DRAW:２１２ 限界　作：人喰い

(212)




〜YAGAMI本社ビル〜

入り口を背にして左側の地点。

ビルの屋上に根をはりそびえ立つ『神星樹』ーーーその周囲にに空いた“歪み”を通して神星樹の内部へと侵入すべく、決闘機兵は起動音を響かせながら瘴気の中を飛んでゆく。

ーーーーそこに、一閃。

機兵「ーーー！！？」

音も無く振り抜かれた一刀は闇を切り裂き、機兵の右脚に装備された飛行装置を両断した。


？？「これでもう満足には飛べませんーーーー」

二分され、地上へと落ちて行く機片を横目に、空を駆ける侍ーーーーー『時枝 小次郎(ときえだ こじろう)』は静かに口を開く。


小次郎「ーーーーー覚悟……ッ！！」


きめ細やかな濃紺のポニーテール。額には白い鉢巻。中性的な顔立ちでありながら、その瞳に宿るは一匹の“修羅”ーーーー

機兵「……ッッ……」

やがてバランスを保てず堕ちてゆく機兵。
その先で待ち受けるは、青龍抜闘術の継承者ーーーー『東雲 竜貴(しののめ りゅうき)』。


竜貴「ーーーーナイスだコジロー…ッッ！！
これで正々堂々デュエルができるな！！ポンコツ共！！」


決闘盤を構え、堕ちてくる決闘機兵を指差しながら竜貴は言い放つ。
それを受けた機兵は地上に降り立ち、ヘイトが竜貴に向いたのか、よろめきつつ決闘盤を構える。

小次郎「……竜貴殿！ 動きからして、その機兵はただの量産機のはずですが、くれぐれも油断は禁物です！ お気をつけて…っ！」

小次郎も機兵に遅れて着地しつつ、竜貴に一言かけると、竜貴は拳を突き出して笑顔で答えた。

竜貴「…わーってる…！ そっちもヘマすんなよ？」


最後に互いに視線を交わしニッと笑う。
小次郎は忍の如く飛び上がり、次の機兵の元へ。
竜貴は視線を目の前の機兵に戻し、腰を落とし構えを取った。

竜貴「……すーーーっ……」

そして細く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。


竜貴【LP 8000】

機兵【LP 8000】


「「ーーーーー決闘！！！」」















◉遊戯王 Ph.X◉
ーーDRAW:２１２ーー
《限界》
















〜生命の樹 内部・『王冠の間』〜




“白”に染まったその空間にただ一人立ち尽くす男ーーーーマイン。
黒き長髪に漆黒のマント姿が、この空間を包む“白”の中に圧倒的な存在感を放っていた。


マイン「………」


この時マインが感じたのは、１つの“気”が弾ける感覚。
そしてその“気”が、生命の樹に吸収されていくのを悟った。

マイン「……マサカズーーーーー」

自分という主君のために、己の信念を懸けて闘った男の名を口にし、マインはふと天を見上げる。

続き一言。

マイン「…お前という人間が…、俺は最後まで理解できなかった」

なぜ自分のために尽くすのか。
なぜ己以外の誰かのために荒んだ道を歩む事が出来るのか。

他の隊員と比べて明らかに異質で、悪に適さない人間。

それが、宮本真和に対するマインの認識だった。

マイン「……お前が俺という悪魔に何を求めていたのか、今となっては知る術などない。
興味も……無い」

だが、ひとつだけ。

言える事がある。


マイン「ーーーーー今まで、ご苦労だった」


今はせめて、安らかに眠れーーーーー






＊＊＊






【Side:火群】


〜生命の樹 内部・『基礎の間』〜



火群「ーーーーニクス、急ぐぞ……ッ…！！
和泉の元へーーーーー」

死闘の末に真和を撃破し、和泉のいる『美の間』へと向かう火群とニクスだったがーーーーーー


