DRAW:２２１ 正義の味方③　作：人喰い

(221)



玲子「ーーーーわ、私っっ！！ 本日から《終焉の焔》の一員となりましたっ『浜崎 玲子』です！！ 皆さんよろしくお願いします！！」


玲子がマインに連れてこられたのは、まず人目につく事はない、時空の裂け目を越えた先にある《終焉の焔》のアジト。
その１室に入るや否や、初々しい挨拶を披露する玲子に、室内一同の視線が集まる。


ネロ「………」

星奈「……」

真和「…………」

ジャラン「……」


玲子「…ぇ、ぇと…」

きょとんとした表情のネロ、星奈の両名に加え、反対に無表情のジャラン、真和の視線を受け、玲子は思わずたじろぐ。

玲子（なにこの人たちなんでみんな座ったままだれも一言も喋んないのよぉぉぉぉ）

目をウルウルさせ震える玲子を見かねたネロは、組んでいた長い足を解き、綺麗な黒髪ロングを揺らして立ち上がると、玲子、そしてマインの元へと歩み寄った。

ネロ「…マイン様、お帰りなさい！
……それから新人さんーーーー“浜崎さん”…って言ったっけ？ そんなにかしこまらなくていいよー？
私は柏木…じゃなくて、ここでは『ネロ』って呼ばれてる。よろしくね！」

玲子「…っ…、は、はいっ！ よろしくお願いしますっっ！！」

ネロ「だーかーらー！ ここでは余計な気は使わなくていいって！」

玲子「…ぇ、あ、うん……っ」

慣れない空気に戸惑いを隠せない玲子に、ネロは続けて言う。


ネロ「ーーーーここには似た境遇の人間しか、いないんだから」



玲子「……！」


マイン「…俺たちは精霊王に支配されたこの世界を漆黒に塗り替える為に結成された組織ーーーーー《終焉の焔》。
オマエの才能はここでしか活かせない。
オマエの技術が必要だ。
俺に全ての“チカラ”を、“意思”を捧げろーーーーーそれがお前の“自由”だ」


玲子「ーーーーっ」

訳の分からない単語ばかり耳になだれ込んでくる中、混乱する頭でなんとか考える。

必要と、されている。

自分の、才能が、技術が。

玲子「…はは……ははは…」

玲子は安心してか、その場にぺたりと座り込んでしまう。

ネロ「…えっ、ちょっと大丈夫ーーーー」


玲子「…そっか……私ーーーーー」


ーーーーひとりじゃない。


ーーーー生きてていいんだ。















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:２２１ーーー
《正義の味方③》
















鈴華【LP 4600】
(モンスター)
『ダークフレア・ドラゴン』[ATK 2400]
(魔法)
『混沌空間』(フィールド)
[◉カオスカウンター:２]
伏せ:0
手札:3
墓地:5(ダムド、ギャラサー、ライトパルサー、コラプ、セイファート)
除外:3(ワイバースター、コラプ、エクリプス)


玲子【LP 100】
(モンスター)
『A・O・J ライト・ゲイザー』[ATK 3400]
@『A・O・J サウザンド・アームズ』
『A・O・J リーサルウェポン」
(魔法)
『Ally of Justice』(永続)
伏せ:２
手札:5
墓地:2(サンダーアーマー、D.D.チェッカー)
除外:2(サイクロン、クリエイター、ディサイシブ)



◉TURN:０６◉




『A・O・J』の猛攻をなんとか耐えた鈴華だったが、玲子の発動した永続魔法『Ally of Justice』の効果によって、場・墓地のモンスターを全て光属性へと変えられてしまう。
カオスモンスターを主力とする鈴華は思うように展開できず、残り僅かの玲子のライフを削り切る事も叶わなかったーーーーー





