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HOME > 遊戯王SS一覧 > 9 Show time

9 Show time 作:ター坊



「今日はカツ丼定食だ」
昼休みの学食で遊路は意気揚々と定食のお盆を席まで運ぶ。
「遊路、こっちこっち」
事前に席を取ってくれた美羽と遊月、さらには遊希達と朱里那・スティーブンが周りを固める。端から見れば実力と見た目の両面で豪勢な顔ぶれである。遊路も合流してさて昼食だ、という時である。
「風峰くん?」
遊路が誰だろうと呼び声の方を向くとそこには一度見たことがある顔があった。
「貴方はあの時の」
その声の主は演劇部の部長であった。
「良かった…学食でよく見掛けるって話は本当だったんですね」
「ええ、よく利用してますし…、って何か用ですか?」
「実は…」
「あ、立ち話も何ですし先輩も一緒に食事をしながらどうです?」
「え、それじゃあ…」
部長は遊路の向かいの席に座った。
「それで御用は?」
「…以前見た風峰くんの演技力を見込んで頼みたいことがあります。実は演劇部で困ったことがあって…」
部長が語る演劇部の実情は確かに深刻であった。今週の日曜日に地域の交流祭があり、その交流祭に演劇部も出し物としてヒーローショーをやるのだが、そんな本番直前で演劇部のメンバー数人がインフルエンザにかかり参加できなくなったのだ。元々演劇部のメンバー数も限られており、音響などの裏方は兼任でなんとかなるがショーに出る演者2人はどうしようもない。そこで部外者ながらも見学の時に名演技を見せた遊路に助っ人を頼んだのである。
「なるほど…。俺は全然構いませんが、どんな役をやれば良いんですか?」
「…うっ」
部長は若干渋りながらも鞄から丸まった本を差し出す。
「台本ですね」
「ええ…、それで風峰くんにやって欲しいのが…こんな役なんだけど…」
部長が台本を開き、台詞の部分を指差す。
「シーフード怪人三兄弟…ジャアクロブスター?」
「…今回のショーの悪役三人衆の1体なんですよ…」
役柄の名前を読んだ瞬間に何となく気まずい雰囲気が流れる。何故ロブスター?三兄弟って残りの2体もこんな感じなの?第一ネーミングのシーフードって何?…などなどツッコミどころが満載でなんと返したら良いかその場の全員が戸惑ってしまう。
「…ごめんなさい。そうよね…悪役の上にこんなダサい怪人なんて嫌よね…」
あくまでもヒーローショーは子供向けのため見た目のインパクトと分かりやすさが重要視される。しかしそんな子供っぽいものであるがため、高校生としてそれを全力で大勢の前で演じる事はなかなかの勇気が必要であり、恥を投げ捨てて挑むことになる。さらに悪役という都合上、正義の味方に勝つことは絶対に許されないため負け確定の嫌われ者役は気分的には受け入れ難いものである。部長も脈無しかと諦めムードで明らかに声が小さくなっている。
「…いえ、引き受けます」
しかし遊路は少し考えた後、良い意味で部長を裏切って承諾する。
「よ、良かった…ありがとうございます!!」
「ちょっ、正気なの!?」
「ん?変か?」
「いや、その…遊路が良いなら良いんだけど…」
遊路のあまりにまっすぐな顔に美羽も恥ずかしい役を止めるのをやめた。
「そういえばもう一人の演者が欠けてると仰っていましたが…」
「あ、はい。進行担当のお姉さん役ですけど…」
「進行担当…あー、いるじゃないですか。人前に出ることに慣れてて声の通りが良さそうで、なおかつ宣伝になるような有名人が目の前に」
そう言う遊路の視線は遊希に向けられる。
「へっ?私?いや、どうして?」
「さっき言った通りだけど?」
自分が指名されたことに遊希は目をパチクリさせてしまう。
「嫌よ。そんな客寄せパンダみたいなこと」
「有名だからこそだろ。そんな有名人も参加するとなれば祭も盛り上がるだろうし」
「でも…」
遊希は元々人前に出て自分をさらけ出すような事は苦手で、デュエル大会などの勝利インタビューもローテンションで答えてしまう。そのため人によってはクール・カッコイイを通り越して淡白・冷めた人間という印象を持たれてしまうこともあるのだ。遊希自身もそれは自覚しており、自分にはそんな役目は無理だと断る。しかしそこは遊路、次に意地の悪い切り口で遊希を落としに掛かる。
「…うーん、でも子供のためのヒーローショーだぞ?メンバー不足で中止となったら子供も悲しむと思うなー」
「えっ…」
「天下の名デュエリスト天都遊希が子供の楽しみをぶち壊すような事して良いのかなー」
「それは、その…」
何だかんだ言っても遊希は根が優しい娘である。演劇部の為からそれを楽しみにする子供達の為と対象をすり替えて遊希の善を揺さぶりつつ、遊路は更なる一手を打つ。
「それに別に水着とかの恥ずかしい衣装じゃないだろうしさ。進行担当のお姉さんってどんな衣装ですか?」
「あ、はい。デザイン画がこんな感じです。元々進行をやる筈だった子も天都さんと似た体型ですからサイズ的には大丈夫かと思います」
部長は台本に挟まっていた衣装のラフスケッチを見せるが、フリフリミニスカート以外別に破廉恥なところはない。これを破廉恥と言ったらアカデミアのスカートの制服も破廉恥ということになる。
「綾香はどう思う?」
「え、そうね…これを着た遊希か…うん、可愛いと思うわ。これも経験だと思ってやっちゃえば?」
「綾香まで…」
綾香ならばきっと衣装の可愛さから悪ノリで遊希を推してくれるハズ、そして親友からの進言であれば遊希も最初ほど拒否を示さないハズ、遊路の読みは見事的中したのである。
「あの…天都さん、お願いします」
「…はぁ、分かったわよ」
大きな溜め息をつきながらも遊希は折れた。




