交流(共通)

一言掲示板 管理人連絡掲示板 遊戯王雑談掲示板 雑談掲示板

メインメニュー

クリエイトメニュー

その他

遊戯王ランキング

注目カードランクング


カード種類 最強カードランキング


種族 最強モンスターランキング


属性 最強モンスターランキング


レベル別最強モンスターランキング


デッキランキング

HOME > 遊戯王SS一覧 > 第143話:終焉

第143話:終焉 作:光芒







 超時空龍の咆哮と共に遊厳は、時間と空間が歪むような感覚に陥った。身体の自由、そして平衡感覚を奪われるような、そんな感覚を覚えた彼がよろめきながらも踏ん張った時。自分のフィールドに存在していたアルティミトル・ビシバールキンの身体が石化していたのに気が付いた。

「なっ……ビシバールキンが!?」

究極幻神アルティミトル・ビシバールキン ATK0

―――私はオーバーレイユニットを1つ取り除くことで、超時空龍の効果を発動した。フィールド上に表側表示で存在する超時空龍以外の全てのカードの効果をこのターンの終了時まで無効にし、更に相手はこのターン、フィールド上のカードの効果を発動できない。
「っ……」

 遊厳のフィールドに存在するカードは2枚のセットカードを含めて計7枚。ビシバールキンの効果は無効になったため、その攻撃力は0になり、そしてセットされている2枚のカード、連撃の帝王と《帝王の烈旋》は発動自体が封じられてしまった。

―――そして超時空龍のもう一つの効果を発動。自分フィールドのモンスター2体をリリースし、このターン、超時空龍はモンスター相手に3度まで攻撃ができる。

 自己強化および相手の展開を封じるためのビシバールキンのトークン生成効果であるが、まさかその効果を封じられただけではなく、自分の効果を使うために逆用されてしまうことはさすがの遊厳にとっても想定外であった。
 しかし、超時空龍の攻撃力は4500。攻撃表示のモンスターがビシバールキンのみである以上、超時空龍の攻撃でビシバールキンが破壊されても、彼のライフはまだ1500残ることになる。遊大とのデュエルでは自分のライフを100まで削ったデュエリストだ、残りライフ1500も残っているならば十分逆転の芽はある。

(私のターンが来れば、セットされている連撃の帝王と帝王の烈旋を発動することができる。超時空龍さえそれでリリースしてしまえば……)
―――貴様、まさかお前にターンが回ってくるとは思っていないだろうな?
「なっ……!?」
―――悪いがこのデュエルはこのターンで終わらせる。高海 遊大が天都 遊希の傷を治したからな。彼を治療に専念させるためにもっとデュエルを長引かせても良かったのだが。

 ここで遊厳は精霊が自分にデュエルを挑んできたのは、自分に制裁を下すためだけではなく、遊大のための時間稼ぎということを知らされた。仮にも神のカードを操るデュエリストである自分が、まさか時間稼ぎ扱いのデュエルをさせられる。そのことは遊厳の心に怒りの炎を付けさせるには十分な理由であった。

「貴様……!!」
―――おっと、お前と議論するつもりはない。私は手札より魔法カード、トレード・インを発動。手札のレベル8モンスター、銀河眼の光子竜をコストに2枚ドロー。そして手札の《銀河剣聖》の効果。


《銀河剣聖(ギャラクシー・ブレイバー)》
効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻0/守0
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札の「フォトン」モンスター1体を相手に見せて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。このカードのレベルは見せた「フォトン」モンスターのレベルと同じになる。
(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の「ギャラクシー」モンスター1体を対象として発動できる。このカードの攻撃力・守備力はそのモンスターのそれぞれの数値と同じになる。


―――私は手札のフォトンモンスター、レベル8の銀河眼の光子竜を相手に見せて発動。このカードを手札から特殊召喚する。このカードのレベルは見せたフォトンモンスターと同じになる。まあ、同じレベルだから変化はしないがな。そして特殊召喚に成功した剣聖の効果を墓地の光子竜を対象に発動。このカードの攻撃力・守備力はそのモンスターのそれぞれの数値と同じになる。

銀河剣聖 星8 ATK0/DEF0→ATK3000/DEF2500

―――更に墓地の銀河眼の光子竜を対象に私は装備魔法《銀河零式》を発動。


《銀河零式(ギャラクシー・ゼロ)》
装備魔法
「銀河零式」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の墓地の「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。装備モンスターは攻撃できず、効果も発動できない。
(2):装備モンスターがバトルフェイズに戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊できる。
(3):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。このカードを装備していたモンスターの攻撃力は0になる。


