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プロローグ 作:重力遣い

 かつて、俺の住む世界は平和だった。
 姉が《エリザベート》に侵されるまでは。
「ぼくは絶対、プロになる。だから、真琴もプロになる夢、諦めないでよ?」
「うん、諦めない。姉さんにだって負けないくらい、強くなってみせるから」
 そんなことを言い合って、毎日のようにデュエルをして、デッキの構成やカードについて語り合っていた。
 とてもとても、平和な毎日だった。
 けれど──姉は、侵されてしまった。
 たった一枚のカードに。
「真琴、真琴」
 姉が僕を呼ぶ。
「なに、姉さん」
「ぼくは、真琴のこと、好きだよ」
「うん」
「好き。真琴、大好きだよ」
 椅子に座って、姉はにこにこと笑っている。なのに、なにかを抑えるように、体はがたがたと震えている。
 姉の綺麗な碧眼からは、ぽろぽろと涙が零れていた。
 背後で父がさけんだ。「真琴、×××はもうダメなんだ! 殺すしかないんだよ!」
 だけど、僕は動けない。左手に握ったナイフで姉の柔肌に傷をつけるなんてできない。
「真琴、早くしろ! でないと、お」
 そこで声が途切れる。消えたのだ、姉の透明な闇に。
 母も、皆消えた。姉が消したのだ。異様な力で、あらゆるものを飲み込んでいく。
「真琴がぼくを殺さないから……。父さんも、母さんも、友達も消えちゃったよ」
「……僕も、」声が震えた。「消すのか?」
「ううん。真琴は、大丈夫。でも、もうすぐぼくの意識も消えちゃう。あと一分。それで、ぼくはいなくなるんだ。
 だから、さよなら。真琴」
 その一分が、とてつもなく短いものに感じた。
「嫌だ! 姉さん、一緒に逃げるんだよ!」
「どこへ逃げるの? 無理だよ、ぼく自身がエリザベートなんだから」
「姉さん!」
「さよなら、真琴。大好きだよ」
「僕が絶対に姉さんを助ける! だからっ」
「そんなこと言わないで。ぼくはもう、だめだから……」
「嫌だっ! 僕は絶対、姉さんを──」

 そして、全てが暗闇に消えた。

 僕一人だけが、生き残った。

 たった一人、姉さんのいない世界で、「俺」は生きている。

 その事実が……堪らなく辛かった。
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ヒラーズ
おおっ!自分と同じく遊という名がつかない主人公は初めてかも。
次回が楽しみです。 (2018-01-30 22:25)
重力遣い
閲覧、コメントありがとうございます。
そうですね、名前に「遊」とつかないのは珍しいと思います。そして、遊戯王二次の中でもお姉さんが公言されているのも珍しい(と、思います。) (2018-01-31 06:08)

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コメント

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