《Ally of Justice》
永続魔法
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:相手フィールドの表側表示モンスター及び相手の墓地のモンスターは光属性になる。
②:このカードの発動時の効果処理として、手札を1枚捨て、EXデッキから闇属性・機械族Sモンスター1体を除外して発動できる。レベルの合計が除外したモンスターのレベルと同じになるように、デッキからレベルが異なる「A・O・J」モンスターを選び手札に加える。その後、手札の「A・O・J」モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚できる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「A・O・J」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。
③:自分フィールドに「A・O・J」Sモンスターが特殊召喚された場合、そのSモンスターよりレベルの低い自分の墓地の「A・O・J」モンスター2体までを対象として発動できる。対象のモンスターを、特殊召喚した自分の「A・O・J」Sモンスター1体に装備カード扱いとして装備する。この効果で装備カードを装備しているモンスターは、装備している「A・O・J」モンスターの効果を得る。



鈴華「……っ…」

鈴華（やっぱり、あのカードが厄介すぎますわ…！
けど、この手札じゃできるのはこれが限界ーーーー）


玲子「ーーーーデュエル…続行よ…！！
私の『A・O・J D.D.チェッカー』が墓地へ送られた事で、罠発動！！『Justice grow』！！」


《Justice grow》＊Ph.X Original Cards
通常罠
このカード名のカードは1ターンに1度しか発動できない。
①:自分の「A・O・J」モンスターが墓地へ送られた場合、または除外された場合、その内の1体を対象として発動できる(ダメージステップでも発動可能)。そのモンスターよりレベルの低い「A・O・J」モンスターを手札・デッキからそれぞれ1体ずつ選んで召喚条件を無視して特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。この効果で特殊召喚したモンスターがフィールドに存在する限り、自分は「A・O・J」モンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。
②:このカードが墓地に存在し、自分フィールドに「A・O・J」Sモンスターが特殊召喚された場合、墓地のこのカードを除外し、以下の効果から1つを選択して発動できる。
⚫︎相手フィールドの光属性モンスター1体を選んで持ち主の手札に戻す。
⚫︎相手フィールドの表側表示モンスターを全て裏側守備表示にする。


鈴華「…！ まだそんな罠カードを…！」

玲子「……私はこの効果で、手札とデッキからレベル3以下の『A・O・J』を1体ずつ特殊召喚するわ！！」

手札→場
『A・O・J アンリミッター』☆2 [DEF 200]

デッキ→場
『A・O・J サイクル・リーダー』☆3(チューナー)[DEF 1000]


鈴華「…私はカードを2枚伏せて、ターンエンド！」[手札 1]


◉TURN:０７◉


玲子「……私のターン！！」[手札 6]

玲子は引いたカードを横目で確認し、即座に発動する。

玲子「ーーーこのカードを発動するわ…！
魔法カード『アイアンコール』！！」


《アイアンコール/Iron Call》 †
通常魔法
(1)：自分フィールドに機械族モンスターが存在する場合、
自分の墓地のレベル４以下の機械族モンスター１体を対象として発動できる。
その機械族モンスターを特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに破壊される。


玲子「蘇れ！『A・O・J D.D.チェッカー』！！」☆4[ATK 1700]


鈴華「…！ せっかく倒したっていうのに、また…！」

シムルグ『だが効果は無効になっている…！ 恐れる事は無い！』


玲子「…けどシンクロ素材にしちゃえば…！
………っ！！」

しかし玲子はそこで気付く。
この生命の樹ではEXデッキから特殊召喚されるモンスターはEXモンスターゾーンに置かれ、そのEXモンスターゾーンは各プレイヤー1箇所ずつしか使用できない。
その制約のため、玲子がこれ以上S召喚で展開するには、ライトゲイザーをEXモンスターゾーンから退けなくてはならないのだ。

玲子（……そっか…っ…今、片方のEXゾーンは私のモンスターで埋まっちゃってる……っ…！
こうなったら……！！）

鈴華（…横に広く展開して来ないなら、まだ攻撃は受けられる…！
それに彼女も、万が一耐えられた時の事を考えると、残り100のライフを守る為に慎重にならざるを得ないはずですわ…！！)

決闘の場においてどれだけの窮地にいて、その場を打開する方法を考えた時に、決闘者が行き着く思考は自ずと“受け”か“攻め”の２つの思考に分かれる。

玲子「…私は……ッ…」

“受け”に出た場合、必然的に鈴華にターンを渡してしまう事になるので、何かしらの打開札を引かれてしまう恐れがあり、
“攻め”に出た場合、総攻撃を仕掛けるとなると鈴華の考える通り、万が一耐え切られてしまった場合に攻撃表示のモンスターを無防備に晒すこととなってしまう。

