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虹彩竜と歩むもの/第118話:負担 作:光芒






《拮抗勝負》
通常罠
自分フィールドにカードが存在しない場合、このカードの発動は手札からもできる。
(1):相手フィールドのカードの数が自分フィールドのカードより多い場合、自分・相手のバトルフェイズ終了時に発動できる。自分フィールドのカードの数と同じになるように、相手は自身のフィールドのカードを選んで裏側表示で除外しなければならない。

「拮抗勝負……まさか、何もしなかったのは」
「気付いたようね。私が何もせずにいたのは……このカードの効果を最大限に発動するためよ」

 拮抗勝負は手札から発動できる罠カードだけど、その発動タイミングはバトルフェイズ終了時に限られている。だから紫苑は機を待ち続けた。このカードの効果が最大限に活きる機を。
 拮抗勝負が存在する時点で紫苑のフィールドにはカードが1枚存在することになる。そのため美鈴は自分フィールドのカードが残り1枚になるようにカードを選んで裏側表示で除外しなければならないのだ。

「そしてそれに加えて私は三つ。三つの条件をクリアする必要があったのよ」

 紫苑はそう言って左手の人差し指、中指、薬指を立てて三の数字を表わす。

「三つの条件?」
「一つ目はこのカードを手札に引き入れること。あなたのデッキはWWモンスターで耐性を得たクリスタルウィングに黒の魔導陣と永遠の魂のコンボが強力無比なブラック・マジシャン。少しでも隙を見せればこちらは手も足も出なくなる。そういった状況を1枚でゼロに戻せる拮抗勝負はあなたの全力のデッキに勝つためには必要不可欠なカードと言ってよかったわ」

 一つ目の条件である拮抗勝負を手札にいち早く引き入れる。それを満たすために紫苑はリスクの大きい強欲で貪欲な壺を使ってまでこのカードを呼び込んだのだ。

「二つ目。それはあなたが早めに幻想の見習い魔導師を使ってくれること」

 幻想の見習い魔導師は闇属性・魔法使い族限定ではあるが、ダメージ計算時に攻撃力・守備力を2000ポイントアップさせる効果を持っている。ダメージ計算時に発動できるコンバットトリックと言えば光属性のサポートであるオネストが存在するが、その強さを知っていればこのカードがあるかないかでは大きく変わってくる。
 紫苑からしてみれば、あの時ガダーラでブラック・マジシャンを攻撃したのはダメージ目的ではなく、美鈴の手札に幻想の見習い魔導師が存在するかどうかを確かめるためだった。もちろんブラック・マジシャンは永遠の魂が存在する限り、毎ターン墓地から蘇生することができるため、幻想の見習い魔導師を温存していればデュエルの結果は大きく変わっていただろう。

「そして三つ目。それはブラック・マジシャンが複数体フィールドに揃うこと」
「……拮抗勝負で私は1枚だけを残して他のカードを全て裏側表示で除外しなければならない……これでブラック・マジシャンをまとめて?」
「そういうこと。さあ、選んでちょうだい。残すカードを。最も……どのカードを残すのかはほとんど決まっているようなものだけど」

 毎ターン手札・墓地からブラック・マジシャンを特殊召喚できる永遠の魂は非常に強力なカードであるが、その対価は当然存在する。表側表示の永遠の魂がフィールドを離れた場合、美鈴のフィールドのモンスターは全て破壊されるのだ。

「私が残すのは……ブラック・マジシャンです」
「では残りのカードを全て裏側表示で除外。そして表側表示でフィールドを離れた永遠の魂の効果。残ったブラック・マジシャンは破壊される」

 わずか1枚のカード、しかも手札から発動する罠カードによって一掃されてしまった美鈴のフィールド。だが、美鈴に勝ち筋が残っていないわけではない。

「さて、拮抗勝負でフィールドをリセットしたのはいいけれど……あなたのその残り3枚の手札にあのカードがあればあなたの勝ちよ。あのカードというのは言われなくてもわかるわね?」

 紫苑の言うカードというのは、美鈴がこれまでずっと愛用してきたWW-アイス・ベルのことであった。アイス・ベルを自身の効果で手札から特殊召喚し、デッキからチューナーモンスターであるグラス・ベルを特殊召喚した上でSモンスターであるウィンター・ベルに繋げれば効果だけで1300のダメージを与えられる。残りライフ1200の紫苑にその効果を受けさせられれば全てが終わる。

