EP23　一撃必殺！マグネット・フォース　作：ター坊

熱烈な客の口上コールと共にデュエルが始まり、マリアの先攻となる。
「わたしは手札の『真竜皇バハルストスＦ』と『九尾の狐』を破壊して、手札の『真竜皇アグニマズドＶ』を特殊召喚します！」
烈火から巨大なドラゴンが姿を現す。
「破壊された『九尾の狐』とバハルストスＦのそれぞれの効果を発動します。まずは『九尾の狐』が破壊されたことで狐トークン２体を特殊召喚」
小さな子狐２匹がコーンと鳴きながらポンッと浮かび上がる。
「破壊されたバハルストスＦの効果でデッキから『真竜凰マリアムネ』を特殊召喚します」
炎の次は烈風が吹き、そこからは白い巨竜が姿を見せる。
「わたしはマリアムネとアグニマズドＶの２体でオーバーレイ！２体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚、来て『真竜皇Ｖ.Ｆ.Ｄ』」
烈火と烈風の真竜が重なり、光の渦を作るとその渦を切り裂くように漆黒の魔竜が這いずり出てきた。
「さらに『火舞太刀』を召喚。カードを１枚セットしてターンをエンドします」
属性を変更し相手モンスターの効果発動と攻撃を封じる強力な制圧力を持つＶ.Ｆ.Ｄ、破壊されると相手モンスターを道連れに破壊しつつ微量ながらバーンも与える『火舞太刀』、どちらも厄介な存在である。
「オイラのターン、ドロー…」
盛雄はドローしたカードを含め、手札を１枚１枚確認する。遊子から貰い、白朧院達が来るまでの時間で見たオーダーカード達。実戦で引き、どの様に戦うかという輪郭はなんとなく掴んでいた。
「オイラは『磁兵器(マグネット・フォース)ドルフィン／ツヴァイ』を召喚！」
盛雄が出したモンスターは金属光沢を放つ黒いボディーのイルカであった。
「磁兵器…はじめて見るカードです…」
「ドルフィン／ツヴァイが召喚に成功した時、デッキから別の磁兵器モンスター１体を手札に加えて…今度は自分フィールドに磁兵器モンスターがいることで『磁兵器ビートル／フィーア』を特殊召喚！」
同じく黒く光るカブトムシのモンスターが現れる。
「さらに永続魔法『磁力集結(マグネット・トゥギャザー)』を発動！これでオイラは手札からコング／ゼクスを特殊召喚」
次々と集まる漆黒のボディーを持つ生き物達、その異様な軍団にマリアは少々困る。初見のカードでどのタイミングで効果を使うか、それを測りかねているのだ。
「オイラはドルフィン／ツヴァイ、ビートル／フィーア、コング／ゼクスの３体でオーバーレイ！！」
盛雄もエクシーズ召喚を手札に行うが、その演出はかなり異なっていた。

ピキッ

磁兵器モンスター達に直線的なラインが入ると

パカッ、ガシンッ

なんと立体パズルのようにバラバラと離れ空中を漂い、別なパーツとくっついていく。
「これは…」
「エクシーズ召喚！『磁兵器ドラゴン／ベータ』！！」
イルカ･カブトムシ･ゴリラが何処をどう合体したのか、１体の巨大な竜の形になった。
「ドラゴン／ベータが３体を素材にしてのエクシーズ召喚に成功した時、相手モンスターを全て破壊するぞぉ！」
ドラゴン／ベータの口が開き、そこに稲妻がバチバチ弾ける光の球が現れ徐々に膨らんでいく。
「えっ！？ならわたしはＶ.Ｆ.Ｄの効果を発動！オーバーレイユニットを１つ使って地属性を宣言し効果の発動を無効にして…」
Ｖ.Ｆ.Ｄから瘴気が放たれドラゴン／ベータを呑み込もうとするが

バチバチ！

ドラゴン／ベータの周囲に突然電撃が走り、瘴気を払いのけた。
「効果が…弾かれた…！？」
「ドルフィン／ツヴァイを素材に持っていることで他のモンスターの効果を受けなくなるだよぉ」
「そんな…だったら！」
「いっけぇぇ！」
ドラゴン／ベータの雷の弾頭はマリアのフィールドに命中し、そこから四方八方に飛び散ってマリアのモンスター全てに雷撃をお見舞いする。
「これで…あれぇ？」
盛雄が不思議に思うのも無理はない。雷撃で全滅した筈のマリアのフィールドにはまだ狐トークンが２体残っていたのだ。
「…わたしは速攻魔法『炎王炎環』を発動していました。これで狐トークンを破壊して墓地から『九尾の狐』を復活させました。そしてドラゴン／ベータの効果で破壊されたことで狐トークンを残しました」
全滅されてもなお壁を作っておく用意周到さは遊子が一目置くだけのことはあるが、これが仇になるとはこの時のマリアは夢にも思ってなかった。
「オイラは『磁力集結』のもう一個の効果を発動！手札の『磁兵器バッファロー／フンフ』をドラゴン／ベータのオーバーレイユニットとして加えるぞぉ」
「オーバーレイユニットの追加…もしかしてドルフィン／ツヴァイのように何か効果が…」
「バッファロー／フンフが素材として加わったことでドラゴン／ベータの攻撃力が１０００アップ」
バッファロー／フンフが同じく分離するとドラゴン／ベータの角やら爪やらにくっつき、新たなボディーに一体化していく。
「やっぱり…あっ」
マリアは盛雄の行動からまさかという嫌な予感が過る。攻撃力を上げた意味、それは何なのかと。
「バトルだぁ！ドラゴン／ベータはビートル／フィーアとコング／ゼクスの効果によって貫通と戦闘ダメージ倍加を得るぞぉ！！」

