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欲望の竜 作:エスカル
青い炎を全身に纏い、青き竜が空間を舞う。
その空は青ではなく、赤色だった。
だが、赤色が時折、紫、そして緑と、落ち着きなく色を変えていく。
「また観察してきていたのですか、ドラグラ」
その空間の中で立っていた白髪の女性が青き竜に声をかける。
女性は目の下に緑色の線を走らせ、ドラグラをまっすぐ見つめている。
「ああ、面白い世界を見つけたぜ」
いつの間にか青き竜は青と赤が入り混じったメッシュの髪の毛をした男に変貌していた。
「面白い世界?」
「ドラゴンに対して欲望全開の愛を曝け出している少女がいる世界だ」
少女と聞き、白髪の女性のこめかみがぴくりと動く。
「へ、へぇ」
「しかも異なる世界からやってきたドラゴンの小娘を助けるという善行まで積んでいる」
「へーえ」
女性が不機嫌になっているのにも関わらずドラグラは話を進める。
「しかもその少女の傍には『χ Card』を持ってる少年までいた」
その一言を聞いた瞬間、不機嫌な顔は驚愕の顔に変わる。
「まさか」
「俺もまさかとは思った。時空を管理してる俺らの眼をかいくぐりその少年はそれを手に入れたか、もしくは」
「時空の間に我らの目をすり抜け、力を与えた者がいる?」
女性もドラグラも深刻な顔をする中、1人だけそのやり取りをぼけっと見つめているものがいた。
「いーんじゃなーい~? 世界に仇なそうってしてるわけじゃないんだしさ~」
「相変わらずのんびり屋ね、ゲンは」
「ビャクとドラグラが慌てすぎなんだよ~」
のんびりと欠伸をしながらゲンは横になる。
それを見ていたドラグラとビャクがため息をつく。
「まったく、どうしてこいつはこんなにのんびりしてるのやら」
「事が起こってからでは手遅れになる可能性があるのよ」
「確かにそうだけど、あんたたちが考えすぎというのもまた事実よ」
ドラグラとビャクが声のしたほうを見ると、赤い羽根を羽ばたかせた赤と緑のメッシュ髪をした女性が2人の傍に舞い降りる。
「スザー」
「事が起こってからでも手遅れにならないように見張りをしておくのは重要ね。だけども気を張りすぎるといざ事が起こったときに気疲れで全力を発揮できないわよ」
「まあ確かに」
「ドラグラ、あんたまで」
ビャクが不機嫌を隠さず言うと、ドラグラが3人に背を向け歩き出す。
「あれ~、ドラグラまたお出かけ~?」
「ああ、興味を持った少女に会ってくる」
「絶対に反対!」
ビャクが声を荒げると、ドラグラがくくっと笑う。
何がおかしいのよとさらに声を荒げるビャクに対してドラグラが彼女に向き直る。
「その『χ Card』を持つ少年に対して少女は熱を上げ始めてる。俺が行っても問題は無y「あんた、その少女に何をする気よ?」
「少なくとも『χ Card』の持ち主が1人だけというのは好ましくない。だとしたら抑止力は必要不可欠なはずだ」
ドラグラの手にはいつの間にやら灰色のカードが握られていた。
それに気づいたビャクとスザーは真剣な顔つきになる。
「なるほどね」
「もっとも、あくまでまだ興味を持ったという程度だ。その少女の『欲望』はあくまで竜に対して向けられ、それ以外はいたって普通の子だ。『χ Card』の持ち主は『欲望』の強さによって力を発揮する。だからあくまで確認だ」
これ以上の話は不要だといわんばかりにドラグラはこの空間から姿を消した。
「あいつ」
「まあいいじゃないの。ドラグラのお眼鏡に叶えばそれでよし。ダメなら下手な力を持つ人間は増えない。それでいいじゃないの」
スザーの言い分にいまだに納得できないビャクはドラグラが消えた先を見つめていた。
楽しく口笛を吹きながらとある行為をする。
ラドちゃんの髪の毛をタオルで拭いてあげている。
気持ちよさそうな顔をするため、力の入れ加減は間違っていないみたいだ。
「ありがとうですの、愛流お嬢様」
「ラドちゃんだって私の髪の毛をお手入れしてくれたでしょ。そのお礼よ」
ラドちゃんが最後に風呂に入り、風呂から上がり部屋にやってきたラドちゃんの髪の毛をタオルで拭いていた。
