88 尽きぬ欲望、暗躍のカードコレクター　作：ギガプラント

（クリスティアホール内部）


ホール内のとある一室。

中には明日の公演につかう様々な道具や衣装が並んでいる。


超人的な身体能力とアインヘリアル特有の力を使い、
多くの警報を潜り抜けた双葉は、漸くこの部屋まで辿り着いた。

明日の作戦ではアブソーバーの存在が不可欠だが、
ここ最近の彼女等の行動によって大幅に強化されているであろう明日の警備規模では、中に持ち込むのは難しい。
よって前日の内に内部へと運び込んでおく作戦である。

平留の指示によりこの部屋の一角にアブソーバーを運び終えた双葉が、ほっと一息ついた瞬間…



双葉（えっ……！？）



双葉（何、この嫌な感じ……。）


双葉（感じる力が……弱まって……。）



双葉「アリス……ヴァルト…？」


大部屋を後にする双葉。


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ヴァルト「うっ……！」


目を覚ますヴァルト



ヴァルト（アリス……様。）


フラフラと立ち上がり、倒れたアリスの方へゆっくりと歩いていく。



アリス「…ヴァル、ト。」


ヴァルト「はい…。」


アリス「あたし……あたし…ね？」


ヴァルト「……はい。」


アリス「あたし……ずっ…痛っ！！！」


ヴァルト「アリスさ……ぐうっ！！？」


頭を押さえながら蹲ってしまうアリス。
ヴァルトはその背中を支えながらも、自身にも襲い掛かってくる激しい頭痛に耐えている。


アリス「うぅ…！な、なによ…これぇ…！！」


ヴァルト「頭の中に………何かが…！」



奏「えっ！？ちょっと二人とも……！？」



アリス「っ！……な」


ヴァルト「…これは、」


痛みが引いたのか呻く様子は無くなるが、何かに驚いた様子で顔を見合わせる。


アリス「はは……なに、これ……どうしてあたし今まで…。」


ヴァルト「…これが、私達の真実のようです。」


アリス「なんなのよ……結局最期までこんな、馬鹿みたいじゃない…ｸﾞｽｯ」


アリス「やっぱりあたしは……一人ぼっ」
ヴァルト「………………」


アリスの小さな背中をそっと抱きしめるヴァルト。






アリス「ヴァルト…？」


二人の身体は光に包まれる。
そしてその身体そのものも光へと変わっていく。


ヴァルト「私には、もう何もできません。無能な使用人で申し訳ありません。」


ヴァルト「アリス様……。」



ヴァルト（彼女に仕えても、私はなんの贖罪も果たせはしなかったように思います。）


ヴァルト（これでよかったのでしょうか、アリサ様…。）



アリス「ヴァルト…。」


ヴァルト「ですがせめて…貴女が眠るその時まで、御傍に居させて下さい。」


アリス「ヴァ……ルト…。」





アリス「うわああああああぁああああああん！！！！」

アリス「独りぼっちはもう嫌だ！！寂しいのは嫌だよおおお！！！」

ヴァルト「はい。」

アリス「消えちゃう……もう消えちゃう！消えちゃう消えちゃう消えちゃう！！！」


ヴァルト「はい…。」


アリス「なんでよ……なんだったのよ！！アタシは一体なんの…なんの……。」


ヴァルト「もういいのです……全て終わったのですから…。」


アリス「ううぅ……。」



抱きしめる力を少しだけ強くする





ヴァルト「いつまでも、こうしています。」


アリス「…ほんとに？ずっと？」


ヴァルト「はい。ずっと。」




アリス「そっか…………。」




アリス「なら………いいかな。」





アリス「ヴァルト……だいすｋ」



一瞬だけ笑顔を浮かべた後、二人の形をした光は完全に天へと昇りきる。




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フードの男「…………」


フードの男（二人とも消えた…？これも力の一種でしょうか…？）


フードの男（どうやら彼等は私と同じ力を……このカードを持っていた様子。私同様人智を超えた力を持っていても不思議は無いですか。）

懐から一枚のカードを取りだして見つめる。


フードの男（それにしても、これほどの力を持っているのにも関わらず敗北を喫するとは…なんとも情けの無い。）


フードの男（やはり価値あるものはそれを使いこなせる者にこそ相応しい。）



フードの男「しかし惜しい事をしましたね。彼等の持つ力も頂こうと思ったのですが…まぁ今回は諦めましょう。」


フードの男「…今、目を向けるべきは。」


ホールの上から奏達を見下ろす。



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奏「な、によ……これ。」


奏「二人とも、何処に行っちゃったわけ…？」


奏（それに何これ…まるで最初から誰もいなかったみたいな…。）






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奏「ゴミはキチンとゴミ箱に。ご両親にそう教わらなかった？」


