DRAW:２０３ ユニコーンの煌めき　作：人喰い

(203)





〜YAGAMI本社ビル・司令室〜


爽香「…あわわわ…っ！！ 大変っ！！ 神星樹が燃えてる！！！」

慌ただしく司令室の戸を開け入ってきた爽香。部屋の外、廊下の窓から見た上空の状況を息を切らしながら報告する。

シルバ「……マインの焔か…ッ…、予定よりは早かったなーーーー」

言いながら、まずは神星樹内部との通信を繋ぐシルバ。
緊張に包まれた司令室にノイズ音が響く。


シルバ「聞こえるか！？ 応答しろ！！」

２秒ほどして、火群の声。

火群『シ……バさ…！！ 聞……え……す…！！
何が……ったん…で……ーーーー』

やはり通信機器にも少なからず影響が出ているようで、正確に聞き取ることはできない。
しかし次の言葉、

火群『……敵、確……し……した。
……敵は、決闘機兵…１体ーーーー！！』

敵を確認したと、火群から。
それはなんとか聞き取ることができた。

鈴音「……！」

決闘機兵という単語を聞き、その研究の第一人者である鈴音は目を見張る。

シルバは鈴音に目配せしつつ火群達の持つ携帯端末ーーーーDUEL GEARにアクセスし、全員の位置情報を確認する。


シルバ「……やはりーーーー全員が別々の位置に転移させられたようだな……」


爽香「…！！ そんな…！！ みんなバラバラになっちゃったってこと…！？」

鈴音「…………！
…鈴華ーーーーっ」


続けてシルバは手を休めることなく人工衛星の映像チェックに入るーーーー

シルバ「…お前達は……少しのアクシデントでつまづく様な決闘者では無いはずだ……ッ…。
そしてそれは、俺も同じだーーーーーッ」














◉遊戯王 Ph.X◉
ーーーDRAW:２０３ーーー
《ユニコーンの煌めき》















〜生命の樹・？？？〜


【Side 火群】


火群「………」

火群は目の前に立ち塞がる機兵をじっと見つめ観察する。
人間よりも幾分細身のボディ。
左腕は変形して決闘盤と一体になっており、ボディのあちこちからは黒い煙の様なものが吹き出していた。
針金細工の様な骨格と相まって、異質な不気味さを隠し得ない。

機兵「……ワタシ ハ 瑞希様ノ“意思”ヲ受ケ創ラレタ決闘機兵……型番ハ『MZK-06』……。
ーーーーアナタ ノ 精霊 ヲ 確保シマス」


ニクス「……くるぞ火群…！！」

火群「……任せろニクス…！！ こんなとこでくたばってたまるか！！」



火群【LP 8000】


MZK-06【LP 8000】



◉TURN ０１◉

機兵「ーーーーワタシ ノ 先攻」[手札 5]

機兵は淡く緑に光る両目で自らの手札を端から端まで機械的に眺め、瞬時に１枚の手札に手をかける。

機兵「…ワタシ ハ 『レスキューキャット』ヲ通常召喚！！」[ATK 300]


《レスキューキャット/Rescue Cat》 †
効果モンスター
星４/地属性/獣族/攻 300/守 100
「レスキューキャット」の効果は１ターンに１度しか使用できない。
(1)：フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。
デッキからレベル３以下の獣族モンスター２体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに破壊される。



場に似つかわしくない、安全メットを被った可愛らしい猫が召喚される。


火群「……レスキューキャット…！ 獣族メインのデッキか……！」

そして召喚も束の間、猫は首にぶら下げた笛を吹き鳴らし、機兵の背後に眼光が揺らめくーーーー

機兵「ーーーー『レスキューキャット』ノ効果発動。
自身ヲ墓地へ送リ、デッキ カラ レベル３以下ノ獣族モンスター ヲ２体、効果ヲ無効ニシテ特殊召喚スル！！
……現レヨーーーー
『森の聖獣 カラントーサ』、
『魔轟神獣 ケルベラル』！！


