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遊☆戯☆王V☆S(ファイブスター)/Episode87:涅槃を超えた先 作:とうかいりん

~現在の状況~
AYA→LP:6400 手札:3 デッキ:26 Mゾーン:3 M&Tゾーン:3 Fゾーン:0 Pゾーン:1


 V S


ELLEN→LP:6500 手札:1 デッキ:32 Mゾーン:1 M&Tゾーン:0 Fゾーン:0 Pゾーン:0



 エレンが「手札のモンスターを素材にしたビヨンド召喚」という予想だにしなかった方法で呼び出したグレード12のビヨンドモンスター『究極機皇神ヘブンズ・マシニクル∞∞∞(デルタ・インフィニティ)』、その全容が明かされる前に手を打たねばならないと本能で悟った彩は、すぐさま策を講じた。


「永続罠『時空のペンデュラムグラフ』を発動!対象となったペンデュラムゾーンの賤竜の魔術師と、エレンちゃんのヘブンズ・マシニクルを破壊するわ」
「無駄デス。手札の『機皇兵マシニクル・アイン』の効果発動!機皇モンスターを対象としたカード効果が発動したことで、このカードを手札から捨て、その発動を無効にして破壊シマス」
「くっ…」


 しかし時空のペンデュラムグラフを用いた術も通じず、そこから発生する星霜のサーチ効果へと繋げることも叶わずに終わった。そしてここから、想像の先をゆく機皇神の力が発揮される。


「ヘブンズ・マシニクル∞∞∞の効果発動!相手フィールド・墓地の融合・シンクロ・エクシーズモンスターを1体ずつ、合計3体までをこのカードに装備シマス!」
「なっ?!しかも3体って……」
「そして、この効果で装備したモンスターの攻撃力の半分だけ、このカードの攻撃力がアップ!これが究極進化した、ボクのマシニクルデス!」


 彩はまだ融合モンスターを召喚していなかったおかげでマシニクルがフルパワーになることは免れた。しかし彩は主体となる3つの召喚法を封じられたばかりか、フィールドのアブソリュート・ドラゴンと墓地の覚醒の魔導剣士を吸収され、ヘブンズ・マシニクルの攻撃力は6650にまで上昇した。
機皇の名を持つビヨンドモンスターが「複数体同時装備」を生業にすることはワイゼルNexで実証済みで、彩もその戦術を見たことはあるのだが、ヘブンズ・マシニクルはシンクロのみならず融合とエクシーズまで網羅していた。エースの事だから強化させてくることは想定していたが、予想以上の仕込みで彩の中の驚きが通り越してしまった。


「ヘブンズ・マシニクルの第3の効果!ボクのフィールドのモンスターがこのカードのみの場合、手札または墓地の機皇モンスター2体を選んで、召喚条件を無視して特殊召喚デス!ただしこのターン、ヘブンズ・マシニクル以外のモンスターは攻撃不可能となりマス」
「グランエルとマシニクル・アインを……」


○究極機皇神ヘブンズ・マシニクル∞∞∞(グレード12 光)
機械族/ビヨンド/効果
攻4000/守4000
「機皇神マシニクル∞」×1
手札の上記素材を除外した場合でもこのカードはEXデッキからB召喚できる。このカード名の①③④の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。①:相手フィールド・墓地の、融合・S・Xモンスター1体ずつ、合計3体までを対象として発動できる。そのモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。②:このカードの攻撃力は、このカードの①の効果で装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。③:このカードがモンスターゾーンに存在する状態で1度だけ、自分フィールドのモンスターがこのカードのみの場合、自分メインフェイズに発動できる。自分の手札・墓地の「機皇」モンスター2体を選び、召喚条件を無視して特殊召喚する。この効果を発動したターン、このカード以外のモンスターは攻撃できない。④:自分スタンバイフェイズ開始時に発動できる。このカードの①の効果で装備したモンスター1体を墓地へ送り、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える。