最初に風呂に入った私が部屋に戻ってきたら、ラドちゃんはドライヤーと櫛を携え私の髪の毛を整えてくれた。
「はい、これで終わり」
ラドちゃんの髪の毛を合法的に弄りつつ撫でなでに近いことが出来る時間だったが、どんなに楽しい時間もいずれ終わらせなければならない。
ラドちゃんはふぁと可愛らしい欠伸をして、思わずつられて欠伸が出た。
「じゃ、もう寝るですの」
ラドちゃんが私のベッドにぴょこんと飛び乗り、寝る態勢になる。
私もゆっくりとベッドに乗り横になる。
今日も楽しかったなぁ。
部屋の電灯の紐を引っ張り、部屋が暗くなる。
「おやすみ、ラドちゃん」
「おやすみなさいですの」
ラドちゃんの体を優しく抱き寄せ、眼を閉じる。
明日もまた楽しく過ごせればいいなぁ……
眼を開きなさい。
「……誰?」
人がせっかくラドちゃんと一緒に気持ちよい睡眠を貪っていたというのに。
「あれ?」
だけど眼を開いたら、そこは辺り一面、視界いっぱいに広がる草原だった。
そこに私はアカデミアの制服姿で立っていた。
あれ、これは夢なのかな?
「お嬢様、気持ちよいですの」
足元を見ると、ラドちゃんがごろごろと足元を転がり、草原で出来た自然のベッドを堪能していた。
確かに草という割には触り心地はよいし、風が気持ちよく私の体を撫でて行く。
私も横になってラドちゃんと一緒に堪能しようっと。
「突然異常が起きても驚かないその心意気、良し」
声がした方を見ると、少し離れた場所に青と赤の入り混じった髪の毛をした男性が立っていた。
あんなカラーリングが難しそうな髪の色なのにすごく似合っている。
「いやそれよりも」
ラドちゃんと一緒に起きて声の主を見る。
さっき眼を開けるように言ったのと同じ声だ。
「あなたは一体……」
あれ、おかしいな?
体が勝手に吸い寄せられていく。
「おっと」
「愛流お嬢様?」
気づいたら男性に私は抱きついていた。
ラドちゃんがきょとんとしながら私をじっと見てくる。
普通だったら見も知らない男の人に抱きつくなんて事はまずしない。
でも、なんでだろう。
この男の人はなんというか、人間ではなくドラゴンらしい空気を纏っているのだ。
いや、現実にドラゴンがいるわけもちろんない。
だが、私の本能がそう告げている感じ。
「……これはさすがに予想外。一見しただけで俺の本当の姿を見抜くとは」
男性が青い炎に包まれ、反射的に手を離す。
だがその瞬間、男性は青き肉体を持つ逞しき竜へと変貌していた。
『デュエルモンスターズ』で見たことが無い竜を目の当たりにし大興奮する。
さすがは夢、私の欲望に忠実なドラゴンが来てくれるとは。
再び青き竜に抱きついていくと、竜は避けるまでもなく受け入れる。
「ふむ。やはり俺の見立てに狂いはなかった。素晴らしきドラゴンに対する愛、そして『欲望』だ」
愛、欲望。
それらはドラゴンを好むものが誰もが持ち合わせる感情。
そんな当然のことを口に出して何が言いたいのだろう。
「とりあえず話をしたい」
……あれ?
この私としたことが、竜の言葉を聞いて体を離すなんて。
普段抱きついたら無理やり引き剥がされるか自分の意思で離れるまでは抱きつくのをやめないのに。
自分の意思にそぐわず抱きつくのを止めるのは初めてだ。
「愛流お嬢様、あのドラゴンに抱きつくだけじゃなくてラドリーも抱きしめて欲しいですの」
嫉妬したのか、ラドちゃんがちょっとだけほっぺを膨らませながら見てくる。
そんな可愛らしい姿を見て抱きつかない者がいようか、いやいない(反語)
「まあその状態でもよい。話を聞いてくれ」
いつの間にやらドラゴンは先ほどの男性の姿に戻っていた。
あー、あのドラゴンのままでいてくれたらよかったのに。
「いやそんな明らかに不満な顔されると少し傷つくな。この人間に擬態してる姿も割りと気に入ってるのだが」
「あ、ごめんなさい」
「まあよい。それもまた『欲望』に忠実な結果だ」
男性はごほんと咳払いをして話を始める。
「まずは自己紹介といこうか。俺は『ドラグラ』と呼ばれている」
「これはご丁寧に、『遊紅 愛流』です」
「ラドリーですの」
丁寧に自己紹介をしてるけど、これは夢だよね?
