コラボ特別企画前編　初めての○○　作：ター坊

●風鼠様のＳＳ作品『舞台で舞う少女』とのコラボ企画の前後編(予定)となっております。
●時系列としてはEP24~25の間くらいの頃です。





古今混ざる地方のとある町－桜嵐町。この町では歌舞伎と呼ばれる演目が娯楽としてデュエルモンスターズよりも浸透していた。
そんな町にある大きな建物－四季纏花神一座の稽古場から流れてくるのは雅な笛と琴と三味線と和太鼓の古風な調べ。それでいて何処か現代的でポップ・ミュージックのような躍動感あるリズム。それに合わせて舞う４人の少女がいた。扇や模造刀を振るうその一挙一動は

－時に手元で瞬く線香花火のように繊細で儚くて－

－時に夜空に咲く打ち上げ花火のように大胆で華やかで－

まるでこの舞をお前の魂に刻みつけろと言わんばかりに見せつけてくる








－そんな片鱗が見え隠れする、上出来だがまだ完璧とは言えない、懸命さが垣間見れる舞であった。音楽が終わり、４人が〆のポーズで数秒硬直する。
「－はい、そこまで。良い感じになってきたよ」
「ふぅ…疲れたー」
「だね」
「はぁ…はぁ…」
「… … …」
先輩である茜の一言で舞っていた少女達は硬直を解いて脱力する。
「この後、お昼だよね？今日は何かなー！」
元気が溢れ過ぎてる少女、葵。
「葵…、相変わらず体力だけはあるわね」
少しクールな少女、瑞樹。
「ふぅ…葵ちゃん凄いなぁ…」
おっとりした少女、カンナ。
「大丈夫、カンナちゃん？」
ボーイッシュな少女、杏奈。
「黒子で動くのも疲れるでぇす」
小動物みたいな少女、椿。

同時期に入った仲良し５人組で今日も稽古に打ち込んでいる。
「あの、茜先輩」
「ん？なんだい、瑞樹ちゃん」
「かれこれ１週間くらいこれを練習してますけど、何の演目なんですか？」
瑞樹の指摘通り、この曲は今までのものとは違う。歌や台詞がなく踊りだけなのだが、やけにテンポが早く普段の歌舞伎とは明らかに異なるものなのだ。
「えーっと…」
茜の目が少し泳いでいると
「それならば私から話しましょう」
「ざ、座長！」
ここの座長・桔梗の登場で疲労でだらけてた少女達の背筋はピンと伸びる。
「実はある人の頼みで、今日から９日後に舞台に行って貰いたいのです」
「「「「「えぇっ！？」」」」」





桔梗からの衝撃的な発言から２日後、葵達は遠く離れた街に降り立っていた。並び立つビル、人の波、桜嵐町ではお祭りレベルでの賑わいだ。
「わぁー！すごーい！！」
「こら、葵。あんまりキョロキョロすると迷子になるわよ」
まるで遊園地ではしゃぐ妹とそれを諌めるお姉ちゃん、葵と瑞樹はそんなやり取りをしているが他のみんなも浮わついているのは目に見えていた。
「失礼ですが、四季纏花神一座の方々でしょうか？」
葵達が不意に訊ねられた声の方を見るとモデルのような長身の銀髪の美女が立っていた。
「はい、そうです」
引率役の茜がそれに答える。
「私はニューサニーアップ事務所警備部のルナテシア・オノダと申します。お迎えに上がりました」





