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Ⅰ:邂逅 作:グレイ

 人も行き交う午前9時、曜は土。道行く人には子連れも見え、束の間の青天に心を躍らせているようである。
 この快適な日和に栞はオフではなくオンとして外を歩いていた。ある日に店長から届いたメッセージにより、休日のはずの今日職場へと駆り出されてしまっている。職場に嫌気は無いが、突然に近い予定を他社に変更されるのは残念でならない。そんな不満足な思いで彼女は到着した。
 田舎とも都会とも言えず、かと言って中間であるとも言い難く少しは都会の要素を持っているこの町には珍しい、個人経営のカフェ。それが栞の職場である。開店前の仕込みをする店長に向かいおはようございます、と一言送る。

「おはよう栞ちゃん。急に来てもらって悪いね」
「晴ちゃんが急用だっていうなら仕方ありませんよ。でも月曜日にはみっちり働かせてくださいね」

 シビアだね、という言葉を背に栞は更衣室へと向かう。早々と着替えを済ませ、開店準備をしていると、店長が声を掛けてきた。あの子と知り合いか、と入口を指さすので、首を従える。そこには開店前にも関わらず、店内を見つめて離さない少女がいた。
 別に知り合いでは――と言いかけた瞬間、少女の顔立ちに見覚えを感じた。気を止めたが最後、栞の脳がその見覚えの正体の最適解を少女自身に届けさせたのである。嗚呼、それは先日男達に絡まれていたあの少女に間違いない。合点が行ったのは店長にしても明白である。店内もとい栞から目が離れない少女に、視界に入っていない彼は声を掛けた。

――――

「あの時は本当になんとお礼を言っていいか……」

 開店まではまだ時間があるから大丈夫、という店長の気遣いに甘え、栞と少女は初めて言葉を交わす事となった。少女は栞よりいくつか年下のようであり、買い物袋を提げていた。
 お礼なんて要らないよ、と栞に言われるも少女の気は収まってはいないようである。

「そういえばまだ名乗っていませんでした……私の名前は、聖、といいます」
「聖ちゃんか……ええと、私は栞。よろしくね」
「栞さん、やっぱり後日何かお礼をさせてください。私はこのままでは気が収まりません」
「私がデュエルしたかっただけだし、別に良いんだけどな……」

 なかなか引き下がる気がない聖に苦笑を見せる栞。しかし聖は栞が発した言葉にはっとなり、左腕のデュエルバンドを見つめていた。

「いえ、必ずお礼はします。そうだ、連絡先を交換しませんか」
「連絡先を?」
「はい、デュエルバンドのID。これをお互い登録して連絡が取れますよね?」

 嗚呼、そういえばそんな機能もあったような気がする。栞は了承したが、肝心のIDの表示のさせ方を知らず、色々デュエルバンドを操作するものの、期待に副う結果は出ない。聖は思わず微笑した。

「IDはですね、ここのアイコンをタップするんです。そうするとこの画面が出てくるので、――はい、これでお互いに連絡が取れます」
「おお、なるほどこんな感じなんだ……教えてくれてありがとね」

 二人が話しているうちに、ふと時間表示を見ると10時前。開店の時間が迫っていた。そろそろね、と店長に言われたのでここらで切り上げることにした。

「店長さん、本日は開店前にも関わらずありがとうございました」
「どう致しまして。栞ちゃんと仲良くね」
「栞さんも。本当に今度お礼をさせて頂きますからね」
「はいはい。それじゃ、またね」

 偶然の休日出勤のおかげであの少女と再会できたというのは、何かの運命なのかもしれない。栞はそう感じていた。
 時刻は十を迎えた。ここからがカフェ『桃色』の営業開始である。栞はやって来る客達に手際よく、愛想よく仕事をこなしていくのであった。