―――墓地の光子竜を特殊召喚し、このカードを装備。このカードを装備したモンスターは攻撃できず、効果も発動できないがな。
「これでフィールドにはレベル8のモンスターが2体……」
―――さて、貴様のトークンだが……目玉だけで気味が悪くて邪魔臭い。なのでリリースに使わせてもらう。邪眼神トークン2体をリリースし、2体目の銀河眼の光子竜をアドバンス召喚。そして私は銀河零式を装備した銀河眼の光子竜と銀河剣聖でオーバーレイ!!

 銀河零式の拘束から解き放たれた銀河眼の光子竜と、銀河剣聖の2体の身体が光となって天空へと舞い上がる。その2つの命は希望の光となり、そして究極の竜を呼び覚ますための礎となった。



―――2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築。エクシーズ召喚!!






―――“我が心中にて燃える意志よ。愛する者を想う絆よ。今その力を一つとし、光の竜に眠りし真の姿呼び覚ませ! 希望を導き飛翔せよ!”






―――《No.62 銀河眼の光子竜皇》!!―――






 現れたのは、黄金の龍と共に現れた青い光のドラゴンであった。超時空龍と共に銀河眼の名を持つそのドラゴンは、かつて遊希が操り、プロデュエリスト・天都 遊希を象徴するカードであった銀河眼の光子竜に酷似したドラゴンだった。


《No.62 銀河眼の光子竜皇(ギャラクシーアイズ・プライム・フォトン・ドラゴン)》
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3000
レベル8モンスター×2
(1):このカードが戦闘を行うダメージ計算時に1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、フィールドのXモンスターのランクの合計×200アップする。
(2):「銀河眼の光子竜」をX素材として持っていないこのカードが相手に与える戦闘ダメージは半分になる。
(3):「銀河眼の光子竜」をX素材として持っているこのカードが相手の効果で破壊された場合に発動できる。発動後2回目の自分スタンバイフェイズにこのカードの攻撃力を倍にして特殊召喚する。


「フィールドに銀河眼が3体!? だが、そのモンスターの攻撃でも私のライフは残り6000! 全てのモンスターで攻撃したところで削り切れまい!!」
―――だったら試してみるか? 行くぞ!
―――メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行。銀河眼の光子竜で守備表示の邪眼神トークンに攻撃! “破滅のフォトン・ストリーム”!

銀河眼の光子竜 ATK3000 VS 邪眼神トークン DEF0

―――そして超時空龍で邪眼神トークン3体を攻撃!!“アルティメット・タキオン・スパイラル”!!

CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500 VS 邪眼神トークン DEF0 ×3

 光子竜と超時空龍の攻撃で遊厳のフィールドの邪眼神トークンが全滅する。しかし、どれだけ高い攻撃力を持っていたとしても、貫通効果を持たないモンスターの攻撃で守備モンスターを攻撃したところでダメージは発生しないのだ。

「っ……なんて攻撃力だ。だが、私のライフにダメージはない!」
―――No.62 銀河眼の光子竜皇で究極幻神アルティミトル・ビシバールキンを攻撃。

No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK4000 VS 究極幻神アルティミトル・ビシバールキン ATK0

(発生するダメージは4000。こちらの攻撃力が0であるため、《オネスト》も意味は為さな……)
―――このカードが戦闘を行うダメージ計算時、光子竜皇のオーバーレイユニットを1つ取り除いて効果を発動!
「戦闘時の効果だと!?」
―――このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、フィールドのXモンスターのランクの数×200ポイントアップする! フィールドのランクの合計は17! よって光子竜皇の攻撃力は……!


No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK4000→ATK7400


「攻撃力……7400だと!? バカな、こんなことが……このようなことが起きていいはずがない!!」
―――ふん、何故貴様がこのような目に遭うか教えてやろうか?
「……?」
―――それはな。この私を怒らせたからだ!! 懺悔の用意はできているか!?






