遊戯王 -Duel-Dual-Arise-/19話 黒い霧 作:コングの施し




「う…」


まだ顔を出したばかりの日の光が遊大の瞼の裏を真っ白に染める。堪えきれず目を開けて、重い体をゆっくりと起こした。

光妖中との練習試合から2週間が経過した。今日の日付を記すカレンダーには「会長杯」の文字がある。

机の上に散乱したカードを集め、ノートにまとめた構築とよく照らし合わせた上でデッキケースに入れた。

ノート、デッキケース、そしてデュエルディスクをバッグに詰め、シャツと制服に腕を通す。

玄関の引き戸を開けると、梅雨前のしっとりとした風が頬を撫でた。

入学後初のデュエルの大会、遊大は今、とても長く過酷な戦いの入り口に立とうとしていた。

会場最寄りまでの電車が遊大を乗せてガタガタと揺れる。落ち着きはらんだような表情で通り過ぎる景色をを見つめる遊大だが、2週間前から意図しないため息が続くのもまた事実であった。まるで「落ち着け」と言い聞かせるようなそのため息は、黒い霧となってどんどん彼の視界を狭める。それが嫌で、こうして今もずっと、電車が見せる川沿いの街の景色に目をむけていた。

会場は青目市総合体育会館。本来は体育競技に使われる施設だが、本体育館とは別に、デュエル用の決闘場が新設された。
今日の大会は、ポジション的には1ヶ月後の「全決連」(全国決闘連合大会・中学生の部)の前哨戦にあたる。学生を対象とした大会の中では最大の規模を誇理、勝ち進めば全国一位の座まで駆け上がれるその大会と比べ、今日開催される「会長杯」(青目市決闘連合会長杯)は規模も市のみに限られ、出場者も中学3年生を除く小学校高学年〜中学生となっている。しかしそれ故か、全決連の開催を控えてのこの大会は、1年生にとっては初陣の舞台、そして2年生にとってはこれ以上ない調整の機会となっている。

学校指定のスポーツバッグを肩にかけ、少々迷いながらも遊大は会場の前に立った。まだ開館までは50分もあるというのに、会館の扉の前には多くの学生が詰め寄せていた。

嬢「遊大くん!」

夏服に切り替え、白い旗のように嬢が手を振る。胸に靡く金茶色のスカーフがキラキラと朝日を反射している。
律歌と阿原も既に到着しているようで、嬢の声に反応して遊大の方を見つめていた。

嬢は笑顔を見せてはいるが、初陣というだけあって表情が少し固く、時折ぼーっと一点を見つめていた。律歌と阿原はそれまでの経験ゆえか余裕ある振る舞いを見せていた。
少々遅れて、顧問のマシロも黒い隈をつけて合流した。

当然のことかもしれないが、遊大はここまでガチガチに緊張していた。とまらないため息、そして何より音がうまく入ってこない。緊張を宥めようとする律歌の声も途切れ途切れにしか聞こえなかった。

そんなぼやぼやした彼らを前にして、ついに「開場」の声が響いた。

学生たちが一斉に押し入り、たちまち新設の決闘場の中はデュエルディスクを装着した有象無象で溢れかえった。



遊大たちは決闘場二階の観客席に腰を下ろした。

今日の大会はトーナメント、ベスト8以上には賞品が配られるが、遊大にとってそんなことはどうでもよかった。3回戦に進むと、光妖中の斬隠輝久がシードとして立ち塞がる。2週間前の練習試合、遊大は彼に大敗を喫していた。向き合いたいことではなかったが、惜敗とも言えない試合であったことは彼自身にもわかっていた。
もう1人浮かぶのは同中の大石龍平の存在だった。彼とは「会長杯で戦う」と約束をしていたが、お互いに順当に勝ち進んだとしても、それが可能になるのは準決勝の6回戦。その前に倒さなければいけない相手は決して少ないわけではない。

…とそんなことを考えていたとき、遊大はハッとした。

遊大「先生!龍平がいねえっすよ!!」

マシロ「あー…そういえば…。」

龍平は本来デュエル部の人間ではない。しかし、引率なしでの小中学生の大会の参加は認められていないため、東雲中決闘部と同伴することとなっていた。

遊大「俺、探してきますよ!まだ開会式まで時間あるし!」

遊大は席をひょいと飛び越え、観客席の階段をずんずん駆け上がっていった。
そんな彼を見て、律歌がこぼすようにつぶやいた。

律歌「落ち着かないなあ。遊大。」

マシロ「当たり前っちゃ当たり前のことだよ。初陣で因縁の相手と対決なんてな。あいつ、さっきから『落ち着け、落ち着け。』って言い聞かせるみたいにソワソワした自分と戦ってた。でもこういう時は、正直に体を動かしたほうが気が紛れるものなのさ。」

缶コーヒーを片手にトーナメント表を眺めるマシロがそう答えた。


キョロキョロと会場内を見渡しながら走っていると、2階入り口前の広間に龍平の姿を見た。

遊大は話しかけようと足を近づけた時、彼の傍に佇む少女に気がついた。

龍平は人形みたいに小さな少女を前に、腕を組んで何かを話していた。
彼女は斬隠典子。2週間前の練習試合の同日に龍平との闘いを繰り広げた当人であった。

典子「お願いですわ!あなたに兄を破ってほしい!兄の才能をあなたの力で討ち取ってほしい!」

典子は必死の表情で龍平のそう訴えていた。そうして、彼女を前にして龍平は腕を組んだまま答る。

龍平「いや、言い分はわかるけど、お互いに準決まで進まないと戦えないって何度も…」

そう言いかけた時、龍平は少し離れた遊大の存在に気がついた。

龍平「ああ…悪い。もう時間過ぎてるよな。」

遊大「お、おう。もう先生達待ってるからよ。早く行こうぜ。」

そう答えると、龍平はポケットから手を離し、遊大の方へ歩み出した。
その時、通り過ぎる龍平を見て、典子は必死に叫んだ。

典子「あなただけなの!兄の斬隠輝久の鼻を完全にへし折れるのは、あなたしかいないのですわ!」

斬隠輝久、その名を聞いた時、歩き出していた遊大の足がピタッと止まった。そして、その言葉を聞いて事のある程度を理解した。

ああ、この子はアイツの妹で、きっと自分と同じような目に遭い、自分と同じように思っているのか、と。

自分と同じで、アイツのいう『才能』の強さに納得できていないのか、と。

そう思った時、熱いものが黒い霧を一気に祓っていくのがわかった。気づけば遊大は彼女の前にかがみ、その目を真っ直ぐに見つめていた。

遊大「安心してくれ。君の兄貴は…」

迷いなく彼女の前に向かった遊大を見て、龍平は爽やかな風に吹かれたような、かれの中での迷いが消えていくような、そんな感覚を覚えていた。

遊大「俺が倒す…!」

真っ直ぐに彼女の目を見つめる遊大の視界にもう緊張の黒い霧はなく、その奥には煌々と炎が揺らめいていた。





続く
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