EP34　勇者の剣　作：ター坊

ライフもフィールドも圧倒的に不利に立たされた盛雄。高弘が融合召喚した悪魔のカード『甘美なる大罪-ブルーブラッド』との一戦、土煙の中で一体何があったのか。
「ブルーブラッドには３つの効果があるのさ」
「３つの…効果？」
場の状況をまだ完全に飲み込めてはいない盛雄に高弘は語り掛ける。
「ひとつ。コイツは戦闘・カード効果による破壊が効かず、効果対象にもならない無敵耐性に加えて俺へのダメージを半減してくれる」
故にドラゴン／ベータに付加された戦闘ダメージ倍加は帳消しになった上、フィールドにも残っているのだ。
「ふたつ。コイツと戦闘をしたら相手のモンスターのステータスで高い方の数値の倍のダメージを与えつつ問答無用で墓地に送る」
ドラゴン／ベータの高い方の数値は守備力２６００。その倍、５２００というとんでもないダメージを受けた上、やられたのだった。
「３つ。このデュエルで発生した効果ダメージは全て俺のライフに還元される」
高弘は戦闘ダメージ半減とはいってもかなり大きい３５００のダメージを自身の効果で発生したダメージ５２００分回復したのである。結果、ライフが１２０００となったのだ。
「そんな…じゃあオイラは…」
盛雄は悪魔の力に絶望した。盛雄が勝つには次のターン内に一撃で、半減されても削り切れる２４０００以上相当の戦闘ダメージを叩き出すしかない。耐えることは許されない。守備モンスターを出しても攻守どちらかが６５０以上であれば効果ダメージで負ける。モンスターを出さなければ別のモンスターを召喚されてそのダイレクトアタックで負ける可能性もある。デッキ切れまで粘るのもまず不可能。まさに背水の陣に立たされた訳である。
「さて、俺のモノになる気になったかな？これでターンエンドだ」
余裕綽々でエンド宣言を言い放つ高弘の口角はより上がり、勝ち次第飛び掛かって襲わんとするような野獣の眼で盛雄を見据えていた。
「オ、オイラのターン…」
盛雄の手はドローしようとはするが、カードに触れる寸前のところで止まってカタカタと震えてしまう。自分の一手のせいで仲間を失うかもしれない、そもそも最初から挑まずにいれば…そんな恐怖と後悔が盛雄の心に渦巻く。
「黒田…さん」
「あ、赤崎くん…、それに白朧院さん、その…ごめんよぉ…」
「どうして、謝るの？」
「オイラが変な気を起こしたからだぁ…。二人を自分の力で助けて…悪魔のカードも手に入れてみんなに認めてもらいたい、そう思ったんだぁ…」
「認めて…もらう…？」
「オイラ、怖かったんだ…。せっかく風峰プロにカードを貰ってみんなにようやく追い付いたと思ったのに、白朧院さんも悪魔のカードを手に入れて…オイラ、また置いてきぼりになって足を引っ張るんじゃないかって…」
「そうですの…。それで始まる前に悪魔のカードを貰うと」
自分の前を走る二人。その背中に追い付いたと思ったのにまた遠くへと行ってしまって…。置き去りにされる孤独・恐怖・不安…。先程のプレイングの粗さもそういう感情を早く払拭したいという焦燥感の表れかもしれない。盛雄の言葉を一通り聴いて遊季都と梓は口を開く。
「黒田さん。僕も白朧院さんも黒田さんのこと、認めてますよ」
「そうですわ。もう立派なチームメイトです」
「え…」
「だから認めて貰うとか気にしないで、黒田さんの戦いたいように戦って下さい」
自分自身も脚が埋まっているというのに遊季都と梓は盛雄を励ます。
「オイラの…戦いたいように…」
盛雄は震えていた手を止め、デッキトップのカードを引く。
「オイラは手札の『磁兵器スネーク／ドライ』の効果でビートル／フィーアとこれを捨てて２枚ドロー」（ん？このカードは…）


～デュエル甲子園開幕数日前～

遊季都の近所のカードショップにて。
「みなさんでカードを３パックずつ買いましたけど、如何でした？」
「僕のは…あ、これ…、黒田さんの磁兵器に入れるべきですよ」
「えぇっ！？い、良いのかぁ？」
「はい！それにこの方がカードも幸せですよ」
「そ、そうかなぁ。でも…風峰プロにデッキ貰った上に赤崎くんからもカードを貰うって…オイラの力じゃないものでズルしてるみたいだなぁ」
「そんな事ありませんわ。それを言ったら私のＲＴＧもお父様からの頂き物ですわ」
「僕の焔獄もラズベリーが作ったカードですよ。確かに与えられたものだけど、そこから自分なりに磨きあげていけば自分のデッキ、自分の力になると思います」
「そうかなぁ」

