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HOME > 遊戯王SS一覧 > 12 Project R・A・S

12 Project R・A・S 作:ター坊



遊路は朝食を済ませたものの、いつもより早めに起きたため時間を持て余していた。いつもなら食後はとっとと登校する準備に移るのだが、この時間帯にはなかなか見ないニュースを見ようとテレビのリモコンにスイッチを入れる。

《続いてのニュースです。深夜1時頃、太平洋沖で浅井町漁協の漁師からドラゴンの目撃情報がありました》

キャスターが読み上げるその冗談めいたニュースに遊路も目を点にしてテレビに近づく。ニュースによると太平洋沖で漁をしていた漁師が陸地に向かって飛び去るドラゴンを目撃したと言う。ソリッドビジョンが普及したデュエルモンスターズが存在するため、それを利用した誰かのイタズラだろうとニュースでは結論付けていた。
「…ふっ」
遊路はファンタジーやメルヘンじゃあるまいしとは思ったものの、よく考えたら自分も次元を越えてやって来たファンタジーな存在だったなと思い出し笑いをして、登校時間が来るまでテレビを見ていた。
その日の午前中。遊路は講義がなくて空いた時間の暇潰しにと遊希と一緒にデュエル場の観戦席から1年生のデュエル実技を見学しながら喋っていた。
「…それにしても良かったわね。次元転送装置自体は修復が終わって」
「ああ。でもすっかり馴染んできたって時にサヨナラが近いって寂しいもんだな」
「そうね。また遊びに来てとも言いづらいし…」
遊路もたかが1ヶ月半程度と高を括っていたが、その期間は愉快で濃密で刹那であった。まるで海に行ったりキャンプしたり田舎の従兄弟の家に泊まったり花火大会を見たりするイベント満載の夏休みがあと少しで終わりを告げるように。
「でも、いつまでもバカンスって訳にもいかないからな。帰ったら休んだ分 働くか。…そういえばお前はプロに復帰とかしないのか?」
「ここを卒業したらって考えてるわ。…前から訊きたかったけど、遊路はどうしてチャンピオンを目指したの?」
「うーん、法律を作るためかな」
「え?」
遊路の意外な解答に遊希は思わず間の抜けた返答を出す。
「そんなこと…出来るの?」
「まぁ…そう都合良くいくかは別だが全くの絵空事ではない。俺達の世界ではデュエルモンスターズは一大アミューズメント産業として日本経済を支え外交にも利用されている。チャンピオンほどの有名人となれば国にとって経済・外交の面で重要人物になるから相応の発言力を得る。そこで俺は多重婚の合法化を要請するって寸法さ」
「多重婚って…」
「ああ。遊月と美羽の事が本気で好きだからこそ、仮初めでも自称でもない、誰もが認める妻2人としてあいつらと堂々と結婚したい。その為にチャンピオンになった。…不純か?」
「それは…その…、私の基準としてはそういう相手には自分だけを愛して欲しいから多重婚は納得しないわよ?でも…好きって気持ちだけでそこまで頑張れるのは素敵なことだと思う…」
「…そう言ってもらうと助かる」
確かに遊路の夢は邪(よこしま)と後ろ指を指す者もいる。けれど遊路の真剣に語る様から、決して見栄や下心ではない真心を察した遊希は完全に否定することなく応援した。
「それにしても自分だけを愛して欲しいって…。毎日構ってちゃんになって彼氏は大変そうだなぁ」
「それは…否定できないかも」


「おい、なんだよこれ?」
「どうなってるんだ?」
「キモ~い!」
「ん?なんだあれ」
遊路と遊希が談笑する中、眼下のデュエル場から1年生のどよめきが響いた。
召喚されたモンスターのソリッドビジョンがチカチカと点滅したり、グニャリと曲がって歪んだり、意味もなくグルグル回転したり、普通ではありえない挙動を見せていたのだ。



