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勝負のスタンス 作:エスカル
気づけば私はレッドアイズ・トゥーン・ドラゴンに抱きつき、周りの生徒からじろじろ見られてる。
「さすが愛流さんだ」
「噂には聞いてたけど、本当だったんだ」
「ほらみろ、嘘じゃないって。愛流さんはリアルソリッドビジョンのドラゴンに抱きつく癖があるって」
ああ、噂にまでなってたんだ。
でもまあ、もういいや。
昨日、それ以上に不思議な光景をいっぱい見てきた。
それに真にドラゴンに対する愛を貫くのであれば、こういった奇異な眼すら乗り越えてみせる。
「デュエルを続けるね。私は『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』の効果を発動するね。手札から『トゥーン・アンティーク・ギア・ゴーレム』を特殊召喚する」
レッドアイズが天高く雄たけびを上げる。
トゥーンと化してもドラゴンの雄たけびは心を振るわせる。
ほら、その証拠にコミカルになった『古代の機械巨人』が本の中から現れて拍手してる。
「あれ、僕の『古代の機械巨人』だね。トゥーン化すると古ぼけた感じはなくなるけども、あれはあれでいいね」
楠葉ちゃんもなかなか気に入ってくれてるみたいだ。
「ふふ、モンスターの見た目で喜んでくれて何よりだ。私はカードを1枚伏せてターンエンド」
宝田 祭 LP7000
モンスターゾーン トゥーン・アンティーク・ギア・ゴーレム レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン
魔法・罠カードゾーン トゥーン・ワールド セットカード1枚
手札1枚
さて、宝田さんは1ターン目から飛ばしてきた。
『トゥーン』デッキはその名の通り『トゥーン・ワールド』を軸として動き出すデッキ。
だからこそ『トゥーン・ワールド』を死守しなければいけないのに、警戒してる様子が一切無い。
まあでも、私のやることは変わらない。
「私のターン、ドロー。私は『伝説の黒石』召喚」
場に赤い輝きを放つ黒い巨大な石が置かれる。
この石は様々な可能性につながっている。
「『伝説の黒石』の効果発動。このカードをリリースしてデッキから『レッドアイズ』モンスター1体を特殊召喚する」
「本当便利な効果だよな。私も『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』を特殊召喚するためにお世話になってるよ」
あ、宝田さんもか。
『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』をデッキから特殊召喚できるから採用しない理由はないよね、確かに。
私が今回呼び出すのは。
「出でよ『真紅眼の黒炎竜』」
炎のオーラを見に纏う赤き瞳を持つ黒き竜。
シャープな体つきをさらに洗練させ、その体を熱く燃やしてる。
私のテンションも激しく燃え上がっちゃうよ。
「そして装備魔法『スーペルヴィス』を発動するよ。これで私の『真紅眼の黒炎竜』は真の力を解放するよ。そしてバトル。『真紅眼の黒炎竜』で『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』に攻撃!」
真紅眼の黒炎竜が漆黒の炎を吐き、レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンに炎が向かっていく。
レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンも負けじと口から大量の炎の玉を吐く。
これがドラゴン同士の熱い戦い……いや、炎を吐き合ってるからじゃないよ?
「攻撃力は同じ、相討ちか」
お互い炎を受け、真紅眼の黒炎竜は体から炎のオーラが消え、その場から消えていく。
レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンは炎を受けたところを絆創膏をぺたぺたと貼り、トゥーン・ワールドの中へと逃げ込んでいった。
「炎は2度燃え上がる。装備魔法『スーペルヴィス』の効果発動。このカードが落ちへ送られたとき、墓地から通常モンスター1体を特殊召喚する。墓地では『真紅眼の黒炎竜』は通常モンスター扱いとなる、よって蘇る!」
墓地から炎が吹き上がり、その中から『真紅眼の黒炎竜』が飛び出していく。
ドラゴンなのにフェニックスみたいに炎の中から蘇る姿……まさに生命力が高いドラゴンにふさわしい姿だよ。
「なるほどね。私の『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』だけが一方的に破壊されるってわけね」
フィールドからレッドアイズ・トゥーン・ドラゴンがいなくなったのは本当に惜しい。
だけども、『トゥーンのしおり』で『トゥーン・ワールド』ではなくて『トゥーン・キングダム』をサーチすればその強固な耐性で『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』は守れたんじゃないだろうか?