○機皇兵マシニクル・アイン(Lv4 光)
機械族/効果
攻2000/守1000
このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。①:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は「機皇神」モンスターを効果の対象に選択できない。②:このカードの攻撃力は、このカード以外のフィールドの表側表示の「機皇」モンスターの数×100アップする。③:自分フィールドの「機皇」カードを対象とするカードの効果が発動した場合、手札のこのカードを捨てて発動できる。その発動を無効にし破壊する。




「バトルデス!ヘブンズ・マシニクルで星刻の魔術師を攻撃!ジ・エンドレス・オブ・デスペアー!」
「きゃあぁぁっ……!!」
AYA→LP:2150


 ヘブンズ・マシニクルのみの攻撃とはいえ、一度に4000ポイント近くものダメージを受ければひとたまりもなかった。その攻撃のが乱雲渦巻く空に届いたのか、エレンの心が悲痛な叫びを挙げているかのように、荒れ狂う海に無数の迅雷を落下させた。


「ボクはこれでターンエンドデス。さあ彩先輩、ここから巻き返す手はあるのデスカ?」
ELLEN→LP:6500 手札:0 デッキ:32 Mゾーン:3 M&Tゾーン:2 Fゾーン:0 Pゾーン:0


*TURN05
「私の……ターン!」


 エレンのフィールドには攻撃力3250のグランエルと攻撃力6650のヘブンズ・マシニクルが彩を見下している。今の彼女自身ともいえるアークペンデュラムでさえも軽々と凌駕する力を自分の後輩が手にしたのは本来ならば祝福すべきことなのだが、そのエレンはエース達の呪印を押されている。


「エレンちゃん。貴女のおかげで精一くんに歩み寄る勇気が持てたこと、今でも感謝しているわ」
「…あれはボクがされたことをそのまま彩先輩にもしただけデス」



~4年前からの回想~
(ワオ…!あの男の人……ボクのタイプデス)


 エレンがまだアメリカに住んでいた頃、当時3学年だった彼女は木陰からアレックスのことを見つめていた。年頃の女の子、と言うにはまだ若すぎるが彼女は恋に落ちていた。ある時はクラブの応援に、またある時はランチタイムに、事ある毎に彼のことを尾行していたのだ。当然尾行されていた本人や彼のクラスメートもそのことに気付いていたが、「子供の健気な淡い恋」だと思って本気にはしていなかった。


「Heyアレックス。お前、あんな可愛い子ちゃんに好かれたみたいだぜ?」
「Meにかい?ハハッ、そりゃ嬉しいね」


 7歳も年の離れた2人が実際に付き合うことになればスクール中が大騒ぎになり、よからぬ噂に踊らされることが目に見えていたからだ。


(ボクは本気なのに……)



 9学年(日本の高校1年生に相当)だったアレックスは、この頃から頭角を現し始めていた。所属していたバスケットボールのクラブでもそうだが、5年前に日本から輸入された「デュエル」という前代未聞の科目でトップの成績を修めたのだ。しかし初めから彼が強かったわけではなく、身体を動かすことの方が好きだった彼にしてみれば「所詮ただのカード遊び」だと言って真剣には取り組んでいなかったそうだ。
 しかし軍人のDNAを受け継いでいる彼に相応しいデッキテーマ【太平洋兵】が上陸したことをきっかけに、別人のようにデュエルに打ち込むようになった。本物の戦争では兵士が武器を活かし、そして頭となる司令塔が指揮を執り勝利へと導くのと同じように、デュエルも「モンスターカード」という「兵士」、「魔法・罠カード」という「武器」、そして「己の頭脳」という「司令塔」の力が合わさって勝利を手にするのだと実感を持ったのだ。




「初めは万年ドベだとか言われたお前が、今じゃあ州の代表だもんなぁ」
「よせよ。今のmeがあるのもお前達のおかげなんだから」
「コイツゥ!調子のいいことぬかしやがって!」


 そこから1年、アレックスはハイスクールから推薦状を書いてもらい、ニュージャージー州代表としてデュエルの全国大会に参戦することが決まった。今や彼の名前を校内で知らない者は一人もおらず、毎日のようにファンレターが届くようになっていた。
 そのことはエレンの耳にも留まり、早急にアプローチを仕掛けなければ他の女生徒に取られてしまうと焦った彼女は、早朝から彼の自宅前で待機し、アレックスが出発しようと扉を開けた瞬間にバラの花束を差し出した。