昼休みになり、遊路達と遊希達は校長室に呼び出されていた。
「…わざわざすまないね」
「いいえ別に構いませんよ。それよりもあの異常について何か分かったんですか?」
午前中に起きたソリッドビジョンの異常はあれから改善されず、それどころかデュエルディスクそのものが作動しなくなる状態にまで悪化していた。デュエルを教えるデュエルアカデミアとしては由々しき事態だが竜司は何か言いたくなさそうな雰囲気を出していた。
「…星乃校長。何が原因か分かったんですね?」
「パパ、教えて」
遊希と綾香に押され、竜司は意を決して話を切り出した。
「…それがメールが届いてね。どうやら今回の件を知っている者からみたいなのだよ」
「え?」
「つまり…事故ではなく何者かが引き起こしたということでしょうか」
「…とりあいずこれを見て欲しい」
竜司は自身のノートパソコンの画面を遊希達に向け、そのメールに添付されていた動画を再生した。画像には白衣を着て、ピエロの仮面を着けた人物が立っていた。

《これを見てくれているかしら、天都遊希さん。今、アカデミアではデュエルディスクの不調が起こっているわよね》

動画の人物はボイスチェンジャーで喋ってるせいか低い声だが口調は女性っぽい。

《単刀直入に言うわ。私に協力しなさい。詳しい話はKC記念ビルで会って話すわ。今日の日没までには来るのよ。…もし来なかった場合、協力を拒否したとみなして、最悪のシナリオを敢行するからそのつもりで。それでは》
仮面の女の動画はそこで終わった。
「遊希…誰か心当たりないの?」
「そうは言われても…」
遊希は有名人であり、学校以外にも大会やライバル視するデュエリストなど関係者の候補が大勢過ぎて本人にも皆目検討がつかない。
「で、どうするんだ遊希。デュエルディスクの不調を知っているってことは今回のトラブルを引き起こしたヤバい奴と見るべきだ。そんな奴のところにノコノコ行くのはどう考えても危険だぞ」
「…でも行かないと。なんとなく嫌な予感がするから」
遊希の感じるものは遊路がやって来たあの日の焦燥感と似ていた。

ガチャ

「うおっ!!」
「えっ、朱里那?」
扉から出た遊路達は朱里那とバッタリ出くわした。朱里那の後ろにはスティーブンと七聖もいた。
「何やってるんだ?」
「いや、なんかヤバそうな顔でお前らが歩いてるのを見てよ。こうしてついて来たって訳だ。それにしてもそのツラ、やっぱヤバい事があったってツラだな」
「…えっと…ごめんなさい。何か今日のデュエルディスクの不調を引き起こした奴がどうこう聞こえて…」
「アニキ!私モ何カ手伝イタイデス!!」
「え~。どうします校長?」
「…彼女らの同行も許可しよう。けど君達。この事は他言無用で頼むよ」
「おう!」




竜司はミハエルに手配してもらった運動部部員の送迎用の小型バスに遊希達を乗せ仮面の女が指定した場所に到着した。

KC記念ビル。元は海馬コーポレーションの本社ビルだったが、本社の移転に伴って記念館として生まれ変わったビルで、伝説のデュエリスト・海馬瀬人の聖地として人気が高い。しかし現在は内装のリニューアル工事のために閉鎖されており、人の気配がないビルは不気味な静寂に包まれて廃墟のようだった。そこに竜司を先頭にし、全員がビルの正面玄関を潜る。エントランスホールはリニューアル工事がだいたい終わったのか、小さめな丸型の椅子とテーブルが整然と何十も並べられ、大理石の床もピカピカに磨かれて綺麗にされているが、その無機質な感じと何十mとある天井まで吹き抜けただだっ広いエントランスホールに響く遊希達自身の足音の乾いた音がより一層の不穏さを煽り立てる。
「…お待ち下さい」
急に歩みを止めるように遊月が声を殺して言う。
「どうした遊月?」
「お静かに」
「…!」
「あ?なんだよ」
「いや。…とりあいず黙っとけ。久々に見るけど冗談抜きでヤバい時の顔だ」
「これは…精霊…?いや、何か違う…」
「違う…ってどういうこと?」
「分からない。けど…このザラついた感じ…」
遊月は殺伐とした戦国時代を生き抜いた経験からくる勘で、遊希は精霊の力を宿す者としての感覚で、何かの危険を察知した。人ならざる者の気配を。





