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HOME > 遊戯王SS一覧 > 76話 ミネルバ騎士団

76話 ミネルバ騎士団 作:名無しのゴーレム










「なるほど。インダストで、そんなことが……」
「はいなのです。数多の機械兵を従えたマキナの狙いは、間違いなく……ここ、ミネルバの陥落なのですよ」
「あれだけの戦力です。こちらも総力を結集させなければ……」
「ドリーの言う通りだな。各地に派遣している騎士を呼び戻して……果たして間に合うか」
「怪しいところだ。マキナがこの隙を見逃すとは思えない。今ここに居る戦力だけで戦うつもりじゃないとな」



インダストでの事件を報告に訪れたクリムとドリーム。その対応を話し合うべく、ミネルバ中央の議事堂に関係者を集めた。しかし、現状はかなり厳しい……



「……フローラ。国内に残っているミネルバ騎士団員はどれくらいだ?」
「えっと……第一部隊の半数は国外に駐留しています。第二部隊と第三部隊はほとんど全員揃っているけれど……戦力としては、半減していると言っていいかと」



世界各地の動向を探るために騎士を派遣していたが……まさか裏目に出てしまうとは。精鋭の第一部隊、その半数が不在となればかなりの痛手だ。



「……民間人の保護を最優先だ。教会の聖堂へ避難させよう。教会への協力要請は……ドリー、任せていいか?」
「はい、分かりました」
「次は……フローラ。第一部隊を聖堂付近に展開、第二部隊は避難ルートの確保と誘導、第三部隊は第一部隊のサポートに回せ」
「え……それじゃあ、ミネルバ西部がガラ空きになりますよ!?」
「この戦力でミネルバ全体を守るのは不可能だ。人さえ無事なら国は建て直せる……分かったら今すぐ指揮に向かってくれ」
「……承知しました、団長」



ドリーム、フローラが早足で議事堂を跡にする。次は……



「クリム。一時期は騎士団に属した身とはいえ、君に命を賭けて戦えと言うことは出来ない。俺としてはフィアンマに戻って欲しい……だが、そうはいかないのだろうな」
「当然なのです! 第一ミネルバが敗れるようなことがあれば、フィアンマもただでは済まないのです。だから、私も戦うのですよ」
「そう言うと思っていた。なら、君もミネルバ騎士団の第一部隊と共同で聖堂の守りを固めてくれ」
「……分かったのです。ただし、その前に1つだけ答えて欲しいのです」
「なんだ? 俺に答えられることなら何でも答えよう」
「あなたはどこで何をするつもりなのですか? 騎士団を東部に展開させるのは、まあ理に適っていると思うのです。でも……それなら、わざわざドリーとフローラだけを聖堂へ行かせる理由が無いのです」
「……やれやれ、お見通しか」



クリムはフィアンマとの交流の一貫として一時騎士団に所属していたが、思えばその時から彼女は鋭い洞察力を見せていた。



「騎士団が東部で防衛戦を行っている間、俺は囮として西部に留まる。敵戦力が分散すれば、騎士団の負担は軽くなる。ある程度まで撃退が進んだ後、徐々に戦線を西へ上げていく……これが作戦の全容だ」
「……あなたは、ミネルバにおける自身の価値を分かっているのですか? 例え民間人を守りきったとしても、この国のトップであるあなたが討たれれば敗北も同然なのです」
「そうだな。だからこそ囮としての価値がある。なに、心配するな。こう見えて俺は強いからな」
「それは……分かっているのです」
「なら問題ないだろう。俺の回答は以上だ、君も騎士団に合流してくれ」
「…………はい、なのです」



納得いかない、と言いたげな表情のまま立ち去るクリム。これ以上の問答に意味はないと判断したのか……ともかく、これでいい。






「……あとは、お前だけだな」
「で、病み上がりの俺にはどんな無茶振りをするつもりだ? わざわざ最後まで残したってことはそういうことなんだろ?」
「察しがいいな、スプリント」
「レクスに誉められても嬉しくないっての。ほら、さっさと本題に入れ」
「ああ。スプリント、お前には俺と一緒に囮を務めてもらう」
「ま、そんなことだと思ってたよ。しかし、2人だけってのは無茶が過ぎるんじゃないか?」
「本来ならばドリーにも頼みたかったが……ナターレが居ない以上、教会との繋がりを持つ彼女は聖堂の防衛に回すべきと判断した」
「全く……付き合わされる俺の身にもなって欲しいもんだ」



