DRAW:３７ ファイア・ブロッサム　作：人喰い

-黒髪中学-



俺が小走りで玄関へ向かっていると、聞き慣れた声が耳に入る。



火群「…あれ？」


明日人「…うぉ！？」


火群だ。俺もびっくりして足を止め、声をあげてしまう。


明日人「プリント貰えたのか？……って、それどころじゃなかった！……俺、今日は頭痛いから早退するよ！ じゃっ！」


止めていた足を再び動かし、後ろ手で火群に挨拶をしてまっすぐ玄関へ向けて歩き出す。


火群「えっ？ はぁ！？ ちょっ待ぁっ…！」




悪いな火群。
いつもお前に振り回されてばかりの俺だが、
仕返しにお前を振り回してやろうとは、どうしても思えなかった。



これは優しさとは、ちょっと違うのかな…。




＊




ー黒髭植物園ー


明日人「ーーー倉川園長！ 倉川園長はいますか！？」



係員「あーダメだよ入場料払わなきゃ〜……って、園長の息子さんの明日人くんじゃないか！ どうぞ入って入って！」


明日人「あ、どうも。橋本さん」


この人は橋本さん。大柄で、少し目つきが悪いのだが、とても優しい人だ。俺が小学生の頃からお世話になっている。


橋本「園長ならーーー」


橋本さんが言いかけたところで、橋下さんの背後から声が聞こえた。



？？「ーーー僕が、どうかしました？」



明日人「……あ、父さん！」


父さんも俺に気付き、驚いたように声を上げる。


園長「おぉ、あーくん来てたのか」


明日人「…その呼び方はやめてくれ…」


橋本「ははは。…ところで明日人くん、園長に急ぎの用があったみたいだけど……」


そうだった。


明日人「父さん……いえ、園長。実は……」



俺は学校でデュエルした男子生徒から聞いた話を父さんと、橋本さんに話した。




園長「ーーー何！？『終焉の焔』！？」


橋本「ーーー『終焉の焔』。聞いたことがあります…。なんでも、デュエルで各地を荒らしまくっている集団だとか……」



ーーデュエルで？
それだったら、俺でも止められるかも知れない！



橋本「でも、明日人くんの聞いた話が本当なら、なんで植物園をターゲットに据えたんだ…？いっそ思い切って明日は閉館にしますか？ 園長」


園長「…いや、それでは他の従業員や終焉の焔の奴らにも不審がられるだろうし、奴らのやってくる日が明後日になるだけだろう」


橋本「それもそうですねぇ…」


園長「明日にならないことにはどうしようもないことだと思うが、対策をとって考えてみるよ。園長として、植物と市民を護らなきゃいけないからな」


父さんはそう言って俺に笑いかけた。
だが、内心はとても不安で、焦っているだろう。そういう人だ。



園長「明日は予定通り開園するが、園内の植物の保護と市民の安全が第一だ！」


橋本「はい！」


園長「…明日人、来てくれてありがとう。今日はもう帰りなさい。あと、明日は我々大人たちで何とかするから、ちゃんと学校に行くんだぞー」


明日人「え！？ ……わかった。明日の事、お願いします！ 園長！」



ちゃんと学校には行くさ。
事が終わったらな…！












遊戯王Ph.X DRAW３７
《ファイア・ブロッサム》












ーーー翌朝ーーー


AM8:24


明日人「よし、そろそろ行くか。
………行ってきまーす！」


今日は平日だというのに、私服姿に、キャップ帽をかぶって家を出た。

母さんには、何とか話をつけて来たけど(来月のお小遣いを生贄に捧げて)、父さんや従業員の人にバレないように慎重に調査しないとな…。

それと、道中は黒髭中の奴らにも見つからないように裏道を使っていこう。





-黒髭植物園-




明日人「………」


俺はキャップ帽を目深にかぶり、今度はちゃんと入場料を払い、

明日人「…少し着くのが早すぎたかな…」

と、右腕にはめた腕時計をなんとなく確認し、つぶやく。

時刻は午前8時52分を指しており、『終焉の焔』がやってくる1時間も前だった。


明日人「…まぁいいか。父さんや従業員の人にバレないように見回りでもしてるか」