「ボクと結婚してクダサイ!」
「…What’s?!」


 熟れたリンゴのように顔を真っ赤に染めながら決めた一世一代のプロポーズ。しかし状況が状況であったがためにアレックスには受け入れてもらえず、エレンはショックのあまり1時間ほど硬直していたのだった。
 当然だがこの一件はスクール中に広まってしまい、しばらくの間、エレンは婚約ネタを同級生から頻繁に弄られるようになり、アレックスも少女愛好家ではないかと一部から盛大に誤報を流されるようになってしまったという。



「ボクは本気でアレックスのことが好きで、本気で結婚したいデス!なのにボク、一方的に想いを押しつけただけで、アレックスのこと全く考えてませんデシタ……」


 公園のベンチに座りながら、エレンは自分のしたことがどれだけアレックスに迷惑をかけてしまったのか気付いた。彼に嫌われてしまったのではないか、面倒な女だと思われたのではないか、あれこれ考えれば考えるほど自己嫌悪に陥る彼女の隣にそっと腰掛けたのは、親友のキャシーだった。


「エレン。どうしてそんなに悩む必要があるの。あなたは想いを伝えたんでしょ?」
「でもボク、いきなり求婚したから……」
「確かにその件は飛躍しすぎだと思うわ。でも、その時のアレックスさんの『目の色』はどうだったか、覚えてる?」
「…?」


 アレックスの眼は灰色であることはよく知っていることだが、キャシーが何故そのような質問をしたのかこの時のエレンにはさっぱり分からなかった。その日からエレンは彼の目を見ることに決めたが、1人でいるとき、メイト達と語らっている時、デュエルしている時など様々な状況で彼を観察した結果、キャシーの真意が少しだけ読めたような気がした。



 そこから更に半年後、徹底的に観察を続けたエレンは益々アレックスのことが好きになり、とうとう彼にラブレターを出した。


「久しぶりデスネ、アレックス」
「Youは確か、何の前触れもなしに婚約してくれってせがんだ……」
「氷川エレンデス。っていうか、やっぱりそれで覚えられたんデスネ…」


 「開幕プロポーズ出落ち事件」と名付けられたあの時のことは互いにとって忘れられない記憶として残っており、エレンにとっては今すぐにでも消し去りたいものだった。しかしその事件がなければこうしてラブレターを書く未来は訪れなかったのだから、そういった意味では捨てたものではなかっただろう。
 意を決して、エレンは自分の長年の想いをアレックスにぶつけた。成就するか否か、この時ばかりはエレンの心臓の鼓動が彼に聞こえるくらい高鳴っていた。


「改めて言いマス。ボクと、お付き合いしてクダサイ!ボクは、貴方のことが大好きデス!」
「…Meはyouのことをよく知らない。何故meのことを好きになってくれたのか、何故meだったのか。But!そんな一途な想いに応えないほどmeは非情ではありません」
「…じゃあ」
「婚約は、当分先の話になりそうだけどね」


 アレックスも彼なりにエレンのことを想っており、彼女の好意を最善の形で受け止められないかと悩んでいた。自分が7歳も年下の女の子と付き合ってよいのか先生に相談したこともあったが「本当にその子の想いに応えたいなら、周りの目を気にする必要はどこにもない」と諭され、こうしてエレンの想いを受け止めることに決めたのだ。
 その翌日、アレックスに案内状が届いた。半年前に参加した全国大会でベスト4入賞を果たした彼は、ロシアで開かれるワールドジュニアへの参加が認められたのだ。彼はこの大会の2回戦で日本最強のレインを下しジュニアランクを1047位にまで上昇させ、アメリカジュニアのレベルを世界に知らしめることに成功したが、これが彼にとって最初で最期の世界大会になろうとは誰も予想していなかった。



