第183話 明日は明日の風が吹く　作：ヒラーズ

「・・・」
「…勝った…！あるじさまに…勝った！！」
クォーツは喜び、レンギアの前ではしゃぐ。
・・・そんなに嬉しいものなのか？
「陸也さん」
「・・・何だ、レンギア？」
「何で…負けたの？」
何でって・・・そりゃあなぁ・・・。
俺は最後のデッキトップをめくり、カードを確認し言葉を返す。
「・・・そうだな、単に運がなかった・・・っと言えば納得するか？」
俺はめくったカードをレンギアに見せる。
「…！『地縛霊の誘い』…！？」
「要するに運命の神は俺に「負けてあげなさい」と言ってたんだろう。何、良くあることだ」
俺は鼻で笑い、辺りの空気をごまかす。
（よくある事なの…！？）

「まぁ・・・ちょっと悔しかったがね。不思議な事にやりきった感はあった。要するにだ・・・」



―――――楽しかった・・・と言えばいいかな？―――――




「…」
「実はなレンギア・・・。俺は兵士でありすぎた事なのか、青春そのものを擲ってまで国のために戦った事があったんだ」
俺はレンギアに兵士であった自分の過去を全て話した。
大きな爆発、鳴り止まない銃声、無残に射殺される民間人。
友軍に見捨てられた父親の事や窮地の仲間を救うため、自ら捨て駒になる事を決意した俺の意思の事も全て話した。
レンギアはそれを聞いて悲しそうな眼になる。
だが勇気を振り絞って言葉を返した。
「陸也さん…ずっと…孤独だったのね…」
「ああ、だがこのデュエルで感じた事があった」
感じたものは単調でそのままの答えだった。
「俺にもまだ・・・変われるチャンスがあるんだな・・・っと、そう思ったよ」
「え―――――」
「お前さんらのおかげだよ、少しだけだが、擲った青春を取り戻せた気がする・・・ありがとう」
俺はレンギアに頭を下げるとレンギアが俺の頭を撫でる。
「・・・？何のつもりだ？」
「陸也さんって予想以上に可愛い性格なのね！」
か・・・可愛い！？俺が！？
「俺は・・・もう子供じゃない」
「いいのよ？陸也さん…その口ぶりからすると…甘えずに過ごしてきたのね…偉いわ」
何だそれは・・・？馬鹿にしてるのか？
「そうね…少しでも青春が戻れば…あなたにとっては良い収穫になったかもしれないわね」
「その言葉からにして・・・お前さん、恋とかしたことなかったな？」
「うっ……」
直球な言葉に反応したのか、頬を赤くし、俺から顔を背ける。
「先程のキス・・・感情があまりこもってなかった。つまりお前さんも俺と同じだったと言う訳だ。自分の青春を捨ててまで科学に貢献し、尽くしてきた・・・図星のようだな」
感情がこもったキスなら、もう少し長くなるはずだが・・・数秒感覚で終わってるんだ。誰にだって分かる。
まぁ・・・とんだファーストキスだがね・・・。
「さすが…【白き邪神】ね。そこまで見破れるなんて、危険だわ」
ははは・・・どうも。
「けど…そう言われると私も思うの。…自分もまだ、変われるんだと…」

「・・・」
「…」
互いに沈黙が続き、次第にはそれが笑いに変わった。
「クククッ・・・！」
「ふふふっ……！」

ひっそり会話を聞いていたトウマもふと、自分のいた世界の事を思い出していた。
（青春…か…。あいつ…元気にしてるかなぁ…？ちゃんと、帰ってあげねぇと心配されるよな…）
「・・・」
トウマは空を見上げ、転生前の記憶を振り返る。
「・・・」



