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HOME > 遊戯王SS一覧 > 36話 温泉街フィアンマ

36話 温泉街フィアンマ 作:名無しのゴーレム









「……さすがに、5人となると馬車も狭く感じるわね」
「ご、ごめんなさい」
「いえ、クロノスが悪いんじゃないわよ」
「ごめんなさい……」



……馬車に乗ってからずっとこんな調子だ。何を言ってもすぐ謝ってしまうクロノスさんに、僕たちはどうにも距離感を掴めずにいた。



「ま、まあまあ。それよりプリンセスさん、フィアンマまであとどれくらいでしょうか?」
「ええと……地図で見ると、もうすぐ到着のはずなんだけど」
「その割りには、街があるようには見えないが」
「いいや、プリンセスの言ってることは正しいぜ。ほら、空の方を見てみな」
「空……?」



マッハに言われるまま、進行方向の上空を見上げる。すると……



「何あれ……煙?」
「ありゃあ湯気だよ。前に言ったろ? フィアンマは温泉街だからな」
「温泉街、ってことは……温泉の湯気ってこと?」
「そうだぜ。あそこの温泉は最高だからなぁ。着いたらいっぺん入ってみるか」
「何言ってるのよ。私たちには時間がないんだから、温泉に入ってる暇なんて……」
「時間がないって言っても、真夜中に馬車で進む訳にもいかないだろ? 何にせよフィアンマで一晩は休まなきゃいけないんだから、温泉にでも入ってすっきりしておけよ」
「……そうね」



……今のは、マッハなりのプリンセスさんへの気遣いだったのか。



「しかし、フィアンマに入ればフラムという人物を探すことから始めなければいけないのだがな」
「それはそうだな……まあダイスの話を聞く分には大物みたいだし、探せばすぐに見つかるだろ」
「マッハ、楽観的だね……」
「悲観的になっても仕方ないだろ。……ほら、街が見えてきたぜ」



長く続いた自然の風景から、次第に人工的な建物が目に入るようになる。ここが、フィアンマ……












「……っと。んん~、ようやく馬車に揺られるのも終わりか。疲れたぜ……」
「そうだね……うぅん、身体が痛いや」
「ユージもか? ならまずは、宿を見つけて一休みしてから……」
「ちょっとマッハ。まずはフラムを探すのが先でしょ?」
「だから、宿で聞き込みすればいいだろ? もうすぐ日も暮れるんだ、宿が見つからなかったら悲惨だぜ?」
「…………」



返す言葉が見つからないまま、納得いかないような表情を見せるプリンセスさん。



「……プリンセスさん、あんまり無理をしちゃ駄目ですよ。またこの前みたいなことになったら……」
「っ、……ユージの言う通りね。分かったわ、まずは疲れをとることを優先しましょう」
「鋼さんとクロノスさんも、それでいいですか?」
「私は構わない」
「は、はい。私も、それでいいと思います」
「じゃあ決まりですね。マッハ、宿がどこにあるか分かる?」
「おう、俺に任せな。前に泊まった宿がいいところだったから、そこにするつもりだ。ほら、行こうぜ!」



さっきまで疲れたと言っていたのはなんだったのか、元気よく走り出すマッハ。



「……あいつ、元気いっぱいじゃない」
「あはは……」



プリンセスさんが突っ込みを入れながらも、僕たちはマッハに続いて宿へ向かう。









「……ねぇ、なんだか暑くない?」
「温泉街ですからね……そこら中に湯気が漂ってますし」
「寒かったり暑かったり、最近は無茶苦茶ね」
「確かにそうですね……あ、あそこみたいですよ」



少し先に大きな建物が見えてきた。その入り口でマッハが立ち止まったことから、どうやらそこがマッハの言っていた温泉宿らしい。



「おーい、早く来いよー!」
「全く、マッハも子どもね……すぐに行くからそこで待ってなさい!」



呆れたようにしながらも若干早足になるプリンセスさん。もしかして……



「……プリンセスさんって、温泉宿に泊まるのは初めてですか?」
「そ、それがどうしたのよ……ほら、急ぐわよ!」



……やっぱり、プリンセスさんも温泉が楽しみなのかな。そんなことを考えながら、僕も歩くペースを早めようとする……



「……っと。クロノスさんは大丈夫ですか?」
「……え?」



忘れていたけど、クロノスさんは僕よりも小柄な女の子だ。さっきまでの馬車やここまでの徒歩の移動でも、僕以上に疲れているかもしれない。余計なお世話かもしれないけれど……