どちらにも当然リスクはあるが、玲子が選んだのはーーーー

玲子「D.D.チェッカーをリリースしーーーーアドバンス召喚！！！
『A・O・J クラウソラス』！！！」[ATK 2300](通常モンスター)

栗須「！」

シムルグ『……む…！』

召喚されたのは、栗須とシムルグにとってはまだ記憶に新しい、『クラウソラス』の名を持つ機械化した霞鳥。

栗須「…俺たちが倒したヤツにどことなく似てる…、名前だけじゃなく、姿まで…！！」

そう呟く栗須に玲子は視線を傾け、驚いたように口を開く。

玲子「…あんたたち…クラウソラスを倒したの…！？」

栗須「……ああ、なんとかな！」

鈴華「バラバラになったみんなも、順調に勝ち残ってますわ…！
この部屋の門番の囮になってくれた戒さんだって…きっと！！」

玲子「…ぅぇ…マジ…？ それってめちゃくちゃヤバいじゃん……っ」

栗須「はっ！！ 今更俺たちの実力にビビったっておせぇぜ！！」

急に元気になる栗須を睨む視線をより鋭くさせ、玲子は言う。


玲子「いや、“ヤバい”っていうのは私ら側じゃなくて、あんたたちの方」


栗須「…っ…！？

鈴華「…！？ どういうこと…！？」

玲子「………おしゃべりはここまで。
私の体力も、もう長く保ちそうにないわーーーー『A・O・J アンリミッター』の効果…！！」


《Ａ・Ｏ・Ｊ
アーリー・オブ・ジャスティス
アンリミッター/Ally of Justice Unlimiter》 †
効果モンスター
星２/闇属性/機械族/攻 600/守 200
このカードをリリースして発動できる。
自分フィールド上の「Ａ・Ｏ・Ｊ」と名のついたモンスター１体を選択し、
その攻撃力をエンドフェイズ時まで元々の攻撃力の倍にする。


宣言と共に鳴り響くモーター音。
気味の悪い寒気が鈴華を襲う。

鈴華「…！！」

玲子「アンリミッターを墓地へ送り…っ、ライトゲイザーの元々の攻撃力を、ターン終了時まで倍にする！！！」

『A・O・J ライト・ゲイザー』[ATK 2400→4800]


シムルグ『更にライトゲイザーは、相手の墓地の光属性モンスター1体につき、攻撃力を200上昇させる…ッ…！』

栗須「…！ 西蓮寺さんの墓地のモンスターはーーーー」

『ダーク・アームド・ドラゴン』

『ギャラクシー・サーペント』

『ライトパルサー・ドラゴン』

『コラプサーペント』

『輝光竜 セイファート』


栗須「…計5体…！！ しかもその全てがあの永続魔法『Ally of Justice』の効果で光属性になっちまってる…！！」


『A・O・J ライト・ゲイザー』[ATK 4800→5800]


