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HOME > 遊戯王SS一覧 > エピローグ 焔獄と虹彩の輪舞・1

エピローグ 焔獄と虹彩の輪舞・1 作:光芒







 諸悪の根源である悪魔・ジョロキアは遊季都とのデュエルに敗れ、自身がモンスターと化した《Sin Catastrophe Devil》と共に精霊《覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴン》、そして遊季都と契約した悪魔・ラズベリーの手によって完全に消滅した。
 ジョロキアが消えたことで、遊大にかかっていた洗脳は完全に解け、操られた覇王星竜によって紅水晶の牢獄に囚われていた全ての人々が解放された。当然世間はこの悪夢のような出来事に大騒ぎとなったのだが、精霊や悪魔の存在を公にしたところで誰も信じる者などいないだろう。そのため、当時事件の舞台となったネオサイタマ・スタジアムにいた遊路らは火消しに追われることになった。

「あれは新型ソリッドビジョンの暴走が原因です。リアルさを追及したかったのですが、リアルを求めすぎた結果ああなってしまった」

 我ながらなんと苦しい弁明だろうか、と思った遊路であるが、最早この国を代表する世界的デュエリストとしてその名を馳せていた遊路の一声は本人が思っているよりも大きな影響を持っていた。遊路のこの発言で事件は急速に鎮静化し、この世界にはいつもの日常が戻りつつあった。





―――ある二人だけを除いては。





特別コラボ 繋がる世界~焔獄と虹彩の輪舞~ エピローグ





 先述の悪魔・ジョロキアによって拐され、この世界とは異なる別の世界から連れてこられた者がいた。その少年の名は高海 遊大。真紅の髪にルビーとエメラルドをそのままはめ込んだようなオッドアイ、そして見ようによっては少女にも思えるほどの美しい容貌をした少年である。しかし、人間離れした外見をした遊大は人間ではない。
 この遊大の正体はデュエルモンスターズの精霊である《覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴン》というモンスターであり、遊大の髪と同じ色、美しい真紅の身体を持った竜である。
 彼の決断次第では、この世界そのものを消し去ることも―――そんな強大な力を持ちながらも、純粋にして素直な精霊はジョロキアの奸計によって彼の思惑に乗る形でこの世界を破壊し、多くの罪なき命を奪いかけてしまった。だが、その奸計は遊大がこの世界で出会った仲間たちによって打ち砕かれる。悪魔と契約を結んだ心優しい少年・遊季都たちの協力もあってジョロキアを倒した遊大であるが、その戦いが終わると同時に彼は消息を絶ってしまっていた。

「彼……遊大らしき反応を見つけたというの?」

 遊大の恋人にしてデュエルの師匠、同じ学校の上級生でありながら彼と同じデュエルモンスターズの精霊。そんな特異な存在でもある天都 遊希は未だこの世界に留まり続けていた。彼女は精霊としての能力で異なる次元を行き来することができる。遊大を唯一元の世界に連れて帰ることのできる存在であった。そのため彼女としても遊大が戻ってくるまでこの世界を離れるつもりはなかったのである。
 そんな彼女は兼ねてから親交のあったという遊路の家に泊めてもらっていたのだが、一宿一飯の恩を返したいという思いからせめて遊大が見つかるまでは、ということで遊路の紹介したアルバイト先で働いていた。学校が終わった後、遊季都は休憩を取っていた彼女の下を訪ねていたのである。

「は、はい。ほ、ほんの微かですが、そ、それらしき力を……」

 あの出来事から1週間ほど経った頃である。ラズベリーたち悪魔も捜索に加わったことで、遊大らしき力の所在を突き止めることができた。そのことをいち早く伝えたいと思って来たのだが、彼は遊希のことを直視することができずにいた。

―――あー、ごめんね。遊季都くん初心だからさ。そういう恰好に耐性ないわけよ。にゅふふ♪
「……?」

 そう言ってきょとんとした様子で首を傾げる遊希。遊路の紹介したアルバイトというのが他ならぬHoney Angelであり、遊大が精霊の力で女体化して働いていたこともあり、その枠を埋める形で勤めていた。
 Honey Angelの仕事はデュエルが強くなければ務まらないため、遊希にとってはこれ以上ないアルバイトと言えるだろう。しかし、メイドカフェということは当然メイド服を纏うことになる。今の彼女の出で立ちは、銀髪のウィッグにミニスカートのメイド服、そしてフリルのついたニーソックスにはガーターベルトがついていたりと、何処か選んだ人間の趣味嗜好が現れているような有様だった。遊希のプロポーションは自他共に認めるレベルにボリューミーであり、そんな彼女が露出多めのメイド服を着ればどうなるか。それこそ女性に耐性のない遊季都からしてみれば、直視し続ければ噴水の如く鼻血を吹き出してもおかしくはなかったのだ。