まあこんな開放的な場でドラゴンと話が出来ているのだから夢でも現実でもどちらでもいいか。
「そこにいるドラゴンの娘、いや、ラドリーといったな。その子を助けた心に俺は感動した」
「ラドちゃんのこと?」
尋ねると男性は正解と言う代わりに何度も頷いた。
確かにラドちゃんを助けたいという心はあったが、実際にラドちゃんを狙っていた敵を倒したのは不破君だ。
心意気に感動してくれたのはうれしいけど、なんか素直に受け止めずらい。
「実際に手を下したのは誰かというのは問題ではない。事実、ラドリーは君の心に胸打たれ、お嬢様と呼び心から慕っているではないか」
「…………」
まっすぐに言われて気恥ずかしくなったのか、ラドちゃんが顔を少し赤くして私のお腹に顔をうずめた。
……こんなこともあるのなら、お腹の脂肪をちょっとだけ蓄えて触り心地よいお腹にすればよかったかも。
でも太ってる女の子は可愛くないし……うう、ジレンマだよ~。
「そして君はその少年に心惹かれている」
「不破君のこと?」
確かに。
同じドラゴン好きとしてシンパシーは感じるし、一生懸命生きてるその姿がまぶしいと思った。
「その少年もまた『異端』の力を使っているとはいえドラゴンの姿になることが出来る」
確かにそうだけど、このドラゴンはどこまで知ってるんだろう?
私の夢の中だから、私の記憶が全て反映されているのだろうか。
「その少年と同等になれる可能性を秘めた力を俺は持っている」
あ、あれは!?
「あれって不破君が持っていたのと同じ」
「そう『χ Card』だ」
「ほ、欲しい!」
こうやって夢にまで見るぐらい異端のカードを欲しがっていたとは。
不破君のは家族に出会うための手がかりだから我慢していたけど。
夢の中でとはいえ変身して、ドラゴンになれるのなら私だってなってみたい。
まあドラゴンになれるかどうかはまだ確定して無いし、そもそもあの異端のカードを使えるかどうかが問題だ。
「慌てるな。物事には順序がある」
ずっと柔らかい笑顔を浮かべて話をしていた男性がここで真剣な顔つきになる。
ラドちゃんを抱いたままだが真剣な顔になり、男性をまっすぐ見る。
「この『χ Card』は『欲望』によって姿を決める。ゆえに中途半端な欲望や愛では力を発揮できないか、発揮できたとしても逆に力に飲み込まれるかもしれない」
「なるほどね」
こんな言い方をしてくるということは。
「分かっているみたいだな。君の愛や欲望の深さを確かめさせてもらいたい」
「分かったわ。ならドラゴンの姿になって。そうすれば私の愛や欲望の深さがばっちりと分かると思う」
「それは気味が俺に抱きついて欲望のまま俺を堪能したいというだけだよね」
「ええそうですが何か問題でも? むしろ私の愛や欲望をはっきりとさせたいならこれ以上無いと思いますが?」
「……まさかここまでとは。違う。これで確かめさせてもらいたい」
男性の手には『デュエルモンスターズ』のデッキが出現していた。
「君もこれを持って戦うことが出来るだろう。俺とデュエルをしようじゃないか」
デュエルをしよう……そういわれてもデッキなんてこの場に……あ、左手に装着されてた。
デッキの中を確認すると、やはり『真紅眼』デッキだ。
さすがは夢、何でもありだ。
寝る直前にリミットで『超魔導竜騎士ドラグーン・オブ・レッドアイズ』の禁止が決まり、代わりに『真紅眼融合』が帰ってくるという待遇を受けたことを思い出して、デッキを即座に調整しなおしたんだった。
そのデッキを試したいという欲が夢に反映され、こうやってデュエルを挑まれたというわけだろうか。
「愛流お嬢様、ファイトですの」
ラドちゃんに応援されてやる気もあがっていく。
勝てたとしても負けたとしても、無様な姿だけはラドちゃんに見せないようにしないと。
「では、始めるとしようか」
「うん、よろしく」
「「デュエル」」
遊紅 愛流 LP8000 VS ドラグラ LP8000
「先攻は俺からだな」
先攻はとられてしまった。
だけども相手の戦術が一足早くわかるというメリットもある。
「俺は『ドラゴザイア・アーヴァ』を特殊召喚する」
……ドラゴザイア?