火群「……グッ……ッ！？」


その道中、階段を一段飛ばしで駆け登っていた火群に、異変が起きた。

火群「…………ッッ！！！」

ニクス『……火群……？』

火群の異変を感じ、火群の少し前を飛行していたニクスは振り返る。

火群「……っ……っ…ハァ……ッ…ハァ…ッ！！」

足を止め、酷く疲弊した火群の様子にニクスは血相を変え、すぐに実体化すると火群の元へ駆け寄った。

ニクス「ーーーーホムラ…ッッ！！」

火群「……ッ…ニク…ス……っ…！」

膝に手を付き、なんとか進もうとする火群。
しかしそれ以上足は上がらず、ニクスに肩を支えられ、息絶え絶えに呟く。

火群「……なんで……ハァ…っ……急にーーーーー」

ニクス「…２連続の闇の決闘…、“具象化(トランス)”状態での長時間の活動……。
…更にはライズ召喚まで行ったことで、体力に限界が来たんだ……無理もないーーーー」

今まで気付けずにすまなかった。と、ニクスは苦悶の表情で頭を下げる。

火群「……くっ…そ……ッ……こんな…ところでーーーーー」

ニクス「…今は少し休め。火群」

火群「……！！ でも…っ！！」

ニクス「……これ以上の無理は命に関わる…。
和泉の事が気がかりなのはわかるが……」

火群「……っ…ダメだ……っ…！ 俺は行く……っ…！ 一刻も早く行ってやらないと……ダメなんだ…！！」

ニクスに支えられた肩を振り解こうと右手をニクスの左手首にかける火群だったが、震えるその手にはほとんど力が入っていない。

ニクス「……そんなザマでか…？」

火群「……！！」

ニクス「…こんな状態で行ったところで、和泉のことを救う事などできない……。今は大人しく言う事を聞け、火群」

火群「……嫌だ……っ…俺は行くんだ……！ 和泉を……助けに……！」

聞かず、朦朧とした意識で叫び続ける火群。
真和の話では、和泉が精霊を吸収し終えるには最低でもあと５０分、あまり時間は残されていない。
しかし歩く事すらままならないこの状態で先に進むというのはあまりにも無謀だった。

しかし今の火群にはそんな事を考えられる余裕などはない。
真和の死を目の当たりにし、これ以上の犠牲を出したくない一心。ただ和泉を救いに行くことしか、今は考えられなかった。
気力を振り絞り、火群は右手に力を込めるーーーーー刹那。

火群の左肩を支えていたニクスの右手が、ふと解かれる。

そして直後。

火群の左頬を突き刺す、刹那的な痛覚。

火群「ーーーーッッ」

振り払われたニクスの右掌は火群の左頬に直撃し、その衝撃で火群の身体は右側に大きく揺れ、壁にもたれかかる形となる。


ニクス「ーーーーーバカっっ！！」


同時に放たれたのは、普段の冷静沈着で俯瞰的なニクスからは想像も付かない、なんとも直接的な罵倒の言葉。

火群「……っっ……」

ニクス「…そんな状態で闘うだと……？
ふざけるのも大概にしろっっ！！！
馬鹿も休み休み言えっっ…！！！
いい加減に…しなさい…ッッ…！！」

段々と口調の変わっていくニクスを見て、ホムラは目を丸くしながら口を開く。

火群「……ニク…ス……」

思えば。

ニクスが自分に対して怒りをぶつけるのは、これが初めてだった。

けれど、初めてだというのにどこか懐かしい感覚が、左頬の痛みを通じて全身を包んでいた。
それもそのはずーーーー

火群（そうだ……。
昔は……炎花姉さんによくこんな風に叱られたっけ…）

ニクス「…一刻も早く和泉を救いたいのは私も同じだ…っ！！！
だけどな…っ、ホムラ…！！
その為にお前がボロボロになってまで戦う様を…ッッ…ただ黙って見ているなんて私にはできない…ッ…！！！」