シムルグ『攻撃力……5800だと…ッ！？』

栗須「西蓮寺さァん！！！」


玲子からしてみれば、苦肉の策。
鈍る思考の中で、玲子は守りを捨て、光を掴むために前に出た。

玲子にとって初めての、

勝利という、光を掴むために。


その決意が刃となって、いま鈴華に襲いかかるーーーーー


鈴華「……っ！」【LP 4600】


玲子「ーーーーライトゲイザーで…ッダークフレアドラゴンを攻撃っっ！！」


『A・O・J ライト・ゲイザー』
[ATK 5800]
ーーーVSーーー
[ATK 2400]
『ダークフレア・ドラゴン』


鈴華の場から吸収した光を圧縮させ、極太のレーザーが黒竜を撃ち貫く。

鈴華「…ッ…！！！ なんて威力なの……ッ…！！？」

床を掠め、舞う灰塵。全く威力の弱まらない光線は、咄嗟に右方向に跳んだ鈴華の左半身にクリーンヒットした。

鈴華「…ッッぅ…ぃぎぁぁぁッァァああっっ！！！」【LP 4600→1200】

そのまま吹き飛ばされ、床を転がる鈴華。
悲痛の叫びが響く中、その様子をただ観ているだけしかできない栗須は、血が滲み出るほど唇を噛み拳を固く握る。

栗須「…クソッ！！ クソッッ！！ クソッッ！！！
なんで俺ぁまた何もできねぇんだ…！！
なんで…ッ…なんで…ッ…！！」

鈴華の身体は栗須の方まで転がっていき、2メートルほど手前で止まった。

鈴華「…ぅ……ぁ…」

お互いにライフは残り少なく、極限の決闘。

玲子「……はぁ…！ はぁ…！ あんたはあの時、私にトドメを差せなかった…！
その甘さが…あんたを敗北へ導くのよ！！」

鈴華「…っ…」

それぞれがそれぞれの守りたいものを守るために命を懸けて闘うその姿は、栗須には眩しすぎて。

栗須「……っ…ぁ…ッ……」

声をかけようにも、言葉に詰まる。


栗須（俺が声をかけて何になる…！？ ただ見てるだけしかできない情けねぇ俺が……！
ーーーー何を言えるってんだよ…っ…！！）


心の中で叫ぶ栗須に、シムルグは問う。

シムルグ『……それで本当に、友と呼べるのか？』

栗須「……っ…！」

シムルグ『お前たちが培ってきた友情というのは、その程度のプライドに邪魔されてしまうものなのか？』


なんだっていい。友なら声をかけてやれ。


シムルグがそう言い切った直後。


栗須「………ありがとな」


栗須は小さくそう呟き、大きく息を吸う。
そして力一杯、叫んだ。



栗須「ーーーー西蓮寺さァん！！！！」



鈴華「…！」

栗須「西蓮寺さんは何も間違ってねぇ！！
見てるだけの俺が、何を偉そうな事をって思うかもしんねぇ……けど言わせてくれ！！」



負けんなッ！！ 頑張れ！！！



声が届く頃には、鈴華はすでに立ち上がっていた。


友を助けるため。

家族の元へ帰るため。

こんなところで倒れている訳にはいかないのだ。



鈴華「……あなたの声援というのが気にくわないけどーーーー」


そう悪態をつきながら、スカートの裾を叩く姿を見て、玲子は表情を引きつらせる。

玲子「…まだ……立つのね…！
いいわ……だったら今度こそ本当に……っっ…トドメを差してあげるわ…！！！
……ライトゲイザーが装備したリーサルウェポンの効果で1枚ドロー！！」[手札 6]


鈴華【LP 1200】伏せ:2

『A・O・J クラウソラス』[ATK 2300]


鉤爪が薄暗い室内で鈍く光り、鈴華に狙いを定めた。


鈴華「ーーーー攻撃、できるの…？
あなたは…私を……！」

対する鈴華は、どこか儚げな表情で問う。

玲子「…なにそれ…、命乞いのつもり…！？」

鈴華「……いえ…違う。
あなたはきっと、本当は優しい人なんじゃないかって思ったからーーーー」


玲子「…ッッ…！！ そんな訳無いでしょ…！！ バカにするのも大概にして！！！
『A・O・J クラウソラス』でーーーー」


鈴華「ーーーーじゃああなたは、なんで泣いているの…？」


一瞬、思考が止まった。
頬に手を当てると涙が指を濡らし、そこで玲子はようやく自分が涙を流しているという事実に気づく。


玲子「…っ…、？ なんでーーーー」


鈴華「……あなたは心から破壊を望んでいるわけじゃありませんわ…。
今からでも遅くない…。あんな組織、抜けてしまいましょう？」


手を差し出す鈴華。

理解できないものを見る目でそれを見下ろす玲子。


玲子「………嫌」


鈴華「……」

玲子「嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌 嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌 嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌 嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌 嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌 嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌 嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌 嫌嫌嫌嫌嫌 嫌嫌 嫌嫌嫌嫌 嫌嫌嫌」