聞いたことも無いし、ましてやカードカタログでも見たことが無い。
ドラゴザイア・アーヴァ DEF400
「アーヴァは俺の場にドラゴン族モンスターが存在して無い場合、特殊召喚できる」
確かに見たことが無いドラゴンだ。
黒い虫の翅が生え、ぱたぱたと飛んでいる。
その黒光りする美しさ、Gと違ってむしろ魅惑を引き立たせてる。
同じ黒光りでも種族が違えばこうも違うものか。
「早速抱きしめに来たか」
はっ、いつの間に。
アーヴァが私に引きずられて翅を一生懸命羽ばたかせてる。
それもまた良し。
「俺は『ドラゴザイア・ガルモース』を特殊召喚。こいつは『ドラゴザイア』モンスターが存在しているとき特殊召喚できる」
次は蛾の羽を持つ茶色の竜だ。
これを見てる限り『ドラゴザイア』は蟲の体をモチーフにしたドラゴンなのかな。
アモルファージにも蟲の体が竜に変貌した魔物がいるから全然見慣れている。
ドラゴザイア・ガルモース ATK2000
「ガルモースのLVは他にドラゴザイアが存在しているとき、2上がる」
LV上昇効果……
となると、シンクロが狙いか。
だが、ディスクに表示されてる情報を見てもチューナーモンスターはいない。
「俺は『ドラゴザイア・ガルモース』と『ドラゴザイア・アーヴァ』の2体をリンクマーカーにセット。召喚条件は『LVの合計が8以上になってる『ドラゴザイア』モンスター2体』」
なるほど。
ドラゴザイア・ガルモースとアーヴァのLVは3だった。
だがガルモースはLVが2上昇したことで5になり、合計数値は8になった。
ゆえにリンク召喚の条件を満たしたということだろう。
「リンク召喚だ。『ドラゴザイア・ガタッカー』」
クワガタの角が生える漆黒の竜だ。
しかしリンク2なのに……
ドラゴザイア・ガタッカー ATK2300
「ガタッカーがリンク召喚に成功したとき、デッキから1枚ドローする。ただしこの効果を使用した場合、俺はこのターン特殊召喚はもう行えない。欲望もコントロールしないとな」
ドローで未来を掴み取るか、手札の安定を取って場を整える未来を取るか。
どちらも叶えられることはないということね。
「俺の場に『ドラゴザイア』と名の付くリンクモンスターが存在している場合、そのリンク先に『ドラゴザイア・センティピードーラ』をリリースなしで召喚する」
百足を思わせる東洋風の赤き竜がドラゴザイアの後ろに付く。
ドラゴザイア・センティピードーラ ATK2600
「蟲というのは世界上で多忙に繁殖する『生存欲』の持ち主だ。それが竜の逞しさと迫力と格好良さを得ればまさに敵なし、というわけさ」
「分かります!」
センティピードーラとガタッカーの体を何度も撫で回す。
敵であるはずの私にここまで親密に触られて、何でだろうという疑問を持ってるのか攻撃していいのかどうか躊躇ってるみたいだ。
ドラゴンの力はあらゆる生命体に足りないところを補ってくれる。
それがドラゴンの魅力の1つだ。
「愛流お嬢様、楽しそうですの」
「それは見てりゃ分かる。しかもリンク召喚される前にガルモースに最低限触っていたからな。しかも俺にドラゴンが好きだというアピールの見せ掛けじゃなく、心の底からドラゴンが好きなんだなと分かるぐらいだ」
はっ、しまった。
今はデュエル中だった。
「君の『欲望』に答えてもっと見せてやりたいところだがモンスターはこれ以上並べられない。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
ドラグラ LP8000
モンスターゾーン ドラゴザイア・センティピードーラ
EXモンスターゾーン ドラゴザイア・ガタッカー
魔法・罠カードゾーン セットカード1枚
手札2枚
その空は青ではなく、赤色だった。
だが、赤色が時折、紫、そして緑と、落ち着きなく色を変えていく。
「また観察してきていたのですか、ドラグラ」
その空間の中で立っていた白髪の女性が青き竜に声をかける。
