凌斗VS『黒騎士』を操る女！④　作：はにわ改

　
ーー『女』の２回目のターン。
ドローして手札を５枚にする。

「ぐ、『グリード・デバウアー』、『バルサー』のモンスター効果！
相手がカードをドローした時、１枚につき攻撃力が２００ポイントアップ！」

凌斗の２体のモンスターの共通効果により、『デバウアー』は２９００、『バルサー』は２７００にそれぞれ攻撃力がアップする。
確かに攻撃力だけで物を語るなら、凌斗は『女』を遥かに上回る構成なのだろう。
だがそれだけでは『女』を、いやデュエルを制する事は出来ないのだろう。
『女』がこのデュエルを通して、凌斗にそれを教授する。

「メイン。
私は手札から魔法カード、『黒の断章』を発動」

ドローしたばかりのそのカードがディスクに収められると、『女』の背中から『黒』が凌斗の方へ向かって広がり、『灰色』だった風景を『黒』一色に染め上げる。

「な、なんだ？！
く、くそっ！
ま、また変な手品だか術を使いやがって！」

「手品でも術でもないよ。

ーーこれは『力』。
私は『黒』に染まり、堕ちることでこの『力』を手に入れた」

「ち、『力』、だと……？」

「そう。
そしてその『力』が私のデッキを黒く『進化』させた。

袋小路に陥ったこの運命に……新たな道筋を与えてくれたの」

『女』の言うこと、凌斗に理解できるはずもない。
だが彼女が『力』だと言う現象が、自分の周りに起きているのは確かなのだ。

「ーー『黒の断章』の効果。
自分のデッキから『黒騎士』を２枚墓地に送る」

「ま、またか！
しかも２枚、だと！？」

「その後……私の墓地にある『黒騎士』が３種類以上あるなら、その種類の数に応じて追加効果を発動出来る」

「つ、追加効果……」

「私はデッキから『メルセディア』、『ヴァルバレア』の２枚を墓地へ送る。

これで私の墓地に『黒騎士』が５種類全て墓地に送られたわ」

また『黒騎士』が２枚、墓地に積み重ねられた。
『黒の断章』、その効果はここからが本番となる。

「まず３種類以上。
私は墓地の『黒騎士』１種類につき６００ポイント、ライフを回復」

墓地にある『黒騎士』は５種類。
よって３０００ポイント回復する事になり、『女』のライフは３４００へ。
あと一撃というところまで減らしながら、大幅に回復されてしまい、凌斗の表情が歪む。

「次に４種類。
相手フィールド上に存在するモンスター１体を墓地へ送る。
私は『グリード・デバウアー』を選択するね」

「ぐ、『グリード・デバウアー』は攻撃力を８００ポイント下げる事でーーっ」

「ごめんね。
これは『破壊』扱いではないの。
だからその効果は発動出来ないわ」

『グリード・デバウアー』の地面の下から這い出てきた無数の『黒い手』。
それが巨大な身体の全身を掴み、力任せに地中へと引きずり込む。
『破壊耐性』は強力ではあるが、万能ではないという事を今、凌斗の前で証明して見せた。

「最後……５種類。
デッキまたは手札から、
『ブラック・フォーメーション』を発動する」

「ぶ、ブラック、フォーメーション？」

『黒の断章』最後の効果。
それはデッキか手札にあるそのカードを直接発動するというもの。
デッキから発動させたそれは、どうやら永続魔法であるらしいが、果たしてその効果とは。

「この『ブラック・フォーメーション』はね、本当はライフを２０００ポイント払わないと発動できないんだけど、『黒の断章』で発動した場合はそのコストを踏み倒せるの」

「２、２０００ポイントも払って発動するカード？
い、一体どんな効果なんだっ？！」

ライフ２０００。
初期ライフの半分に値するコストを要求するカード。
過去にある同じライフコストを要求するカードには、禁止カードに指定される程に強力な能力を持つものも存在する。
このカードはそれらに匹敵する力を持つのか。

「『ブラック・フォーメーション』の効果。
墓地にＴ・ＦモンスターのＴ・Ｆ召喚に必要な素材モンスターが３体揃っている時、
そのモンスターを『可能な限り』特殊召喚出来る」

「か、可能な、限りって……」

「つまり……条件を満たしたモンスターが複数いれば、その全てを１度に特殊召喚出来るの」

「ば、ばかな！？」

激しく動揺させられる凌斗。

Ｔ・Ｆモンスターの力は過去の透矢との２戦、またアメリカから来日したアルフレッドとの戦いで嫌というほど思い知らされている。

もし、透矢の使うＴ・Ｆモンスターたちが１度にフィールドを埋め尽くしたらーー。
凌斗には考えただけで寒気が走る思いだろう。

「ま、でも今のところ条件を満たしたのは『アリアス』だけね。

ーー私は『ブラック・フォーメーション』の効果によりＴ・Ｆ召喚を発現！」

『黒騎士 アリアス』が三体、半透明の姿で『女』の目の前に現れる。

「黒に染まりし３つの魂が、騎士の深層に眠る闇を目覚めさせるーー。
『黒き騎士の主』たる我の呼び掛けに応えよ！」

『アリアス』３体の身体が、この黒い空間に在ってなお映える黒光りする球体へと変化する。
それらが１つに合わさると、１つの大きな黒い光の柱が空へ突き抜けた。

「来て……私と共に黒に堕ちた戦士。
ーー『堕ちた戦乙女 アリアス』！」

光の柱を手に持つ剣で切り裂いて姿を現した『アリアス』。
漆黒の甲冑と盾、そして柱を切り裂いた黒い短剣。
そして晒される白塗りしたかのような顔や手足の肌には異様な紋様が浮かび上がり、眼球は真っ黒に染まっている。
黒く塗った口紅は嫌みな笑みを見せ、不快で不気味な雰囲気をもたらすに違いない。

『戦乙女』という言葉からイメージ出来る姿とは恐らく程遠く、『堕ちた』と冠しているのは正にその通りなのだろう。

「な、なんだコイツ……！
先輩の使ってるやつとは全然違うじゃねぇか……！」

『黒騎士 アリアス』の時からそうだった。
この戦士も顔は全く同じだが、透矢が使うものとはまるで違う。
同じ顔を持った別物の存在である、と。

「違わなくないよ。
この『アリアス』も透矢くんの『アリアス』も同じ。
違う部分があるとすれば……それは心にある光と闇の比重、かな」

「ひ、比重、だと？」

「私の『アリアス』は闇に比重が傾いている状態。
でもね、それは『アリアス』が普段自分の中に押し込めている、闇の部分、なの」

「せ、先輩の『アリアス』に……こんな一面があるってのか？！」

「そんな風に言わないで？
これはみんな同じなんだから。
君も私も、そして透矢くんも。
みんな醜く汚い一面があるの。

私は『アリアス』のそんな部分を引き出しているだけ」

いつも穏やかな表情を見せていた透矢の『アリアス』。
それが一度裏を返せば、こんなにも変わってしまうというのか。

『女』に言われてもなお、凌斗には信じることが出来なかった。

「それじゃあ見せて上げる。
黒く染まった『アリアス』の力を。
進化した能力を、ね」

『ブラック・フォーメーション』を介したＴ・Ｆ召喚によって、その姿を現した『アリアス』。
透矢が使う『アリアス』とは相反する能力が凌斗を追い詰める。