―――“エタニティ・フォトン・ストリーム”!!―――






No.62 銀河眼の光子竜皇 ATK7400 VS 究極幻神アルティミトル・ビシバールキン ATK0


 光の竜の放った怒りの一撃は、自分より遥かに巨大な邪神を光の中に葬る。迸る光は遊厳の野望の終焉を意味していた。





遊厳 LP6000→LP0





















「……すごい。義父さんをこんなにあっさり」

 精霊たちに打ち倒された遊厳は、そのまま気を失って倒れた。今のデュエルによって故障したのか、屋上を取り囲んでいた装置の動きが止まる。高海 遊厳。最初は純粋に人間を、世界を救いたかったはずの一人の男の野望はここに終焉を迎えた。

―――ふん、この程度か。あっけなかったな。
―――何事も与しやすいに越したことは無い。結果的に彼女も救えたのであればそれでいいのではないか?
―――それもそうかもしれんな。しかし、この程度の小者相手に殺されかけるとは遊希もまだまだだな。

 そう言うと青いドラゴンこと銀河眼の光子竜皇は鎧騎士に目配せをする。鎧騎士は顔も龍の頭を模した兜で覆っているためその表情を遊大が窺い知ることはできないが、彼の言いたいことを察したであろう鎧騎士は左腕のデュエルディスクから今のデュエルで使っていたデッキとEXデッキのカード、そして余剰カードをまとめる。

―――あの、このデッキを……
「このデッキは?」
―――このデッキは元々、この少女……天都 遊希が使っていたデッキです。訳あって私たちが預かっていました。

 今までの威厳のある口調とは打って変わって丁寧で腰の低い口調へと変わる鎧騎士は、カードを遊大に渡してきた。このデッキは2年前に遊希が精霊界から帰還する際に彼女の精霊であった銀河眼の光子竜と共に精霊界に戻ったカードの一部であったのだ。

―――彼女が目覚めたら、このデッキを渡してあげてくれませんか?
「は、はい……ですがどうして」
―――やはりこいつには私の力が必要ということだ。何、2年前にはなかったカードもあるから時代遅れということは無いだろうよ。
―――それに、彼女が持っていた【星龍皇】のカードもその力の大半を失ってしまっているようだ。使い慣れたカードであれば身体に馴染むのも早いだろう。

 遊希を助けるにあたって遊大はズァークの力の大半を消費したが、彼女が驚異的な再生力を発したのはズァークのみの力ではなかった。遊希の中に宿っていた星龍皇の力、そして2体の銀河眼から送られていた【ギャラクシーアイズ】【ギャラクシー】【フォトン】といったカードの力も込められていてのことだった。

「ところで、遊希さんの手にいつの間にかこんなカードがあったんですが……」
―――それは……モンスター、しかもペンデュラムモンスターのようですね。
―――恐らく、それが今の天都 遊希の精霊としての姿なのだろう。
―――やはり遊希もお前と同じようなものになってしまったか。そうしないと助けられなかったかもしれなかったとはいえ……

 遊大は元々遊厳の目論んだ覇王龍ズァークを復活させるための研究から生まれたため、人間の姿をしているとはいえ彼は人間ではなく精霊となる。
 一方の遊希は生まれこそ精霊ではなく人間である。だが、光子竜をその身に10年程宿していたこと、精霊界に行っていたこと、そしてズァーク、星龍皇、ギャラクシーアイズといった強力な精霊の力が注ぎ込まれたことで、彼女自身も遊大と同じ「人間の姿をした精霊」に変容してしまっていたのだ。

―――その事実を知れば、彼女は激しく動揺するでしょう。だから……同じ境遇であるあなたには彼女を支えてあげて欲しいのです。
「……元々の種を撒いたのは俺です。今の俺は……まだまだ無力で未熟な精霊ですが、全身全霊で彼女を守り抜いてみせます」
―――だ、そうだが? どうする舅殿?

 そう言って微笑む超時空龍。舅呼ばわりされた光子竜皇はむっとした様子で遊大の顔を覗き込んだ。

―――誰が舅だ! おい小僧! いっぱしの口を利くようだが、お前に遊希を守る覚悟はあるのか?
「……あります」
―――そうか。では、お前にテストを課す。奴への処分を下せ。

 そう言って光子竜皇は倒れている遊厳を指差した。光子竜皇の言うテストというのは、遊厳への罰を遊大がどう下すということであった。遊厳は諸悪の根源であり、彼の行為によって結果的に遊希は命を落としかけている。もし彼を止められなかったらこの世界はおろか精霊界にも何かしらの悪影響が及んでいただろう。そう言った意味では彼は法律ですら裁ききれない悪であると言えた。