発動時にデッキトップから3枚除外するというデメリットはあるし、破壊を免れるときにもデッキトップを除外する効果がある。
除外されたくないカードがあるのだろうか。
「……愛流さんの考えてること、多分当たり。私のデッキの『トゥーン・カオス・ソルジャー』、実はデッキに1枚しか入って無いんだ」
あ、そういうことだったんだ。
切り札を裏側除外という形で失ってしまっては、戦線維持以前にモチベーションの低下になってしまう。
切り札が出てから破壊されるのもショックだけども、そもそも場に出ないで使えなくなるも相当ショックだからね。
「最近発売されたばかりのカードだからね、まだ市場に出回ってなくて、かといって少ないお小遣いでパックから出るのを期待するのもちょっと無茶だから」
宝田さんは少し困ったように笑う。
その宝田さんを不破君がちょっとばかり複雑な表情で見てる。
そういえば不破君は中学生のときから新聞配達のバイトで生計を立てて、その余ったお金でデッキを強化してるんだっけ。
そんな不破君から見たら、お小遣いをもらえてデッキに入れるカードの心配が出来る宝田さんはうらやましいのかもしれない。
「だけど復活させたとはいえ『真紅眼の黒炎竜』じゃ『トゥーン・アンティーク・ギア・ゴーレム』に勝てないからね。メイン2、カードを2枚伏せてターンエンド」
遊紅 愛流 LP8000
モンスターゾーン 真紅眼の黒炎竜
魔法・罠カードゾーン セットカード2枚
手札2枚
「私のターン、ドロー」
宝田さんは勢いよくカードを引き、にっと笑顔を浮かべる。
さっきの話の流れだと……もしかしたら。
「私はLV8の『トゥーン・アンティーク・ギア・ゴーレム』をリリースして『トゥーン・カオス・ソルジャー』を特殊召喚するよ」
顔みたいな兜を被り、立派な鎧を着飾ったコミカルな戦士が宝田さんの場にやってくる。
召喚条件として『トゥーン』モンスターがLV8以上になるようにリリースすれば特殊召喚できて、しかも『トゥーン』モンスターだけども特殊召喚されたターンに攻撃できる素晴らしいカードだ。
「『トゥーン・カオス・ソルジャー』はフィールドに『トゥーン・ワールド』が存在しているとき、相手の場のカード1枚を除外することが出来るけども、それじゃ攻撃できなくなる。だけども『真紅眼の黒炎竜』を残しておく理由も無いからね、ここは除外させてもらうよ」
トゥーン・カオス・ソルジャーが思いっきりジャンプし、私の真紅眼の黒炎竜の頭を思いっきり剣で叩く……そこは斬るんじゃないんだね。
そして真紅眼の黒炎竜も頭の上にひよこがくるくる回りながら眼を回した後、除外ゾーンへと送られる……うーん、シュール。
「私はこのままターンエンド」
宝田 祭 LP7000
モンスターゾーン トゥーン・カオス・ソルジャー
魔法・罠カードゾーン トゥーン・ワールド セットカード1枚
手札1枚
「にしても愛流さん、デュエル中ずっとニコニコしてるよね」
「え、そうかな」
私自身あんまり意識してなかったけど。
他のみんなに同意を求めるべく見渡してみると、皆はうんうんと頷いていた。
「いやまあだって、『デュエルモンスターズ』はドラゴンを愛でることが出来ると同時に、デュエルを通じていろいろな人や様々なモンスターに出会えるんだもん。それってすごいワクワクしない?」
「気持ちは分かるよ。でも、いろいろなデュエリストと戦えるプロデュエリストには興味ないんだ」
宝田さんが私に問いかけてくる。
さっきまで気楽にデュエルを楽しんでいたときとは違い、真剣な顔だ。
「別にプロデュエリストそのものを否定してるわけじゃないけど……自分の戦果だけに酔いしれ、相手の戦術やデッキに込められた思いを見てない……それじゃワクワクしないよ」
不破君もなんか同意したようにうんうんと頷いてる。
もちろんそんなプロデュエリストばかりじゃないのは分かるけど、私がTVで見たときは相手の狙った戦術を手札誘発で潰し、相手の顔を一切見ないでデュエルをしてる光景だった。
なんか機械的な動きばっかりで、見ててワクワクすることなんか一切なかった。
ちょっと昔の話だから今は違うのかもしれないけど、こういった刷り込みはなかなか拭えるものではない。
「さてと、私のターンだね、ドロー」
お、これは。