わざとらしく溜め息をつき、不満たっぷりであることをアピールするスプリント。しかし、決して拒否する素振りは見せない……相変わらず、人の良い奴だ。



「悪い。だが、無茶を頼める相手も限られてるからな。分かっているとは思うが、俺たちの役目は敵の撃破じゃない。少しでも多くの敵戦力を引き付けて、騎士団が防衛ラインを押し上げるまでの時間を稼ぐことだ。その点、お前はうってつけだろう?」
「逃げ回るのが得意って言いたいのか? ったく、褒めてるんだか貶してるんだか」
「褒めてるんだよ。いざという時に、きちんと自分の命を優先してくれる。そんな奴じゃないと、この役目は任せられない」
「……はいはい。精々死なない程度に頑張らせてもらうよ」
「それでいい。……そう言えば、前に使っていた加速装置はどうしたんだ? あれがあるならいくらでも逃げ切れるだろうに」
「あー……あれな、失くしたんだよ」
「……冗談だろ?」
「こんな状況で冗談言うか。ともかく、無いものは無い!」



何故か自信に満ちた口調。記憶が正しければ、彼自身が大事に扱っていたような気もするが……



「そうか。となれば、あまり無理はさせられないな」
「無理させるつもりだったのかよ……そう言われると、インダストのことを思い出すな」
「…………」
「後悔してるのか? 『あの時』、マキナを止められなかったことを」
「……どうだろうな。例え時を遡ろうと、同じことを繰り返すと思うが」



…………なら、一体どこで間違えたのか。目を瞑り、自らの記憶を辿る……






























~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~









「……辻斬り?」
「そうだ。全く、ようやく一段落って時に……いい迷惑だよ」



今から数十年前……後に『大戦争』と呼ばれる、ミネルバの統治権を求めて始まった戦いが終結してしばらく経った頃。結成間もないミネルバ騎士団が初めての訓練遠征を終え、報告に訪れたのだが……



「……被害者に共通点は?」
「あるにはある。全員腕利きのデュエリストだったって共通点がな。問題なのは、それ以外に存在しないってことだ」
「特定勢力を狙い撃ちにしたものでない、ということか……単なる腕試しが目的と見るべきでは?」
「まあそうなるよな……はぁ」



心底面倒そうに頭を掻くのは、『大戦争』の勝利者としてミネルバの統治者の立場を手にした男……その名はギャング。国のトップとしての仕事はこなしているが、当時はどうも退屈そうにしていたことを覚えている。



「どうせなら、他所の国がミネルバ侵攻を狙って派遣した尖兵とかならいいのになぁ」
「いい訳あるか。暇潰しに国家存亡の危機を願うな」
「冗談だ、気にすんな。はぁ……」
「……とにかく、辻斬りについては俺が調査する。事件現場の情報は?」
「これが報告書だ。捜査方法は任せる」



ギャングが無造作に放り投げた書類を受け取る。その仕草からやる気の無さを感じながらも、ぱらぱらと内容に目を通す……



「……なるほど。時間帯は主に夜、1人でいるところを強襲……といったところか。どう見てもただの腕試しだが、見過ごすことは出来ないな」
「じゃ、あとは任せた。俺は帰るからな~」
「なっ……おい!!」



……本当に帰ってしまった。統治者として、仕事は山積みだろうに……思わずミネルバの将来に不安を覚えてしまう。



「……仕方ない。俺は俺の仕事に専念するか」



















あの日から、毎晩パトロールを行うようになった。とは言え実施するのは俺1人……騎士団が動いていると気付き行方を眩まされるのが最も困ると判断した結果だ。それに……万が一、団員が敗れるようなことがあれば騎士団の存在意義が揺らぐ。辻斬りの実力が読めない以上、不用意に団員を派遣することは出来ない。



「……今日も異状なし、と」



国内にも辻斬りの噂は出回っているらしく、夜間の人出は以前に比べ格段に少なくなっている。逆に言えば、それでも外を出歩くのは命知らずの阿呆か腕に自身のある強者だけということになる。辻斬りも、これ以上の凶行はリスクが高いと判断したのか……?






