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HOME > 遊戯王SS一覧 > 第二十七話「ロードナイトの話」

第二十七話「ロードナイトの話」 作:イクス

第二十七話「ロードナイトの話」


大会を終え、ロベルトとの約束を果たした遊太は、ミナコ社のロベルトの自室で、『ロードナイト』の話を聞くのであった。
そして、遊太は衝撃の事実を知ることとなった。
なんと、『ロードナイト』のカードには精霊が宿るだけではなく、別の世界の生き物だという事ということを、聞いてしまったのだ。


「ええ……?」
遊太は、ロベルトの話を聞いて、あっけにとられていたのであった。普通なら受け入れがたいことであったが、今は信じざるを経ない。
何故なら、遊太の目の前に半透明ながらも、カードのデザインそのままの『イクスロードナイト』達が立っているからだった。
「……えー、遊太君? 流石に無反応なのは、こちらとしても困るんだが……」
「いやーね、アルファ。いきなりこういった話をされると、びっくりしてどう反応したら良いのかわかんなくなって……とりあえずゴメンね?」
「確かに、普通だったら驚くほど荒唐無稽な話だったからなあ」
アルファが遊太にそう語ったのを見て、横にいたデュナスが横槍を入れる。
「当然だろリーダー、こっちの世界には、俺達のような生き物は一匹もいやがらねえんだ。そりゃあ反応に困るだろうよ」
「デュナス、今は遊太と私が話しているんだ。お前は横槍をいれるんじゃない」
「へいへいよー」
「さて、邪魔が入ってしまったが、まずは我々の自己紹介を、改めて行おう。私の名前は、アルファ。『イクスロードナイト』達のリーダーで、魔導の騎士だ」
「我はドゥフト。『イクスロードナイト』一の策士だ。罠にかけては、『イクスロードナイト』の中で右に出る者はいない」
「俺はデュナス。『イクスロードナイト』一の破壊魔と言われているが、不器用なもんでな」
「私はデューク、『イクスロードナイト』きっての切り込み隊長だ。我が槍は盾をも貫く!」
「私はアポロ。『イクスロードナイト』の中で最も熱い男だ。熱い心に不可能は無い!」
「吾輩はウェイカー也。『イクスロードナイト』一の巨体は、仲間を守り、この鉄球で敵を穿つ!」
「僕はマグナ。『イクスロードナイト』の中では最年少で体も小さいですが……、守りでは誰にも負けません!」
「アタシはディアナ。『イクスロードナイト』の紅一点……いや、満月? とにかく、アタシは月のように冷静な心を持つわ」
「僕はシルフィー! 『イクスロードナイト』の中では、一番の風使い! 僕にかかれば大嵐なんて余裕で起こせるさ!」
「ラララ~♪ 私はローズ、『イクスロードナイト』一の美しさを持つ。そして、私の美しさにかかれば、敵も味方もイチコロさ♪」
「我はアルス。『イクスロードナイト』の副リーダー。我の冷たき槍は、仲間との結束によって成り立つ」
「僕はジエス。『イクスロードナイト』一の弓使い。僕の矢は確実に敵の急所を射抜き、敵を凍らせる」
「といった感じで、我々はこんな感じなのだ。遊太、改めて、これからよろしく頼む」
「あ、どうもこちらこそアルファ。じゃあ……教えて。君達の言う違う世界とは、一体どんなもので、どうしてこっちの世界にやって来たのか」
「ああ、教えよう。我々が、何故この世界へ来たのか……どうして、ロベルトの所に来たのか、全て」
アルファはそういうと、自分達のことを語り始めた。


我々の世界、我々は精霊界と言っているが、それはもう平和な世界だった。我々含め、それぞれが特殊な力を持っていようとも、決して大きな争いは起こらなかった。
なぜかって? それは、デュエルで揉め事を解決していたからだ。それこそ、お前達にとってデュエルとはただのカードゲームかもしれないが、我々にとってデュエル
とは、それこそ世界の理! いわばルールのようなものだった。
しかし、デュエルがルールだったからこそ、我々の世界は平和だった。力ある者とと力の無い者が対等に戦う場合や、強いモンスター同士が戦う場合に必要以上に力を出さないようにするためのルールだったからだ。
そのルールを考え出したのが、我々聖なる騎士団『ロードナイト』を生み出した『女神イクス』様であったのだ。我々が『イクスロードナイト』なのは、イクス様の下に直々に仕える身分だったからだ。ちなみに、我々の主な仕事は、デュエルで解決できなかった問題を解決する。もしくは我々の世界の守護だ。
遊太達から見れば変な決まり事かもしれないが、我々にとってはそれで平和だったのだぞ。
こんな平和がずっと続いてくれれば良い……と思っていた時、悪夢はやってきた。
その日は丁度、デュエル大会の日だった。イクス様が直々に見てくれる大会だけあって、参加者も大勢いた。
その時だった。空に大きな裂け目が出来て、そこから見たこともない白いモンスター達が一斉に、我々に襲い掛かって来た。
我々は精一杯抵抗したが、ダメだった。奴らの強さは、半端ではなかった……! 世界を守護する我らでも、彼らを撃退できなかった……。
せめてもの抵抗として、イクス様が奴らが出てきた次元の裂け目を利用して、我々や参加者を何処かの世界へと吹き飛ばしてくれたのだ。
そうして、我々はお前達の世界へやってきたのだ。