アリス「はぁ？誰よアンタ？」


奏「通りすがりのお姉さんよ。それよりもほらアレ。」


アリス「五月蠅いわね、急に突っかかってこないでくれる！？」


奏「突っかかれるような事をするからそうなるのよ。貴女がちゃんとゴミを捨てれば何も言わないわよ。」


アリス「今すっごくイライラしてんの！早くそこどきなさいよ！！」


奏「イライラしてるなら猶更早く言う事聞いた方がいいんじゃないの？」


アリス「あぁ～っもう！！！」


ズカズカと歩き、再度拾った紙パックを思いきり屑カゴに叩き入れる。



アリス「これでいいんでしょこれで！！！」


奏「宜しい。次からは言われる前からちゃんと捨てる事。」


アリス「一々説教しないで！！どっかいけバーカバーカ！！」



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奏（いや、そんな筈あるわけがない…。）


奏（あるわけないのに……）






奏「っ！ボーっとしている場合じゃない！光輝っ！」


奏（意識は無いけど息はしてるし、怪我している様子もない。）


奏「兎に角落ち着いた場所まで運ばないと……私だけじゃコイツ運べないし、何処かから人を…。」






フードの男「エクセレント。」



いつの間にか飛び降りているフードの男



奏「誰っ！？」


フードの男「いやはや素晴らしいデュエルでした。あの大型モンスター２体をねじ伏せるとは、中々良いカードをお持ちのようです。」


奏「……！」


奏「あなた一体…！」


フードの男「私はしがないカードコレクターです。それ以上の説明はいいでしょう。」


奏「…確かに、今はそんな事はいいわ。お願い、手を貸してほしいの。こいつを安全なところまで運ばなくちゃ…」


フードの男「生憎と…私はそこまで暇ではありませんので。」




奏（なんなのこいつ……チンピラってわけじゃなさそうね。）



フードの男「それに、今に貴女も同じようになりますよ。」


奏「………！？」


フードの男「貴女の強力でレアなモンスター、実にエクセレント。是非とも我が手中に収めたい！」


奏「はぁ？コレクターだかなんだか知らないけど今それどころじゃないの！」


奏「…早く人を呼んでこないと。」

フードの男「人など呼べる筈がないではないですか。」



辺り一面を禍々しい気が包み込み、ドーム状に広がる。



奏「何これっ！？？」


奏「霧っ？でもこんな急に……」


フードの男「ご安心ください。この結界はデュエルが終わればすぐに無くなりますので。」


奏「結界……それにその恰好…まさか！」


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大駕「…手練れなどであるものか。」


光輝「えっ？」


大駕「奴は……デュエリストとして、否…人間としても風上にすら置けぬ輩じゃよ。」



大駕「あんなに性根の腐りきった奴は初めてじゃわい…！！！」


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奏「アンタ…大駕のカードを奪ったっていう…！」


フードの男「ふむ、どうも有名になってしまったようですね。」


奏「アンタが……皆のカードを…！」



奏「人を使って複数人で襲い掛かるなんて！いい大人がこんな事して恥ずかしくないわけ！？」


フードの男「私は自分の夢に向けて行動しているだけです。そこに何を恥じる事がありましょうか？不思議な事を言いますね。」


奏「何が夢よ！夢ってのはね、他人から奪い取って叶えるもんじゃないの！」


フードの男「他人の夢を笑えるとは随分と傲慢な方ですね……何を言われようと、私には崇高なる輝かしい夢そのもの。理解できない乏しい感性の貴女に同情致しますよ。」


奏「そんな腐れきった方法で叶えた夢、カード１枚分の価値もないわ！モリンフェン以下よ！！！」


フードの男「………」


フードの男「どうもお喋りが好きなようで……言いたい事があるのならデュエルで語って下さい。」


デュエルディスクを構える男。


奏「…いいわよやってやろうじゃない。一人じゃ碌に戦えもしない臆病者のヘボコレクターになんか負けないんだから。」