車に揺られること数分。
「すごーい！」
葵の素直な感想の通り、ニューサニーアップ事務所は日本随一のデュエリストの教育・指導、及びデュエル関連の商品企画・イベントなどを行う巨大施設である。それだけに規模がデカイ。
「それでは案内します」
茜を先頭にして四季纏花神一座の面々はルナテシアの後に続いて建物内を進む。廊下を歩き、エレベーターに乗り、しばらく歩くとある部屋の前でルナテシアがノックする。
「オーナー。四季纏花神一座御一行様をお連れしました」
「よし、通してくれ」
中からの返答に応じてルナテシアがドアを開ける。中は会議室でテーブルとパイプ椅子が並べられている。そこに二人の男がいた。
「よく来てくださいました。会長の橘 勝彦です」
「所属選手代表の風峰遊路です」
「あっ、あの人テレビで見たことある！」
「葵ちゃん！どうもすいません」
開口一番、遊路をあの人呼ばわりする葵を先輩らしく茜は口を尖らせて注意する。
「いや、構わないさ。むしろ緊張で強ばってなくて良かった。…正直、あまり堅苦しいのは苦手でな。みんなもその娘くらい気楽に構えて欲しい」
「私、褒められた？」
「調子に乗らない」
「えへっ」
和やかなムードで全員席に着く。葵達が自己紹介を一通り済ませた後、話は本題へと入る。
「さて、四季纏花神一座の方々をお招きした理由はそちらの座長の桔梗さんから聞いたとは思いますが、ウチと企業が協同開発した新型デュエルディスクのＰＲパフォーマンスをして貰う為です」
「それってどういうのですか？」
葵の素朴な疑問の眼差しに勝彦は少し表情を曇らせる。
「…それが…」
「会長、良いじゃないですか」
渋る勝彦と説得する遊路の様子に瑞樹が謝罪する。
「どうもすいません。葵も無茶言わないの」
「えっ、なんで？」
「なんでって、それは」
「いや静原さんいいよ。確かに未発表のデザインだから関係者以外には秘匿にしておくようにって言われてるけど、君達だってＰＲしてくれる関係者だ。これを付けて踊る君達が見られないっていうのはおかしいよな。…ってな訳で会長」
「…んー。そうだな」
そう言って勝彦は部屋を出た。それからしばらくして勝彦が箱を抱えて持ってきた。箱は白の包装紙に何重にもくるまれていた。
「さぁこれが新デザイン、雅styleだ」
開封された箱に入っていたデュエルディスクは

－漆塗りのような艶のある黒地
－紅葉が描かれた鮮やかな赤
－デュエルディスクの所々に走る金の差し色

日本の高級漆器のようなデザインである。
「付けてみてどうだ？」
遊路に促されて葵が装着してみる。
「うわ！軽ーい！」
「機能は変化してないけど重量は従来の２割減、デザインも和風に仕上げて、これぞ日本のデュエルディスク、って感じに仕上げたんだ。パフォーマンスの時はそれを付けて踊って貰うけどできそうか？」
「はい、頑張ります！」
葵は満面の笑みで遊路に応えた。




宿泊所や練習スタジオなどの説明やスケジュールについての会議は早めに終わったものの、葵達はホテルですぐに休みたいほど疲れている訳でもなかったのでダメ元で見学をお願いしたところ、遊路は二つ返事で了承した。デュエル場に訪れるとあちこちで戦いの火花が散っていた。

「バトル！『Ｆ・Ｇ・Ｄ』でダイレクトアタック！」
「ギシャオー」
「させるか！罠カード『魔法の筒』！！これでダメージ反射だ！」

「シンクロ召喚！『クリムゾン・ブレーダー』！！」
「はぁっ！」
「なんの！『奈落の落とし穴』！！」

桜嵐町では大きなデュエルモンスターズ関連の施設が無いため、こういうソリッドビジョンによるダイナミックな試合を生で見るのは四季纏花神一座にとっては初めてだった。
「大きいー！」
「凄い技術よね」
「ちょっと恐いです…」
「生は違うなぁ」
「す、少しもビビってないでぇす…」
本当に映画の中に入ったような大迫力のモンスターに葵達は圧倒されっぱなしだった。遊路は休憩中のとある一団に声を掛けた。
「おい、遊季都」
「あ、風峰プロ！」
「お疲れ様です」
「こんにちは」
「あのこの人達は…？」
「ああ。チャレンジャーＺっていうチームメンバーだ。小さいのが赤崎遊季都」
「ちょっ、風峰プロ…」
「可愛いー♪男の子なんだー」
「か、風峰プロ、この子は一体！？」
「ちょっと葵！どうもすいません」



斯々然々、遊路が説明をする。
「へぇ遠い町から」
「大変ですわね」
「えへへ。…そうだ！遊路さん！！」
「ん？」
葵は意外な申し出をする。
「私にもデュエル出来ますか！？」
「んー…そうだな…。漢字は読める？」
「読めます！」
「４桁の足し算引き算は？」
「できます！」
「よし、なら出来る！」
「やったー」
「…そうだ。どうせならこの事務所名物の練習方式でやろう」



