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HOME > 遊戯王SS一覧 > Side Fortune:ゼロに還す者

Side Fortune:ゼロに還す者 作:名無しのゴーレム








「……ここも違うか」



ペイジの提案でフォーチュンシティ中の怪しい箇所をまわり始めてしばらく経ったが、それらしき情報は一切ない。まあ、まだ半分も行ってないからなぁ。



「まったく、ペイジも人遣いが荒いぜ。俺1人でフォーチュンシティの南半分を回れって」



とはいえフォーチュンシティは俺にとって庭みたいなもんだから、適役といえば間違いなく適役だ。人を隠せそうな場所だっていくつか心当たりもあるが、それにしても候補が多すぎる。せめてもうちょっとヒントがあれば……



「はぁ、頭使うのは苦手だってのに。仕方ねぇ、地道に行くか……? 何だありゃ」



通りすぎそうになった路地裏、そこに紙片が落ちているのを見かける。何となく気になって、拾い上げてみると……



「これは……写真、か?」



絵でないことは分かるが、写真はあんまり見たことがないからな……というか、そんなことはどうでもいい。大切なのはそこに写っているものだ。



「エレク……なんでここに、あいつの写真が?」



リリィに頼んでいた捜索用のチラシ……は違うな、さすがに出来上がるのが早すぎる。だとしたら、ここにこの写真がある理由は……1つしかない。



「……どう考えたって、ここに誘拐犯が居たってことだよな。そこそこ綺麗だからずっと前からあったってのはない。となれば、今この辺にいる可能性も……!?」



考えを巡らせていたその最中に感じたのは……上方からの視線。それもチラッと見るようなものじゃない、まるで獲物を狙うような……でも、一体どこから!?



「……上からここを見張れる場所なんて、そんなに候補はないっての。一番怪しいのは……あの宿!!」



そうと決まればさっさと踏み込んで……あ、忘れてた。まずは通信機でペイジに連絡を……



「……あれ。そう言えばこれって、どうやって使うんだ?」



ペイジが使い方について何か言ってたような気もするが、あんまりちゃんと聞いてなかった。とりあえずボタンを適当に弄ってみて……



「おーい、もしもしー? ペイジ、聞こえるかー? 今から怪しい宿に踏み込むから、何かあったらまた連絡するからなー……こんなんでいいかな」



通じてるのかもよく分からないが、今出来ることはこれくらいだろう。あまり悠長にしていたら逃げられる可能性だってあるからな。



「じゃ、突撃といきますか」



……念のために、保険はかけとくか。


















「ここに、誘拐犯が……?」



宿は2階建て、そして話を聞いたところによると今使われている部屋は目の前の1部屋だけ……ついでに今朝未明に人の出入りがあったらしい。怪しさ満点すぎて罠を疑うが、かといって無視を決め込む訳にもいかない。意を決して、扉に手を掛ける。



「…………オラァ!!」



意味もなく大声を張り上げながら扉を開ける。すると、そこに居たのは……






「随分荒々しいな……でも、ここに辿り着いたのは誉めてやるよ」






部屋に押し入り真っ先に目に飛び込んで来たのは、椅子に座る1人の男。余裕綽々といった様子で、突然見知らぬ人間が入ってきたというのに驚く素振りもみせない。そしてこの口振り……



「……テメェが、エレクを拐った犯人か!?」
「ああ、そうだ。彼女なら隣の部屋に居る」
「……えらくあっさりと認めるじゃねえか。まあいい、エレクは返してもらうぜ」
「そう簡単にはいかないな。彼女を返して欲しければ……」



男はゆっくりと立ち上がり、デュエルディスクを取り出して見せた……なるほど、そういうことか。



「力ずくで取り返してみせろってか……ハッ、分かりやすくていいじゃねえか」
「……始める前に自己紹介くらいはしておくか。俺はゼロ、しがない傭兵だ。お前は?」
「俺はチャーム、何でも屋『ハンディ』のリーダーだ!」
「リーダー、ね……じゃあ、期待させてもらうとするか」



軽口を叩きながらも、デュエルディスクを構えた瞬間……一瞬にしてその雰囲気が変わる。傭兵とやり合うのは初めてだが……俺のすることは何も変わらない。全力でぶつかって、勝つ!


