 アレックスは18歳の誕生日を迎え、今度はオーストラリアへの長期留学をすることに決まった。デュエル以外にも学ぶことがたくさんあると思い立ち、海外での経験を今後に活かしたいと彼自らが志願したのだ。
 その頃にはエレンとの仲も一層深くなり、彼女の両親とも話し合い、エレンが18歳になれば結婚してもよいと取り付けた。付き合い始めてからとんとん拍子で事が運び、まさか本当に人生を共にすると思わなかったエレンは、思いっきりアレックスの首元に抱きついた。しかしそれと同時に、エレンが日本へ旅立つこともこの時から決まっていた。
 永遠の別れじゃないから辛くない、と両親の前では強がっていたが、アレックスと2人きりの時は毎日のように泣きついていた。


 アレックスが留学へ行く際、旅立つ彼を見送ろうとその日の授業を休んでまでエレンは空港に足を運んだ。


「エレン、行ってくるよ」
「アレックス。ボクが日本から帰ってきた時の約束、ここでしてもいいデスカ?」
「Youとの約束なら、死んでも叶えるって決めたからOKさ。それで、約束は何だい?」
「ボクが帰ってきたら……ありったけのハグで迎えてクダサイ!アレックスのフィアンセとして恥ずかしくないよう、立派なレディになると誓いマス!」
「OK!I never fail to promise you!」

~4年前からの回想・終~



「そこから先は、彩先輩も知っての通りデス…」


 アレックスの搭乗した飛行機は海上を通過中の際、唐突に起こった機体のトラブルによって墜落し、乗客ならびに搭乗員全員が帰らぬ人になるという最悪の事故が発生した。最後に交わした約束を果たせぬままエレンだけが残され、そこにあったのは途方もない悲しみだけだった。


(エレンちゃん、本当にアレックスさんのことを愛し敬っていたんだ。でもだからこそ……)
「このデュエル、絶対に負けられない。私は手札からスケール5の『慧眼の魔術師』をペンデュラムゾーンに置いて、ペンデュラム効果発動!このカードを破壊して、デッキからスケール8の『竜穴の魔術師』をペンデュラムゾーンに置くわ。そしてペンデュラムグラフの効果で、デッキから『貴竜の魔術師』を手札に」


 続けて彩は、先ほど手札に加えた貴竜の魔術師の効果を使い、アークペンデュラムをレベル4に下げて特殊召喚した。その後、レベル7のシンクロモンスター『オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン』へと進化させ、4箇所のモンスターゾーンに空きを作った。
 エクストラデッキから『慧剣の魔術師』『オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン』『EMドクロバット・ジョーカー』『黒牙の魔術師』と攻撃力の高いモンスターばかりをペンデュラム召喚したが、彩にとってはこれが狙いだったのだ。


「慧剣の魔術師のモンスター効果発動!このカードのレベルを3に変更し、メテオバーストと慧剣をチューニング!闇を切り裂く寂静の剣が、安寧を求め今目覚める。シンクロ召喚!『涅槃の超魔導剣士』!!」


 ついに覚悟を決め、彼女の切り札『涅槃の超魔導剣士』を召喚した。慧剣によってペンデュラムゾーンのカードを意図的に破壊し、次のターンでストレート・ペンデュラムを狙っているのだろうが、このカードはペンデュラムモンスターである前にシンクロモンスターだ。そのことは彩自身も重々承知していることだが、彼女はそこから更に先へと踏み込んだ。


「私は涅槃の超魔導剣士1体で、アナザー・ディメンションゲートを解放!」
「What’s?!涅槃が終着点ではないのデスカ?!」




─────転生輪廻の呪縛から解放されても尚、安寧を求め、救いたいと願う者がいる。涅槃を超えろ!ビヨンド召喚!!─────




─────『般涅槃の超越魔導剣士(パリニルヴァーナ・マスター・パラディン)』!!─────





「マスター・パラディンの効果発動!墓地から紫毒の魔術師を特殊召喚するわ!」
「彩先輩、モンスターの姿が見えないデスヨ……?」
「見えなくて当たり前よ。だって『実体がない』んだもの。ま、カードには薄らぼんやりな霊体として描かれているけどね」