「……」
―――奴はお前を自らの汚れた野望のために利用し、そして……遊希を殺しかけた。それだけではない。お前次第ではこの世界も滅ぼされ、結果的にこの星の全ての命が奪われるところだったのだ。罪人には罰を課さなければならない。お前なら、この男にどんな罰を下す?
「……そうだ。義父さんは、高海 遊厳は遊希さんを……遊希さんを……」

 遊大はふらふらと歩いては倒れている遊厳の下へ向かう。

―――精霊の力の大半を遊希のために消費したとはいえ、お前は精霊だ。人一人の命を奪うことなど造作もないはずだ。さあ、やれ。憎いその男を。その爪で、その牙で切り裂け。お前にはそれだけのことをする理由があるのだ。

 光子竜皇の悪魔の囁きが遊大の脳裏に響く。遊大が右手に力を籠めると、右手が巨大なドラゴンの手へと変わる。この鋭い爪で喉元を切り裂けば、精霊ではない遊厳なら即死は間違いない。

(……この人は、許してはいけない。この人を殺すことが……俺の使命!!)

 遊大は物々しい右手を高く掲げると、それを思い切り振り下ろした。





















―――そうか、それがお前の答えか。
「……はい、俺にはできません」

 遊大の振り上げた右手は空を切った。確かに遊厳は憎い相手だ。憎くて憎くて憎みきれないほどの憎しみがある。それでも、彼は遊厳を殺すことを選ばなかった。

「この人の重ねた罪は大きく、そして重いです。もし裁判にかけられれば死刑もやむを得ないでしょう。ですが……ここで俺がこの人を殺してしまったら、俺もこの人と同じになってしまいます」
―――ほう?
「それに……この人は俺を道具としてしか見ていなかったかもしれませんが、俺からしてみれば、血のつながりはなくてもこの人は俺の義父さんです。そして……俺の義母さんや義兄さんたちにとって義父さんは本当の夫であり、親なんです。ここで俺が義父さんを殺してしまったら、必ず皆は悲しんでしまう!!」









―――俺は、もうこれ以上……誰かに悲しい思いをさせたくないんです!!―――










「……ごめんなさい。俺は彼を裁けませんでした。俺に遊希さんを守る資格は……」
―――全く、あんな目に遭わされておきながらまだ善意を以て接するか。反吐が出るほどの甘ちゃんだな。角砂糖数百個あっても足りないぞ。だが……そんなお前だからこそ、遊希を任せられるというものだ。

 落第を言い渡されると思っていた遊大に耳に入ってきたのは予想だにしない言葉だった。

―――ああ、彼ならば娘を嫁にやるに相応しいのではないか?
―――誰が娘だ。誰が
―――ですが、あなたのような優しい方であれば大丈夫だと私は思いますよ?
「で、でも……」
―――何がでもだ。だが、済まなかったな。変に試すような真似をして。今のやり取りで我々はお前の心を見ていたのだ。憎しみという感情はとても根強いものでな、その感情に取りつかれたものはなんであれ復讐や憎悪に任せた行動をしてしまう。

 その光子竜皇の言葉を体現したのが遊厳と言っていいだろう。報われない子どもたちを救えなかった自己嫌悪が、世界の平和を顧みない人々に対する憎悪が。それが憎しみとなって彼を突き動かしたのである。それだけ負の感情が知能のある生物を動かす力を持っていることの証であった。

―――だが、お前は憎しみに負けなかった。憎しみに負けず、自分の初志を。お前の持ち合わせた“優しさ”というものを貫き通したのだ。
―――憎悪に負けないだけの強い心を君は持っている。
―――それはあなたの美点です。そして、そんなあなただからこそ、天都 遊希に相応しい精霊……いや、人間なのです。
「……ありがとうございます。俺……初めて自分を誇れそうです」

 安堵の笑みを浮かべる遊大の笑顔は美しく、とてもすっきりとしたものであった。しかし、そんな緩やかな空間を轟音が切り裂き、たちこめた紅炎が初冬の夜空を照らし出す。精霊たちによって破壊された装置が爆発を起こしたのだ。遊厳が敗れたことで動きを止めた装置であったが、行き場を無くしたズァークやラーのエネルギーが暴走してしまっていたのだ。

「っ! 屋上の出口も……」

 一人で逃げるのであれば、精霊である遊大が火に巻かれて死ぬということはないだろう。だが、今の彼は一人ではない。遊希はもちろん助けると決めた遊厳も連れて脱出しなければならないのだ。