『森の聖獣 カラントーサ』[DEF 1400]☆２

『魔轟神獣 ケルベラル』[DEF 400]☆２ チューナー


火群「……！ レベル２のモンスターが２体…！」

そして片方はチューナー。レベル４のシンクロか、ランク２のエクシーズか。

機兵「ワタシ ハ レベル２ノ『森の聖獣 カラントーサ』ニ、同ジク レベル２ノ『魔轟神獣 ケルベラル』ヲ チューニング！！！」


現れた光の輪に星となった獣達が連なり、やがて重なり光り輝くーーーーー

火群「……シンクロ召喚か…ッ…！」

レベルの合計は、４。


機兵「ーーーー神聖ナル“一角”ノ煌メキ ノ 前ニハ全テ ガ 無力…ッ！！ 光ニ埋モレ懺悔セヨッ！！
シンクロ召喚！！
現レヨ、レベル４！！
ーーーー『魔轟神獣 ユニコール』！！』[ATK 2300]



白き健脚で雄々しく地面を蹴る馬の様な姿に、額から伸びる白銀の角ーーーー名前の通り、空想上の生き物であるユニコーンを模したモンスターなのだろう。神の名を冠する一角獣は火群を見つめ視線を逸らさない。

火群「……ッ…！！」

その視線に、背筋が凍る様な妙な感覚が火群を襲う。

火群（…なんだ……？ この不気味な感じ……っ）


機兵「更ニ ワタシ ハ、魔法カード『強欲で貪欲な壺』ヲ発動！！」

流れる様な動作で発動されたのは、“禁忌のカード”。

火群「……ッッ…！ 黒焔が使ってきたのと同じ……“禁忌”…っ…！！」

《強欲
ごうよく
で貪欲
どんよく
な壺
つぼ
/Pot of Desires》 †
通常魔法
このカード名のカードは１ターンに１枚しか発動できない。
(1)：自分のデッキの上からカード１０枚を裏側表示で除外して発動できる。
自分はデッキから２枚ドローする。


機兵「デッキ ノ 上 カラ、１０枚ノ カードーーーー１０年ノ寿命ヲ“生贄”ニ捧ゲ……２枚ノ カード ヲ ドロー スル！！！」[手札 5]


“禁忌のカード”は強力なカード故に、発動する為には決して軽くない“代償が必要。そしてこの『強欲で貪欲な壺』の場合は、１０の未来ーーーー１０年の寿命を削る必要があるのだ。

火群「………ッ…」

戦う為に創られた機兵と言えど、力を得る為の代償をなんの迷いも無く払えてしまうなんてーーーー

火群「……兵器だから躊躇わず寿命を捨てられるって…？ 機械だから早死にしようが構わないって…？」

ーーーーふざけんなよ。

火群は目の前の機兵を創った終焉の焔に対し改めて憤りを感じ、表情を強張らせる。


機兵「カード ヲ ２枚伏セ、ワタシ ノ ターン ハ コレデ終了ダ」[手札 3]


◉TURN ０２◉


火群「ーーーー俺のターン！！ ドローッ！」[手札 6]

力強く引いた一枚を横目に確認し、ノータイムで発動させる。
それはいつだって火群を支えてきた、火群にとって魂のカード。


火群「魔法発動ーーーーー『炎王の急襲』！！！」


《炎王
えんおう
の急襲
きゅうしゅう
/Onslaught of the Fire Kings》 †
通常魔法
相手フィールド上にモンスターが存在し、
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。
デッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター１体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、
エンドフェイズ時に破壊される。
「炎王の急襲」は１ターンに１枚しか発動できない。


火群の周囲を炎が逆巻く。

ーーーーしかし、敵も決して甘くは無い。

火群「……！？」

相手の場を見ると、火群にとっては予想外な伏せカードがオープンしていた。


機兵「ーーーー罠発動、『無謀な欲張り』」


《無謀
むぼう
な欲張
よくば
り/Reckless Greed》 †
通常罠
(1)：自分はデッキから２枚ドローし、
その後の自分ドローフェイズは２回スキップされる。


