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遊戯王WW(ワンダーワールド)/64話 癒えない傷痕 作:名無しのゴーレム










「なるほど、そんなことがのう……」



幻獣の聖域を通り、何とか夕方にはフィアンマへ戻ってくることが出来た。フラムの宿に泊まり、彼女に事情を説明していたのだが……



「ともかく、今夜はゆっくりと休むとよい。あの3人の様子を見る必要もあるのでな」
「……感謝する」
「何、妾に出来ることはこの程度しかない。それに、あんな重病人を放っておくわけにもいかないだろう」
「……それほど酷いのか?」
「妾の秘湯で外傷はおおよそ治ったが……いつ目覚めるかまでは保証しかねる。あくまで当人たちの気力次第になるからな」
「気力……か」



マッハ、プリンセス……そしてクイーン。この3人は今になっても意識を取り戻していない。勇者たちが看護を行っているが……思案しているところに、部屋に襖の開く音が響いた。



「鋼。マッハとクイーンが目を覚ましたのですよ」
「そうか……プリンセスは?」
「いいえ、まだ。クイーンも動ける状態ではないので、きちんと回復したと言えるのはマッハだけなのです」
「ふむ……まずは2人の回復を喜ぶべきかのう。鋼、おぬしも見舞いに行ってやれ」
「ああ、そうさせてもらう」
「それなら私が案内するのですよ。こっちなのです」






クリムに連れられ、客間に足を踏み入れる。そこに居たのは……






「……おお、鋼じゃねえか」
「マッハ……身体の具合はどうだ?」
「心配いらねえよ、この通りピンピンしてるぜ」



布団の上に立ち、自身の言葉通りにピョンピョンと跳ねてみせるマッハ。一見すると完全回復したように見えるが……



「マッハ、まだ安静にしてなきゃ……」
「だから大丈夫だって言ってるだろ、ユージ」
「ユージの言う通り、怪我人は黙って寝てるのです。一応、さっきまで意識不明の重体だったのですし」
「う、うるせぇよ。それより、他の連中はどうしたんだ?」
「あっ……」
「……? まさか、何かあったってのか……!?」



言い淀む勇者に対し何かを感じ取ったのだろう、平静を装っていたマッハが急に語気を荒げる。



「…………プリンセスさんが、まだ意識不明で……」
「っ!? …………どこだ、プリンセスはどこに居る!?」
「えっ……と、隣の部屋に……」



勇者が言い終える前に、マッハは勢いよく部屋を出ていった。



「ちょっ、マッハ!?」
「……勇者、クリム。私たちも行こう」
「は、はい!」
「分かったのです」






勇者とクリムを連れ、プリンセスたちが休む部屋へ移動する。そこでは…………






「マッハさん、やめてください!」
「うるせぇ!! いいからとっとと起きやがれ、プリンセス!!」



クロノスの制止も構うことなく、プリンセスの肩を揺さぶり怒声を上げる。明らかに様子がおかしいが、その理由を考察している余裕もなさそうだ。



「仕方ない、か」



気配を殺し、マッハの背後へ近付き……



「……ガッ!?」



力加減を調節した、首への当身。意識を失ったマッハは、成す術もなく床へと崩れ落ちた。



「鋼さん……!?」
「心配要らない、気絶させただけだ。あのままでは、まともに話も出来ないからな」
「…………」
「あの、マッハさんに何があったんですか? さっきまで眠っていたはずなのに……」
「……分からない。プリンセスが意識不明だと聞いてすぐ、部屋を飛び出していったからな」



クロノスの疑問は、この場に居る全員が共通して抱いたものだろう。確かにマッハは直情型だが、ここまで取り乱すのは普通ではない。理由があるとすれば……



「……ひとまず、マッハを部屋に戻してくる。プリンセスと同じ部屋に居たら、また面倒なことになりかねないからな」
「そう、ですね」
「それなら僕も……」
「私1人で十分だ。すぐに戻ってくるから、勇者はここで待っていろ」
「…………はい、分かりました」



