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魔玩具の戯れ 作:エスカル
店の中に戻ってきた私を岬君と楠葉ちゃん、それからトリップ状態が終わっていた不破君が出迎える。
「何を話してたんだ?」
「秘密」
岬君の質問に数見さんはいい笑顔ではぐらかす。
だけどそれで諦める岬君じゃなかったらしく、何度か尋ねる。
「いや、さすがにあんな剣幕で出ていったら何事か気になるだろ?」
「特にこれと言って面白い話じゃないよ。ね、愛流さん」
「うん」
実際、数見さんが岬君が
「わーっ、わーっ!?」
「ほら、やっぱり絶対変な話してたんだろ」
まさかまた思ったことを口に?
ああ、ごめんなさい数見さん。
顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけるのやめて!
「もしかしたら変なことを愛流さんに吹き込んだんじゃないだろうな?」
「そんなことしてないよ!」
「だったら、デュエルで確かめてやる!」
岬君がそう言いながらデュエルディスクを構える。
「望むところ……あ、私デュエルディスクなんて持ってないや」
そういや数見さんは別にデュエルアカデミアに入学したわけじゃないからデュエルディスクなんて持ってないのか。
「じゃボクのデュエルディスク貸してあげる。数見さんがどんなデッキ使うのかも興味あるし」
それは同感。
「あーなるほど。ただ、数見さんはドラゴン使いじゃないぞ?」
「不破君、私がドラゴン使いしか興味ないみたいな言い方やめてね?」
純粋に他のモンスターもリアルソリッドビジョンで見られる感動だってあるんだからね。
それはドラゴンじゃなくたって同じはずだ。
「ありがと、えっと」
「葛城 楠葉です」
「ありがとね楠葉ちゃん。女の子用のデュエルディスクってやっぱり軽いんだ」
数見さんがデュエルディスクを装備出来て喜んでる。
私も同じ感想を抱き興奮した身だからよくわかるという物だ。
「じゃ、リアルソリッドビジョンでデュエルさせてもらいますか!」
「そうだね」
「デュエルだ」
「デュエルしましょうか」
岬 黒人 LP8000 VS 千堂 数見 LP8000
「げ、先攻は俺からかよ……ま、しょうがねぇか」
あれ、先攻取れたのに嫌そう?
数見さんのデッキは1キル特化かな?
「あー、岬の奴、妨害札多く置けなかったら負けるかもな」
しかも不破君までそんなこと言いだしたし。
これはますます数見さんのデッキに興味が出て来ちゃうね。
「俺はBF―毒風のシムーンの効果発動。手札のBF―銀盾のミストラルを除外してデッキから黒い旋風を発動し、シムーンをリリース無しで召喚する」
BFの展開の肝とも言える黒い旋風を発動した挙句、自身を召喚するなんてなんて強力なモンスターなんだ。
「そして黒い旋風の効果でデッキから攻撃力1600より下の、BF―南風のアウステルを手札に加える。そして南風のアウステルを召喚し、効果発動。除外されている銀盾のミストラルを特殊召喚する。そして俺はLV6の毒風のシムーンにLV4の南風のアウステルをチューニング! 来い来い来い、BF―フルアーマード・ウィング!」
黒くごつい鎧で身を包んだ黒羽の戦士が腕を組みながら岬君の場に降り立つ。
あの状況ならブラックフェザー・ドラゴンを呼び出すことも出来たが、それよりも攻撃力が高く耐性が優秀なフルアーマードを優先するよね、そりゃ。少し残念。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに黒い旋風は墓地へ送られ、俺は1000ダメージ受ける」
岬 黒人 LP7000
モンスターゾーン BF―銀盾のミストラル
EXモンスターゾーン BF―フルアーマード・ウィング
魔法・罠カードゾーン セットカード2枚
手札1枚
「じゃ、次は私のターンだね、ドロー。私はファーニマル・ドッグを召喚!」
わ、可愛らしい犬のぬいぐるみだ。
「可愛いモンスター使うんだね、数見さん」
楠葉ちゃんも私と同意見だったらしく、同意を求めてくる。
実際可愛らしいし……ん、不破君?
「可愛い……か」
な、なんでそんな遠い目してるの?
「私はファーニマル・ドッグの効果でデッキからファーニマル・ベアを手札に加えてそのままファーニマル・ベアの効果発動。ファーニマル・ベアを捨ててデッキから永続魔法・トイポッドをフィールドにセット。あ、デュエルディスクが自動的に処理行ってくれる。うわー、楽」
やはり勝手にサーチしたいカードを取り出してくれてその後自動的にシャッフルしてくれるデュエルディスクのシステムはありがたい物だ。
「トイポッドの効果発動。手札のファーニマル・ウィングを捨ててデッキトップから1枚ドロー。それがファーニマルモンスターだったら、手札のモンスター1体を特殊召喚することが出来る」
おお、まさにガチャガチャみたいな効果だ。
「引いたカードはエッジインプ・チェーン。残念ながら墓地へ送るよ」
「「げ」」
不破君も岬君も顔をしかめる。
特殊召喚出来なかったし、むしろ岬君からしたら喜ばしいのでは?