ズリッ、ズリッ…ハァー、ァー



全員足を止め、口を閉じているのにエントランスホールに響く何かを引き摺る音と呻き声。

キュキュキュ…ガシャン

「えっ」
振り返ると入り口にシャッターが降ろされてしまった。


カシャン、カシャン、カシャン…アー


奥に見える階段から聞こえる金属板が揺れて鳴るような音と大きくなる呻き声がなおも近づいてくる。

「…あれ!」
そしてとうとう、階段から降りてきた者、音の主が現れた。それは

「『鎧武者ゾンビ』…?」
「…ア゛ア゛ア゛ア ゛ア゛!!」
『鎧武者ゾンビ』は遊希達を視界に捉えると鎧をガチャガチャ鳴らして激しく揺れながら走り寄ってきた。
「せぃ!!」
「あ゛あ゛!」
危険を覚えた遊月は咄嗟に近くにあった椅子をぶん投げるとそれは命中して『鎧武者ゾンビ』はよろけた。
「えっ…ソリッドビジョンじゃないの…?」
映像でしかないの筈のモノに物理的に椅子がぶつかった現象と接近されて気付いた鼻を突く腐敗臭と映像や作り物と思えない生々しく爛れた皮膚が戦慄となって遊希達を動揺させる。
「ア゛ア゛ア゛ー!!」
『鎧武者ゾンビ』はデュエルモンスターズとしては現在のカードプールでは使われることはほぼない低級アンデット族モンスターであるが、それが現実となっては話は別。醜悪な姿と刀を本能的に振り回して椅子やテーブルを薙ぎ倒しながら迫ってくる狂気に遊希達は逃げ惑うことしかできない。
「みんな散るんだ!」
竜司の一言で3方向に分かれたせいか『鎧武者ゾンビ』は追う獲物を見定めるように立ち止まる。しばらくすると再び驚かされることが起きた。
「アァー…」スゥゥ
「…消えた?」
突然『鎧武者ゾンビ』の実像が薄れ、煙のように立ち消えたのだ。今起きた事は夢か幻覚と思いたかった遊希達だが、無惨に散らかったエントランスホールが現実であったと押し付けてくる。
「なんだったんだよ今のは!」
「ヨク分カリマセンガ、何ダカ トンデモナイコトニ 巻キ込マレタ気ガシマス…」
「…怖い」
初めて死を直感した恐怖にスティーブン、七聖、さらには普段強気な朱里那も動揺を隠せないでいた。
「シャッターは…開きそうにないな」
「はぁっ!!…駄目です。ガラスも壊せそうにありません…」
シャッターはびくともせず、ガラス張りの壁も特殊な素材なのか遊月の椅子のフルスイングでもヒビ1つ入らない。
「私達を招いた仮面の女…何が目的でこんなことを…」







「来てくれたのね?」
「!?」
エントランスに反響する女性の声は何処からかと全員で周囲を見渡す。
「あれ!」
美羽が見つけたのは3階部分から覗かせる白衣を着た人物だった。
「ハァッ!」
「あれは…『ハーピィ・レディ』!」
「お、降りてくるわよ」
謎の人物を発見したと同時に突如『ハーピィ・レディ』が現れ、なんとハーピィはその人物の腕を足で掴むとゆっくりと下降してきたのだ。
「さっきの『鎧武者ゾンビ』と同じ…あれは現実に存在するということでしょうか…」
その場にいた一同全員が困惑しているとその白衣の人物が着地した。服装通り研究者といった出で立ちの30代後半くらいの眼鏡を掛けた女性である。
「君が私にあのメールを送ったのかね?」
「ええ」
その女性は竜司の質問に素っ気なく答えた。
「君は一体…」
「待って下さい。彼女は私に用があってこんな大掛かりなことをしたんです。私が話を訊きます」
「…うむ」
竜司は学校の責任者として生徒達を守る立場にあるが、遊希の瞳から強い意志を察して下がった。
「待っていたわ天都遊希さん。私は時崎加菜恵(ときざき かなえ)、KCで異次元についての研究をしているわ」
「…紹介ありがとうございます。それで、私に協力して欲しい事とは?」
遊希は敬語で話しているが眼は怒り心頭といった具合にキツく加菜恵を睨んでいた。アカデミアでのデュエルディスクの不調、モンスターに襲われる恐怖、自分だけに降りかかかるならまだ我慢できたかも知れないが、こうして仲間が危険に晒されているのだからそんな目つきも当然である。しかし、遊希のそんな視線を意に介さずに加菜恵は話を進める。
「単刀直入に言うわ。私の研究の為に精霊の力を渡して欲しいのよ」
「私の…精霊の力…?」
「貴方はこのカードを御存知かしら?」
意味深そうな笑みを浮かべながら加菜恵はとある3枚のカードを取り出した。
「…っ!!」ガクッ
「遊希!?」
それを見た瞬間遊希は膝を落としてしまい、何事かと綾香が駆け寄る。遊希は凍えているかのように体を細かく震わせていた。
「…貴方、その…カードは…」
「ええ。精霊の貴方になら分かるでしょ?このカードの力が」
加菜恵が見せたカード。それは…