マッハを抱え、再び元の部屋まで戻ってきた。布団を整え、その中へ放り込む。



「よ……っと」
「…………」



……どうやら、完全に眠りに就いているらしい。身体の疲労がまだ抜けきっていないのか……あるいは。






「…………プリン、セス……」
「!? ……寝言か」
「……俺が、みんなを……まもる……」
「…………」






……インダストへ侵入する直前に、マッハは私に自分の身を守れと言っていた。私のことを、仲間だとも……その仲間が傷つけられたことで、彼はここまで狼狽したのだろうか。









「…………仲間、か」









「鋼さん、マッハの様子は……?」
「眠っている。しばらくはそっとしておくべきだろう」
「……ありがとうございます」
「気にするな。それより……」



未だに目を覚まさないプリンセスの、その隣。顔色こそ悪いが、上体を起こしていることからある程度は回復したと見ていいはずだ。



「クロノス。彼女から何か聞いたか?」
「い、いえ。まだ何も……」
「そうか」



……それならそれで都合がいい。目線をクロノスから彼女の方へと向ける。



「確認だが、お前がクイーンで合っているか?」
「…………ええ」
「……簡単に状況を説明する。お前は管理塔の制御室で意識を失っていた。それを私が発見し、ここ……フィアンマまで連れてきた」
「フィアンマ……そう」
「体調に問題がなければ、さっそく話を聞かせてもらいたい。まず……制御室で、何があった?」
「…………」



私の質問に対し、クイーンは俯いてしまう。やはり、そう易々と答えたりは……



「……最初に、プリンセスが来たわ。そしてデュエルをして……私は負けた」
「デュエルを……でも、それだとプリンセスがこうなっていることに説明がつかないのです」
「それは…………デュエルが終わったすぐ後に、別の女性が現れたの。彼女がプリンセスに襲いかかって……吹き飛ばされて、気絶させられたわ」



別の、女性……?



「確認だが、その女性というのはマキナではないんだな?」
「ええ。真っ黒な鎧と剣で……そう、プリンセスと同じ顔をしていたの。名前は、確か……」
「ま、待って! その特徴って……!!」



勇者が反応するのも無理はない。今挙げられた全ての特徴は、私たちにとって到底無視できない。



「……名前は、グレイスで合っているか?」
「え……確か、そう言っていたわね。あなたたちの知り合いなの?」
「知り合いというか……そいつの正体を探ることが、私たちの旅の目的でもある」
「そうだったの……恐ろしい相手だったわ。全ての行動に容赦がなくて……私もデュエルを挑んだけれど、あっという間に打ちのめされた」
「つまり、プリンセスもクイーンもグレイスによって倒されたということか……」
「なら、マキナはどのタイミングで制御室に訪れたのです? これまでの話からして、グレイスと鉢合わせしない方が不自然なのです」
「というより、グレイスの目的が分かりませんね。やはり、マキナと協力関係にあるのでしょうか……?」



ドリームの推測は、現段階ではかなり有力だと考えられる。しかし……



「マキナ……そう、マキナ! やられそうになっていた私を、マキナが助けてくれたの!」
「なんだと……!?」
「それは……つまり、2人は敵対関係ということなのですか!?」
「あの……」



勇者がおずおずと手を上げる。



「……どうした、勇者」
「僕もマキナさんとデュエルをする直前に、直接聞いてみたんです。明確は答えは返ってきませんでしたが……どうやら、マキナさんはメシアさんの襲撃に関与していないみたいだったんです」
「そう、だったのか……」



両者が何の繋がりも無いのだとすれば、ますますグレイスの行動原理が分からない。メシア襲撃にインダストへの侵入、この2つを結びつけるもの……



「…………」
「……ハァ。どうやら、まだ謎は残ったままのようなのです」
「クイーン、その後2人はどうなったんだ?」
「……ごめんなさい。デュエルを始めた辺りから、意識がなくて……」