―――ここは地上60階か。エレベーターはもちろん走って降りるのは厳しいだろうな。
―――方法は……一つしかありませんね?
「脱出できる方法があるんですか!? 教えてください!」
―――教えるも何も一つしかないだろう。飛べ。
「なるほど、飛べばいいんですね……って飛べ!?」
―――君は精霊だ。精霊なら飛べるだろう。
「……簡単に言わないで下さいよ。第一俺はズァークとしての力を……」
「ズァークの力は遊希に渡ってしまったが、お前が精霊であることには変わりはない。念じろ、精霊である自分の姿をな」

 精霊であるにも関わらず、なんともアバウトな説明か。と面食らっている場合ではない。彼ら精霊たちのアドバイスに従い、遊大は精霊として空を飛ぶ姿を脳裏でイメージことにした。すると、一人でに彼の頭の中には1体のモンスターの姿が浮かんでいた。それは、ずっと自分と共に歩んできたものの姿だった。

―――これが、俺か……

 そのイメージを確定させた遊大は自分の身体の奥から眠っていた力を少しずつ解き放っていく。そして、遊大の身体は1体のドラゴンへと変化していた。
 真紅の身体に紅玉のような右目と翠玉のような左目。禍々しく巨大な翼は炎のように燃え上り、触れるもの全てを破壊するような身体と爪は炎に映えて煌めいていた。ドラゴンは遊希と遊厳を抱え上げて下を見下ろす。人間の姿だったら非常に高く見える地上60階もこの姿だとそう感じ得ないのは自分が精霊になったからだろうか。

―――精霊界の皇より遣わされた精霊として……あなたに命じます。精霊・覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン。
―――君は精霊としてこの世界に留まるのだ。そして精霊として君の愛する世界を、愛する人を守り抜け。
―――お前の美点は数えきれない。だが、その中でも特筆すべきはその心の強さだ。いいか、精霊であろうとも心を持っている。心を持つ以上、選択を迫られ、自分を見失う時も来るだろう。だが、決して自分を見失うなよ。遊希がお前の傍にいる限り、我々も違う世界からお前を見守っているからな。
―――はい。ありがとうございます、皆さん。

 覇王龍ズァークとしての力を失った遊大が変化したのは覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン。遊大のデッキのエースにして切り札だ。
 もちろんズァークと比べればその力は大きく劣るが、精霊として過度の負担を及ぼさないという点ではこの姿が最も遊大にとって丁度良かった。そして何より、アストログラフ・マジシャンの手で【オッドアイズ】デッキと出会った遊大がデュエルの時に心の支えにしてきたのがこの覇王烈竜なのである。

―――あの……俺、俺……皆さんと出会ったこと絶対に忘れません。だから……どうかお元気で!!

 遊大は精霊たちに手を振ると、翼を広げて屋上から飛び立った。爆発と炎に包まれる屋上で精霊たちは飛び去って行く遊大を見つめていた。

―――……あいつ語彙力ないな。別れの際にもっと気の利いたことを言えないものだろうか。
―――言ってやるな。むしろその不器用なところも彼の良いところなのではないか? しかし、我々のこの世界での役目もここまでか。思いの外短い滞在だったな。
―――あまり長居しすぎたらそれこそ行きたがっていたのを無理やり退けたスカーレッド・ノヴァやスターダスト・シフルに悪いだろう。それに私は……あいつの顔をもう一度見ることができて良かった。お前もそうだろう……“遊望”。
―――……そうですね。

 「遊望」と光子竜皇から呼ばれた鎧騎士は兜を外す。無骨な兜の下から現れたのは銀色の髪が美しい遊希に似た少女だった。少女は冬の澄んだ空気に映し出されるこの世界での星空を見上げる。潤む視界を手で拭いつつ、美しい笑顔を見せた。






―――さようなら、そしてどうかお幸せに……お姉様。






 そして精霊たちは姿を消した。この世界での出会いをその胸に抱きながら。












現在のイイネ数 52
作品イイネ
↑ 作品をイイネと思ったらクリックしよう(1話につき1日1回イイネできます)

ヒラーズ
まぁ…人(精霊)撃ったし当然の報いだろうね。
不殺を選んだ主人公は王道にふさわしい。ズァークは去ってしまったが、レイジングがいてくれるとは…未来がすごい明るくなりそう。
百騎兵「ふきゅ(ホント明るくなりそうだ)」 (2018-12-08 07:47)
ター坊
全滅させた挙げ句のワンキル、お見事。
復讐に任せて殺るのは簡単ながら許すのは難しいですね。特に大好きな人間を殺そうとした奴を許すのは。
精霊からも公認であとは結婚式…?(飛躍)
(2018-12-08 11:01)
光芒
ヒラーズさん
どんな相手にも不殺を貫く主人公というものは今となっては古臭く思えますが、その王道を貫くところが遊大らしさなんじゃないかと思います。

