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第0話その5「本物」 作:にしん
ザック「完成だ!」
突然立ち上がったザックの一言で研究室の全員が一斉に静まり返る。この空気を察したザックは頭を掻きながら軽くおじぎし、着席した。天王寺が彼に寄ると彼は1つのデッキを持っていた。
天王寺「ザックさん、そのデッキは・・・」
ザック「“YU”の覇王の力を最大限に発揮させるための本当の私のデッキです。ふふ、明日が楽しみですよ」
天王寺「そ、そうですか。期待してますよ」
ーーー
一方、ここはベッドや机、クローゼット以外にはカードの山ぐらいしかないただただ無機質で白くて広い部屋。部屋としては真っ白すぎて電気を消しても常に明るいように感じるのだが、覇王の力を引き出すためか時々緑色の光も混じる。
その部屋のベッドにて1人の少年がうつ伏せになっていた。無表情だが時々震える拳は何かしらの感情を表していた。
YU(あの時の俺は一体・・・俺の求める熱い気持ちだけど、そうじゃない。次に覇王烈竜を出すとやばそうだ。だけど・・・)
YUの手には発現したばかりの<覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン>。イラストには彼の感じた感情に似た燃え盛るような姿をした赤い竜。
だけど、YUは本来その竜を表す感情とは別の感情をそのかっこいい竜に求めていた。だけどあの竜を出すと違う感情に支配される。だけど、この竜と一緒に熱くなりたい。かっこいいからだ。
結局彼は一晩中葛藤した。
ーーー
翌日。ザックは早速YUにデュエルを申し込む。もちろん天王寺ら数人の研究者が研究結果をこの目で確認しようと立ち会う。
ザック「さあ、始めましょうか」
・・・
デュエルが始まって数ターン。ザックのデッキは以前のものとは大きく変わって場には<スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン><オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン>の2体が並んでいた。それに対し、YUの盤面は・・・
YU「<オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン>2体で<オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン>をX召喚・・・」
<オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン>と<オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン>が並ぶだけ。そしてPゾーンには<相克の魔術師>。ザックの魔法・罠カードは0枚なのでここで覇王烈竜を出せば逆転勝利になる。
だけど、YUはあの竜を出そうとはしなかった。
ザック「なるほど」
天王寺「!・・・いい反応です」
研究者A「覇王の反応ですが・・・いつもとは違う?」
研究者B「抵抗しているようにも見えますが」
天王寺「それでいいのです。そろそろ我々の真の目的を教える時が来たようですね」
天王寺は画面にある一時停止ボタンを押そうとする。その時、ザックはデッキからカード1枚引き、ある魔法カード2枚を一瞬のうちに発動した。
YU「俺はまだターンエンド宣言してない」
天王寺「ザックさん!?」
研究者A&B「!?」
そしてYUと同じ、覇王の力が発揮された時の反応が天王寺らの画面に映し出される。それは一際強力な反応。ザックもその反応にシンクロするように身体から緑と黒のオーラを出していた。
天王寺「ザックさんも“覇王の子”なのは知っていましたが、何をするつもりですか!?」
ザック「おや、私にはこの研究は“覇王龍の復活”と聞いたので一気に研究を進ませるための手法を行っただけですが・・・何か問題が」
天王寺「一気に研究を進めては他の覇王の子たちに影響が出ます!前にそこの被検体“YU”が何もない状態から<覇王眷竜オッドアイズ>を一気に発現させた時も子たちの暴走が起きたのです!」
研究者A「あ、あれを鎮めるのは骨が折れたなぁ」
研究者B「い、今なら楽に抑えられるはず。だけどザックさんが・・・!」
ザックが発動したカードは<洗脳ーブレインコントロールー>2枚。しかもその処理が「エラッタ前」・・・つまり、禁止カード時代のものだ。
この研究所の研究者専用デュエルディスクは覇王の力を効率よく覚醒させるためにKC社によって定められた「リミットレギュレーション」による制限を撤廃したものだが、エラッタは対応しているので自動的に効果内容が変更されるはず。なのに、ザックはエラッタ前の効果を適用した。