機兵「……ワタシ ハ コノ 効果ニヨリ、２枚ドロー！！」[手札 5]


この行動に一体何の意味があるのか、と火群は一瞬考えるが、すぐにその意味を思い知ることになる。

火群「…何…！！？」

機兵がカードをドローした直後、火群が発動した『炎王の急襲』から発せられた炎が消えゆき、効果を適用せぬまま破壊されてしまったのだ。

その原因は、一目瞭然。

火群の視線の先には、青白く発光する一角獣の角ーーーー



機兵「『魔轟神獣 ユニコール』ノ効果ーーーーー」


《魔轟神獣
まごうしんじゅう
ユニコール/The Fabled Unicore》 †
シンクロ・効果モンスター
星４/光属性/獣族/攻2300/守1000
「魔轟神」と名のついたチューナー＋チューナー以外のモンスター１体以上
このカードがフィールド上に表側表示で存在し、
お互いの手札が同じ枚数である限り、
相手が発動した魔法・罠・効果モンスターの効果は無効化され破壊される。


機兵「ーーーー互イ ノ 手札枚数ガ 同ジ デアル限リ、相手ガ発動シタ カード効果ハ無効化サレ、破壊サレルーーーー！！」


火群[手札 5]

機兵[手札 5]


火群「……なるほど…な…っ…！」

伏せカードは手札枚数を調整する為で、主にあのシンクロモンスターの協力な無効化効果で制圧していくタイプのデッキって訳かーーーー

機兵「……更ニ、コノ効果ハ チェーンブロック ヲ組マナイ“永続効果”ダ。
貴様ノ デッキ ノ『炎王獣 ガネーシャ』デ無効化シ返ス事ナド、当然デキナイ」

火群は手札の『炎王獣 ガネーシャ』のカードにかけていた指をゆっくり離しつつ、唇を噛む。

火群（…やっぱ俺のデッキのデータは大体割れてるかーーーー）

焦るな。
考えろ。
今までの様な失敗はしない。

自らにそう言い聞かせ、状況を分析する。

火群「……」

今、手札の枚数は両者同じ。
火群が手札からカードをプレイすれば、枚数は4-5になり、無効化される事は無い。

しかしそんな事、相手からしてみれば想定済みな訳で、当然自分の手札を減らす手段も持ち合わせているだろう。

火群（……っ……フリーチェーンで手札を減らせるカード……パッと思いつくのは『サンダー・ブレイク』とか『鳳翼の爆風』とかの手札コストが必要な除去札だけど…まだ断定はできない）

もう一つ、安全に動く為の方法として、適当な魔法罠カードを伏せてから動くという手段もあるが、伏せたカードを今挙げた除去札の的にされても困る。

とにかく、今はまだ相手のデッキに対する情報が少なすぎる。なるべく少ない損失で、その情報をもっと引き出さないことには、いくら考えていても仕方がない。


火群「ーーーー俺は、『炎王獣 ダンディライオン』を召喚！！」[ATK 1300]

機兵「…！」

そしてこれで手札は4-5。このタイミングでの相手の対応を伺う。

火群「ダンディの効果発動！」


《炎王獣 ダンディライオン》＊Ph.X Original Cards
効果モンスター
星４/炎属性/獣族/攻 1300/守 200
このカード名の①②の効果はそれぞれ１ターンに１度しか使用できず、①②の効果を使用するターン自分は炎属性モンスターしか特殊召喚できない。
このカードのカード名はルール上「ダンディライオン」としても扱う。
①このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、またはこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。自分フィールドに「綿火トークン」（植物族・炎・星１・攻／守０）１体を守備表示で特殊召喚する。「綿火トークン」はフィールドに存在する限り「綿毛トークン」としても扱い、「綿火トークン」がカードの効果で破壊された場合自分はデッキから１枚ドローする。
②このカード以外の自分フィールドのモンスター１体と自分の墓地の「炎王獣」モンスター１体を対象として発動できる。対象の自分フィールドのモンスターを破壊し、対象の墓地のモンスターを特殊召喚する。