「「デュエル!!」」









チャーム LP8000 手札5
ゼロ LP8000 手札5



「先攻は譲ってやるよ。思う存分かかってきな」
「へっ、余裕ぶりやがって……俺のターン!」



先攻だと相手からの妨害はほぼない代わりに、こちらからバトルを仕掛けることも出来ない。なら、俺がすべきことは……



「『P・C-黄袖のイエロー』を召喚! イエローの効果発動、自身をリリースしてデッキから『P・C-青裾のシアン』を守備表示で特殊召喚!」
「レベル4のモンスターをリリースしてレベル4のモンスターを特殊召喚……狙いは壁の展開か、墓地肥やしってところか?」
「さあな、勝手に考えてろよ。カードを1枚セットして、ターンエンドだ」



チャーム LP8000 手札3 モンスターゾーン P・C-青裾のシアン(表側守備表示) 魔法・罠ゾーン 伏せカード
ゼロ LP8000 手札5



「俺のターン、ドロー。俺は『ゼロティック・ランサー』を召喚」



攻撃力1700のモンスター……でもシアンの守備力は2000、戦闘破壊は狙えない。



「ランサーの効果発動。自分の墓地に存在するカードが0枚の場合、このカードの召喚・特殊召喚成功時にデッキから同名モンスターを2体まで特殊召喚できる。俺は2体の『ゼロティック・ランサー』を特殊召喚」
「一気にモンスターを3体も……だが、それでもシアンの守備力の方が上だ!」
「そんなことは分かってるっての……装備魔法『ゼロティック・エクスカリバー』をランサーに装備。自分の墓地のカードが0枚である限り、このカードを装備したモンスターは攻撃力が1500アップする!」


ゼロティック・ランサー 攻撃力1700→3200


「バトルだ。エクスカリバーを装備したランサーでシアンを攻撃!」
「させるかよ、リバースカードオープン! 永続罠『ペインティング・スフィア』! 相手モンスターの攻撃を無効にして、攻撃対象となったP・Cモンスターの属性を攻撃モンスターと同じにする。シアンの属性を水から闇に変更するぜ!」
「防がれたか……バトル終了、そのままターンエンド」



チャーム LP8000 手札3 モンスターゾーン P・C-青裾のシアン(表側守備表示) 魔法・罠ゾーン ペインティング・スフィア
ゼロ LP8000 手札4 モンスターゾーン ゼロティック・ランサー(エクスカリバー装備)、ゼロティック・ランサー2体 魔法・罠ゾーン ゼロティック・エクスカリバー



「俺のターン、ドロー。シアンの効果発動、自身をリリースしてデッキから『P・C-赤襟のマジェンタ』を特殊召喚。永続魔法『魔法のアトリエ』発動! このカードの発動時の効果処理として、デッキからP・Cモンスター1体を手札に加える。そして『P・Cーメディウム』を召喚! メディウムの効果発動、墓地のイエローを除外して自身のレベルをイエローと同じにする!」


P・Cーメディウム レベル3→4


「アトリエの効果発動。お前のフィールドのエクスカリバーを装備したランサーを、炎属性に変更する!」
「属性を変更だと……?」
「お互いのフィールドに同じ属性のモンスターが存在するとき、手札のこのカードを特殊召喚できる。来い、『P・Cーディステン』! レベル4のマジェンタとメディウムでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 世界を紅く塗り替えろ、『P・Cー焼衣のファンレイン』!! ファンレインの効果発動、自身のエクシーズ召喚成功時に相手フィールドの炎属性モンスターを自身のオーバーレイユニットにする!」



これでエクスカリバーを装備したランサーをオーバーレイユニットにすれば、ファンレインの攻撃力を上回るモンスターも居なくなる。



「ほう、そう来たか……なら、墓地に送られたエクスカリバーの効果発動。デッキから『ゼロティック・アサイラント』を特殊召喚。アサイラントの効果発動。デッキからゼロティックカード1枚を手札に加える」
「そんな効果があったのかよ……だが関係ねぇ! 続けてディステンの効果発動! フィールドの自身と墓地のシアンの2体を除外することで、それらを素材に融合召喚を行う。世界に鮮やかな色彩をもたらせ! 融合召喚、『P・Cー審判のブオナローティ』!」
「1ターンの間にエクシーズ召喚と融合召喚……いいじゃねえか、最高だ!」
「チッ、何盛り上がってんだよ……ブオナローティの効果発動、このカードの攻撃力は融合素材としたモンスターの属性の数×700アップする!」


