EP38　託された夢　作：ター坊

遊季都:LP 2500
手札 2枚

フィールド:無し

凌馬:LP 2000
手札 2枚
フィールド:
『機竜軍ジェノサイドフォートレス』
『機竜軍の蹂躙』


巨竜の要塞を前にして遊季都はどんな心情なのか？

ー実力不足を痛感した不甲斐なさか
ー仲間の足を引っ張ってしまった罪悪感か
ーもうダメだという絶望か

否、どれでもない。遊季都の口角は笑みを浮かべそうになっていた。
（これが、デュエル甲子園…）
【遊季都くん。楽しそうだね】
【遊季都、変】
【主…もとい人間のこういう所が未だに理解できぬ】
悪魔が口々に言うように人間は時にその場での状況や合理性にはそぐわない行動や思考に至ることがある。端的に言えば遊季都はこの絶望的状況を楽しんでいるのだ。
【うん…僕自身もすごい不思議だよ…。負けたらダメって思ってるけど、それ以上にこのデュエルがすごい楽しいって思ってるんだ…】
故に遊季都の手はただカードを引き抜く。仲間の勝利のためは無論、己のこの愉悦をもうしばらく味わうために。
「僕のターン、ドロー！モンスターを裏守備でセットし、カードも１枚セットしてターンエンド」
「ワシのターン、ドロー！ジェノサイドフォートレスの効果で手札のカード２枚を墓地に送り、その２枚のカードを墓地送りぜよ！」
先程も見せられた大爆撃。それにより遊季都のフィールドも再び更地になる。
「アサルトフレアの効果で５００ダメージ…ですね」

遊季都:LP 2500→2000

ここでライフが並ぶが当然終わらないのが凌馬である。
「さらに魔法カード『竜弾補充(ドラダンリロード)』を発動！墓地のアサルトフレア３枚をデッキに戻し、２枚ドロー、さらに戻したカード３枚が同名のカードだった場合、相手に６００の追加ダメージを与えるぜよ」

遊季都:LP 2000→1400

「『機竜軍の蹂躙』の効果で『機竜軍ロケットブラスト』を特殊召喚。さぁ、トドメぜよ。ジェノサイドフォートレスの攻撃宣言時に１０００ダメージ！」

遊季都:LP 1400→400

「まだです！手札から『焔獄竜-ガードフレイム』を特殊召喚し、守備力を１０００アップさせて強制バトルを行います！」

機竜軍ジェノサイドフォートレス ATK 3200 VS 焔獄竜-ガードフレイム DEF 3000

「さすがにもう終わりぜよ。ロケットブラストでダイレクトアタック！攻撃宣言時、３００ダメージ！」

遊季都:LP 400→100

「まだ終わりません！墓地の罠カード『焔獄の翼』を除外することでダイレクトアタックを無効にします！」
墓地から真っ赤に燃え盛る翼が遊季都を包み込み、ロケットブラストが放つミサイルを防ぐ。
「粘るのぅ。けどここまでやって次のターン何もできんかったら許さんぜよ？」
凌馬はトドメを刺しきれなかった事に苛つくどころか、むしろ、遊季都がどう逆転するのかを期待しているようにかも見える。

