「俺のターン！ドロー！」

遊大
LP：8000
手札：6

遊大「俺は『重起士道–ゴルドナイト』を通常召喚！」

フィールドにブゥンとエンジン音が鳴り響き、金色の装甲に身を包んだ戦士がフィールドに召喚された。


重起士道–ゴルドナイト
☆4 地属性・戦士族／デュアル／効果
1500／500


「んで魔法発動『二重召喚』！このターン中の通常召喚もう一度だけ可能にする！俺はデュアルモンスターであるゴルドナイトを再度召喚する！」

ゴルドナイトは不敵な笑みを浮かべると金色の重機へその姿を変えた。

輝久「あいも変わらずデュアルモンスターかあ。やっぱ君のデュエルには才能っていうかセンスを感じないんだよね〜。」

遊大「ゴルドナイトが再度召喚に成功した時、その効果を発動する！デッキからトラップカード『デュアル・アブレーション』を手札に加え、自身の攻撃力を500ポイントアップする！」

遊大（だがセットされているカードはさっき手札に加えた「妖変化の術」！他にもおそらく迎えうつためのカードが２枚！だったら俺は！）

「装備魔法『月鏡の盾』をゴルドナイトに装備！このカードが装備されている間、装備モンスターが戦闘を行うとき、その攻撃力が戦闘を行うモンスターのスタッツ＋100ポイントになる！」

輝久「面白いカードを使うね。ほら来なよ、攻撃して来いよ！」

挑発する輝久腹を立てながらも遊大はバトルフェイズの開始を宣言する。

遊大「バトルだ！ゴルドナイトでHANZOを攻撃！」

ゴルドナイトは金色の車体をきらめかせ、轟音とともに突っ込んでいく。対するHANZOは地面に手をつき、迎えうつ構えとった。

輝久「永続トラップ『機甲忍法フリーズ・ロック』を発動。その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了する。
まあ、通らないよね。ちなみに言うと、僕のフィールドに『忍者』モンスターが存在する間、君のモンスターは表示形式を変更できないからね。」

発動と同時に、ゴルドナイトの体が凍りついた。苦肉の表情を浮かべ、遊大は2枚のカードをセットする。

遊大「俺はこれでターンエンド。」


遊大
LP：8000
手札：2
モンスター：『重起士道–ゴルドナイト』
魔法罠：セット×2 『月鏡の盾』


輝久「じゃあ僕のターン。ドロー。」

輝久
LP：7000
手札：2
モンスター：『忍者マスター HANZO』
魔法罠：セット×2『隠れ里–忍法修練の地』『機甲忍法フリーズ・ロック』

輝久「僕は『成金忍者』を通常召喚し、効果を発動。手札のトラップカード『ワーニングポイント』を墓地に送り、デッキから『黄昏の忍者–シンゲツ』を特殊召喚。」

月光降り注ぐ忍者の里に2人の忍びが舞い降りる。


成金忍者
☆4 光属性・戦士族／効果
500／1800

黄昏の忍者–シンゲツ
☆4 光属性・戦士族／効果
1500／100


「と、ここまではいいけど。その『月鏡の盾』が邪魔なんだよねえ。」

と輝久は曇った表情で言葉を漏らした。

輝久「まあ、雑に解決しちゃっていいかな。僕は『成金忍者』と『黄昏の忍者–シンゲツ』でオーバーレイ！」

２体の忍者は光となり、混ざり合い、さらに大きく眩しい光を創出する。

輝久「2体のレベル4モンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚！
烈風纏う雄々しき竜！『竜巻竜』！」

光の渦から暴風を巻き上げ、その竜は隠れ里に降り立った。


竜巻竜（トルネードドラゴン）
★4 風属性・幻竜族／エクシーズ／効果
2100／2000



輝久「僕はオーバーレイユニットを取り除き、トルネードドラゴンの効果を発動。月鏡の盾を破壊させてもらうよ？」

竜を取り巻く風はさらに勢いを増し、月鏡の盾のカードを無慈悲に取りさらい上空へと消えた。

遊大「くっ！、、ゴルドナイトの攻撃力は通常の2000へと戻る！さらに月鏡の盾の効果！500LP払い、このカードをデッキの1番下に戻す！」
LP：8000→7500

輝久「じゃ、バトルかな。トルネードドラゴンでゴルドナイトだっけ？まあ、そいつに攻撃。」

竜巻竜はゴルドナイトをその烈風で包み込み、噛み砕くようにして顎を噛み締めて見せた。ゴルドナイトは無惨にも爆破される。

遊大
LP：7500→7400

輝久「続いて、HANZOでダイレクトアタック。」

HANZOも続いて遊大に刃を向けんとした時、フィールドが炎で包まれた。

遊大「あんま舐めんなよ！
俺は永続罠『デュアル・アブレーション』を発動！手札の『クルセイダー・オブ・エンディミオン』を墓地に送ることで、デッキからデュアルモンスターを再度召喚扱いで特殊召喚するッ！」