「後、これだけは勘違いしてほしく無いことがあるんだ。私は『デュエルモンスターズ』中でもドラゴンに抱きついて自分の思うようにやってるし、それが果たせればいいかなと思ってるから勝ちも負けもそこまでこだわっては無いよ。でもね、負けたいってわけじゃないの。魔法カード『真紅眼融合』を発動」
このカードはデッキに1枚しか入れられない。
おかげでこうやって素引きしたときのうれしさはひとしおだ。
「デッキから『真紅眼の黒竜』と『ブラック・マジシャン』を墓地へ送り、竜の逞しさと魔法使いのクールさが交じり合った、至高の存在! 出でよ、『超魔導竜騎士ドラグーン・オブ・レッドアイズ』!」
真紅眼の黒竜の意匠を身にまとった黒き魔法使いが私の場に降り立つ。
昨日の不破君の姿を見て、ああいう観点からドラゴンの魅力を感じることが出来るのだなと思い至り、このカードを使う決意をした。
まったく、私としたことがドラゴンの姿にだけ囚われて、ドラゴンの意匠を身に纏い、ドラゴンに近づこうとしてる者の努力を見てなかったとは不覚の極み。
「攻撃力3000……『トゥーン・カオス・ソルジャー』と同等」
「それだけじゃないよ! ドラグーン・オブ・レッドアイズは融合素材に通常モンスターを使っていれば、相手モンスターを破壊してその攻撃力分のダメージを相手に与える効果があるんだ!」
「嘘、ってことは」
そう。
3000の大ダメージを宝田さんに与えることが出来る。
「『マジック・オブ・メガフレア』! トゥーン・カオス・ソルジャーを破壊するよ!」
「そうはいかない! 罠カード『メタバース』! 私の場にフィールド魔法を発動できる! 『トゥーン・キングダム』を発動する」
トゥーン・カオス・ソルジャーが特殊召喚されたから遠慮なく発動できるってことだね。
でも、残念だったね。
「ドラグーン・オブ・レッドアイズは手札を1枚捨てれば相手の発動した魔法・罠・モンスター効果を無効にして破壊して、その後攻撃力を1000アップすることが出来るよ!」
ドラグーン・オブ・レッドアイズが遠慮なく炎の呪文を唱え、『メタバース』を焼き払った。
そしてその炎を身に宿し、攻撃力が4000になる。
「まさかそんな切り札を隠し持ってたなんて」
「宝田さん、切り札というのは相手が全力を出しつくし、相手の全てを受け止める覚悟が出来てから『切る』札、だから『切り札』なんです。トゥーン・カオス・ソルジャーを出してきて、その上で宝田さんのもやもやは晴れたようでした。だから私も全てを出します」
「そっか……やっぱ愛流さんは面白いや」
宝田さんはドラグーン・オブ・レッドアイズに対抗する手段がなかったらしい。
トゥーン・カオス・ソルジャーを遠慮なく焼き払い、宝田さん自身も闇の炎に抱かれる。
「すごい力」
宝田 祭 LP7000→4000
これでLPは4000になった。
さっきドラグーン・オブ・レッドアイズが自身の効果で攻撃力を4000にしたから、これでちょうどトドメをさせる。
「ドラグーンでダイレクトアタックです」
ドラグーンが尻尾で宝田さんをぺしんと叩き、そのLPを0にした。
さすがに無抵抗の女の子の体を吹っ飛ばすのは非紳士的だと思ったのだろうか。
「負けちゃったか~」
宝田 祭 LP4000→0
「いや、強いねそのカード。カードデザインしたらそういうカード量産したいの?」
「うーん、さすがに私から見ても強すぎるから、このカードを見ながらいろいろと効果を考えてイラストも考えていきたいかな」
ドラグーン・オブ・レッドアイズは効果は強力すぎるの一言に尽きる。
逆に言えばこのカードよりも強すぎると感じたら、それは間違いなく効果のデザインミスがはっきりと分かる利点がある。
イラストとそれに見合う効果を考えるとき、一種の目安になりそうだ。
「デュエルして思いっきり完敗したけど、あそこまでやられると逆にすっきりしたよ。愛流さんの考えも聞けてよかったし。だけども、今度は負けないからね!」
宝田さんがカバンを担ぎ、教室から出て行く。
今回は『ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン』を見る前にデュエルが終わる形になってしまった。
宝田さんが採用してるかどうかは分からないけど、見ることが出来たら思いっきりそのよさを堪能しようっと。
また1つ新しいワクワクが増えちゃった。
さてと、今日はもう帰ろうかな。
デッキとデュエルディスクをカバンにしまい、教室から出ようとする。
「愛流お嬢様、お迎えにあがりましたの」
ラドちゃん!?