 我々の知る「涅槃」には2つある。釈迦は35歳にして悟りを開いたが、食物や病などといった身体の呪縛を受けていた、完全な涅槃ではないこの状態は有余涅槃と呼ばれている。そして釈迦の魂が肉体と分離し、身体の呪縛から解放された「完全な涅槃」は無余涅槃、もしくは般(はつ)涅槃と呼ばれている。
 涅槃の超魔導剣士も修行を重ねることでその境地に達したが、その代償として自らの肉体を失い、纏っていた鎧や装備の剣も完全な透明状態になっていた。そのためエレンはおろか、使用者の彩でさえもカードを通さなければその姿を確認することもできない稀有なモンスターなのだ。



○般涅槃の超越魔導剣士(グレード10 闇)
魔法使い族/ビヨンド/ペンデュラム/効果
攻3500/守3000
【Pスケール:青12/赤12】
①:自分は「魔術師」Pモンスター及び「オッドアイズ」モンスターしかP召喚できない。この効果は無効化されない。②:自分のPモンスターは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージは0になる。③:自分のPモンスターが攻撃したダメージステップ終了時に発動する。自分フィールドの全てのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、攻撃したPモンスターの元々の攻撃力分アップする。その後、相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力はターン終了時までその数値分ダウンする。
【モンスター効果】
レベル10以上の「涅槃の超魔導剣士」×1
レベル10がP召喚可能な場合にEXデッキの表側表示のこのカードはP召喚できる。このカード名の①のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。①:このカードがB召喚に成功した場合、自分の墓地のPモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚するか、自分のPゾーンに置く。②:このカードが戦闘で相手にダメージを与えた場合に発動する。お互いのLPはそれぞれのフィールドのモンスターの元々の攻撃力を合計した数値となる(モンスターが存在しない場合、そのプレイヤーのLPは0になる)。③:モンスターゾーンのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを自分のPゾーンに置く。



「バトルよ!紫毒の魔術師でマシニクル・アインを攻撃!」
「Why?そんなことをすれば……」
「私にダメージが入るっ……けど、破壊された紫毒の魔術師の効果発動!装備状態のアブソリュート・ドラゴンを破壊するわ」
AYA→LP:1350


 メテオバースト・ドラゴンと星刻の魔術師が墓地へ送られている以上、その2体を吸収されてしまえばヘブンズ・マシニクルを対処できる術は完全になくなってしまう。そうなる前に敢えて自爆特攻を仕掛けることで、次のターン以降で活路を見出す機会を生んだのだ。
アークペンデュラムでマシニクル・アインを、般涅槃の超越魔導剣士でグランエル∞をそれぞれ破壊し合計で950ポイントのダメージを与えたが、ここからが涅槃を超越したマスター・パラディンの真骨頂だ。


「マスター・パラディンの効果発動!お互いのライフは、それぞれのフィールドに存在するモンスターの元々の攻撃力の合計と同じになるわ」
「…ボクのフィールドにはヘブンズ・マシニクルのみ。つまり……」
「そ。これで逆転ね」
AYA→LP:9500
ELLEN→LP:4000


 このターンでは彩にヘブンズ・マシニクルを倒せる方法はなかった。手札にあった『オッドアイズ・フュージョン』を使いボルテックス・ドラゴンを融合召喚すればその効果でバウンスを狙えたのだが、「ただデュエルに勝つだけでは救えない」と精一からの言葉を胸に戦う以上、それは彩の望んだ戦術ではなかったのだ。


「私はこれでターンエンドよ」
AYA→LP:9500 手札:3 デッキ:23 Mゾーン:4 M&Tゾーン:2 Fゾーン:0 Pゾーン:1



*TURN06
(それでも……ボクはアレックスとずっと一緒に居たいんデス!)
「ボクのターン!!」


 このデュエルに勝利すれば永遠の愛を誓った人と居られる世界を真の意味で完成できる。たとえ彩が自分の知らないビヨンドモンスターを召喚しようとも、圧倒的な力を持つヘブンズ・マシニクルを超えることなど有り得ないとこの時のエレンは確信していた。