狂ったように、繰り返す。

玲子「…わかんないわかんないわかんない…！！！！
わかっ…わ、わか……わかんないわよ！！！！」

長らく“人”の優しさというものを忘れていた玲子に、理解不能な感情が一斉に襲いかかる。
やがてパンクしそうな頭を抑え、叫んだ。

玲子「…あああぁぁああぁああぁぁあああぁああぁぁぁああああぁぁあぁあぁああっっっっ！！！！」

間も無くして、攻撃を待機していたクラウソラスが高く舞い上がる。

玲子「ぁぁぁぁあぁぁぁっっっ！！！！
ァァ攻撃よ！！ クラウソラス！！
ーーーーダイレクトアタックっっっ！！！」


直接攻撃が宣言され、鋭利な鉤爪が鈴華の喉元めがけで襲いかかった。



鈴華「…ッッ！！！」

玲子の決死の一撃。

それが迫る中、鈴華は悲壮感に満ちた表情を浮かべ、伏せカードをオープンさせる。


鈴華「罠発動…ッッ！！！」


玲子「…！」


直後、爆発。


栗須「西蓮寺さァァァァん！！！！」


爆音が鳴り響き、爆風が立ち込めるーーーーー

その中から、

ゆらり、と。


影が揺らめいた。





鈴華【LP 1200】


玲子「！！！」


栗須「…！！」


鈴華のライフは減っていない。
罠カードの効果によって、攻撃がかき消されたのだ。


玲子「……ッ…一体何をーーーー」

驚く玲子に、鈴華は告げる。

鈴華「ーーーー私が発動したカードは……罠カード、『王魂調和』のカード！！！」


《王魂調和
おうごんちょうわ
/Kings Consonance》 †
通常罠
(1)：相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。
その攻撃を無効にする。
その後、以下の効果を適用できる。
●レベルの合計が８以下になるように、
自分の墓地からチューナー１体とチューナー以外のモンスターを任意の数だけ選んで除外し、
除外したモンスターのレベルの合計と同じレベルを持つＳモンスター１体を、
エクストラデッキからＳ召喚扱いで特殊召喚する。



玲子「…王魂調和……っ…！？」

鈴華「その効果は、相手の直接攻撃を無効にし…墓地のモンスターを素材にS召喚を行うーーーー」

更にこの効果による特殊召喚は、本来シンクロ召喚する為に必要な素材の縛りを無視することができるのだ。

鈴華「ママーーーーー力を貸して……っ！！」

鈴華の墓地の『ギャラクシーサーペント』と『ライトパルサー・ドラゴン』。2体の竜が交わり一つとなり、天へと昇って行くーーーー

『ギャラクシーサーペント』☆2

『ライトパルサー・ドラゴン』☆6


=◉=◉=◉=◉２+ ６=『８』◉=◉=◉=◉=


鈴華「ーーーー希望も絶望も…っ…全て受け止め…っ！ 混沌とした世界に安寧をーーーーっ！！
シンクロ召喚っ！！ レベル８！
ーーー『カオス・ゴッデス-混沌の女神-』ーーー」[ATK 2500]


神々しい光を纏い、混沌の女神はその場に降臨した。

主人である、鈴華を護るために。


『カオス・ゴッデス-混沌の女神-』[ATK 2500]


《カオス・ゴッデス－混沌
こんとん
の女神
めがみ
－/Chaos Goddess》 †
シンクロ・効果モンスター
星８/光属性/天使族/攻2500/守1800
光属性チューナー＋チューナー以外の闇属性モンスター２体以上
１ターンに１度、手札から光属性モンスター１体を墓地へ送り、
自分の墓地のレベル５以上の闇属性モンスター１体を選択して発動できる。
選択したモンスターを特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはシンクロ素材にできない。



玲子「……っ…！！」

クラウソラスの攻撃を防がれ、Sモンスターの展開すら許してしまった玲子だが、止まる“意思”など微塵も見せない。
ただ前のめりに、叫び続ける。

玲子「ぁぁぁああぁあっっ！！！
まだよ！！ まだまだ！！！！
忘れたとは言わせないわ！！
サウザンドアームズを装備したライトゲイザーは…ッ……相手の光属性モンスター全てに１回ずつ攻撃できるって事を！！！」