>ズァークは去ってしまったが、レイジングがいてくれるとは…未来がすごい明るくなりそう。
去る、という表現はあまり正しくないかもしれませんね。遊大=ズァークが、遊大=レイジングになった感じなので。

ター坊さん
きっちり相手のモンスターを全滅させてしまうあたりは銀河眼たちの怒りが現れているのでしょうね。そこは遊望と銀河眼たちの絆が為せるものだとは思っていますが。

>復讐に任せて殺るのは簡単ながら許すのは難しいですね。特に大好きな人間を殺そうとした奴を許すのは。
感情を持つ生物にとって、憎まないということは何よりも難しいことだと自分は思っています。

>精霊からも公認であとは結婚式…?(飛躍)
実はまだあと二人ほど納得させないといけない人がいるんですよね……(震え声
(2018-12-10 00:36)

名前
コメント

同シリーズ作品

イイネ タイトル 閲覧数 コメ数 投稿日 操作
165 プロローグ:邂逅 2617 3 2017-01-16 -
151 第1話:感謝 1937 4 2017-01-18 -
101 第2話:機竜 1662 3 2017-01-20 -
142 第3話:試験 1622 2 2017-01-23 -
121 第4話:不動 1462 4 2017-01-25 -
72 第5話:烈火 1653 7 2017-01-27 -
123 第6話:決着 1612 6 2017-01-29 -
144 第7話:入学 1509 4 2017-01-31 -
122 第8話:再会 1668 3 2017-02-02 -
131 第9話:舞鳥 1530 7 2017-02-05 -
133 第10話:逆鱗(前編) 1674 5 2017-02-07 -
110 第11話:逆鱗(後編) 1492 3 2017-02-09 -
151 第12話:最強 1802 3 2017-02-10 -
119 メインキャラクター紹介 1822 0 2017-02-15 -
147 第13話:親睦 1486 3 2017-02-17 -
144 番外編:慟哭(2/18修正) 1632 6 2017-02-17 -
152 第14話:血戦 1778 8 2017-02-19 -
178 第15話:攻防 1723 5 2017-02-21 -
160 第16話:約束 1610 6 2017-02-23 -
117 第17話:部活 1427 4 2017-02-25 -
161 第18話:激励 1771 5 2017-02-28 -
90 第19話:恐獣 1366 2 2017-03-07 -
179 第20話:天命 1625 2 2017-03-09 -
150 第21話:恋情 1527 4 2017-03-13 -
107 第22話:真価 1336 3 2017-03-16 -
162 遊大たちが4月制限について語るようです 1623 7 2017-03-17 -
133 第23話:信頼 1457 6 2017-03-22 -
124 第24話:魔竜 1655 8 2017-03-24 -
157 第25話:度胸 1502 5 2017-03-28 -
139 第26話:漆黒 1316 5 2017-03-30 -
233 番外編:4月1日 1533 6 2017-04-01 -
131 第27話:英雄 1287 3 2017-04-04 -
139 第28話:最高 1508 4 2017-04-07 -
168 第29話:銀河 1335 3 2017-04-10 -
140 第30話:昇華 1525 3 2017-04-13 -
160 サブキャラクター紹介・1 1708 3 2017-04-16 -
119 第31話:試練 1346 5 2017-04-18 -
142 第32話:迷宮 1425 3 2017-04-20 -
171 第33話:成長 1383 3 2017-04-23 -
153 第34話:双子・1 1354 4 2017-04-25 -
116 第35話:双子・2 1345 2 2017-04-28 -
157 第36話:幻奏 1403 2 2017-05-04 -
136 第37話:戦術 1418 2 2017-05-08 -
151 第38話:門番 1381 5 2017-05-12 -
132 第39話:白黒 1304 3 2017-05-17 -
171 第40話:奇跡 1285 6 2017-05-19 -
159 第41話:錬装 1308 4 2017-05-23 -
126 第42話:命運 1317 2 2017-05-27 -
128 第43話:覚悟 1356 3 2017-05-30 -
183 第44話:条件 1252 3 2017-06-03 -
169 1万アクセス記念企画のお知らせ 1488 5 2017-06-04 -
111 第45話:幻影 1297 4 2017-06-08 -
144 第46話:黒牙 1338 2 2017-06-14 -
178 遊大たちが7月制限について語るようです 1404 2 2017-06-14 -
138 第47話:終幕 1424 4 2017-06-17 -
155 第48話:宣誓 1566 2 2017-06-22 -
