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第27話:決戦・1~遊希の願い~ 作:光芒
天都 遊希―――その美少女の姿を見た遊季都はまるで時が止まったかのような感覚に襲われた。少し癖がついていながらも美しく長い黒髪にそれを一層引き立てる白い肌、全てを吸い込むかのような深く澄んだ瞳。すらりと伸びた体肢は細過ぎず、太過ぎずという女性としておおよそ理想的なバランスを保っており、胸首から足先にかけても少女とは思えないほどのスタイルの良さを誇っていた。
「あっ、あなたは……」
まだまだ若く、遊路のように色事に百戦錬磨の男ではない遊季都は一目見ただけでその美貌に魅了されつつあった。だが、そんな彼女を見た遊季都はあることを思い出しては彼女を力無く指差した。
「初対面の人間を指差すのは感心しないわね。私の顔に何かついている?」
ムッとした様子の遊希に対して「すいません」と平謝りした遊季都であるが、彼がそのようなリアクションをした理由は彼女の姿に見覚えがあったからだ。それは、以前遊大が遊季都たちの高校にやってきた時の事。遊季都らチャレンジャーZ三人とデュエルをして見事に三連勝をしてみせた遊大は、デュエルで勝利するたびに首からぶら下げていたペンダントを開いて微笑みかけていた。そのペンダントの中にこの遊希の写真が入っていたのである。遊季都たちはこっそり遊大の後ろからそれを覗き見ては、彼を質問攻めにしたものだ。
「もしかして、遊大さんの師匠兼恋人があなたなんですか?」
「!?……ね、ねえ? あなたはどこまで知っているの?」
遊季都のその言葉を聞いた遊希は、すぐにそのクールな面持ちを崩す。絶世の美女と言われても差し支えない彼女であるが、まさか異世界で遊大が自分のことをそんな歯の浮くような言葉で紹介していたとなればそう冷静でなどいられない。最もクールな外見をしながら、感情の起伏自体は激しく、表情がころころと変わるところも彼女のチャームポイントであり、多くの人に愛される理由であった。
「遊大さんに聞いたんだなぁ。遊大さんの憧れの人で、世界的なデュエリストだって」
「そして遊大さんと将来を誓い合った仲であると聞いています。遊大さんと遊希さん……とてもお似合いだと思いますわ」
「もうっ……か、彼はそんな恥ずかしい事まで……」
まるで熟した果実のように真っ赤になる遊希。よもや異世界の年少者にまでここまで露骨に弄られるとは思ってもいなかった。そんな彼女の憤りは離れた場所でニコニコしながら一連のやり取りを傍観していた一人の青年へと向かう。
「……ねえ、やっぱりあなたの影響なの!? あなたがあることないこと言いふらして」
「おいおい俺は何もしていないぞ? 第一お前のことだって遊季都たちには話していない」
―――主様、この者と顔見知りなのか?
「ああ。これで会うのは三度目になるかな」
「ええっ!?」
これまで遊路の顔の広さ、そしてフットワークの軽さには度々驚かせられている遊季都たちであったが、これほどまで驚いたことはないだろう。遊路が言うには、遊希と出会うのはこれで三度目となる。一度目はまだ彼が遊季都たちくらいの歳の頃で、遊路のみが当時一年生の遊希のいる世界へ飛ばされ、遊希に不満を持つ不良生徒たちとのデュエルで彼女と共闘した。二度目は遊季都たちと出会う少し前であり、美羽・遊月と共に再び遊希たちの世界に行っては、彼女の通う学校の生徒としてこの世界に戻るまでを過ごしていたのだ。
「最も、前に会った時以上に色々あったようだけどな」
「……あれから一年、色々あったのよ」
「まあ積もる話は後だ。お前が俺たちの世界に来た理由だが……遊大のことだろう?」
「知っているのであれば話は早いわ。そう、私は彼を……遊大を助けに来た」
高海 遊大行方不明。そのニュースはセントラル校全体を揺るがした。そしてそれは恋人となって数度目のデートを控えていた遊希にとっても例外ではなかった。もちろん彼女がただの人間であったならば、何もできず、ただ彼がいつか帰ってきてくれることを待つだけだったであろう。しかし、今の彼女はデュエルモンスターズの精霊であり、そしてその精霊の持つ力は同じ精霊の力を感じ取ることができる。それが例え、微かに残る残滓であったとしても。