しかし鈴華の場には1枚の伏せカード。その存在が一瞬、玲子の判断を鈍らせる。

玲子「……！ いや…ッ……」

迷ってる余裕などない。

どの道ここでターンを渡してしまっては、攻撃表示のクラウソラスを攻撃されて負けてしまう。

恐れず前に進むしか無いのだ。


玲子「……ライトゲイザー！！！！
あの子に……トドメを差しなさいッッ！！！」


玲子の声に応えるように機兵は主砲を再び構え、混沌の女神へと、放った。


『A・O・J ライトゲイザー』[ATK 5600]

『カオス・ゴッデス-混沌の女神-』[ATK 2500]


轟音と共に床をえぐり、伸びる光線。
鈴華も、女神も、それに動じたりはしない。


鈴華「ーーーー罠発動ッッ！！！
『追走の翼』！！！」


《追走
ついそう
の翼
つばさ
/Follow Wing》 †
永続罠
自分フィールドのＳモンスター１体を対象としてこのカードを発動できる。
(1)：このカードが魔法＆罠ゾーンに存在する限り、対象のモンスターは戦闘及び相手の効果では破壊されない。
(2)：対象のモンスターがレベル５以上の相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。
その相手モンスターを破壊する。
対象のモンスターの攻撃力はターン終了時まで、この効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。
(3)：対象のモンスターがフィールドから離れた場合にこのカードは破壊される。


カードの発動と共に、女神の両肩から伸びる白黒の羽が光を纏い巨大化するーーーー

玲子「……！！！」

そして向かい来る極太レーザーを包むように、その翼は女神の前で交差する様にはためいた。


鈴華「…このカードはカオス・ゴッデスに装備され…ッ……その効果によりーーーー装備モンスターがレベル５以上のモンスターと戦闘を行う前に…！！ そのモンスターを破壊する！！！」


玲子「ーーーーッ！！」


女神は機兵の放った光線を受け止めると、渾身の力でそれを撃ち返した。

撃ち返された光線はエネルギーの塊となり、大きく目を見開く玲子の頰をかすめ後方の機兵に直撃、爆散。

玲子「…っ……っ…ぁ、ァァ…」

直後、その瞬間に弾けた光の粒子が女神を包む。

鈴華「……更に！！ 装備モンスターの攻撃力はターン終了時まで…ッ…破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップしますわ！！」


『カオス・ゴッデス-混沌の女神-』[ATK 2500→4900]


玲子「…攻撃力……4900…ッ…！」

力を吸収され、絶望に歪みそうになる表情を一瞬で嚙み殺し、玲子は再び叫ぶ。

玲子「ァァァァあァァアアァァア！！」

止まらない為に。

玲子「…ァァァ伏せカードオープン！！ 罠カード『Justice grow』！！」

進み続ける為に。


鈴華「……ッ…！
２枚目の…『Justice grow』…！！！」

『A・O・J』が墓地へ送られた場合に発動でき、その効果は、墓地へ送られたそのモンスターよりレベルの低い『A・O・J』を、手札・デッキから１体ずつ召喚条件を無視して特殊召喚するというもの。

鈴華「…この状況で一体何をーーーー」


玲子「ーーーー私が呼び出すのは…ッ！『A・O・J サンダー・アーマー』！！『A・O・J コアデストロイ』！！」


『A・O・J サンダー・アーマー』[ATK 2700]

『A・O・J コアデストロイ』[ATK 1200]



前へ、前へ、前へ。

玲子の背中を見えない何かが後押しする。


玲子「ッッアァァっッっ！！
ァァァァあぁァァコアデストロイで…ッッカオス・ゴッデスを攻撃……ッッ…！！」



『A・O・J コアデストロイ』
[ATK 1200]
ーーーVSーーー
[ATK 4900]
『カオス・ゴッデス-混沌の女神』



栗須「…何…ッ…カオスゴッデスの方が攻撃力は上だぜ……！？ 自爆特攻でもするつもりか……！？」

シムルグ『いや、あれは勝負を捨てた目では無いーーーー』



玲子「ーーーーコアデストロイの効果…ッッ！！」



《Ａ・Ｏ・Ｊ
アーリー・オブ・ジャスティス
コアデストロイ/Ally of Justice Core Destroyer》 †
効果モンスター
星３/闇属性/機械族/攻1200/守 200
このカードが光属性モンスターと戦闘を行う場合、
ダメージ計算を行わずそのモンスターを破壊する。