開き直り、歩くスピードを早めたその時だった。


ドンッ！


目深にかぶったキャップ帽で視界が遮られていた所為か、前があまり見えておらず、お腹の辺りに何者かの頭がぶつかった。

明日人「……あっ…！」

ぶつかった衝撃で、キャップ帽がポスリ、と柔らかな音を立てて砂利道に落ちる。

すると、ぶつかった“少年”が、俺の顔を凝視し、一声。



少年「…あれ？ アスにぃ？」



明日人「いっ！？ 漱石！？」



唐突だった。
俺も驚いてつい声を上げてしまう。

俺の事を「アスにぃ」と呼ぶこの少年は『漱石 勇太(そうせき ゆうた)』。
「アスにぃ」とは呼ばれているが、無論、苗字が違うので兄弟では無く、よくこの植物園に来てくれるただの顔馴染みだ。
年は俺とは6つ離れており、7歳。家庭に少し問題があるらしく、いつもヨレヨレになったTシャツを着ている。



漱石「アスにぃ、学校は？」

明日人「…今日は休校だったんだよ。お前こそ学校はどうした？」

漱石「……サボってきた」


漱石は、恵まれていない家庭環境から、学校生活がうまくいってないみたいだった。


俺は、「……またか…」と、半ば呆れながらつぶやく。
そして床に落ちたキャップ帽を拾い上げ、パンパンと軽くはたきかぶりなおすと、真剣な顔で漱石に言葉をかける。



明日人「…でも、せっかく来てもらったところ悪いんだけど、今日はもう帰った方がいい」


漱石「……ぇ…？ どうして？」


明日人「それはーーー」







ーーーぁぁあああぁあああーっっっ！！！




またまた唐突。どこからともなく男性のものと思える悲鳴が聞こえた。
と同時に、声のした方向から、もくもくと黒い煙が上がってるのが見える。

どよめく人々。


明日人（『終焉の焔』が行動に出たのか…！？
…いや、それにしては早すぎる…！まだ一時間も前じゃねぇか…っ！）

横目で漱石を確認する。
酷く怯えており、今にも泣き出してしまいそうだ。


明日人（……くっ…！）



俺はかぶっていたキャップ帽を漱石の頭に優しくかぶせ、ゆっくりと、悲鳴の聞こえた方へ歩き出す。


明日人「…まぁ、そう言うわけだから。 早く家にかえるか学校に行けよ！ 漱石」


漱石「…ぇ、アスにぃ？ どこ行くの…！？ 1人にしないで…！」

悲痛の叫びを上げる漱石。
俺はその声を聞いて、足を止める。


明日人「大丈夫だ。もうすぐアナウンスが流れると思うから、それに従って大人たちと一緒に逃げるんだ」


漱石「……わかった…。ケガ、しないでね」


漱石の言葉を受け、俺は止めていた足を再び動かす。




だんだんと、速く。





-黒髭植物園・中央部-




明日人「ーーー父さん！ 橋本さァん！」


辿り着いた植物園の中央部で見たものは、煙を上げて燃える周囲の植物に、デュエルディスクを装備し、地面に突っ伏した父と、橋本さんの姿。
そして、同じくデュエルディスクを装備し、本植物園の中央に位置する大樹の前で立ち尽くす、黒いフード付きのローブを羽織った３人組。
あいつらが『終焉の焔』か…！


園長「…ッ…？ 明日人！ なんで来たんだ！？」



黒ローブ「……貴様、何者だ？」


黒ローブを着た3人のうち、他の2人より一歩引いた位置に立っていた男が、そう問いながら近づいてくる。


明日人「………ッッ！！」


男が一歩地面を踏みしめる度に、男の周囲に陽炎が揺らぐ。

物凄い威圧感だ…！ 一歩も動けない…っ！
近づいてくる！ 近づいてくる！


黒ローブ「………」


男は俺の前方１メートル程で止まった。
フードの中の真紅の眼光が俺をしっかりと捉えている。



明日人「……俺は倉川 明日人…ッ！職は学生、仕事はツッコミーーーここの園長の息子だ！！」



黒ローブ「………ハッ」


男は笑った。フードでよく見えないが、確かに笑った。


黒ローブ「…笑わせるぜ、そこで無様に倒れている負け犬の息子とはなァ」

男は父さんを指差し、そう言うと、びゅん、っと一歩踏み出し、俺との距離を更に縮める。その時の移動が速すぎた所為か、男のかぶっていたフードが頭から背中の方へ落ち、男の素顔が晒される。