――――

 その日の夕方、職場から帰還した栞は自分のデッキの調整をしていた。これが彼女の日課であり、これによりいつでもベストコンディションでデュエルが可能となっている。モンスターカード・魔法カード・罠カード――――考える余地は大いにある。
 ふと、自身のデュエルバンドから着信音が鳴り響く。少しの間何の音だか判別できないでいたが、それに気が付くと、なるほどデュエルバンドによる連絡とはこういうものなんだ、と感心していた。栞は受話をタップした。

『こんばんは、栞さん。早速今日なんですが電話かけさせていただきました』
「や、聖ちゃん。もしかしてお礼の話?」
『そうではないんです。実は、あの、まだお礼もできていないんですが、お願いがあるんです』
「お願い?別にいいよ、何かな」
『私と、デュエルしてください』
「勿論!デュエルならいつでも歓迎だよ」

 今は近くにいないからできないけどね、と栞は言うが、聖は『IDS』の存在を栞に教えた。近年羽島グループという企業に開発された、遠く離れている相手でもデュエルバンドのIDを登録した相手とデュエルを行えるシステム、『インターネット・デュエル・システム』の事である。
 さらに、デュエルバンドには投影機能があり、自宅の壁などをスクリーンとしてデュエル中の様子を映像で見ることができるということも説明された。

『ということなので、栞さんさえ良ければ今お願いしたいんです』
「そんな便利なシステムがあるなら、やらないわけにはいかないね。全力で行くよ!」
『よろしくお願いします!』

 日課で先ほど調整していたデッキをセット。二人は臨戦態勢に移った。

「『デュエル!』」

――――

 ディスプレイには、先攻プレイヤーとして聖の名が記される。

『私のターン。モンスターをセット、カードを2枚セット。ターンエンドです!』

 聖はモンスターを裏側守備表示で召喚した。攻撃表示で召喚しないということは、何かあると栞は睨む。

「私のターン、ドロー!手札から《破魔獣マルチプリー・マウス》を召喚!」

 栞がモンスターを召喚すると、自室の壁に小さな鼠のモンスターが出現する。これは新鮮だ、と栞は興奮する。

「《マルチプリー・マウス》が召喚に成功した事で、デッキの自身以外の破魔獣1体を手札に加えられる」
『召喚時にデッキのモンスターを……!』
「私は《破魔獣ハイド・ヘア》を選択。そしてバトルフェイズ!このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる、《マルチプリー・マウス》でダイレクトアタック!」

 攻撃力500の小さな鼠はその身軽さで守備表示モンスターを通り抜けて直接攻撃――と思いきや、鼠は突然ブクブクと大きくなってしまった。栞も驚愕して声を漏らす。

『トラップカード、《肥大化》。相手のモンスターの攻撃力と守備力を倍にすることで、直接攻撃をできなくさせます!』
「攻撃宣言を行ったからモンスターに攻撃変更もできないか……やるね。私もカードを1枚セットしてターンエンド!」
『私のターン、ドロー!《魔装機関車 デコイチ》を反転召喚、そのリバース効果を発動!私はデッキからカードを1枚ドローする』
「そのために裏側で召喚してたのか……」
『さらに《デコイチ》をリリース、《デトネート・ゴーレム》をアドバンス召喚!』

 機関車を生贄に現れたのは、腕が噴出口になっている土巨人。その攻撃力は2500であり、体躯は漆黒に染まっていた。

『バトルです!《デトネート・ゴーレム》で《マルチプリー・マウス》を攻撃!』
「そうは行かない。破魔獣が攻撃を受けるダメージ計算時、《破魔獣ハイド・ヘア》の効果発動!その戦闘による破壊とダメージを無効にし、このカードを手札から特殊召喚できる!」

 鼠に攻撃を向けた土巨人の拳を遮ったのは兎。鼠の姿は見当たらなくなり、土巨人は攻撃を中止した。元のフィールドに戻ったのち、土の下から鼠が姿を現した。

『そう簡単には通してくれませんよね。それならカードを2枚セット。ターンエンド!』
「私のターン、ドロー!フィールドの《マルチプリー・マウス》と《ハイド・ヘア》をリリースし、《破魔獣サンバー・シープ》をアドバンス召喚!」