女性は目の下に緑色の線を走らせ、ドラグラをまっすぐ見つめている。
「ああ、面白い世界を見つけたぜ」
いつの間にか青き竜は青と赤が入り混じったメッシュの髪の毛をした男に変貌していた。
「面白い世界?」
「ドラゴンに対して欲望全開の愛を曝け出している少女がいる世界だ」
少女と聞き、白髪の女性のこめかみがぴくりと動く。
「へ、へぇ」
「しかも異なる世界からやってきたドラゴンの小娘を助けるという善行まで積んでいる」
「へーえ」
女性が不機嫌になっているのにも関わらずドラグラは話を進める。
「しかもその少女の傍には『χ Card』を持ってる少年までいた」
その一言を聞いた瞬間、不機嫌な顔は驚愕の顔に変わる。
「まさか」
「俺もまさかとは思った。時空を管理してる俺らの眼をかいくぐりその少年はそれを手に入れたか、もしくは」
「時空の間に我らの目をすり抜け、力を与えた者がいる?」
女性もドラグラも深刻な顔をする中、1人だけそのやり取りをぼけっと見つめているものがいた。
「いーんじゃなーい~? 世界に仇なそうってしてるわけじゃないんだしさ~」
「相変わらずのんびり屋ね、ゲンは」
「ビャクとドラグラが慌てすぎなんだよ~」
のんびりと欠伸をしながらゲンは横になる。
それを見ていたドラグラとビャクがため息をつく。
「まったく、どうしてこいつはこんなにのんびりしてるのやら」
「事が起こってからでは手遅れになる可能性があるのよ」
「確かにそうだけど、あんたたちが考えすぎというのもまた事実よ」
ドラグラとビャクが声のしたほうを見ると、赤い羽根を羽ばたかせた赤と緑のメッシュ髪をした女性が2人の傍に舞い降りる。
「スザー」
「事が起こってからでも手遅れにならないように見張りをしておくのは重要ね。だけども気を張りすぎるといざ事が起こったときに気疲れで全力を発揮できないわよ」
「まあ確かに」
「ドラグラ、あんたまで」
ビャクが不機嫌を隠さず言うと、ドラグラが3人に背を向け歩き出す。
「あれ~、ドラグラまたお出かけ~?」
「ああ、興味を持った少女に会ってくる」
「絶対に反対!」
ビャクが声を荒げると、ドラグラがくくっと笑う。
何がおかしいのよとさらに声を荒げるビャクに対してドラグラが彼女に向き直る。
「その『χ Card』を持つ少年に対して少女は熱を上げ始めてる。俺が行っても問題は無y「あんた、その少女に何をする気よ?」
「少なくとも『χ Card』の持ち主が1人だけというのは好ましくない。だとしたら抑止力は必要不可欠なはずだ」
ドラグラの手にはいつの間にやら灰色のカードが握られていた。
それに気づいたビャクとスザーは真剣な顔つきになる。
「なるほどね」
「もっとも、あくまでまだ興味を持ったという程度だ。その少女の『欲望』はあくまで竜に対して向けられ、それ以外はいたって普通の子だ。『χ Card』の持ち主は『欲望』の強さによって力を発揮する。だからあくまで確認だ」
これ以上の話は不要だといわんばかりにドラグラはこの空間から姿を消した。
「あいつ」
「まあいいじゃないの。ドラグラのお眼鏡に叶えばそれでよし。ダメなら下手な力を持つ人間は増えない。それでいいじゃないの」
スザーの言い分にいまだに納得できないビャクはドラグラが消えた先を見つめていた。
楽しく口笛を吹きながらとある行為をする。
ラドちゃんの髪の毛をタオルで拭いてあげている。
気持ちよさそうな顔をするため、力の入れ加減は間違っていないみたいだ。
「ありがとうですの、愛流お嬢様」
「ラドちゃんだって私の髪の毛をお手入れしてくれたでしょ。そのお礼よ」
ラドちゃんが最後に風呂に入り、風呂から上がり部屋にやってきたラドちゃんの髪の毛をタオルで拭いていた。
最初に風呂に入った私が部屋に戻ってきたら、ラドちゃんはドライヤーと櫛を携え私の髪の毛を整えてくれた。
「はい、これで終わり」
