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雨天の出会い 作:ガーベージ・ドーロ






 その日は予報通りの天気だった。列島を覆いつくすほど巨大な線状降水帯が重なり、傘が手放せなかった。濡れた傘を閉じ、雨水を払って遊宇は建物の中に入る。遊宇は受付の女性に一声かけると、専用棟に繋がるエレベーターに乗り込んだ。

「遊華、お姉ちゃんだよ。元気にしてる?」

 入口で手を消毒し、遊宇は妹が眠る病室へと足を踏み入れる。窓際のベッドで呼吸器をつけて眠る妹の顔はとても安らかなものだった。

「……なんてわからないよね。あの日以来ずっと遊華は眠ったままなんだから」

 心拍数は安定しており、現状生命に影響はない。とはいえ、ずっと眠ったまま意識が戻っていない彼女は植物も同然であり、人として生きているとは到底言い切れなかった。どれだけ問いかけても微笑み返すことも、応えることもない妹の頭を撫でることしか今の遊宇にはできなかった。

(遊華の容態は安定しているけど、いつ急変するかわからない。どうすれば遊華は……)
「あの……」

 遊宇が自分の無力さに打ちひしがれていた時。そんな彼女に声をかけてきたのは一人の女性だった。黒い帽子とロングコートにサングラスと一見すると不審者にしか見えない人物だった。しかし、その三十代半ばごろと思われる女性は閑散とした病院の中において、あまりにも場違いな美しい女性であり、遊宇は何故か彼女が悪い人間だとは思えなかった。

「あなたは、こちらに入院されている方のご家族の方ですか?」
「……は、はい」
「そうですか。では、この病棟の患者の方は……」

 どこでそれを聞きつけてきたのかはわからないが、この女性の口調や態度からすると胡散臭い人間ではないだろう。そう判断した遊宇は赤の他人にはまず話すことのない事実を口にした。

「はい。皆、ウェイブレット・ネットワークにログインしたまま戻ってきていないデュエリストたちです」

 ウェイブレット・ネットワークが閉鎖に追い込まれた唯一にして最大の理由。それが当時ログインしていたデュエリストたちがログアウトできなくなってしまったというものだ。
 ウェイブレット・ネットワークがデュエリストたちの集うコンテンツとして成功を収めたのが、デュエリストたちが意識ごと仮想空間に入ることができる画期的なシステムによるものであり、時間や国籍を問わず全世界のデュエリストがそのサービスを利用していた。だが、その意識ごと仮想空間に入るというリアルなデュエルを追及したシステムが悲劇を招いてしまった。
 突然、ネットワーク全体を致命的なバグが襲ったのだ。コンピューターウイルスか、それとも大国からのハッキングか。原因がはっきりしないままウェイブレット・ネットワークは立ち入ることができなくなり、未だにバグが発生した時にログインしていたデュエリストたちは仮想世界という牢獄に意識が囚われたままになってしまっているのだ。

「……あの中には私の妹がいます。妹は生まれつき身体が弱くて、長くは生きられないとお医者さんからは言われていました」
「でもウェイブレット・ネットワークなら……」
「ウェイブレット・ネットワークは妹のような病気があって本当のデュエルができない人たちもデュエリストとしてデュエルモンスターズに触れることができました。妹は心からウェイブレット・ネットワークを楽しんでいたんです」

 それなのに、遊華は未だに心から楽しんでいたウェイブレット・ネットワークに閉じ込められてしまっているのだ。彼女は今自分が閉じ込められてしまっていることすら気づいていないかもしれない。生きているか死んでいるかもわからない状態にあるデュエリストたちのことが、妹のことが遊宇はただただ悲しくてたまらなかった。

「そうだったんですね。辛いことを話させてしまってごめんなさい」

 そう言って女性は深々と頭を下げる。帽子とサングラスをつけたままであっても、その一つ一つの仕草に気品と風格が感じられた。

「私はウェイブレット・ネットワークというものを使ったことがないから少し他人事だったけれど……あなたの話を聞けてよかった。あなたの妹さんのような人をすぐにでも助けられるように私も頑張るから」

 そう言って女性は立ち上がると、遊宇に一言礼を言ってその場を去っていった。

(……あの人、いったい何者なんだろう。私も頑張るからって……)

 悪い人間ではないのだろうが、どうも怪しい謎の女性のことを考えながら遊宇は病院を出ようとした。すると、帰路につこうとした遊宇の行く手を塞ぐが如く、数人の男女が彼女の前に立ちはだかった。

「失礼します。私、週刊集英の加藤と申します。細波 遊宇さんでお間違いないでしょうか」
「っ!」

 遊宇は足早にその場を立ち去ろうとした。しかし、カメラを構えた大柄な男に行く先を阻まれてしまった。

「どうして細波さんがこちらの病院にいらっしゃるのでしょうか? こちらはウェイブレット・ネットワークの事件に巻き込まれたデュエリストの皆様が入院されている病院ですよね? 関係者のお一人として遺族の方に謝罪と賠償をして頂けることになったのでしょうか?」

 加藤という週刊誌の記者は、口調こそ丁寧だが、発言は礼を欠いたものが多い。自分の発言を捲し立てるように続けており、遊宇の意志や言葉を聞く気などはなから無いようだった。

「人違いです、道を開けて……!」
「どうなんですか! あなたは犯罪者なんですよ!」
「やめ―――」

 遊宇に詰め寄ろうとする週刊誌の記者たちが遊宇にはまるで全てを飲み込もうとする闇のように思えてならなかった。しかし、そんな闇を祓うかの如く遊宇を守るように一つの影が割って入った。

「やめなさい。嫌がっているのがわからないんですか?」

 それは先程遊宇に話しかけてきた女性だった。女性は割り込むと、帽子とサングラスを取る。女性の素顔を見た週刊誌の記者たちは思わずたじろいでしまっていた。そして、それは遊宇も同じことだった。







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