教室の外に待機して、そしてなにその鉢巻!?
「愛流お嬢様?」
「愛流さんっていいところの家の出身だったのか?」
「いやそれよりもあの子、鉢巻してるけど『ドラゴンメイド・ラドリー』だよな?」
「愛流さんってまさか、リアルソリッドビジョンで抱きつくだけじゃ飽き足らず魔改造して常に実体化できるようにしてドラゴンメイドさんにお嬢様って呼ばせて……」
わ、不破君以外の周りの奇異な目をすっごく感じちゃう!
「お母さんが家事の手伝いは終わったから自由にしていいって言ってましたの。だから愛流お嬢様のところへとお迎えに参ったですの」
「その気持ちはすごくうれしいけど……その鉢巻って」
「あ、気づいたですの。愛流お嬢様が気合を入れるとき、この水色の鉢巻を頭に巻いてがんばってるって聞いたですの。だからラドリーもこうやった鉢巻を巻いて、早く愛竜お嬢様に相応しいメイドになれるように気合を入れてるですの」
鉢巻を巻いてる姿も可愛らしいけど……それと同時に後ろから聞こえてくるひそひそ話もすごく気になるよ。
「ほら、愛流さん早く帰ろう。ラドリーちゃんも」
不破君がさすがにこの状況を見かねてくれたのか、私とラドちゃんを押して教室を後にする。
「おい、また不破の知り合いかよ! 愛流さんといい『ドラゴンメイド・ラドリー』といい、どうしてお前の周りには可愛い女の子ばっかり集まって来るんだようらやましいぞこんちくしょう!」
この血気迫る声は八住君だ……不破君もなんか気まずい顔してるし。
「ラドリーが可愛いって……愛流お嬢様の方が可愛いですの!」
そう言ってくれるのはうれしいけど、まだ教室の戸が開いてるからー!
ああ、明日になったら皆にいろいろと説明しなきゃいけないかも……
「僕もいろいろと聞きたいね、どうして『ドラゴンメイド・ラドリー』が傍にいるのか、そして不破君がどうして事情を知ってる感じなのか」
「あ、あなたは誰ですの?」
そして教室の扉を閉めて不破君とラドリーちゃんと退室したとき、その隣に楠葉ちゃんが立っていた。
「僕は『葛木 楠葉』。愛流ちゃんと不破君のお友達さ」
「そうですの、2人の友達ならラドリーにとってお友達ですの。よろしくお願いしますですの」
「丁寧だね、可愛い」
楠葉ちゃんも笑顔でラドちゃんの頭を撫でる。
ラドちゃんがぺこりと頭を下げてるものだから撫でやすいのだろう。
「さて、このラドリーちゃんがどういう存在なのか、それから不破君と一体何があったのか、いろいろと話を聞かせてもらおうかな?」
楠葉ちゃんはラドちゃんには見えないように私と不破君をじっと見つめていた。
これは下手な隠し事は出来ない奴だ……
「しょうがないさ、諦めよう。俺と愛流さんで話せることがあったら話すから、まずは別の場所に移動しよう」
「うん、分かった」
楠葉ちゃんを先頭に私たち3人は廊下を歩く。
これから何を尋ねられるのかを考えると、少しばかり不安だった。
「さすが愛流さんだ」
「噂には聞いてたけど、本当だったんだ」
「ほらみろ、嘘じゃないって。愛流さんはリアルソリッドビジョンのドラゴンに抱きつく癖があるって」
ああ、噂にまでなってたんだ。
でもまあ、もういいや。
昨日、それ以上に不思議な光景をいっぱい見てきた。
それに真にドラゴンに対する愛を貫くのであれば、こういった奇異な眼すら乗り越えてみせる。
「デュエルを続けるね。私は『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』の効果を発動するね。手札から『トゥーン・アンティーク・ギア・ゴーレム』を特殊召喚する」
レッドアイズが天高く雄たけびを上げる。
トゥーンと化してもドラゴンの雄たけびは心を振るわせる。
ほら、その証拠にコミカルになった『古代の機械巨人』が本の中から現れて拍手してる。
「あれ、僕の『古代の機械巨人』だね。トゥーン化すると古ぼけた感じはなくなるけども、あれはあれでいいね」