「……ああ、大丈夫、です……ありがとうございます」
「それなら良かった……それじゃ、行きましょうか」













「……ったく、遅ぇよお前ら!」
「はいはい、ごめんなさい。それで、宿には入れそうなの?」
「え? それは今から確認するんだろうが」
「いや、私たちを待ってる間にそれくらいしておきなさいよ……」
「う、うるせぇな。今からやればいいんだよ!」



プリンセスさんの指摘を受けて、マッハは勢いよく進んでいく。



「……さて、私たちも入りましょうか」



マッハに続くようにして、僕たちも宿へ入っていく。そこで僕たちを待っていたのは……






「だからなぁ、ちゃんとした従業員を呼べって言ってんだよ! お前みたいな子供はお呼びじゃねえ!」
「だから、私がその従業員なのです! あと子供扱いするのはやめるのです、そっちこそ子供のクセに!」
「なんだとぉ!?」



……何故こんなことになってしまっているのか。目の前で繰り広げられていたのは、マッハと女の子が言い合いをしている光景だった。話を聞く限り、女の子の方はこの宿の従業員みたいだが……



「……ユージ、あのケンカを止めなさい」
「えっ、僕が!?」
「私は嫌よ、あんなのに巻き込まれるのは」
「そ、そんなの僕だって……」



……そんなことを言っていても仕方ないか。とにかく、2人から話を聞かないと。



「あの、とりあえずケンカは止めて……」









「コラァ、クリム!! 何やってるんじゃお前はぁ!!」






……僕が仲裁しようとした、その瞬間。鼓膜が潰れるかと思うような怒声が、宿中に響き渡る。



「……なっ、何なのよ。今の声は……」
「み、耳が……」



思わず静まり返ってしまったその場に、1つの足音だけが鳴っている。



「フ、フラム……」
「お前は馬鹿なのか、ああ!? お客には誠心誠意尽くすものだと、何度言ったら分かる!?」
「だ、だってこいつが……」
「言い訳するでないッ!!」



怒声の主と思われる女性は、従業員の女の子を叱りつける……その威圧感の前に、今湧き上がった疑問をぶつけることなど到底できはしなかった。



「全く、お前はいつまで経ってもおもてなしの心というのを分からないのか……はぁ」



大きくため息をついた女性は、その後くるりとこちらの方を向く。その表情は、先程までとは考えられないほど満面の笑みであった。



「……旅の方たちよ、ようこそいらっしゃった。妾はこの宿の女将、フラムじゃ。当宿での宿泊を希望かのう?」
「え……は、はい」
「それなら、どうぞ入るといい。部屋も空いておるから、すぐに案内しよう。部屋は2つに分けるかの?」
「ええ、お願いするわ……」
「よし、承った。履き物はそこの下駄箱に入れておくといい。ささ、部屋はこちらじゃ」



彼女に言われるまま、靴をしまい案内についていく。色々とおかしなところがあった気がしなくもないが、そんなことを口に出す勇気は僕にはなかった……






「さ、ここがお主らの部屋じゃ。おなごは左の、おのこは右の部屋を使うとよい。夕食までは時間があるゆえ、一休みしたら温泉に入るといいぞ。温泉の場所は……」
「あ、それなら分かるぜ。この宿には来たことがあるからな」
「おお、そうであったか。リピーターとは、よほどこの宿が気に入ったと見える。妾も嬉しいぞ」
「お、おう……」
「何か分からないことがあれば、妾か……このクリムに聞け。それでは、ごゆるりとくつろいでおれ」



そう言い残し、フラムさんは宿の奥の方へ姿を消してしまった。残された僕たちと、クリムという少女は……



「……それじゃあ、私も失礼するのです」
「ちょっ、ちょっと待って!」
「何なのですか? ただでさえ人手が足りないのに、あなたたちみたいな大人数での宿泊まで……明らかにキャパオーバーなのです。なので私は忙しいのですよ」