遊路と遊希は悪役と進行役を引き受けたその日の放課後から演劇部の練習に加わった。練習期間はあと6日ということで部内の熱の入りようが違う。幸い、短時間の子供向けヒーローショーということで1つ1つの台詞は短く難しい言い回しもないので、遊路も遊希も台本を覚えることに苦はなかった。
ある練習終わりの時。
「お疲れ様。ほらコーヒー」
「気が利くわね」
遊路が缶コーヒーを2本持って椅子に腰掛けて休む遊希の隣に座る。
「…ねぇ遊路」
「ん?」
「何で私を誘ったの?遊月さんや美羽さんでも良かったんじゃないの?」
「うーん。ぶっちゃけ最初は悪ふざけというか悪戯心というか…」
「はぁっ!?」
「でも話が進むにつれて、祭を盛り上げるために有名なお前を引き込まなきゃって思い始めてな。やっぱ祭を盛り上げるには有名人出すのが手っ取り早いだろ」
「はぁ…。どうして祭を盛り上げる事にこだわるのよ?」
「なんて言えば良いのかな…。俺達がやったことを見た人が笑って楽しくなって、なんかこう…明るい未来に向かって歩けるように前向きにしたい、って感じか?…いざ言葉にするとなんか難しいな」
遊路がこう思う経験は遊路の世界でのデュエルモンスターズの世界大会・デュエリンピックで優勝した後である。遊路は優勝すれば賞金が入って給与も上がり、遊月と美羽と大和との生活が安定してより幸せになれるという風に考えていたが、優勝後に事務所に届いたファンレターで自分のやった事の影響力を知ることになった。
ある男の子からは―僕もデュエリストになっていつか風峰プロに挑むという夢を持った―
ある母親からは―手術を怖がる息子が風峰プロのデュエルを見て勇気を貰い手術を受ける気になって難病を克服した―
あるプロデュエリストからは―同年代の風峰プロの優勝を見てまだプロを諦めるのは早いと希望を持てた―
等々、自分のデュエルが夢や勇気や希望に繋がると遊路はひしひしと感じたのだ。それを咄嗟に言葉に表現しようとするが、何処か拙く、果たして遊希に伝わるのか?
「…ううん。なんとなく言おうとしてる事は分かるわ」
どうやら伝わった。遊希は遊路の曖昧の説明でも心情を察してくれ、そこから怒る事はなくなった。