「いや、そんなに甘くない」
不破君がそんな私の気持ちを代弁してくれた。
「墓地へ送られたエッジインプ・チェーンの効果発動。デッキからデストーイと名のつくカード1枚を手札に加える。私は魔玩具補綴を手札に加えます。そして魔玩具補綴を発動してデッキから融合とエッジインプモンスター1体を手札に加えます」
なるほど、エッジインプ・チェーンはサーチ効果持ちモンスターだったのか。
それなら墓地へ送られた方がむしろ都合がいいんだね。
「私は融合とエッジインプ・シザーを手札に加えるよ。そして墓地のファーニマル・ウィングの効果発動。墓地のファーニマル・ベアとこのカードを除外する。1枚ドローするよ」
「……通す」
「やったぁ。なら追加効果で私は場のトイポッドを1枚墓地へ送って1枚ドロー。そして墓地へ送られたトイポッドの効果でデッキからファーニマル・キャットを手札に加えるよ。そして手札のファーニマル・シープを特殊召喚するね」
次は可愛い羊さん。
可愛いモンスターばっかり揃うけど、さっきのエッジインプモンスター、妙に禍々しかったような……
「ファーニマル・シープの効果で場のファーニマル・ドッグを手札に戻して墓地からエッジインプ・チェーンを特殊召喚するね」
さっき墓地へ送られていった鎖に纏わりつかれた悪魔が犬のぬいぐるみの代わりに出現する。
「そして魔法カード・融合を発動。 手札のエッジインプ・シザーとファーニマル・キャットを融合。 融合召喚! デストーイ・ハーケン・クラーケン!」
イカのぬいぐるみの下半身がびりびりっという音を立てて破れ、そこから黒い刃が覗かせる。
そして私と同じ赤い瞳が下半身に宿る。
「融合素材として墓地へ送られたファーニマル・キャットの効果で墓地から融合を手札に戻す。そしてデストーイ・ハーケン・クラーケンの効果発動! BF―銀盾のミストラルを墓地へ送るね」
「くっ、なら銀盾のミストラルをリリースして罠カードゴッドバードアタックを発動。エッジインプ・チェーンとファーニマル・シープを破壊する」
銀盾のミストラルが体を光らせ、光る二対の矢となって数見さんの場の2体のモンスターを破壊する。
「残念、それぐらいじゃ私は止められないわよ? 私は魔法カード・アドバンスドローを発動。デストーイ・ハーケン・クラーケンを墓地へ送って2枚ドロー」
「最初からハーケン・クラーケンを墓地へ送る手段はあったのかよ」
「そいういうこと。そして私は魔法カード・魔玩具融合を発動。フィールドか墓地のモンスターを素材として、デストーイ融合モンスターを特殊召喚できる。私は墓地のファーニマル・キャットとエッジインプ・シザーの2体を除外し、融合召喚。出でよデストーイ・シザー・タイガー」
虎のぬいぐるみのお腹を突き破りハサミの刃が出現する……ってか怖い!
「デストーイ・シザー・タイガーの効果。素材にしたカードは2枚、融合素材にしたモンスターの数だけ相手のカードを破壊する! 破壊するのはセットカード」
シザー・タイガーのお腹のハサミが伸びていき、岬君の場のセットカード・ブラック・リターンを切り裂いた。
やっぱりあのモンスター、ぬいぐるみの可愛らしさを残してる分怖さが引き立てられちゃってるや……
となりの楠葉ちゃんも少し呆然とした目でデストーイ・シザー・タイガーを見てるし。
「だから言っただろ。俺と岬の2人とは幼馴染で、ずっと毎日デュエルしてたんだ。腕前も相当なものだし、その容赦なさに可愛らしさに欠片もないぜ。何よりあのデストーイってモンスター、不気味なんだよな。リアルソリッドビジョンで見ると尚更な」
「え、でもむしろデストーイのイラストってキモ可愛くない? こういった形のぬいぐるみもアリでしょ?」
ああ、なるほど。
数見さんはぬいぐるみ好きが行き過ぎちゃってるんだ。
私のドラゴン愛と少し通じるものがあるね。
「ま、それはおいておいて。私は魔法カード・融合を発動。場のデストーイ・シザー・タイガーと手札のファーニマル・ペンギンの2枚を融合。融合召喚! 出でよデストーイ・サーベル・タイガー」
今度は4つ足で歩く虎のぬいぐるみの背中からサーベルの刃が飛び出してきてるぬいぐるみの登場だ。
「デストーイ・サーベル・タイガーが融合召喚に成功したことで墓地のデストーイ・シザー・タイガーを特殊召喚します!」
サーベル・タイガーが奇声を発生し(ぬいぐるみなのに)墓地からデストーイ・シザー・タイガーが蘇る。
「そして墓地へ送られたファーニマル・ペンギンの効果でデッキから2枚ドローして1枚墓地へ送る」
なんていうか、融合素材になったファーニマルたちの効果で数見さんの手札が全然減らないんだけど……
私の知ってる融合ってこう、手札消費が荒いはずでは。
「そりゃまあ、ファーニマルは融合召喚における手札消費の粗さを克服してるテーマだからな。というか愛流さんの真紅眼融合はデッキからノーコストで融合できるから手札が荒くなる要素なんてないじゃねーか」
不破君が私にツッコミを入れる。
どうやらまた声に出していたらしい。
いやいや、手札にデーモンの召喚を引いてしまって融合する場合はさすがに手札からも使わざるを得ないし、その時は手札消費が気になっちゃうよ。
「魔法カード・デストーイ・リニッチを発動。墓地のデストーイ・ハーケン・クラーケンを特殊召喚するね」
またデストーイ・ハーケン・クラーケンが並び立つ。
っていうかリンクモンスターを使ってもないのに、蘇生効果の組み合わせで場に融合モンスターを3体も並べるなんて、すごい!