ラドちゃんの髪の毛を合法的に弄りつつ撫でなでに近いことが出来る時間だったが、どんなに楽しい時間もいずれ終わらせなければならない。
ラドちゃんはふぁと可愛らしい欠伸をして、思わずつられて欠伸が出た。
「じゃ、もう寝るですの」
ラドちゃんが私のベッドにぴょこんと飛び乗り、寝る態勢になる。
私もゆっくりとベッドに乗り横になる。
今日も楽しかったなぁ。
部屋の電灯の紐を引っ張り、部屋が暗くなる。
「おやすみ、ラドちゃん」
「おやすみなさいですの」
ラドちゃんの体を優しく抱き寄せ、眼を閉じる。
明日もまた楽しく過ごせればいいなぁ……
眼を開きなさい。
「……誰?」
人がせっかくラドちゃんと一緒に気持ちよい睡眠を貪っていたというのに。
「あれ?」
だけど眼を開いたら、そこは辺り一面、視界いっぱいに広がる草原だった。
そこに私はアカデミアの制服姿で立っていた。
あれ、これは夢なのかな?
「お嬢様、気持ちよいですの」
足元を見ると、ラドちゃんがごろごろと足元を転がり、草原で出来た自然のベッドを堪能していた。
確かに草という割には触り心地はよいし、風が気持ちよく私の体を撫でて行く。
私も横になってラドちゃんと一緒に堪能しようっと。
「突然異常が起きても驚かないその心意気、良し」
声がした方を見ると、少し離れた場所に青と赤の入り混じった髪の毛をした男性が立っていた。
あんなカラーリングが難しそうな髪の色なのにすごく似合っている。
「いやそれよりも」
ラドちゃんと一緒に起きて声の主を見る。
さっき眼を開けるように言ったのと同じ声だ。
「あなたは一体……」
あれ、おかしいな?
体が勝手に吸い寄せられていく。
「おっと」
「愛流お嬢様?」
気づいたら男性に私は抱きついていた。
ラドちゃんがきょとんとしながら私をじっと見てくる。
普通だったら見も知らない男の人に抱きつくなんて事はまずしない。
でも、なんでだろう。
この男の人はなんというか、人間ではなくドラゴンらしい空気を纏っているのだ。
いや、現実にドラゴンがいるわけもちろんない。
だが、私の本能がそう告げている感じ。
「……これはさすがに予想外。一見しただけで俺の本当の姿を見抜くとは」
男性が青い炎に包まれ、反射的に手を離す。
だがその瞬間、男性は青き肉体を持つ逞しき竜へと変貌していた。
『デュエルモンスターズ』で見たことが無い竜を目の当たりにし大興奮する。
さすがは夢、私の欲望に忠実なドラゴンが来てくれるとは。
再び青き竜に抱きついていくと、竜は避けるまでもなく受け入れる。
「ふむ。やはり俺の見立てに狂いはなかった。素晴らしきドラゴンに対する愛、そして『欲望』だ」
愛、欲望。
それらはドラゴンを好むものが誰もが持ち合わせる感情。
そんな当然のことを口に出して何が言いたいのだろう。
「とりあえず話をしたい」
……あれ?
この私としたことが、竜の言葉を聞いて体を離すなんて。
普段抱きついたら無理やり引き剥がされるか自分の意思で離れるまでは抱きつくのをやめないのに。
自分の意思にそぐわず抱きつくのを止めるのは初めてだ。
「愛流お嬢様、あのドラゴンに抱きつくだけじゃなくてラドリーも抱きしめて欲しいですの」
嫉妬したのか、ラドちゃんがちょっとだけほっぺを膨らませながら見てくる。
そんな可愛らしい姿を見て抱きつかない者がいようか、いやいない(反語)
「まあその状態でもよい。話を聞いてくれ」
いつの間にやらドラゴンは先ほどの男性の姿に戻っていた。
あー、あのドラゴンのままでいてくれたらよかったのに。
「いやそんな明らかに不満な顔されると少し傷つくな。この人間に擬態してる姿も割りと気に入ってるのだが」
「あ、ごめんなさい」
「まあよい。それもまた『欲望』に忠実な結果だ」
男性はごほんと咳払いをして話を始める。
「まずは自己紹介といこうか。俺は『ドラグラ』と呼ばれている」
「これはご丁寧に、『遊紅 愛流』です」
「ラドリーですの」
丁寧に自己紹介をしてるけど、これは夢だよね?