玲子「……光属性モンスターと戦闘を行う場合ーーーーダメージ計算を行わずにそのモンスターを破壊するッッ！！
これで今度こそ今度こそ今度こそ今度こそ今度こそ…ッッ…終わりよッッ…！！



面倒ごとが嫌いで、怠け者な自分を初めて変えたいと思えた。

“死にたい”から“生きてもいい”を経て、今初めて“生きたい”と強く思えた。

この瞬間に感謝をしつつ、手を伸ばす。



ーーーービッ、と、静かな音が室内に響き、誰もが息をのむ中。鈴華だけは悲しげな表情で玲子を見つめていた。



鈴華「……ごめん…なさい……」



一言そう呟く鈴華。


次の瞬間。



玲子「……ぇ………っ……？」【LP 100→0】


玲子の残りわずかだった命の灯火が、潰えた。




◉Winner◉
-西蓮寺 鈴華-




決闘が終了し立体映像が消えゆく中、鈴華は重い口を開き語る。



鈴華「……『追走の翼』を装備したモンスターは戦闘・効果では破壊されないーーーーー…。
あなたの攻撃は……私のカオス・ゴッデスには届かなかった……っ…」


全力を振り絞った最後の一撃も無駄に終わった事を知り、玲子の瞳からは涙が零れ落ちる。
それは久しく忘れていた、“悔しい”という感情。

玲子「…そっか……私………負けちゃったんだ……」

全てを吐き出し、どこか清々しい表情。

玲子「……全力で戦って、全てを出し切って負けた。
…………不思議と後悔は無い…わ…」

鈴華「……っ…」

玲子「………本当に少しの間だったけど、アンタたちと“会話”できて…良かったわ……。
ホラ、私、人と話すの苦手だから……」

操縦席に背をもたれる玲子の身体が青白く発光し始め、時が来た事を玲子は悟る。

玲子「……そろそろ…ね……」

鈴華「…っ…！？ どういうこと…？」

玲子「…多分、あくまで仮定の話だけど……ここで負けた者は……、この『神星樹』の養分になる………そういうルールみたい…」

鈴華「…！！！ そんな…っっ！！」

栗須「マジかよ……っ…クソッ！！ ふざけやがって！！」

光が一層強くなり、本当に神星樹に吸収されてしまうというのが二人の目にも視覚的に明らかになったところで、栗須は慌てて玲子に問う。

栗須「…っ…！ ちょ、ちょっと待ってくれよ…！！ これだけは教えてくれ！！
さっき言ってた『俺たち側の方が“ヤバい”』ってのはどういう意味なんだよ！！」


玲子「…ああ、それは……マイン様との契約があるから……言うことはできないわ」

けどひとつ言えるとしたら、と玲子は続ける。


玲子「ーーーー本気で死にたく無ければ、No持ちの機兵をこれ以上壊さない事。それだけよ」



鈴華「…！」

栗須「……ッ…？」

シムルグ『………ッ…』


玲子「…５機全部……壊したりなんかしたら………氷……っ…界………ゅう……が………暴……ーーーーー」


最後にぶつ切りの言葉を残し、玲子は光となって消えていった。

栗須「………」

鈴華「………っ…」

なんとか生き延びた鈴華と栗須。
二人は煮え切らぬ思いを抱えたまま、消えゆく光をただ見つめていた。









＊＊＊




戒がヴァルキュルスを撃破し、鈴華が玲子を撃破した少し後ーーーー。




場所は生命の樹・内部。中層西方に位置する、『峻厳の間』。




音ひとつない空間に、無残に崩れ落ちる機兵が２機。
それぞれ肩部だったと思わしき部品に、『MZK-02』『MZK-03』との記載が辛うじて見える。それが最後に残った部品だった。
しかしその最後の部品すら容赦なくぐしゃりと踏み潰し、一人の男は嗤う。




ジャラン「…はは…♪」



“影依”を纏いて、不気味に嗤う。


ジャラン「……こんなガラクタじゃあ彼らの相手など務まらない…。
さぁーーーーー」



今こそ目覚めの時だーーーーー。






ジャラン「ーーーーー『MZK-01』……」





影絲に、霜が降りる。





To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:２２２ 再来の火柱






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