しばらくしてトウマは俺に近づく。
「なぁ陸也、俺は…元の次元に帰った方が良いのか…？」
トウマらしくない・・・悩み事とはな。
「答えは簡単だ」
「？」
「帰った方が良いと思ったなら帰れば良い。お前さんのいた元の次元には俺達以上に良い友達や家族がいるんだろ？ならそいつらのために帰ってやれよ、そして自慢してこい。「帰るついでに一つの世界を救ってきた」とな。驚かれると思うぞ」
その言葉にトウマは沈黙する・・・悪神を倒したのは俺達だが、百騎兵を除いて英雄になろうなんざ嬉しくないと・・・思った。
「それに・・・」
「それに？」
その次に言った言葉はトウマにとって最高の言葉へと変化したのだった。
「ネクロ以外のライバルが増えたんだ。ネクロとトウマ以外、誰がライバルだと思えば良いんだ？」
その時だった・・・。

「…っ」
トウマの眼から涙がこぼれ、地面に滴る。
「…ありがとな…陸也…いや、百騎兵…！！」
「・・・」
泣いてお互い沈黙になる。
俺は溜息を吐き、トウマ達に驚きの言葉を投げる。
「仕方ねぇな・・・お前さんらに最後、面白い曲芸を見せてやるよ」
その言葉に俺以外全員が動揺する。
「きょく…げい…？」
「まぁ見てろ」
俺が指をパチンと鳴らすと当然俺の体が青い炎に包まれる。
皆は驚き、そのままその炎を見続ける。
そして数秒後、俺の姿が・・・








―――――転生体の魔法生物、「百騎兵」になったのだ―――――






「ふきゅ（どうだ！時間制限付きだが、【トランスフォーメーション（物体変化）】でこの姿になれる。驚いたか！）」
そう自慢した瞬間だった。
「「「…」」」
えっ・・・？えーと何で皆俺に近づいてるんだ・・・？
そして・・・。
「百騎兵（さん）！！」
全員が俺を抱きしめ、人形を抱くように馴れ馴れしく触る。
「！！（待て待てっ！落ち着けお前さんら・・・！！）」
「次私です！」
「ちげぇだろ！俺だ！」
「私にゃ！！」
もはや人形の取り合い。
だがこうやってやられてみると・・・楽しいものだ。
















「本当に世話になってしまったな」
「いいえ、あなたは十分にこの世界を変えてくれたわ」
俺はハルとセージを連れ、昇降機に乗る。
その時、クォーツが再び俺の袖を掴み、振り向かせる。
「・・・？どうした？」
「…また…会えます…？」
「・・・」
俺は懸命に考えた。だが、この言葉に俺は焦りの顔一つも出さず、笑顔で答える。
「時が来ればまた会える」
その言葉にクォーツの表情が明るくなり、喜ぶ。
「じゃあ…またクロノス・ノアに乗せてくれるんですか？」
「ああ、約束だ。また会ったら一緒に世界を股にかけ、旅でもしようか？」
「…はい！今度はあるじさまを連れて…！」
クォーツと俺は手を繋ぎ、約束する。
そして昇降機のスイッチを押し、回収船の中に入っていく。
そんな中、俺は・・・。

「・・・っ！」

泣いていた・・・折角友達になった者達と別れ、元の世界に帰る事を少しばかり悔やんだ。
「じゃあな・・・皆、また・・・会おう！」
そう言って昇降機は上へ昇り。回収船が空に飛び立つ。
空に時空の裂け目が現れ、その中に回収船が入っていく。
クォーツ達はそれを見届け、手を振った。
次第に裂け目が消え、空には晴天と静けさが残る。

「行っちゃった…」
「…」
静かになったムードに最初に口を割ったのはトウマだった。
「ん？クォーツ、そのポケットに入ってるのはなんだ？」
「え……？」
クォーツはポケットの中を調べると、ある一枚の手紙が入っていた。
「手紙…？」
クォーツは手紙を読み、黙読する。
「……えっ！？」
クォーツは手紙を落とし、レンギアに近寄る。
「あるじさま、ちょっと寄りたい所が…」
「わかったわ、行きましょう」
クォーツ達は静まり返った港に背を向け、歩く。
そんな時、レンギアは足を止め、振り向く。
「最後のお土産…ありがとう、百騎兵！」
そう言ってレンギアは向き直り、クォーツ達を追う。








また会える事を信じて・・・。

次回、輝く二つの地球
タイトルが変わる可能性と修正する可能性があります。