「場のデストーイ・シザー・タイガーは場のデストーイかファーニマルモンスターの数×300ポイント、場のデストーイモンスターの攻撃力をアップさせる。そしてデストーイ・サーベル・タイガーは場のデストーイモンスターの攻撃力を400上げる。それぞれの攻撃力アップの効果の合計は1300」
デストーイ・シザー・タイガー ATK1900→3200
デストーイ・サーベル・タイガー ATk2400→3700
デストーイ・ハーケン・クラーケン ATK2200→3500
「くそ、攻撃力3000オーバーが3体も並ぶとは」
「岬君、耐性持ちと妨害1枚だけじゃ私のファーニマルは止められないよ? バトルフェイズ。デストーイ・ハーケン・クラーケンでBF―フルアーマード・ウィングに攻撃」
イカのぬいぐるみが振り上げた刃がフルアーマード・ウィングの鎧を叩き壊す。
確かに刃の切れ味よりも重さで叩き伏せるというのもあるけどさ。
デストーイ・ハーケン・クラーケン ATK3500 VS BF―フルアーマード・ウィング ATK3000
岬 黒人 LP8000→7500
「デストーイ・ハーケン・クラーケンはバトルフェイズ中に2回攻撃できるよ。デストーイ・ハーケン・クラーケンでダイレクトアタック」
「まだ終わらねぇ! 手札のBF―熱風のギブリの効果発動だ! 相手の直接攻撃宣言時に特殊召喚する!」
「それぐらいじゃ壁にもなりはしないよ!」
ハーケン・クラーケンが刃で熱風のギブリを押し潰す。
でも、これでなんとか岬君は耐えた。
「デストーイ・シザー・タイガーとデストーイ・サーベル・タイガーの2体でダイレクトアタック!」
デストーイ・シザー・タイガーのハサミの刃とデストーイ・サーベル・タイガーの体当たりが岬君を襲う。
「なんとか……耐えたぜ」
岬 黒人 LP7500→600
「まさか耐えられるとは思ってなかったよ。成長してるんだね岬君」
「当たり前だ。不破とお前の強さより俺は一歩劣ってるんだ。だけど、この耐えたことは教訓として俺は前へ進む」
「……成長してるのは岬君だけじゃないよ。手札から速攻魔法・瞬間融合を発動。 私のフィールドのモンスターで融合召喚を行う! 私は場のデストーイモンスター3体を融合。出でよ、デストーイ・マッド・キマイラ!」
まるでびっくり箱のように首が3つ飛び出している巨大な玩具の化け物が数見さんの場に君臨する。
全ての玩具を統べる王のようにも見えるが、正直に言えばやっぱり不気味だ。
あの中に1体でもドラゴンの要素が交わっていれば不気味さはなくなるんだろうけど。
「デストーイ・マッド・キマイラはバトルを行うとき、相手に魔法・罠・モンスター効果を発動させることも許さない。デストーイ・マッド・キマイラでダイレクトアタック!」
3つ首が一気に岬君に覆いかぶさり、押し潰した。
「完敗か」
岬君が悔し気に呟き、盛大にため息をついた。
岬 黒人 LP600→0
「よっし、私の勝利」
数見さんがガッツポーズを取って喜ぶ。
そりゃまあ、岬君の妨害を受けたうえでそれでも1ターンキルを決めたのだからガッツポーズを決めたくなる気持ちもよくわかる。
「すごかったね」
隣にいた楠葉ちゃんが感想を求めてくる。
「うん、あそこまでお見事な1ターンキル、なかなか見れないよ」
「だから俺も数見さん相手に後攻はあんまり渡したくないんだよな」
「あら、私に後攻を渡しても勝つ確率の方が高い男が何を言うのかしら」
「そりゃ後攻の攻めをいなせば息切れするだろ。魔術師は持久戦ももってこいなんだよ」
確かにペンデュラムデッキの持久力の高さならデストーイの1キルを潜り抜けたら後は一方的に戦えるもんね。
問題なのは1キルを回避する手段が先攻で整えられるかどうかなんだけども……
「そういや気になったんだけど、数見さんはそれだけの腕前がありながらどうしてデュエルアカデミア・ロッサス校を受験しなかったの? これだけの腕前なら合格間違いなしだと思ったんだけど」
それは確かに私も気になってた。
岬君のことが好きなら、岬君の傍にいるためにデュエルアカデミア・ロッサス校を受験するだろうし。
「お父様が許してくれなかったのよ。立派なお嬢様になるために聖・アンデル校に入学しなさいって」
「お嬢様って、数見さんいいところのお嬢様なの?」
「ああ、数見の父親は株式会社TODOの社長だよ」
「あの食料品メーカーの大手の!?」
数多くの冷凍食品を世に送り出している株式会社TODO。
そこの社長の娘さんが数見さんなの!?
「うん、だから私は社長令嬢として相応しいマナーを身につけなさいということで」
「なるほどね」
「会社同士の対抗戦でデュエルを行ったりするから、会社の威信もかけて私はデュエルで勝つことも求められてる。だからそうそう負けるわけにもいかないのよ。本当、このカードショップと不破君と岬君に出会えて私は良かった」
会社の威信をかけるためにデュエル。
それならあの1キルと絶対的な自身も頷ける。
「ところで気になってたんだけど」
数見さんはそう言いながら私の顔を覗き込んでくる。
間違いない、こんな時は。
「きれいな紅色の瞳だね」
「褒めてくれてありがと」
「確かにそうだよね」
「真紅眼デッキ使いの愛流さんに相応しい瞳の色だよな!」
不破君がいい笑顔で言い、私も素直にうなずく。
別に瞳の色が紅色だから真紅眼のデッキを使ってるわけではないのだけども、一応そういうことにしておこう。
「でも、昔はこの瞳の色のおかげで男の子や女の子にからかわれたりして大変だったんだよ。それに紅色の瞳が珍しい女の子だからというだけで誘拐されたりもしたし」
「待て待て待て、いきなり話が重くなったぞ」
岬君が慌てて私の話を遮ろうとする。
確かにいきなり誘拐とか、あまりにも平和からかけ離れた話題が出てきたらそう言いたくなるのも自然かも。
「まあ、色々と大変なことがあったんだけどね。おじいちゃんは言ってた。一度しかない人生、他の人と同じような人生じゃつまらない。その紅の瞳は人生を彩る素晴らしい物だから大事にしなさいって」
「へぇ……どういう意味?」
数見さん、分かったような顔を浮かべてたのにその反応はどうかと思うよ!
「要約すると紅の瞳は他の人が持ってないから好奇の目に晒されるだろうけど、それは愛流さんだけが持っている素晴らしい特色の1つだから、むしろ誇って堂々としていなさいってことだと思うぜ」
不破君ナイス翻訳。
今の言葉は私がおじいちゃんに言われたことそのまま言ってただけだから、当時の私も理解しづらかったっけ。
「いいこと言うね、愛流ちゃんのおじいちゃん」
「そうでしょ。ま、瞳の色は置いておいて。次は誰と」
デュエルしようかなと言おうとした瞬間。
私の視界の端にとある物体が入る。
「あ、ああ!? そ、それは!」
「どうかしたのか?」
「竜戦士物語の最新刊! そういや今日発売日だったっけ!」
「え、何それ?」
数見さんがきょとん顔を浮かべる。
「ああ、今日の朝一番で俺が購入してきたんだよ。ネタバレはしない方がいいよね?」
「当然です!」
小説のネタバレダメ、絶対。
「で、結局どういう小説なのそれ?」
「異なる世界から来た竜の戦士たち。竜剣士ラスターP、ドラグニティアームズ―レヴァテイン、波動竜騎士ドラゴエクィテスの3体の竜戦士たちがとある1つの世界に流れ着き、その世界に蔓延している悪と戦っていく小説だよ!」
「そうそう。ここまで話の流れで僕の推すシーンは、ドラグニティアームズ―レヴァテインがワーム・ゼロを復活させようとするワーム・キング率いるワーム一族相手にたった1体で突撃していったところだよ!」
「分かります! あれは名シーンの1つですよね! 私の推しのシーンは竜剣士ラスターPが宿敵、竜魔王ベクターPとの最初の戦いの時、剣を交えているときに竜魔王の闇の力に蝕まれつつもレヴァテインとドラゴエクィテスの激励を受けて、一時的だけだったとはいえ竜剣士マスターPに覚醒し、竜魔王ベクターPとその一味たちを撤退させたシーンです!」
「あれも名シーンの1つだよね!」
さすがは店長、分かってるぅ!