 薄暗い闇を纏った羊が、鼠と兎を踏みつけ召喚される。すると忽ち、その闇が土巨人へと向かい、巨人を苦しめる。

「《サンバー・シープ》が召喚・特殊召喚に成功した場合、相手モンスター1体の攻撃力をそのターン0にする事ができる」
『それならその前に……トラップカード、《デストラクト・ポーション》!自分フィールドのモンスター1体を破壊し、その攻撃力分、自分のライフを回復します!』

 闇に覆われた土巨人は、闇を振り払うように自爆し四散した。そのエネルギーの残滓が聖のライフを増加させる。

「でもこれでフィールドはがら空き」
『これで終わりじゃありません、《デトネート・ゴーレム》のモンスター効果発動!相手モンスター1体を破壊し、その攻撃力分――《サンバー・シープ》の攻撃力2500分のダメージを与えます!』

 闇の大穴が開き、墓地へ送られた土巨人の腕が現れ伸び、羊を握り締める。道連れに破壊され墓地へ行くと思いきや、羊はその力により土巨人の拘束を解いた。聖はたまらず驚愕の声を上げる。

「《サンバー・シープ》は墓地の破魔獣を破壊の身代わりにする事ができる。《ハイド・ヘア》を除外して破壊を無効にしたんだ」
『防ぎましたか……』
「そんな大ダメージ受けたら危ないからね。《サンバー・シープ》でダイレクトアタック!」

 栞の攻撃命令を受けた羊は疾走し、その体を衝突させた。その戦闘ダメージは2500――ではなく3000であった。思わず栞は困惑の表情を浮かべる。

『トラップカード、《エネミー・チャージャー》。これは相手モンスター1体の装備カードとなり、攻撃力を500アップさせます』
「私のモンスターを……?」
『それによりこのカードを発動できます。速攻魔法、《ヘル・テンペスト》!自分が3000ポイント以上の戦闘ダメージを受けた時に発動でき、お互いのデッキ・墓地のモンスターを全て除外する!』
「何だって!?」

 デュエルフィールドに爆炎が巻き起こる。二人のデッキと墓地に眠るモンスターの魂は、次元の奥に追放され無残にデッキは削られた。

「仕方ない……これでターンエンド!」
『私のターン、ドロー。速攻魔法、《大欲な壺》を発動!除外されているモンスター3体をデッキに戻してシャッフル。その後1枚ドローします』
『よし!手札の《トーチ・ゴーレム》は、自分フィールドにトーチトークン2体を特殊召喚する事で、相手フィールドに特殊召喚される!』

 頭部が鋸である巨人の、小さいもの2体が聖の前に、大きいもの1体が栞の前に召喚された。

「これは……!?」
『さらに魔法カード、《所有者の刻印》を発動!フィールドの全てのモンスターのコントロールは、元々の持ち主が得る。トラップカード《エネミー・チャージャー》の効果を発動!自分フィールドのモンスター2体をリリースする事で装備モンスターのコントロールは移ります!』

 モンスター、魔法、罠。3枚のカードの組み合わせにより、聖の場には攻撃力3000のモンスターが2体並んだ。

「トーチ・トークンを呼び出したのはこのためか!凄いコンボだ……」
『これで栞さんのフィールドはがら空き。バトル!《サンバー・シープ》でダイレクトアタック!』

 聖に奪われた、闇を纏う羊による体当たりが今度は持ち主を襲う。栞は直撃を食らってしまう。普通のデュエルとは違い、ソリッドビジョンによる危険なダメージが発生しないIDSは高く評価されている一方で、物足りなさを覚えるデュエリストも多いとのことである。

『さらに《トーチ・ゴーレム》によるダイレクトアタック!これで終わりです!』
「油断大敵だよ。トラップカード、《破魔の碑》を発動!」

 トラップカードを発動するや否や、栞のフィールドに謎の石碑が出現する。

「《破魔の碑》はトラップモンスター。モンスターゾーンに守備表示で召喚される!」
『っ、それならそのモンスターを攻撃!』
「《破魔の碑》の効果発動!このカードが戦闘または効果で破壊されたとき、破魔獣1体を特殊召喚する事ができる!出でよ、《破魔獣デストロイ・ドッグ》!」