フードの男「物の価値も分からない凡人風情がペラペラと…！」



フードの男「いいだろう！」


フードの男「一対一で戦ってあげましょう！私があなたの言うヘボコレクターかどうか、その目で確かめてみなさい！」


奏（ごめん光輝…もう少し待ってて。）



奏「今度は私が…貴方を守る！」




dPhoneモードチェンジ！Ｄパッドモード！



ターゲットロックＯＫ！



ビジョンリンクＯＫ！



ファーストディールＯＫ！



デュエル！！



奏「私の先攻よ！！」




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（？？？）


マヘル「なんだと…それは本当なのか！」



マヘル「まさか……一体誰が…！」


マヘル「くっ…すぐに明日の配置を練り直す！」


部屋を後にするマヘル




平留「騒々しいですね。何か？」


マヘル「アリスとヴァルトが消えた……たった今ラーナが感じ取ったところだ。」


平留「馬鹿な！こんな夜更けに…まさかセキュリティや警備員に見つかったとでもいうのか…！」


平留「あの小娘……何処までも私の脚を引っ張ってくれる…！」


マヘル「やめないか。まだ事情も分からぬ内に。」


マヘル「それに消えたのはアリスとヴァルトのみ、双葉は無事な筈だ。今夜の作戦が失敗したとは限らん。」


平留「セキュリティの人質にでもなったのではなくて？甘くて弱弱しいあの娘ならあり得ない事でもないでしょう。」


マヘル「彼等は皆そこらのセキュリティに負けるような実力ではない。それに……ラーナの力が宿る界精のカードもあるのだ。」


平留「けど消えたという事はその界精を使って尚誰かに負けたということでしょう？猿並みの知能のあの小娘達が退屈しのぎにセキュリティに喧嘩でも売ったんじゃなくって？」


マヘル「いい加減にしないか。彼女等はそこまで無能ではない。」


マヘル「しかし……一体誰が二人を…。」


平留「私はアブソーバーさえ運んでくれればそれでよいのだけれど……全く、やはり最初から私がやるべきだった。」



マヘル（俺達アインヘリアルももう３人になってしまった……。）



マヘル「ラーナ……俺は最後まで諦めはしないぞ。」



マヘル「諦めて……なるものか…！！」




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霧で包まれたドームがゆっくりと晴れ渡っていく。


奏「…………」


ゆっくりと崩れ落ちる奏。


フードの男「……４ターンですか。」


フードの男「この私の攻撃に１ターン耐えただけでもかなりの実力ですよ。エクセレントです。」


フードの男「しかし、己の身の程というものは知っておきなさい。……ん？」


ホールの正面側から車が止まる音がいくつか響く。


フードの男「…おっと、無駄話をしている暇はないのでした。」


フードの男「では………」


倒れた二人に手を翳す。



それぞれ１枚ずつカードが浮かび上がり、吸い込まれるように男の手に渡っていく。



フードの男「あなた方の持つレアカード……しっかりと私が愛でさせていただきますので。」



終









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（次回予告）


夏武斗「舞台なんて…見るの初めてだなぁ。」


夏武斗「なんかパンフみてもよく分かんないっていうか……外国の難しそうな話っぽいんだけど…大丈夫かな？」


夏武斗「でも大迫力のデュエルシーンがあるっていうし、そこは気になるんだよな。」


夏武斗「せっかく蘇芳がくれたんだし、行ってみるとすっか！」


天音「トレジャー歌劇団の公演…何事も無ければいいのですが…。」


夏武斗「次回！『開演！トレジャー歌劇団』」


夏武斗「愛と涙のダイレクトアタック？？？なんだそりゃ？」

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・別にデュエル行程を書くのが面倒くさいとかそんなんじゃないんだからね！勘違いしないでよね！