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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第13話 事件!?

第13話 事件!? 作:にしん

ラーメンを食べた俺たちはカードショップに戻る。親から貰ったデュエル資金でカードを調達しようとしたけど店長は電話で忙しいようだ。


「狙われている、かー」


そもそも<覇王>を信仰する時点で十分怪しい。だけど、宣伝チラシにはそんなこと全く書いておらず、スマホで教団のホームページや口コミを調べても全く出てこなかった。じゃあ何故サーカス団の団員は知っているのだろうか。明日団長かアリシアさんあたりに聞いてみよう。

店長の電話が終わる。俺は早速必要なカードを買うことにした。



―――


 エンタメ王国、帝王教の教会。その礼拝堂では教祖とその側近、そして所属デュエリストたちが今日も祈りをささげている。しかし、ただ祈るだけではなく、エンタメらしく様々な祈りをしている。はたから見ればカオスだろうけどこれが我々のエンタメなのだ。と言わんばかりの教団。

祈りの時間が終わり、デュエリストたちはエンタメの練習や手合わせしに礼拝堂を出た。残ったのは教祖と二人の側近だけ。常に黒いフードを被り、緑の蛍光色と暗い灰色のマントを羽織ったのが教祖である。


「・・・さて、報告を聞こうか」


教祖が杖型のデュエルディスクを白いファーを羽織った真っ白いスーツの女に向ける。その女は翼を広げるようにファーをなびかせた。


「ボウヤがいつも行ってるカードショップを特定しましたわ。近いうちに乗り込みますの」

「穏便にお願いしたい。次」


次に杖を向けたのは大剣っぽい機械を背負った灰色の髪をした大男。その男は何本もの剣を周辺に立て、祈りを捧げていた。


「特になし。命があるまで待機する」

「・・・相変わらずいい意味で従順だな。こほんっ。我からは本人と偶然出会ったのだよ」


教祖の言葉に驚愕する二人。だけど、ファーの女は翼の形をしたサングラスを指でクイッと上げて首を傾ける。


「あれ?作戦が違うような気がしますが・・・」

「ああ。美味なラーメンを食べて、サーカスの犬どもがいたから実行しようとしたときに現れたからな」

「ラーメン・・・ということは身バレしちゃったってコト?」

「これで警戒が更に強くなるだろう。今まで以上に慎重に進めよ」

「りょーかいっと。魔剣のボーイもいくわよ」

「・・・承知」



―――


 翌日。日曜日だ。今日も休日。ただサーカスの講義は自由参加で行われているらしい。もちろん俺は受けに行く。

実感ないけど狙われているんだよな俺。念のため周囲を確認しながら駅へ行く。すると一人の男が俺を見つけるや否や、駆け寄ってきた。


「よう、遊飛。お前も講義行くのか?」

「翔くん!そうだよ」

「っしゃ、ちょうど電車来る頃だし行こうぜ」


どうやら同じ駅。ということは案外近所かもしれない。翔くんの格好はやっぱりRRを意識した黒い羽根の装飾が施されたタキシードっぽいフェザーコート姿だった。デュエルディスクやデッキケースも黒い。


・・・


サーカスに到着する。俺は先に例の教団の事について聞くため、講義を受ける建物ではなくサーカスへと行く。


「ん?おーい遊飛、講義はこっちじゃねえぞー?」

「ちょっと用事が」

「ほう。んじゃまたな」


今日は休みなので正面入り口は開いていない。なので少し回り込んだところにある団員専用入り口に行く。そこにはもちろんセキュリティがかかっていて、団員証がないと入れない。だけど、その扉は開いていた・・・というより、破壊されていた。


「なっ!?」


少しだけ焦げ臭い。そして所々に落ちている白い羽根と焼けたカード。とりあえず非常事態が起きているのは確かだが、警報が鳴っていないのも気になる。

・・・入っていいんだよな。開いてるし。俺は走った。


所々に落ちている白い羽根を辿ると、団長室で途切れていた。声が聞こえる。俺は扉をそーっと開ける。そこには団長はいない。だけど、白いファーを羽織った女の人が何かを探すように漁っていた。床にはカードがばらまかれている。そして壁の方には・・・


(ミミカちゃん!?こ、このカードはチアブルームの・・・)


床にばらまかれているカードはミミカちゃんのカード。そしてミミカちゃんは縄で縛られ、銀色のガムテープか何かで口を塞がれていた。身動きが取れないように足首も縛られている。一体何が起きたんだ。

俺は廊下で足音が聞こえるのを感じた。一旦隠れよう。団長室近くにトイレがある。俺は静かに男子トイレに入り、廊下を見張る。歩いてきたのはマントを羽織った男とスーツ姿の女性。団長とアリシアさん。よく見るとデュエルディスクをつけていた。団長室の前に立つと、団長だけが俺が隠れているトイレに近づいてきた。


「虹くん、いるんだろう」

「!?」

「そのまま隠れてて。敵の正体はまだ分からないけど、何となく狙いはわかるから」

「・・・覇王烈竜か」

「恐らくは」


団長は団長室の前に戻ると、扉を一気に開けた。そしてデュエルディスクを構える二人。


「あら、もう来ちゃったわけ?まぁでも、用事は済んだし、とりあえずこの子はいただいちゃうわね~」

「させません!<デモンズ・チェーン>!」

「<虹翼の紙吹雪>!」


団長室が眩しい虹色の光に包まれる。そして風と共に舞う紙吹雪や白い羽根、そしてチェーン。デュエリストが人間に対してカードを発動するのは非常時のみ。一体何が起きているんだ。その瞬間、団長室からものすごいスピードで1匹の大きな鳥が飛び出した。その鳥に乗っていたのはあのファーの女と縛られたミミカちゃん。