無理もない。敗北したあとに、続けてデュエル……しかもその相手はメシアを倒すほどの実力者だ。度重なるダメージに、限界が来てもおかしくはない。



「……ありがとう、クイーン。おかげで私たちも情報を整理することができた」
「では、次に聞きたいのですが……」















その後もクイーンへの質問は続き、大方聞き終える頃には日も沈みきってしまっていた。今後の行動指針を決める前に、一旦解散して各自休憩をとることとなった。



「…………さて」



女性陣は交代でプリンセスたちの看護をしつつ休息、そして勇者はマッハの……



「失礼する」
「あ、鋼さん……休憩しなくていいんですか? せっかく温泉もあることだし……」
「それはお前もだろう。マッハは私が看ておく、お前も温泉にでも入って休んでおけ」
「すみません。ちょっと、そんな気分じゃなくて」
「……マキナに何か言われたのか?」
「っ……僕は、何も分かってなかったんだなって。色んな人たちの想いを託されてここまで来たのに、それに応えられるだけの力が……覚悟が、足りなかった」
「…………」



インダストへ辿り着くために、多くの助力を必要とした。その期待を裏切ってしまった……そんな思いが、勇者を責め立てているのか。



「勇者……」
「勇者だなんて、言われる資格もないんですよ。こんな僕じゃ、世界をどうにかするなんて出来っこない……」
「……誰も、お前1人に世界を救ってほしいなんて望んでいない」
「え……?」
「そもそも、人1人で出来ることなどたかが知れている。神だろうと英雄だろうと……単独の存在が世界に及ぼす影響は、そう大きくない。それぞれに出来ることをした結果が、世界を形作る……私は、そう思っている」
「鋼さん……ありがとうございます。そうですよね……僕に出来ること、もうちょっとだけ頑張ってみます」



先程までと比べて、少しはマシな顔になったようだ。



「それじゃあ、温泉に入ってきます。鋼さん、マッハのことをお願いしますね」
「ああ、任せておけ」



勇者は立ち上がり、襖を開き部屋を出る……そして、この場には私とマッハだけが残された。



「…………マッハ、起きているんだろう」
「……バレてたか。ユージがあんな感じだったから、タイミングを逃しちまってな」



ゆっくりと布団から起き上がるマッハ。勇者が話している途中に目覚めていたことに気付いていたが、指摘する間もなかった……まあ、すぐに戻ってくるだろう。



「もういいのか」
「ああ……さっきは悪かった。思わず取り乱しちまって」
「全くだ……それで、何があったんだ」
「それは…………」






ゆっくりと、自らの身に起きたことを語り始めたマッハ。始めは開かれていたその拳は、話が進むにつれて強く握りしめられていた……その感情は怒り、あるいは悔しさか。






「……なるほどな。やはり、インダストには私たちの知らない勢力がいたと見ていいだろう」
「…………」
「……マッハ?」
「鋼……悪かった」
「何を謝っているんだ?」
「インダストに行く直前、お前に言っただろ。仲間のために、まずは自分の身を守れって……そんなことを偉そうに言っておいて、俺は自分のことも守れなかった。カイロスが気まぐれに俺を生かしたから助かったが、あのままトドメを刺されていたら……何の意味もない、本当の無駄死になるところだった」



……あの時の言葉は、マッハ自身すらも縛っていたのか。



「……戦いとはそういうものだ。勝てば生き、負ければ滅びる。それを他者に詫びる必要はない」
「でも……!!」
「私たちは未熟だ。メシアの結界の中で生きてきた私たちが、戦乱の世を戦い抜いてきた英雄たちに勝てる方がおかしい」
「っ……じゃあ、俺たちはどうすればいいんだよ!? このまま全部投げ出せって言うのか!?」
「それを決めるのはお前自身だ。お前はどうしたい?」
「俺が、どうしたいか……」