P・Cー審判のブオナローティ 攻撃力1000→2400


「バトルだ、ブオナローティでランサーを攻撃!」


ゼロ LP8000→7300


「ファンレインで残りのランサーを攻撃だ!」


ゼロ LP7300→6400


「っ、結構なダメージを貰っちまったか」
「バトル終了、そのままターンエンドだ」



チャーム LP8000 手札2 モンスターゾーン P・C-審判のブオナローティ、P・Cー焼衣のファンレイン 魔法・罠ゾーン 魔法のアトリエ、ペインティング・スフィア
ゼロ LP6400 手札5 モンスターゾーン ゼロティック・アサイラント(表側守備表示)



「俺のターン、ドロー。『ゼロティック・スパイ』を召喚。スパイの効果発動、お前のフィールドに存在するファンレインを手札に……いや、エクストラデッキに戻す」
「……わざわざ攻撃力の低いファンレインを?」
「俺のモンスターが奪われたままってのも気分が悪いからな……カードを1枚セット。これでターンエンド」



チャーム LP8000 手札2 モンスターゾーン P・C-審判のブオナローティ 魔法・罠ゾーン 魔法のアトリエ、ペインティング・スフィア
ゼロ LP6400 手札4 モンスターゾーン ゼロティック・スパイ、ゼロティック・アサイラント(表側守備表示) 魔法・罠ゾーン 伏せカード



「俺のターン、ドロー」



ファンレインは除去されたが、まだ俺のフィールドには攻撃力2400のブオナローティがいる。ちょうど攻撃表示のモンスターがいるんだ、このまま一気に攻め立てて……



「『P・C-イーゼル』を召喚。効果発動、墓地のメディウムを特殊召喚! そして魔法のアトリエの効果発動、メディウムの属性を闇に変更! レベル4のイーゼルにレベル3のメディウムをチューニング! 世界を黒く塗りつぶせ! シンクロ召喚、『P・Cー無爛のオギュスト』!」
「シンクロ召喚ねぇ……これで3種類目だ。楽しませてくれるじゃねえか」
「っ、オギュストの効果発動! このカードのシンクロ召喚成功時、相手の闇属性モンスター1体を装備する! 俺はアサイラントを装備! そしてオギュストの攻撃力はこの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分だけアップする!」


P・Cー無爛のオギュスト 攻撃力2100→2850


「また大ダメージを与えてやるよ。バトル、オギュストでスパイを攻撃!」



この攻撃が通れば相手のモンスターは居なくなる。そのままブオナローティのダイレクトアタックに繋げれば……



「……残念だが、そうはいかない。リバースカードオープン。永続罠『ゼロティック・オーバーロード』。このカードの発動時の効果処理として、このカード以外のフィールドのカードを全て除外する」
「なっ、あぁ!?」



突如として発生した、ブラックホールのような暗闇。それに吸い込まれるようにして、俺のカードが全て消え去る……!!



「そして、デッキからこのカードを特殊召喚する。来い、『ゼロティック・マグナ・ドラゴン』! このカードの攻撃力は、自分フィールドに表側表示で存在する永続罠カード1枚につき1000アップする」


ゼロティック・マグナ・ドラゴン 攻撃力0→1000


「無茶苦茶なカードを使いやがって……!!」
「おいおい、戦いが理不尽なものなのはどこの世界だって一緒だろ? 大事なのはそこからどう立ち直り、相手を追い詰めるかだ」
「っ……ターン、エンドだ」



チャーム LP8000 手札2
ゼロ LP6400 手札4 モンスターゾーン ゼロティック・マグナ・ドラゴン 魔法・罠ゾーン ゼロティック・オーバーロード



「俺のターン、ドロー」



俺のフィールドに、あいつの攻撃を防ぐカードはない。ここで、一気に押しきられたら……!!



「バトルだ、マグナ・ドラゴンでダイレクトアタック」


チャーム LP8000→7000


「グッ……!!」
「バトル終了、カードを1枚セットして、ターンエンドだ」



ターン、エンドだと……!?



「テメェ……俺を舐めてるのか!? それだけ手札があって、この状況でやることがダイレクトアタックだけだと!?」
「……さあ、どうだろうな。でも何だっていいだろう? お前が勝てばいい、それだけの話なんだからな」
「チッ……!!」



間違いない。コイツ、俺のことを舐めきってやがる……!!