火群「……召喚成功時、場に『綿火トークン』１体を特殊召喚する！！」

効果の宣言に対し機兵は、

機兵「……コノ瞬間、手札ノ『増殖するG』ヲ墓地ヘ送リ、ソノ効果ヲ発動！！」


《増殖
ぞうしょく
するＧ
ジー
/Maxx “C”》 †
効果モンスター
星２/地属性/昆虫族/攻 500/守 200
このカード名の効果は１ターンに１度しか使用できず、
相手ターンでも発動できる。
(1)：このカードを手札から墓地へ送って発動できる。
このターン、以下の効果を適用する。
●相手がモンスターの特殊召喚に成功する度に、
自分はデッキから１枚ドローしなければならない。


火群「……！！」

機兵「…コノ効果ノ発動後、貴様ガ特殊召喚ヲ成功サセル度ニ、ワタシ ハ カード ヲ１枚ドロー スル。
最モ、『増殖するG』ヲ手札カラ墓地へ送ッタ事デ、互イ ノ手札枚数ハ同ジーーーー『魔轟神獣 ユニコール』ノ効果デ『炎王獣 ダンディライオン』ノ効果ハ無効トナルガナ……！！」


ダンディが破壊された際の爆風に耐えながら、やはり手札からも切れるカードを持っていたか、と言わんばかりに火群は眉をひそめる。

火群（しかもあのカード……『増殖するG』……）

実際に使われるのは初めてだったが、その存在自体は以前にシルバから聞いていた。
強力な展開抑止効果を持ち、手札から打てる奇襲性に加え、“代償”も必要としないーーーー要注意カードであると。
しかし、『G』が増殖する様子は“立体映像ｿﾘｯﾄﾞｳﾞｨｼﾞｮﾝ”に映し出された際に決闘者の心に悪影響を及ぼすとして、決闘盤を用いての決闘が当たり前になった現代において『G』のカードは生産されていないとの話だったがーーーー

火群「……何でもありかよ…ッ……終焉の焔のヤツらは……っ…！」

虫全般が大の苦手である火群は思わず身震いするが、この決闘の展開自体も火群にとっては非常に苦しいものだった。

手札枚数は4-4。

特殊召喚を行えば相手はドローし、手札枚数に差は生まれるが、火群の今の手札では特殊召喚を行うにもモンスター効果を“発動”しなくてはならない。つまりユニコールに無効化されてしまうのだ。
そして２枚伏せていたカードのうち１枚が手札を増やすカードであった事から、もう１枚の伏せカードは自らの手札を減らすカードの可能性が高いというのが火群の読みだった。

火群（…つっても、そのどちらでもないーーーー『幻獣の角』みたいな戦闘補助カードの可能性だってある……）

更にこの盤面をなんとか返せたとしても、増殖するGにより増えた手札でまた展開されてしまう。長期戦になる程こちらの手札も減り、相手からすれば手札調整が楽になるだろう。

火群（クソ…っ…正解がわかんねぇ……）

けど、思考を止めちゃダメだ。

考えて、考えて、考え続けろ。

火群「………」

だって今、すごく楽しいから。

勝つ為に『考える』事が、楽しくて楽しくてたまらないからーーーーー




火群「ーーーーとりあえず、やるだけやってみるか…っ！！」


無理矢理笑顔を作る火群。
その傍の不死鳥も呆れ気味に吐息を漏らす。


笑顔だけは忘れない。
それが２人のデュエルスタイル。






To Be Continued…






《次回予告》




次回、『遊戯王Ph.X』
DRAW:２０４ ただ一つの突破口






＊タイトルは予告なく変更になる場合があります。ご了承ください(廿V廿,,)乙