ザック「くっくっく・・・」
研究者一同「!?」
ザック「何が起きるかを知っていて行ったとしたら?」
天王寺「なんと・・・!」
ザックの突然の行動にざわめく研究者たち。
天王寺「そういえばザックさんにはまだ伝えていませんでしたね・・・私のミスです。我々の目的は“覇王の力の研究”なのは周知のとおりですが、真の目的は“覇王を無力化することによる<覇王>カードの量産化”です。今までも<Sin>や<三幻魔>などの世界の脅威となり危害を及ぼす世の中から禁じられたカードも我々が無力化して量産し、提供できるようにしました。なのでザックさん、デュエルを中断させてもらいますよ!」
この研究所に配属された真の目的を聞いたザックは一瞬驚くような顔をするものの、すぐにデュエルを再開した。天王寺もデュエルを強制終了させようとする、が・・・
「WARNING WARNING 覇王の力の暴走を確認。研究者の皆さまはすぐに鎮静剤を・・・」
システムからの警告音が鳴り響く。ザックの身体は黒と緑の煙に覆われ、大きく膨らんでいく。
YU「これは・・・なんだ?」
天王寺「もうだめか・・・!皆さんは他の子たちに鎮静剤を、私はYUを連れて避難します!」
研究者A&B「了解!」
天王寺はとっさの判断で指示を出し、デュエルフィールドの電源を無理やり落とし、ザックから放たれる強烈な覇王の力をものともせずデュエルフィールド上のYUのカードだけを回収しつつYUを連れて走る。行先は「機密室 許可された研究者以外立ち入り禁止」と書かれたドア。重い自動ドアだが、非常時とあってその扉は手動ですんなり開いた。
2人で中に入り、扉を閉めてロックする。そして奥へ奥へと更に走る。
YU「な、何が起きてるんだ・・・?」
天王寺「話は後です。今はとにかく私についてきてください」
そして最終的にたどり着いた部屋は「覇王の力格納庫」。扉を開けるとそこには液体が入った大量のカプセルと、沢山ある意味深なカプセル型の機械に入れられたカードがずらりと並んでいた。
天王寺「この中には君たちの協力で覇王の力の完全無力化に成功した安全な<覇王>カードの“本物”があります。他にも先ほど私が言った<Sin>などの“本物”もあります。今から君の<覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン>も一般に出回っているデュエルディスクで使えるよう覇王の無力化を急ピッチで行います」
まだ若く、かつ今起きていることに対して把握できていないYUはあたりを見回すだけだった。が、とっさに天王寺が回収した覇王烈竜のカードを見て我に返った。
YU「じゃ、じゃあ覇王烈竜を出した時に感じたやばそうな感情も出なくなるのか?」
天王寺(あの時の人が変わったような現象はやはり覇王の力のものだったか・・・)
天王寺は頷き、YUの<覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン>3枚をそのカプセル型の機械に入れた。その瞬間、走ってきた方から爆発音が聞こえた。
天王寺「“YU”、君は何故遊戯王をしたいか覚えていますか?」
YU「・・・俺は、熱くて楽しいデュエルをしたいから。なのに、ここに連れてこられた。でも理由は分かる」
天王寺「まだまだ中学生ぐらいなのに・・・・そこまで自覚しているなら大丈夫ですね。さて」
天王寺は作業机に置かれていた1つのデッキとデュエルディスクを手に取り、左手に装着する。
天王寺「私は彼を足止めします。覇王烈竜に眠る覇王の力の無力化が終わったら、そのカードを持って奥にある隠し通路から逃げてください。出口で知り合いが待ってるはずです」
YU「あ、ああ」
ザック「ふうっ、ふうっ・・・!ひ、久しぶりの覇王の力は制御が難しいです、ね。本体を出すのに時間がかかりすぎて逃げられてしまったな」
ザックは姿はそのままに、炎のように揺らめく緑と黒の煙を放出しながらふらりふらりと歩いていた。電源を落とされ、天王寺による咄嗟のカード回収によってデュエルが強制終了されたことで彼の計画は未遂で終わってしまった。
天王寺「そこまでです、ザックさん」
ザック「これはこれは室長」
天王寺「実は誰にも話していないことがありましてね・・・足止めついでに教えてあげましょう」
天王寺がデュエルディスクを構えると無機質な床から、壁から、天井から機械が飛び出し、数秒でデュエルフィールドになった。そして天王寺とザックの背後には電磁バリアも張られた。
天王寺「私が君の真の目的も知っていたことをね」
ザック「やたら対応が早かったのはそのおかげ、ですか。ですが、私も誰にも話していないことがあります、よ・・・」
天王寺「それは?」
ザック「私が覇王の子だというのは周知のとおり・・・ですが、“子”ではない。”龍”そのものだったということだ!」