「気にいらねぇ……テメェは、絶対にぶっ潰す!!」



チャーム LP7000 手札2
ゼロ LP6400 手札4 モンスターゾーン ゼロティック・マグナ・ドラゴン 魔法・罠ゾーン ゼロティック・オーバーロード、伏せカード



「俺のターン、ドロー!!」



相手のフィールドには攻撃力1000のマグナ・ドラゴンとオーバーロード、そして伏せカードが1枚……見えているカードだけなら、そこまでガードが固くはない。この状況で、俺が取れる最高の戦術は……



「……『P・Cーベストゥーラ』を召喚! ベストゥーラの効果発動。自身をリリースすることで、除外されているP・Cモンスターを合計レベルが8になるように特殊召喚する。戻ってこい! イエロー、シアン! そして手札の『P・Cーソルシ・メチエール』をペンデュラムスケールにセット!」
「ペンデュラムモンスターまで……おいおい、ペンデュラム召喚も使うのか?」
「いや、今回は使わねぇよ。メチエールのペンデュラム効果発動。自分フィールドのイエローとシアンをリリースして、自身を特殊召喚! 通常魔法『ミラクル・パレット』を発動! 墓地のマジェンタ、イエロー、シアンの3体をデッキに戻して2枚ドロー」



この手札は……なら!



「永続魔法『魔術師の再演』発動! 蘇れ、メディウム! メディウムの効果発動。墓地のベラトゥーラを除外して、自身のレベルを2に変更する!」


P・Cーベラトゥーラ レベル3→2


「レベル8のメチエールに、レベル2のメディウムをチューニング! 至高の芸術家よ、大空のキャンバスに世界を描き出せ! シンクロ召喚、『P・Cー月夜のフィンセント』!!」
「レベル10の、シンクロモンスター……それがお前の切り札か!」
「フィンセントの効果発動! 墓地のメディウムを装備する! そしてこの効果で装備したモンスターと同じ属性としても扱い、その数×300だけ攻撃力をアップする!」


P・Cー月夜のフィンセント 攻撃力3000→3300


「さらにこのカードと同じ属性のモンスターが召喚・特殊召喚された場合に、装備したモンスターを墓地に送ってそれを無効にすることが出来る。フィンセントは闇属性……お前のモンスターも全部闇属性だ。お前にはもう、モンスターを出させもしねぇぜ!」
「……へぇ、考えたな。こりゃあ確かに……」
「バトルだ! フィンセントで、マグナ・ドラゴンを攻撃!!」


ゼロ LP6400→4100


「バトル終了。装備魔法『魔術師の絵筆』をフィンセントに装備!」



フィンセントには装備カードを墓地に送ることで破壊を無効にする効果を持つ。直接フィンセントを狙ってきても、これで……



「俺はこれで、ターンエンドだ」



チャーム LP7000 手札0 モンスターゾーン P・Cー月夜のフィンセント(メディウム、絵筆装備) 魔法・罠ゾーン 魔術師の再演、魔術師の絵筆、P・Cーメディウム
ゼロ LP4100 手札4 魔法・罠ゾーン ゼロティック・オーバーロード、伏せカード



「俺のターン、ドロー……さて、困ったな」
「へへっ。どうした、手詰まりか?」
「…………仕方ない、か。もうちょっと力を見てみたかったが、これ以上引き伸ばすのも無理なようだからな」
「……何、言ってんだ……?」



その言い方、まるで……



「永続魔法『セメタリー・ゼロ』発動。このカードが存在する限り、墓地に送られるカードは代わりに除外される。そして通常魔法『魂の解放』発動。墓地のランサー3体、エクスカリバー、マグナ・ドラゴンを除外する。そして魂の解放も除外されて……これで、再び墓地のカードは0枚になった」



あいつのデッキは、墓地のカードが0枚のときに効果を発動するカードがあった。まさか、そのために……!!



「……行くぜ? 通常魔法『ゼロティック・フュージョン』発動! このカードはデュエル開始から4ターン目以降にしか発動できない。手札・フィールドのカードを素材に融合するんだが、墓地のカードが0枚のとき……デッキのカードを融合素材とすることができる」
「な、んだと……っ!!?」
「デッキから5体のゼロティックモンスターを、融合素材として墓地に送る。ゼロの果てに棲む破壊の王よ、暴虐の力を纏いて全てを無に帰せ! 融合召喚、『ゼロティック・カオス・クラッシャー』!!」



攻撃力4000の、融合モンスターだと!!?