～～

（オイラの力になってくれるか、オイラのデッキ！）「１０００ライフを払って魔法カード『ガレキの恨み』を発動！」

盛雄:LP 1300→300

「墓地から岩石族モンスターを守備表示で可能な限り特殊召喚するぞぉ！オイラが復活させるのはバード／アインス、ドルフィン／ツヴァイ、バッファロー／フンフ、コング／ゼクス、／エレファント／アハト！」
墓地から蘇った磁兵器達は所々欠けている。
「この効果で特殊召喚したモンスター達は攻守が０で効果も無効になるけど、エクシーズ素材には出来るぞぉ！オイラはバード・ドルフィン・バッファローでオーバーレイ、エクシーズ召喚『磁兵器キマイラ／アルファ』！さらにコングとエレファントでオーバーレイ、エクシーズ召喚！『磁兵器ドラゴン／ベータ』！！」
蘇生された磁兵器達は次から次へと合体し、それぞれのエクシーズ形態へとなった。
「そんなんじゃ俺は倒せない。さぁ、俺のモノを…」
「さらにオイラはキマイラとドラゴンでオーバーレイ！」
「何！？エクシーズモンスター同士でのエクシーズ召喚だと？」
「重なり合う異なる力が新たな形となって蘇る。エクシーズ召喚！『超磁兵器（グレートマグネット・フォース）ユーシャ／シグマ』！！」
数多の磁兵器が変形合体を繰り返して完成したキマイラとドラゴンだったが、そこからさらに変形合体し、剣を携えた巨大な戦士の姿となった。
「だが攻撃力はたかだか３０００…俺を倒すには足りないな」
「これからだよぉ。ユーシャ／シグマはオーバーレイユニットの数１枚につき２００だけ攻撃力・守備力を上げるぞぉ。さらにエクシーズ召喚する為に使ったエクシーズモンスターが持っていたオーバーレイユニットも引き継ぐんだぁ」
ユーシャ／シグマに磁力が滾り、パワーが増す。
「元々の素材を含めてオーバーレイユニットは７つ、１４００アップですわ！」
「ううん。まだ続くよ」
遊季都の言う通り、ユーシャ／シグマのパワーアップは止まらない。
「オーバーレイユニットとなったバッファロー／フンフとドラゴン／ベータの効果で攻撃力が合計２５００アップ、さらに永続魔法『磁力集結』を発動して墓地の１枚目のドラゴン／ベータをユーシャ／シグマのオーバーレイユニットに加えるぞぉ！」
これでユーシャ／シグマ自身の効果分も加わり現在の攻撃力は８６００となった。並のデュエルであればこれだけの一撃があれば終わるが…
「忘れたのか？ブルーブラッドには戦闘ダメージ半減の効果があるのを」
「バトルだぁ！」
高弘の煽りを無視するように盛雄は攻撃宣言を行う。最強の磁石の勇者の剣が白銀の悪魔を両断せんと迫る。
「ユーシャ／シグマは攻撃力によって３つの効果が付加されるぞぉ！」
「何！」
「５０００以上ならバトルフェイズ中、このカードは無敵になる！」
「だが、そんな効果では…」
「６５００以上なら常に倍の戦闘ダメージを与える！」
「それもダメージ半減で帳消s…はっ！」
高弘は思い出した。ユーシャ／シグマにはオーバーレイユニットとしてコング／ゼクスが存在することを。先程は通常通りのダメージで済んだが、戦闘ダメージを倍にする効果と倍の戦闘ダメージを与える効果を合わせられて実質４倍、相殺仕切れず２倍のダメージとなるのだ。
「そして攻撃力８０００以上なら、オイラのライフが相手より２０００以上少ない場合、ダメージステップの間攻撃力が２倍になる！」
「と、言うことは！？」

超磁兵器ユーシャ／シグマ ATK 17200（戦闘ダメージ４倍）VS 甘美なる大罪-ブルーブラッド ATK 0（戦闘ダメージ半減）

「あっーー！！」

高弘:LP 12000→0




実に３４４００（これでも半減で軽くなってる）というオーバーキルで盛雄は高弘から勝ちをもぎ取った。
「や、やったぁ…」
「ふっ。見事にヤられちまった…」
倒れこんだ高弘は起き上がり、不敵な笑みを浮かべる。
「けど、まだこっちの手の中だ」
「えぇっ！？」
「さぁ、ヤらないか？断っちまえば［非生物の奏者］で完全に埋めちまうのもウェルダンに焼くのも俺の思うままだ」
「そ、そんなぁ…」
高弘はデュエルに負けたが人質という切り札を握っおり、盛雄に迫ってくる。





「やれやれ。美しくないね」
不意に路地裏に響く声。その声は少年のような澄んだものだが周りを見渡しても誰もいない。
「お前、何出てきて…」
「君はボクを賭けたデュエルに負けたんだ。…あとは分かるね」
「うぉっ…あっーー！」
高弘は腹を抑えて苦しんだ後、バタリと倒れ動かなくなった。
「さて、君が新しい宿主になるのかな」
高弘のデュエルディスクから黒い煙が立ち上ぼり、それは綿飴のような塊に丸まっていく。
「あ…悪魔…なのかぁ？」
「そうさ」
その黒綿飴に眼らしき赤い光が灯る。
「ボクはブルーハワイ。この世界ではそう呼びたまえ」