 石碑が砕けし時、巨人と羊を凌駕する大きさの、攻撃力2800である犬が姿を現した。刹那、聖のフィールドに存在していた羊は爆発、四散した。

『!!』
「《デストロイ・ドッグ》のモンスター効果。このカードがフィールドに特殊召喚された時、モンスター1体を選択して破壊できる」
『カードを1枚伏せてターンエンド……!』
「私のターン、ドロー。魔法カード、《破魔の御神札》を発動。墓地の破魔獣1体を除外して、そのモンスターのレベルかける100のダメージを相手に与える!《サンバー・シープ》のレベルは8、よって800ダメージを受けてもらう!」

 羊の魂は次元へと送られ、その力が聖のライフに突き刺さる。

「さらに魔法カード、《ユニコーンの導き》!手札1枚を除外することで、除外されたレベル5以下の獣族・鳥獣族――レベル3の獣族、《破魔獣テイク・タイガー》を特殊召喚!」

 次元を裂いてフィールドに現れたのは、破魔の力を宿す虎である。攻撃力は1700と、レベル3では高めの数値である。

『それでもトーチ・ゴーレムの攻撃力3000には――』
「《テイク・タイガー》の効果発動!1ターンに1度、自分フィールドの破魔獣の攻撃力を、破魔獣の数かける300ポイント上昇させる!2体だからその上昇値は600!」
『《デストロイ・ドッグ》は……攻撃力3400……!』
「バトル!《デストロイ・ドッグ》で《トーチ・ゴーレム》を攻撃!デストロイ・ドライヴ!」

 虎の力によってさらなる強大化を遂げた犬は、鋸刃の巨人に襲い掛かる。

『この瞬間、トラップカード、《魔法の筒》を発動!相手モンスターが攻撃を行った場合、それを無効にし、そのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!』

 相手の攻撃を反射し相手を攻撃するトラップカード。このダメージによって栞のライフポイントは0、よって敗北――とはいかなかった。発動したトラップには、無数の矢が飛んで来、その効果を封じ込めてしまっていた。

「速攻魔法、《破魔の矢》!バトルフェイズ中、相手フィールドの表側表示の魔法・罠カードを無効にし破壊する!」
『そ、そんな……』
「そして《テイク・タイガー》のダイレクトアタック!テイク・ターゲット!」

 攻撃力が2300となった破魔の虎の一撃によって、聖のライフポイントはちょうど0となり、デュエルは幕を閉じた――。

――――

『栞さん、強いですね……負けました』

 デュエルに敗れ、意気阻喪といった感じが通話越しに伝わってくるようである。

「グッドゲーム!楽しかったよ、聖ちゃん。しかしどうして私とデュエルを……?」
『実はですね、前に絡まれてしまった時、竦んでしまって……自分に自身を持てたら、自分で自分を守ることができるんじゃないか、と考えていたんです』

 栞は先日の事件の時、少女もデュエルバンドを構えようとしていたことを思い出した。

『今回のデュエルをバネに、また自分を鍛えてみます。今日はわざわざありがとうございました。お礼の話はまた後日させていただきますね』
「お礼は何もしないこと、っていうのじゃ駄目……?」
『駄目です。絶対にお礼はさせていただきますからね!』

 聖には意地っ張りなところがあるようだ。栞は折れて、お礼を受け取ることを伝え、少しして通話を終了した。
 ふと、店長の事を思い出した。店長とは携帯電話で連絡を取り合っていたが、デュエルバンドで登録しておけばデュエルも行えて便利ではないか。栞は早速店長にメッセージを送る。
 デュエルを始める前はまだ夕焼けが差し込んでいたが、今ではすっかり朧月の夜となっていた。
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