烈火の渦を切り裂き、白銀の鎧を纏った剣士が顕現する。

「現れろ！不死鳥の剣士！『フェニックス・ギア・フリード』！！」


フェニックス・ギア・フリード
☆8 炎属性・戦士族／デュアル／効果
2800／2200


輝久は燃え盛る炎に照らされ、無垢な笑顔を浮かべる。

輝久「ちょっと見直したよ。ちっぽけな才能でもこんなことができるんだね。攻撃も中止するしかないし、僕はこれでターンエンドかな。」

輝久
LP：7000
手札：0
モンスター：『竜巻竜』『忍者マスターHANZO』
魔法罠：セット×2 『隠れ里–忍法修練の地』『機甲忍法フリーズ・ロック』


遊大（このターンは逆転のためのでかいターンになる、、！だってのになんなんだこいつ！いつまで余裕でいられるんだ！）
「俺のターン！ドロー！」


遊大
LP：7400
手札：2
モンスター：『フェニックス・ギア・フリード』
魔法罠：セット×1 『デュアル・アブレーション』

輝久「だったら僕はスタンバイフェイズ時、トルネードドラゴンの効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、君の『デュアル・アブレーション』を破壊して貰うよ。」

遊大「俺はチェーン2で『デュアル・アブレーション』の効果を発動！手札を1枚墓地に送り、『エヴォルテクター　エヴェック』を再度召喚された状態で特殊召喚する！」

輝久「やっぱり面倒な罠だね。仕方がないとはいえ、効果を通してしまうのも忍びないな。」


エヴォルテクター　エヴェック
☆4 炎属性・戦士族／デュアル／効果
1500／1000

遊大「さらにエヴェックが特殊召喚に成功した時、墓地からデュアルモンスター1体を特殊召喚する！俺は『重起士道–ゴルドナイト』を特殊召喚！特殊召喚されたゴルドナイトの効果で『武装鍛錬』を手札に加え、これを発動！」
（このまま攻め込む！ここで有利をとっておかなきゃまずい！）


重起士道–ゴルドナイト
☆4 地属性・機械族／デュアル／効果
2000／500


「俺はゴルドナイトとエヴェックをオーバレイ！2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築！X召喚！砕けることのない金剛の鋏！最強の砦となれ！『No.52 ダイヤモンド・クラブ・キング』！」

大地が砕け、ダイヤモンドに包まれた巨大な蟹のモンスターが地の底から這い上がってくる。ダイヤモンドクラブキングは、まるで要塞のように後ろにドッシリと構え、両腕の鋏で遊大を包み庇った。


No.52 ダイヤモンド・クラブ・キング
★4
地属性・岩石族/エクシーズ/効果
0/3000

「これで決める！俺は手札から魔法カード『クロス・オーバー』を発動！フィールドの竜巻竜を、フェニックスギアフリードの装備カードとする！」

フェニックスギアフリードがその大剣を構えると、竜巻竜は光の粒となりその刀に収束した。

輝久「、、ははは、、。」

一見すると遊大が完全な有利をとっているかに見えた。ギャラリーのマシロや律歌にとってはもちろん、遊大自身も自分が置かれている立場をしっかりと認識していた。いや、認識しようとしていた。
遊大がいくら強力なモンスターを展開しようとも先刻と変わらず、練習試合の時と変わらず、毒を含んだその笑顔で遊大の前に立つ輝久が、その確信を疑心へと変えていく。

遊大（ここで主導権を握って、最後までデュエルを有利に進めないと！こいつには主導権は渡しちゃあダメだっ！）

自分のデッキへの疑心が焦りを駆り立て、やがてそれはデュエルへの、自分への疑心へと姿を変える。

「ダイヤモンド・クラブ・キングの効果を発動！オーバーレイユニットを1つ取り除き、自身の攻撃力と守備力を入れ替える！
バトルだ！フェニックス・ギア・フリードで忍者マスターHANZOを攻撃！」

烈火の如く勢いで大剣を振るい、黒尽くめの忍びを真っ二つに切り裂く。

輝久「ははは、、。すごい攻撃だよ！でもクロスオーバーの効果で戦闘ダメージは発生しないよね！」

余裕の笑顔で挑発する輝久を見て、遊大の中の焦りがさらに大きくなる。

遊大「ダイヤモンド・クラブ・キングでダイレクトアタック！！」

巨大な金剛の鋏が、笑みを浮かべる輝久のライフを刈り取る。
衝撃が会場中をビリビリと伝わり輝久が背後に大きく吹っ飛んだ。

輝久「は、はは、、。」
LP：7000→4000

遊大「俺は、武装鍛錬の効果で、墓地のゴルドナイトをデッキに戻し、カードを１枚ドローする、、。」

遊大は膨れ上がった猜疑心を抱えたまま、そのターンの終了を宣言した。
小さく漏れていた輝久の笑う声が次第に大きくなっていくのを感じていた。

輝久「ははは、、。気を悪くしていたならすまないよ。たださ、、」

そこまで言いかけた時、俯いた顔を勢いよく上げ、叫ぶように言い放った。

「楽しみなんだよねえ！せっかく磨いた君のデュエルを！僕の才能で叩き潰すのが！」

遊大は冷や汗を垂らしながら、言葉を詰まらせる。

遊大「、、、っ。」


輝久「とは言っても、このターンは全て未来への投資だよ。樋本遊大、結局デュエルの勝敗を分つのは『流れ』だ。そしてその流れを引き寄せるのはやっぱり才能だよ。僕はこのカードで『流れ』を引き寄せる！」

そう言って、天に高々とそのカード掲げた。



輝久「僕は、『活路への希望』を発動ッ！」



続く