一方…
「これで最後ですわ！ダイレクトアタック！！」
「うおおぉ…」

竜馬高校生徒:LP 2300→0

「ご、ごめんよぉ…」

盛雄:LP 300→0

同時に進行していた梓と盛雄のデュエルは決着となり、チャレンジャーＺと竜馬高校の戦績は１-１、フィールドの状況からして３回戦進出チームは遊季都のこのラストターンで決まることがほぼ確定した。
「さぁ、遊季都選手。なんとか凌いだものの、悪あがきはここまでか？」
「…それはどうですかね」
「えっ！？風峰プロ、遊季都選手は手札フィールド０の状態ですよ？勝つ事はおろか、次のターンを耐えるのも無理だと思うのですが」
「確かにこの状況を巻き返す可能性は低いでしょう。ですが、ゼロではない。ライフが残っているなら私だったら喜んで続行しますよ」
「…では奇跡が起こると言うことですか？」
「いいえ。奇跡を呼び寄せますよ。本当にデュエルが大好きな人間であればね」
このドローで全てが決まる。極限のプレッシャーだが、遊季都の指はぶれることなくラストドローを行う。
「僕のターン…ドロー！！…」
ドローした遊季都はしばらくカードを眺めた後、凌馬の顔を見る。
「行きます！」
遊季都の瞳は強く、されど嬉々に満ちた、まるで新しいオモチャを買ってもらった子供のような純真な輝きを放っていた。
「応っ！来るぜよ！！」
その輝きに凌馬も力強く応える。ひっくり返せるものならひっくり返してみろと言わんばかりに。
「魔法カード『焔獄の輪廻』を発動！このカードは僕の墓地からレベルを持つ炎属性モンスター１体を除外することで、そのレベルの合計に等しい焔獄モンスターを２体特殊召喚します。僕は墓地のレベル７、ルビーウィング・スカーレットを除外してレベル４のフレアスターとレベル３のボンバーを守備表示で特殊召喚します。ただしこの効果で特殊召喚したモンスターはフィールドから離れると除外されます」
炎の魂が２つに分かれ、２体のドラゴンが復活する。
「ほぅ。別のレベル７シンクロ…」
「いいえ。このターン、僕は『焔獄の輪廻』の制約で除外したモンスターと同じレベルのモンスターを特殊召喚出来ません」
「何…じゃあ」
「これが僕の一手です。僕はボンバーの効果を発動してフレアスターとロケットブラストを破壊します！」
ボンバーが投げた２つの爆弾がそれぞれのフィールドのモンスターを爆破する。
「僕の炎属性モンスターが自身の効果によってフィールドのカードを同時に２枚以上破壊したことでドライヴ条件を達成！！」
「なっ、２回目のドライヴぜよか！？」
「戦場に散った魂を紅蓮の煌めきとして翼に宿し敵を討て！ドライヴ召喚！！『魂爆竜-フェニックスフェザー・ドラゴン』！」
ボンバーが光に包まれ、変化したドラゴンは巨大な鳥の朱色の翼を広げ高らかに吼える。その荘厳な見た目に会場は息を呑むが、そのステータスは攻守０で中には嘲る者もいた。
「バトルです！フェニックスフェザー・ドラゴンでジェノサイドフォートレスに攻撃！！」
巨竜の要塞に向かって不死鳥竜が突貫する。
「ダメージステップ時、フェニックスフェザー・ドラゴンの効果発動！！墓地から全ての炎属性モンスターを除外し、除外したモンスター１枚につき１０００ポイント攻撃力がアップします！」
「何っ！？」
凌馬の脳裏に遊季都の墓地のモンスターが思い浮かぶ。
（墓地には一番最初の『焔獄竜-ダークファイヤー』、それをドライヴ素材に召喚されたブレードバスター、ルビーウィング・スカーレットの素材になったトウリュウ、さっきのターンで防御に使ったガードフレイム…攻撃力は４０００ちゅうことじゃか。確かにジェノサイドフォートレスには勝てる…じゃけども）
そう遊季都は知らなかった。実はジェノサイドフォートレスは容易に自己再生する効果があるのだ。そして返しのターンでジェノサイドフォートレスで攻撃すれば１０００バーンで終わる。それが凌馬の勝利のビジョンだった。







魂爆竜-フェニックスフェザー・ドラゴン ATK 9000 VS 機竜軍ジェノサイドフォートレス ATK 3200



「こ、攻撃力９０００！？」
己の予想を大きく裏切る数値に凌馬は思わず二度見してしまう。凌馬は落ち着いて遊季都のついさっきの台詞を思い起こす。
《墓地から全ての炎属性モンスターを除外し、除外したモンスター１枚につき１０００ポイント攻撃力がアップします！》
「全て…あっ…まさか！」
そう。遊季都は墓地の炎属性を全て除外したのだ。全てを。
「ワシの機竜軍たちも除外しての数値かぁ！！」
同じ炎属性デッキとのデュエル故にこの威力は絶大だった。凌馬の墓地にあった機竜軍達、ライフルシュート・マシンアサルト・スプレットガトリング・ブローバックパーン・ロケットブラストをも除外し、爆発的な攻撃力を得たのだ。
「完敗ぜよ…」