「確かに面白そうだね」
「俺もそれ読んでるぜ! デュエル以外の唯一の娯楽だからな!」
不破君もノリ気味で私と店長の間に入ってくる。
やはり不破君は私が見込んだ通りの人。
「悪い、岬、それから愛流さんと楠葉さん! 俺、今から本屋さん行ってその本買ってくる!」
不破君は急いでカバンの中にデッキケースを入れ、席を立つ。
「待って不破君! 私も行くよ!」
私だって竜戦士物語の最新刊は欲しいからね。
「おっ、そうか。じゃ、悪いけど3人とも、俺と愛流さん、先に帰るわ!」
「ごめんね、せっかく皆と交流しようとしてたのに」
「いや、別に構わねーよ。まだ入学初日だ。まだまだ交流する機会はあるさ」
「そうそう」
岬君と楠葉ちゃん、やっぱり優しいね。
いきなり帰るなんて言い出したのにも関わらず笑顔で見送ってくれるなんて。
「じゃあな!」
「また明日!」
私と不破君は急いで店を出る。
店の外にある自転車に乗り、不破君も自転車だったから一緒に駆け出した。
(……っていうか、あれ?)
店の中に残った楠葉はとあることに気づく。
(さっきまでの会話を聞く限り、数見さんが岬君に好意を抱いているのは間違いないはず……ってことは)
ボクはちらりと数見さんの方を見る。
うわ、間違いない!
あれは間違いなくボクを邪魔者として見ている眼!
これはボクも急いで帰った方がいいんだろうか。
「あ、そうだ。店の奥のエアコン、少し調子悪いんだったっけ」
エアコンの調子が悪いだって!?
「店長さん、ボクに見せてください。ボク、結構複雑な機械の修理とかも出来ますよ?」
「そうなのかい? でも、お客様に機械を見てもらうなんて」
「いいから、お願いします!」
「そっか、そこまで言うのなら。店のちょっと奥でね」
店長さんに案内され、ボクは店の奥へと入っていく。
これでしばらくは岬君と数見さんが2人きりになれるはず。
そんな楠葉の憶測も知らず、岬と数見はさっきのデュエルの感想を述べあっていた。
「無事に手に入れられたぜ」
不破君が竜戦士物語の最新刊を手に入れてホクホクの笑顔だ。
そういう私も竜戦士物語の最新刊と、他に出ていた小説も買えて大満足だ。
「ところで愛流さん、他に何の小説買ってたんだ? 確か2冊買ってたはずだけど」
「1冊目は『転生したらドラゴンメイドに囲まれてて辛い』だよ」
「何その凄まじいタイトル」
「えっとね。どこから語ろうかな」
「手短に頼む」
「前世で交通事故に遭った男の人が生まれ変わって気づいたら、ドラゴンメイドたちにご主人さまって呼ばれるようになってたの」
ある意味その主人公が羨ましい。
私もお嬢様のような立場になって、ドラゴンメイドたちにお嬢様、なんて呼ばれてみたいものだ。
「へぇー。そのうらやましい立場の男の人はどうなってるんだ?」
「今さりげなくうらやましいとかって言ったよね」
「まあそりゃメイドさんが多くいるってことは、家事とかしなくていいってことなんだろ? うらやましいぜ」
「ああ、そっちの意味なんだ。前の巻で確かドラゴンメイド・ナサリーに看病してもらっていたところに男の人が我慢できずにナサリーと添い寝してるところを、ナサリーに教育してもらってて、内心男の人に惚れてるドラゴンメイド・ラドリーに見つかってしまうという所で終わってたはず」
「なんという修羅場」
確かに相当な修羅場に突入するところで終わっちゃったから、早く続きが読みたいところだよ。
「で、残り1冊は?」
「2冊目は『乙女は愛に狂い』だよ」
「タイトルからしてもはやすさまじい中身しか想像できないぜ」
「そうかなぁ。確かクァイバという男の人が、青眼の白龍の精霊に好かれて、その青眼の白龍が愛のあまり人間の姿を手に入れて、クァイバという男の人と一緒に過ごす恋愛物語だよ」
「ふむふむ」
「で、最近はクァイバという男の人の知り合いのイシュズという女の人の連れ子であるオベリス子という女の子がクァイバの嫁さんになるって公言して、それに嫉妬した青眼の白龍の精霊さんがクァイバという男の人に今まで以上に積極的にアタックするって展開だよ、今は」
「なんていうか……俺も気になってきたから今度、その2つの小説貸してくれない?」
「いいよ。明日1巻から持ってこようか?」
「マジで、助かる」
「今のところ『転生したらドラゴンメイドに囲まれてて辛い』が今日私が買ったのを含めたら4冊出てて『乙女は愛に狂い』が今日私が買ったのを含めたら3冊出てるよ」
「なるほど」
「とりあえず今から家に帰ったら今までのお話の復習も兼ねて全て読み直すつもりだから、今夜は徹夜だよ~」
「あ、あまり無理するなよ」
あ、心配そうな目で私を見てる。
私としては好きでやってることなんだけど、やっぱり他の人には奇行に見えるのかな?
「で、家はどちらの方面だ? 帰り道同じなら途中まで帰ろうぜ」
「とりあえずこっちの方だけど」
「あ、俺もこっちの方だ。じゃ、途中まで一緒に帰ろうぜ」
それからの帰り道、私と不破君は2人自転車に乗りながら、色々なことをしゃべった。
だけど、不破君は決して、自分の家族の事だけは喋ろうとしなかった。
さっき、竜戦士物語を読むことがデュエルを除いて唯一の娯楽って言ってた。
もしかしたら、不破君は貧しい暮らしをしてるんだろうか?
でも、そこは踏み入っていい一線なのだろうか?