「私は精霊の力で彼が何者かと接触していたということを知った。そして、協力者と共に彼の居場所を探り当てたの。それがこの世界だった……」
覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴンの精霊としての能力は二つ。一つは光およびレーザーや光線、陽光や雷といったものを吸収して自らの力に変える能力。その能力があったからこそ、遊季都を守ることができたのだ。
そしてもう一つの能力が次元の壁を開き、他の世界への扉を開くことができるという能力。彼女のデッキのエースカードである銀河眼の光子竜の効果を元にした精霊の力で彼女はこの世界にやってきた。全ては愛する人を助け出すためだけに。
「でも、まさか彼があんなことになっていたなんて……」
「言っておくが遊大は自らの意志であんなことをしたわけじゃない。あいつは悪魔に操られているんだ」
「悪魔……」
そう言って遊希はポップロックやチャーハンといった悪魔たちを一瞥する。梓の身体を借りて遊季都とデュエルをしたこともあってか、彼女はここにいる悪魔たちが自分と敵対する者ではないことを理解していた。
「遊大さんを操っている悪魔・ジョロキアは自分が壊滅的な打撃を受けた魔界を遊大さん……覇王星竜の力で支配しようと考えていますわ」
「遊大さんは悪魔に操られているんだなぁ」
「ジョロキアは遊路さんや悪魔たちが遊大さんたちの世界を攻め滅ぼそうとしている、と嘘の情報を遊大さんに吹き込んだそうです。それで遊路さんたちこの世界のデュエリストを襲わせたんです」
「最も俺があいつを止めたけどな。一時的なことに過ぎなかったが」
遊季都たちによって、この世界で何があったのか詳しく聞いていく遊希。その話を聞いていた遊希は一言も発さず、ただ頷くだけであった。真剣に皆の話を聞いていたが、その眼は若干潤んでいるのがわかった。ここで何か言ってしまえば、抑えつけていた感情の堰が外れてしまうということのだろうか。
「……彼はとても純粋な人。優しくて、困っている人を見過ごせないタイプ」
遊季都たちからこの世界での遊大がどのように振る舞ってきたのかを聞いた遊希はそう遊大を評した。しかし、純粋というのは決して良い意味のみで語られる言葉ではない。もちろんその言葉の意味合いとしては、素直、人を疑わない、一途と綺麗な意味が多いが、その反面他者を疑わないために馬鹿を見るということでもある。その性根の欠点をジョロキアに付け込まれてしまった。それがこの事件の発端であった。
「でも、故に今回の事態を招いた。デュエルモンスターズの精霊という立場にありながら、悪意のある他者に干渉を許す……まだまだ、未熟ということね」
「手厳しいな、流石に」
「一応デュエルの師匠であり、恋人だから。彼の過ちは私の過ち。でも……」
「……遊希さん?」
「私は……彼のそんな所に惹かれたの。だからこそ、私は彼を助けたい」
もちろんこの世界に来て遊大が来て悪いことばかりが起きたかといえばそうでもない。『虹彩の皇子』として多くの困っている人を助け、悪を誅して正しきを為したのは事実であるし、遊路に敗れて入院した病院では他の患者はおろか医師や看護師にその誠実さから好かれ、慕われていた。精霊の力で女性となって勤めているアルバイト先では接客が未経験であるにも関わらず、多くの客を魅了している。そして何より、遊季都たちチャレンジャーZ一人一人とデュエルをしては彼らをデュエリストとして間違いなく一段上に引き上げた。
「あの……いきなりやってきて不躾なことなのはわかっています。だからこそ、あなたたちにお願いしたいの。彼を……助けて。そのために力を貸してくれませんか……?」
大きな瞳を潤ませながら頭を下げる遊希。遊季都たちにそれを断る理由など無い。人間界を守るため、ラズベリーを救い出すため、そして遊大の洗脳を解くため。様々な想いの下に二つの世界の命運をかけた盟が結ばれた。
*
「……正直に言ってしまうと、今の彼を止めることはかなり難しい」
どうすれば遊大を助けることができるのか。遊希の下で作戦会議が始まったが、議論が始まって遊希が真っ先に言ったのはどうも弱気な意見であった。もちろんこれは単に弱気なことを言っているわけではない。精霊として刃を交えた彼女だからこそわかることであった。
―――何故難しいんだい? 君の力は遊大君にも負けていないはずだよ?