日は過ぎて交流祭当日。会場には色んな露店が立ち並び、陽気な音楽が流れる。ヒーローショーは午後1時からなのでその40分前までには戻るようにと演劇部から伝えられた遊路と遊希はそれまでの間、みんなと屋台を廻ることにした。が、予想以上の賑わいで全員が散り散りとなってしまった。




美羽+千夏+スティーブン
「ちょっと!スティーブン背が高いしみんなのこと見えないの?」
「スイマセン!人ガ多スギテ ドレガ アニキカ全然分カラナイデス!」
スティーブンの長身を以てしてもはぐれたみんなを探すのは難渋するようである。
「別に時間になったらヒーローショー見に行くしさ、自由行動で良いんじゃないかな。電話も来ないし、きっとみんなそれぞれで楽しんでいるんだよ」
「そう言えばそうね…」
美羽の進言に全員を探し出すと息巻いていた千夏も冷静さを取り戻す。
「じゃあ私たちも廻りましょ!」
そこら辺の切り替えが早いのも千夏である。3人の中で一番小さいがグイグイ引っ張り、雑踏の中へ紛れt
「ギャー!人多ーい!!」
雑踏の中に呑まれ、千夏は消えてしまった。
「モウ見エナクナリマシタ…」
「迷子センターで探してもらったら怒るかな?」




遊月+エヴァ+朱里那
「すっかりはぐれてしまいましたネ」
「まぁ良いじゃねぇか。オレ達はオレ達で楽しもうぜ?」
「そう…ですね。遊路様も美羽様も会場にはいる訳ですし、いつか合流出来ますよね」
遊月・エヴァ・朱里那の3人は他のメンバーを探す事はついでとして露店を廻ることにした。
「милый!これが本物のキンギョですネ!」
歩いてる途中、エヴァが思わず母国語で可愛いと食いついたのは金魚掬いである。エヴァもプロデュエリストという職業柄、豪邸に招かれて和風庭園の池や水槽で飼われている1匹数十万する金魚は見たことがあるものの、どれも大きくでっぷりしていてあまり可愛いとは思ってなかったのだ。
「お、綺麗な嬢ちゃん達だ。やってくかい?」
「金魚掬いか。腕が鳴るぜ」
「やったことがないから楽しみです」
露店のおっちゃんに誘われて3人はお金を払ってポイ2本と水が張ってあるボウルを受け取り金魚を狙う。
「Oh…すぐに破れちゃいマス…」
「ハッハッハッ。外国の嬢ちゃんには難しいかもな」
エヴァは金魚を追い回す内にポイの和紙をすぐ破いてしまい、あっという間に2本を消費してしまった。
「ほっ、よっと!」
「なるほど…こう、するのですね」
「おお。大したもんだ」
朱里那は手慣れているのか1本目で金魚を5匹、遊月は1本ダメにしたもののコツを掴んで1匹2匹とボウルに入れていく。しかし、3人が金魚掬いに夢中になる中、後ろから不穏な男の手が迫っていた。この時エヴァは迂闊にも自分の斜め後ろに鞄を下ろして金魚掬いに興じていたのだ。男は露店のおっちゃんの視線に気を付けつつ、エヴァの鞄に手を伸ばす。音を立てぬように鞄をそっと掴み、去ろうとした瞬間だった。
「お待ちなさい」
何かの気配を察した遊月が咄嗟に男の腕を掴んだ。
「オウオウ。こんな時間からオレのダチのモンを置き引きたぁ、いい度胸してんなオイ」
遊月の動きに気付いた朱里那も遊月が掴んでいるのとは反対の肩を握り潰すような強さで掴む。そんな二人に絡まれて置き引きの男が無事な訳がない。
「ご協力、ありがとうございました」
しばらくして遊月と朱里那の活躍で置き引き犯は御用となり、駆けつけた警察官に連行された。どうやらエヴァの前にも数人から注意が逸れている隙に財 布やら鞄やらを盗んでいたようで、みっちり絞られるらしい。
「二人ともありがとうございマス」
「いいえ。友人なのですから当然の行いです」
「応さ」