突然立ち上がったザックの一言で研究室の全員が一斉に静まり返る。この空気を察したザックは頭を掻きながら軽くおじぎし、着席した。天王寺が彼に寄ると彼は1つのデッキを持っていた。
天王寺「ザックさん、そのデッキは・・・」
ザック「“YU”の覇王の力を最大限に発揮させるための本当の私のデッキです。ふふ、明日が楽しみですよ」
天王寺「そ、そうですか。期待してますよ」
ーーー
一方、ここはベッドや机、クローゼット以外にはカードの山ぐらいしかないただただ無機質で白くて広い部屋。部屋としては真っ白すぎて電気を消しても常に明るいように感じるのだが、覇王の力を引き出すためか時々緑色の光も混じる。
その部屋のベッドにて1人の少年がうつ伏せになっていた。無表情だが時々震える拳は何かしらの感情を表していた。
YU(あの時の俺は一体・・・俺の求める熱い気持ちだけど、そうじゃない。次に覇王烈竜を出すとやばそうだ。だけど・・・)
YUの手には発現したばかりの<覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン>。イラストには彼の感じた感情に似た燃え盛るような姿をした赤い竜。
だけど、YUは本来その竜を表す感情とは別の感情をそのかっこいい竜に求めていた。だけどあの竜を出すと違う感情に支配される。だけど、この竜と一緒に熱くなりたい。かっこいいからだ。
結局彼は一晩中葛藤した。
ーーー
翌日。ザックは早速YUにデュエルを申し込む。もちろん天王寺ら数人の研究者が研究結果をこの目で確認しようと立ち会う。
ザック「さあ、始めましょうか」
・・・
デュエルが始まって数ターン。ザックのデッキは以前のものとは大きく変わって場には<スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン><オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン>の2体が並んでいた。それに対し、YUの盤面は・・・
YU「<オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン>2体で<オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン>をX召喚・・・」
<オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン>と<オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン>が並ぶだけ。そしてPゾーンには<相克の魔術師>。ザックの魔法・罠カードは0枚なのでここで覇王烈竜を出せば逆転勝利になる。
だけど、YUはあの竜を出そうとはしなかった。
ザック「なるほど」
天王寺「!・・・いい反応です」
研究者A「覇王の反応ですが・・・いつもとは違う?」
研究者B「抵抗しているようにも見えますが」
天王寺「それでいいのです。そろそろ我々の真の目的を教える時が来たようですね」
天王寺は画面にある一時停止ボタンを押そうとする。その時、ザックはデッキからカード1枚引き、ある魔法カード2枚を一瞬のうちに発動した。
YU「俺はまだターンエンド宣言してない」
天王寺「ザックさん!?」
研究者A&B「!?」
そしてYUと同じ、覇王の力が発揮された時の反応が天王寺らの画面に映し出される。それは一際強力な反応。ザックもその反応にシンクロするように身体から緑と黒のオーラを出していた。
天王寺「ザックさんも“覇王の子”なのは知っていましたが、何をするつもりですか!?」
ザック「おや、私にはこの研究は“覇王龍の復活”と聞いたので一気に研究を進ませるための手法を行っただけですが・・・何か問題が」
天王寺「一気に研究を進めては他の覇王の子たちに影響が出ます!前にそこの被検体“YU”が何もない状態から<覇王眷竜オッドアイズ>を一気に発現させた時も子たちの暴走が起きたのです!」
研究者A「あ、あれを鎮めるのは骨が折れたなぁ」
研究者B「い、今なら楽に抑えられるはず。だけどザックさんが・・・!」
ザックが発動したカードは<洗脳ーブレインコントロールー>2枚。しかもその処理が「エラッタ前」・・・つまり、禁止カード時代のものだ。
この研究所の研究者専用デュエルディスクは覇王の力を効率よく覚醒させるためにKC社によって定められた「リミットレギュレーション」による制限を撤廃したものだが、エラッタは対応しているので自動的に効果内容が変更されるはず。なのに、ザックはエラッタ前の効果を適用した。
ザック「くっくっく・・・」
研究者一同「!?」
ザック「何が起きるかを知っていて行ったとしたら?」
天王寺「なんと・・・!」