……なるほど、そんな経緯があって2人はケンカになっていたのか。



「すみません、突然お邪魔しちゃって……でも、1つだけどうしても聞きたくて。あの女将さん……フラムって名前なんだよね?」
「? 私の記憶が正しければ、フラムはあなたたちにそう名乗っていたはずなのです。何か疑わしいことでもあるのです?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……それだけ気になって。ありがとう、クリム」
「……改めて、失礼するのですよ」



怪訝そうな視線を向けたあと、フラムさんと同じ方へ歩き去るクリム。



「……とりあえず、荷物を置きましょうか」
「そうだな。そのあと俺たちの部屋に集まって、少し話をするか」
「そうね……それじゃあ、また後で」
「おう。ユージ、鋼。俺たちも自分の部屋に入ろうぜ」
「そ、そうだね」



ナチュラルに鋼さんも男としてカウントするマッハ。鋼さんは、本当にこれでいいんだろうか……



「……ふぅ、やっと一息つけるなー!」
「本当、疲れちゃったね」
「だぁ~、このまま一眠りしたいくらいだぜ……」
「そ、それは駄目だよ。プリンセスさんたちも来るんだから」
「はいはい、分かってるって。なあ、ユージは温泉に入ったことってあるか?」
「うん。2、3回くらいだけどね」
「へぇ。鋼はどうなんだ?」
「……生まれ育った場所に、似たようなものはあったな」
「なるほどなぁ……でもよ、プリンセスとクロノスって絶対温泉入ったことないよな」
「え? まあ、そうだろうけど……」
「あいつら、ちゃんと温泉に入れるのか心配じゃねえか? なんかとんでもないことやらかしそうっていうか……正直、怖いもの見たさはあるよな」
「……覗きは駄目だよ?」
「馬鹿、そんなことするわけないだろ。精々上がったあとに話を聞いて、思いっきり笑い飛ばしてやるくらいさ」
「それ、プリンセスさんに怒られそうだね……」
「随分賑やかじゃないの。一体何を話してるの?」
「え……!?」



そんな話をしている中、突然背後からプリンセスの声がする。



「プリンセスさん、いつの間に……」
「よし、じゃあ話を始めるか!」
「……ええ、そうね」



プリンセスさんたちの登場に、一瞬にして話を切り替えるマッハ。



「それで、これからどうするかだけど……」
「探していたフラムはここの女将だったからな。外へ聞き込みに行く手間は省けた」
「ええ、それに関しては幸運としか言いようがないわ。問題はどうやってフラムと話をするか、ね」
「普通に話をしに行くんじゃ駄目なのか?」
「見ず知らずの私たちのために、フラムが動いてくれるという保証は?」
「……確かにな。でもよ、今から信頼を得るなんてのも無理じゃねえか? 下手に媚を売るくらいなら真っ正面から話を通した方がいい気もするけどよ」
「うーん……やっぱり、そうするしかないかしら。情報不足が酷すぎて、今のままじゃどうしようもないわ……」
「じゃあ決まりだな! 今日の夜、それか明日の朝にでもフラムに幻獣の聖域を通る許可を貰えるか聞く。駄目だったら……その時考える!」



つまり、行き当たりばったりということか。しかし、それよりいい案があるわけでもない。



「うん、ひとまずマッハの案でいいと思うよ」
「だろ? ならこの話はもう終わりだ、早速温泉にでも行こうぜ!」
「あっ……マッハ!?」



……一方的に会話を打ちきり、部屋の外へ飛び出して行ってしまった。



「全く……落ち着きがないわね。私たちも温泉に行きましょうか」
「はい……あ」
「ユージ、どうかしたの?」
「いや、だって……温泉って、どこにあるんですか?」
「…………あ」









「……それで、結局私が案内することになったのですか」
「ご、ごめんなさい……」



温泉の場所を知っていたマッハが先走ったせいで、僕たちはクリムの案内を受けることになってしまった。



「……さ、ここなのです。男湯と女湯があるので、分かれて入るのです」
「へぇ……温泉って、こんな風になってるのね」
「もしかして、温泉に入るのは初めてなのです?」
「ええ。だから温泉に入る時のルールみたいなものがあるなら、先に教えてもらいたいんだけど」
「……いえ、特に注意するようなことはないのです。あえて言うとするなら、温泉に入る前に身体を洗うようにして欲しいくらいなのです」
「そう、分かったわ。それじゃあクロノス、行きましょうか」
「は、はい」