遊路+詩織
「こんなに混むんだな」
「私も初めて来たんですけど、あっ!」
「おっと!」
人混みに揉まれながら歩く遊路と詩織だが、人にぶつかって詩織がよろけて転びそうになるが、遊路がグイッと詩織の腕を手繰り寄せて転倒を防いだ。
「…あ、あの…」
「あー。でもはぐれても面倒だし…服の裾を掴むのなら大丈夫そうか?」
「は、はい…」
端から見れば腕組みするカップルという図を恥ずかしがった詩織の気持ちを尊重しつつ、安全のためにと遊路は服が伸びるのを覚悟でシャツの裾を掴ませた。
「それにしてもこれじゃ食べ歩きも出来そうにないな。祭会場で食べる焼き鳥やチョコバナナ好きなんだけどな」
「そうですね。私もリンゴ飴とかが」

ドンっ!

「おっと、すいまs」
遊路が誰かとやや強めにぶつかってしまい謝ろうとした瞬間、蛇に睨まれた蛙となる。遊路を見下ろす高い身長で金髪の明らかにヤンキーかそんな類いの男性がいた。
(あ、やべぇ奴に絡まれた…)
一方でそのヤンキー、名は悟志というが遊路とは違う衝撃を受けていた。
(し、し、し、詩織にと、とうとうかかkkk彼氏がぁ!?)
実はこの悟志、こんな形(ナリ)だが詩織の実の兄である。
(お、落ち着け!詩織が選んだ男だ!きっとまともな男…いや、詩織はお人好しだからそこが災いして騙されている可能性も…!だがここで邪険に扱えば妹に嫌われ…うぉぉぉっ!!)
妹が見知らぬ男を連れて祭会場にいるという混乱とショックを隠しきれないのか、悟志の体は少し震えていた。
「兄さん!?兄さんもお祭に来てたんですか?」
「え、詩織のお兄さん?」(助かった…)
「お、おう…」(お、落ち着け!兄として妹の前で無様な姿は…ってコイツ今下の名前で呼んだのか!?ということはやはり…)
(とりあいず挨拶はしとかないとな)「初めましてお兄さん。私は」
「まだお義兄(にい)さんと呼ばれる筋合いはねぇ!!」
「ええーっ!?」



遊希+綾香
「遊希…ダメ、そんなに強くしたら…」
「大丈夫よ。小刻みにやってるから」
「無理…壊れちゃうって」

パキッ

「あっ!」
「ほら~」
「うぅっ…」
遊希と綾香はみんなから連絡がないと各自で楽しんでいるんだと判断し、自分達も露店で見かけた型抜きに興じていた。ただ遊希はどちらかと言えば不器用な方で、景品が最良だからと難易度が一番高い昇り龍を選び、角の部分で割れてしまったのだ。
「よりによって一番難しいの選ぶんだから。こういうのは手堅いもので…よし、出来た」
綾香は難易度が低めの猛虎を選び、見事に完成させた。
「おめでとうございます。こちら賞金1000円と景品になります」
型抜き屋のお姉さんが封筒と小袋を渡してくれ、綾香は満足そうに、遊希はややふてくされて店を出た。
「遊希どうしたのよ。このあとステージがあるって言うのに。そんなに景品が取れなかったのが悔しいの?」
「…だって昇り龍の景品の中に綾香が欲しいって言ってた電子辞書があったから…」
「えっ?」
綾香はふと自分の発言を思い起こす。
(うーん、なんか中間テスト前の勉強の時、そんな事ポロっと愚痴で言ったような…)
言ったであろう本人ですら曖昧なのに、遊希はそんな些細な会話を逃さず綾香のために頑張ってみたのだ。
「ありがとう。…でも出来たとしても必ず当たるとは限らないわよね?」
「あっ…。言われてみれば…そうね」
「全く…」
どうやら遊希は綾香を喜ばせようという一点に集中しすぎて、細かい部分は考えていなかったらしい。
「…そう言えば何を当てたの?」
「えっと…」
綾香が小袋のリボンをほどいて中身を確認する。
「…ねえ遊希」
「ん?」
「そんな電子辞書なんて高いものじゃなくても私へのプレゼントはこれくらいで充分よ」
綾香が小袋から取り出したのは革と紐を組み合わせたブレスレットが2つ。飾りとしてハート型のエンブレムがあり、それぞれに青とピンクのストーンが埋め込まれている。ペアルックとしてデザインされたものであろう。それを二人は仲良く手首に着け、足取り軽く次の露店を探した。