しかし、お前達の世界は、我々の世界とは全く違っていた。我々は、この世界には普通存在できない生き物だからだ。
我々の姿も、声も、誰一人人間には届かなかった。まるで、自分達が幽霊にでもなったような感覚だった。触れたものは手をすり抜け、お互いに抱きしめることさえ叶わない。
もうダメだ……そう思った時、一筋の希望が見えた。『彼』が現れたのだ。我々と同じ世界に来ていた、時空を司る魔術師『アストログラフ・マジシャン』が。
彼は我らを、ロベルトの所へと連れてきたのだ。そして、我々はロベルトの事を知ることになった。彼は、この世界におけるデュエルを作る人間だったのだ。
『アストログラフ・マジシャン』は、ロベルトに呼びかけた。どうか、彼らのカードを作ってくれと……そうすれば、彼らはこの世に存在できるとね。
彼の言葉が通じたのか、ロベルトは我々のカードを作ってくれた。それによって、カードを媒介として人に語り掛けることができるようになったのだ。
そして、『アストログラフ・マジシャン』のカードもロベルトによって生み出された。
それにより、我々はこの世界に存在できるようになったのだ。
そして、我々はこの世界のことを知った。この世界において、デュエルとは世界的に有名なカードゲームであるということ、この世界には、我々のような存在はいないということ、そして……この世界のカードは、我々とそっくりなモンスターが描かれていたこと。
そして数日経った後、我々の持ち主をどうするべきか、ということをロベルトが言い出したのだ。カードとなった以上、誰かに使って貰わないとダメだと考えたのだ。
そうして、我々に相応しい人間をロベルトが探しているうちに、遊太、お前と出会ったのだ。
あの時お前とロベルトがぶつかり、お前のポケットにカードとなった紛れ込んだ時、何かは知らんが……波長のようなものを感じた。この少年なら……カードとなった私達に相応しいかもしれない。そんな直感を、私は感じたのだ。
そして、お前がロベルトの所に私のカードを返した時、ロベルトに言ったのだ、この少年なら、我々に相応しいかもしれない。そう語ったら、ロベルトは喜んで遊太の所に送り出してくれたよ。
だが、リーダーである私が認めても、他の皆が認めてくれなかった。それを受けて、ロベルトは遊太が大会へ出るように仕向けた。その実態は、他のメンバーに遊太のことを認めさせる為だった。それにより、遊太は私の見立て通り優勝した。それにより、仲間は認めてくれた。
その後、我々は新たなことを考え始めた。この世界に散ってしまった同じ世界の同胞達を、どうやって集めて元の世界に返そうかと……そして、我々の世界を襲った奴らは、一体何者なのか……それをこれから考えることにしたのだ。