「ヘブンズ・マシニクルの効果発動!墓地のアブソリュートとメテオバーストをこのカードに装備シマス!そしてこのままバトル!」
「罠カード『灰身滅智(けしんめっち)』を発動!マスター・パラディン以外のモンスターを全て破壊し、ライフポイントを半分にするわ」
AYA→LP:4750



○灰身滅智(通常罠)
①:自分フィールドにPモンスターが3体以上存在する場合に発動できる。フィールドのモンスター1体を選び、それ以外の自分フィールドのモンスターを全て破壊する。その後、自分のLPを半分にする。



「バトル!ヘブンズ・マシニクルでマスター・パラディンを攻撃デス!ジ・エンドレス・オブ・デスペアー!」
「ぐぅっ…!だけどこの瞬間、破壊されたマスター・パラディンの効果で、このカードをペンデュラムゾーンへ置くわ!」
AYA→LP:250


 自分のライフを半分にした後で4500ポイントものダメージを受け、彩の残りライフは一瞬で風前の灯火となった。灰身滅智の破壊効果を利用し、星霜のペンデュラムグラフで『白翼の魔術師』のサーチに成功したとはいえど、彩は次のターンでエレンのライフを削り取らなければヘブンズ・マシニクルの最後の効果を利用され敗北する。


「ボクはこれでターンエンドデス!」
ELLEN→LP:4000 手札:1 デッキ:31 Mゾーン:1 M&Tゾーン:4 Fゾーン:0 Pゾーン:0



*TURN07
「このターンで夢から覚ましてあげる!」
「ボクは!アレックスがいないとダメデス!また前みたいに……」
「…エレンちゃん。今のあなたは昔とは違うでしょ?」


 絶命したはずの人間、しかもそれが将来の伴侶となる相手がこの世に蘇ったのだからエレンの心が昔見た夢の中に囚われるのも分からなくはないが、それを言い訳にして、その過去に身を置くことは正当な理由にはならない。彩はエレンから前に進む勇気をもらったからこそ、自分もその「心の力」を彼女に渡そうと最後の振り子を揺らした。


「双剣に導かれし者達よ、想いに応えて!ペンデュラム召喚!!『虹彩の魔術師』『黒牙の魔術師』『白翼の魔術師』『紫毒の魔術師』『オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン』!!」
「5体同時……しかもこのモンスター達は」


 かつて彩はストレート・ペンデュラムという大技を繰り広げたが、同じ5体同時召喚でも今回ペンデュラム召喚したモンスターは、覇王龍復活のためにエースが導入した四龍の化身と、彩の意志そのものであるアークペンデュラム・ドラゴンだった。エースの手に堕ちたことへの自責、精一に牙を向けたことへの懺悔、そしてそれらを乗り越え強くなったことの証明を果たすため、彩はこのバトルに全てを込めた。


「まずは虹彩の魔術師でヘブンズ・マシニクルを攻撃。この瞬間、マスター・パラディンのペンデュラム効果発動!破壊と戦闘ダメージを無効にし、私のモンスターの攻撃力を、攻撃したモンスターの攻撃力分アップさせ、同じ数値分だけヘブンズ・マシニクルの攻撃力を下げるわ!」


 涅槃の超魔導剣士のペンデュラム効果はペンデュラムモンスターを最大限に活かせるものだが、般涅槃の超越魔導剣士のそれは輪をかけて更に進化していた。それに加えて非常に高いペンデュラムスケールを持つため、デメリットがあろうとも彩のデッキならばスケール12でペンデュラム召喚できないモンスターはいない。


「次、黒牙の魔術師でヘブンズ・マシニクルを攻撃!マスター・パラディンのペンデュラム効果で、さらに私のモンスターの攻撃力を1700上昇させて、同じ数値だけヘブンズ・マシニクルの攻撃力を下げる!」
「どれだけ下げようと、ボクの究極機皇神は無敵デス!」
「まだ分からないの?!白翼の魔術師で、ヘブンズ・マシニクルを攻撃!」


 ここまででヘブンズ・マシニクルの攻撃力は3100にまで減少し、一方で彩の全モンスターの攻撃力は4800ポイントも上昇していた。そして、まだ攻撃を行なっていない紫毒の魔術師とアークペンデュラム・ドラゴンの攻撃力は6000と7500。