各々がそうやって楽しんでいる内に時間は1時目前となっており、ヒーローショーが行われるステージの前には既に人だかりが出来ていた。出遅れた感はあるものの、綾香達は後方の席に陣取った。
「ここなら見えるわね」
「はい。でも遊希さん、大丈夫でしょうか…」
「遊路…あの役どうする気なんだろう…」
実は綾香達は遊路と遊希の練習風景を見たことがない。演劇部からの当日までのお楽しみとして伏せられていたのだ。だから二人の衣装の詳細も役の仕上がり具合も全くの未知で、良く言えばドキドキワクワク、悪く言えば不安しかなく、ソワソワが止まらない。
ピンポンパンポン「午後1時より、Aステージにて、デュエルアカデミア・ジャパン、演劇部によるヒーローショーを開催します。間もなく始まりますので、ご観覧されたい方はAステージにお越しください」
会場にアナウンスも流れ、演じる訳でもないのに綾香達の手にも汗が滲む。

ビー!

開始の合図のブザー音が鳴り、ステージ上に人が出てくる。
「会場のみんなー、こんにちはー!!」
「「「 こん にち はーー!!」」」
遊希である。普段では絶対着ないようなフリルが付いたプリーツスカートに正義の防衛隊隊員を意識したようなジャケットの衣装で、テレビで見るデュエル大会の開会宣誓よりも活発で大きな声と身振りで子供達に挨拶をする。
「フフッ…何あれ」
「こんな遊希レアよね。撮っとこ」
いつもの遊希を知っている分、そのギャップは面白おかしく、千夏と綾香は写真や動画を撮影しようとスマホを構える。
「はーい!とっーても元気な声ですね。私は、環境防衛隊の新人隊員のユーキって言いまーす!今日はみなさんに、環境を守るための色んなルールを教えるために、やってきましたー!!」


「ふ は は は は は !!!」


突如遊希の声をかき消すような聞き覚えのある高笑いが会場に響き渡る。
「だ、誰!?」
遊希が狼狽えると重いダークな曲調のBGMが流れ、怪人が姿を現す。
「はーはっはっ!俺様はシーフード怪人三兄弟、長男のジャアクロブスター様だロブー!!」
遊路である。全体のフォルムとしては『ザリガン』を黒く染めた着ぐるみで、出ている素顔は模様がペインティングされており、声はエコーが掛かってより怖そうな印象を与える。
「遊路…」
「あんな…感じなのですね…」
語尾がロブのロブスター怪人を演じる自分の彼氏を見て美羽と遊月は何を想うのか、形容し難い表情でステージを見守る。
「ワイはシーフード怪人三兄弟次男、ワルクラーケンや!!」
「アタイはシーフード怪人三兄弟三男、カッキーナよ~ん♡」
強気なロブスター長男・関西弁なイカ次男・オネエが入ったカキ三男、悪役の癖が強い。
「あ…貴方達は確か、世界中の海を黒く汚すブラックシー海賊団の三兄弟幹部!!どうしてこんなところに!?」
「はーはっはっ!知れた事ロブ!今度は、この国の海を黒く染めてやる為だロブ!手始めに、この会場の子供をさらってブラックシー海賊団の仲間にしてやるロブ!!」
「いってらっしゃ~い、カキトクーン♡」
カッキーナが手を挙げると何処からともなく牡蠣の貝を被った戦闘員が出てきて会場の子供達に向かう。
「やめなさい!」
「うるさいロブー!!」
「きゃっ!!」
それを止めようと遊希が駆け寄るがジャアクロブスターの腕の鋏で押されオーバーに転んでしまう。
「わ、私じゃどうにもならない…みんな!!大声でヒーローを呼びましょ!!せーの!」