凌馬:LP 2000→0

「決まったぁっ！赤崎遊季都選手、大逆転！！奇跡を呼び寄せたぁぁぁっ！！！これでチャレンジャーＺ、３回戦進出！四国の強豪、竜馬を下しての大金星っ！！やはり風峰プロの推薦チーム、とんでもないダークホースが現れたぁぁぁっ！！！」
四方の観客席から勝利への祝福や賛辞、竜馬高校の敗北により涙に濡れた嗚咽や雄叫び、この大番狂わせを記事にしようと焚かれるカメラのフラッシュ、様々な音が飛び交う。
「赤崎さん、やりましたわ！」
「赤崎くん、すんげぇなぁ！」
最後の勝利を決めた遊季都に梓と盛雄も駆け寄るが当の本人は
「…はい」
「赤崎さん？」
「具合でも悪いのかぁ？」
「いえ、その…勝ったら気が抜けちゃって…」
【ありゃー。なんて締まりのない】







第２回戦を終えて一旦控え室に戻ろうとした遊季都達にある団体が訪れた。
「遊季都」
「さ、坂木さん？」
先程戦った凌馬を先頭に梓と盛雄が対戦した選手がいた。凌馬以外は泣きすぎたのか、目が真っ赤である。
「あの…何か…」
「おまんはホンに面白い奴っちや！！」
凌馬は遊季都の手を掴み強引に握手する。
「え、えぇ？」
豪快に笑いながら握手する凌馬に遊季都は困惑するばかりである。
「あの…」
「ん？なんぜよか？」
「どうして僕達のところに？」
「おお、そうだったそうだった。…あー、礼を言いたくての」
「礼？」
「ワシは３年だから今年で最後のデュエル甲子園だったわけじゃか。当然優勝する気でおったけど、それ以上に悔いを残さんと決めてた」
「…」
真面目な凌馬の表情に遊季都は思わず顔を引き締める。
「負けたけど、なんか１回戦勝った時より、いや、今までのデュエルで一番良い気分ぜよ。なんか機会あったらまたやってくれんか？」
「もちろんですよ」
「そうか。…そうじゃ。それとおまんにこれも渡しとこ」
そう言って凌馬はデッキホルダーからカードを１枚取り、遊季都に差し出す。
「これって…『機竜軍ジェノサイドフォートレス』…！」
「ワシの一番気に入ってるカードぜよ」
凌馬はニッカリ笑いながら己の切り札を渡そうとする。
「ちょっ、坂木さん！」
「いくらなんでも恩師のエースを…」
竜馬高校の仲間が止めに入る。
「気ぃする事ない、ワシが決めた事ちや」
「あの…恩師って？」
「…ああ。この機竜軍は元々竜馬高校のデュエル部顧問のもんだったじゃが、途中で交通事故で死んでのぅ。このデッキで甲子園優勝するちや、って夢を立てたんじゃが…。２年前の時は二人の先輩が負けて３回戦敗退。去年は惜しくも準決勝で負けてベスト４…。で、今年はこのザマぜよ」
「…」
「ワシはおまんに夢を託したいんぜよ。だから…コイツを、決勝戦に連れて行って欲しいんじゃ…」
普段おちゃらけた凌馬とは全く違うその姿に遊季都達は少し戸惑うが、その真剣さは胸を打つのに充分だった。
「…分かりました。ありがたくちょうだいします」
以前の遊季都であれば慎みを重んじて遠慮していたであろう。だが、今は違う。


そこにいるのは

己の夢を託したデュエリストとー

その夢を託され、受け継ぐ覚悟を決めたデュエリストの姿であった。








ﾋﾟﾛﾘﾝ♪