『邪神イレイザー』


『邪神ドレッドルート』


『邪神アバター』



「アレハ…」
「伝説の…三邪神…だと?」
遊希達の世界では存在は囁かれるものの誰も現物を見たことがない、幻のカードが存在する。かつて伝説のデュエリストが使用した三幻神、世界に混乱をもたらしたとされる三幻魔、そして加菜恵が見せた三邪神がそれにあたる。生徒である綾香達はもちろん、プロである竜司やエヴァ、遊希ですら初めてお目にかかったのだ。
「そのカード…まさか…」
「ええ。貴方が感じている通り、これには精霊界から呼び寄せた本物の三邪神が入っているわ」
「どうして、そんなものを…」
「R・A(リバース・オブ・アバター)計画…というのを知ってるかしら?」
「R・A計画…!」
その単語に遊路が反応する。
「あら、異世界人なのに知っているのね」
「はっ?異世界人?」
「…遊路さんが…?」
「ワッツ?アニキ、ドウイウ事デスカ?」
「…事情は後で話すが、俺と遊月、美羽はこの世界ではなく別の世界から来たんだ」
「オゥ…」
先程の襲ってきた『鎧武者ゾンビ』といい、邪神といい、唐突に明かされる遊路達の衝撃の真実といい、現実離れした展開に朱里那も七聖もスティーブンも理解の処理が追い付かないでいた。
「さて、さらっとネタバラシしやがって。そんな事よりR・A計画で何をやるつもりなんだ」
「ちょっ、遊路!そのリバース…なんとかって何なのよ!」
「俺も遊戯と城之内の又聞きだから詳しくは知らないが、簡単に言えばカードの力で廃人や死者を蘇らせるものらしい」
「えっ、し、死者を!?」
「ええ。大まかに言えばそういうことよ。私もそのデータを見つけた時には驚いたわ。そんな事が可能なんてね。けれどそれは光明だった。私はそのデータをベースとしつつ改善と新技術を導入してProject R・A・S(プロジェクト ラス)を完成させたわ」
「Project…R・A・S…」
もし、そんな技術が完成すれば人は死んでも蘇る。人類はある意味不死の夢を叶えることとなる。
「けれど、誤算が生じたわ。次元転送装置を介して三邪神がいる精霊界のさらに奥にある高次な次元とリンクしたものの、最後の1体、アバターを抽出している途中で時空間の歪みが生じて次元転送装置は暴走してしまったのよ」
「えっ、じゃあ…」
「まさか…その暴走によって偶然俺達の世界と繋がり、この世界に俺達は吸い込まれた…ってことか」
「きっとそうなるわね」
2つの世界が繋がり、人間が異世界に訪れるという珍事は天文学的数値の低確率で起きた偶然ではなく、一人の科学者によってもたらされた人災だったのである。そんな現実だが、遊路は遊路なりに消化しているのか怒りを露にしたりせず話を進める。
「それで、アバターの抽出に失敗したからってどうして遊希に協力を求める事になるんだ?」
「Project R・A・Sには三邪神の安定した力が必要不可欠なの。そこで抽出し損ねたアバターの精霊の力を遊希さんの精霊の力で補充するのよ」
加菜恵の説明のとあるワードに綾香と詩織が突っ掛かる。
「待って、…補充?どういう意味よ」
「まさか…邪神に遊希さんを取り込ませるんじゃ…」
「…」ニヤ
加菜恵は不敵な笑みを浮かべる。その様子に遊路は呆れて溜め息を吐く。
「…図星か」
「そんな事させない!」
「そうデス!!」
加菜恵の意図が分かった途端、綾香・エヴァ・千夏・詩織が遊希を守るように囲う。
「あら、良いのかしら?最悪のシナリオを発動させても」