不破君が自分から話すのを待った方がいいのだろうか。
そんなことを考えながら自転車を走らせていると、私の家の近くの公園に差し掛かる。
「何を話してたんだ?」
「秘密」
岬君の質問に数見さんはいい笑顔ではぐらかす。
だけどそれで諦める岬君じゃなかったらしく、何度か尋ねる。
「いや、さすがにあんな剣幕で出ていったら何事か気になるだろ?」
「特にこれと言って面白い話じゃないよ。ね、愛流さん」
「うん」
実際、数見さんが岬君が
「わーっ、わーっ!?」
「ほら、やっぱり絶対変な話してたんだろ」
まさかまた思ったことを口に?
ああ、ごめんなさい数見さん。
顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけるのやめて!
「もしかしたら変なことを愛流さんに吹き込んだんじゃないだろうな?」
「そんなことしてないよ!」
「だったら、デュエルで確かめてやる!」
岬君がそう言いながらデュエルディスクを構える。
「望むところ……あ、私デュエルディスクなんて持ってないや」
そういや数見さんは別にデュエルアカデミアに入学したわけじゃないからデュエルディスクなんて持ってないのか。
「じゃボクのデュエルディスク貸してあげる。数見さんがどんなデッキ使うのかも興味あるし」
それは同感。
「あーなるほど。ただ、数見さんはドラゴン使いじゃないぞ?」
「不破君、私がドラゴン使いしか興味ないみたいな言い方やめてね?」
純粋に他のモンスターもリアルソリッドビジョンで見られる感動だってあるんだからね。
それはドラゴンじゃなくたって同じはずだ。
「ありがと、えっと」
「葛城 楠葉です」
「ありがとね楠葉ちゃん。女の子用のデュエルディスクってやっぱり軽いんだ」
数見さんがデュエルディスクを装備出来て喜んでる。
私も同じ感想を抱き興奮した身だからよくわかるという物だ。
「じゃ、リアルソリッドビジョンでデュエルさせてもらいますか!」
「そうだね」
「デュエルだ」
「デュエルしましょうか」
岬 黒人 LP8000 VS 千堂 数見 LP8000
「げ、先攻は俺からかよ……ま、しょうがねぇか」
あれ、先攻取れたのに嫌そう?
数見さんのデッキは1キル特化かな?
「あー、岬の奴、妨害札多く置けなかったら負けるかもな」
しかも不破君までそんなこと言いだしたし。
これはますます数見さんのデッキに興味が出て来ちゃうね。
「俺はBF―毒風のシムーンの効果発動。手札のBF―銀盾のミストラルを除外してデッキから黒い旋風を発動し、シムーンをリリース無しで召喚する」
BFの展開の肝とも言える黒い旋風を発動した挙句、自身を召喚するなんてなんて強力なモンスターなんだ。
「そして黒い旋風の効果でデッキから攻撃力1600より下の、BF―南風のアウステルを手札に加える。そして南風のアウステルを召喚し、効果発動。除外されている銀盾のミストラルを特殊召喚する。そして俺はLV6の毒風のシムーンにLV4の南風のアウステルをチューニング! 来い来い来い、BF―フルアーマード・ウィング!」
黒くごつい鎧で身を包んだ黒羽の戦士が腕を組みながら岬君の場に降り立つ。
あの状況ならブラックフェザー・ドラゴンを呼び出すことも出来たが、それよりも攻撃力が高く耐性が優秀なフルアーマードを優先するよね、そりゃ。少し残念。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに黒い旋風は墓地へ送られ、俺は1000ダメージ受ける」
岬 黒人 LP7000
モンスターゾーン BF―銀盾のミストラル
EXモンスターゾーン BF―フルアーマード・ウィング
魔法・罠カードゾーン セットカード2枚
手札1枚
「じゃ、次は私のターンだね、ドロー。私はファーニマル・ドッグを召喚!」
わ、可愛らしい犬のぬいぐるみだ。
「可愛いモンスター使うんだね、数見さん」
楠葉ちゃんも私と同意見だったらしく、同意を求めてくる。
実際可愛らしいし……ん、不破君?
「可愛い……か」
な、なんでそんな遠い目してるの?
「私はファーニマル・ドッグの効果でデッキからファーニマル・ベアを手札に加えてそのままファーニマル・ベアの効果発動。ファーニマル・ベアを捨ててデッキから永続魔法・トイポッドをフィールドにセット。あ、デュエルディスクが自動的に処理行ってくれる。うわー、楽」
やはり勝手にサーチしたいカードを取り出してくれてその後自動的にシャッフルしてくれるデュエルディスクのシステムはありがたい物だ。
「トイポッドの効果発動。手札のファーニマル・ウィングを捨ててデッキトップから1枚ドロー。それがファーニマルモンスターだったら、手札のモンスター1体を特殊召喚することが出来る」
おお、まさにガチャガチャみたいな効果だ。
「引いたカードはエッジインプ・チェーン。残念ながら墓地へ送るよ」
「「げ」」
不破君も岬君も顔をしかめる。
特殊召喚出来なかったし、むしろ岬君からしたら喜ばしいのでは?