「それで、遊大はどこにいたの?」
「えっと、それが……結構近めの場所に……」

 ラズベリーたちによって突き止められたのは、遊季都の家の裏山であった。どうやら日中は精霊の姿で肉眼では確認できないようなところにいるか、スターヴ・ヴェノムの力で別の人間に化けてでもいたのだろう。しかし、夜になると遊季都の家の裏山の方に微弱ではあるが、精霊の力が現れるという。そのため、夜にそこへ向かえば遊大に会える可能性が高いという結論に至ったのだ。

―――まあ、あくまで可能性の話ではあるな。
―――私たちのような……他の悪魔の可能性もある。
―――でも行ってみる価値はあると思うよ?
「そう……わかったわ。確実ではなくとも、可能性があるのであれば、それを試さない理由はないもの」
「あの、僕も一緒に行きます。一応僕の家の裏山なので、道案内くらいはできるかと」
「……ありがとう。正直一人だと心細かったから」

 そんな時、休憩室のドアがノックされる。ドアを開けて入っていたのは、こちらでは同僚となる梓であった。

「遊希さん、休憩時間中なのに申し訳ありませんが、少し早めに切り上げて頂けることは可能でしょうか……? お客様が是非遊希さんとデュエルをしたいと仰っていまして」
「そう。大丈夫、用件は済んだからすぐに向かうわ。遊季都くん、今日はありがとう。早速だけど今夜は大丈夫かしら?」
「はい。僕たちはいつでも大丈夫です」
「では今夜の7時にあなたの家に伺うわ。それじゃ」

 そう言って姿見で服装を整えると、遊希は小走りで店内へと戻っていく。遊希のデュエルが強いのもそうなのだが、クールビューティーな外見の彼女はこのメイドカフェの常連客たちの心をぎゅっと掴んでいた。最もデュエルで勝ちたい、というよりもデュエルで負けた自分を罵って欲しい、という目的で通っている者もいるようだが。

「遊希さん、大忙しなんですね」
「はい。それにしても……何をどう過ごしたらあんなに素晴らしいスタイルになれるのでしょうか……羨ましいですわ」
(白朧院さんもそんなに悪くないと思うけど……って言ったらダメだよね。うん)
―――それを言葉にして出せないから遊季都くんはいつまで経ってもサクランボのままなんだよ……? お姉さんちょっと不安になってきちゃったよ。
(それどういう意味!?)











「あなたのおばあ様、とてもお優しい方だったわね。ご挨拶のつもりが夕ご飯までご馳走になってしまって」
「ばっちゃんは世話焼きですから……」

 そして時間は夜の9時を回ろうとしていた。遊季都の家まで彼を迎えに来た遊希であるが、遊季都の祖母である小町に挨拶をしようとしたところ、ちょうど夕食時だったこともあってか遊希も夕食を共にすることになった。小町からしてみれば、遊希も孫のようなものである。祖父母が孫年代の子どもに料理を振る舞いたがる、というのは世界が変わっても同じことのようだった。

「でも喜んでいましたよ。僕に友達がたくさんできたって」
「……君の経歴は遊路から聞いたわ。色々と大変な目に遭ってきたのね」
「遊路さん結構口軽いですね……確かに昔は辛かったですけど、今ではラズベリーたちや白朧院さん、黒田君もいますし、だいぶ楽になりました。これもみんなのおかげです」

 そんなことを話しているうちに二人は家の裏山の麓に着いた。裏山と言ってもそれほど高い山ではなく、どちらかといえば山というよりも丘に近いものである。そのため、坂道の勾配は緩いので登るのは苦ではないのだが、裏山というだけあって電灯は疎らにしかなく、大小様々な石が散らばった凸凹の山道をなんとか視認しながら歩けるくらいの明るさしかなかった。

「実はここにはばっちゃんの思い出があるんです」
「思い出?」
「ばっちゃんは昔ここを“人生坂”と呼んでいたんです。ばっちゃんのお父さん……僕のひいおじいちゃんがばっちゃんにそう教えたようです」

 かつて遊季都が深く悩んだ時、小町は彼とラズベリーたちをここに連れてきては、自分の幼い時の話をしてくれた。小町が今の遊季都よりも幼かったころのことである。彼女は当時親友だった少女と大喧嘩をしてしまい、あわや絶交という事態にまでなりかけたことがあった。当然それを後悔した二人であるが、年頃の少女らしく素直に謝ることができず、仲直りもままならかった。
 それを見かねたのが小町の父であり、遊季都の曽祖父である。彼は小町とその少女を連れ出しては、夜中であるにも関わらずこの坂を登らせたのだ。もう60から70年ほど昔だ。今以上に暗いこの坂は危険極まりない場所であり、街灯もなかったために小町はそこで転んで足を擦りむいてしまった。
 すると、痛さと怖さで大泣きしてしまった小町をその少女はお気に入りのハンカチが血で汚れてしまうのも厭わず拭いてくれたのである。それを見た小町の父は彼女にこう言い聞かせた。