「誘拐!?ま、待てっ・・・」


追うにしてもあのスピードでは到底追いつけない。団長室の光が落ち着くと、団長とアリシアさんは尻もちをついていた。家具が散乱しているということはあの鳥が飛ぶときに風が吹いたのだろう。


「逃がしたか・・・」

「団長、彼女はいったい・・・」

「あの姿は恐らく要警戒の<帝王教>の幹部。もう狙ってくるとは少々予想外だな・・・」


団長とアリシアさんは団長室を簡単に片づけ、ひとまず場を落ち着かせた。俺はばらまかれたカードを拾った。メインデッキ40枚、エクストラ0枚、サイドデッキ5枚。果たしてこれがミミカちゃんのデッキの完成形なのかは分からないが、とりあえずはルールに則った枚数はあった。


「さて虹くん」

「はい!?」

「とりあえず・・・ありえないとは思うけど帝王教の幹部は頭が悪いらしい。しばらくしたら手紙が届くだろうからそれまで待機するように。元気だけど単独で動きそうだし一応」

「ま、まぁ・・・そんなアニメみたいなことはしたくないです」


アニメだとよく敵の組織やらに突入するけど俺はあくまでも一般人だし、そんなことはできない。大人の人に任せるしかない。


「・・・でも、アニメみたいにミミカさんが攫われたことだし虹くんにも突入してもらうよ。まぁ、あっちの考えることはわかる気がする。だよね、アリシアさん」

「まぁ、帝王教らしいアニメチックな方法ですわ」


数十分後。団長の言う通り、サーカスあてに1通の手紙がどこからもなく届いた・・・というより、白い小鳥がその手紙を運んできた。さっきのファーの女の鳥だろうか。団長はその手紙を広げる。


「封筒に入れてないあたり相当アホだなぁ」

「あはは・・・紙も爪で傷だらけだ」


>メルティオールサーカス団諸君

君たちのかわいい小娘はいただいたわ。返してほしくば<覇王烈竜>の持ち主を我が教会に差し出すのよ。明日までに来なければ・・・わかってるわよね?


差出人は書かれていなかったものの、数十分前の出来事やらのせいで差出人、所属組織等色々バレバレだった。


「ね。言った通りでしょ。さて・・・アリシアさん」

「はい。すでに準備は完了していますよ。虹くんもついてきてください」


アリシアさんと団長についていく。会議室と書かれた場所に着く。アリシアさんが扉を開けると、そこにはローラさん、モニカさん、サラさんと団員が集結していた。更には翔くんたち所属デュエリストも壁際に立っていた。


「おっ、主役がきたな」

「やっと来たねー」


俺が会議室に入った瞬間、翔くんとローラさんが真っ先に俺に気づいて声を上げた。アリシアさんに壁際に行くようにジェスチャーされた。

会議室中央の円形に組まれた机とその中心には投影機のようなものがある。団長は反対側の壁際にあるパソコンを操作すると、その投影機から画面が浮かび上がった。なんだか未来的っぽい。


「よし、今回の作戦メンバーは集まっているね。とりあえず言えることは組織と組織の衝突にはしたくないから突入自体は少数で、そこから敵が逃げられないように周辺に待機という形にしたい」


画面には帝王教の建物とその周辺の詳細情報。そしてデュエリスト配置予定のマーカー。なんだか本格的な作戦っぽいぞ。これはわくわくする。隣に立っている翔くんや他のデュエリストも・・・いや、緊張の面持ちをしていた。

とりあえず相手はアホなので団長と俺と他数人だけで一般客を装って突入。EMSカードを応用した、ローラさんがしていた変装カードで変装して潜入をする。そして対象と出会った場合は2~3VS1のデュエル。例外が起きた場合は外で待機しているデュエリストも潜入。

ただ相手はミミカちゃんのロックバーンを倒した実力はあるということ。一体何のデッキを使うのだろうか。


「今回の敵である幹部が使うデッキは恐らく<SS>。黒羽くんのRRと似たような戦法のはずだよ」

「おっ、楽しそうだな。どっちの鳥が疾(はや)いのか・・・」

「その性質上、黒羽くんも突入班だよ」

「やったぜ!遊飛と一緒なら絶対勝てるな」

「心強いぜ」

「さて、準備ができたら出発するからみんなよろしく」



―――


その頃、帝王教の教会、礼拝堂では。


「ちょ、白鳥よ・・・さすがに強引すぎやしないか?」

「あら?私的には慎重かつ大胆だと思いますわ?」

「こ、これじゃ完全に我らが悪者ではないか!」

「ちょっとぐらい強引な方があのボウヤも来てくれるじゃな~い?」

「強引すぎだ!全くお前はいつもいつも・・・」


困っている教祖と白いファーの女が言い合っていた。それを席から眺めている攫われたミミカ。この様子に叫ぶことも忘れていた。


(な、なにやっているのよ・・・)


口のテープ、縛っていた紐は全て取れている。鳥に乗せられている時に外れたけど何故かそのままここまで運ばれてきた。その気になれば普通に逃げれる気がする。というか逃げよう。そう思ったミミカはこっそりと出口に向かって歩き出す。その時、大剣を持った大男が礼拝堂に入ってきた。


「やば・・・」

「・・・・・」


その男はミミカを一瞬見るや、何も言わずにそのまま言い争う教祖たちに向かって歩き出した。それを見たミミカはこっそりと礼拝堂を後にした。
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