「メインフェイズ2。私はモンスターをセット。カードを1枚セット。これでターンエンドです!」
「……アイス・ベルは無かったようね」
「確かに私のフィールドはがら空きになってしまいましたが……それでもライフの差はあります。私の優勢は揺るぎません!」


美鈴 LP5500 手札1枚
デッキ:30 モンスター:1 魔法・罠:1 墓地:6 Pゾーン:青/赤 除外:3 EXデッキ:15(0)
紫苑 LP1200 手札1枚
デッキ:23 モンスター:0 魔法・罠:0 墓地:7 Pゾーン:青/赤 除外:14 EXデッキ:13(0)


☆TURN04(紫苑)

「私のターン、ドロー。美鈴、あなたは一つ大事なことを忘れているわ」
「大事なこと?」
「……このデッキは元々誰のデッキか、ということよ。私は手札から魔法カード、死者蘇生を発動。墓地の真紅眼の鋼炎竜を特殊召喚する。そして墓地の嵐征竜-テンペストの効果を発動。墓地のオッドアイズ・メテオバースト・ドラゴンとオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをゲームから除外し、テンペストを墓地から特殊召喚」

 紫苑のフィールドにはレベル7のドラゴン族であるテンペストとランク7のドラゴン族Xモンスターである真紅眼の鋼炎竜が並び立つ。レベル7のドラゴン族とランク7のドラゴン族。それを見て美鈴は思い出した。遊大のデュエルを見ている時、遊大とデュエルをしている時、嫌というほどに見せつけられたあのカードの存在を。

「ま、まさか……」
「私は手札のペンデュラムモンスター、スケール3の相克の魔術師をPゾーンにセッティング。そして相克の魔術師の効果。Xモンスターである鋼炎竜にランク分のレベルを与える」

真紅眼の鋼炎竜 ランク7=星7

「そして私はレベル7・ドラゴン族の嵐征竜-テンペストとレベル7となった真紅眼の鋼炎竜でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!! “二色の眼の竜よ。世界に災いもたらす烈火と共に神羅万象を焼き尽くしなさい!!” ランク7、覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン!!」

 憤怒の化身とも言うべき赤き竜がフィールドに舞い降りた。遊大の切り札であり、遊大というデュエリストの象徴でもあるこのカードを彼の身体に憑依しているとはいえ、別人である紫苑が使いこなす。そのことに美鈴は、当然いい思いはしなかった。

「そのカードは……遊大さんのカードです! あなたが使っていいカードでは……」
「そんなこと言っても私は遊大君でもあるんだからしょうがないじゃない」
「そうですけど……そうですけど!!」
「……複雑ね。まあいいわ。終わらせてあげる。オッドアイズ・レイジング・ドラゴンの効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールドのカードを全て破壊し、破壊したカードの数×200ポイントその攻撃力をアップさせるわ」

 レイジング・ドラゴンの力によってセットされていたスノウ・ベルと2枚目の永遠の魂が破壊される。永遠の魂があれば墓地のブラック・マジシャンを特殊召喚できたのだが、この場面ではどちらにしてもレイジング・ドラゴンの効果で破壊されてしまい、破壊されるカードを増やすのみであった。

覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン ORU:1 ATK3000→ATK3400

「そしてXモンスターを素材にX召喚されたレイジング・ドラゴンは2回攻撃できる。バトルよ! 覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴンでダイレクトアタック!! “憤激のデストラクション・バースト”!!」

覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン ATK3400×2

美鈴 LP5500→LP2100→LP0











『勝者は合唱部! 劣勢を覆しての大逆転勝利です!!』

 紫苑と林檎のコンビは消耗しながらも、美鈴率いる茶道部に辛勝を収めた。美鈴からの情報を得て林檎のデッキに対するメタを張ってきた香織と千代の個性的なデッキに思わぬ苦戦を強いられたが、勝ってしまえばそれで構わない。そう思うことにした。

「お疲れ、紫苑。ぶっちゃけ私諦めてた。紫苑全然美鈴に反撃しないんだもん」
「……私も勝てるかどうかは半々だったわ。そこはデュエルの神様に感謝、と言ったところかしら。ここまで来たら優勝を狙いましょう」

 そう言って小さくハイタッチをする紫苑と林檎。過酷なトーナメントを勝ち上がっていくにつれ、彼女たちの間にあった壁はいつの間にか取り払われていた。一方で林檎はこの時一緒に組んでいるのが遊大であれば、という気持ちも少なからず抱いてしまっていたのだが。