ザックの突然の行動にざわめく研究者たち。
天王寺「そういえばザックさんにはまだ伝えていませんでしたね・・・私のミスです。我々の目的は“覇王の力の研究”なのは周知のとおりですが、真の目的は“覇王を無力化することによる<覇王>カードの量産化”です。今までも<Sin>や<三幻魔>などの世界の脅威となり危害を及ぼす世の中から禁じられたカードも我々が無力化して量産し、提供できるようにしました。なのでザックさん、デュエルを中断させてもらいますよ!」
この研究所に配属された真の目的を聞いたザックは一瞬驚くような顔をするものの、すぐにデュエルを再開した。天王寺もデュエルを強制終了させようとする、が・・・
「WARNING WARNING 覇王の力の暴走を確認。研究者の皆さまはすぐに鎮静剤を・・・」
システムからの警告音が鳴り響く。ザックの身体は黒と緑の煙に覆われ、大きく膨らんでいく。
YU「これは・・・なんだ?」
天王寺「もうだめか・・・!皆さんは他の子たちに鎮静剤を、私はYUを連れて避難します!」
研究者A&B「了解!」
天王寺はとっさの判断で指示を出し、デュエルフィールドの電源を無理やり落とし、ザックから放たれる強烈な覇王の力をものともせずデュエルフィールド上のYUのカードだけを回収しつつYUを連れて走る。行先は「機密室 許可された研究者以外立ち入り禁止」と書かれたドア。重い自動ドアだが、非常時とあってその扉は手動ですんなり開いた。
2人で中に入り、扉を閉めてロックする。そして奥へ奥へと更に走る。
YU「な、何が起きてるんだ・・・?」
天王寺「話は後です。今はとにかく私についてきてください」
そして最終的にたどり着いた部屋は「覇王の力格納庫」。扉を開けるとそこには液体が入った大量のカプセルと、沢山ある意味深なカプセル型の機械に入れられたカードがずらりと並んでいた。
天王寺「この中には君たちの協力で覇王の力の完全無力化に成功した安全な<覇王>カードの“本物”があります。他にも先ほど私が言った<Sin>などの“本物”もあります。今から君の<覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン>も一般に出回っているデュエルディスクで使えるよう覇王の無力化を急ピッチで行います」
まだ若く、かつ今起きていることに対して把握できていないYUはあたりを見回すだけだった。が、とっさに天王寺が回収した覇王烈竜のカードを見て我に返った。
YU「じゃ、じゃあ覇王烈竜を出した時に感じたやばそうな感情も出なくなるのか?」
天王寺(あの時の人が変わったような現象はやはり覇王の力のものだったか・・・)
天王寺は頷き、YUの<覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン>3枚をそのカプセル型の機械に入れた。その瞬間、走ってきた方から爆発音が聞こえた。
天王寺「“YU”、君は何故遊戯王をしたいか覚えていますか?」
YU「・・・俺は、熱くて楽しいデュエルをしたいから。なのに、ここに連れてこられた。でも理由は分かる」
天王寺「まだまだ中学生ぐらいなのに・・・・そこまで自覚しているなら大丈夫ですね。さて」
天王寺は作業机に置かれていた1つのデッキとデュエルディスクを手に取り、左手に装着する。
天王寺「私は彼を足止めします。覇王烈竜に眠る覇王の力の無力化が終わったら、そのカードを持って奥にある隠し通路から逃げてください。出口で知り合いが待ってるはずです」
YU「あ、ああ」
ザック「ふうっ、ふうっ・・・!ひ、久しぶりの覇王の力は制御が難しいです、ね。本体を出すのに時間がかかりすぎて逃げられてしまったな」
ザックは姿はそのままに、炎のように揺らめく緑と黒の煙を放出しながらふらりふらりと歩いていた。電源を落とされ、天王寺による咄嗟のカード回収によってデュエルが強制終了されたことで彼の計画は未遂で終わってしまった。
天王寺「そこまでです、ザックさん」
ザック「これはこれは室長」
天王寺「実は誰にも話していないことがありましてね・・・足止めついでに教えてあげましょう」
天王寺がデュエルディスクを構えると無機質な床から、壁から、天井から機械が飛び出し、数秒でデュエルフィールドになった。そして天王寺とザックの背後には電磁バリアも張られた。
天王寺「私が君の真の目的も知っていたことをね」
ザック「やたら対応が早かったのはそのおかげ、ですか。ですが、私も誰にも話していないことがあります、よ・・・」
天王寺「それは?」
ザック「私が覇王の子だというのは周知のとおり・・・ですが、“子”ではない。”龍”そのものだったということだ!」
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