「いや、そんなに甘くない」
不破君がそんな私の気持ちを代弁してくれた。
「墓地へ送られたエッジインプ・チェーンの効果発動。デッキからデストーイと名のつくカード1枚を手札に加える。私は魔玩具補綴を手札に加えます。そして魔玩具補綴を発動してデッキから融合とエッジインプモンスター1体を手札に加えます」
なるほど、エッジインプ・チェーンはサーチ効果持ちモンスターだったのか。
それなら墓地へ送られた方がむしろ都合がいいんだね。
「私は融合とエッジインプ・シザーを手札に加えるよ。そして墓地のファーニマル・ウィングの効果発動。墓地のファーニマル・ベアとこのカードを除外する。1枚ドローするよ」
「……通す」
「やったぁ。なら追加効果で私は場のトイポッドを1枚墓地へ送って1枚ドロー。そして墓地へ送られたトイポッドの効果でデッキからファーニマル・キャットを手札に加えるよ。そして手札のファーニマル・シープを特殊召喚するね」
次は可愛い羊さん。
可愛いモンスターばっかり揃うけど、さっきのエッジインプモンスター、妙に禍々しかったような……
「ファーニマル・シープの効果で場のファーニマル・ドッグを手札に戻して墓地からエッジインプ・チェーンを特殊召喚するね」
さっき墓地へ送られていった鎖に纏わりつかれた悪魔が犬のぬいぐるみの代わりに出現する。
「そして魔法カード・融合を発動。 手札のエッジインプ・シザーとファーニマル・キャットを融合。 融合召喚! デストーイ・ハーケン・クラーケン!」
イカのぬいぐるみの下半身がびりびりっという音を立てて破れ、そこから黒い刃が覗かせる。
そして私と同じ赤い瞳が下半身に宿る。
「融合素材として墓地へ送られたファーニマル・キャットの効果で墓地から融合を手札に戻す。そしてデストーイ・ハーケン・クラーケンの効果発動! BF―銀盾のミストラルを墓地へ送るね」
「くっ、なら銀盾のミストラルをリリースして罠カードゴッドバードアタックを発動。エッジインプ・チェーンとファーニマル・シープを破壊する」
銀盾のミストラルが体を光らせ、光る二対の矢となって数見さんの場の2体のモンスターを破壊する。
「残念、それぐらいじゃ私は止められないわよ? 私は魔法カード・アドバンスドローを発動。デストーイ・ハーケン・クラーケンを墓地へ送って2枚ドロー」
「最初からハーケン・クラーケンを墓地へ送る手段はあったのかよ」
「そいういうこと。そして私は魔法カード・魔玩具融合を発動。フィールドか墓地のモンスターを素材として、デストーイ融合モンスターを特殊召喚できる。私は墓地のファーニマル・キャットとエッジインプ・シザーの2体を除外し、融合召喚。出でよデストーイ・シザー・タイガー」
虎のぬいぐるみのお腹を突き破りハサミの刃が出現する……ってか怖い!
「デストーイ・シザー・タイガーの効果。素材にしたカードは2枚、融合素材にしたモンスターの数だけ相手のカードを破壊する! 破壊するのはセットカード」
シザー・タイガーのお腹のハサミが伸びていき、岬君の場のセットカード・ブラック・リターンを切り裂いた。
やっぱりあのモンスター、ぬいぐるみの可愛らしさを残してる分怖さが引き立てられちゃってるや……
となりの楠葉ちゃんも少し呆然とした目でデストーイ・シザー・タイガーを見てるし。
「だから言っただろ。俺と岬の2人とは幼馴染で、ずっと毎日デュエルしてたんだ。腕前も相当なものだし、その容赦なさに可愛らしさに欠片もないぜ。何よりあのデストーイってモンスター、不気味なんだよな。リアルソリッドビジョンで見ると尚更な」
「え、でもむしろデストーイのイラストってキモ可愛くない? こういった形のぬいぐるみもアリでしょ?」
ああ、なるほど。
数見さんはぬいぐるみ好きが行き過ぎちゃってるんだ。
私のドラゴン愛と少し通じるものがあるね。
「ま、それはおいておいて。私は魔法カード・融合を発動。場のデストーイ・シザー・タイガーと手札のファーニマル・ペンギンの2枚を融合。融合召喚! 出でよデストーイ・サーベル・タイガー」
今度は4つ足で歩く虎のぬいぐるみの背中からサーベルの刃が飛び出してきてるぬいぐるみの登場だ。
「デストーイ・サーベル・タイガーが融合召喚に成功したことで墓地のデストーイ・シザー・タイガーを特殊召喚します!」
サーベル・タイガーが奇声を発生し(ぬいぐるみなのに)墓地からデストーイ・シザー・タイガーが蘇る。
「そして墓地へ送られたファーニマル・ペンギンの効果でデッキから2枚ドローして1枚墓地へ送る」
なんていうか、融合素材になったファーニマルたちの効果で数見さんの手札が全然減らないんだけど……
私の知ってる融合ってこう、手札消費が荒いはずでは。
「そりゃまあ、ファーニマルは融合召喚における手札消費の粗さを克服してるテーマだからな。というか愛流さんの真紅眼融合はデッキからノーコストで融合できるから手札が荒くなる要素なんてないじゃねーか」
不破君が私にツッコミを入れる。
どうやらまた声に出していたらしい。
いやいや、手札にデーモンの召喚を引いてしまって融合する場合はさすがに手札からも使わざるを得ないし、その時は手札消費が気になっちゃうよ。
「魔法カード・デストーイ・リニッチを発動。墓地のデストーイ・ハーケン・クラーケンを特殊召喚するね」
またデストーイ・ハーケン・クラーケンが並び立つ。
っていうかリンクモンスターを使ってもないのに、蘇生効果の組み合わせで場に融合モンスターを3体も並べるなんて、すごい!