「……!!」



そろそろ引き上げようとした、ちょうどその時。背後から確かな敵意を察知する。



「……何者だ」
「こんばんは。あなた、名前は何と言うのかしら?」
「人の名を聞くなら、まず自分の名を明かすのが礼儀だろう」
「なら別に構わないわ。自分が倒した相手がどんな奴だったのかを後で調べるために聞きたかっただけだから」
「そうか、じゃあ教えてやろう。俺はミネルバ騎士団団長……つまり、この国で一番強い」
「…………へぇ」



どうやら、俺の読みが当たったらしい。相手の目的が強者の打倒であるなら、この肩書きを持つ俺を逃がす訳にはいかない。先ほどから感じていた敵意が劇的に増したことが何よりの証拠だ。



「ここであなたに勝てば、私がミネルバ最強になるってわけ。いいじゃない……さあ、始めましょうか」
「いいだろう。俺も、ようやく寝不足から解放されると思えばいい気分だ」






軽口を叩きながら、両者デュエルディスクを構える……始まる。


















「「デュエル!!」」






レクス LP8000
??? LP8000



























「くっ……」
「……終わりだな」



レクス LP5700
??? LP600



大勢は決した……多少手こずったが、確かな実力差を示すことは出来ただろう。



「もういいだろう、降参しろ。こんな戦いで命を落とすなど、馬鹿馬鹿しい」
「こんな戦い、ですって? 言ってくれるわね……」
「お前が弱いと言っているんじゃない。腕を磨くのは結構だが、その途中で果ててしまっては元も子もない」
「なら、あなたは私をどうすると? 民衆の前で処刑でもする? それとも、まさか見逃してくれるとでも?」
「残念ながら、そのどちらでもない。……どうせ鍛えたいなら、人の役に立つことをするのはどうだ?」
「…………はぁ?」















「……という経緯で、彼女をミネルバ騎士団に迎え入れることになった。ギャング、構わないだろう?」
「まあ、引っ捕らえたのはお前だし、ミネルバ騎士団の団長が誰を騎士にしようが文句はないが……」
「どうした、何か気になることでも?」
「……いや、レクスは思っていたより面白い奴だったんだなって。普通は辻斬りを騎士団に入れようだなんて考えないっての」
「確かに、何の問題もないとは思っていない。だが彼女の実力はうちの騎士たちにも劣っていないし、何より騎士団は人員不足だ。広大なミネルバ全域を守るためには、少しでも多くの人手が欲しい」



ミネルバ騎士団は『大戦争』のあと、ギャングの提案で結成された。その初代団長として、当面の俺の目標は人員の育成……そして人員増強だった。腕に覚えのある連中は大体傭兵ギルドに流れていくことを考えれば、実力さえ確かな人材なら是非とも騎士団へ招き入れておきたかった。例え、辻斬りだったとしても……



「レクスがそうしたいと言うなら俺は止めないさ。お前もそれでいいんだな?」
「……いいも何も、私は無理やり連れてこられたんだけれど」
「へぇ、そりゃご苦労さん。当人どうしの問題に首をつっこむつもりはないから、どうとでも好きにすればいい」
「分かった。じゃあ行くぞ、……」
「どうしたの?」
「いや、そういえばお前の名前を聞いてなかったなと思って」



夜中の街中で彼女を捕らえて、ギャングのところまで連行。その間、彼女の名前を一度も耳にしていなかった。こんな状態だ、答えないかもしれないとは思ったが……



「ああ、そんなこと。……私はマキナ。精々腕を磨かせてもらうわ、団長さん?」












……そう。これが、俺とマキナの出会いだった。思えば……この時点で、俺は間違っていたのかもしれない。













キャラクター紹介



レクス
モチーフ:【王属騎士団】作者:名無しのゴーレム
ミネルバ騎士団団長兼国家代表を務める男性。
生真面目な性格だが、目的達成のためなら手段を選ばない一面もある。
かつてギャングの部下として『大戦争』を戦い抜き、その活躍からミネルバ最強のデュエリストと呼ばれている。



ギャング
モチーフ:【ギャングリラ】作者様:kaTe様
数十年前に『大戦争』に勝利し、ミネルバのトップに立った男性。
『欲しいものは力ずくでも手に入れる』が信条で、自身の敵はあらゆる手段を用いて排除する。
レクスやスプリント、ナターレは『大戦争』時の部下。
現在はレクスに国家代表の座を譲り隠居している。






【ギャングリラ】の使用許可を下さったkaTe様、本当にありがとうございました!



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