「…………っ、フィンセントの効果発動!! 同じ属性のモンスターの特殊召喚を……」
「無駄だ。お前のモンスターが無効化できるのは特殊召喚のみ。『特殊召喚するカード効果』を無効化することはできないんだからな」
「そん、なっ……!!」



このままじゃフィンセントがやられる。いや、破壊は免れるから次のターンのドロー次第では……



「カオス・クラッシャーが存在し俺の墓地のカードが0枚の場合、相手フィールドのモンスターは全て表側攻撃表示となり、攻撃力は0になる。そしてこのカードの戦闘によって発生する戦闘ダメージは……倍になる」


P・Cー月夜のフィンセント 攻撃力3300→0


「…………あ……」



攻撃力4000のカオス・クラッシャーが攻撃力0のフィンセントを攻撃して、ダメージが倍になれば……その数値は8000。一撃で俺のライフは消し飛ぶ。



「チクショウ……!!」
「……まあ、手詰まりになるよな。俺だって、本当にコイツを出す気はなかったんだが……恨むなら、中途半端に強い自分を恨みな」
「クソッ……」



その気になればいつでも勝てたデュエル……それを出来るだけ先伸ばししようとしてたってのか。舐めてるなんてレベルじゃない、完全に掌の上で転がされてたってことじゃねえか……!!



「……打つ手がないなら降参しろ。しばらく拘束させてもらうが、命の安全は保証する」
「降参、だと……?」



確かに、このままじゃ俺は負ける。それなら降参した方が……






「…………降参、する……訳ねぇだろうが!!」



「……お前、自分が置かれている状況が分かってないのか? こんなところで無駄な意地を張ったところで、文字通り無駄死にすることになるだけだって」
「分かってるさ。本当はどうすべきなんかなんて……だがな。俺は絶対に、自分から諦めることなんてしない!!」
「!!」



例えどんなことでも、一度諦めちまったら……俺は、もう俺を信じられなくなっちまう。



「…………そうかい。そんなに死にたいなら、望み通りにしてやるさ。バトルフェイズに移行」









これで終わりか……悪いな。ペイジ、ブラド、リリィ……









「ゼロティック・カオス・クラッシャーで……」















「チャーム、無事か!!」






攻撃宣言が終わる、その直前。大声が部屋中に響き渡る。



「ぺ、ペイジ!? お前、どうして……」
「説明は後だ!! ……お前が、エレクを誘拐した犯人か!?」
「……そうだ。しかし、助けに来るにはタイミングが遅かったな。まずはこいつを始末してから、次にお前を……」
「私を、どうするって?」
「…………!!! なっ、クッ……!!」



どこからか現れた蝙蝠の群れがゼロの周辺を飛び回り、その視界を奪う、これは、まさか……



「……ふぅ、何とか間に合ったな。チャーム、相変わらず無茶しやがって。俺たちがフォローしなかったら死んでたぞ?」
「うるせぇよ……でも、助かった。ありがとな、ブラド」



蝙蝠がまとまり、人の形をとる……そうして姿を見せたブラド。ゼロの背後に立ち、その行動を封じてしまった。



「……吸血鬼が応援に来るとは、予想外だったな。こんな昼間に、よく外を歩き回れるもんだ」
「ああ、吸血鬼使いの荒い組織に居ると辛いもんだ。おかげでこちとら、身体中に穴が開いたままこんなことさせられてるんだからな」



ブラドは昼間に外出するとき、日の光を直接浴びない格好をすることで何とか短時間の行動が可能になると言っていたはずだ。それが蝙蝠になって外から侵入したってことは、多少なりとも日光を食らっているはずなのに……



「……分かった、俺の負けだ。エレクはそこの部屋に居るから、さっさと連れていきな」
「チャーム、ペイジ! 確認に行け!」
「おう!」



ゼロをブラドに任せ、ペイジとともに隣の部屋へ走っていく……



「エレク、無事か!!」






「…………」






「……あれ?」
「エレク……何をしている?」



捕らえられているはずのエレク。しかし、目の前に居た彼女は……



「ええと、このコードなら……この言語は違うから、やっぱり……」



……パソコンを前にして、何やら作業を行っている。ご丁寧にヘッドホンまでつけて、周囲の音はシャットアウトしてるようだ。



「……あのー、エレク? もしもーし? ……おい、本当に聞こえてないのかよ」
「私たちの姿にすら気付かないとは、凄まじい集中力だな。とにかく……」



ペイジはエレクの元へと歩み寄り、ヘッドホンを外してみせた。



「へ? ……あれ、ペイジさんですか? それにチャームさんも……どうしたんですか?」
「色々と聞きたいことはあるが……今は、何をしていたんだ?」
「えっと……アミューズで直して欲しいプログラムの見本を貰ったので、まずはその法則から解析しようと思いまして。私たちがよく使っているものとは別の言語みたいなので
、結構手間取っちゃいまして……あはは」
「…………そうか」
「いや、待てよ! エレク、お前誘拐されたんだろ!? それがなんで呑気にパソコンなんて弄ってるんだよ!?」
「……誘拐? 何の話ですか?」
「…………ハァ!?」



なんで当の本人に危機感の欠片もないんだよ! まさか誘拐じゃないとでも? いや、それならマスクドドラグーンが連絡してくるはずがない。じゃあ、どういうことだ……!?