アルファは、このことを一息で語り終えた。それを聞いて、遊太はゴクリと息を飲む。
「君達に、そんな秘密があったなんて……」
「ああ、我々はこの世界に散ってしまった仲間を、どうにかして元の世界に戻すか、そして、我々の世界を襲った奴らが、一体何者なのかを考えることにしたのだ。ロベルトとともにな」
「ああ、正直言って、今でも自分が彼ら『イクスロードナイト』の存在を知っているのが驚きさ。ついでに、私が持っている、彼の存在もね」
そう言って、デッキから取り出したのは『アストログラフ・マジシャン』と名の付いたペンデュラムモンスター。
「ロベルトさんも、持っていたんですか……」
「ああ、だが、彼は少々無口でね。あんまり人前にはその姿を現さないんだ。彼が言葉を発する時は、大変な時か、大事なことがあるか……このどっちかさ」
「そうなんですか……でも、僕の親しい人に2人くらいは、僕やロベルトさんと同じように、同じカードを持っている人がいますよ」
「アキラ君と、カリンちゃんだろう? カリンちゃんは既にこのことを知っている。それこそ、精霊って名前をつけてくれた。アキラ君は、まだ無自覚みたいだけどね。けれど、まだ姿を見せていない、『イクスロードナイト』達と同じ存在、精霊がいるかもしれない。だったら、一刻も早く手を打たないといずれ……良くないことが起こるかもしれない」
「そうなんですか……」
話が終わってから、アルファが遊太に詫びを入れる。
「と言う訳で……こんなことに巻き込んでしまってすまないな、遊太。ついでに、仲間たちを納得させるために、大会に参加させてしまって」
「アルファ……僕は気にしてないよ、楽しい体験もできたし、それに……このメンツを見て、確かに直感じゃあ納得してもらえなさそうだなあと思ったよ」
遊太がそう言ったのに対し、他の『イクスロードナイト』達が口々に語る。
「本当だぜ! いくらリーダーの発言とはいえ、この俺デュナスは、実際にその力を見ねえと納得しねえ。だが、優勝で納得はできたけどな」
「僕はリーダーのいう事なら、きっと間違いないとは思っていましたけどね」
「マグナ……それはお前がアルファを心の底から尊敬しているからであって、普通じゃ納得しないと思うぞ」
「デュークの言う通り也、アルファは確かに場数を踏んできた戦士だが、直感だけというのはいささか不安要素が大きすぎる也」
「しかし、遊太はそんな不安すら跳ね除けた活躍を見せてくれた! やはり遊太も、熱い心を持っていたようだな! そう、熱い心に不可能は無い!」
「そうかしら? 熱い心も良いけど、遊太君は月のように冷静な心も、その身に持ち合わせているんじゃあないかしら?」
「いいや、遊太君には美しさがある! どんな敵に相対しても、華麗に逆転を決めるその姿、それこそ我々の主に相応しい!」
「いや、友人との結束だな。友達との仲の良さ……まさしく主に相応しい!」
「なんだと! 私のことが正しい!」
「いいや、俺の方が正しい!」
といった具合に、ぎゃあぎゃあと『イクスロードナイト』達が談義を始めてしまったので、ロベルトは静止をかける。
「待った待った。談義はそれくらいにして、話の本筋に戻ろう」
「……確かに、この人たちを纏めるのって、凄く大変そう……やっぱり理解してもらえてよかったよ」
そして、ロベルトが本題に入る。
「さて、本題に入ろう遊太君。その、この世界に来てしまった『イクスロードナイト』のような存在、精霊を一気に集めるための良い考えが、私にはあるんだよ」
「例えばどんな?」
「『イクスロードナイト』達は言った。我々の姿にそっくりなカードが、この世界にはある。となると、この世界に来てしまった精霊達は、恐らく同じ姿をしたデュエルマスターズのカードに取り憑いている。それを一気に集め、違うカードに集められれば……!」
「一気に、元の世界へと返す手筈が整えられる。ということですか?」
「ああ、そういうことさ。今はまだ、日本国内でしかイベントを行えないけど、ゆくゆくは世界規模でイベントを行って……一気に集める!」
「なるほど……」
「ああ、後にデュエルに関するイベントを行うと、日本中のデュエリストに発表する! それまで、遊太君は待っていると良い。『イクスロードナイト』達と一緒にね」
「はい、わかりました。じゃあ……これから、よろしくお願いできるかな? 『イクスロードナイト』の皆」
「ああ、『イクスロードナイト』を代表して、私アルファが語ろう」
「それじゃあ、遊太君。今日のお話はこれでおしまい。連絡は、追ってするから。今日はこれで……」
「はい、わかりました」


その夜。遊太はベッドで横になり、既に寝る準備はできているようだった。
しかし、今日はいつもとは訳が違った。何故ならベッドの隣にある机の上に、『イクスロードナイト』達がいたからだ。
「ねえ、アルファ。君達のいた世界って、どんな所だったの?」
「そりゃあもう、デュエルで全てが決まる……」
「それはもう聞いたよ。景観とか、そういったものを聞きたいんだ」
「それなら……綺麗だった。美しかったというのが正しいな。森の緑は深緑に輝き、海は蒼に染まっていた。夜には満点の星々が輝き、月が白い光を照らす。そんな世界だった……」
「聞くだけで、君達がどんな世界なのかがわかるよ……」
「だが、あの白い軍団のせいで、美しかった世界は壊されてしまった。できるなら、一刻も早く帰って世界を復興し、また元の平和なあの世界でデュエルを楽しみたい……」
アルファの眼には、涙が浮かんでいた。
「白い軍団は?」
「奴らに復讐などしたところで、どうにもなるまい。我々は、元の世界を取り戻したい。ただそれだけだ」
「元の世界を、取り戻したい……僕にはわからないことかもしれないけど、できるかぎりのことはしたいと思うよ。だって、君達が僕を主だって言ったもん。そうでしょ?」
「……ありがとう、遊太」
夜は、更に更けて行った。

第二十七話。終わり。
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