(って、そんなの紫苑に失礼よね)
「あの!」

 ただ、林檎がそれを表に出さないように取り繕う中、それをもはや隠そうとしない者がいた。紫苑に敗れた美鈴である。敗者としてトーナメントを去る茶道部の面々だったが、その目は敗北に塗れてなどいなかった。

「まずは、おめでとうございます。私たちもいいデュエルができました。ですが……やっぱり私はあなたにオッドアイズを使ってほしくはないです。そのカードは遊大さんが使うことでより輝きます」
「……前にも説明したと思うけど、私がこの身体を借りているのはあくまで一時的のことよ? 時が来れば自然と遊大君に戻るわ」
「わかっています。ですが……」

 冷静に説明してもなお食い下がる美鈴。このままでは埒が明かない、と思ったのは紫苑だけではなかった。

「おお、お熱いでござる! ひゅーひゅー」
「まさに執念でございますね。美鈴さん、どうして告白しな―――」
「香織さん!? あのですね私は……」
「負けてしまった以上しょうがないでござる! さあ、部室で残念会をするでござる! 濃い抹茶を皆で飲むでござる!」
「賛成、でございます。では行きましょう美鈴さん」
「わ、私の話はまだ……!!」

 千代と香織に連れていかれる形でその場を去っていく美鈴。この時ばかりは紫苑からヒートアップする彼女を引きはがしてくれる二人には頭を下げるほかなかった。

「……さて、準決勝まで時間はあるけどどうしよっか」
「ちょっとお花を摘みに行ってきていいかしら」
「お花……ああ、トイレね」
「林檎、レディならそこはもっとぼかす努力をしなさいな」











 林檎と一時的ではあるが、分かれた紫苑は一人人通りの少ない廊下にいた。彼女は周囲に誰もいないのを確認すると、壁に倒れるようにしてもたれかかる。

「っ……まさか、ここまで」

 息は荒く、脂汗がじわりと浮かぶ。思えば一回戦と二回戦を自分一人で勝ち抜き、三回戦は美鈴相手に激しいデュエルを繰り広げた。遊大を休ませる代わりに遊大の身体に憑依して遊大の代わりに振る舞っていた紫苑であるが、彼女のようなデュエルモンスターズの精霊であっても、今の遊大の身体を一人で支えるのはさすがに強大な負担となっていたのだ。
 もちろんそれを林檎に言えば彼女のことだから、紫苑には十分な休息をくれるだろう。それこそ優勝を諦めて棄権することになったとしても。だからこそ、紫苑は敢えて林檎と離れて誰もいないところに移動したのだ。林檎に余計な心配をかけたくないからこそ。

「身体が熱い……もしかしてデュエルが彼の内に眠る本能を刺激しているというの? でも今、彼をこの身体に戻したらますます彼の精神と身体は……だから、私はどうしても彼を守り抜かなければならない。“あの方”に仕えた者として……なのに……」

 目の前がぼやけてくる。世界がぐるぐると回っているように思えてならない。そんな紫苑のことを呼ぶ声が何処かから聴こえてきた。誰の声だろうか、と思って倒れ込みそうになった彼女を一人の少女が支える。

「高海くん……じゃなかった。紫苑? 紫苑!?」

 この時ばかりは、彼女が偶然通りかかったことに感謝しなければならない、と思いつつ紫苑は薄れゆく視界の中、自分の名を呼ぶ遊希に抱きかかえながら眠りに落ちていった。









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ター坊
とんでもないのをぶっぱなしやがった。拮抗勝負をこんな終盤で撃つなんて誰が思うのか?
フィールドが全滅してからのレイジング、スカッとしますね。デュエル後の美鈴の嫉妬や香織と千代の冷やかしが微笑ましいです。
ぶっ倒れた紫苑もとい遊大は無事なのか? (2018-10-17 06:33)
光芒
ター坊さん
人知を超えた、普通の考え方をしないのが精霊……ということでしょうかね。拮抗勝負とレイジングはあまり相性が良くないと思いますが、黒の魔導陣+永遠の魂という布陣だと切り札を出しても除外されて封じられてしまうので、これくらいしか手がないと思います。仮に竜騎士ブラック・マジシャンを出されていたら非常に強固な守りになりますから。

>デュエル後の美鈴の嫉妬や香織と千代の冷やかしが微笑ましいです。
こういうことができる=この三人が仲良しということなのです。
(2018-10-17 22:19)

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