144 サブキャラクター紹介・2 1445 2 2017-06-24 -
146 第49話:編入 1258 6 2017-06-29 -
164 第50話:理由 1483 4 2017-07-03 -
138 番外編:七夕 1561 6 2017-07-07 -
139 第51話:一歩 1398 5 2017-07-12 -
139 第52話:修練 1278 4 2017-07-17 -
166 第53話:自信 1307 5 2017-07-20 -
198 第54話:克服 1267 4 2017-07-24 -
138 第55話:猛攻 1330 6 2017-08-02 -
169 第56話:障壁 1216 3 2017-08-08 -
145 第57話:意地 1163 3 2017-08-13 -
144 第58話:提案 1221 3 2017-08-17 -
131 第59話:来訪 1310 3 2017-08-27 -
196 第60話:交錯 1340 3 2017-09-04 -
122 第61話:諜報 1079 3 2017-09-11 -
198 遊大たちが10月制限について語るそうです 1482 5 2017-09-14 -
172 第62話:暴露 1524 2 2017-09-21 -
143 第63話:決意 1284 4 2017-09-25 -
118 第64話:結束 1273 4 2017-10-02 -
66 第65話:渇望 1370 3 2017-10-07 -
106 第66話:証明 1162 4 2017-10-13 -
152 第67話:空想 1243 2 2017-10-16 -
135 第68話:魔鎖 1236 2 2017-10-23 -
127 第69話:喝采 1150 2 2017-10-27 -
144 第70話:胸愛 1383 3 2017-11-01 -
144 第71話:点火 1179 4 2017-11-07 -
108 第72話:誘惑 1209 3 2017-11-15 -
141 第73話:憤怒 1260 5 2017-11-18 -
88 第74話:反攻 1137 2 2017-11-22 -
75 第75話:夢追 1109 2 2017-11-27 -
74 第76話:剣閃 1152 2 2017-12-02 -
81 第77話:膠着 1013 2 2017-12-09 -
70 遊大たちが1月制限について語るようです 1236 4 2017-12-11 -
62 第78話:豹変 1159 2 2017-12-17 -
116 第79話:親心 1170 4 2017-12-22 -
96 第80話:疾風 1187 2 2017-12-30 -
75 番外編:隠想 1190 3 2018-01-01 -
78 第81話:異能 1045 2 2018-01-08 -
127 第82話:要塞 1094 2 2018-01-13 -
97 第83話:相反 1112 3 2018-01-17 -
93 第84話:特異 1111 5 2018-01-22 -
75 第85話:忌避 1233 4 2018-01-29 -
121 第86話:転生 1287 4 2018-02-06 -
69 第87話:変貌 1285 4 2018-02-14 -
112 第88話:祭典・1 1172 4 2018-02-22 -
82 第89話:祭典・2 1178 4 2018-02-28 -
90 第90話:祭典・3 1182 4 2018-03-10 -
145 18年4月制限について語るようです 1424 4 2018-03-14 -
86 第91話:閉幕 1108 4 2018-03-22 -
118 第92話:令嬢 1125 4 2018-03-31 -
103 第93話:共闘 1146 4 2018-04-07 -
125 第94話:古豪 1012 3 2018-04-15 -
76 第95話:護心 1006 2 2018-04-19 -
58 番外編:裏話 1169 4 2018-04-29 -
130 第96話:転機 1199 4 2018-05-03 -
118 第97話:敬意 1026 0 2018-05-13 -
69 第98話:遺托 1073 4 2018-05-17 -
120 番外編:青春 1205 2 2018-05-23 -
127 第99話:疾駆 1186 6 2018-06-12 -
127 遊大たちが18年7月制限について語ります 1037 0 2018-06-14 -
140 第100話:戦士 1058 0 2018-06-19 -
118 第101話:懐古 1067 2 2018-06-24 -
59 第102話:降竜 940 0 2018-06-30 -
45 第103話:乱入 951 3 2018-07-06 -
122 第104話:奮起 1155 0 2018-07-15 -
65 第105話:白翼 1051 0 2018-07-22 -
117 第106話:夢境 1334 3 2018-07-30 -
103 第107話:紫苑 1107 4 2018-09-12 -
77 遊大たちが10月制限について語ります 1054 2 2018-09-14 -