「「「ヒー!ロー!!」」」

遊希の号令に合わせて子ども達が割れんばかりの声で叫ぶ。
「無駄ロブ!ブラックシー海賊団に逆らって助けに来る奴なんかいないロブ」


「それはどうかな?」

ジャアクロブスターの嘲りを遮り響く凛とした声。そしてBGMが快活なものへと変更される。
「だ、誰だロブ!?」
「正体見せんかい!」
「とう!!」
その声の主は舞台後ろの薄い壁を殴り破って名乗りを挙げた。
「燃える赤き闘志!ノヴァ、ヒート!!ショータイムだ!!」
赤いヒーローが熱い口上と決めポーズと共に参上した。さらに
「とう、はっ!!凍てつく青き裁き、コールドゼロ!!さぁ、お前の罪を数えろ」
バック転の連続から決め台詞をクールに決めた青いヒーロー。
「吹き荒れる緑の嵐!グレート、ハリケーン!!俺、参上!!」
ブルーゼロとは違う方向から飛び込み前転で登場する緑のヒーロー。
「3人揃ってデュエルと地球の平和を守る正義のHERO!!D・HERO(デュエルヒーロー)!!デュエレンジャー」
正義の味方が3人揃い、シャキーンという大音量の効果音と共にポーズをバシッと決めた。
「おのれ、俺様達の邪魔をするとは生意気ロブ!!」
「カキトクーン達、やぁっておしま~い!」
さて、ここからがショーの見せ場、ヒーローと怪人が入り乱れての戦闘である。
「はっ、やっ!!」ビシッ!バシッ!
「カキィィ!!」
パンチやキックで戦闘員を蹴散らすヒーロー達。
「俺様のハサミ、喰らうがいいロブ!」
「ワイの腕ムチ、なめたらケガするでぇ?」
「くっ」ボフッ
「のわっ!」ビシッ
ジャアクロブスターとワルクラーケンがハサミと触腕で襲い掛かり、ノヴァヒートとグレートハリケーンが押される。
「行くわよ~ん、オイスターボム!!」バチバチ
カッキーナがボール状のものをヒーロー達に投げるとパチパチと火花が爆ぜ、煙がモウモウと上がる。
「くっ…」
シーフード怪人三兄弟に苦戦するデュエルヒーロー達。すると遊希が
「大変…!会場のみんなぁー!!元気一杯の大声でデュエルヒーローを応援してーー!!」
「デュエルヒーロー、頑張れー!」
「負けるなー!!」
マイク越しで叫ぶ遊希に呼応して会場の子供達のテンションも最高潮、立ち上がりながら応援を絶叫する。
「みんなぁー、応援ありがとう!!行くぞ!コールドゼロ!グレートハリケーン!!」
「ああ!」
「おう!!」
「な、なんでやねん!」
「急に強くなったわよ!?」
「どうなってるんロブ!?」
子どもの声援を受けたデュエルヒーローはパワーアップし、シーフード怪人三兄弟を格闘ラッシュで圧倒する。
「トドメだ!」
「ふっ、はっ!」
「「「ジャスティス、トリプルキーーック!!」」」
「ぐああっ!!」
デュエルヒーロー3人の飛び蹴りがクリーンヒットし、派手な効果音と共にシーフード怪人三兄弟が吹っ飛ばされる。
「くっそ~っ!!覚えてろロブ~!!ブラックシー海賊団は不滅ロブ~!」
悪役らしい負け惜しみと共に、ジャアクロブスター達はステージ上から去った。
「ありがとう、デュエルヒーロー」
「いいや。俺達だけでは危なかったさ」
「俺達が頑張れたのはユーキとこの会場の子ども達のおかげだ」
「みんな、改めて応援ありがとう!!」
こうして演劇部デュエルヒーロー・デュエレンジャーは大盛況の中で幕を閉じた。