まあこんな開放的な場でドラゴンと話が出来ているのだから夢でも現実でもどちらでもいいか。
「そこにいるドラゴンの娘、いや、ラドリーといったな。その子を助けた心に俺は感動した」
「ラドちゃんのこと?」
尋ねると男性は正解と言う代わりに何度も頷いた。
確かにラドちゃんを助けたいという心はあったが、実際にラドちゃんを狙っていた敵を倒したのは不破君だ。
心意気に感動してくれたのはうれしいけど、なんか素直に受け止めずらい。
「実際に手を下したのは誰かというのは問題ではない。事実、ラドリーは君の心に胸打たれ、お嬢様と呼び心から慕っているではないか」
「…………」
まっすぐに言われて気恥ずかしくなったのか、ラドちゃんが顔を少し赤くして私のお腹に顔をうずめた。
……こんなこともあるのなら、お腹の脂肪をちょっとだけ蓄えて触り心地よいお腹にすればよかったかも。
でも太ってる女の子は可愛くないし……うう、ジレンマだよ~。
「そして君はその少年に心惹かれている」
「不破君のこと?」
確かに。
同じドラゴン好きとしてシンパシーは感じるし、一生懸命生きてるその姿がまぶしいと思った。
「その少年もまた『異端』の力を使っているとはいえドラゴンの姿になることが出来る」
確かにそうだけど、このドラゴンはどこまで知ってるんだろう?
私の夢の中だから、私の記憶が全て反映されているのだろうか。
「その少年と同等になれる可能性を秘めた力を俺は持っている」
あ、あれは!?
「あれって不破君が持っていたのと同じ」
「そう『χ Card』だ」
「ほ、欲しい!」
こうやって夢にまで見るぐらい異端のカードを欲しがっていたとは。
不破君のは家族に出会うための手がかりだから我慢していたけど。
夢の中でとはいえ変身して、ドラゴンになれるのなら私だってなってみたい。
まあドラゴンになれるかどうかはまだ確定して無いし、そもそもあの異端のカードを使えるかどうかが問題だ。
「慌てるな。物事には順序がある」
ずっと柔らかい笑顔を浮かべて話をしていた男性がここで真剣な顔つきになる。
ラドちゃんを抱いたままだが真剣な顔になり、男性をまっすぐ見る。
「この『χ Card』は『欲望』によって姿を決める。ゆえに中途半端な欲望や愛では力を発揮できないか、発揮できたとしても逆に力に飲み込まれるかもしれない」
「なるほどね」
こんな言い方をしてくるということは。
「分かっているみたいだな。君の愛や欲望の深さを確かめさせてもらいたい」
「分かったわ。ならドラゴンの姿になって。そうすれば私の愛や欲望の深さがばっちりと分かると思う」
「それは気味が俺に抱きついて欲望のまま俺を堪能したいというだけだよね」
「ええそうですが何か問題でも? むしろ私の愛や欲望をはっきりとさせたいならこれ以上無いと思いますが?」
「……まさかここまでとは。違う。これで確かめさせてもらいたい」
男性の手には『デュエルモンスターズ』のデッキが出現していた。
「君もこれを持って戦うことが出来るだろう。俺とデュエルをしようじゃないか」
デュエルをしよう……そういわれてもデッキなんてこの場に……あ、左手に装着されてた。
デッキの中を確認すると、やはり『真紅眼』デッキだ。
さすがは夢、何でもありだ。
寝る直前にリミットで『超魔導竜騎士ドラグーン・オブ・レッドアイズ』の禁止が決まり、代わりに『真紅眼融合』が帰ってくるという待遇を受けたことを思い出して、デッキを即座に調整しなおしたんだった。
そのデッキを試したいという欲が夢に反映され、こうやってデュエルを挑まれたというわけだろうか。
「愛流お嬢様、ファイトですの」
ラドちゃんに応援されてやる気もあがっていく。
勝てたとしても負けたとしても、無様な姿だけはラドちゃんに見せないようにしないと。
「では、始めるとしようか」
「うん、よろしく」
「「デュエル」」
遊紅 愛流 LP8000 VS ドラグラ LP8000
「先攻は俺からだな」
先攻はとられてしまった。
だけども相手の戦術が一足早くわかるというメリットもある。
「俺は『ドラゴザイア・アーヴァ』を特殊召喚する」
……ドラゴザイア?