そう、加菜恵は動画で言っていた。最悪のシナリオを敢行すると。
「最悪のシナリオ…」
「見たでしょ、あの『鎧武者ゾンビ』と『ハーピィ・レディ』。サイコデュエリストが起こすソリッドビジョンを実体化させる現象を人工的に再現するシステム、RIMシステム…異次元研究の副産物よ」
「…!!この世界にアレみたいなものが…」
「「…」」
遊路達の脳裏に浮かぶのは1年前の自分達を襲ったサイコデュエルディスク-装着したデュエリストを強制的にサイコデュエリストに変えて精神を蝕む悪魔の兵器である。
「このシステムを発生させる装置を東京、大阪、札幌…日本の主要都市10ヶ所に仕掛けて、それを日没と同時に稼働させるわ。もっとも、まだ試験段階だから稼働時間は5~6分程度が限界だけど、現実のモンスターがそれだけの時間暴れたら日本はどうなるかしら?」
「!」
日没前後と言えば人々が帰宅したり外食に出掛けたりして込み合う時間帯。ドラゴン族・恐竜族のような巨大で凶暴なモンスターや水族・炎族のような災害を起こしかねないモンスターが実体化して賑やかな街中で暴れたらそこにいる人達はどうなるか-そう想像しただけで遊希の顔から血の気が一気に引いた。
「そんな…」
「貴方が協力してくれれば良いのよ。Project R・A・Sが成功すれば人類は死の概念から外れ、死による悲しみも消える。人間を愛する精霊の貴方ならそれも本望じゃないかしら?」
「でも、そんな事したら遊希は…」
綾香は言葉に詰まる、いや、誰も何も言えない。遊希は絶対に犠牲にしたくない。けれどだからといって街の人と日本がどうなっても良いと無責任に断言できないのだ。
「…私がいなk」
「待て」
しかし1人違った。遊希の言おうとしたことを遊路が遮る。
「私がいなくなれば人類は不死の夢が叶い、日本も壊されずに済んで全部丸く収まる、そう思ったか?」
「… … それは…」
「確かに、たかがお前1人の命で人類の不死の夢が叶うなら安いとこいつの考えに同調する奴もいるだろう。だが、俺や綾香や竜司さん…ここにいる全員にとってお前の命はたかがじゃない」
「でも…」
「…それとも何だ?自分を犠牲にして全人類を死の恐怖から救ったヒーローにでもなりたいか?」
「…っ違う!そうじゃない!!」
歯切れの悪い遊希も、遊路の煽る口振りに力強く否定する。
「なら良いじゃないか」
「え…?」
「自分にとって数千数万の喝采や感謝なんかついでで、自分が大切にしたい人の幸せや喜びの方がずっと価値がある。だから顔も名前も知らない数千数万の人間よりも、自分が大切にしたい少数の人のために必死に生きたい。もし俺がお前の今の立場だったらこう答えるけどお前はどうだ?」
遊路の答えは一見すると大勢を無視したとんでもない我が儘と捉えられるが、ある意味では人間の真実であるかもしれない。誰もが万人を救える英雄ではなく、人間一人が守れるものなどたかが知れている。しかしだからこそ自身の手に届く大切なものは全力で守り抜く、その他はついでで助けられれば助ける、それが遊路のスタンスなのである。
「…私も…そう思いたい…」
そんな遊路の考えを聞いて、邪神の威圧と事の重責で怯え冷えきっていた遊希の心に暖かい火が灯り、遊希は立ち上がった。
「よし、元気は戻ったみたいだな。それじゃあもののついでだ。日本を救ってみるか」
遊希が立ち直ったとみるや、遊路のまた突拍子もない発言が飛び出した。
「え、そんなこと出来るの?」
「ああ。たぶん俺達にはチャンスが残ってる…だろ?時崎さん」
「どうかしらね」
「貴方の行動を見れば分かるさ。遊希の強奪で済むならRIMシステムでモンスターをけしかけて俺達を皆殺しにして奪えば目的は達成される。けどそうしないのはただ遊希を奪うだけじゃいけない、懐柔させるなり屈服させるなりして邪神を受け入れさせなければいけないんじゃないのか?」
「…勘のいい子ね」
遊路の推測を聴いて加菜恵は不機嫌に皮肉を漏らしながらデュエルディスクを取り出した。
「遊希を屈服させるには邪神を以て打ち負かす…って事か。けど世界クラスのデュエリスト相手じゃ厳しいと思うがな」
「そうね。けどかつてデュエルのコーチをしてた身よ。舐めないでもらいたいものね。なんなら貴方も加わってもいいのよ」
「デッキと世界は違えども一応チャンピオンの身なんだが…そっちこそ舐めすぎじゃないか?」
「そんな態度、邪神の前でも続くかしら」
「…後悔するなよ?行くぞ遊希!」
「ええ!私の運命はこのデュエルで、私自身で決めるわ!」