綾香達は舞台を終えた二人を労おうと屋外に設置されたプレハブ小屋の控え室に訪れた。
「遊希、こんにちはー!」
「部外者なら出てってくれるかしら」
ショー冒頭の遊希の挨拶を真似ておちょくる綾香を遊希は冷たい塩対応であしらう。
「遊希様そう仰らずに。屋台のものを差し入れに持ってきましたのでどうぞ」
「そう。遊月さん、ありがとう」
遊月が持つ焼き鳥や焼きそばが入ったパックをまとめたビニール袋を見て遊希は機嫌を戻した。
「ああ。来たのか」
「遊路、お疲れ様」
「おっ、ありがとう」
奥から出てきた遊路はまだ着ぐるみを脱いだばかりなのか頭にタオルを巻いたまま、メイクも落としていないままの状態であった。そんな遊路に美羽は冷えたスポーツドリンクを渡し、遊路はそれを開けてゴクゴク飲むとプハッと気持ち良く一息つく。それは一つの大仕事を終えた大人がジョッキビールを一気飲みする様にも似ている。そんな快い表情の遊路に美羽は当初から気になっていたことを訊いてみた。
「ところでさ。なんでその…悪役なんか引き受けたの?」
「そりゃあ…悪役がいないとストーリーが盛り上がらないだろ?」





次回予告

遊路「はい。それではデュエルモンスターズでしりとり魔法カード編。しりとりのリからだから…『リチュアの儀水鏡』」
遊希「う…う…『ウィルスメール』」
美羽「る、るー…あっ、『ルーレット・スパイダー』伸び線は除くからダね」
エヴァ「ダ…デスネ…オゥ!『ダイナミスト・チャージ』!!」
遊月「じ、じ…次回、遊戯王ノーレコード・メモリー第10話『Family time』、絶対に見て下さいませ。さぁセです」
綾香「ちょ、そこで宣伝はズルくない?」




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ギガプラント
いつもは無双してる遊路先生が小者感ある悪役になる珍しい展開…。こりゃまた新鮮。
ザリガンという名前だけでもう懐かしいですw
微妙にOCGのモンスターっぽい名前なのが面白いです。
次回予告のネタも王道ながら好きです。 (2019-06-15 08:35)
ター坊
ギガプラントさん、コメントありがとうございます。
しかもノリノリでやっちゃうという。
実際デュエレンジャー及びシーフード怪人三兄弟はOCGの既存のカードをベースにしている設定です。
意外と遊戯王オンリーのしりとりは難しく、遊希のウの段階で詰みかけました。 (2019-06-15 09:37)
光芒
書いた自分が言うのもなんですが、1年生の時の遊希たちはこの手のイベントを楽しんでいる余裕なんてなかったんですよね。そう考えてると自分の方で描かなかった合間で青春を謳歌できているようで嬉しかったです。
遊希がヒーローショーで司会を務めた経歴は自分の作品でも使えそうです。遊大によるからかい的な意味で。 (2019-06-15 12:06)
ター坊
光芒さん、コメントありがとうございます。
まぁ一般的な高校1年生は事件解決したり精霊界に渡って冒険したりしませんもんね。
ちょうど1年間の空洞があったので、そこで遊希達の青春を妄想いやいや想像した結果の1つがコレです。
司会姿の遊希の写真も使えそうです。 (2019-06-15 13:21)
ヒラーズ
これはすごいw

小者役になれる遊路はホント新鮮ッスね。 (2019-06-16 22:12)
ター坊
ヒラーズさん、コメントありがとうございます。
それぞれの仲良しイベントが欲しかったのでこんな形に。
主役が雑魚い悪役とは珍しいシチュエーションですからね。遊路は演技派という設定も活かせたと思ってます。 (2019-06-17 00:10)

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