遊戯王トライ・フォース第二部 世界大会 後編/刹那の葛藤 作:はにわ改

 
ーーアメリカ・ワシントン。
全国デュエル・アカデミア対抗による世界大会、その会場。
会場観客席を埋め尽くす観客であるが、その観客も公募を経て抽選によって選ばれた者たちであり、
落選した者を含めればこの会場3つ分あっても足りないだろうと言われる。
メディア展開も大々的に成され、現地に行けない者たちはテレビによるリアルタイム観戦も可能。
老若男女問わず、この大会期間はスケジュールを調整してでも、若きデュエリストたちの戦いを見ようとする。

スポンサーの中には大企業の面々もあり、一説にはこのイベントだけで日本円で数百億という経済効果があるとさえ言われているようだ。

ーーそんな大会も今日が四日目。
トーナメントA・Bの内、Bブロック2回戦。
2回戦に勝ち上がったの8チームによる、全体で見れば準々決勝に当たるデュエルが始まっていた。

昨日、先んじて準決勝進出を決めた日本校は、会場控え室にてその進行を見守っている。


「ーーふぅ、やっと終わりましたね」

「は、はい、朝霧先輩。
お疲れ様でした」

ーー日本校、控え室。
透矢を始め、教諭のクロエや舞も含めれば総勢9名の面々。
画面に映し出されるデュエルを見ながら、1つ1つのプレイングに対して和気藹々と意見を交わしている。

だがその内の2人、地影と千鶴だけは地影が持参したノートパソコンでの作業を中心に進めていた。
彼女たちは今大会全てのデュエルを記録しており、特に地影は大会を戦うデュエリストでもありながら、その大事な仕事を任されている。

いつもなら他の面々と会話しながらであるが、今日はその余裕はなかった。

「ーー刹那さん、お陰で消失した昨日のデュエルを全てまとめる事が出来ました」

「そう。
ありがとう、地影。
あなたと鳴瀬さん、二人にやらせてしまってごめんなさいね」

「いいえ、そんな。
私のミスですし、カバーするのは当然です」

地影は自分の大事な職務を無事やりおおせた、と満足そうに笑う。
昨日の2回戦のデータが何故か消失していたらしく、地影は刹那からもらったデュエルの内容をまとめたものを元に、それを復旧させていたのだった。

「千鶴ちゃん、お疲れ様」

「お姉ちゃん。ううん、私は全然何もしてないし……」

「いいえ、鳴瀬さんが手伝って下さって助かりました。
ありがとうございます」

「だってさ。
良かったな、千鶴!」

「う、うん、お兄ちゃん、ありがとう」

千鶴は地影のサポート。
刹那のレポートを地影の脇で読み上げるなど、手伝いに徹していたようだ。
親愛する透矢、真希にほめられて嬉しそうに笑う。

「それにしても、珍しいよねぇ?
地影がこんなミスするなんてさ」

続けて声を上げたのは炎魅子。
それを聞いた地影が少し表情を曇らせる。

「言い訳できません。
しかもデータが消えたばかりか、昨日見たデュエルの内容も覚えていないなんて、記録失格ですね」

「あっはっはっはっ!
まぁまぁ、ちーちゃんも完璧に見えて、あたしらと同じ人間って事だぁね!」

「だからちーちゃん言うな!」

「それにさ、あたしも覚えてないんだよ、昨日のデュエル」

「はぁ?
炎魅子さんは昨日デュエルした本人でしょう」

炎魅子も覚えていない、という言葉に地影はまさか、という反応。
だが地影がまとめたばかりのデータを見て、炎魅子はしきりに首を傾げている。

「あ、でも朝霧。
俺も覚えてないんだぜ、昨日のデュエル」

「あたしも!」

「なんだよ、透矢も真希もか。
ってことはちゃんと覚えていたのは刹那、だけか?」

透矢、真希、地影、炎魅子、さらに千鶴も含めれば5人。
そのいずれもが昨日のデュエルを覚えていない、というある意味妙な同調にして不可思議な現象。
覚えていたのは刹那のみーー。
その刹那は炎魅子の声に頷きも振りもしない。

「なぁ水花、お前はどうよ?」

「……覚えて、ない」

「水花もか?
はは、一体全体、どうなっちまってんだろーねぇ、こりゃ?」

刹那の膝の上に座る水花もまた、然り。
炎魅子は笑い飛ばしているが、透矢や真希、地影は納得がいかないのか、難しい表情を見せている。

「舞先生?
こんなことってあるんすかね?
おんなじ事を忘れるなんてさ」

透矢が聞いたのは養護教諭、舞。
医学的知識もそれなりに持つ彼女ならば何かしらの答えが聞けるかと期待しての問いかけだ。

「さぁねぇ。
ま、ど忘れなんて誰にもあることさ」

「でも先生、1度にこれだけの人が同じことを忘れる、なんてあるんですか?」

「ない、とは言い切れないさ。
短い期間とはいえ、慣れない外国暮らしだもんさ。
見えない疲れが溜まってるかもしれないしね」

「疲れ……なんですか?」

真希が繰り返す。
舞の言葉に明らかに納得していない様子で、それは地影も同じようだ。

「ーーいい加減にしろ。
昨日のデュエルも覚えていないとは、呆れたものだ。
ちょっと調子よく大会を勝ち進んでるからって、弛んでいるのではないか?」

「ちょ、ちょいと、クロエせんせ……」

最後に口を開いたのは引率にして理事長であるクロエ。
厳しい叱咤に真希や地影は言い訳するわけでもなく肩を落とす。
言い過ぎ、と感じたからだろうか、舞が慌てたような表情を見せた。

「この大会はお前たちの晴れの舞台であると同時に勉強の一環だ。

それにこの大会での戦績が認められれば、プロ界のスカウトから声を掛けられる事もある。
その時、お前たちは昨日のデュエルも覚えていません、と言うつもりか?」

「いや……そうっすね。
確かに、デュエリスト以前の問題、かな」

「各自反省しろ。
昨日のデュエルを覚えていない、などと2度と口にするな。
私はそんなデュエリストを連れてきた覚えはない」

炎魅子が途中苦笑いしながら口を挟むが、最後のクロエの言葉に今度こそ場は静まり返った。
舞はそんな生徒たちの反応を見て目を反らす。
そして刹那も固く目を閉ざしたまま手を震わせていた。

「(みんな……ごめんね)」

友を思うなら、今のクロエの発言を許してはいけなかった。
透矢たちは『何も悪くないのだから』。

だが刹那はぐっとそんな気持ちを押さえつけた。
今はまだ……その時ではない、と。

刹那の震えが伝わったからか、水花が不思議そうに刹那を見ている。


ーー重苦しい雰囲気の中、大会は2回戦が進行している。
登場するは優勝候補にして、刹那の妹・久遠が率いるワシントン校。

1回戦に続き、2回戦でもその圧倒的力を見せつけるのである。
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