楠葉ちゃんもなかなか気に入ってくれてるみたいだ。
「ふふ、モンスターの見た目で喜んでくれて何よりだ。私はカードを1枚伏せてターンエンド」
宝田 祭 LP7000
モンスターゾーン トゥーン・アンティーク・ギア・ゴーレム レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン
魔法・罠カードゾーン トゥーン・ワールド セットカード1枚
手札1枚
さて、宝田さんは1ターン目から飛ばしてきた。
『トゥーン』デッキはその名の通り『トゥーン・ワールド』を軸として動き出すデッキ。
だからこそ『トゥーン・ワールド』を死守しなければいけないのに、警戒してる様子が一切無い。
まあでも、私のやることは変わらない。
「私のターン、ドロー。私は『伝説の黒石』召喚」
場に赤い輝きを放つ黒い巨大な石が置かれる。
この石は様々な可能性につながっている。
「『伝説の黒石』の効果発動。このカードをリリースしてデッキから『レッドアイズ』モンスター1体を特殊召喚する」
「本当便利な効果だよな。私も『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』を特殊召喚するためにお世話になってるよ」
あ、宝田さんもか。
『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』をデッキから特殊召喚できるから採用しない理由はないよね、確かに。
私が今回呼び出すのは。
「出でよ『真紅眼の黒炎竜』」
炎のオーラを見に纏う赤き瞳を持つ黒き竜。
シャープな体つきをさらに洗練させ、その体を熱く燃やしてる。
私のテンションも激しく燃え上がっちゃうよ。
「そして装備魔法『スーペルヴィス』を発動するよ。これで私の『真紅眼の黒炎竜』は真の力を解放するよ。そしてバトル。『真紅眼の黒炎竜』で『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』に攻撃!」
真紅眼の黒炎竜が漆黒の炎を吐き、レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンに炎が向かっていく。
レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンも負けじと口から大量の炎の玉を吐く。
これがドラゴン同士の熱い戦い……いや、炎を吐き合ってるからじゃないよ?
「攻撃力は同じ、相討ちか」
お互い炎を受け、真紅眼の黒炎竜は体から炎のオーラが消え、その場から消えていく。
レッドアイズ・トゥーン・ドラゴンは炎を受けたところを絆創膏をぺたぺたと貼り、トゥーン・ワールドの中へと逃げ込んでいった。
「炎は2度燃え上がる。装備魔法『スーペルヴィス』の効果発動。このカードが落ちへ送られたとき、墓地から通常モンスター1体を特殊召喚する。墓地では『真紅眼の黒炎竜』は通常モンスター扱いとなる、よって蘇る!」
墓地から炎が吹き上がり、その中から『真紅眼の黒炎竜』が飛び出していく。
ドラゴンなのにフェニックスみたいに炎の中から蘇る姿……まさに生命力が高いドラゴンにふさわしい姿だよ。
「なるほどね。私の『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』だけが一方的に破壊されるってわけね」
フィールドからレッドアイズ・トゥーン・ドラゴンがいなくなったのは本当に惜しい。
だけども、『トゥーンのしおり』で『トゥーン・ワールド』ではなくて『トゥーン・キングダム』をサーチすればその強固な耐性で『レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン』は守れたんじゃないだろうか?