「……私たちは、マスクドドラグーンの連絡を受けてお前を探していたんだ。どうして彼に話もせずにホテルを出ていったんだ?」
「え? 話もせずにって……私はフォーチュンモールの周辺だと作業が出来ないってオーナーさんに言われたから、ゼロさんと一緒にここへ来たんですけど……」
「オーナー……だと?」
「はい。えっと、もしかして大事になってたりしますか……?」
「…………とりあえず、リリィに連絡しておく。チャーム、お前はブラドのところに戻ってゼロから話を聞いてこい」
「あ、ああ。分かった……」












すぐさま先ほどの部屋に戻り、ゼロに問い詰める。すると……






「そうそう。俺はお前たちのボスから依頼を受けて、エレクをここまで連れてきたんだ。ハンディのメンバーの力を測ってくれって言われてな。ほら、これが依頼書だ」
「オーナーが……依頼しただと?」
「……つまり、全部茶番だったってことかよ」



それなら、ここまでの奇妙な点についても納得がいく。中途半端な隠れ方も見つけてもらうため、そして無理矢理引き伸ばしたデュエルもその実力を知るため……全部、俺たちの力を試すためだったのか。



「しかし、ヒントなしでここを見つけるとはやるじゃねえか」
「……へっ。テメェに誉められても何にも嬉しくないっての」
「そう言うな。……俺だって、本当はマスクドドラグーンの護衛をするだけの予定だったんだ。それがエレクを連れていく条件として、この依頼を受けろって……全く、いい迷惑だ」
「そりゃあ、まあ……ご苦労様だな」
「…………」
「どうした、チャーム。機嫌が悪そうだが……」
「悪いんだよ、実際。俺が命を賭けたのも、全部茶番だったってことだろ」
「……傭兵として、無駄に命を捨てる真似は感心しないな。だが……男としては気に入った。まずはその覚悟を貫き通すだけの強さを手に入れることだな」
「うるせぇよ……言われなくても、強くなってやるさ」
「強くなる以前に、お前はもう少し頭を使うようにするべきだな」



いつの間に移動したのか、ペイジがエレクをこちらの部屋に連れてきていた。



「第一、通信機はちゃんと使え。調整が甘かったからまともな音声が拾えなかったぞ。何とか発信源を探知して来たから良かったものの……」
「あ、あれでペイジに繋がってたのか。いやぁ、てっきり壊れてるのかと……」
「……まさかお前、使い方を忘れているわけじゃないだろうな?」
「ぎ、ギクッ。そ、そんなこと……ほら、一応ペンキで俺の移動先を書いといただろ? あれのおかげでペイジたちも迷わずここに来れたんだし……」
「いや、ペンキで書くな。思いっきり周りに迷惑をかけてどうする……それ以前に、誘拐犯が居るかもしれない現場に1人で乗り込むな。これは捜索を始める直前に言ったはずだが……?」
「いや、だってお前を待ってる間に逃げられたら……」
「それで考えなしに突撃して、危うく命を落としかけたんだろうが!! 今日という今日は我慢ならん、お前にはみっちりと……」
「と、ともかく! エレクは見つかったからこれで依頼は完遂だよな! なら、俺はこのまま街に繰り出して……」



ペイジの小言から逃げようとしたその瞬間、両肩を万力のような力で握り締められる。



「い、痛っ!!」
「逃がすと、思うか?」
「ひっ、ま、待って……」
「誰が待つか!! いいか、まずはペンキを落として来い! ……いや、逃げ出さないよう私が監視してやる。説教はそれが終わってからだ!!」





















……結局、ペイジによる説教が終わる頃にはエレクはマスクドドラグーンたちとともにアミューズへと出発していたのだった。
























~Side Fortune 完~















キャラクター紹介



ゼロ
モチーフ:【ゼロティック】 作者様:#ガイア#様
傭兵ギルドのアミューズ支部長を務める男性。
依頼の遂行を第一とする仕事人だが、強い相手や強くなりそうな相手を見つけるとデュエルを挑む戦闘狂の一面を持つ。



【ゼロティック】の使用許可を下さった#ガイア#様、本当にありがとうございます!