磁兵器ドラゴン／ベータ ATK 3500(貫通+戦闘ダメージ倍加) VS 狐トークン DEF 500

マリア:LP 8000→2000

「うぅっ…」

盛雄の新デッキのパワーを客席から観察する遊季都と梓は関心と驚愕でしばらく言葉が出なかった。
「…凄いパワーですわね」
「…はい。一撃であそこまでライフを削るなんて」
驚く二人に遊子は磁兵器の解説を語り始める。
「磁兵器はお前達のスタイルを逆でいくコンセプトで設計したんだ」
「逆のコンセプト？」
「遊季都の焔獄も梓のＲＴＧもモンスターを並べてそれを素材に複数体の強力なシンクロなりエクシーズなり、色々繋げるだろ？だが、あの磁兵器は複数体での攻めは捨てて、１体を極限まで強化してからの一撃必殺で相手を仕留めるスタイルにしているんだ」
「一撃必殺…でも、どうしてわざわざ違う戦法なんですか？」
「デュエル甲子園はチーム戦で、リーダー同士以外はランダムな組み合わせで対戦相手が決まる。研究熱心なチームになると相手チームの共通の弱点を突く対策をする場合もある」
「…なるほど。戦法のパターンを散らせることでその共通の弱点突きを無くすことができる…という訳ですわね」
「その通り。それにバラエティのあるデュエルの方が面白いだろ？」

場面は変わって盛雄VSマリア。
「オイラはカードを１枚セットしてターンエンドだ」
「わたしのターン、ドロー…。わたしはカードを１枚セットしてターンエンドです」
マリアの呆気ないターンエンドに客席から応援が飛ぶ。
「マリアたーん！がんばれー！」
「勝ったら拙者がパフェを奢るでござるぅぅ！」
「フレェェ！フレェェェ！！マ・リ・アたーん！」
「フゥゥゥゥッ！」
「ホアァァァッ！！ホアァァァッ！！！」
「ごしゅじんさま方、応援ありがとうございます。でも、他のごしゅじんさまのご迷惑になるかも知れませんので応援はもう少し抑えるよう、お願いします」
ヒートアップする客席を宥めるようにマリアがアナウンスする。
「うーん。オイラ、勝って良いのかなぁ」
「はい！ごしゅじんさま、遠慮なく来てください！」
「じゃあ…オイラのターン、ドロー！これで最後だぁ！ドラゴン／ベータで狐トークンに攻撃！」
「モンスターの効果は受けない…ならこれでどうですか！罠カード『強制脱出装置』！！」
ドラゴン／ベータが素材となっている磁兵器達によって得ている効果はモンスター効果耐性と戦闘ダメージ倍加と貫通と攻撃力アップ、罠は通用する筈である。しかし…
「オイラは罠カード『磁力速交(マグネット・クイックチェンジ)』を発動！これでオイラはオーバーレイユニットになってるバッファロー／フンフとデッキのバード／アインスを入れ替えるぞぉ！！」
ドラゴン／ベータから角や爪が外れて元のバッファロー／フンフに戻ると、新たに現れたバード／アインスが分離して穴を埋めるように新しい翼やヒレとしてドラゴン／ベータのボディーにくっついていく。
「え？入れ替え…ということは…」
「バード／アインスがオーバーレイユニットにいるから罠は効かないぞぉ！いっけぇぇ！！」

磁兵器ドラゴン／ベータ ATK 2500(貫通+戦闘ダメージ倍加) VS 狐トークン DEF 500

マリア:LP 2000→0

盛雄のドラゴン／ベータの罠を無視した強力な一撃が狐トークンを蹴散らし、磁兵器は鮮烈な初勝利を飾った。
「オイラ、勝てたぞ…勝ったぞぉ！」
「おめでとうございます」
デュエル決着と同時にあちこちの客席から拍手が巻き起こる。その中、マリアは悔しさを見せる様子を見せる事もなく、喜ぶ盛雄と共に遊子達の席に戻ってきた。
「マリア残念だったな」
「はい…。でも、わたしまた頑張れそうです」
「そうだな」
「風み、じゃなかった。遊子さん、ありがとだぁ。オイラ、これでチャレンジャーＺの立派な一員で頑張れそうです」
「ああ。それよりも今日の感覚を忘れるな。そのデッキを完全にモノにすればより勝利を重ねる事ができる筈だ」
「はい！」
盛雄は確かな自信を持てたのか、遊子の激励に力強く答えた。


「ところで盛雄。マリアに勝ったからご褒美タイムを行使できるけど、何をやらせる？」
「ほぇ！？オ、オイラは別に…やって欲しい事とかは…」
「欲がないなぁ。…それじゃあ俺が使って良い？」
「はぁ…どうぞ」
「よし。じゃあ…膝枕しながらの耳掃除でも」