「もちろん一対一……私と彼だけであれば、止めることはできるわ。ただ……」
―――あやつにはジョロキアがついている、そういうことじゃな?
「それは……どういうことなんだなぁ」
「今の遊大にはジョロキアが憑いている。言わば精霊と悪魔が一つになっているってことだろ?」
「ええ」
精霊としての格というもので測れば、遊大と遊希は共に同じ【覇王星竜】の名を冠する者として同格だ(厳密に言えば、生まれながらの精霊である遊大と人間から精霊に転じた遊希では、遊大の方が精霊としては格上になるのだが)。しかし、今の遊大にはジョロキアがついているため、二つの力が合わされば精霊単体である遊希が劣勢に立たされてしまう。だからこそ、ネオサイタマ・スタジアムの時は遊季都たちを助け出すことを重視したのだ。
「精霊と悪魔の力がどのように作用するかはわからないけど、その二つの力が合わさって良い方向に共鳴したら私は圧倒されてしまうでしょうね……」
―――……それだと、ラズベリー様も助けられない。
―――我々に打つ手はないのか?
「そんな……」
「でも、万策尽きたわけじゃないわ。今言った通り、遊大と悪魔が一つになっていれば難しい。けれど……」
―――それを引き剥がしちゃえばいいと思う!
バジルの言葉に遊希の意図が詰まっていた。まず遊希が覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴンとして覇王星竜ドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンと戦う。ジョロキアの力が宿っているうちは苦戦必至であることは間違いない。しかし、そのジョロキアをドラグリステル・ペンデュラム・ドラゴンから引き離してしまえばより与しやすくなる。
―――じゃがどうやってあやつを引き離すのじゃ。あやつの洗脳能力は強力じゃぞ?
「そこであなたたちの協力が欲しい。私と遊路、梓さん、盛雄君。そしてザラメ、バジル、ブルーハワイ……あなたたち悪魔の協力が。私たちで遊大からジョロキアを引き離す。そしてこの世界において、悪魔たちの闘いの舞台にジョロキアを引っ張り出す」
この世界における悪魔たちの闘いの舞台、というのはデュエルモンスターズを指す。
「そして、私たちが戦っている間に君にジョロキアを任せたいの。遊季都君……」
「僕がジョロキアを……でも、僕は……」
「あなたがラズベリーという悪魔を奪われていることは知っているわ。でも、この中で悪魔をデュエルモンスターズのカードとして使ったことがあるのはあなただけ。悪魔を倒すには悪魔の力が必要なの」
RPGなどでは、竜を斬る武器を作るためには同じ竜を素材にして作る必要がある。故に悪魔を倒せるのは同じ悪魔を使役し、かつこの中で一番悪魔と信頼関係を築いている遊季都だけである。故に遊希は先のデュエルで遊季都のデュエルの腕、そしてデッキをどれだけ信頼しているかどうかを試したのだ。
「……僕は、遊大さんに助けてもらったことがあります。でも、その恩返しをすることはできていませんでした。僕は、遊大さんもラズベリーも助けたい」
―――僕は、戦います!!