プリンセスさんとクロノスさんはさっさと女湯の方へ行ってしまった。案内を終えたから、クリムもすぐに立ち去ってしまったようだ。



「……えぇと、鋼さんはどうします?」
「私は入らない。……先に部屋へ戻っておく」
「分かりました……」



……鋼さんが女性であることを隠すなら、温泉に入ることは難しいだろう。でも……どうしても、少し申し訳ない気持ちになってしまう。



「……考えても仕方ない。マッハが待ってるし、僕も入るか」












「……お、ユージじゃねえか。随分遅かったな?」



脱衣場で服を脱ぎ、洗い場へ入る。周りを見渡したが、どうやら男湯にはマッハと僕しか居ないようだ。



「……いや、マッハが置いていったからここに着くまで時間がかかったんだよ」
「あぁ、そりゃ悪かったな。でもまあちゃんと来れたんだから良かったじゃねえか」
「それはそうだけど……」
「ほら、とっとと身体洗いな。俺は先に温泉に入っとくぜー」



そう言うと、マッハは一足先に浴場の方へ向かってしまった。仕方なく、僕は身体を洗い始めた。



「……そういえば、ちゃんとお風呂に入るのも久しぶりなんだな」



アミューズを出発してから今まで、ゆっくりとお風呂に入るような余裕はなかった。よく考えてみればこれも普段とは全く異なる状況だが、自然と受け入れることが出来ていた。



「少しは、この世界に慣れてきたってことなのかな……」



そんなことを考えながら、身体の隅々まで洗い終える。ようやく温泉に入れる……



「マッハ、お待たせ」
「おー、ユージ。やっぱここの温泉は最高だぜ~、ほら、とっとと入りな」
「あはは、言われなくてもそのつもりだよ」



でも、まずは掛け湯をしないといけないんだっけ。温泉に来るのも久しぶりだから、その辺りはあんまり覚えてないな……












「きゃあぁぁぁ!!!」











……突如、女性の叫び声が聞こえてきた。しかも、この声は……



「!! マッハ、今の声って……」
「ああ、プリンセスだ……!!」






今、プリンセスさんはクロノスさんと一緒に女湯に居るはず。まさか、向こうで何かが……!!













キャラクター紹介


クリム
モチーフ:【紅蓮王国】 作者様:黒壱様
フィアンマの温泉宿で働く少女。誰に対しても強気に接し、やや毒舌が混じる。
普段は旅をしているが、たまにフィアンマへ戻るとフラムによって(強制的に)働かされる。


フラム
モチーフ:【紅牙焔】 作者様:ター坊様
フィアンマで温泉宿をしている女将。
尊大な言葉遣いながらも、客に対しては誠意を持って対応する。


【紅蓮王国】【紅牙焔】の使用許可を下さった黒壱様、ター坊様、本当にありがとうございます!


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ギガプラント
紅い感じのキャラクターが二人ほど……やはり彼女等もデュエルするのか。
温泉街で悲鳴が上がるとなんというか湯煙うんたら殺 人事件みたいですねw (2019-08-12 10:55)
名無しのゴーレム
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
炎属性→温泉という安易な発想。まあ全体的にこんな感じだから問題ないかぁ。
このまま2時間サスペンスに発展!? ……は、しないです。はい。 (2019-08-12 12:27)
クロノスギア2
投稿お疲れ様です!
新たな舞台は温泉街というこのなので仲間内のギスギス?も取れるといいですね。

ところでWWで使ってもらいたいカテゴリの募集ってどこでやってるんですか? (2019-08-13 17:48)
名無しのゴーレム
クロノスギア2さん、コメントありがとうございます。
温泉に入ってみんな仲良し…とはいかなかったみたいです。

オリカカテゴリの募集は基本的に遊戯王雑談掲示板の『遊戯王SSの使用デッキ申請』で行ってますね。まあ募集しているというかあそこに出ているオリカの中からSS使えそうなものを選んでいるというだけなのですが…
一応注意点ですが、このSS内のデュエルは旧ルールで進行してるので(少なくとも本編内では)リンクモンスターが主軸となるようなカテゴリは採用を見送らせてもらっています。それと掲示板の方で申請してもらっても必ず使用する訳でもないことはご了承ください。 (2019-08-13 21:01)

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