発動時にデッキトップから3枚除外するというデメリットはあるし、破壊を免れるときにもデッキトップを除外する効果がある。
除外されたくないカードがあるのだろうか。
「……愛流さんの考えてること、多分当たり。私のデッキの『トゥーン・カオス・ソルジャー』、実はデッキに1枚しか入って無いんだ」
あ、そういうことだったんだ。
切り札を裏側除外という形で失ってしまっては、戦線維持以前にモチベーションの低下になってしまう。
切り札が出てから破壊されるのもショックだけども、そもそも場に出ないで使えなくなるも相当ショックだからね。
「最近発売されたばかりのカードだからね、まだ市場に出回ってなくて、かといって少ないお小遣いでパックから出るのを期待するのもちょっと無茶だから」
宝田さんは少し困ったように笑う。
その宝田さんを不破君がちょっとばかり複雑な表情で見てる。
そういえば不破君は中学生のときから新聞配達のバイトで生計を立てて、その余ったお金でデッキを強化してるんだっけ。
そんな不破君から見たら、お小遣いをもらえてデッキに入れるカードの心配が出来る宝田さんはうらやましいのかもしれない。
「だけど復活させたとはいえ『真紅眼の黒炎竜』じゃ『トゥーン・アンティーク・ギア・ゴーレム』に勝てないからね。メイン2、カードを2枚伏せてターンエンド」
遊紅 愛流 LP8000
モンスターゾーン 真紅眼の黒炎竜
魔法・罠カードゾーン セットカード2枚
手札2枚
「私のターン、ドロー」
宝田さんは勢いよくカードを引き、にっと笑顔を浮かべる。
さっきの話の流れだと……もしかしたら。
「私はLV8の『トゥーン・アンティーク・ギア・ゴーレム』をリリースして『トゥーン・カオス・ソルジャー』を特殊召喚するよ」
顔みたいな兜を被り、立派な鎧を着飾ったコミカルな戦士が宝田さんの場にやってくる。
召喚条件として『トゥーン』モンスターがLV8以上になるようにリリースすれば特殊召喚できて、しかも『トゥーン』モンスターだけども特殊召喚されたターンに攻撃できる素晴らしいカードだ。
「『トゥーン・カオス・ソルジャー』はフィールドに『トゥーン・ワールド』が存在しているとき、相手の場のカード1枚を除外することが出来るけども、それじゃ攻撃できなくなる。だけども『真紅眼の黒炎竜』を残しておく理由も無いからね、ここは除外させてもらうよ」
トゥーン・カオス・ソルジャーが思いっきりジャンプし、私の真紅眼の黒炎竜の頭を思いっきり剣で叩く……そこは斬るんじゃないんだね。
そして真紅眼の黒炎竜も頭の上にひよこがくるくる回りながら眼を回した後、除外ゾーンへと送られる……うーん、シュール。
「私はこのままターンエンド」
宝田 祭 LP7000
モンスターゾーン トゥーン・カオス・ソルジャー
魔法・罠カードゾーン トゥーン・ワールド セットカード1枚
手札1枚
「にしても愛流さん、デュエル中ずっとニコニコしてるよね」
「え、そうかな」
私自身あんまり意識してなかったけど。
他のみんなに同意を求めるべく見渡してみると、皆はうんうんと頷いていた。
「いやまあだって、『デュエルモンスターズ』はドラゴンを愛でることが出来ると同時に、デュエルを通じていろいろな人や様々なモンスターに出会えるんだもん。それってすごいワクワクしない?」
「気持ちは分かるよ。でも、いろいろなデュエリストと戦えるプロデュエリストには興味ないんだ」
宝田さんが私に問いかけてくる。
さっきまで気楽にデュエルを楽しんでいたときとは違い、真剣な顔だ。
「別にプロデュエリストそのものを否定してるわけじゃないけど……自分の戦果だけに酔いしれ、相手の戦術やデッキに込められた思いを見てない……それじゃワクワクしないよ」
不破君もなんか同意したようにうんうんと頷いてる。
もちろんそんなプロデュエリストばかりじゃないのは分かるけど、私がTVで見たときは相手の狙った戦術を手札誘発で潰し、相手の顔を一切見ないでデュエルをしてる光景だった。
なんか機械的な動きばっかりで、見ててワクワクすることなんか一切なかった。
ちょっと昔の話だから今は違うのかもしれないけど、こういった刷り込みはなかなか拭えるものではない。
「さてと、私のターンだね、ドロー」
お、これは。