短髪の黒髪に、真紅の瞳。
右頬には、痛々しい火傷の痕が残っていた。



放浪「…俺の名は『永井 放浪(ながい ほうろう)』。お前の実力はだいたい把握した。俺の相手じゃない」


明日人「…なんでだよ…！？ そんなのやってみなきゃ…」


放浪「やらなくてもわかる。お前は俺が見ている間一歩も動けなかった。戦う前からもうすでに負けている」


明日人「…くっ…！」


言い返せなかった。
確かに俺は、放浪の言うとおり戦う前から負けていた。



放浪「…安心しろ。お前の相手は、あの二人ーーードロワとマンティスがやってくれるさ」



ザッ！



明日人「！？」



マンティス「ーーーったく、てめぇはホントにいけすかねぇヤツだぜ、放浪」


不良の様な口調の長身の男と。



ドロワ「ーーーまぁ、いいじゃんマンティス！ あのおじさん達だけじゃ物足りなかったし！」


無邪気にはしゃぐ男。


今の今まで、俺のいる位置から10メートル近く離れた大樹の前にいた二人の黒ローブの男が、一瞬にして俺の右方5メートル程度の範囲に足をつけていた。
俺は驚いて、身体を、瞬間移動した二人の方へ向ける。


ドロワ「でもあいつ一人だよー、どうするマンティスー？ リンチしちゃう？」


マンティス「それも悪かねぇが、予定より早く来ちまった所為で時間はたっぷりあるんだ。ここはお前のデッキでじっくりと嬲ってやれ」


ドロワ「…いいの！？ やたーっ！ ボッコボコにするぞー」



来る…！
やるしか……ないッ！



明日人「…く…っ！ 父さん！デュエルディスク借りるよ！」


俺は一言そう言って、父さんの元へ走っていく。


園長「 ……明日人っ…！ よすんだ…！ あいつらは僕たちの想像を遥かに超えていた…！ 僕と橋本が本気のデュエルを挑んでも全く歯が立たなかったんだぞ！」


明日人「父さん！ それでも、俺がやらなきゃ、大樹が！ 植物園が！」


あの小さな植物達みたいに燃えてしまう！ 無くなってしまう！


橋本「…僕からもお願いします。園長…。無茶だとは思います。ですが、息子さんはこんなにも真剣に、この植物園を、我々を、そして、この植物園に来てくれている人達を護ろうとしている…！
僕はその決して枯れない想いに、賭けてみたいと思う」


明日人「…橋本さん……！」


園長「………思えば、明日人がここまで真剣になったのなんて、始めて見るかもなァ…。
…受けとれ！ 明日人！」


父さんは、一瞬悲しい表情を見せたと思ったら、すぐ笑顔になって、デュエルディスクを外して俺に渡してくれた。


明日人「父さん、ありがとう！」


俺は一言お礼を言って、黒ローブのドロワの元へ歩いていく。
一定の距離を保った場所で立ち止まり、デュエルディスクを右腕にセットする。
デュエルディスクをつけるのは初めてだったので、少し手間取りながらもなんとか装着した。



明日人「…まずはお前からか…！」


正直、勝てる保証はどこにも無い…。父さんの話だと相当な決闘者らしいしな…。

くっそー、やっぱ一人ってのは無謀だったか……。



マンティス「…そういえば、ドロワ！ 見張り隊の奴らから10分以上連絡がねぇが、何か聞いてねーかァ？」


ドロワ「えー？ なんか『…不審者はっけーん！ 何者かが隊員を次々と駆逐してるもよよよょよよよ……〜〜……ーーーッ…』みたいな通信の後からはまだ何も連絡来てないよー！」


放浪「……？」



マンティス「バッキャロウ！！ なんだそりゃ！？ そんな大事な通信、俺んトコには来てねーぞ！！」



ドロワ「僕のトコにしか来てなかったのかなー？ 通信来た直後に明日人クンがやって来たから、明日人クンがその不審者なのかなーって思ったんだけど……明日人クンのその反応からすると、多分、違うみたい？笑」