「紫毒の魔術師でヘブンズ・マシニクルを攻撃!これでもう……!」
「ボクもホントは分かってるんデス。アレックスはもう死んだって!でも!そう思えば思うほど!ボクの心にできた穴が、ボクを、蝕むんデス!!」
「…私でも、その穴を埋めることは無理?」
「無理デス!いくら彩先輩でも……」
「じゃあ、エレンちゃんが今まで出会ってきた皆なら、どう?」


エレンの心にできた穴は彩一人だけでは埋めきれないが、エレンの両親、担任、クラスの同級生に呪縛竜決戦に参加したデュエリスト、今まで彼女と出会い打ち解けた人々がいれば、その哀しみを完全に消すことは出来なくても和らげることはできる。最愛の人を失い、今まで心の奥底に封印したはずの蟠りからエレンは解放された。


「もう隠さなくてもいいの。貴女は私と同じ『デュエリスト』で、『恋を経験した女の子』で、『同じ学校の生徒』であって、何より……『仲間』だから」
「彩、先輩っ…!」
「これでラスト!攻撃力8700のアークペンデュラム・ドラゴンでダイレクトアタック!シュプリーム・ストライクバースト!!」


 彩の全身全霊の想いが込められたアークペンデュラムの息吹を受け、エースの呪縛から、そして過去の夢からエレンは無事に解放されたのだった。




「彩先輩、thank youデス。おかげで目が覚めマシタ」
「エレンちゃん、身体が……」


 たとえオーバーハンドレッドナンバーズを持っていなくても、第二次アストラル大戦の最中に敗北したデュエリストの魂は天に還る。事前にエースからのメールを読んでいたとはいえ、大切な仲間の消失を目の当たりにすることは胸が張り裂けそうなほどの苦しみに襲われた。


「エレンちゃん…何か言いたいこと、ある?」
「…もし、また彩先輩と語らえる日が来れば…『恋バナ』聞かせてクダサイネ?」
「うん。約束する」
「あとは…『世界のリセット』。あれはデスネ…」
「…!」


 息も絶え絶えの状態で彩に耳打ちした『世界のリセット』の真実。それは、ユーリが推測した「月を強引に落下させる」方法ではなく、デュエルによってもたらされるもっと残酷な手口だった。世界中の人間を敵に回したエースは最早、決して戻れない領域にまで道を踏み外していた。


(アレックスのハグ、気持ちよかったデス……)
「お別れデス……」
「エレンちゃんっ…!」


 タイムリミットは過ぎ、エレンの肉体は光とともに消滅した。弱冠12歳にしてこの大戦で駒として利用された挙げ句そのまま使い捨てられ、彼女の純粋な想いまでも踏みにじり弄ばれた。エレンが遺してくれたものを絶対に無駄にはしまいと、彩は日本に帰還したのだった。