火群「……っ………！」


目元に涙を溜め訴えかけるニクスの姿を見て、火群は思い出す。

火群の姉、市瀬炎花(いちせ ほのか)がまだ生きていた頃ーーーー

火群（…熱があるのに無理して学校に行って倒れた俺を……姉さんは保健室まで背負って運んでくれてーーーーー)


『どれだけ心配かけたと思ってるの！！？』

『今度また無理したら……絶対に絶対に許さないから…っっ！！！』


火群（……保健室のベッドで目を覚ました俺に…泣きじゃくりながらそう言ってくれたんだ………。
…これは……ずっと思い出さないように封じ込めてきた温かな記憶ーーーー）

あの時の記憶と現状が重なり、気づけば火群の頬を涙がつたい、一粒、落ちた。


ニクス「ーーーーホムラ…っ！！
お前の姉……市瀬炎花として言わせて貰う」

火群「…！」


ニクス「お前が和泉の事を大切に思うのと同様に…ッ……いや、それ以上に…っ…！
私はお前の事が大切なんだ…っ！！
……大好きなんだっっ！！！
だからーーーーー」



失いたくーーーーーない。



最後に弱々しく、そう呟いた。

火群「ーーーーっ……」

ニクスの両手は火群の背に回され、ぎゅっと優しく、火群を抱きしめる。

密着する肌。微熱を分かち合う二人。

火群「……姉さん…………」

懐かしい温もりを肌で感じながら、

火群「ーーーーーごめん」

ぽつり、と。
口から出た、謝罪の言葉。

ニクス「………分かれば、いい」

ニクスはそれを受け、安心に満ちた表情で火群の背を優しく叩く。


ニクス「さてーーーーー」

するとニクスは火群を抱きしめていた腕をするりと解き、身体を反転させ顔だけを火群の方へ向けた。

火群「…？」

首を傾げる火群に、ニクスは両手の先をちょいちょいと持ち上げ無言で合図をする。

おんぶの合図だ。

火群「…え……っ…？ はぁ……！？」

火群も思春期真っ只中の男子中学生。
歳上の女性ーーーましてや姉であり共に闘うパートナーであるニクスにおんぶして貰うというのは、流石に羞恥心が許さない。

ニクス「……何を今更躊躇う必要がある？ 早く和泉の元へ行かなければならないのだろう…？
火群の身体を休めつつ先に進むにはこれがベストだ」

火群「……っ…それはそうかもしれないけど……」

往生際が悪い火群にニクスは若干の呆れ顔。
無理矢理にでも背負い込もうとしたところで、ニクスはふと正面を向き直す。


耳をすますと、足音。


カツ、カツ、カツ、と、火群達の目の前の踊り場の先に続く階段から、確かに音は響いてきていた。

火群「……ッ…！」

ニクス「………っ……！！」

ニクスは動けない火群に代わり身構える。

薄暗い階段の先から響いていた足音は、踊り場に出たところでピタリと止まった。

二人はこの足音の正体が仲間の誰かである事だけを願っていたがーーーー火群達の目の前に現れたのは、黒ローブに身を包んだ長身の男。フードを目深に被っている為、薄暗いこの空間では表情も伺えない。

ニクス（……終焉の…焔……っ！！）

火群（…くそ…ッ……こんな時に……っ！！
上層部のヤツか……ッ！？）

焦る二人。
闘えるだけの力は無く、逃げる為の足も無い。

そんな二人を追い込むように、黒ローブの男は一歩、二歩、三歩と足を進め、一言。






「ーーーーー随分と無様じゃねぇか………不死鳥のガキ…」






聞き覚えのある声。

聞き覚えのある口調。



ニクス「……ッ…！！」



火群「…ッ！
お前はーーーーー……ッッ！！」







＊＊＊





時刻は少し遡り、火群が決闘機兵と決闘を開始した頃ーーーー




【Side:栗須】


〜生命の樹 内部・『知恵の間』〜



栗須「ーーーーーみんなとの通信は途絶えちまったし……、どうすりゃいいんだよ…」

呟きながら、携帯型端末『DUEL GEAR』から映し出された神星樹内のマップを確認する栗須。

栗須「…まずはさっさと誰かと合流してぇところだぜ」

現在栗須がいるのは、生命の樹の右上に位置する大部屋、『知恵の間』だ。
辺りは灰色の壁に覆われ、正面には『理解の間』へと通じる道、少し離れた所に下の階層へ繋がる階段が二箇所、見上げた先、天井には『王冠の間』まで行ける通路が広がっていた。