「場のデストーイ・シザー・タイガーは場のデストーイかファーニマルモンスターの数×300ポイント、場のデストーイモンスターの攻撃力をアップさせる。そしてデストーイ・サーベル・タイガーは場のデストーイモンスターの攻撃力を400上げる。それぞれの攻撃力アップの効果の合計は1300」
デストーイ・シザー・タイガー ATK1900→3200
デストーイ・サーベル・タイガー ATk2400→3700
デストーイ・ハーケン・クラーケン ATK2200→3500
「くそ、攻撃力3000オーバーが3体も並ぶとは」
「岬君、耐性持ちと妨害1枚だけじゃ私のファーニマルは止められないよ? バトルフェイズ。デストーイ・ハーケン・クラーケンでBF―フルアーマード・ウィングに攻撃」
イカのぬいぐるみが振り上げた刃がフルアーマード・ウィングの鎧を叩き壊す。
確かに刃の切れ味よりも重さで叩き伏せるというのもあるけどさ。
デストーイ・ハーケン・クラーケン ATK3500 VS BF―フルアーマード・ウィング ATK3000
岬 黒人 LP8000→7500
「デストーイ・ハーケン・クラーケンはバトルフェイズ中に2回攻撃できるよ。デストーイ・ハーケン・クラーケンでダイレクトアタック」
「まだ終わらねぇ! 手札のBF―熱風のギブリの効果発動だ! 相手の直接攻撃宣言時に特殊召喚する!」
「それぐらいじゃ壁にもなりはしないよ!」
ハーケン・クラーケンが刃で熱風のギブリを押し潰す。
でも、これでなんとか岬君は耐えた。
「デストーイ・シザー・タイガーとデストーイ・サーベル・タイガーの2体でダイレクトアタック!」
デストーイ・シザー・タイガーのハサミの刃とデストーイ・サーベル・タイガーの体当たりが岬君を襲う。
「なんとか……耐えたぜ」
岬 黒人 LP7500→600
「まさか耐えられるとは思ってなかったよ。成長してるんだね岬君」
「当たり前だ。不破とお前の強さより俺は一歩劣ってるんだ。だけど、この耐えたことは教訓として俺は前へ進む」
「……成長してるのは岬君だけじゃないよ。手札から速攻魔法・瞬間融合を発動。 私のフィールドのモンスターで融合召喚を行う! 私は場のデストーイモンスター3体を融合。出でよ、デストーイ・マッド・キマイラ!」
まるでびっくり箱のように首が3つ飛び出している巨大な玩具の化け物が数見さんの場に君臨する。
全ての玩具を統べる王のようにも見えるが、正直に言えばやっぱり不気味だ。
あの中に1体でもドラゴンの要素が交わっていれば不気味さはなくなるんだろうけど。
「デストーイ・マッド・キマイラはバトルを行うとき、相手に魔法・罠・モンスター効果を発動させることも許さない。デストーイ・マッド・キマイラでダイレクトアタック!」
3つ首が一気に岬君に覆いかぶさり、押し潰した。
「完敗か」
岬君が悔し気に呟き、盛大にため息をついた。
岬 黒人 LP600→0
「よっし、私の勝利」
数見さんがガッツポーズを取って喜ぶ。
そりゃまあ、岬君の妨害を受けたうえでそれでも1ターンキルを決めたのだからガッツポーズを決めたくなる気持ちもよくわかる。
「すごかったね」
隣にいた楠葉ちゃんが感想を求めてくる。
「うん、あそこまでお見事な1ターンキル、なかなか見れないよ」
「だから俺も数見さん相手に後攻はあんまり渡したくないんだよな」
「あら、私に後攻を渡しても勝つ確率の方が高い男が何を言うのかしら」
「そりゃ後攻の攻めをいなせば息切れするだろ。魔術師は持久戦ももってこいなんだよ」
確かにペンデュラムデッキの持久力の高さならデストーイの1キルを潜り抜けたら後は一方的に戦えるもんね。
問題なのは1キルを回避する手段が先攻で整えられるかどうかなんだけども……
「そういや気になったんだけど、数見さんはそれだけの腕前がありながらどうしてデュエルアカデミア・ロッサス校を受験しなかったの? これだけの腕前なら合格間違いなしだと思ったんだけど」
それは確かに私も気になってた。
岬君のことが好きなら、岬君の傍にいるためにデュエルアカデミア・ロッサス校を受験するだろうし。
「お父様が許してくれなかったのよ。立派なお嬢様になるために聖・アンデル校に入学しなさいって」
「お嬢様って、数見さんいいところのお嬢様なの?」
「ああ、数見の父親は株式会社TODOの社長だよ」
「あの食料品メーカーの大手の!?」
数多くの冷凍食品を世に送り出している株式会社TODO。
そこの社長の娘さんが数見さんなの!?
「うん、だから私は社長令嬢として相応しいマナーを身につけなさいということで」
「なるほどね」
「会社同士の対抗戦でデュエルを行ったりするから、会社の威信もかけて私はデュエルで勝つことも求められてる。だからそうそう負けるわけにもいかないのよ。本当、このカードショップと不破君と岬君に出会えて私は良かった」
会社の威信をかけるためにデュエル。
それならあの1キルと絶対的な自身も頷ける。
「ところで気になってたんだけど」
数見さんはそう言いながら私の顔を覗き込んでくる。
間違いない、こんな時は。
「きれいな紅色の瞳だね」
「褒めてくれてありがと」
「確かにそうだよね」
「真紅眼デッキ使いの愛流さんに相応しい瞳の色だよな!」
不破君がいい笑顔で言い、私も素直にうなずく。
別に瞳の色が紅色だから真紅眼のデッキを使ってるわけではないのだけども、一応そういうことにしておこう。
「でも、昔はこの瞳の色のおかげで男の子や女の子にからかわれたりして大変だったんだよ。それに紅色の瞳が珍しい女の子だからというだけで誘拐されたりもしたし」
「待て待て待て、いきなり話が重くなったぞ」
岬君が慌てて私の話を遮ろうとする。
確かにいきなり誘拐とか、あまりにも平和からかけ離れた話題が出てきたらそう言いたくなるのも自然かも。
「まあ、色々と大変なことがあったんだけどね。おじいちゃんは言ってた。一度しかない人生、他の人と同じような人生じゃつまらない。その紅の瞳は人生を彩る素晴らしい物だから大事にしなさいって」
「へぇ……どういう意味?」
数見さん、分かったような顔を浮かべてたのにその反応はどうかと思うよ!
「要約すると紅の瞳は他の人が持ってないから好奇の目に晒されるだろうけど、それは愛流さんだけが持っている素晴らしい特色の1つだから、むしろ誇って堂々としていなさいってことだと思うぜ」
不破君ナイス翻訳。
今の言葉は私がおじいちゃんに言われたことそのまま言ってただけだから、当時の私も理解しづらかったっけ。
「いいこと言うね、愛流ちゃんのおじいちゃん」
「そうでしょ。ま、瞳の色は置いておいて。次は誰と」
デュエルしようかなと言おうとした瞬間。
私の視界の端にとある物体が入る。
「あ、ああ!? そ、それは!」
「どうかしたのか?」
「竜戦士物語の最新刊! そういや今日発売日だったっけ!」
「え、何それ?」
数見さんがきょとん顔を浮かべる。
「ああ、今日の朝一番で俺が購入してきたんだよ。ネタバレはしない方がいいよね?」
「当然です!」
小説のネタバレダメ、絶対。
「で、結局どういう小説なのそれ?」
「異なる世界から来た竜の戦士たち。竜剣士ラスターP、ドラグニティアームズ―レヴァテイン、波動竜騎士ドラゴエクィテスの3体の竜戦士たちがとある1つの世界に流れ着き、その世界に蔓延している悪と戦っていく小説だよ!」
「そうそう。ここまで話の流れで僕の推すシーンは、ドラグニティアームズ―レヴァテインがワーム・ゼロを復活させようとするワーム・キング率いるワーム一族相手にたった1体で突撃していったところだよ!」
「分かります! あれは名シーンの1つですよね! 私の推しのシーンは竜剣士ラスターPが宿敵、竜魔王ベクターPとの最初の戦いの時、剣を交えているときに竜魔王の闇の力に蝕まれつつもレヴァテインとドラゴエクィテスの激励を受けて、一時的だけだったとはいえ竜剣士マスターPに覚醒し、竜魔王ベクターPとその一味たちを撤退させたシーンです!」
「あれも名シーンの1つだよね!」
さすがは店長、分かってるぅ!