―――小町、これが人生ってやつだ。前の事や先の事考えすぎるとそうやって足元がお留守になってすっ転んじまうぞ。

 前とは過去の事であり、先とは未来の事である。小町の父はこの坂を登らせることで、二人に過去の事や未来の事を考え過ぎてはならないということ、そして今も大事にし、今自分の隣に寄り添ってくれている人のことを考えてあげること。それを伝えたかったのだ。

「……いい話ね。思えば私も彼も二人きりの時だと結構肩に力を入れてしまうのよね。互いに弱いところを見せたくない、というか」
―――遊希は学校の先輩かつデュエルの師匠、遊大君は後輩にしてデュエルの弟子。それでいて男の子として遊希のことを守りたいってことよね?
「彼がどう思っているかはわからないけど、もし私が彼の立場なら彼女の前ではカッコよくて頼もしい自分でありたいと思う……かな。私たちも……この坂から学ぶことが多そうね」

 遊希は遊大のことを思いつつ、一歩一歩と着実に踏みしめるようにして登っていく。隣を歩く人が転びそうになった時、手を差し伸べられるように。

「……」
「探しましたよ、遊大さん。灯台下暗しってこういうことを言うんですね」

 裏山の頂上に辿り着いた二人を待っていたのは、月明かりだけが照らす中、その場にぼうっと立っていた遊大であった。ここ数日人間らしい生活を送っていなかったからか、焦燥しきった様子の彼は少しやつれ気味に見える。それでも月明かりだけが照らし出している今の遊大は普段の彼にはないどこか退廃的な美しさを醸し出していた。

「遊大さん、みんながあなたを心配しています。いっしょに帰りましょう?」
「そうか。みんなが俺のことを……だったら尚更一緒には行けない、かな」
「どうしてですか?」
「……俺はデュエルモンスターズの精霊。その気になれば世界を滅ぼすことだってできる。そんな力を持った俺が他者の悪意に付け込まれてこの世界を壊そうとしてしまった。俺は……みんなと一緒にいてはいけないのではないか? そう、思ってしまうんだ」
(遊大……)

 遊大が自身の心境を詳らかに明かす中、遊希は何も言わず黙っていた。遊大同様自分も精霊であるために、今回の彼のような事態に陥るリスクもあるからだ。

「……遊大さん。遊希さんが来てくれたってことは遊大さんはいつでも元の世界に戻ることができるんですよね?」
「話聞いていたの? 俺は遊希さんと一緒には……」
「僕は前のデュエルで遊大さんに負けています。こんな僕でも一応デュエリストですから、負けたままサヨナラというのは嫌なんです。だから、僕と今ここでデュエルをしてください!!」








○次回予告

舞原 留奈
「遊大にリベンジマッチをもうしこんだ遊季都。だけど遊大はまえの【オッドアイズ】よりかんせいどのたかい、じっせんむけのデッキをつかってきたぞ!」

国広 陸
「オッドアイズデッキを更に上回る展開力に早くも劣勢の遊季都。でもここで負けるようなお前じゃないよな?」

次回 エピローグ「焔獄と虹彩の輪舞・2」

国広 陸
「遊季都、遊大から学んだことあいつに見せてやろうぜ!」

舞原 留奈
「ふぬけた遊大をたたきなおしてやれ!」







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ギガプラント
遂にリベンジマッチの流れですね。一番熱いデュエルになりそうです。
やはりあれだけのことをすれば精神的打撃は大きいようですね。
ここは遊季都君に期待しましょう。 (2019-03-30 03:12)
光芒
ギガプラントさん
遊季都にとってはリベンジマッチであると同時に遊大との主人公同士のデュエルでもありますね。もちろん彼にとっては絆を深め、大事なことを教わったことに対する恩返しのデュエルにもなっていますが。
遊馬じゃないですが、遊季都先生のメンタルクリニックにもなっているのでお楽しみに!
(2019-03-30 16:20)
ター坊
やった!遊希のセクシーメイドだ!
という冗談はさておき、メイドデュエル喫茶や人生坂の話など色々挟んでくれる辺り、よく読んでくれてるんだなと嬉しく思います。
さてエピローグとしての最終決戦はやはりというかこの対戦カード。楽しみです。 (2019-04-01 21:04)
光芒
ター坊さん
遊希のメイド姿ですが、イメージとしては「アズールレーン」の「シリアス」というキャラクターのものを参考にして頂くとわかりやすいと思います。色々と青少年には刺激の強い見た目に。ちなみにチョイスをしたのは某遊路さんであることは言うまでもないです(殴

>メイドデュエル喫茶や人生坂の話など色々挟んでくれる辺り、よく読んでくれてるんだなと嬉しく思います。
いずれもあまり描写が多いものではありませんが、好きなエピソードなので。もっとあずにゃん見たいですね(無茶ぶり
(2019-04-02 00:31)

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