タイムリミットまで、あと23時間。
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15 Epi36:加速するカウントダウン 518 2 2016-02-20 -
15 Epi37:希望のカード『V☆S』 504 3 2016-03-25 -
12 Episode38:朱色の夜 405 0 2016-04-11 -
20 Episode39:並び立つ盟友 495 2 2016-04-22 -
14 Episode40:精一と彩 541 2 2016-05-30 -
14 Episode41:漆黒の鎮魂歌 474 4 2016-06-22 -
26 Episode42:涅槃の境地へ 502 2 2016-07-02 -
11 Episode43:トワノキズナ 425 3 2016-07-23 -
18 Episode44:銀河と宇宙 476 3 2016-08-09 -
17 Episode45:銀河眼vs宇宙眼 496 0 2016-08-20 -
11 Episode46:絶望の凱旋 343 0 2016-08-24 -
12 Episode47:刻まれた記憶の欠片 363 1 2016-09-06 -
22 Episode48:希望の行方 377 0 2016-09-13 -
11 Episode49:悪夢の決戦前夜 341 0 2016-10-03 -
13 Episode50:創世の星屑竜 363 0 2016-10-25 -
18 Episode51:託された未来 387 0 2016-10-30 -
8 番外編03:遊弥と花奈の... 402 2 2016-11-02 -
9 未投稿オリカ紹介①(使用者:藤堂遊弥) 373 0 2016-11-09 -
10 未投稿オリカ紹介②(使用者:赤城紅葉) 322 0 2016-11-26 -
8 未投稿オリカ紹介③(使用者:茨木花奈) 372 0 2016-12-08 -
9 未投稿オリカ紹介④(使用者:霧野命慈) 340 0 2016-12-20 -
13 未投稿オリカ紹介⑤(使用者:霧野精一) 352 0 2016-12-30 -
11 Episode52:極寒の夏 301 2 2017-01-01 -
41 Episode53:闇の邂逅 337 2 2017-01-07 -
11 Episode54:呪縛竜復活 299 0 2017-01-11 -
13 Episode55:届かぬ声で... 286 2 2017-01-15 -
21 Episode56:禁忌の目覚め 313 5 2017-01-19 -
11 Episode57:共鳴する四龍 330 4 2017-01-25 -
12 Episode58:本当の気持ち 319 3 2017-01-30 -
12 Episode59:真実への鍵 312 2 2017-02-08 -
12 IF01:バレンタインデー 365 6 2017-02-11 -
8 Episode60:エレンとアレックス 364 3 2017-02-16 -
47 ルール改訂と今後の進行について 466 2 2017-02-18 -
12 Episode61:想いの証 309 5 2017-02-21 -
11 Episode62:茨の道標 368 5 2017-02-27 -
20 Episode63:光と闇の花 279 3 2017-03-20 -
15 Episode64:渇望と葛藤 292 2 2017-03-23 -
12 Episode65:麗しき孤月 273 2 2017-03-29 -
62 Episode66:月夜のイリュージョン 401 2 2017-04-21 -
29 Episode67:常闇に消える月華 431 1 2017-05-05 -
24 Episode68:模索者たち 240 4 2017-07-22 -
20 Episode69:純黒の反逆者 233 0 2017-07-27 -
14 Episode70:紅と黒の禁呪 225 2 2017-08-07 -
18 Episode71:希望は往く 274 3 2017-08-17 -
20 Episode72:リリーの過去 237 2 2017-08-24 -
12 Episode73:異次元の亡霊 215 2 2017-09-13 -
12 Episode74:覚醒の鼓動 266 3 2017-09-22 -
18 Episode75:挑戦者の儀 256 0 2017-10-05 -
19 Episode76:神速の決闘 291 2 2017-11-14 -
13 作者が二十歳を迎えたようです。 227 4 2017-12-28 -
9 Episode77:動き出す陰謀 152 2 2018-01-23 -
7 Episode78:最期の兄弟喧嘩 177 2 2018-03-03 -
16 Episode79:黄龍の手向け 182 2 2018-03-28 -
16 Episode80:堕天使の罠 141 0 2018-04-14 -
15 Episode81:断罪する魔神 123 0 2018-04-19 -
20 Episode82:姫君のバイブル 184 1 2018-05-07 -
21 Episode83:開かれたページ 139 0 2018-05-11 -
30 Episode84:望まぬ決戦 161 2 2018-05-29 -
5 未投稿オリカ紹介⑥(使用者:古城奏多) 120 0 2018-05-31 -
8 未投稿オリカ紹介⑦(使用者:清水ルーナ) 145 0 2018-06-02 -
17 未投稿オリカ紹介⑧(使用者:アレックス) 115 0 2018-06-04 -
5 未投稿オリカ紹介⑨(使用者:リリー) 87 0 2018-06-06 -
39 未投稿オリカ紹介⑩(使用者:ソフィア) 226 0 2018-06-06 -
6 呪縛竜のおさらい 78 0 2018-06-06 -
17 IF02:星 遊未 139 0 2018-06-09 -
3 Episode85:新たなる激闘へ 161 0 2018-07-10 -
4 Episode86:愛するもの 98 0 2018-07-27 -
2 Episode87:涅槃を超えた先 69 0 2018-08-10 -
2 Episode88:終焉の弧光 56 0 2018-09-12 -