遊季都の決意に満ちた眼差しを見て、遊希はニッコリと笑みを見せる。彼ならば、きっと遊大を助けてくれる。そう思った自分の眼に間違いがないということが証明されたから。
「……ん? 電話だ」
そんな中、遊路はズボンのポケットから携帯電話を取り出す。見ると、数十件の着信履歴があった。
「もしもし……」
『あっ、やっと出た!! 大丈夫、遊路!?』
「美羽?」
『遊路様!! どうしてすぐに出てくれないのですか!!』
「遊月!?」
電話の主は美羽と遊月であった。彼女たちはネオサイタマ・スタジアムで発生した変事をテレビのニュース速報で知って以来、ずっと遊路にこうして無事を確かめるために連絡を取り続けていたのである。最も色々と忙しかったためか、遊路は今の今まで気づけなかったのであるが。
「俺たちは無事だ。もちろん遊季都たちもな」
『よかった、なんて言ってる場合じゃなかった。あんた今どこにいるのよ!』
「俺たちは……ああ、地元の原っぱだが」
『だったら今すぐそこから逃げて!! 紅いドラゴンがこっちに向かってきてるの!!』
「なんだと?」
『私たちはルナテシア様に案内されて大和と雛里を連れて避難を済ませております。ニューサニーアップ事務所の皆様やHoney Angel、魅河荘の皆様も橘社長やジョセフィーヌ様が音頭を取って避難を始めています。遊路様もどうか早く……』
「そうか、ありがとな。美羽・遊月。でも俺はやらなきゃいけないことができたんで避難はその後だ」
『やらなきゃいけないことって……まさか』
『遊路様、あのドラゴンと戦うおつもりですか!? 自衛隊の戦車や戦闘機すら手も足も出なかったというのに……』
「男ってものはな、大事なものを守るためならなんだってできるんだよ。大和と雛里のこと、頼んだぞ。じゃあな」
何か言いかけた二人の言葉を聞かず、遊路は電話を一方的に切り、携帯電話のスイッチをOFFにする。
「良かったんですか?」
「ああ。あいつらは俺の妻だけあってしっかりしている。きっと守り抜いてくれるはずだ」
「相変わらずなのね。二人とも大事だから二人と婚姻関係を結ぶ……あなたのデュエルの腕は買うけど、その神経はやっぱり腑に落ちないわ」
「納得してもらおうなんて思っちゃいないさ。俺は何と言われようとも俺のやりたいままに生きる。二人を愛することも、遊大を助け出すこともな」
「言っていることの是非はともかく……これほど頼もしいことはないわね。じゃあ、行きましょう」
そう言って遊希は再び覇王星竜ドラグリステル・フォトン・ドラゴンの姿へと変化する。そして遊季都たちを背に乗せて飛び立った。大事な仲間を、苦楽を共にする相棒を―――愛する人を助け出すために。
○次回予告
孫 美鈴
「意を決して遊大さんを助けに行く天都先輩と遊季都さんたち一行。そんな皆さんを待ち受けていたのは来る途中の街々をその力で結晶と変えては負の心を集めていた遊大さんと悪魔・ジョロキアでした。激戦の末、なんとか遊大さんからジョロキアを引き離すことはできましたが……」
次回 決戦・2~罪深き者~
孫 美鈴
「まさか、そんなことが……」
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Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
そして始まる救出作戦。ラストスパートまであと少し?
(2019-03-08 18:51)
一応そちらのコラボでの出来事も「そんなこともあったね」的な感じでやんわりと触れています。でもいくらスペシャルストーリーとはいえ、短い期間の間に3度も異世界の人と出会うってよく考えなくても凄いことですよね(白目
>そして始まる救出作戦。ラストスパートまであと少し?
そうですね、いよいよコラボストーリーも最終盤に突入します。だいたいあと10話前後、40話くらいでの完結を目指しています。3月中に終われるといいですが、年度末なので色々と多忙なのが辛いですorz (2019-03-09 00:16)
遊季さんが非常に頼もしいですね。一筋縄ではいかなさそうですが、微かに希望が見えて参りました。期待大です。 (2019-03-09 01:25)
やりとりが熱いです。これも教材になりますね(ふむふむ…)。
ラストスパートが近そうな展開、期待が大きいです。
陸也「問題は敵悪魔がどう極刑に処されるかが俺の楽しみなんだがな!(悪顔)」
海理「狂人、無敵、最凶は禁止ですよ陸也」
(2019-03-09 08:04)
迫りくる最終決戦ですが、この最終決戦の主役はやはり遊季都になります。ただ遊希はもちろん遊路・梓・盛雄も活躍を見せてくれると思いますので、その辺りも期待してお待ちいただければ幸いです。
ヒラーズさん
>いやいや…戦車や戦闘機で精霊に挑むなんて自衛隊はアホか。
つ シン・ゴ○ラ
まあまだ精霊と理解していない状況ですからね……
>陸也「問題は敵悪魔がどう極刑に処されるかが俺の楽しみなんだがな!(悪顔)」
>海理「狂人、無敵、最凶は禁止ですよ陸也」
粉砕!玉砕!大喝采!……とまでは行きませんが、相応の報いは受けてもらわないといけないですよね。まああまり書きすぎるとネタバレになるので…… (2019-03-09 22:28)