マンティス「笑、じゃねーよ！ …ったく…。ドロワ！ さっさとそいつカタしちまえ！ …その間俺は、高みの見物とさせてもらうからよ」



明日人「……ッ…！」


手が………震えるじゃんかよ…！















？？「ーーーいや、二人まとめてかかって来いよ」











声が、聞こえた。
少し、遠くから。








？？「…うおおぉおおおぉおお……！」




だんだんと、近づいてくる…？




ドロワ「ぅわお！？」



マンティス「…んだ！？ てめぇは！！？」




明日人「…あ……はは…は…っ」












後方の茂みの中から、何者かが勢い良く飛び出してくる。

ーーー否、『何者か』ではない。

『良く見知った、なんだかよくわからないヤツ』だ。






火群「ーーー俺は『市瀬 火群(いちせ ほむら)』！ 名乗る程の者じゃねぇよ！」




明日人「…って、おい！ 名乗ってんじゃねぇかっ！！ 火群！」



火群「待たせたな！ クラース！」



結局俺は、こいつに振り回されるのか…。

まぁ、悪い気はしないけどな……！。







ーーー-ーーー-ーーー-ーーー-ーーー-ーーーTo Be Continued…






〜おまけ〜



. . 人人人.人人人.人人人.人人人.
＜教えて！ スッキーせんせー！＞
. . Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y



◉このコーナーは、読者のみんな(少数)から寄せられた質問(多分無い)に、『美 好先生(以下スッキー先生)』が一刀両断！ 快刀乱麻の回答をしていくコーナーだ！
質問が無い場合は自問自答をしていく痛々しいコーナーになるから気をつけな！(ドン☆)
＊質問をいただいた時点で、本SSに載せる事を承諾したものと見做します。あらかじめご了承ください。
匿名希望の場合は言ってくださいね！



質問待ってるぜ！！(切実)



《第４回》



好「えー、今回は、P.N『ハル』さんからコメント欄より、2つほどお便りいただきました〜(≖ω≖`)ありがとうございます！(営業スマイル)」


好「…ということで、順番に答えていきましょうか〜(≖ω≖`)火群への質問だな…？…なになに……
『戒とのデュエルの時は左手に中華デュエルの時は右手にデュエルディスク付けてますけど利き手はどっちですか？』


( ﾟдﾟ) ・・・ ？

(つд⊂)ｺﾞｼｺﾞｼ

(；ﾟдﾟ) ・・・ ？？

(つд⊂)ｺﾞｼｺﾞｼｺﾞｼ

（；ﾟДﾟ） …！！？


以下、8／21日23:10現在の『遊戯王Ph.X DRAW３２ 美味！ 神秘の中華料理デッキ』より抜粋。



俺は目を閉じ、【左腕】を高く突き上げる。
俺の左側に立つニクスも、それに合わせて右腕を高く突き上げた。
俺とニクスの腕が合わさり、ほのかに微熱を分かち合う。



火群「ーーーデュエルディスク！ セット！」


ニクス「イン！」



高らかに叫ぶ。すると、俺とニクスの合わさった腕に炎が渦巻き、やがて俺の【右腕】に真紅のデュエルディスクを精製する。



！？！？！？！？！？！？




好「…どうやら作者のミスらしい(≖ω≖`)色々推測して下さったみたいだが、本当に申し訳ない」


A.作者のミス。火群の利き腕は右腕(≖ω≖`)
＊修正しました。




ーーーこの件に関して、人喰い容疑者(18)は、「言われて始めて気付いた」「僕は悪くない」「深夜に書いていたから疲れていたんだ」「俺は悪くねぇ！」…などと供述しており、依然、容疑を否認していますーーー




好「それでは次のしつもーん(≖ω≖`)
『DRAW:７ 過労死寸前！蘇る不死鳥』より、
『「俺とニクスの子だ(ドヤァ)」の時に子ニクスがリアクション取ってたけど600年前のニクスの子供の魂でも宿っているんですか？』



A.子ニクスに関しては、いずれ本編で明記するかも知れないが、ニクスの子供ではなく『幼少時のニクス本人』らしいぞ(≖ω≖`)８歳くらいかな？ ロリニクスと呼ばれる日も近いな。





好「と言うわけで、今回はここまでだ(｀≖ω≖)ノシ(包丁ブンブン‼︎)
それでは次回も………



Ph.X勢「質問待ってま〜〜す！！！」



《次回予告》



「我ら、命令を受けた以上、全力で貴様らの相手をする！」


次回、遊戯王Ph.X
DRAW３８ 不穏の幕開け



ーーーさっさと倒して植物園を取り戻すぞ！火群！