俯き、考え込む様子を見せるマッハ。



「…………プリンセスが目覚めない以上、すぐに出発するわけにもいかない。時間はある、ゆっくり考えるといい」
「……プリンセスは、そんなに具合が悪いのか?」
「いや、フラムの秘湯で治療したから外傷はほぼ完治しているはずだ。なのに意識を失ったままでいる理由は分からないが……」
「それじゃあ、いつ起きるのかもわからないってことかよ」
「…………もうすぐ勇者が温泉から戻ってくる。お前はもう少し寝ておけ」
「ああ、そうさせてもらうよ」









勇者が戻ってきた後、私たちはフラムに作ってもらった夕食をいただいた。そして、その後……






「さて、それでは……今後どうするかについて、話し合いを始めるのです」



夕食の片付けも済み、しばらくした頃。全員が集まった後、クリムが口火を切った。



「ドリー、あなたはどうするつもりなのです?」
「私は……まずは、ミネルバに戻って今回の出来事を報告することになるでしょうね。マキナの狙いを考えると、至急防衛体制を整えることになりそうです」
「明日ミネルバに戻ったとしても、侵攻が始まるまでに間に合うんでしょうか……?」
「あれだけの大軍、そうスムーズに準備が整うはずもないのです。しかもミネルバを攻めるなら、単なる力押しでは勝ち目も薄い。となればかなり綿密に作戦を練って……どう見積もっても、今日明日に攻勢を仕掛けることはまずないのです」
「私も同意見です。ですので、明日の早朝にここを出発してミネルバへ向かいます」
「それなら、私もドリーに同行するのです。少し、気になることもあるので」
「ええ、構いませんよ」



クリムとドリームはミネルバへ向かうらしい。妥当な選択だろうが……



「……クイーン、あなたは?」
「私は……インダストに戻ろうと思う。反対されるのは分かってるけど……あの国を、放っておくことは出来ないの」
「まあ、そう言うのは想定済みでしたが……さすがに1人で帰す訳にはいかないですし、フィアンマの人間を見張りに付けることにはなると思うのです」
「……ええ、それで構わないわ」



クイーンはインダストへ……プリンセスと和解したとは言っていたが、その言葉を鵜呑みにすることは出来ない。帰国させるにも条件は必要だ。



「……それで、あなたたちはどうするのです?」
「僕たちは……」
「プリンセスが目覚めない以上、俺たちはここを離れるわけにはいかねぇよ」
「……マッハの言う通りです。僕たちは、ここに残ります」
「……分かりました。これで話し合いは終わりなのです。明日の準備もあるので、これで失礼するのですよ」



クリムとドリームが退出し、残された私たちは……



「…………」
「…………」



どうすることも出来ず、沈黙が流れる。この場にいる全員が理解しているはずだ……このままではいけないということを。



「……クイーン」
「え……?」
「もう夜も遅い、一度温泉に入ってきたらどうだ」
「…………ええ、分かったわ」



突然の申し出に疑問を投げ掛けることもせず、クイーンが部屋を出る……どうやら、こちらの意図を汲んでくれたらしい。



「えっと、鋼さん……?」
「…………勇者、マッハ、クロノス。今からする話を黙って聞いてくれ」
「え……」
「……いいぜ。話してみろよ」
「ありがとう、では……」












----なるべくなら、使いたくない手ではあった。しかし、他にこの状況を打開しうる方法は思い付かない……仲間のため、私に出来ることは。




















「もし、明日の朝になってもプリンセスが目覚めなければ…………」








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ギガプラント
こうして見るとボロボロに終わってますね。
まぁ敵さんの強さが半端無いから仕方ない……。
プリンセスが文字通りの眠り姫状態になってしまいましたが、今後どうなるのか。
新章的な予感がしてまいりました。 (2020-12-16 07:52)
名無しのゴーレム
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。

立ちはだかる壁の大きさに打ちのめされる結果となってしまったインダスト編。どうしてこうなった(おい作者)
お察しの通り次回から新章です。絶望感漂う中、勇者たちはどうするのか…お楽しみに。 (2020-12-16 18:27)

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