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ギガプラント
やっぱり色々召喚法があると主人公感がでますね。ペンキメモってのもまたなんか個性的で好き。
ゼロさんのクールに見えて熱さが滲み出てるの好き。 (2020-10-15 21:54)
#ガイア#
こちらこそ「ゼロティック」の使用ありがとうございました!m(*_ _)m (2020-10-15 22:22)
名無しのゴーレム
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。

そしてハブられる儀式召喚までセットですね(笑)
チャームの設定を活かそうとした結果こうなりましたが、ポンコツっぷりがあらわになっただけでしたね…
ゼロは大人の余裕と熱血が合わさり良いキャラになってくれました。カードパワーから落ち着きに説得力があるのもお気に入りです。 (2020-10-15 23:26)
名無しのゴーレム
#ガイア#さん、コメントありがとうございます。

今回で短編は終わりですが、また機会があれば#ガイア#さんのオリカを使用させていただきたいと思っておりますのでその時はまたよろしくお願いいたします。 (2020-10-15 23:31)
kaTe
ゼロティックのカードリストを見て、ボス敵っぽいなぁと思っていましたが、ボスはボスでも良い意味のボスで良かったです。結局チャームがちょっとやらかす位の平和的エンドで安心しました。 (2020-10-16 14:30)
名無しのゴーレム
kaTeさん、コメントありがとうございます。

派手な効果を持つカードが多いと大物感が出しやすいんですよねぇ。キャラ描写もしやすくなるのでSSを作る上で大変ありがたいです。
オチはコメディっぽくなりましたね。まあ短編でシリアスな展開をしても収拾がつかないので… (2020-10-16 17:47)