遊希の身と日本を賭けたデュエルは、今、まさに始まる。








次回予告

詩織「RIMシステム…モンスターを現実化させてしまうとは恐ろしい技術です…」
綾香「でも、実際にモンスターに触れるっていうのは良いかも。私だったらスターダストの背中に乗って空を飛んでみたい」
遊希「技術は使いようって事ね」
遊路「そうだな。神にも悪魔にもなれる兵器…その威力が自分達に返ってこないようにしないとな。という訳で今回の次回予告はRIMシステムで呼び出したモンスターにやってもらおう」
美羽「うわ、技術の無駄遣い」
鎧武者ゾンビ「あー、あーあ、あーああ、あーあ」
遊路「何言ってるか分かんねぇよ!次、OCGで見た目・実力共に人気のあの娘!」
閃刀姫-レイ「次回第13話『Wicked God』。見てくれないとアフターバーナーだからね!」
遊路「ふぅ…。もう次回予告全部モンスターで楽して良いんじゃない?」



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ギガプラント
この世界に来た理由がキチンと描写されました。遊戯王らしくカードを使った悪者ですね。三邪神とはまた懐かしい。遊路らしい理屈で最終決戦…的なものに移行です。これはつまるところの主人公タッグか……? (2019-08-01 23:26)
ター坊
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
事故によって吹き飛ばされてきました。
加菜恵という悪役ですが、人類の不死化を狙うなど一概に悪と言えるか微妙なのかも?
やはりボス枠としては邪神は適任ですね。当然オリカ補正でパワーアップしてます。次回はコラボ企画らしく夢の主人公タッグですので乞うご期待。 (2019-08-02 07:18)
ヒラーズ
久しぶりに読んだ!
さておき、次回は夢の主人公タッグ、楽しみです。 (2019-08-02 08:02)
ター坊
ヒラーズさん、コメントありがとうございます。
まぁ約1ヶ月ぶりですからね(笑)
今も暑いので集中力が…(泣) (2019-08-02 08:47)
光芒
ここに来て一気に物語が進んだ感がありますね。理由も無しに遊路たちが飛ばされるわけもなく……しかし、精霊の力をその身に宿してしまったがために遊希はあちらこちらから狙われるようになりましたね。一体誰のせいだか(すっとぼけ

そして今度の敵は邪神。そういえばこっちのサイトで書いていた作品では取り上げていませんでしたね。カードとしては古い部類に入りますが、三幻神を模したカードであるだけにその力は絶大。精霊であるだけにその力の恐ろしさは遊希が一番わかっているようです。ただ、ここにきて遊路の存在が勇気を力づけてくれているのは大きいですね。さてこの二人がどのようにして戦うのかが楽しみです。
(2019-08-03 23:12)
ター坊
光芒さん、コメントありがとうございます。
前半は異世界交流みたいなのほほんとした展開だったのでいきなりシリアスになりましたね。
何気にまだ邪神等の幻のカードについては未登場だったのでボスキャラとして出させて貰いました。それに邪神ってRPGのボスっぽくてよくないですか?
メンタル弱めな遊希と色々冒険を経た遊路のコンビのデュエルは次回繰り広げられるのでお楽しみに。 (2019-08-03 23:39)

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