遊路は少し場を離れカードを取ってきて、葵達に差し出す。
「さ、好きなカードを引いてくれ。これに書かれたやつのコスプレをしてもらう。その状態でデュエルするのが名物の練習方法だ」
「はーい！」
葵達は順番にカードを引いていく。

「わー♪この絵 綺麗」
葵→『カズーラの蟲惑魔』
「可愛いのもあるのね」
瑞樹→『魔界発現世行きデスガイド』
「ふぇっ！？」
カンナ→『水の踊り子』
「こういう絵柄もあるんだ…」
杏奈→『アマゾネスの射手』
「大人っぽいでぇす」
椿→『ハーピィ・レディＳＢ』


「あ、あの！わ、私のこのカード…！」
「ん？あー。大丈夫」
「ちょっ、遊路さん！これはあまりにも…」
「違う違う。下に書いてあるところ」
遊路の見せた先にはテキスト欄があり、そこに細いペンで文字が書き足されていた。
「じゃあ」
「そ、イラストに関係なく、そのテキストに書かれた格好をする事」
「紛らわしい！」
「ははは。今、衣装部の人を呼ぶからな」



しばらくして軍隊ばりの衣装課の集団が現れてそれぞれ連れられ、コスプレして戻ってきた。

葵→ピンク基調のナース服。ミニタイトスカートから覗くガーターベルトがポイント。
「やっは～♪」
「ヤバい。絶対注射下手くそなタイプだ」

カンナ→青基調のチアガール。上は横乳、下はアンスコが拝める。
「し、下が…」
「それはアンスコだ。パンツじゃないから恥ずかしくない！」

杏奈→巫女服。胴体と袖部分がセパレートになっている。所謂脇巫女。
「あはは。なんか恥ずかしいな…」
「恥じらいもポイント高いぞ」

椿→魔法少女アニメのバトル衣装。花びらをモチーフにしたフリフリドレスだ！
「なんでぇすかー！？」
「アニメ見てないのか？プリズム魔法ガール・リリカルまりあのまりあ・ハラミテインが変身した…」
「もう少しＴＰＯわきまえやがれでぇす！！」

ナース・チアガール・巫女・魔法少女が一堂に会する場面は人生でどれだけあるだろうか。しかし、みんなは１人足りないことに気付く。
「あれ？瑞樹は？」
「あいつが引き当てたのは着付けと移動に時間が掛かるんだよ。だがウチのスタッフに掛かればもうじき」
「お待たせー」
「あっ瑞樹…わぁ♪」

瑞樹→ウェディングドレス。肩出しタイプで白薔薇の刺繍の飾りがある。

「瑞樹、綺麗だよー！結婚しよー♪」
「ちょっと葵！引っ付かないで」
「…ほう。二人はただの幼馴染みって訳じゃなさそうだな」ﾆﾔﾘ




賑やかな中でもやることはしっかりやる。最初にデュエルする葵に遊路や梓がルールを簡単にレクチャーする。
「さて、遊季都。お前が相手をしてやれ。ほら」
「えっ、これは？」
「馬鹿野郎。初めてやる人間にガチデッキで挑んでどうする。公平を喫してお互いに使うデッキは初期の方のカードのみの寄せ集めだ」
「はぁ…」
遊季都は困惑しながら、葵はウキウキしながらそれぞれデュエルフィールドに立つ。
「それじゃあ遊季都さん！よろしくお願いします！」
「は、はい。こちらこそ…」
「それじゃ準備は良いな。では…デュエル開始！！」
審判である遊路の号令と共にデュエルが始まった。



初めての人前での仕事、初めての街、初めてのデュエル。初めて尽くしのこの経験で四季纏花神一座の若き歌舞姫たちは何を感じるのか。





おまけ

ﾋﾟﾛﾘﾝ
彩愛「ん」
桔梗「どうしました？」
彩愛「茜から連絡が来たみたいです」
茜《無事に到着しました。会議も終わり、葵ちゃん達も頑張るぞって気合い充分みたいです》
彩愛「あ、画像が添付されてますね」
あのコスプレをした葵たちのカオスな集合写真
桔梗「あの子達、何をしてるのでしょう…」