フレッド、オーストラリア校との戦い⑤　作：はにわ改

　
ーー何の予兆も感じさせず、フレッドのフィールドに突如として召喚された光輝くドラゴン。
その口から発する轟きがフィールドを奮わせる。

ーーそう、まるで『誰か』を呼ぶかのように。

「ーー『ファフニール』を呼んだか。
バトルでライフを削るデッキには、とんでもなく厄介な効果を持つモンスターだぞ」

「ねぇー。
っていうか、フレッドの『竜』はどれも厄介なんだけどさ」

シェリル・メリッサが言葉を交わす。

ーー『白竜聖煌 ファフニール』。
まるで産毛のような白く決め細やかな無数の鱗に包まれた、巨大な体躯を二本の足で支える。
腕と一体化した翼を大きく広げ、エメラルドの輝きに似た瞳が、ジェフリーを高くから見下ろす。

レベルは５、攻撃力２４００。
ただし守備表示での召喚であり、守備力は０である。

「ーー『ファフニール』のモンスター効果。
『ファフニール』が攻撃された時、墓地の『明煌』を１枚、デッキに戻すことでその攻撃を無効にして、
更に攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える」

「な、何だと！
攻撃を跳ね返す能力か？！」

『ファフニール』の能力は罠カード・『魔法の筒』そのもの。
シェリルが呟いた言葉の意味がここにあった。

「だが！
俺の場にはこのターンのみ効果を受け付けない、『シーラカンス』がいる！
こいつならば、その効果を潜り抜けられるはずだ！」

「……」

ジェフリーが直ぐ様、意気込む。
確かに厄介な能力だが、幸いにも『紺碧の海域』の効果を得た『シーラカンス』はそれに対抗できる。

「バトル続行！
『シーラカンス』で『ファフニール』を攻撃っ！」

『ファフニール』にも劣らぬ大きさを持つ『シーラカンス』が、宙を滑空し、勢いよくその牙が白い鱗に覆われた首筋に食い込む。
そのまま食い千切ろうと力を入れると、その前に力尽きた『ファフニール』の身体が砕け散る。

「ーーよし、ＴＦモンスターを撃破したぞっ！」

思わず歓喜に湧くジェフリー。
ＴＦモンスターは召喚条件が厳しい代わりに、そのどれもが厄介な能力を持つという。
それを一撃で倒したのだから、嬉しくない筈がないのだろう。

ーーだが。

「ーーそう、厄介なんだよ。
特に、フレッドのＴＦモンスターは倒したとしても油断出来ないからな」

シェリルがメリッサの言葉に続けて呟いた。

その言葉の意味を裏付けるように、フレッドが動く。

「『ファフニール』が戦闘破壊されて墓地に送られたこの瞬間！

俺は墓地の罠カード、『枯木竜吟（こぼくりょうぎん）』の効果を発動！」

「な？！
また墓地発動か？！」

再び、フレッドの墓地から飛び出す罠カード。

ーー『枯木竜吟』。
前のジェフリーのターンで発動する事なく破壊された永続罠カードである。

「フィールド上に存在するドラゴン族モンスターが破壊されて墓地へ送られた時！
そのモンスターを含む融合モンスターの融合素材モンスターが墓地に揃っていれば、
このカードを除外する事により、その融合モンスターを融合召喚する事が出来る！」

「ゆ、融合だと？！」

「俺は『ファフニール』と、『竜操姫 エゼルミア』を融合！」

『枯木竜吟』がゲームから取り除かれ、その効果を発動。
次の瞬間、墓地から甦った『ファフニール』の背に、同じく復活した『エゼルミア』が飛び乗る。

「ーー融合召喚！
『竜姫将』！
『ファフニール・エゼルミア』！」

再び轟く雄叫び。

『エゼルミア』という乗り手を得た事で、『ファフニール』の輝きが更に増し、同時にその力も増す。

２度に渡る墓地で発動するカード効果による、エクストラデッキからのモンスターの召喚。
フレッドのその離れ業というべき行いに、観客も大いに感嘆の声を上げる。

「『ファフニール・エゼルミア』の攻撃力は、このカードのレベル１につき１００ポイントアップ。
そして自身を含めた互いのフィールド・墓地に存在するドラゴン族モンスター１体につき、レベルが３上がる」

この効果は『エゼルミア』の能力と同じであり、それを引き継いだ形となっているようだ。

「フィールド・墓地のドラゴン族モンスターはこのカード含めて９体。
よってレベルは２８。
攻撃力はーー２８００だ」

フィールドに『竜操姫』がいないため、フレッドのフィールドにある『一登竜門』の効果、
互いのフィールド・墓地にあるモンスターをドラゴン族に変える能力は適用されない。
それでもレベル２８、攻撃力２８００と高い数値を得た『ファフニール・エゼルミア』。

ーージェフリーが息を呑む。

「（だが攻撃力２８００なら……俺の『メタボ・シャーク』と互角！
最悪、同士討ちにして戦闘破壊すればーー）」

悪い流れの中で、光明を必死に手繰り寄せようとジェフリーが思考を巡らす。

ーーだが、フレッドの戦略はまだ続きがあるのだ。

「ーー場に『竜姫将』モンスターが存在する時、永続魔法『臥竜鳳雛』のもう１つの効果を発動。
このカードを破壊し、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する」

「そ、そんな！？」

「ーー『ライトニング・スプレッド』！！」

フレッドの声に合わせて、『エゼルミア』が弓を持ち、４本の矢を同時に構えて弦を引く。
その矢が白い光に覆われると、それが放たれてジェフリーのフィールドに降り注いだ。
それが『ネオセラトダス』、『メタボ・シャーク』、『光鱗のトビウオ』を撃ち抜き、同時に破砕する。
唯一、効果耐性を得ていた『シーラカンス』のみが生き残った。

「た、ターン、エンド……」

呆然とそう呟くジェフリー。

彼にすれば有り得ない展開。
完全にフィールドを制圧したはずだったのに、それを根本から引っくり返されたかのようだ。

エンド宣言と共に、『シーラカンス』の攻撃力は戻り２８００へ。
頼みのモンスターさえも、『エゼルミア』の攻撃力と同じ、という事態に陥った。
もしフレッドのフィールドにドラゴン族モンスターが１体でも増えれば、その力関係も崩れ去る。

「（ま、まだだ……俺のライフはまだ３０００もあるんだ。
きっと……ここから、立て直して……！
まだチャンスはーー）」

心の中で諦めそうになる自分に声援を送る。

「俺のターン、ドロー」

始まるフレッドのターン。

結論からいえばそのドローカードが何であるかは最早関係がない。

勝負は既に着いているからである。

「メイン！
『ファフニール・エゼルミア』のモンスター効果を発動！
相手フィールド上に存在するモンスター１体を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える！」

「ば、馬鹿なっ！？」

『エゼルミア』が再び放つ光の矢が今度こそ『シーラカンス』を撃ち抜き、破壊。
その攻撃力２８００ポイントがジェフリーを直撃し、残り２００まで減らす。

「ーー続けてバトル！
『ファフニール・エゼルミア』で直接攻撃！」

そして最後、止めの一矢。
それがジェフリーの身体を貫通し、僅かに残ったライフを奪い去る。
ジェフリーの膝が地に付く。

ーー不利に見えた場面からの圧倒的な反撃。
終わって振り返ってみれば全てはフレッドの手の内の範囲内であったのか。

フレッド、中堅戦を勝利。
ワシントン校も日本校の後を追うように、２回戦突破を決めたのだった。