聞いたことも無いし、ましてやカードカタログでも見たことが無い。
ドラゴザイア・アーヴァ DEF400
「アーヴァは俺の場にドラゴン族モンスターが存在して無い場合、特殊召喚できる」
確かに見たことが無いドラゴンだ。
黒い虫の翅が生え、ぱたぱたと飛んでいる。
その黒光りする美しさ、Gと違ってむしろ魅惑を引き立たせてる。
同じ黒光りでも種族が違えばこうも違うものか。
「早速抱きしめに来たか」
はっ、いつの間に。
アーヴァが私に引きずられて翅を一生懸命羽ばたかせてる。
それもまた良し。
「俺は『ドラゴザイア・ガルモース』を特殊召喚。こいつは『ドラゴザイア』モンスターが存在しているとき特殊召喚できる」
次は蛾の羽を持つ茶色の竜だ。
これを見てる限り『ドラゴザイア』は蟲の体をモチーフにしたドラゴンなのかな。
アモルファージにも蟲の体が竜に変貌した魔物がいるから全然見慣れている。
ドラゴザイア・ガルモース ATK2000
「ガルモースのLVは他にドラゴザイアが存在しているとき、2上がる」
LV上昇効果……
となると、シンクロが狙いか。
だが、ディスクに表示されてる情報を見てもチューナーモンスターはいない。
「俺は『ドラゴザイア・ガルモース』と『ドラゴザイア・アーヴァ』の2体をリンクマーカーにセット。召喚条件は『LVの合計が8以上になってる『ドラゴザイア』モンスター2体』」
なるほど。
ドラゴザイア・ガルモースとアーヴァのLVは3だった。
だがガルモースはLVが2上昇したことで5になり、合計数値は8になった。
ゆえにリンク召喚の条件を満たしたということだろう。
「リンク召喚だ。『ドラゴザイア・ガタッカー』」
クワガタの角が生える漆黒の竜だ。
しかしリンク2なのに……
ドラゴザイア・ガタッカー ATK2300
「ガタッカーがリンク召喚に成功したとき、デッキから1枚ドローする。ただしこの効果を使用した場合、俺はこのターン特殊召喚はもう行えない。欲望もコントロールしないとな」
ドローで未来を掴み取るか、手札の安定を取って場を整える未来を取るか。
どちらも叶えられることはないということね。
「俺の場に『ドラゴザイア』と名の付くリンクモンスターが存在している場合、そのリンク先に『ドラゴザイア・センティピードーラ』をリリースなしで召喚する」
百足を思わせる東洋風の赤き竜がドラゴザイアの後ろに付く。
ドラゴザイア・センティピードーラ ATK2600
「蟲というのは世界上で多忙に繁殖する『生存欲』の持ち主だ。それが竜の逞しさと迫力と格好良さを得ればまさに敵なし、というわけさ」
「分かります!」
センティピードーラとガタッカーの体を何度も撫で回す。
敵であるはずの私にここまで親密に触られて、何でだろうという疑問を持ってるのか攻撃していいのかどうか躊躇ってるみたいだ。
ドラゴンの力はあらゆる生命体に足りないところを補ってくれる。
それがドラゴンの魅力の1つだ。
「愛流お嬢様、楽しそうですの」
「それは見てりゃ分かる。しかもリンク召喚される前にガルモースに最低限触っていたからな。しかも俺にドラゴンが好きだというアピールの見せ掛けじゃなく、心の底からドラゴンが好きなんだなと分かるぐらいだ」
はっ、しまった。
今はデュエル中だった。
「君の『欲望』に答えてもっと見せてやりたいところだがモンスターはこれ以上並べられない。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
ドラグラ LP8000
モンスターゾーン ドラゴザイア・センティピードーラ
EXモンスターゾーン ドラゴザイア・ガタッカー
魔法・罠カードゾーン セットカード1枚
手札2枚
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