75.妬思吐漏　作：くちなし

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・・・あたしは、次の試合は出ないって言ってんの！

何を思って言ったのだろうか。
静まり返った部屋で悠里は少しばかりまじめに考えていた。

「、、準決勝、、明日だよ、、？どうするの？」
「、、私が入る」
「待て、有希。、、少しだけ、、探してみないか。きっと訳があるはずだ」
「、、だな」

とりあえず瑞穂を探すところから始めるとするか。

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「、、、」

一方、瑞穂は街中をただ一人彷徨っていた。

「あたしも馬鹿ね、、あんなこと言っちゃって、、」

はぁ、、と大きなため息をつくが、もやもやとしたまま。

「、、、」

気が付くと、人っ子一人いない公園のベンチに腰を掛けていた。

「、、みんなになんて言おうかしら、、」

その時。瑞穂の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「瑞穂ちゃん、、！」
「、、、！」
「何素っ頓狂な顔してんのよ。いきなり起こっては出てってさ」
「、、別に、、」
「良くないし」
「そうですよ。。何かあったんなら、わたしたちに話してください。。仲間なんですから。。」
「、、」

仲間、、、その言葉が身体の、、心のどこかに引っかかる。

「、、仲間だから、、言えないのよ、、！これは私自身の問題よ、、！だから、、お願いだから、、放っておいて、、！」

「ちょ、、待てよ！待てったら！」
「、、瑞穂、、」

有希と海清が引き留めるが、その声を無視して去っていく。
すると、海清がふと、こんなことを言いだした。

「、、オレ、瑞穂の考えていることが少しわかった気がする」
「、、言ってみな」
「あいつ、、嫉妬してんだよ」
「嫉妬、、？」
「、、スタメンだからこその嫉妬。前までチームとして戦ってきたけど、あいつは自分の出したい実力を発揮できてないと思ってるんじゃないかと思ってる。稲垣は、自分のやりたいことを納得いくまでやるタイプだから、それが達成できないと憤慨するというかなんというか、、」
「なるほどね。つまり、今までの対戦で、瑞穂ちゃんのそれが溜まって自己嫌悪になったと」
「、、なるほどね。。瑞穂ちゃんなら考えうるわね」

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「。。お前なら来ると思ってたぞ」
「、、なんであんたがここにいるのよ」
「、、お前がここに来ると思っていたからだ」

悠里が待っていた場所。そして、瑞穂がやってきた場所。そこは、海岸である。悠里以外のメンバーがここに来た時に降り立った海岸。風が弱く吹いていて、海の音が聞こえる。

「、、なんでここだと分かったの」
「、、お前が好きそうだから」
「、、なんであんたにあたしの好みがわかるのよ」
「、、勘だ」
「、、バカじゃないの、、」

悠里とは少し離れたところで瑞穂が海を眺める。
海上を通るのは客船だろうか。それとも水上バスなのだろうか。明かりがともっている。

「、、あんた、自己嫌悪になったことある、、？」
「常に、だ」
「、、なら、あんた、あたしの考えていること、、分かってるのね」
「ああ。」

自己嫌悪、、なんだろうが、おそらくただの自己嫌悪ではなさそうだ。そう踏んでいた。
どうせ、自分のやりたいことができなかったからそれが悔しくて、それが連戦と来たら確かにイライラする。

「、、お前、、ズレてるぞ」
「は、、？」
「お前が自己嫌悪になろうが、むしゃくしゃしようが、それはお前の感情表現だから好きにすればいい。だけどな、それを人にあたってどうするんだ。人にあたって何か変わるわけじゃあるまいし、、」
「、、うるさい！黙っててよ、、！」