「後、これだけは勘違いしてほしく無いことがあるんだ。私は『デュエルモンスターズ』中でもドラゴンに抱きついて自分の思うようにやってるし、それが果たせればいいかなと思ってるから勝ちも負けもそこまでこだわっては無いよ。でもね、負けたいってわけじゃないの。魔法カード『真紅眼融合』を発動」
このカードはデッキに1枚しか入れられない。
おかげでこうやって素引きしたときのうれしさはひとしおだ。
「デッキから『真紅眼の黒竜』と『ブラック・マジシャン』を墓地へ送り、竜の逞しさと魔法使いのクールさが交じり合った、至高の存在! 出でよ、『超魔導竜騎士ドラグーン・オブ・レッドアイズ』!」
真紅眼の黒竜の意匠を身にまとった黒き魔法使いが私の場に降り立つ。
昨日の不破君の姿を見て、ああいう観点からドラゴンの魅力を感じることが出来るのだなと思い至り、このカードを使う決意をした。
まったく、私としたことがドラゴンの姿にだけ囚われて、ドラゴンの意匠を身に纏い、ドラゴンに近づこうとしてる者の努力を見てなかったとは不覚の極み。
「攻撃力3000……『トゥーン・カオス・ソルジャー』と同等」
「それだけじゃないよ! ドラグーン・オブ・レッドアイズは融合素材に通常モンスターを使っていれば、相手モンスターを破壊してその攻撃力分のダメージを相手に与える効果があるんだ!」
「嘘、ってことは」
そう。
3000の大ダメージを宝田さんに与えることが出来る。
「『マジック・オブ・メガフレア』! トゥーン・カオス・ソルジャーを破壊するよ!」
「そうはいかない! 罠カード『メタバース』! 私の場にフィールド魔法を発動できる! 『トゥーン・キングダム』を発動する」
トゥーン・カオス・ソルジャーが特殊召喚されたから遠慮なく発動できるってことだね。
でも、残念だったね。
「ドラグーン・オブ・レッドアイズは手札を1枚捨てれば相手の発動した魔法・罠・モンスター効果を無効にして破壊して、その後攻撃力を1000アップすることが出来るよ!」
ドラグーン・オブ・レッドアイズが遠慮なく炎の呪文を唱え、『メタバース』を焼き払った。
そしてその炎を身に宿し、攻撃力が4000になる。
「まさかそんな切り札を隠し持ってたなんて」
「宝田さん、切り札というのは相手が全力を出しつくし、相手の全てを受け止める覚悟が出来てから『切る』札、だから『切り札』なんです。トゥーン・カオス・ソルジャーを出してきて、その上で宝田さんのもやもやは晴れたようでした。だから私も全てを出します」
「そっか……やっぱ愛流さんは面白いや」
宝田さんはドラグーン・オブ・レッドアイズに対抗する手段がなかったらしい。
トゥーン・カオス・ソルジャーを遠慮なく焼き払い、宝田さん自身も闇の炎に抱かれる。
「すごい力」
宝田 祭 LP7000→4000
これでLPは4000になった。
さっきドラグーン・オブ・レッドアイズが自身の効果で攻撃力を4000にしたから、これでちょうどトドメをさせる。
「ドラグーンでダイレクトアタックです」
ドラグーンが尻尾で宝田さんをぺしんと叩き、そのLPを0にした。
さすがに無抵抗の女の子の体を吹っ飛ばすのは非紳士的だと思ったのだろうか。
「負けちゃったか~」
宝田 祭 LP4000→0
「いや、強いねそのカード。カードデザインしたらそういうカード量産したいの?」
「うーん、さすがに私から見ても強すぎるから、このカードを見ながらいろいろと効果を考えてイラストも考えていきたいかな」
ドラグーン・オブ・レッドアイズは効果は強力すぎるの一言に尽きる。
逆に言えばこのカードよりも強すぎると感じたら、それは間違いなく効果のデザインミスがはっきりと分かる利点がある。
イラストとそれに見合う効果を考えるとき、一種の目安になりそうだ。
「デュエルして思いっきり完敗したけど、あそこまでやられると逆にすっきりしたよ。愛流さんの考えも聞けてよかったし。だけども、今度は負けないからね!」
宝田さんがカバンを担ぎ、教室から出て行く。
今回は『ブルーアイズ・トゥーン・ドラゴン』を見る前にデュエルが終わる形になってしまった。
宝田さんが採用してるかどうかは分からないけど、見ることが出来たら思いっきりそのよさを堪能しようっと。
また1つ新しいワクワクが増えちゃった。
さてと、今日はもう帰ろうかな。
デッキとデュエルディスクをカバンにしまい、教室から出ようとする。
「愛流お嬢様、お迎えにあがりましたの」
ラドちゃん!?