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78 第4戦:不滅の決闘 1359 15 2016-07-04 -
76 第5戦:信念のデュエル 1393 14 2016-07-05 -
76 第6戦:開演、スペースエンタメデュエル 1301 13 2016-07-06 -
66 最終戦:その想い、天の川を越えて 1484 14 2016-07-07 -
86 七夕記念企画:お疲れ様会、彦星組編 1185 7 2016-07-13 -
144 七夕記念企画:お疲れ様会、織姫組編 1281 10 2016-07-17 -
103 七夕記念企画:フィナーレ 1210 8 2016-07-29 -
91 七夕記念企画:感想、その他 1446 0 2016-07-31 -
159 15話 娯楽都市アミューズ 1485 8 2016-12-31 -
58 16話 鮮やかなるトリックスター 984 8 2019-03-12 -
178 17話 最速の男 1100 2 2019-03-17 -
86 18話 大罪の邪神龍 956 2 2019-03-22 -
70 19話 たった一つの敗因 852 2 2019-03-27 -
107 【エイプリルフール】新企画始動のお知らせ 916 2 2019-04-01 -
77 20話 天翔る龍使い 840 4 2019-04-02 -
91 21話 研ぎ澄まされし刃 862 2 2019-04-14 -
87 22話 忍び寄る漆黒 830 2 2019-04-22 -
113 23話 戦乱を望む者 919 2 2019-05-03 -
67 オリカまとめ6 842 2 2019-05-13 -
77 オリカまとめ7 873 2 2019-05-13 -
74 オリカまとめ8 720 0 2019-05-18 -
85 オリカまとめ9 1004 2 2019-05-18 -
113 24話 凍てつく世界 1016 2 2019-06-19 -
103 25話 時空の賢者 939 4 2019-06-26 -
93 26話 救世を拒む復讐の剣 937 4 2019-06-29 -
97 27話 燃え尽きぬ憎悪の炎 948 4 2019-07-03 -
80 28話 運命の選択肢 804 4 2019-07-07 -
135 29話 雪下の約束 857 4 2019-07-11 -
77 30話 再出発 680 2 2019-07-15 -
79 オリカまとめ10 1063 4 2019-07-19 -
76 オリカまとめ11 763 4 2019-07-19 -
87 31話 新たな刺客? 674 4 2019-07-21 -
95 32話 忍びの流儀 1012 4 2019-07-24 -
65 33話 雪の国の守護者 793 2 2019-07-28 -
71 34話 鉄壁の守護騎士 917 2 2019-08-01 -
58 35話 妖精の導き 750 2 2019-08-05 -
79 オリカまとめ12 934 4 2019-08-08 -
60 オリカまとめ13 745 2 2019-08-08 -
69 36話 温泉街フィアンマ 792 4 2019-08-11 -
63 37話 傭兵と行商人 784 2 2019-08-15 -
64 38話 時空を越えし英雄 905 2 2019-08-19 -
74 39話 燻る炎 809 2 2019-08-26 -
120 40話 張り巡らされた罠 817 2 2019-09-20 -
106 41話 一瞬の勝機 726 4 2019-09-29 -
57 42話 万物焼き尽くす業火 830 4 2019-10-05 -
56 43話 強者の孤独 771 2 2019-10-23 -
46 オリカまとめ14 723 0 2019-11-13 -
75 オリカまとめ15 838 0 2019-11-13 -
51 44話 幻獣の巫女 659 4 2020-01-09 -
78 45話 王を目指す者 818 2 2020-02-17 -
83 46話 君臨者と反逆者 760 4 2020-03-12 -
68 47話 ヒトガタの幻獣 814 4 2020-04-29 -
60 48話 架け橋 636 2 2020-05-11 -
51 オリカまとめ16 692 0 2020-05-19 -
44 幕間 『仲間』 650 4 2020-07-13 -
68 49話 機械の国インダスト 652 2 2020-07-20 -
69 50話 無双の姫君と反逆の機械 728 4 2020-08-05 -
60 51話 作戦会議 661 2 2020-08-30 -
55 52話 強襲 467 2 2020-09-10 -
54 53話 夢見る怪物 800 2 2020-09-17 -
66 54話 底知れぬ闇 586 4 2020-09-24 -
58 オリカまとめ17&告知 578 0 2020-09-30 -
72 SideFortune:何でも屋ハンディ 708 7 2020-10-03 -
67 Side Fortune:怪人ヴィラン 638 6 2020-10-08 -
79 Side Fortune:ゼロに還す者 698 6 2020-10-15 -
63 オリカまとめ18 584 0 2020-10-17 -
67 オリカまとめ19 596 0 2020-10-17 -
71 オリカまとめ20&あとがき 849 2 2020-10-17 -
65 55話 最強の兵器 602 2 2020-10-22 -
57 56話 造られた理由 633 2 2020-10-28 -
65 57話 君臨する女帝 642 2 2020-11-03 -
61 オリカまとめ21 484 0 2020-11-09 -
71 オリカまとめ22&おまけ 730 0 2020-11-09 -
64 58話 孤独の女王 569 2 2020-11-10 -
52 59話 王女と女王、そして 638 4 2020-11-16 -
70 60話 時を紡ぐ剣 567 2 2020-11-21 -
85 61話 黒き意志 887 2 2020-11-26 -
78 62話 王の進む道 665 4 2020-12-01 -
56 63話 傷の深さ 554 0 2020-12-07 -
43 オリカまとめ23 512 0 2020-12-14 -
48 オリカまとめ24 458 0 2020-12-14 -
52 オリカまとめ25 666 0 2020-12-14 -
55 64話 癒えない傷痕 535 2 2020-12-16 -
51 65話 忍の里 444 0 2020-12-21 -
70 66話 契約 554 2 2020-12-27 -
51 67話 生きる覚悟 402 2 2021-01-02 -
63 68話 影に潜む者たち 526 0 2021-01-08 -
59 69話 正反対の2人 618 2 2021-01-15 -
58 幕間 交わる過去と現在 461 0 2021-01-21 -
52 70話 力と覚悟 635 0 2021-01-28 -
50 71話 魂を喰らう外道 528 0 2021-02-04 -
59 SideFortune:警備隊セキュリィ 515 2 2021-02-21 -
46 オリカまとめ26&今後の予定 497 0 2021-02-26 -
61 SideAmuse:静夜を照らす星 592 6 2021-03-12 -
73 SideAmuse:火花舞う戦場 584 0 2021-03-23 -
57 SideAmuse:守るべきもの 513 4 2021-03-31 -
53 SideAmuse:がらんどうの2人 516 2 2021-04-13 -
60 オリカまとめ27 463 2 2021-04-20 -
53 オリカまとめ28 407 0 2021-04-20 -
69 オリカまとめ29&あとがき 613 2 2021-04-20 -
39 72話 折り重ねる力 412 0 2021-08-11 -
59 73話 鋼の牙 518 0 2021-08-18 -
46 74話 生の価値、死の意味 461 0 2021-08-30 -
61 75話 終焉の始まり 464 0 2021-10-23 -
45 オリカまとめ30 505 0 2021-12-05 -
97 76話 ミネルバ騎士団 504 0 2021-12-09 -
70 77話 『英雄』 569 0 2021-12-28 -
65 78話 決別、そして 622 0 2022-05-21 -

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