「確かに面白そうだね」
「俺もそれ読んでるぜ! デュエル以外の唯一の娯楽だからな!」
不破君もノリ気味で私と店長の間に入ってくる。
やはり不破君は私が見込んだ通りの人。
「悪い、岬、それから愛流さんと楠葉さん! 俺、今から本屋さん行ってその本買ってくる!」
不破君は急いでカバンの中にデッキケースを入れ、席を立つ。
「待って不破君! 私も行くよ!」
私だって竜戦士物語の最新刊は欲しいからね。
「おっ、そうか。じゃ、悪いけど3人とも、俺と愛流さん、先に帰るわ!」
「ごめんね、せっかく皆と交流しようとしてたのに」
「いや、別に構わねーよ。まだ入学初日だ。まだまだ交流する機会はあるさ」
「そうそう」
岬君と楠葉ちゃん、やっぱり優しいね。
いきなり帰るなんて言い出したのにも関わらず笑顔で見送ってくれるなんて。
「じゃあな!」
「また明日!」
私と不破君は急いで店を出る。
店の外にある自転車に乗り、不破君も自転車だったから一緒に駆け出した。
(……っていうか、あれ?)
店の中に残った楠葉はとあることに気づく。
(さっきまでの会話を聞く限り、数見さんが岬君に好意を抱いているのは間違いないはず……ってことは)
ボクはちらりと数見さんの方を見る。
うわ、間違いない!
あれは間違いなくボクを邪魔者として見ている眼!
これはボクも急いで帰った方がいいんだろうか。
「あ、そうだ。店の奥のエアコン、少し調子悪いんだったっけ」
エアコンの調子が悪いだって!?
「店長さん、ボクに見せてください。ボク、結構複雑な機械の修理とかも出来ますよ?」
「そうなのかい? でも、お客様に機械を見てもらうなんて」
「いいから、お願いします!」
「そっか、そこまで言うのなら。店のちょっと奥でね」
店長さんに案内され、ボクは店の奥へと入っていく。
これでしばらくは岬君と数見さんが2人きりになれるはず。
そんな楠葉の憶測も知らず、岬と数見はさっきのデュエルの感想を述べあっていた。
「無事に手に入れられたぜ」
不破君が竜戦士物語の最新刊を手に入れてホクホクの笑顔だ。
そういう私も竜戦士物語の最新刊と、他に出ていた小説も買えて大満足だ。
「ところで愛流さん、他に何の小説買ってたんだ? 確か2冊買ってたはずだけど」
「1冊目は『転生したらドラゴンメイドに囲まれてて辛い』だよ」
「何その凄まじいタイトル」
「えっとね。どこから語ろうかな」
「手短に頼む」
「前世で交通事故に遭った男の人が生まれ変わって気づいたら、ドラゴンメイドたちにご主人さまって呼ばれるようになってたの」
ある意味その主人公が羨ましい。
私もお嬢様のような立場になって、ドラゴンメイドたちにお嬢様、なんて呼ばれてみたいものだ。
「へぇー。そのうらやましい立場の男の人はどうなってるんだ?」
「今さりげなくうらやましいとかって言ったよね」
「まあそりゃメイドさんが多くいるってことは、家事とかしなくていいってことなんだろ? うらやましいぜ」
「ああ、そっちの意味なんだ。前の巻で確かドラゴンメイド・ナサリーに看病してもらっていたところに男の人が我慢できずにナサリーと添い寝してるところを、ナサリーに教育してもらってて、内心男の人に惚れてるドラゴンメイド・ラドリーに見つかってしまうという所で終わってたはず」
「なんという修羅場」
確かに相当な修羅場に突入するところで終わっちゃったから、早く続きが読みたいところだよ。
「で、残り1冊は?」
「2冊目は『乙女は愛に狂い』だよ」
「タイトルからしてもはやすさまじい中身しか想像できないぜ」
「そうかなぁ。確かクァイバという男の人が、青眼の白龍の精霊に好かれて、その青眼の白龍が愛のあまり人間の姿を手に入れて、クァイバという男の人と一緒に過ごす恋愛物語だよ」
「ふむふむ」
「で、最近はクァイバという男の人の知り合いのイシュズという女の人の連れ子であるオベリス子という女の子がクァイバの嫁さんになるって公言して、それに嫉妬した青眼の白龍の精霊さんがクァイバという男の人に今まで以上に積極的にアタックするって展開だよ、今は」
「なんていうか……俺も気になってきたから今度、その2つの小説貸してくれない?」
「いいよ。明日1巻から持ってこようか?」
「マジで、助かる」
「今のところ『転生したらドラゴンメイドに囲まれてて辛い』が今日私が買ったのを含めたら4冊出てて『乙女は愛に狂い』が今日私が買ったのを含めたら3冊出てるよ」
「なるほど」
「とりあえず今から家に帰ったら今までのお話の復習も兼ねて全て読み直すつもりだから、今夜は徹夜だよ~」
「あ、あまり無理するなよ」
あ、心配そうな目で私を見てる。
私としては好きでやってることなんだけど、やっぱり他の人には奇行に見えるのかな?
「で、家はどちらの方面だ? 帰り道同じなら途中まで帰ろうぜ」
「とりあえずこっちの方だけど」
「あ、俺もこっちの方だ。じゃ、途中まで一緒に帰ろうぜ」
それからの帰り道、私と不破君は2人自転車に乗りながら、色々なことをしゃべった。
だけど、不破君は決して、自分の家族の事だけは喋ろうとしなかった。
さっき、竜戦士物語を読むことがデュエルを除いて唯一の娯楽って言ってた。
もしかしたら、不破君は貧しい暮らしをしてるんだろうか?
でも、そこは踏み入っていい一線なのだろうか?
不破君が自分から話すのを待った方がいいのだろうか。
そんなことを考えながら自転車を走らせていると、私の家の近くの公園に差し掛かる。
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