113 第108話:猛毒 1168 2 2018-09-17 -
68 第109話:変身 981 2 2018-09-21 -
81 第110話:共闘 1025 4 2018-09-25 -
83 第111話:油断 844 2 2018-09-27 -
102 第112話:浸食 1136 2 2018-09-30 -
55 第113話:神意(修正・再掲版) 968 2 2018-10-03 -
98 第114話:忍者 939 2 2018-10-06 -
73 第115話:継承(修正版) 933 3 2018-10-08 -
69 第116話:征圧 914 2 2018-10-10 -
128 第117話:両雄(修正版) 990 3 2018-10-15 -
94 第118話:負担 911 2 2018-10-17 -
91 第119話:確信 904 2 2018-10-20 -
95 第120話:無限 965 4 2018-10-22 -
105 第121話:必然 857 2 2018-10-25 -
101 第122話:悲劇 1038 2 2018-10-28 -
124 第123話:鬼気 977 2 2018-10-31 -
66 第124話:捕食 954 3 2018-11-02 -
120 第125話:一輪 975 2 2018-11-05 -
126 第126話:後悔 1070 3 2018-11-07 -
76 第127話:神話 971 2 2018-11-10 -
108 第128話:仮説 1070 3 2018-11-12 -
72 第129話:伝心 1033 3 2018-11-14 -
95 第130話:対立 1036 2 2018-11-16 -
112 第131話:残酷 973 3 2018-11-18 -
99 第132話:涙雨 1018 3 2018-11-20 -
90 最終章予告 898 3 2018-11-21 -
106 番外編:歓喜 958 5 2018-11-22 -
91 第134話:決戦・1 927 2 2018-11-23 -
68 第135話:決戦・2 985 2 2018-11-25 -
94 第136話:決戦・3 1373 2 2018-11-27 -
77 第137話:決戦・4 967 3 2018-11-28 -
82 第138話:決戦・5 1025 3 2018-11-30 -
71 第139話:覇王 1063 3 2018-12-02 -
71 第140話:精霊 1154 3 2018-12-04 -
113 第141話:落涙 995 4 2018-12-05 -
106 第142話:命脈 1031 3 2018-12-07 -
52 第143話:終焉 989 3 2018-12-08 -
106 第144話:帰還 1053 3 2018-12-10 -
82 遊大たちが19年1月制限について喋ります 1111 3 2018-12-11 -
83 第145話:三様 1045 2 2018-12-12 -
99 第146話:光明 887 2 2018-12-15 -
103 第147話:竜星 970 3 2018-12-16 -
97 第148話:斬撃 913 3 2018-12-18 -
104 第149話:神竜 908 3 2018-12-20 -
78 第150話:新竜 879 3 2018-12-21 -
100 第151話:共鳴 884 3 2018-12-24 -
101 第152話:前夜 986 3 2018-12-25 -
90 第153話:星竜・1 970 3 2018-12-28 -
85 第154話:星竜・2 974 3 2018-12-29 -
99 第155話:星竜・3 1041 3 2018-12-31 -
111 エピローグ:雪夜 1278 6 2019-01-01 -
76 番外編:甘露 977 2 2019-02-14 -
86 遊大たちが19年4月制限について喋ります 904 3 2019-03-12 -
44 エイプリルフールに間に合わなかったので 779 0 2019-04-01 -
88 番外編:夏想・1 788 4 2019-04-17 -
88 番外編:夏想・2 843 2 2019-04-19 -
87 番外編:夏想・3 607 2 2019-04-22 -
83 番外編:夏想・4 874 2 2019-04-25 -
88 番外編:夏想・5 796 0 2019-05-01 -
67 番外編:師弟・1 747 2 2019-05-04 -
80 番外編:師弟・2 763 2 2019-05-08 -
66 番外編:師弟・3 707 0 2019-05-13 -
89 番外編:師弟・4 731 2 2019-05-17 -
58 番外編:師弟・5 751 3 2019-05-21 -
59 10万アクセス記念企画 875 4 2019-09-24 -
78 番外編:聖夜 1148 2 2019-12-25 -

更新情報 - NEW -


Amazonのアソシエイトとして、管理人は適格販売により収入を得ています。
Amazonバナー 駿河屋バナー 楽天バナー Yahoo!ショッピングバナー