声を張り上げる瑞穂。悠里のほうによっては襟元をつかむ。その目はいろいろなものがたまっている。そして、なにか重々しいことを考えている。そんな気がした。

「、、嫌だね」
「黙ってて！」
「黙れと言われて黙るやつがいるか」
「、、あんたにあたしの何がわかるのよ。。あんたはあたしじゃないでしょ！あたしにはあたしの責任があるのよ、、！あんたとは違ってね、、あたしには、、あたしには、、」
「、、なんだよ、言ってみろよ。お前が抱える責任とやら、話してみろよ」
「あたしは、、このチームのリーダーなのよ！リーダーはみんなよりも頑張るべきなのよ、、！それなのに、、」
「『みんなより頑張る、、？』、、何言ってるんだよ。今のお前には何もできてねえよ」
「だからあたしが今こうやって考えようとしてるのよ！」
「なんで誰にも言わないんだよ！リーダーのプライドが邪魔してんのか？今のお前は単に八つ当たりしてるだけだろうが！なんかあるなら言えばいいじゃねえか！仲間だろうが！！」
「、、！」
「、、ひとりで抱えることじゃないだろ、、別に自分じゃなくても、有希でも、香織でもいいじゃねえか。あいつらなら親身になってくれるんじゃないのか」
「、、あんたは、、今のあたしにどうしたいの」
「全てを捨てろ、、自覚も、プライドも。そしてお前のそのかたっ苦しい考えもだ。考えてるだけじゃ何も起きない。かと言って下手に動いたら最悪の場合、状況は悪化する、、」
「、、何かっこつけてるのよ」
「別にそういうつもりないんだがな。てか、これは言わせろ。お前は何がしたい」
「あたしは、、あたしは、、みんなの力になりたいのよ、、」

なるほど。それが本心か。
つまり、今までの決闘では瑞穂自身はなにもできてないとずっと考え込んでたわけか。それで一人でどうにかしようといきなりあんなことを言ったのか。まったく、バカだ。

「、、ねえ、あの時の決闘、決着ついてなかったわよね」
「そういえば、、そうだな」
「なら、ここでその続きをしなさい。あんた、あたしにあんなこと言っておいて断らないわよね」
「悪いがそれは無理だ」
「なんでよ、、」

悠里が指さす。その先には人影。

「悠里、ナイスインフォメーション」
「フン、、来るのが遅すぎるんだよ」
「オレたちだってここまで走ったんだぜ？あそこから結構距離あったんだからそこは勘弁してくれよ」
「、、なんでここに、、」
「ったく、最初声なかったときはなんだと思ったよ。でも、結果的にここにこれたし、ま、いいや」
「え？じゃあ、あたしの、、」
「全部聞こえてたわよ」
「、、！」

赤面する瑞穂。暗い夜の海岸に11人が集結。その夜はなんだか瑞穂の表情がいつもよりも柔いでいた気がした。

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「さて、これから試合だが、、なにか言うことはあるか？リーダーさんよ？」
「、、そうね。とにかく楽しみなさい！そして、勝つわよ！絶対に！」

やっぱ勝利にこだわるところは変わらないんだな。。

どうやら、準決勝の相手は噂によると、戦術がヘンテコらしく、今までの戦いとは違った戦いになりそうだ。なにやら、いままでの戦いで使っているデッキがすべて違うらしい。相手は多数所持者か。面白そうだ。

「作戦を言うわ。この戦い、2人で勝つわよ」
「へえ。おもしろいこというね。そんで、どうするのよ」
「ここまで来ると、かおりんや悠里は相手も対策を固めてきつつあるはずだわ。だから、意表をついて、ほかのメンバーで当たりに行くわ」
「で、誰が行くんですか。。？わたし、なにも知らないんですけど。。」
「もう決めてあるし、言ってあるわよ。ね？理沙、氏家さん？」
「なんだ、言ってなかったのね」
「期待されてるからには思いっきりやっちゃうっさ！」

これはこれは意外なチョイスだな。てっきり海清が来ると思っていたが。それにしても安楽木はともかく、氏家さんのデッキは誰も知らない。未知数か、、

「よし、行くわよ！」

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外が騒がしいと思ったら、準決勝だけあって盛り上がっているようだ。いやぁ、、ボク自身は出ないのに、身震いする。

「じゃあ、言ってくるわ」
「、、気をつけろよ」
「、、悠里に言われなくても分かってるわよ」

だろうな。

「じゃあ、あとは見ててよね」

後ろ姿を見送る。

「いやぁ、緊張するっさ」
「氏家さん、、大丈夫なのか」
「大丈夫ってなにがよ？あたしゃいつでも元気ピンピンさっ！準決勝になってオープンになっても平気さっ！」

オープンになる、、つまり、勝ち方にこだわりがなくなるということだ。だけど、そんなこと気にしない、、笑顔の氏家さんの様子を見ればそんなことを考えていそうだ。
さーて、準々決勝始まるぞー、、
大きく空に腕を伸ばし、深呼吸をした後、屋内へと戻った。

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次回予告！
今までの作戦とは意識を変え、瑞穂が言ったのは理沙と氏家さんの2人で対抗するということ。瑞穂にはこれからなにかやらかすつもりなのだろうが、準決勝の相手にはある大きな思惑が。それをこの準決勝で実現させようとしていた！

次回！第76話「焉舞灯錠」

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