栗須「……上に行くのは…まず無理だろ？ 残るは下か前かなんだけどよーーーーよし決めた！」

こう言う時は即断即決。栗須のモットーだ。
栗須は正面に見える『理解の間』への通路へと向けて一歩足を踏み出した。


ーーーしかしその時。


栗須「……おぅわッ！？」


栗須の右側に突如現れたーーーー黒い渦。

栗須「ッッ！！」

栗須は咄嗟に渦から身を引き、身構える。

栗須「…おいおいおいおいおいなんなんだよこれ……！？」

が、恐怖心を隠しきれず後ずさる栗須。
追い討ちをかけるかの如く、渦の中から現れたのはーーーーー１機の決闘機兵。


機兵「ーーーーー……」

ゴウンゴウンと機械音を響かせながら現れた“それ”を目の当たりにして、栗須の手足が僅かに震え始める。

栗須（…ふざけんなふざけんなふざけんな……っ！！
なんで震えんだよ…俺の身体……ッ…！！）

覚悟を決めてこの地に来た栗須だったが、終焉の焔との戦闘経験は明日人とのチームデュエルを除くと、反帝アリーナでの星奈との決闘一回のみ。その際に痛めつけられた恐怖はまだ完全に消えたわけではなかった。

栗須「……こ、ここ来いよ…っ！ スクラップにしてやらぁ…ッ！！」

栗須は強気に言ってみせる。しかし震えは止まらない。

栗須（……クソ…ッ！！ みんなだって頑張ってんのにーーーーなんで俺はこんなに情けねぇんだよ…！！
止まれ……！！ 止まれ…ッ…！！
止まれよ畜生…ッッ！！！）

迫る機兵、構えられた決闘盤から立体映像が展開される。
もう逃げる事は出来ない、栗須は息を呑み足を止めた。

機兵「ーーーー目標、『コミヤ クリス』。決闘データダウンロード……」

直後、針金細工の様なハッキリとした骨格の決闘機兵は目を光らせながら栗須を観察し始める。

栗須「……！」

機兵「…ダウンロード完了。勝率ハ、99.8パーセント」

栗須「…何だとッ…！」

機兵「ワタシ ハ 瑞希様ノ“意思”ヲ受ケ創ラレタ決闘機兵……型番ハ『MZK-04』……。
ーーーーアナタ ヲ排除シマス」

“瑞希”。

その名前に栗須は眉を寄せる。

栗須「……先輩…」

栗須にとっても憧れの先輩であった柏木瑞希が終焉の焔側にいるという事実を改めて突きつけられたようで、複雑な感情が栗須の胸中を渦巻いていた。

栗須「……」

しかしお陰で、少しだけ冷静さを取り戻す事ができた栗須は、前を向き決闘盤を構える。

栗須（震えが止まんなくても何だっていい……！！ 今は前向いて戦わなきゃ、“日常”は絶対に返ってこねーんだ…ッッ！！）

身体の震えは止まらずとも、意思だけは、まっすぐに。

栗須「……残念だけどよーーーーお前のダウンロードした情報とやらは全く意味ねぇ…ッ…！
超ッッ絶進化したこの俺のデッキが…、それを思い知らせてやるぜッッ！！」


栗須【LP 8000】

機兵【LP 8000】



「「ーーーーー決闘！！！」」




雛鳥の成長が、今試される。





To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:２１３ 栗須の成長





＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