教室の外に待機して、そしてなにその鉢巻!?
「愛流お嬢様?」
「愛流さんっていいところの家の出身だったのか?」
「いやそれよりもあの子、鉢巻してるけど『ドラゴンメイド・ラドリー』だよな?」
「愛流さんってまさか、リアルソリッドビジョンで抱きつくだけじゃ飽き足らず魔改造して常に実体化できるようにしてドラゴンメイドさんにお嬢様って呼ばせて……」
わ、不破君以外の周りの奇異な目をすっごく感じちゃう!
「お母さんが家事の手伝いは終わったから自由にしていいって言ってましたの。だから愛流お嬢様のところへとお迎えに参ったですの」
「その気持ちはすごくうれしいけど……その鉢巻って」
「あ、気づいたですの。愛流お嬢様が気合を入れるとき、この水色の鉢巻を頭に巻いてがんばってるって聞いたですの。だからラドリーもこうやった鉢巻を巻いて、早く愛竜お嬢様に相応しいメイドになれるように気合を入れてるですの」
鉢巻を巻いてる姿も可愛らしいけど……それと同時に後ろから聞こえてくるひそひそ話もすごく気になるよ。
「ほら、愛流さん早く帰ろう。ラドリーちゃんも」
不破君がさすがにこの状況を見かねてくれたのか、私とラドちゃんを押して教室を後にする。
「おい、また不破の知り合いかよ! 愛流さんといい『ドラゴンメイド・ラドリー』といい、どうしてお前の周りには可愛い女の子ばっかり集まって来るんだようらやましいぞこんちくしょう!」
この血気迫る声は八住君だ……不破君もなんか気まずい顔してるし。
「ラドリーが可愛いって……愛流お嬢様の方が可愛いですの!」
そう言ってくれるのはうれしいけど、まだ教室の戸が開いてるからー!
ああ、明日になったら皆にいろいろと説明しなきゃいけないかも……
「僕もいろいろと聞きたいね、どうして『ドラゴンメイド・ラドリー』が傍にいるのか、そして不破君がどうして事情を知ってる感じなのか」
「あ、あなたは誰ですの?」
そして教室の扉を閉めて不破君とラドリーちゃんと退室したとき、その隣に楠葉ちゃんが立っていた。
「僕は『葛木 楠葉』。愛流ちゃんと不破君のお友達さ」
「そうですの、2人の友達ならラドリーにとってお友達ですの。よろしくお願いしますですの」
「丁寧だね、可愛い」
楠葉ちゃんも笑顔でラドちゃんの頭を撫でる。
ラドちゃんがぺこりと頭を下げてるものだから撫でやすいのだろう。
「さて、このラドリーちゃんがどういう存在なのか、それから不破君と一体何があったのか、いろいろと話を聞かせてもらおうかな?」
楠葉ちゃんはラドちゃんには見えないように私と不破君をじっと見つめていた。
これは下手な隠し事は出来ない奴だ……
「しょうがないさ、諦めよう。俺と愛流さんで話せることがあったら話すから、まずは別の場所に移動しよう」
「うん、分かった」
楠葉ちゃんを先頭に私たち3人は廊下を歩く。
これから何を尋ねられるのかを考えると、少しばかり不安だった。
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各々が夢を持ち、それを迷いなく語るのはきっと美しいことでしょう。
さて、ラドリーの存在が知られてしまいましたが、これを受けて周りがどうなるかが気になるところ。
中々コメントを出来ずに申し訳なかったです。次回も楽しみにしています。 (2020-09-13 00:38)
夢をはっきりと持ち、それに向かってブレずに進んでいく姿は尊いものです。
ラドリーの存在が明らかになりましたが、あんまりシリアスにはならないかなーと。なんせ主人公からして気楽な人ですから。
これからも応援していただければ幸いです。ではまた。 (2020-09-13 18:25)